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リスナー、ミュージシャン、制作者、立場を超えて自由に話をする場をつくる〜オープンカンファレンス「YOAKE」座談会 第2弾

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:荒川祐二氏、竹中直純氏、虎岩正樹氏
左から:荒川祐二氏、竹中直純氏、虎岩正樹氏

 「パネルディスカッション」+「ライブ」という新しい形で昨年11月に初開催され、好評を博したオープンカンファレンス「YOAKE」のVol.2が、5月28日に東京・渋谷クラブクアトロで開催される。
 第2回目となる今回は、Vol.1で大激論を交わした谷口元氏、荒川祐二氏、佐藤秀峰氏、ドミニク・チェン氏、虎岩正樹氏が再び登壇する「リスナーの自由、ミュージシャンの自由 Part2」、近年大きく変化しているストリーミングやフリーミアム事情も踏まえ「音楽の聴き方」はどのように変化するのかを対談形式で伝える「CD以降の音楽シーン」を、角張渉氏、Tomad氏、嶺脇育夫氏、飯田仁一郎氏によるパネルディスカッションとして実施。さらに南壽あさ子と高野寛のライブなど充実の内容となっている。
 同イベントの開催に合わせ、「YOAKE」座談会の第2弾を実施。当日ディスカッションに登壇する荒川祐二氏(株式会社ジャパン・ライツ・クリアランス 代表取締役)、虎岩正樹氏(残響塾 塾長)、さらに竹中直純氏(OTOTOY代表)、司会として永田純氏(「YOAKE」実行委員会、一般社団法人ミュージック・クリエイターズ・エージェント代表理事)の4者に現在の音楽シーンについて語っていただいた。

 

  1. 著作権を巡る様々な動き
  2. 理想的な著作権法とは?
  3. 日米の音楽シーンの違い
  4. なにが良い形かというのは、みんなで一緒に、オープンに探していく〜「YOAKE」開催の意義

 

著作権を巡る様々な動き

司会:本日はみなさんお忙しい中、ありがとうございます。昨年の11月に第1回を開催した「音楽シーンの現在を感じ、未来を考えるトーク&ライブ『YOAKE』」ですが、今回、5月28日にVOL.2 を開催することになりました。規模はいろいろあっても、ともかく続けようと。特にこの1〜2年は非常に大変な時期だからこそ続けるということです。今日は関わってくださるみなさんにお集りいただき、日々のお仕事の中で現在の音楽シーンをどう見ていらっしゃるか、自由に語っていただく座談会です。

今、音楽シーンでは非常に様々なことが起きている訳ですが、いろんな立場を超えてみんなで話をする場をつくるのがまず大事だし、それを公開してリスナーにもミュージシャン、作っていく側にもきちんと共有していく場をつくろうというのが「YOAKE」の一番の目的でもあるので、三者三様の立場のみなさんをお呼びして、ということですね。

虎岩さんに関しては音楽の愛は非常に強く、アメリカやヨーロッパでの経験がありながら、日本の音楽業界には全く関与していない(笑)。だけど素晴らしい視点をお持ちです。僕は虎岩さんみたいな人がもっともっと口を開いていくべきだと思っています。かたや荒川さんは業界のど真ん中にいながら一番先を見据えていて、具体的なビジョンもお持ちです。もちろん、ちゃんと音楽好きでいらっしゃる。竹中さんに関しては、ドカンとど真ん中にはいらっしゃいませんけど、やはり非常に音楽愛があり、独自のサイトを続けられている。そういう三者三様の方に今日は来ていただいています。

竹中:そういう説明を聞くと、2000年にやってたMAA(註:メディア・アーティスト・アソシエーション)が非常に先見の明があったなと思います。

司会:MAAのこと、説明していただいてもいいですか?

竹中:仲介業務法が変わる前だったので、その仲介業務法が「民間の参入を許す」ように変わるときに、どうなるんだってことを考えたり、実際に変えてしまおうという組織でした。通産省と文化庁両方に働きかけて。こういう風に法案を変えたらいいんじゃないかということを、アーティストから提案する。だからみんなで勉強して、理想的な著作権法はどういうものなのかということを、一通り語れるようになりましょうっていう勉強会だったんですよ。その当時僕は事務局手伝いと、まだ普及していなかったmp3とか配信ってどういうこと? とか技術方面のことをやっていました。それが13年前です。だから、この「YOAKE」は、13年かかって夜中から夜明けになった感じなんですかね。MAAの最大の目的は音楽著作権の管理団体の民間参入を実現させるということだったんですけど、それを達したらすごく綺麗に解散した。

司会:なるほど。それで仲介業務法がなくなったということですよね。

荒川:もうちょっと補足すると、MAAのきっかけは坂本龍一さんです。朝日新聞の「論壇」という投稿欄があって、98年の3月に教授がそこに向けて書いた原稿がきっかけになったんですよね。ちなみに今も私のデスクの横に、その当時の新聞が切り抜いて飾ってあります。

竹中:座右の銘ですね。

荒川:その記事の中には「JASRACっていうのは村に一軒だけの定食しかないレストラン。僕はもっとアラカルトも食べたい。一元管理の下では、新しい利用形態への対応や使用料の改訂が十分に行われず、利用者からのサービス付加の要求に柔軟に対応できていない。何故著作権管理においては全く自由に競争や工夫が行われていないんだろう」と書かれている。それが98年の11月だったんですよね。99年になってMAA勉強会。そして同じ頃にMP3が大きく全面に出てきた。

虎岩:メタリカが一般ユーザーを訴えたのが、確か99年だった気がします。

荒川:そういう中で活動してきて、2000年に法律が改正されて、私の会社のJRC(ジャパン・ライツ・クリアランス)が立ち上げることになる。MAAの傍ら、音楽制作プロダクション、マネージメントオフィスの社長十数人と集まって毎月勉強会をやっていた中で、デジタルの領域においては著作権のことであったり、プロデューサーという立場やマネジメントとしてもっと自由にいろんな発想が生かせる管理も必要だなという話になって、「よし、じゃあやるか」と作られた会社です。ですから教授の投稿、MAAという流れの中に僕はずっといるんだな、と。

司会:MAAから13年たって、普通のリスナーとかミュージシャンレベルでは、なんとなく分からないままにJASRACを悪者にして話を終わらせているところからなかなか広がっていないのが現状だと思います。そういう気配を僕は感じていますが、虎岩さんはそのへんをどう見ていますか。

虎岩:なんで「YOAKE」が13年後に必要なのかは、僕もとても興味を持っています。当時僕はアメリカにいたんですけど、アメリカでリアルタイムで経験してたことって、ものを発してる人間とそれを受け取りたいと思っている人間たちが直接つながれるようになったということ。だから、流通業が変わらなきゃいけないということだったんです。結局、今までの流通ではものが売れない。本当に変わっていかないと潰れてしまうから、本当の競争が起こったんです。その時に、既存の音楽の教育システムでは当然ミュージシャンは食っていけない、そこの部分を理解していかないと生きていけない。そう考えて、「インディペンデント・アーティスト・プログラム」というのを、西海岸の音楽大学(MI)で立ち上げたんです。それまでのように楽器が弾ければよかったとか、曲がかければよかったではなくて、自分でWEBサイトも作れなきゃいけないし、自分で全てを管理するっていうことがコンセプトとして当たり前になるというのが僕の意見だった。当時、学校には大反対されましたけど(笑)。

司会:それは2000年ごろですか?

虎岩:そうです。僕は、2006年まで向こうで学部長をやってたんですけど。「インディペンデント・アーティスト・プログラム」は今、どこの学校でも全米で一番伸びているプログラムです。僕自身もミュージシャンでもある訳ですけど、「著作権って本当に必要なんですか?」みたいなところからスタートしたいんですよ。表面的なやり方をどう変えようが、根本的なコンセプトは、ミュージシャンの創作物をお預かりして管理するところで飯を食いましょうっていうことじゃないですか。面白いのは、南米とかアフリカとか、もともと著作権がなかった国が始めている新しいエンタテインメント・ビジネスって、著作権っていうコンセプトすら出てこないんですよ。

竹中:ブラジルのバイレファンキとかですよね。ガンガン配っちゃって、みたいな。

虎岩:そうです。だからブラジルのプロデューサーっていうのは、しょっぱなから盗んでいるというのもありますよ。例えばアメリカで売れてる音楽を、盗んできてリミックスをする。それで、露店で100曲100円とかで売ってるMP3として配っちゃう。タダ同然で大量に売って、レイヴパーティを主宰するとわっと人が集まってくる。そういうビジネスモデルで、みんなWIN WINなんですよね。お客さんも楽しいし、露店主も儲かる。そういう仕組みが、サラの状態では当たり前になっているんです。アメリカがシステムを変えざるを得なかったのは、それに気づいたグレーゾーンの時期……メタリカなんかが訴えた時期です。オーディエンス側とプレイヤーが勝手ににつながりだして、「この法律じゃもうやっていけない」という切実感があって、変わっていったわけです。

 

理想的な著作権法とは?

「YOAKE」座談会 第二弾

虎岩:そういう中で、アーティスト側には著作権を無視したい権利っていうのもあると思うんです。

竹中:でも実際には、放棄する権利はないんですよね。

虎岩:一番の問題は、お金のやりとりよりそこだと思っています。さっきのブラジルの例でいえば、放棄しているからこそ食えてるいう人もいるわけです。今アメリカではフラッシュモブであったり、口パクで歌ってみたりだというものがYouTubeに溢れかえっていますけど、それが日本ではやりづらい。訴えられるのが怖くて、邦楽を使えないんです。アメリカの法律も日本の法律も、実際は大して変わらないと思うんですけど、自由な使用を抑制する空気があるわけじゃないですか?

竹中:そうですよね。

虎岩:それで、どうやって音楽が広がっていくんだろうなって。今の子たちはみんな普通にYouTubeで音楽を電車の中で聴いているし、それを考えたら僕らはもっと根本的な部分で考え直さないと若い人に信用してもらえないんですよ(笑)。

荒川:JRCは権利のことをやりながらも、アーティスト・マネジメントが近くにあるので、彼らがもっと音楽制作に集中出来る環境をつくりたいと思っています。例えば権利のことって、めんどくさいと思う人が多いですよね。めんどくさいけど、JASRACしかなかったからポンと投げていた。それで、文句だけ言っていたわけです。だけど今はそうじゃなくて、違う選択肢もある。だから、よりめんどくさくなってるんですよ。

竹中:選ばなくちゃならないからね。

荒川:でも、「JRCに任せといたら多分ちゃんとやっておいてくれるから、その分ほかのことをやろう」となるのが理想ですね。例えば配信サイトのことだったり、音楽出版社の契約や計算のこと、めんどくさいことがあったらとりあえずJRCに相談してみようという存在になることを目指してきたんです。それで思うのは、虎岩さんみたいに「そもそも著作権ってどうなのよ」っておっしゃる方もいるし、「これがあるからミュージシャンやってるんだ」っていう方もいる。だから、どっちが正しいとかではない。僕がずっと嫌だなと思ってたのは、チョイスができないことなんですよ。そういう意味でJRCは選択肢を少し提示することができたし、他のところではもっといろいろな選択肢があってしかるべきだと思います。だから、法律レイヤーでも選択肢があっていいんじゃないですか? 著作権の存続期間は、いまは50年か70年になっていますが、最初からパブリック・ドメイン(PD)にしたい人もいるでしょう。今は選択肢がないということが不幸なわけで、せめて「死後70年」、もしくは「俺が死んだときはPDにする」、または「最初から著作権は行使しない」、そういう選択肢がもっと柔軟につくれるような環境が必要なのかもしれない。

虎岩:それを開示しないといけないですよね。その情報自体が、パブリック・ドメインになるかどうかのことだと思うんですよ。

竹中:アルバムで稼ぎたいから3年間はお金もらうけど、その先はいいですとか。そういうガイドラインがいくつかできて、選べるようになればいいと思うんです。その上で、3年後に使っていいのかどうかを開示しないといけない。これは、食品の産地とか賞味期限と同じですよ。CDリリースや配信をするときに、それがちゃんと書いてあるかどうかが大事になってくる。そういうことが判断できるようになる教育も、同時に必要だと思いますね。

虎岩:今のデジタルネイティブの子達は、そこに転がっているものを自分流にアレンジして世の中に出すことに関しては、当然のこととして考えています。ヤフーのニュースとかだったら「ブログに貼ってください」とかいいね!ボタンがあって、音楽では絶対だめだと言われていることが、他のメディアになったとたんに奨励されている。音楽業界は、自分で自分の首を絞めてると思うんです。僕らが今やらなきゃいけないことって、遊びとしてものを開示していくことのはずなんですよね。

 

日米の音楽シーンの違い

「YOAKE」座談会 第二弾

竹中:欧米では、みんなチャンスを取りに行きますよね。やれることは、やっちゃうというか。ひとつ例を出すと、去年の11月くらいに007「Skyfall」の主題歌がAdeleの新譜として録り下ろされて出たんですけど、2013年明けに正式に発売されるまでは、絶対にSpotifyとかYouTubeとかに出すことを許さなかったっぽいんですよ。そうしたら、あまりにも良い曲なので、外国のプロの歌手が普通にコピーして歌ってアップロードしてるんです。それが何十万再生とかされて、「Adeleじゃないけどいいよね」ってレビューがついてる。しかも、歌った人はそれなりに有名になっている。禁じられているなら歌っちゃえばいいよねっていうハングリーな精神が使えることが、日本では起こりにくい。

虎岩:だって怖いですもん。逆に言うと、それって意図的にやってたかもしれないですよね。コピーしてくれる人を増やすっていうことで。

竹中:確かに、そういう戦略だったのかもしれない。

虎岩:レディ・ガガとかも、「この子良いよ」って無名なアーティストのことかをtwitterでつぶやいてみたりとかしているんですね。それでその子はオーバーナイトでスターになっちゃう、みたいなことがある。彼女がレディ・ガガのファンだったかどうかはどうでもよくて。下をちゃんと増やしていくことによって、業界が潤っていくということを上の人間が理解しているということだと思います。自分が食えればいいやじゃなくて、自分がその立場にいるからこそ、拾えるものは拾う。特にメジャーの役割って、そこだと思うんですけどね。日本にもそれをやろうと思っている人はいっぱいいますが、まだまだ社会的影響力がないんですよ。一発で名前が分かるようなアーティストさんがそれをやったら、瞬間的に流れが変わると思うんですけどね。

竹中:なぜ日本では起こりにくいんですかね。荒川さんは分かってる人だと思うんですけど、JASRACの理事長がそれをやるとは言いませんよね。構造的な問題なんですかね。

虎岩:JASRACのせいでもないと思っていて、本来それを決めるのはアーティストだったり、原盤権を持っているところなんじゃないかな、と。

荒川:そういう観点でいくと、もしかしたら日米を比較したときに一番違うのが、メジャーとインディーズっていうものの明確な線が見えないことなのかもしれませんよね。特に海外から見て、これは顕著です。

虎岩:それはビジネス的にですか?  アーティスティックな部分でですか?

荒川:今だったら、ソニーとワーナーとユニバーサルの3つをメジャーと呼びますよね。でも日本で「メジャーデビュー」っていうと、20数社あるんですよ。だから規模感っていうよりも、日本における見えづらさみたいなところなんだと思います。アメリカであれば明らかに、インディアーティストとしてバスに乗ってツアーしてというクラスのミュージシャンも、日本ではメジャーデビューして、マネージャーがついて、グリーン車に乗って移動している、とか。必ずしもハングリーだから良いわけではないですが、そこらへんの意識の違いで、突出しようという動きが抑制されるっていうのはあるような気がするんですよね。

竹中:巻き取られる感はありますね。相対性理論がずっとみらいレコーズだったのが、EMIで契約して、アーティスト自身はみらいレコーズで新譜は出し続けるし、EMIでももちろん出す、みたいな分かりづらいことがよく起きる。そうした方が得とか、プロモーション上有利ということはあると思うんですけどね。

虎岩:実は、今の業界の状態よりも、キャリアとしてアーティストを目指すっていう人の減少の方が怖いと思っています。今の中学生や高校生で、「俺は絶対武道館を埋めるロックスターになるんだ!」って思っている人たちは、やっぱりものすごい勢いで減っていますよ。日本ではそもそも、夢とそれに対しての現実的な道筋みたいなものが何もつながらないわけですけど……。でも、アメリカ人の学生ってものすごいリアルに考えているんです。ロックスターになりたいって思ってる子に、「何で? 」って聞いたら、「おじさんが週末はずっとボックスでギター弾いてた」とか、ものすごいリアルなところでロールモデルみたいなのがいて、どうやったら音楽で収入を得られるかが目の前にある環境なんですね。だとしたら、今は日本も第二世代がいっぱい出てきてるから違いますけど、仕組みそのものを一極化して、アーティストに言うことも、お客さんに言うことも業界で話すことも全部一緒、っていう状態が必要だと思います。少なくともそのストーリーラインが僕らでシェアできていないと、特に今の時代はバレちゃいますから。

 

なにが良い形かというのは、みんなで一緒に、オープンに探していく〜「YOAKE」開催の意義

荒川:話は変わりますが、先日オースティンで開催されたSXSWに行ってきたんですけど、そこで語られている今年のホットなキーワードをひとつ挙げるとしたら、「バンドDIY」「アーティストDIY」なんですよ。要はアーティストが全てのことを「Do It Yourself」するという……。でも、本当に曲を作り詩を書く才能があって演奏能力もあって、権利のことも分かって、配信などの技術的な最新事情が分かって、契約の時に何をNOって言えば自分にとって得なのか分かって、さらにSNSとの付き合い方が分かって……というマルチなミュージシャンって、いったいどれだけいるんだろうと思ったんですね。DIYという考え方は否定しないけれど、大きな果実を得られるのだろうか?  例えばDIYでは、レインボーブリッジをかけられないんです。田舎であれば、あぜ道であるところに丸太を切ってきて、橋はかけられるけど、その延長ではレインボーブリッジは造れないと思うんですね。

虎岩:全部同感なんですけど、最後のとこだけ違うかな(笑)。僕はレインボーブリッジも、丸太の橋の延長にあると思うんです。「インディペンデント・アーティスト・プログラム」でやったことって、たった6か月の短いプログラムだったんですけど、まさに丸太の橋を作ってみようっていうことでした。みんなひとりとかバンド単位ですから、当然ながら丸太の橋しかできないんです。だけど丸太の橋を1回作った人は、「これをでかくすればこうなるんだな」って見方が変わるんですよ。レインボーブリッジを見た時に、「不可能じゃねえな」、って思えるというか。勿論同時に、「これは絶対にひとりじゃできない」とも思えるんです。だから、日本で丸太の橋をかけることができるアーティストをもっと増やさないといけないと考えています。

司会:自分の足で立つことができるし、その上で人に任せることもできる。

虎岩:そうなんです。だから橋のかけ方を教えてあげるのが、僕らの仕事なんだと思います。それにインディペンデント・アーティストではレインボーブリッジはできないからこそ、ちっちゃい橋をいっぱい増やしたら面白くなるんじゃないかな、と(笑)。

竹中:レインボーブリッジの作り方そのものも昔とは変わっていて、かつては音楽番組にCMを打つとか、番組スポンサーになるとか、それで済んだわけですけど、今はそれがないんですよね。twitterとかFacebookでこまめにやらなくちゃいけなくて、それでうまくいけばレインボーブリッジになるかもしれない。

虎岩:皮肉なことに、そのやり方はインディーもメジャーも同じ時代なわけじゃないですか?

竹中:レインボーブリッジのかけ方の根本的な部分での構造が変わってしまったので、同じことをやらなくちゃいけない、ということになったわけですね。レディ・ガガの例でもあったように、ちょっとずつ出来つつあるんですけど、まだ誰も成功体験をしたことない世界なのかもしれません。

虎岩:この間、アマンダ・パーマーがKickStarterで1億円集めましたよね。これは、アーティストとしてマイルストーンだったと思うんです。自分のこれからのツアーの資金を、事前に集めちゃう。しかもそれが、ファンベースでできるっていうのは素晴らしい。

竹中:あれは最高のプレッジだと何ができるんですか?

虎岩:家でコンサートをしてくれるとか、そんなノリだと思いますよ。彼女は、それをずっとやってるんですよ。KickStarterの前から「イタリアに行くんだけど、空港から会場までのっけてくれる人募集」とかtwitterで言ってみたりして。乗せてくれるたらチケットあげるとか、泊めてくれたらチケットあげるとか、そういう感じですね。ひとつひとつの行為がファンと密接にかかわるという意味では、それを脅威に思うメジャーアーティストもいるでしょうし、孤高であることが価値となるという考え方もあり得る。

竹中:当然ながら音楽はなくならないに決まってるんですけど、今の法制度が合わなくなってきているんですよね。今後は、どういう方向に進むのが良い形なのか。虎岩さんはどう思われます?

虎岩:僕は、絶対メジャーの復権だと思っているんですよ。社会現象にならなきゃいけないんだけど、それは既存の形ではできない。だけどコミットメントを見せることはできる。それは、「これをやめます」っていうコミットメントですよね。やめないと新しいことができないんで、それが一番大きなことだと思っていますね。

荒川:今のメジャーの復権というのは、メジャーレコードメーカーということですか?

虎岩:もっとざっくりした意味で捉えています。つまり、レインボーブリッジの復権です。あるいはごくごく普通に音楽をやっている中学生にとってのメジャー、という意味です。高校の先輩の兄ちゃんではなくてね。それができなければいけないのは、絶対だと思いますね。

竹中:話を聞いていて思い出したんですけど、PerfumeはいまだにiTunes Storeにも出てこないし、ガチガチに守られています。でも、一曲まるごと体の動きをモーションキャプチャーしたものは、タダで誰でも使える状態になっていたりする。だから、音楽以外のものを出来るだけオープンにするとか、ダンスムービーとかニコニコ動画とかYouTubeで勝手に作ってくれるようにするところにこそ、今後のアーティストのあり方があるんだろうというのは分かっているはずなんです。

虎岩:やっぱり、変えることができるのはメジャーのアーティストだと思います。まだまだ体力のあるうちに新しいエクスペリメントができるのも、社会的な現象を起こすのもメジャーの役割だし、発信の絶対的な威力を持っているのもメジャーですからね。そのためにも、こうやって違う人たちが集まって違うことを言うということがまず第一歩だと思います。まとまらないっていうのが音楽の強さだとしたら、それをどのレイヤーでも見せなければならない。

竹中:音楽のことを話そうと思ったら、まとまらないっていう。

虎岩:そうそう。

司会:まとまってもまとまらなくても、なにが良い形かというのは、みんなで一緒に、オープンに探していくしかないのでしょうね。「YOAKE」は、そんな場のひとつとして、様々な立場の方に集まっていただいて、とにかくまず話す。人の話を聞く。そして、もちろん素晴らしい音楽も一緒に聴く。そんな場として続けていければ、と考えています。竹中さんは以前から決まっていた海外出張のご予定があり、残念ながら当日はご出席いただけませんが、荒川さんと虎岩さんには、Avex Music Pablishing の谷口元さんやクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのドミニク・チェンさん、佐藤秀峰さんと共にパネルディスカッション1にご参加いただきます。パネルの2 でも、タワーレコードの嶺脇育夫社長を始め、学生時代にネットレーベルを始めたTomad さんや、絶好調の角張渉さんにお集りいただきます。非常に楽しみにしています。本日はありがとうございました。


「YOAKE Vol.2」フライヤー

音楽シーンの現在を感じ、未来を考えるトーク&ライブ
YOAKE Vol.2

日時:5月28日(火) 18:30 開場/ 19:00 開演
会場:東京・渋谷クラブクアトロ
チケット: 2,500円(予約)、1,500円(学割)、3,000円(当日)[別途1ドリンク]
        e+ http://eplus.jp
        Tixee https://tixee.tv/event/detail/eventId/1198
        OTOTOY info@ototoy.jp

■タイムテーブル
<19:00-20:20/ パネルディスカッション1>
「リスナーの自由、ミュージシャンの自由 Part2」
谷口元(進行/ エイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社 代表取締役社長)、荒川祐二(株式会社ジャパン・ライツ・クリアランス 代表取締役)、佐藤秀峰(漫画家)、ドミニク・チェン(NPO法人 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事)、虎岩正樹(残響塾 塾長)
<20:20-20:45/ ライブ1>
南壽あさ子
<20:45-22:00/ パネルディスカッション2>
「CD以降の音楽シーン」
飯田仁一郎(進行/ OTOTOY 編集長)、
角張渉(カクバリズム)、Tomad(Maltine Records)、嶺脇育夫(タワーレコード株式会社 代表取締役社長)

<22:00-22:30/ ライブ2>
高野寛

YOAKE 〜 Music Scene 2013〜 Official Site

主催:YOAKE 実行委員会(一般社団法人ミュージック・クリエイターズ・エージェント、OTOTOY、TOKYO BOOT UP!)
協賛:FizzKicks.com/ SpinApp
特別協賛:京都精華大学

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