「FaRao」から新しいアーティストを輩出したい 〜日本初 メジャーレコード会社の楽曲が聴き放題のインターネットラジオ「FaRao」
フェイスが、メジャーレコード会社の楽曲を取りそろえたインターネットラジオ「FaRao(ファラオ)」を1月30日にサービスインした。
リスナーの音楽に対する趣向を分析して、そのリスナーの好みに合った音楽を自動で選曲(レコメンド)する「FaRao」。アメリカでは同様の仕組みを持つ「Pandora Radio」が1億6,000万人以上の会員を抱え、ラジオに代わる新しい視聴スタイルとして親しまれている。フェイス独自開発によるレコメンドエンジンと数百項目に渡るアーティスト・楽曲の属性データベースによって、日本人の特性に合った選曲を実現。リスナーは、楽曲を聴きながら好きか嫌いかのシンプルな操作を繰り返すだけで、好みに合ったアーティストや楽曲に出会うことができる。
夏ごろまでには100万曲以上の楽曲を配信する予定という「FaRao」について、その開発を進めた株式会社フェイス 執行役員 殿村裕誠 氏に話を伺った。
プロフィール
殿村 裕誠(とのむら・ひろしげ)
1962年2月28日 中央大学法学部
1989年 株式会社タイトー入社
2005年 株式会社タイトー 取締役
2006年 株式会社ブレイブ 代表取締役
2006年 株式会社ライツスケール 取締役
2007年 株式会社タイトー 取締役 退任
2007年 株式会社フェイス 執行役員
2011年 メディアクリエーション事業ユニット 担当役員
2011年 ライツスケール事業ユニット 担当役員
2012年 株式会社ライツスケール 代表取締役
(現在に至る)
——「FaRao(ファラオ)」のプロジェクトはいつ頃始まったんですか?
殿村:2年くらい前から日本にウェブキャストを持ってきたいという考えで、色々と調査をしていました。アメリカでは当時Pandoraが伸びてきていた頃で「なぜ日本ではできないのかな」という問題意識を持っていました。当然ながら日本はアメリカのように法整備がされていないという現状がありますので、そこをどうクリアしようか、というところからこのプロジェクトは始まりました。
当時はPandoraを日本で展開するのがいいのではないか? と思っていたんです。ブランド力もありますし、日本のレコード会社からも理解が得やすいのではないかと。また、パートナーシップを組むことについては、フェイスはフラットな立場でありながら音楽業界のことがわかるということで、自分たちでもいいポジションかなと思っていたんですね。ところが、色々と検討してみると、まず、コストが非常に高いことが分かったんです。
——どのくらいのコストだったんですか?
殿村:Pandoraのレコメンドエンジンを作るには多数の分析官によって、楽曲1曲1曲を徹底的に分析したデータベースが必要なのですが、日本でサービスを開始するとして見積もると100万曲のデータベースを構築するのに莫大なコストになってしまうんです。しかも、立ち上げのために要する時間も相当なものになってしまう。
また、日本のリスナーは音楽の聴き方がアメリカとは違うということに気がつきました。音楽のジャンルというよりは、好きなアーティストの属性で聴いているケースが多いのです。音楽のジャンルを追いかけるのではなくて、アーティストを追いかける、ということがだんだんわかりました。それなら、日本でPandoraを展開するよりも、日本のリスナーや音楽マーケットに合ったサービスを作ろうということで、レコメンドエンジンの開発を始めたんです。
——やはり日本には独自のレコメンドエンジンがいいだろうと。
殿村:そうですね。ただ、レコメンドエンジンができたとしても、次の課題はどうやってレーベルの許諾を得るか? ということでした。そこで考えたのが、アメリカのサウンドエクスチェンジ、イギリスのPPLのような原盤使用料を一括徴収する団体を作ることでした。海外で使われている日本楽曲の回収を代行し、国内レコード会社に分配を始めることで、国内での楽曲利用許諾のきっかけを作ることができると考えたんです。まず最初に、アメリカのサウンドエクスチェンジとの話し合いを2〜3ヶ月かけてやりました。
アメリカのデジタルミレニアム著作権法によると、現地で正規に流通している楽曲に関しては米国外の楽曲でも法的な手続きを踏めば利用してもいいとのことなので、アニメとかビジュアル系の楽曲がどんどん使われているんですね。ところが、使用料の払い先がないので、今でもサウンドエクスチェンジにプールされているんです。ですからそれを日本で分配する音通協という社団法人を立ち上げ、海外の使用料を徴収する窓口となりながら、国内のウェブキャストの使用料も一括で管理できる機関を作ろうとしました。
ただ結果的には米国のサウンドエクスチェンジやイギリスのPPLなどと相互管理契約をするには先に国内レコード会社の許諾が必要だったため、一旦保留にし、まずはデジタルミレニアム法に沿った独自のウェブキャスト「FaRao」をアメリカで立ち上げました。実際にデジタルミレニアム法をクリアしているサービスだということを証明すれば、日本のレコード会社からも理解が得やすいと考え、まずはアメリカでサービスを始めたんです。
——現段階で、ほぼ全てのレーベルと契約ができているんですか?
殿村:一部のレーベルとはまだ交渉中ですが、基本合意には至っていて、いずれ全てのレーベルから許諾が得られると思っています。やはり本当にサービスを開始することでこちらの本意を感じていただけるのではないかと思いました。ですから、これから楽曲がどんどん増えることを前提の上で早めにスタートを切りました。
——アーティストごとに提供する、しないということもあるんでしょうか?
殿村:一部アーティストさんによっては、様子見という方もいらっしゃいますし、事務所判断もあります。多くのケースは伸びるサービスであれば提供していただけると思うので、僕らの責任としてはこの「FaRao」を広めるということが一つの課題になってきます。
——「FaRao」をスタートするにあたり準備に思ったより時間がかかったとのことでしたが。
殿村:はい、各レコード会社にご理解を頂くために何度も話し合いの場を持ったり、許諾頂いた楽曲のレコメンドの精度を高めるための分析などに非常に時間がかかりました。また、いかにユーザーが使いやすい機能にするか、ジャンルをどのように分類し表示するかなどに特に時間をかけました。
——では、夏頃には様々な音楽ジャンルが楽しめるということですね。
殿村:そうですね。邦楽はもちろん、洋楽に関しても、世界で流通している楽曲はほぼ聴くことができるようになると思います。
——そもそも日本に入ってきていない、世界でも流通していない楽曲に関しては?
殿村:それは次のステップだと考えているんですが、既にアジアを中心に現地に行って交渉をし始めていて各国の音楽も取り入れて行きたいと思っています。更には、日本の音楽を世界に広めるためのメディアとして「FaRao」を海外にも展開して行きたいと思っています。
——それも業界待望の施策ですよね。日本の楽曲がアジアに出て行ってほしいですからね。
殿村:非オンデマンドのストリーミングであるということ、適切な著作権保護機能を備えているということで、これはプロモーションツールなんだということをきちんと認識していただいて、日本の国内と同様に海外での使用の許諾も合わせて承認していただければいいなと思っています。
——どうすれば日本の音楽がアジアなど多国でもっと浸透すると思いますか?
殿村:そうですね。たとえば映画やドラマで出てくる家電製品や車などは何度も見ているうちにそれがブランドとなり購入する人が増えて、文化に浸透していく。韓国などは国をあげてそのような文化のブランディングに取り組んでいます。日本ももっとそこに力を入れるべきだと思います。
——そのためのツールとして「FaRao」の有用性はどこにありますか?
例えば音楽もアーティストが単独で出ていっても、結局顔と楽曲が一致しない限り、オンデマンドというか指名買いの可能性は低いんです。でも、アジアのアニメが大好きな10代の子たちに「J-POP&アニメチャンネル聴けるよ」と言えば、聴いてみたいと思うはずなんです。僕らも「ブラジルの最新ヒットチャートってどんななんだろう?」とか思いますけど、今現在のブラジルのアーティストなんてほとんど知らないですし、曲も知らないんですよね。
——まとめて聴いて、格好いい曲があったら探ってみる。
殿村:そうです。そういうことを日本もやらなくてはいけないという意味で、ウェブキャストはきちんと伸びて欲しいなと思いますし、そういう考えを持ってやっている会社は他にもたくさんあると思います。Last.fmさんやPandoraさんもそうなんですけど、色々参入して賑やかになれば、市場が活性化されてそれはそれでいいのかな? と思っています。
——「FaRao」も曲数がボーンと増えたら、利用者が拡大しそうですね。
殿村:既にお預かりしている曲数は相当数あります。ただ、今はJ-Popから着手しているので、これから続々と増やしていきます。ただ楽曲を増やすだけではなく、レコメンドの精度を見直し、ソーシャルメディアとの連携を高め、更なる使いやすさの向上にも取り組んでいくつもりです。
——年配の方もみんなスマートフォンを持ち始めているじゃないですか。美空ひばりや都はるみを聴きたくて月々350円払う中高年は、現実にいるはずですよね。
殿村:そうですね。私たちとしては決して楽観しているわけではなく、どんどん積極的に仕掛けていかなければいけないなと思っています。使いやすさの向上の話をしましたが、パーソナライズの仕組みについても年齢を問わず時間をかけてでも理解して頂きたいです。また課金の仕組みをさらにわかりやすく、生活のあらゆるシーンでウェブキャストが簡単に利用できるようになったら素晴らしいことだと思っています。
——最終的な目標は、数値的にどのくらいですか?
殿村: Pandoraやアメリカのウェブキャストの現状を見ていると、無料ユーザー含め、ほぼ2億人くらいになっていますね。3億の人口で2億ですから、人口比率を考えると8,000万人くらいいく計算になるんですが、ラジオの文化が根付いていて、車社会のアメリカと比べると、そこまでは難しいとしても、日本の場合はトータル5,000万人くらいのサービスに育てていきたいです。
——でも、100万曲聴けて月々350円というのは、8,000万人いっても何の不思議もない数字のような気もしますし、是非そのくらいの成功を収めてほしいと思います。
殿村:ありがとうございます。アプリになった途端に競合がゲームや一般PCのサービスになってくるので、そのあたりは昔のi-modeとかEZwebとかとは違うかなと思います。でも、フェイスは最初の着メロの仕組みを作ったときに1,200万人くらいの会員を持っていましたから、それを考えると日本人って非常に音楽が好きですし、月額350円ラインというのは、比較的利用していただきやすい価格帯だと思います。
——それにしても、想像するだけでも大変な困難が予想されることに、よくもトライされましたよね(笑)。心から敬服いたします。
殿村:その苦労を評価してくれる人はなかなかいないので、とても嬉しいですね(笑)。今あまりにもプロモーションメディアがなくなって、若いミュージシャンの子たちが出て行く場がないんですね。そういう意味では、純粋な気持ちでプロモーションメディアを作りたいなという想いがありました。私自身もアーティストプロモーションに関わっていた経験からすると、今はどんどんテレビの音楽番組も減り、ラジオも聴かれなくなり、携帯でゲームばかりやっているというような現状をなんとか打破したいという気持ちがあったものですから、こういうプロモーション的に音楽がずっと流れている状態を作りたかったんです。また、オンデマンドのサービスはこれからどんどん出てくると思うんですが、新しい出会いがないんですね。私の考えではSpotifyのような聴き放題サービスでもiTunesのダウンロードでもCDでも基本的にはユーザーの行動は同じで、あくまでも自分で探して聴く=オンデマンドということなんですね。聴くためには曲を指定しないといけない。
——そもそも曲を知らないといけないですよね。
殿村:ええ。そういう意味で言うと、最初は100万曲もの楽曲の中からできるだけ自分に合う楽曲を再生して精度の高い出会いを提供し、楽曲を好きになってもらって指定して買う、というようなストーリーを作っていきたいなという想いがありました。
「FaRao」で私が期待していることは、このサービスから新しいアーティストがどんどん出てくることなんですね。プロモーション予算を割かなくても、LADY GAGAの次に新人アーティストの曲がかかる。それを多くの人が聴いて気に入ってくれる。つまり、音楽の良さで勝負できる環境が作りたかったんです。
——ということはまず放送メディアとしての成功を狙うということですね。
殿村:そうですね。ただ、それだけではなく、実際に「FaRao」からダウンロードやCDへ遷移するので、その遷移からモノが売れていくということを実現したいですね。実際にアメリカではウェブキャストから月間数百万件の規模でアフィリエイトが成立していると聞きます。今はレコチョクやiTunes Store、Amazonなどのショップに飛ぶんですけど、将来的にはライブチケットやアーティスト関連の様々な商品の購入に連動させていきたいと思います。
繰り返しになりますが、「FaRao」は今まで知らなかった音楽やアーティストに出会える場所だと思います。いい音楽でさえあれば、好きになってもらい、音源やチケットが売れる、そんな音楽の本来の姿を取り戻すことができればと心から願っています。