デジタルマーケットでロックファンを活性化させたい 〜EMI&ビクターによる邦楽ロック情報ツール「ROCKFun」提供スタート
EMIミュージック・ジャパンとビクターエンタテインメントが共同で、Android搭載スマートフォン向けの邦楽ロック情報アプリ「ROCKFun」を開発、5月25日より無料で提供を開始した。アーティスト情報、新譜レビュー、ライブレポートこれまでリリースされた作品の紹介といった企画のほかに、邦楽ロックの最新リリース楽曲の発売前試聴や、アーティストによる対談、インタビュー、動画等オリジナルコンテンツを折り込み、ロックの魅力を伝えていく。更に7月25日よりiPhone向けにwebブラウザでの情報提供を開始。今後は2社以外のアーティストの紹介や他のレコード会社への参加もよびかけていくという「ROCKFun」。今回は開発・運用に携わるビクターエンタテインメント株式会社 デジタルビジネス部 部長 今井一成 氏、株式会社EMIミュージック・ジャパン ミュージックサービス本部 デジタルセールス&ディベロプメント部長 水島基博氏に話を伺った。
[2012年6月27日 / 渋谷区東 ビクターエンタテインメント株式会社にて]
プロフィール
今井一成(いまい・かずなり)
ビクターエンタテインメント株式会社
デジタルビジネス部 部長 兼 制作本部 スピードスターレコーズ タイシタレーベルプロデューサー
埼玉県生まれ。(早稲田大学卒業)
1986年 日本ビクター株式会社入社
1991年 日本エイ・ブイ・シー株式会社 大阪営業所(出向)
1994年 ビクターエンタテインメント株式会社 第2制作本部 宣伝部(現スピードスター)
1999年 スピードスターレコーズ タイシタレーベル サザンオールスターズ宣伝担当
2006年 スピードスターレコーズ 宣伝部長
2009年 プロモーション統括本部 副本部長
2010年 デジタルビジネス部 部長
水島基博(みずしま・もとひろ)
株式会社EMIミュージック・ジャパン
ミュージックサービス本部デジタルセールス&ディベロプメント部長
神奈川県生まれ。(国学院大学卒業)
1988年 アルプス電気株式会社入社後、アルパイン株式会社へ転籍
1990年 東芝EMI株式会社(現EMIミュージック・ジャパン)入社
2005年 東京第1営業所長
2009年 デジタル営業所長
2011年 デジタルセールス&ディベロプメント部長
——邦楽ロック情報「ROCKFun」はどのような経緯で制作に至ったのでしょうか?
今井:これまで着うた(R)などのデジタル音楽配信は、売れる曲、反応のある曲、例えば、J-POPやR&B、HIP-HOPなどのジャンルに力を入れてきました。その結果、現在レコチョクなどのチャートのトップ100の中にロックがほとんど入らない状況になってしまいました。CDはアルバムも含め売れているんですが、依然モバイル配信では売れず、ロックはレコチョクで買うよりも、レコード店やiTunesなどPCで買う方がスタンダードになりつつあるんですね。
しかし、夏フェスなどのロックフェスには毎年何十万人も来場するという事実もあります。これだけのロックマーケットがあるのなら、デジタル市場にロックを食い込ませることはできないか。そして、食い込ませるなら従来の携帯から、スマートフォンへの切り替えが進行し、今までのモバイル配信のイメージがフラットになりつつある今がチャンスだと思いました。あまり先入観がないうちに、ロックも買ってもらえるような市場をきちんと形成すべきじゃないかなと思っていたんです。
——「ROCKFun」は主に音楽情報を配信するアプリですよね。
水島:そうですね。雑誌のデジタル版のようなイメージです。ロックファンの方たちは、音楽雑誌をよく読んでいたり、自分なりの情報収集ツールがあるんですが、スマートフォン向けにアプリ経由でも情報提供できれば、いち早くたくさんの情報を伝えることができると思いました。
今井:ただ、メーカーがやると、身近にアーティストもプロダクションもいるので、融通が利く反面、安全な情報を出しがちになってしまいます。脱線した情報を出しづらいというか…。音楽ファンはレアな情報だったり、他では知られてないような情報をどんどん探していくので、そういった情報を届けるために、「ROCKFun」では敢えてレコード会社以外の方に編集長として就任してもらいました。
——このアプリで楽曲を聴くことはできるんですか?
今井:もちろんできます。試聴はメーカーがアプリを制作するにあたって、一番こだわっているところで、楽曲をできる限り早く届けられることを売りにしています。最低でもラジオ局のオンエア解禁と同時、楽曲によってはこのアプリが最初ということもあると思います。
——コンテンツの更新はどのくらいの頻度で行っているのですか?
水島:特集は2週に1回、ライブレポートなどは随時行っています。レビューについては新譜はもちろん、今後は過去にリリースされた作品もどんどん取り上げていきます。先行試聴に関しては、新曲のオンエア解禁のタイミングによって多いときも少ないときもありますが、出来るだけオンエア解禁と同時に試聴できるようにしています。
——実際のコンテンツ制作はレーベルの方が担当するんですか?
水島:コンテンツの企画や運営は現場のスタッフと編集長ですね。ただ、システム運用はレコード会社ではなかなか満足にできませんので、レコチョクさんにご協力いただいています。
今井:そこについてはレコチョクさんも交えて何度も話し合いを重ねました。レコチョクさんは、J-POP や歌もののイメージが強いと思うんですが、やはりロックを取り込むためには、既存のイメージや概念を壊していかないといけないですし、気を遣い合ったり、妥協していくと、ロックファンに見抜かれてしまうので、EMIとビクターのロックのイメージを、ロックファンに向けてちゃんと伝えるために、現段階ではあえてレコチョクさんの名前を表に出していません。
——ビクターとEMIの共同制作となったのはなぜでしょうか?
今井:EMIもビクターもロックアーティストが非常に多いラインナップですので、モバイル音楽配信市場のロックのシェアを上げるために、一緒に何かやりましょうと最初に声をかけさせていただきました。
水島:EMIは2010年11月に初めて「EMI ROCKS」というEMI所属の邦楽ロックアーティストが出演するライブフェスを実施しましたが、このイベントには本当に大勢のロックファンの方に来ていただきました。夏フェスの何十万人という動員数もみると、やはり、これだけのロックファンに対して、レコード会社として何かできないかと考えていたので今井さんからお話をいただいたとき、お断りする理由は全くありませんでした。
今井:実は2010年の「EMI ROCKS」がテレビで取り上げられているのを見て、「すごい! 格好いい。やられたな」と思っていたんですよね(笑)。
水島:今年2月にはその2回目となる「EMI ROCKS2012」を開催しましたが、今回はビクターさんチームにも会場で観て頂きました。
今井: レコード会社1社だけでこれだけのイベントをやっているのはすごいなと思いましたね。イメージもすごく格好いいですし、こんなことを僕らもやりたいなと思いました。うちでもレーベル括りでのライブイベントですとか近いことは何回かやったことがあるんですが、そのイベントも含めてせっかくこのアプリを作ったのだから、今後は両社で面白いことができないか話し合っています。
——実際にお互いに他社さんとお仕事をされてみていかがですか?
今井:こうやってEMIさんと仕事をしてみると、とても勉強になるんですよね。価値観や文化が違う会社が一緒になってやることで、すごく新しい何かができるんじゃないかなと思っています。
——やはり会社が違えば文化も変わりますか?
今井:全然違いますね(笑)。意外と似ている面もあるんですが、実際組んでみると、会社のルールも違いますし、そこは私たちにとって、とても新鮮でしたね。
——ちなみに他社の参加などは決まっているのでしょうか?
水島:数社から参加したいという問い合わせをいただきました。うれしいお話なんですが、スタートしてまだ1ヶ月なので、しばらくはこの2社で軌道に乗せたいと思っています。まずは読み物と試聴をきちっと押さえて、ベースを作り、ロックファンから「このアプリ面白いよね」と言われるようにしたいですね。
今井:そうですね。アプリを「ROCKFun」という名前にしたのは、近々他のメーカーさんやアーティストに入ってきて欲しいという想いもあったからなんです。
——「ロックアーティスト」と一口にいっても、様々なとらえ方があると思うのですが。
今井:確かにロックというカテゴリはすごく曖昧なので、まずはロックフェスやライブなどに重点を置いて活躍しているアーティストを取り上げるようにしています。
——スタートして1ヶ月経ちましたが、反応はいかがでしょうか?
水島:既に1日で3,000〜3,500ほどのアクセスがありますので、かなりロックファンには浸透しはじめているのではと感じています。
今井:業界内でも応援してくれる方が多くてすごく嬉しかったですね。「頑張ってね」とか「こういう企画が出てくることはすごく良いことだ」などのお言葉をいただいています。
水島:媒体さんからもエールをいただいております。ロック雑誌の方から反感を買うのではと思ったので、最初に各編集部さんに挨拶に行ったんですが、逆にアドバイスをいただきました。レコード会社のアプリとして、彼らがまだ取り上げないような新人も紹介できますし、ブレイクしたら雑誌でも紹介してもらえるかもしれませんし、ロックを盛り上げていきたいという共通の認識もありますし必ずしもバッティングするだけではないと思います。
——今後の新しい施策は決まっていますか?
水島:夏フェス特集を開始します。実際に夏フェスへの出演が決まっているアーティストたちが、過去に出演したときの想い出や、見たいアーティストなどを語っています。あとは、新人アーティストがバックステージで先輩アーティストたちにインタビューをするような企画も予定されています。
——アプリだとファンと直接繋がるようなコンテンツも可能ですよね。
水島:そうですね。7月11日に新譜が出たBase Ball Bearを特集したんですが、ツイッターで質問を募って、それで答えてもらったものを載せるような企画も実施しました。ロックファンの人は横の繋がりでどんどん広げていったりするので、ゆくゆくはSNS的な要素も強めていきたいですね。
——メーカー自身がフェスをやったり、今回のようなアプリを作ったり、今まで以上にレコード会社の仕事の幅が広がっていますよね。
今井: そもそも多様な嗜好をもつ世の中の人たちにもっと音楽の素晴らしさや魅力を伝えていきたくて、その手法は様々あるわけです。今回のEMIさんとのアプリの開発と共同展開も、そのものが目的ではなく、こうしたサービスやツールを活用しながら、色々なことにチャレンジできるのではないかと、そこを一緒に考えようということなんです。
自分たちだけでテキストを書いても面白くないから、編集スタッフで面白い人はいないかと探してみたり、せっかく良いアーティストがいるんだったら、一緒にライブをやってみようとか、このアプリを真ん中に置いて、レコード会社が一緒に協力しながらやってみる企画って、面白いと思うんですよね。
——今後PCへの展開なども考えられているのでしょうか?
今井:まず直近のところでは7月25日からiPhoneへの情報提供を開始しますし、PC対応の準備も進めています。スタートはAndroidアプリでしたが、最終的には全てのフォーマットで展開していきたいと思っています。
音楽ファンはiPhoneを使っている方が多いかもしれませんが、かたや日本での配信ビジネスは携帯電話向けのサービスを中心に作ってきていて、そこでロックというジャンルが狭くなってしまった。これだけのマーケットがあるんだったら、そこにロックファンも入ってもらったらいいんじゃないか? という考えがあって、それで最初にAndroidを選択したんです。
——マーケットの開拓になると。
今井:もともと、私はスピードスターで宣伝をやっていたんですが、デジタルの部署に来てから夏フェスとか行きますと、「こんなにファンが沢山いるのに、ロックはなぜ配信チャートに入り辛いんだろう?」と疑問を持っていたんですよね。
——悔しいですよね。
今井:すごく悔しかったです。こんなにお客さんがいて、こんなに盛り上がっているんだったら、ダウンロードしてくれてもいいのにしてくれない。ですから、デジタルマーケットの中でロックを強化したいということが、このアプリの発想なんです。邦楽ロックだけを強化するんだったらCDショップなどと組んでもいいんでしょうが、デジタルマーケットの中で、もうちょっとロックファンを活性化させたいからこそなんです。
水島:ロックファンの方たちというのは、色々なライブやフェスに行って、休みを知らないくらい元気じゃないですか(笑)。そこに何かあるんですよね。「EMI ROCKS」を最初に開催したときに、「アビーロードライブCD」という、出演アーティストの演奏各1曲を収録したCDを終演後に販売する“お持ち帰りライヴCD”を発売したんですが、限定枚数が完売しました。それに、当日初めて聴いたアーティストのCDを購入して帰られた方も多かったです。ロックフェスでの反応などをみても、ロックファンの方に新しいアーティストや楽曲、素晴らしい作品をもっと紹介していきたいなと実感しました。
今井:ですから、「ROCKFun」では、リコメンドのアルバム紹介は新譜にこだわっていません。もちろん新譜のタイミングも意識はしていますが、いい作品であれば旧譜もどんどん紹介します。また、先ほどのライブにこだわるという意味で言うと、ライブレポートもかなり充実しています。当面の目標は、ロックにこだわって、お互いの強みを活かし、魅力的なコンテンツ制作することですが、1回目の着地点として、リアルなイベントを仕掛けたいと考えています。
——それは、1年後くらいですか?
今井:できれば年内にやりたいと思っています。ただ単に両社のアーティストが集まってやるだけでは面白くないので、そこに色々な企画は入れようと、今アイデア出しを始めているところですね。
——「ROCKFun」を通じて日本のロックシーンを盛り上げていけたらいいですよね。
今井:おこがましいですが、そういう気持ちはあります。実際に素晴らしいアーティストがこれだけいて、デジタルセールスとしてももっと上がってきてもいいんじゃないか?という想いがあるんです。そのためにもこの「ROCKFun」発でエキサイティングなことができたらと思っています。
水島:そうですね。ロック・ユーザーはこれからも常に新しい情報を求めていますし、その中でますます「ROCKFun」はこだわりを持って盛り上げていければいいですね。
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