「ソーシャル×音楽」をテーマにしたプロジェクト「JAMBORiii」 株式会社エムオン・エンタテインメント 三浦 紹 氏インタビュー
今年4月に、ソニーミュージックグループ内で、ミュージック・オン・ティーヴィとソニー・マガジンズが統合し、新会社「株式会社エムオン・エンタテインメント」が発足した。同社では、現在「ソーシャル×音楽」をテーマにした、新プロジェクト「JAMBORiii」が進行しており、様々な試みを仕掛けている。この頃、業界内でも盛んにとりあげられている「ソーシャル」というテーマ。同プロジェクト担当の三浦氏に、その戦略と今後の展開についてお話を伺った。
(取材、文:Jiro Honda)
JAMBORiii STATION http://www.jamboriii.com/
YATTAR JAPAN http://yattarjapan.com/
リスアニ!APP https://itunes.apple.com/jp/app/risuani!app/id563720932
[2012年10月11日 / 東京・港区六本木 エムオン・エンタテインメントにて]
プロフィール
三浦 紹(みうら・しょう)
株式会社エムオン・エンタテインメント クリエイティブ第1グループ ネットメディア事業部
1981年生まれ。ソニーミュージックに入社後、グループ内にてMUSIC ON! TVの放送に携わった後、現職
——プロジェクト「JAMBORiii(ジャンボリー)」の立ち上げについて教えてください。
三浦:今年四月にソニーミュージックグループの中で、ミュージック・オン・ティーヴィとソニー・マガジンズが統合して、新会社として株式会社エムオン・エンタテインメントができました。ミュージック・オン・ティーヴィ側ではUSTREAMを使って新しい事をやろうというチームがありまして、一方、ソニー・マガジンズでは雑誌媒体だけではなくWebへの展開にも力を入れていこうというチームがあり、その二つがくっついて形になっていきました。
——二つの会社が統合された後に、始まった感じですか?
三浦:いえ、新会社発足を見越したカタチで、昨年末にスタートしました。現在はネットメディア事業部で運営しています。
——プロジェクトのコンセプトは?
三浦:「みんなで楽しむ、みんなでつながる、みんなで仕掛ける。」です。ユーザーは既にソーシャルメディアに日常かなりの時間を割くようになっていますよね。それに伴い、音楽の伝え方自体も変化しているはずだということで、「ソーシャル×音楽」にまつわるあらゆることを手掛けていくプロジェクトとして「JAMBORiii」を立ち上げました。
——プロジェクトの柱は、先日9月15日にスタートした、ソーシャルWEB動画チャンネル「JAMBORiii STATION」ですね。
三浦:ええ。以前から、放送局が、ネット上のWEBチャンネルを始めるというのは自然なことだ思っていました。「JAMBORiii STATION」の根底には、WEB上で友達と一緒に盛り上がるためにはどうしたらいいだろうという考えがあります。それを実現するために、「JAMBORiii STATION」はWEB上のフェス空間のような場所を目指しています。
リアルな音楽フェスでは、ヘッドライナーしか知らないけど、友達に誘われて行ってみたら、今まで知らなかったアーティストに感動するというのはよくありますよね。自分の中での新しいアーティストとの出会い。そういう事をWEB上で提供する仕組みとして展開していきます。
——友達と一緒に盛り上がれる仕組みというのは具体的にどういったものでしょうか?
三浦:「JAMBORiii STATION」のフル機能を楽しむためには、まずfacebookでログインする必要があります。ログインすると、動画の真ん中下に自分のfacebookのアイコンが配置されます。そして、同時にログイン視聴している友達が優先的にその左右に配置される、というインターフェイスを用意しています。
また、「エモーティコン」というものがありまして、クラッカー、拍手、紙テープ、サイリウムなど、様々な感情やアクションをクリック一つで表現することができます。友達と横で話しながらライブを楽しむことを、ヴァーチャルで体験できます。なお、このフル機能は制限されますが、視聴自体はfacebookでログインしなくても出来ます。
※JAMBORiii STATION 視聴イメージ
——既に、SuperflyやSCANDALのLIVE番組を配信されていますが、視聴者の反応はいかがでしたか?
三浦:facebookアイコン同士での視聴やエモーティコンの雰囲気というのは、とにかくまずは使ってみないと分からないと思うんですが、「面白い!」と言っていただいています。最初はユーザーも楽しみ方がイマイチわからない。でも、段々と作り手も巻き込んでそのサービスの楽しみ方が発見されていく。「JAMBORiii STATION」でも、そういう流れが起きればいいなと思います。ですので、制作する側としては、いい意味での「隙」や、コミュニケーションポイント、ツッコミどころを上手く提供していきたいですね。
——音楽業界からの反応はいかがですか?
三浦:お陰様で、出演希望や企画の提案、お問い合わせをすでに頂くようになっています。
——WEBと放送の違いはありますが、チャンネルとしてMUSIC ON!TVとの差別化についてはどのように考えていらっしゃいますか?
三浦:じっくり編集して伝えたほうがいい種類のものは放送が適していますよね。「JAMBORiii STATION」は、現状では、基本「生配信」「アーカイブ無し」ですので、そのスタイルによって一番魅力が伝わるものを扱います。リアルタイムだからこその面白さに、こだわりたいですね。
媒体イメージとして、アーティストからは「JAMBORiii STATION」というメディアだからこそ出演したい言ってもらえるような、ユーザーからは「『JAMBORiii STATION』が面白いというのなら観てみよう」と評価していただけるようなコンテンツ作りを目指します。
——「ソーシャル、音楽、メディア、動画」という組み合わせのサービスは次々に新しいサービスが出てきていますよね。レッドオーシャンなイメージもありますが。
三浦:僕らとしては、その辺りはまだ全然レッドオーシャンだとは思っていないです。いまサービスをリリースしている多くのプレーヤーはIT業界です。彼らはシステム作りが本業で、コンテンツはお金で調達するか、ユーザーに頼るしかありません。
音楽業界やメディア業界がコンテンツ力を持って、「ソーシャル」「動画」「音楽」などのキーワードを組み合わせた、ユーザーにとって本当に面白いサービスというのはまだまだ追求する余地が残っていると思います。SNSで目立つアーティストはいますが、そこで目立つメディアというのはまだあまりないですからね。
今まで放送局、音楽誌の運営で培ってきたプロデュース力やノウハウ、音楽業界内に位置しているというプライオリティを存分に活かした、弊社でしかつくれないクオリティが高くかつ面白いコンテンツが勝負だと思っています。
さらに、放送局としての技術の蓄積もあるので、配信のクオリティもすでにそうとう高いレベルに達しています。ビットレートの調整や、配信ならではの技術的な部分もあるので、レーベルの方々が独自でやられるよりも、一緒にやらせていただければ、確かなクオリティの配信を提供できる環境は整っています。
——今後、御社の既存媒体ともコラボはしていくのでしょうか?
三浦:それはすでにやっています。音楽雑誌「WHAT’s IN」中の企画を配信したり、MUSIC ON! TVで放送していた番組「GGTV」を別のカタチで流したり、クリップ番組のリクエストを募ったり。今後は、MUSIC ON! TVの放送中に、生で同時に進行する企画などもやっていきたいですね。
——プロジェクトとして、「YATTAR JAPAN」という日本のカルチャーを発信するWEBサイトもスタートしていますね。
三浦:「YATTAR JAPAN」は「JAMBORiii」プロジェクトの中の海外向け部門というイメージです。今年の4月に本サイトをオープンして、すでに全世界から日本のカルチャー好きやアニメ好きが集まって、いろんな時差の中でユーザー同士の交流が盛んに行われています。
——「JAMBORiii STATION」との連携はどうなっているのですか?
三浦:「JAMBORiii STATION」でのSCANDALのライブ中継をした時は、配信分けをして「YATTAR JAPAN」を通して海外向けのチャンネルとして配信しました。そのときは40ヶ国くらいの人が見てくださいました。
——40ヶ国というのは、放送だと簡単ではないですよね。
三浦:そこはネットならではですよね。やはり「JAMBORiii STATION」はドメスティックなもので、日本向けに配信していますし、MUSIC ON! TVも海外では見られないので、そこを広げていくよりも、別で「YATTAR JAPAN」というチャンネルを持って活用したほうがわかりやすんですよね。
今回はSCANDALでしたが、「YATTAR JAPAN」を通じて初めて新しい日本のアーティストを知る海外の人もいるかもしれませんし、海外向けに展開する足がかりのメディアになれればと思っています。
海外ユーザーがメインの「YATTAR JAPAN」では、ビジュアル系やアイドルに関してはユーザーとの親和性が高いので、リーチ率が良く、高いプロモーション効果を期待できるんじゃないかと思います。facebookでの「いいね!」も12万以上ありますしね。
(※YATTAR JAPAN facebook ページ:http://www.facebook.com/yattarjapan)
——国内発のメディアでその数字というのは、なかなかないですよね。
三浦:最初は全然「いいね!」が伸びなくて、半年くらい試行錯誤しました。ソーシャルメディアとのつきあい方とか、使い方がわかってきて、本サイトとは別にSNSの機能を割り切るようになってからは、数字が伸びていきましたね。
あと、例えば、新宿の歌舞伎町にロボットレストランができたという記事を扱ったことがあったんです。その事について、国内のブロガーは盛り上がっていたんですが、世間的にそのニュースやレポートは英語化されてなかったんですね。それで、「YATTAR JAPAN」は取材を真っ先に申し込んで、英語でも記事を書いてアップしたんです。すると、すごい勢いでシェアされて、こういう記事も扱うメディアだと、ユーザーも相当関心を持ってくれたようで、一気に「いいね!」が増えたということもありました。
——「YATTAR JAPAN」はポップカルチャー全般を扱っていますよね。
三浦:そうですね。アニメだけではなくて、日本のテクノロジーだったり、ビジュアル系だったり、アイドルだったり、色々な方向に間口を広げています。でも、あまり「オタク」という言葉は使いたくないんですよね。オタクではない海外の若い女性だったり、日本のカルチャーに興味を持っている人が入りやすいテイストにしたいという意向があります。
——「YATTAR JAPAN」のようにきちんとした資本のついたカタチで日本のカルチャーを海外向けに配信しているサイトはあまり無い気もします。
三浦:個人ブロガーはけっこういるんですが、ちゃんと写真も動画も許諾を取るという手順を踏んで運営しているところは少ないようですね。
——現在プロジェクトとして、主に動いているのは、「JAMBORiii STATION」と「YATTAR JAPAN」ということですか。
三浦:あとは、近いところだとアニメ音楽情報誌「リスアニ」のアプリ「リスアニ!APP」を配信スタートしました。現在、放送されているアニメと、そのアニソンの一覧が分かりやすく見ることができて、カレンダーでスケジュール管理ができるというアプリです。
特徴的なのは、iPhone向けアプリなので、個人情報は読み取らないんですが、iPhoneで音楽を聴いている人の楽曲データを解析して、今クールに放送されているアニメ楽曲の中で、この1時間とか、1日で一番聴かれてる楽曲リストが分かる機能がついていることです。これで、アニソンで実際に何が一番聴かれているのか、支持されているのかがわかるようになります。ニュートラルに本当に人気のある曲のランキングを出すことができます。
三浦:そうですね。無料アプリなので、多くの方に使っていただきたいですね。
——「JAMBORiii STATION」「YATTAR JAPAN」「リスアニ」を含め、プロジェクトは今後どのような展開を予定していますか?
三浦:ユーザー参加型のいわゆるCGM的なものを考えています。既存のネットコミュニティも一旦整理・淘汰されつつあって、好きな音楽を語り合う場があまりなくなってきている状況の中で、そういった音楽に特化した場所を改めて作ろうという構想はありますね。
——やはりキーワードは「共有」だったり「ユーザー参加」というところでしょうか?
三浦:そうですね。一方的に情報を伝えても、ユーザーにはもう届かない時代になっています。海外の広告信頼度では、テレビや雑誌の広告信頼度は47パーセントと、50パーセントを割っています。それに比べて、知人からのリコメンドは、92パーセントという数字が出ていますからね。ソーシャルサイトや友達からの情報が一番信頼される時代にすでになっていると、肌感覚としても感じているので、そこを追求していきます。
——ソーシャルメディアは、使いこなしている人とそうでない人との隔たりが大きいですよね。使いこなしていない人も取り込む施策などはありますか?
三浦:現状、有効な施策はまだないんですが、学校や会社、サークル、友人間には、ソーシャルメディアを使いこなす、アンテナの敏感なトレンドセッターが必ずいますから、まずはその人に届かせたいですね。そこに届いていれば、いずれそこを起点に周りのソーシャルメディアを使っていない人にも届いていきますから。
——このプロジェクトの最終的な目標などはありますか?
三浦:「JAMBORiii STATION」に関しては、“WEB上の終わらない音楽フェス”になったらいいなと思っています。最近、コーチュラフェスティバルなど海外のフェスが、YouTubeでずっとリアルタイムで生配信されたりしますよね。それを音楽好きの友人とリアルタイムで一緒に見て、すごく盛り上がって、とてもワクワクしたんですね。今まで見られなかったライブに触れて、知らないアーティストへの興味も湧きました。またイベント自体の魅力も伝わってきて、いつかそこに行きたいなと思いましたし。
——昔ではありえないことですものね。
三浦:フェスやライブとか、リアルな体験の価値はもちろん変わらないとは思うんですが、WEB上にも、物理的なハードルを気にせずに気軽に観に行けるフェス会場が常にあったらいいなと思ったんです。「ジャンボリー」ってにぎやかな宴会とか、お祭り騒ぎといった意味合いの言葉なんですが、そういうものがWEB上で作り出せたら、とりあえずのゴールかもしれないですね。友達もいて、音楽も鳴っていて、とにかく楽しい。この「JAMBORiii」もそういう意味で“i”を3つにしたんですね。自分と友達と誰かという。
——確かに2人だと点と点で完結しちゃいますけど、3人いると面として広がっていきますよね。「YATTAR JAPAN」の方は、いかがですか?
三浦:日本のコンテンツはすごく面白かったり、エキサイティングなものに溢れているという現状が、海外には上手く伝わっていない気がするんです。海外の日本カルチャー好きの人が情報をピックアップして、広めてくれていたりしますが、正しいもの、間違ったもの、新しいもの、古いものが混在しているんですよね。
——時々、誤解に溢れた海外制作の日本映画とかありますものね。
三浦:そうですね。ですから、情報を整理して、さらにフラットに出していきたいというのが、もともとの狙いです。
また、日本のミュージシャンが海外に出て行くときに、毎月どこかで日本のエキスポだったり、コンベンションがあって、ライブをやって、現地ではすごく盛り上がるんですよね。でも帰国してから、また半年後、一年後に行くまでの間に、プロモーションを継続的にできなくて、点だけの繰り返しになってしまうのがもったいないと思っていました。また一昔前ですと、音源もパッケージで売っていたので、海外のイベントなどで販売するときにリスクが高かったんですね。税関の手続きもありますし。
——でも、状況は変わってきた。
三浦:今はわりとネットの時代になって、体一つで海外でパフォーマンスして、気に入ってもらえれば時間軸を気にせずに音源も販売できる環境になりつつあります。大きなチャンスが生まれつつあると感じています。
——日本のカルチャーがきちんと評価され、ビジネスになりうる時代になったと。
三浦:日本のことがちょっと気になる人が「YATTAR JAPAN」にくれば、アニメの情報だったり、フィギュアだったり、ガジェットの情報も知ることができる。「YATTAR JAPAN」は音楽も含めた日本のポップカルチャーが全部詰まっている。それを世界中に広めて、日本のことが気になるユーザーはみんなそこに集まって、コミュニケーションをしてもらいたいです。
「JAMBORiii STATION」にしても「YATTAR JAPAN」でも、これを機に、ユーザーに認知していただくことはもちろん、レーベルの方にも知っていただきたいですね。ここまでソーシャルメディアをみんなが使いだしたのは、ここ半年とか一年くらいで、僕らも模索して別空間を作ろうとしていますし、アーティストも模索していると思うので、何か一緒に面白いことを仕掛けていければと思っています。
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