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新ペンライトシステム 「FreFlow(フリフラ)」開発秘話 〜 ソニー・ミュージックコミュニケーションズ 関口氏、ソニーエンジニアリング 海老原氏/新倉氏 インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

左から、関口氏、海老原氏、新倉氏
左から、関口氏、海老原氏、新倉氏

2012年8月、ケミカルライトともペンライトとも違う、見慣れない光の演出を伴ったライブ映像が突如YouTubeにアップされた。アイドル・グループ スマイレージのスペシャルライブに使用されていたそのライブグッズの正体は「FreFlow(フリフラ)」。調べてみると、その少し前にコールドプレイのライブ使用でネットで話題となったシステムとも全く違うものらしい事がわかった。その後、12月に行われたソニーミュージックグループの就職説明会や、さらには紅白歌合戦にも導入されるまでに至ったという、この次世代の新型ペンライトシステム「FreFlow(フリフラ)」について、開発チームのソニー・ミュージックコミュニケーションズの関口博樹氏、ソニーエンジニアリングの海老原 英和氏/新倉 健氏に、その開発から今後の展望まで話しを伺った。(取材、文、写真:Jiro Honda)

ソニー・ミュージックコミュニケーションズ http://www.smci.jp/
ソニーエンジニアリング http://www.sonyengineering.co.jp/
(東京・市ヶ谷 ソニー・ミュージックコミュニケーションズにて)
2013年1月18日掲載
※FreFlowはソニーエンジニアリング株式会社の商標。

プロフィール


関口博樹(せきぐち・ひろき)
株式会社ソニー・ミュージックコミュニケーションズ 執行役員/マーチャンダイジングカンパニー 代表
1956年生まれ。1979年、CBSソニーグループのソニー・クリエイティブプロダクツに入社、キャラクタービジネスなどに携わった後、2008年、ソニー・ミュージックコミュニケーションズに異動、2010年より現職。

海老原 英和(えびはら・ひでかず)
ソニーエンジニアリング株式会社 商品開発プロジェクト室1課 係長
1972年生まれ。1993年、ソニーエンジニアリングに入社後、ポータブル機器及びカーオーディオ等のアクセサリ、家庭用ゲーム機器のコントローラ、BDレコーダや液晶TVの設計を経て、2010年より現職。

新倉 健(にいくら・たけし)
ソニーエンジニアリング株式会社 商品開発プロジェクト室1課 係長
1968年生まれ。1989年よりソフトウェア技術者になり、放送設備等の通信制御ソフトやアプリケーションなどの設計、PHSの無線関連のソフトウェア開発などを数社にわたり担当し、2007年、ソニーエンジニアリングに入社、民生機器のソフトウェア設計を担当し現在に至る。

(「FreFlow(フリフラ)」デモ動画)

——新ペンライトシステム「FreFlow(フリフラ)」が開発されたきっかけというのは?

関口:ソニー・ミュージックコミュニケーションズ(SMC)としては、ソニーエンジニアリング(SEG)の方々と合流したのが2012年の1月中旬でした。

海老原:元々のフリフラ開発以前についてですが、私と新倉で、無線システムを使ったスマートメータ(自動検針など)を開発していた時期があったんですね。その時に、アニソンのライブに行く機会がありまして、確か2011年3月ぐらいだったと思うのですが、そのライブでお客さんがペンライトを使っているのを見て、「ペンライトに無線を入れたら面白いんじゃないか」と思ったんです。それで、無線でペンライトの色が変わるシステムという企画書を作って、まず部署内で提案したところ、かなり好感触を得ました。そこから、最初は予算はもらえないので、その時手に入るリソースを使用して、2011年8月に社内プレゼンを行いました。

——その反応はいかがでしたか?

海老原:上層部からも「いいじゃないか、やってみたら」と言っていただき、改めて予算をもらって、更に開発を進めました。最初の試作機は2011年12月に出来ましたね。

フリフラ試作機
(左が初期試作機、右は現行機)

それで、試作機が出来たのはいいのですが、ではこの新しいシステムを一体どのように展開させようかという話になりまして。

——最初からソニーミュージックに持って行こうという構想はあったのでしょうか?

海老原:それまでは、とにかく新しくて便利なものを作れば、誰かが面白がって使ってくれるだろうぐらいに考えてまして。

新倉:わりと気楽な感じで作っていましたね(笑)。

海老原:そもそもSEGはソニーグループなので、まずは、ソニーミュージックに相談してみたらどうだろうということで、弊社の代表とソニーミュージックの北川社長とで調整がありまして、それで関口さんとお会いする流れになりました。

——関口さんは、初めてフリフラの試作機を見た時は如何でしたか?

関口:最初に見せていただいた時に、ペンライト型フリフラの送信機も一緒だったんですけど、それをアーティストが持って、会場を制御するという使い方は面白いだろうな、と感じました。

あと、会場全体を制御して発光させるというコンセプトは、コンサート制作の中身にも関わってきます。SMCが通常扱うコンサートグッズというのは、コンサートの制作自体が全て決定した最終的なプロセスで立ち上がってきて、一番最後に商品を作るので、わりと短期で製造するんですね。ですが、フリフラはコンサート制作そのものに関わってくるものだと感じたので、通常のSMCのタームとは違う方法で取り組むべき案件だろうなと思いました。

——そのペンライト型の送信機というのは、試作段階からあったのですか?

海老原:通常の送信機を、照明卓でスペースをとらずに設置できるものにしようというのは、当初から考えていましたが、ペンライト型の送信機を作ろうという考えはなかったんです。ですが、SMCさんとお会いする直前ぐらいに、どうせだったら、アーティスト自身がパフォーマンスの中で、光を制御するのも面白いんじゃないかということで、ペンライト型の送信機も作ろうとなりました。それで、急いで新倉にソフトを組んでもらい、SMCさんにお見せしたら、「いいね、面白い」と言っていただけました。

新倉:ペンライト型送信機は、割と冗談みたいなノリで作ったんですよね(笑)。

フリフラ送信機
(中央の四角いものが通常の送信機、右下のグリップ部が黒いものがペンライト型送信機)

——SMCに見せる段階の試作機までは、海老原さんと新倉さんのお二人で製作されたんですか?

新倉:はい、試作機については、ハード周りを海老原が担当して、僕がソフトを組みました。

海老原:その後、改良を加えていくうちに、メカ屋さんとかが加わってきて、フルオーダーがかかって、最終的にはSEGで8名でやっていました。

——現在は、2社で「フリフラ合同プロジェクト・チーム」みたいな動きなんでしょうか?

関口:特にそういった枠組みは無いのですが、技術的な部分は先ほど海老原さんが仰ったようなカタチで、SMCとしては、私ともう一名の二人で営業的な部分を担っています。現在はまだ市販していないので、基本的にはBtoBの範囲ですね。

海老原:開発側(SEG)は、音楽業界に関しては全く分からないので、営業は全てSMCにお任せしています。

弊社はずっとソニーの製品で民生機を手掛けているので、その設計・製造サイクルと、SMC側のグッズ製作サイクルの距離を、双方で縮めつつ歩み寄ってというカンジですね。

関口:SMCの私が所属している部門はコンサートグッズが主ですし、SEGはそれこそ、テレビやウォークマン、ヘッドホンとか、そういうものを作っているところですからね。

——このインタビューで、フリフラを初めて知る方もいらっしゃると思うので、改めてフリフラの機能の詳細を教えてください。

海老原:まずは、通常のペンライト機能があります。現状は青、赤、緑、白、オレンジ、紫、ピンク、黄色の8色をスタンダード構成としています。最大ですと、15種類の色を設定することが出来ます。

フリフラ

——その、8種類なり、最大15種類の色が固定されているわけではないんですよね。

海老原:設定を変えることができますので、昨年のスマイレージのライブでの公開テストですと、メンバーそれぞれのカラーに白を加えて、7色としていました。

——好きな色を最大で15種類選んで、シーンにあわせて個別に設定できると。

関口:光の三原色(赤R、緑G、青B)のそれぞれを100段階で組み合わせることができるので、理論上でいうと、100×100×100=100万色を発色できます。

海老原:そうはいっても、人間の視覚には限界があるので認識できる範囲になりますけどね(笑)。色自体は、ある色と色の中間色など、細かく設定できます。

——そして、全体を無線で制御できるんですよね。

海老原:照明スタッフが制御する場合ですが、通常の送信機経由で、その場のフリフラの色を一斉に変えることができ、一斉に消灯・点灯も可能です。

フェード機能も自由にいじれるので、段々色を薄くして暗くしたりとか、その逆ももちろんできます。点滅も、高速から低速まで、点滅速度を変化させることができます。

関口:演出的なところでいうと、完全に暗転させたい演出に向いているんです。通常のペンライトはユーザーが個々で勝手に点灯して使用しますけど、フリフラですと、あるタイミングで、演出として全てOFFにして本当に真っ暗にできますから。

——制御範囲はどれぐらいですか?

海老原:実際試してみると、見通しの良い場所だと、半径400mぐらいは制御できるのですが、説明書上では確実な範囲ということで、半径200mとしています。

——それでも、アリーナレベルだとしても十分届きますよね。

フリフラ海老原英和氏

海老原:さいたまスーパーアリーナでステージから一番遠いところが150mぐらいですよね。東京ドームでも大差ない範囲ですし、半径200mですので、アンテナの設置を中央寄りにすれば、更に確実ですね。さすがに10万人規模の野外フェスとかになると、まだちょっと分からないですけど(笑)。ただし、そういう場合でも、送信機を複数設置して対応できるようなシステムを既に考えてはいます。

新倉:送信機の範囲がかぶらなければ大丈夫だと思います。あとは、周波数をそれぞれ変えるとかですね。

——国内で想定できるライブイベントはほぼカバーできますね。制御できる本数に制限はありますか?

海老原:制限はないです。範囲内にあれば、無制限に制御できます。IDによる制御も出来まして、現状5つのIDを設定可能です。IDを持たせた子機の集合を5つ作った場合、5つの集団を別々に同時制御できるという仕組みです。それに合わせて、ペンライト型送信機もあるので、アーティスト自身が、全体、及びブロックごとに色を制御できるというのも魅力だと思います。

——それこそ、メンバーそれぞれが色分けされているようなアイドルのライブとかで、重宝されそうですね。

海老原:他に、フリーモードというのがありまして、ライブ中ずっと全てを制御するのではなく、特定の時間だけ全体制御をかけて、他の時間は通常のペンライトとして、ユーザーが自由に使うことができるというような設定もできます。

関口:このようなグッズに関しては、お客さんも、制御されすぎることに関してやはり抵抗感があるようなので、その辺りは上手くバランスをとっていきたいですね。

——ペンライト型送信機で、アーティスト自身が制御するのであれば、ファンも受け入れるハードルが下がりそうですね。むしろ嬉しいかもしれない。ちなみに、ペンライトとして点灯させ続けると、どれぐらい持ちますか?

関口:営業的には8時間と案内していまして、一番電源消費が激しい白色だけをつけっぱなしにして4時間ぐらいです。

海老原:青色だと10〜12時間は持ちますね。

——では、電池満タンだと2回はライブで確実に楽しめますね。

海老原:そうですね、ケミカルライトだと色によっては短いものもありますから、また新しい楽しみ方ができると思います。

——フリフラを制御する通信の仕組みというのは?

海老原:プロトコルDMX512という、舞台照明の照明卓の信号があるのですが、照明卓についているDMXコネクターの規格の信号を受信して、卓の信号をそのまま送信するという仕組みです。通常のコンサートのライトと全く同じ信号なので、ステージ上のライティングに同期させることも容易にできます。

——音へ影響を及ぼしたりしませんか?

海老原:それも大丈夫です。ワイヤレスマイクも問題ありません。

——まだ試作段階ということですが、現在までの開発で一番苦労されたところというのは?

新倉:無線のチップの部分ですかね。

海老原:フリフラではリアルタイム性が求められるので、いかに確実に、しかも遅延せずに一斉に変化させられるかという部分でしょうか。

フリフラ新倉健

新倉:技術的に言うと「無線」なので、基本、絶対というのは無いんです。従って、理論的にはいつ不具合があってもおかしくないんですけど、そこをいかに工夫して上手くやるかに気を使いました。まぁ、無線の通信制御系というのは、だいたいそういう技術的な工夫が入っているものなんですけどね。

海老原:あと苦労したのは、やはり基板を相当小型化したところですね。LEDペンライトは電池三本が通常なのですが、それだとサイズの調整に支障がでるということで、単4を二本にしたんです。しかし、そうすると今度は従来の電源回路だとLEDが光らないということで、通常のポータブル機器で使用するような少し豪華な電源回路を採用しています。

他に、基板の面積は無線の受信性能に関わってくるので、半径200mを確実にカバーできるギリギリのサイズまで工夫しています。

——フリフラはペンライトシステムということで、もちろんペンライト型ですが、違う形状のものもあるのでしょうか?

関口:それは現在開発中で、他に新しいものを色々考えています。光る部分をアーティストによって変形させるとか、アーティストのデザインを印刷してグリップの部分に入れる等も構想しています。 

——現段階までの実用例を教えてください。

関口:今も試作段階なのですが、現在1,000本ほどを生産しています。今までですと、一番最初は2012年8月17日に公開テストというカタチでスマイレージのライブの演出の一部で使いました。

その後、2012年10月24日のフジファブリックの代々木公園での野外ライブで、優先エリアの入場者全員に1本ずつ配布し、一部の楽曲で光の演出に参加していただきました。

次が、AIさんの「ハピネス」に合わせた、コカ・コーラのクリスマス用のCMで導入していただきました。

続いては、2012年12月9日のソニーミュージックの就職説明会です。

——就職説明会では、はじめて実際に見て、驚きました。

関口:あそこは明るい場所だったので、暗いライブ会場とかだともっとキレイですよ。

そして、直近ですと先日(2012年末)のNHK紅白歌合戦です。様々な場面でご使用いただきましたね。審査員とゲストの方々を含め、1F・2Fの前方部分で1,000本を配布し、使っていただきました。

海老原:サウンドチェックを合わせると、当日も含めて3日間連続でリハーサルを行いました。

関口:オープニングでは、赤色、白色をフェードで交互に点灯し、その後、下記の8アーティストで使用しました。

出演順

  • AAA「777 〜We can sing a song〜」
  • 水樹奈々「BRIGHT STREAM」
  • 香西かおり「酒のやど」
  • 森進一「冬のリヴィエラ」
  • ももいろクローバーZ「ももいろ紅白だZ!!」
  • コブクロ「紙飛行機」
  • aiko「くちびる」
  • YUKI「プリズム」

 

——紅白本番の前説でのフリフラの機能説明では、斬新なシステムに会場からどよめきが起きていましたね。フジファブリックの使用では野音でしたが、野外でも問題なく使えますか?

海老原:完全な防水ではないのですが、フジファブリックの野音の前には、じょうろで一時間ぐらいずっと水をかけ続けて(笑)テストしましたが、大丈夫でしたね。

——音楽イベント以外での使用というのは如何でしょう。

関口:弊社の社員が今度結婚するんで、是非使いたいとか言ってますけど(笑)。確かにウェディングとかは相性がいいかもしれないですね。

海老原:その辺は狙いたいですよね(笑)。

関口:あとは、スポーツイベントやセレモニー的な場面でも使えそうだと思っています。最終的には、テーマパークなども含めてあらゆるエンタテインメントでご使用いただけるようにしたいですね。

——一般への発売は?

関口:今春を予定していまして、3,000円以内に収まるようにしようと考えています。我々としては、コストダウンがやはり一番大変ですね。

海老原:びっくりするぐらい手頃な価格で提供したいですね(笑)。最初の試作機に比べたら、現在のものは3分の1ぐらいのコストで作れています。最初のものだと、市場価格が1万円とかになっちゃうようなカンジでしたからね(笑)。SMCさんの意見を聞きながら、チップ形状を小さくしたり、電池も単3を二本から単4を二本にしたりして、サイズをダウンさせるとともに、コストもダウンさせました。

関口:最初は、やはり通常のペンライトに比べるとだいぶ大きかったので、もう少しコンパクトにしていただきたいとリクエストをしました。

フリフラ試作機比較
(左:試作機、右:現行機)

コストの面で言うと、やはりアーティストごとに、一回のライブでお客さんがグッズに使う単価というのはだいたい決まっているので、いかにコストを下げて、その単価予算内に落とし込んでいけるかですよね。

——送信機に関しては、通常型もペンライト型も、一般には発売されない?

関口:送信機の一般発売は考えていないですね。送信機には技術的にオリジナルな部分が多くありますので。

例えば、フリフラが普及した後に、このシステムをライブ会場等に常設するというようなことは将来的にはあるかもしれませんが、今のところは、受信するペンライト型の子機のみの発売を予定しています。

——これは海外でも展開を予定されていますか?

フリフラ関口博樹

関口:将来的にはあるかもしれません。ただ、各国で電波を飛ばすのに法律が異なりますので、そこもクリアしていかなければなりませんし、すぐにというわけではないです。

海老原:国内でも、ずっと電波を発信し続けることは出来ない規格なんですよね。電波法等で、時間制限とか割と厳しい決まりがありますので。

——今後の展開が楽しみです。それでは最後に、フリフラに興味を持っている方に一言お願いします。

海老原:企業さんに対しては、制御が簡単というのはウリですね。送信機はコンパクトで設置のスペースも全くとりませんし、通常の照明スタッフさんであれば、送信機をお見せしたら、その場で即座に理解して制御・使用することが可能なものになっているので、色々な場面で積極的に活用していただければと思います。

関口:やはりフリフラは、ペンライトだけとしても使えますし、アーティストとの一体感を今まで以上に感じることができる新しい可能性を秘めた、次世代のライブグッズだと思います。

将来的には、現在ペンライトやケミカルライトが普通にライブグッズとしてあるように、フリフラもそういう位置を目指していきたいですね。

フリフラfreflow関口海老原新倉