レコーディング技術を若い世代へ伝えたい — ソリッド・サウンド・ラボ 代表 /サウンドプロデューサー、レコーディング&ミキシングエンジニア 戸田清章氏 インタビュー
レッドブルが「夢をおいかける人に、翼をさずける」をコンセプトに、各シーンのトップランナーを講師に迎えるワークショップ「レッドブル翼アカデミー」を開催する。その音楽部門の「MUSIC」においては、宅録における音作りやミックスの技術・コツを伝授する、超実践的なワークショップ「ベッドルームレコーディング」が実施される。
現在、その受講者の募集が行われているが、ワークショップの講師を担当するサウンドプロデューサー、レコーディング&ミキシングエンジニアの戸田清章さんは、ももいろクローバーZやBABYMETAL等、その幅の広い仕事で知られ、今最も多忙なクリエイターの1人。
今回は、戸田さん自身のキャリアをはじめ、ワークショップで実際にどのようなことを身につけられるのか、どういう内容で行われるのか等を語っていただいた。
(取材、文、写真:Jiro Honda)
Red Bull Live on the Road 2013
ソリッド・サウンド・ラボ
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[2013年3月29日 / HeartBeat Recording Studioにて]
PROFILE
戸田清章(とだ・せいじ)
株式会社ソリッド・サウンド・ラボ 代表
サウンドプロデューサー、レコーディング&ミキシングエンジニア
1978年、岡山県生まれ。福岡大学を卒業後、レコーディングエンジニア養成スクール(CRS)で録音技術を学び、卒業後HeartBeat Recording Studioに入社。
2005年よりメイン・エンジニアとして数多くの作品を手掛ける。
2010年に制作チーム「S.O.L.I.D sound lab」を主宰、翌年には株式会社ソリッド・サウンド・ラボを設立。
作品リスト
レッドブル翼アカデミー MUSIC
講師 : 戸田清章 / SEIJI TODA
ワークショップタイトル : 「ベッドルームレコーディング」
日時:2013年6月22日(土)
場所:都内近郊のレコーディング・スタジオを予定
募集人数:10〜15名程度
応募締切:4月21日(日)
応募必須項目:自由記入欄への音楽編集ソフト経験、特に教えてもらいたいこと、音楽ジャンルを記入(Pro Tools ○年 / オルタナロックなど)
※参加費無料
※会場までの交通費はレッドブル翼アカデミーが負担。
※ミックスの教材は、ロックバンドに翼をさずけるプロジェクト、Red Bull Live on the Road 2012の優勝バンドCrack Banquetがプライズとしてレッドブルの持つアムステルダム・レコーディングスタジオで収録した曲音源を使用。
——戸田さんが音楽に興味を持って、エンジニアを目指したきっかけというのは?
戸田:もともと中学校1年の時にドラムをはじめたんです。それから高校まで、洋楽・邦楽問わずコピーバンドとかをやっていましたけど、エンジニアやミュージシャンになりたいとかは、特に思っていなかったですね。
大学に進学してからは、ドラムをやっていた流れで軽音楽サークルに入ったんです。でも、そこがすごく体育会系のサークルで、一年生のうちは楽器とか触らせてくれなくて、ケーブル巻いたりとかの雑務ばっかりみたいなところで(笑)。
当時はPCで手軽に音源を作れるような時代じゃなかったので、ライブハウスに持って行くデモテープも、リハスタで音を録って持って行くというカタチだったんですね。それで、録りを手伝わされるんですけど、その時にTASCAMの4chのMTRで録ったのが、「録音する」ということに触れた第一歩でした。
——その時すでに音を録るのは楽しいと思いましたか?
戸田:楽しいと思いましたね。一瞬にして引き込まれました。ただ今みたいにネットが普及している時代ではなかったので、情報がなくて。完全に独学で勉強しました。それで、大学3年の就職活動のときに、音を録る仕事をしたいなと思って、大学の就職課で「レコーディングの仕事がしたいんです」って言ったら、「じゃあ、レコード会社に就職したらなれるんじゃないですか」というかなりアバウトなアドバイスをもらいまして(笑)。
——ちぐはぐですね(笑)。
戸田:それで「そうか!」と思ってレコードメーカーに絞って就職活動をしたんです。そのうちの一社は制作のA&Rで最終面接まで残ったんですけど、面接で「僕はレコーディングエンジニアをやりたいです」って言ったら、面接官の人も「??」みたいな感じになっちゃって(笑)。
——同じ業界ですけど、方向違いますよね(笑)。
戸田:案の定ダメで「夢への道が途絶えたなぁ。。」って思ってたら、サンレコ(サウンド&レコーディング・マガジン)でレコーディング・エンジニアの専門学校があるという情報を知りまして(笑)。
——そこで初めて(笑)。
戸田:それで「これだ!」と思って、大学卒業後に入学して、エンジニアの勉強をしました。
——戸田さんは独立される前は、ハートビート(HeartBeat Recording Studio)にいらっしゃったんですよね。
戸田:ハートビートのチーフエンジニアと出会いまして、「なんかお前面白いからスタジオに遊びに来い」って言われて拾ってもらった感じですね(笑)。そこから僕のレコーディング・エンジニア人生が始まりました。
——エンジニアというお仕事は、最初アシスタントからはじまって、メインのエンジニアになっていくというプロセスがあって、そのケースはみなさん様々だと思うんですけど、戸田さんの場合はどんな感じだったんですか。
戸田:実際に、メインでレコーディング・エンジニアとして本格的にやり始めたのは元JUDY AND MARYのTAKUYAさんのバンド「ROBOTS」なんですよ。
——そのきっかけというのは?
戸田:当時のハートビートスタジオの親会社がこのROBOTSの制作に携わってまして、たまたま僕をエンジニアとして推薦してくれたという流れの中で、TAKUYAさんとご一緒させていただいた感じですね。
——エンジニアとして「突き抜けた瞬間」というのはありますか?
戸田:僕の場合は、やはり会社のハウスエンジニアからフリーになって仕事のやり方がガラッと変わりましたね。それまでは、自社の所属アーティストまわりしか手掛けることができない状況があって、それにちょっとジレンマみたいなものも感じていたので。
——もっと色々手掛けてみたいと。
戸田:そうですね、丁度タイミングも良い時期があって、それでもう少し広いフィールドでやろうということで、フリーになったんです。
——フリーになって主宰した「S.O.L.I.D sound lab」は最初は法人ではなく、サウンドチームみたいなカタチだったんですよね。
戸田:僕の場合は、コンスタントな仕事を持っていてフリーになったというケースではなかったんです。ほぼ顧客ゼロのままフリーになったんで。
その後、フリーになるときに助け船というかサポートしていただいた方や、知り合いのアレンジャーさんにお仕事を貰ったりしてはいたので、有難い事にエンジニアとしてやってはいけていたんですけど、更に仕事の幅を広げるには?を常に考えていました。
まず、困ったのは営業の仕方ですね。今までスタジオに囲われていたので全然やり方が分からなくて。フリーになりたての名もなきエンジニアが普通に「録らせてください、ミックスさせてください」ってメーカーやディレクターさんにお願いしてみても、そういう営業をすればするほど先方には避けられるという(苦笑)。
それで、ちょっと営業のアプローチの方法を変えてみたんです。
——どういう風にですか?
戸田:「今、こういうアレンジャーさんと一緒に仕事しているんですけど、一緒に何か制作やってみませんか?」と、当時一緒にやっていたアレンジャーさんのプロフィールを持ってお話ししてみたんです。そのアレンジャーさん自身は、業界でみなさん名前を知っている方だったので、「じゃぁ何かやってみようか!」とのってきてくれたんです。そうしたらその流れで、エンジニアの仕事が入ってくるようになって、「あ、このやり方だ!」と(笑)。
——良い方法みつけましたね(笑)。
戸田:当時、僕自身はまだ業界でも「ハートビートスタジオのハウスエンジニアの戸田」だったらまだ通じていましたけど、「レコーディング・エンジニアの戸田」って言うとみんな「誰?そいつ?」みたいな感じだったんです。
なので、周りに何人か一緒にやっていた作家・アレンジャーさん達にも声をかけて、色々な人達に話をしていくうちにどんどん仕事が大きくなっていったという感じですね。それが制作チーム「S.O.L.I.D sound lab」となった経緯ですね。
——法人にされたきっかけというのは?
戸田:そうやって、少しづつ仕事の規模が大きくなっていくにつれて、個人事業主でやることに色々と不便を感じるようになったんです。ですが、その一方で、会社を起こすなんてエンジニアしかやった事がない自分には無理だな、とも感じていて。
そんな時に、ちょっと大きめの仕事を頂いたんです。それで、その仕事が中盤ぐらいまで進行した時に先方と書類のやりとりをしていたら、「戸田君のトコロって会社じゃなかったんだ」と電話がかかってきまして。「戸田君ごめん、ウチは会社対会社じゃないと取引できないんだ。すぐ会社にできないの?」と(笑)。
——そこで気づいたと(笑)。
戸田:そのミックスの納期が二ヶ月後だったんで「ミックス終わるまでに会社にしないと!」となりまして、音楽関係に強い税理士さんを知り合いに紹介してもらい、かなりバタバタで会社を作ったんです。
今はきちんとした考えに基づいて経営していますけど、もともとは明確なヴィジョンがあって会社を起こした訳ではなくて、必要に迫られて始まった感じはありますね。
——本当に巡り合わせみたいな感じですね。
戸田:会社にした事で、音楽制作の仕事を全て受けて、作家さんに楽曲を書いて頂いたり、アレンジを頼んだり、自分がエンジニア出来ない時は、後輩のエンジニアに歌録りや編集を振ったりという、制作会社的に案件を手掛けることも可能になりました。
僕自身ロックバンドが大好きだったので、ロックバンドだけを手掛けていたい願望が強いエンジニアだったんですが(笑)、いざフリーになるとそんな事言ってる場合ではなかったので、なんでも引き受けるという考えにシフトしたんです。
その時に、結局ロックバンドのエンジニアをするのが楽しいんじゃなくて、エンジニアリング自体がすごく楽しいんだという事に改めて気付いたんですね。アイドルだろうが劇伴だろうが、ロック、ポップス、その他なんでも、コンソールの前に座って音を作ったり録音したりすること自体がやっぱり楽しいんだということが分かって。昔は、なぜか「ロックしかやらないエンジニア」というイメージにしたかったんですが(笑)、そういうことでもないんだなと気付きましたね。
——視野が広がってきたと。
戸田:そういう気付きを経て、今年になってからは、外注していたエンジニア達がうちの会社に「所属したい」と言ってきてくれたんです。僕もフリーの時期があったんで、彼らの心境がすごく理解できるし、それで、エンジニア3人、作家2人、アレンジャー・プレイヤー2人と、まさにこの4月から新しい体制にチェンジしたんです。
もともと「S.O.L.I.D sound lab」というくくりで携わっていた人たちなんですが、ここでもう一度チームとしてがっちりやりましょうということで、ウェブサイトでも新たにそのメンバープロフィールを公開しています。
——なんかパズルのピースがはまっていくようですね。戸田さんは幅広い作品を手掛けられていますが、そのバックグラウンドが分かりました。
戸田:昔だったら「いや〜僕にはそれ無理です」と言っていたものも、幅広く手掛けるようになってからは、「戸田君のところは色々やってるらしいよ」という話しがまわって仕事が来るようになった部分はあるのかなと思いますね。
——幅広い作品ということで言うと、最近話題のBABYMETALとかは初期から関わっていると伺ったんですが。
戸田:もともとは、インディーズの「newbreed」というメタルバンドのレコーディングをした時に、たまたまメタルが大好きなディレクターさんと知り合って仲良くなったんです。僕も最初はメタルの人だったので。
——僕もメタル育ちですよ(笑)。
戸田:最近メタル熱いですね(笑)。それで、ある時その人から相談があるというのでお会いしたら、「戸田さんってメタル大好きですよね?」「好きですね。」「アイドルやってますよね。」「はい。やっています。」「メタルとアイドルが融合したらやります?」「やります!」という会話がありまして(笑)。それがBABYMETALだったんですよ。
——曲もカッコイイですよね。
戸田:僕もそうなんですが、メタルのファンは中途半端なことは好まない傾向にありますけど、BABYMETALに関してはプロデューサーの方もメタルが大好きで、オケだけ聴くと既にもうアイドルの楽曲ではなくなってますからね。最初は少し可愛らしかったんですけど、だんだんえげつなくなってきているという(笑)。なので、最初の段階からは色々と携わっていますね。
現在、特撮のNARASAKIさんと仕事のパートナーとして仲良くさせていただいているんですけど、BABYMETALの「ヘドバンギャー!!」は彼が作曲しているんです。ある時NARASAKIさんに「今こういうのやっているんですよ」ってBABYMETALの話しをしたら、「面白いね」って思ってくれたみたいで、その後、ひょんなきっかけから彼もBABYMETALの制作に携わるようになったという(笑)。
——ももクロ(ももいろクローバーZ)も、作品の多くを戸田さんがエンジニアをやられてますよね。
戸田:ももクロの時も面白い巡り合わせだったんです。声優さんのアルバムレコーディングをしてまして、そのときの曲が、NARASAKIさん作曲、大槻ケンヂさん作詞で、その二人がいらっしゃって、初めてお会いしたんです。その後、彼らのバンド「特撮」もエンジニアとして担当することになったんですけど、ある時NARASAKIさんに「アイドルやったことある?」と言われて、「一回もやったことないです」と答えたら、「アイドルっぽくなくてオモシロいインパクトある楽曲にしたいから一緒にやろう」と誘ってくださって、それがももクロがユニバーサルからキングに移った1発目のシングル「ピンキージョーンズ」だったんですよ。彼女達も、まだ今みたいにブレイクする前で、僕らもとにかく楽しみながらやっていました。確かミックスを13時から初めて、終わったのが次の日の昼過ぎだったような、、、(笑)。
もう一つ面白いエピソードがあって、ももクロから一人脱退して「ももいろクローバーZ」になった時、ちょうど水木一郎さんのアルバムのレコーディングをやってたんです。「〜Zって水木さんみたいだな」と思ってたら、水木さんのアルバムの仕事の時に、水木さんが「戸田君、”ゼーット!”っていうサンプル素材をくれって言われているんだよね」って言うんです。それで「それ何に使うんですか?」と訊いたら「いや、アイドルでなんとかZっていうやつが…」「それ、ももいろクローバーZじゃないですか?」「そうそう、なんで知っているの?」「実は僕が今やっているんですよ」というやりとりもありました(笑)。
——さて、今回戸田さんは「レッドブル翼アカデミー」ワークショップの講師を務められるということですが、どのような内容を教えられるのでしょうか?
戸田:対象としているのは、プロではなくてアマチュアなので、実際のレコーディング・スタジオに来たことがない人に、実は昔からこういうスタジオでやってるんだよ、こんな感じなんだよ、というのをとりあえず見せてあげたいですね。自宅でPCで作業していて、山ほど出ているプラグインを沢山知っていても、実機を触って音を聴いたことがある人はほとんどいないと思うので、実際の現場を体験させてあげたいです。
もちろん、宅録のPro Toolsの使い方だったり、録音の仕方も教えようとは思いますけど、まずは実際に音楽が産まれるプロの現場と音を体感してもらいたいですね。
——やはり、本物の現場を知ってる知らないの差はありますか?
戸田:例えば、僕の場合、Pro Toolsの中だけじゃなくて未だに卓に立ち上げて、卓で全部音を作ってEQしてアウトボードを使って、という昔ながらのミックスの手法をしているんですけど、卓とPro Toolsでパラメーターを全く同じにしても同じ音にはならないんですよ。そういうところを実感して欲しいと思います。
——宅録で言うと、今、純粋な気質を持ったクリエイターというのは、かなりの数「ニコ動」にいる気がしますね。
戸田:凄いクリエイターの人はたくさんいますね。例えば、今回のももクロのニューアルバムの収録曲「BIRTH Ø BIRTH」はNARASAKIさんとボカロPのゆよゆっぺ君がアレンジ、ゆよゆっぺ君がラフミックスを作って、僕が最終的にミックスをするという作業の流れだったんです。
最初に彼のラフミックスを聴いた時に「凄いミックスセンスがあるクリエイターだな」と思いましたね。僕が想像しない音作りだったので、大変興味ありました。まずは、ゆよゆっぺ君のラフミックスを超える事が最大のテーマでしたね(笑)。僕もゆよゆっぺ君と仕事をしてみて、色々勉強出来たし、逆にゆよゆっぺ君も僕のミックスを見て勉強になったと言ってくれて。ミックスが終わった頃にはお互いが成長している、みたいな感じでした(笑)。
こういう経験もあって、よけいに今回のワークショップをやりたいと思いましたね。
——「そんな方法があるんだ!」と、すごく興奮するでしょうね。
戸田:最近は色々なクリエイターが自由にインターネット上に自分たちの曲をアップ出来るようになって、色々な音楽を耳に出来るようになりました。ニコニコ動画やYouTubeにアップしている曲を聴いているとほんと「すごくセンスがあるクリエイターが多いんだな」と思うんです。でも、もっともっと良くなると思うんですよね。ほんとにちょっとした事でミックスって凄く良くなるんですよ。
宅録の場合、人によっても違うんですけど、むやみやたらに音をいじり過ぎる傾向にあるんですよ。僕も家にいると、「あーでもない、こーでもない」ってよくやっちゃうんですけど(笑)。
ミックスに関して言えば、実際にスタジオで仕事をしている人と、してない人の音の聴き方の違いは歴然だと思うんです。センスとかではなくて、技術力として。EQをいじるとかコンプをかけるとか、本格的なスタジオのモニターの環境の中でやると、本当に細かいところが分かるんです。1デシベルの音の違いがスタジオでは分かるんですけど、環境雑音の多い家でヘッドフォンやスピーカーで聴いてもそんなの絶対分からないと思うんですよね。だから音の処理がアバウトになっちゃうと思うんです。例えば「ミックスしたら音が埋もれてしまった」というのも、ちゃんとしたモニター環境でないと同じ帯域の音がいっぱいあることに気付かないんですよね。どんどん音を重ねていくと余計な音だらけになって、本当に聴かせたい音が聴こえない。でもスタジオで聴くと余計な音が分かる。
——なるほど。
戸田:つまり、長年スタジオでそういう環境の下で仕事をしている人とそうでない人の音の聴き方が違うという事です。最近は自宅でミックスしているプロのエンジニアは多いです。ただ、そのエンジニアの人達はちゃんとスタジオでの経験があるからこそ、しっかりしたエンジニア耳が出来上がっているので、自宅でミックスしていても音の違いの予測がついているんです。まぁ、これは経験値でしかないんですけど。
今回のワークショップでは、音に聴き方でミックスはかなり変わる!という所も体験してもらえれば、と思っています。家でPCで作って完璧だと思っても、スタジオで聴くとココまで粗が目立つんだよ、こうやったらもっと良くなるんだよ、じゃあ家でやる時はこういう事に注意したらいいんだよ、みたいなことも教えられると思います。
——今のお話だけでも、きっとクリエイターは気付くことが沢山あるんじゃないかと思います。ワークショップだとさらに面白くなりそうですね。
戸田:ネットでレコーディングの様子を生中継したりもしてますけど、実際にスタジオには行くことが出来ないですからね。レコーディングの雰囲気は分かるかも知れないですけど、実際にスタジオに来て聴かないと、どういう音が良くてどういう音が悪いのか分からないと思います。
——「人に教える」というのは戸田さん的にはどんな感じですか。
戸田:「翼を授ける」というキャッチコピーにすごくグッときたんです。エンジニア業界も、後輩を育てるのがけっこう厳しくなっているという現状があります。特にアナログマルチとか、アナログ機材を使ったことのあるエンジニアも減っていますし、僕の後輩でも既にテープを触ったことのない世代になっていて、技術の伝達がほとんどできていないんですね。ドラムを録音した事がないエンジニアもいるくらい(笑)。
大それたことを言うつもりは全然なくて、おこがましいとは思うんですけど、アナログとデジタルの両方を知っていて、かつあまり年代が開いていない僕らぐらいの世代が何かしら伝えていった方が良いんじゃないかという気持ちが最近強くあって、その気持ちと「翼を授ける」というフレーズがシンクロしたという部分はありますね。
僕自身、実は、ハウス・エンジニア時代やフリーになりたての時は、自分のやり方を絶対人には教えたくなかったんですよ。ミックスの時なんかアシスタントでさえも後ろにいたら嫌だな〜みたいな感じでした。今思えば、別に大したことをしてるわけじゃないのに(笑)。
——鶴の恩返しみたいな(笑)。
戸田:本当にそうです。「出て行ってください」という勢いで(笑)。まぁ、それは言いすぎとしても、プラグインの設定とかも「見ないで」とか本気で思ってたくらいだったんです。ほんとにカッコわる過ぎですけど(苦笑)。
ですが、自分で会社を作って、仕事を色んな人と協力して行う「制作」の思考回路を経験してからは、意識の変化がありましたね。今は逆に技術を伝えていきたいという考えにシフトしました。
結局、僕と同じ方法・同じやり方でやっても、絶対に同じ音にはならないですからね。技術力やバランス感覚、センス、聴こえる音というのは人それぞれなので、同じ方法を見せても、教えても、全く同じにはならないわけですから。
僕自身、もちろん今でも「もっとこうならないかな」とか、色々と研究は続けています。エンジニアも今やクリエイターですから、昔の「音を録って並べて終わり」という時代では決してないと思います。エンジニアの底上げをしたいというか、エンジニアまわりが、もっと盛り上がってくれれば良いなと思っていますね。海外だとプロデューサーとエンジニアが対になっているので、レコーディングのときエンジニアの立場というのはすごく上だったりしますから。最終的には日本のエンジニアもアーティストと同様の扱いになれば素敵ですよね。
——スタジオまわりは、大きいところがクローズしたり予算が削られたりと、最近はあまり明るい話題が無いです。
戸田:まぁ、愚痴を言い合ってテンション下げるよりは、夢を語りたいですよね(笑)。
僕は将来的には70歳くらいになってもNEVEのコンソールを触ってエンジニアをやっていたい、と(笑)。いや、ホントに、生涯現役エンジニア的な感じで!
なので、じゃぁそれをするにはどうしたらいいか?を考えて行動しています。会社にした理由もその一つ。今は音楽業界のみならず全ての業界が不景気ですよね。「昔は〜良かったよ〜」「バブル時代は〜だったんだよ」「今の時代は〜」ってネガティブ・ヴォイスは良く聞きます。でも、僕が仕事をやり始めた時はすでに不景気真っ最中の暗黒時代。僕にとっては、この不景気とされる状況が社会人としてのデフォルトなんですよね(笑)。
——たしかに僕らの世代はバブルとか言われてもピンとこないです(笑)。
戸田:だから、あまり不景気だと言われても実感がないのが実際のトコロなんです。「昔からこんなもんでしょ」って(笑)。経済状況も音楽制作のやり方も今と昔では全く違いますし、この状況で昔の考え方で接していたら、それは愚痴大会になっちゃいますよね(苦笑)。
僕には最終的なビジョンがあって、それは会社名に隠されているんですが。。
——お伺いしても良いですか?
戸田:まぁ、それはそのビジョンが実現し、そして成功した時にまたココでお話するという事で(笑)。
——わかりました、その時はまたご登場お願いします(笑)。それでは最後に、ひと言お願いします。
戸田:今後、音楽ビジネスの概念が大きく変わっていくはず。もうすでに変わってきてますが。それに対応した音楽制作のやり方で進めていかないといけなくなる。ただ、音楽は絶対になくならないし、ほとんどの人が音楽を必要としている。だからこそ音楽を制作する事はなくならないし、なくしちゃいけない。その為には音楽を作るというレコーディング技術、手法、やり方、を次の世代に伝えていかないといけないと思うんですよ。「温故知新」という言葉がある通り、昔の技術はホントに素晴らしいです。
ワークショップを受講した人の中から、ビッグネームのクリエイターやエンジニアが生まれたら最高ですね(笑)。 あと、僕的にはその中からレコーディングスタジオのアシスタントエンジニアになってくれたりしたら更に嬉しいですね!最近はグッとくるアシスタントの人になかなか出会えないのです(笑)。
こういう試みは面白いので、是非コンスタントにやっていただきたいです。宅録で行き詰まっていたり、限界を感じている人、実際の現場を体験したい人に、是非受講していただきたいと思います。
レッドブル翼アカデミー MUSIC
講師 : 戸田清章 / SEIJI TODA
ワークショップタイトル : 「ベッドルームレコーディング」
日時:2013年6月22日(土)
場所:都内近郊のレコーディング・スタジオを予定
募集人数:10〜15名程度
応募締切:4月21日(日)
応募必須項目:自由記入欄への音楽編集ソフト経験、特に教えてもらいたいこと、音楽ジャンルを記入(Pro Tools ○年 / オルタナロックなど)
※参加費無料
※会場までの交通費はレッドブル翼アカデミーが負担。
※ミックスの教材は、ロックバンドに翼をさずけるプロジェクト、Red Bull Live on the Road 2012の優勝バンドCrack Banquetがプライズとしてレッドブルの持つアムステルダム・レコーディングスタジオで収録した曲音源を使用。
レッドブル翼アカデミー MUSIC
Red Bull Live on the Road 2013
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