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誰よりもチャレンジャーを「応援」したい — サイバーエージェント・クラウドファンディング「Makuake」中山亮太郎氏、坊垣佳奈氏 インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:坊垣佳奈氏、中山亮太郎氏
左から:坊垣佳奈氏、中山亮太郎氏

どんな活動をするにおいても「資金」が必要となります。古くヨーロッパでは、宮廷音楽家は王室や貴族から支援を受けながら音楽活動をしていました。現代においてインターネットが普及する以前、デヴィッド・ボウイが自身の活動にまつわる収入を担保に債券(ボウイ債)を発行、新しい資金調達法にチャレンジしたという事例もあります。

そしてネットやSNSが急速に発達・普及するに伴い、そのような資金調達が実用的なプラットフォーム「クラウドファンディング」として改めて定義されました。既に海外ではアーティストをはじめ様々なプロジェクトがクラウドファンディングで資金を調達し、ファンや支援者に価値のあるリターンをもたらすということが珍しくなくなってきています。

そこで今回は、IT企業として国内で指折りの存在感を示すサイバーエージェントが取り組むクラウドファンディングサービス「Makuake」に注目。サービス開始の経緯やその取り組み、日本におけるクラウドファンディングの展望、音楽との関わりなどをサイバーエージェント・クラウドファンディングの中山代表・坊垣取締役の両氏に伺いました。(取材・文・写真 Jiro Honda、Yuki Okita)

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  1. とにかく真摯に向き合うというのは決めている
  2. 改めて「クラウドファンディング」とは?
  3. 価値をちゃんと感じていただける人に照準を合わせ、適切なリターンを提供する
  4. いかに「そういうものだから」感を世に広めるか
  5. もっとファンと一緒に何かを作っていくという文化を根付かせていきたい

 

とにかく真摯に向き合うというのは決めている

——サイバーエージェントでクラウドファンディング事業を立ち上げられたきっかけは?

中山:アメーバ事業が3000万人の規模になり、インターネットでの広告代理店部門での広告売上も日本一になったりと、会社全体が日本のインターネット業界でかなりプレゼンスのある規模になってきたんですね。そういう中で、チャリティーや寄附だけではなく、もっと社会的に貢献できる事業ができないかと考えていた時に、ちょうど「クラウドファンディング」というキーワードをよく聞くようになってきたので、このタイミングで参入することで大きな価値を生み出せるのではないかということで、立ち上げました。

——構想はいつ頃からされていたんですか?

中山:3〜4年前くらいからですね。事業プランコンテストなどでは既にアイデアとして出てはいたのですが、その時はfacebookも浸透していなくて、まだ時期尚早な感じがありました。ですが、今年(※取材時は2013年末)に入ってクラウドファンディングという言葉がかなり一般的になり始めたので今かなと。

——法人としての設立は?

中山:2013年の5月1日で、サービス自体は同じ年の8月7日にスタートしました。

——サイトのオープンと同時にサービスがスタートになりますか?

坊垣:そうなりますね。我々のサイト「Makuake」のオープンが8月7日ですので。

——「Makuake」(マクアケ)というサービス名にされた理由は?

中山:新しい何かを応援する気持ちが集まる場にしたいなということと、何かの「幕開け」を応援していきたいという想いを込めて「Makuake」という名前になりました。実は700〜800ぐらい案がありまして(笑)、その中から決まったという。

坊垣:インパクトもありますし、日本語なので覚えていただきやすいと思います。覚えやすいというのは、ユーザーサービスとして重要ですからね。

——「Makuake」の柱となるコンセプトやミッションというのは?

中山:「応援」というキーワードをすごく大事にしています。誰よりもチャレンジャーを応援したい。「そんなのうまくいくはずがない」「よく分からない」とそっぽを向かれているような案件でも、その本人にすごく熱い気持ちがあるのであれば、決してそれを笑わないというか。とにかく真摯に向き合うというのは決めていますね。

サイバーエージェント・クラウドファンディングMakuaketopページ

Makuake トップページ

 

改めて「クラウドファンディング」とは?

——ここで改めて、一般的に「クラウドファンディング」というサービスについてご説明いただけますか?

中山:何か新しいことを始める、作る、チャレンジするという時は、必ず資金が必要になります。そのためのインフラとして銀行やベンチャーキャピタル、投資会社がありますが、それらの融資対象に当てはまらないことが実はすごくたくさんあるんですね。

ソーシャルメディアが普及してきた現在、色んな人に自分の想いを伝えることができるようになりました。「社会に対する議決権としてのお金の使い方」という意味で賛同者にはお金という形で応援していただいて、最終的に大きな金額を集めプロジェクトを進めていく、というサービスのインフラがクラウドファンディングですね。

——話によると現在、海外では5000億円ほどの市場規模があるそうですが、国内の状況は?

中山:2013年の終わり時点で100億円前後くらいだと推測しています。世界的に見ても日本はまだ極めて小さいですね。一番大きい市場はアメリカで、スキーム的にはイギリスが一番進んでいます。

——シェアの文化やパトロンの歴史なども影響していますよね。

中山:そうですね。寄付金に対しての税制の優遇もイギリスは進んでいると感じます。

——事業者としての利益はどこで発生するんですか?

中山:集まったお金の一部を頂くという形ですが、集まらなければ一円ももらえませんので僕らも一生懸命一緒になってプロジェクトが成功するように取り組みます。

——クラウドファンディングには「寄付型」や「購入型」、「貸付型」、「投資型」などの形ありますが、中でも投資型は第2種金融商品取引業の登録が必要だそうですね。

中山:例えばCDを出すのに500万円必要だとして、一口1万円でその口数に応じて出た利益を配分する、という案件を扱うには第2種金融商品取引業の登録が必要です。

——日本ではそこのハードルが高くて寄附型と購入型が多いそうですが。

中山:Yahoo!さんに売却してしまいましたが、以前弊社ではFX事業もやっていて、そのときに第2種免許を持っていたので、僕らも投資型をやろうと思えばやれるんです。ですが、実際自分たちでも使ってみてお金を出す側の分かりづらさみたいなのがすごくあったんですね。なのでクラウドファンディングを一般化させていくためには、購入型のようなライトなやり方のほうが分かりやすいかなと考えています。

——確かにユーザー目線で見ると、投資型はやっぱり「儲ける」的な要素がかなり前面に出てくる気がします。

中山:そうですし、本当に音楽が好きで、応援したい・共感する層というのは、いわゆる本気の投資ユーザーとはちょっと違うんじゃないかなと思いますね。

坊垣:女性目線で考えても、投資となると「ちょっとハードルが高いなぁ」みたいなところもありますよね。クラウドファンディングを一般化していくという意味でも、まずは購入型で、何かモノとしてリターンがあるというのはすごく分かりやすいですし、手軽にチャレンジできるかなと思います。

——海外の状況を見ても、やはり購入型や寄付型というのは音楽とすごく良くマッチすると思います。Makuakeは音楽に特化しているということではないですよね。

中山:そうですね。色々な分野のプロジェクトを手がけています。

——そういう中で、他のサービス/プラットフォームとどういう部分で差別化を図っていますか?

中山:やはり一番の強みはアメーバブログですよね。そこにいらっしゃる顧客に対して楽しいものを提供するというのが一番インパクトが出るかなと思っているので、今のところ分野としては大きく「音楽」、「映画」、「スポーツ」、「演劇」の4ジャンルに絞っています。これら各ジャンルにおけるいわゆるスーパー著名人の方々にかなり高い割合でアメーバブログを使っていただいていますしね。

——確かにそこは強みですね。

坊垣:そういうメリットが生かせますし、スタートしてある程度動いてみると、それらのジャンルにはそれなりにニーズが存在しているということが分かったんです。

 

価値をちゃんと感じていただける人に照準を合わせ、適切なリターンを提供する

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▲中山代表

——プロジェクトの実行者側がプラットフォームを選ぶ基準はどういう部分だと考えていますか?

中山:やはり自分達のやりたいことにおいて「資金が集まるイメージ」の湧くプラットフォームが選ばれているようです。

坊垣:掲載されている案件を見て「ここであればいけるかな」という部分で判断されているように感じます。

中山:あとはPR効果や拡散効果が高いかどうかという要素もあると思います。資金の調達と同時にプロモーションとしてクラウドファンディングを利用するというケースも今はすごく多いですね。

——今はプロジェクトの資金をクラウドファンディングで調達しようとすること自体がニュースになりやすいですよね。

中山:そういう部分で、私たちはPC・スマホ問わずアメーバ会員へ情報を届けることも可能ですし、アメーバニュースというニュース媒体も持っているので、情報を広く拡散させることができるという魅力はあるのかなと。

——御社の場合は横断的なメディア展開も可能ですね。プロジェクト採用には審査があったりしますか?

坊垣:あります。

中山:プロジェクト審査委員会というものがありまして、そこで審査します。

——その基準というのは?

中山:まずは試みようとするプロジェクトをきちんと実行できる状態にあるか、メンバーが揃っているか、というところを重要視します。例えば「ロボットを作りたい」と言ったのに、エンジニアがいないとか、「何か新しいライブを開きたい」のに、アーティストからOKが出ていないとかだと難しいですよね(笑)。

——そもそものところですね(笑)。面白くて途方もないチャレンジだとしても、基本の裏付けはあってほしいと。

坊垣:あとプロジェクトが成功した場合に用意する予定のリターンを伺ったりもします。それが魅力的であるかどうか、リターンするのに値するものかどうかですね。コンサル的に関わらせていただいて、プロジェクトのテキストの見せ方も含めてお話します。

——クラウドファンディングの色々な事例を見ていると、同じコンセプトのプロジェクトでもネットでの見せ方によって調達額がまったく違うようですね。見せ方においてはどういうアドバイスをされていますか?

中山:「誰がこれにお金を出したくなるのか」というのは徹底的に議論をします。例えば「これは女性にウケるので、F1層の女性をターゲットにしよう」と大まかにすると、マスマーケティングと一緒で結局大量の広告を打たなければならなくなる。なので、そうではなく勇気を持ってターゲットを狭めることですね。

ロボットのプロジェクトを以前手がけたのですが、ターゲットをエンジニアでかつ子供がいる人に絞りました。エンジニアだと仕事のカッコづけどころでなかなか子供にアピールが難しいじゃないですか。でも「パパ何やっているの?」と聞かれたときに「技術を使ってロボットを作っているんだよ」とロボットを見せながら子供に言えたら、絶対格好いいだろうと(笑)。

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▲坊垣(ぼうがき)取締役

坊垣:見た目も可愛らしくて子供受けするロボットだったので、子供に買ってあげて、自分もプログラミングできたら一緒に楽しめるみたいなイメージにしたら、おかげさまで成功しました。

——切り口一つで全然変わってくると。

中山:最初は照準を探して、次はそこに向けて「何が刺さるか」を考えてリターンの設計をしていきます。「こんなのに5,000円も出さないよ」と考える人にではなく、その価値をちゃんと感じていただける人に照準を合わせ、そして適切なリターンを提供する。そういうコンサルを一生懸命やっているところです。

——実際プロジェクトの採用確率はどれくらいですか?

中山:今は3割くらいですかね。あと2割は「もう少しこうしたらよく見えるので調整できないですか?」というような相談中のプロジェクトもあったりします。

坊垣:見せ方やリターンの内容次第で実現性が高くなる案件もありますからね。

——資金が集まりやすいカテゴリーや分野というのはありますか?

中山:カテゴリーには依らないですね。どちらかというと関わるメンバーが多いプロジェクトや元々ファンがいるというプロジェクトは、やはり集まりやすいですね。ちなみに海外ですと音楽は集まりやすいです。

——日本ではどうですか?

中山:まだ音楽の分野では全然クラウドファンディングが根付いていないですね。まさにこれからだと思います。

坊垣:他社さんを含めても、日本では音楽で大きな金額が集まるプロジェクトはまだ生まれていませんね。

 

いかに「そういうものだから」感を世に広めるか

——日本で音楽の分野においてクラウドファンディングが根付くには、どんな道筋があるとお考えですか?

中山:アーティストやミュージシャンのみなさんには、勇気を持って使って欲しいなというところがあって。ファンの方々にはクラウドファンディングのようなものを通して応援したいというニーズがすごくあるんですよね。自分が応援しているミュージシャンに対して、その制作活動に何かしら関わりたいというニーズはものすごく強い。

なので、アーティストさんにはいい意味でファンと一緒に作っていくというスタンスで、制作・創作活動のクオリティアップやミュージックビデオ制作、遠方でのライブ、グッズ制作等においてクラウドファンディングを活用していただきたいですね。

坊垣:やはり前例が少ないので、二の足を踏んでいるところはあると思います。ですから、ビッグネームのアーティストさんの事例が出てくればいいなと思っています。

——枠組みだけで考えれば、例えばアイドルの握手券とかも既にクラウドファンディング的ですよね。CDを買って応援して、リターンは握手でという。

中山:恐らくまだクラウドファンディングというのは世の中にあって当たり前の「そういうものだから」という存在になっていないんですよね。アメーバブログの時もそうだったんですけど、10年前はスーパースターが自分の毎日の生活をさらけ出すというのは全く考えられなかったことじゃないですか。でも、今やそれが「そういうものだから」ということで、みなさん普通にやられていますよね。なのでクラウドファンディングにおいても、どうやって「そういうものだから」感のあるものにしていくかだと思うんです。

——「そういうものだから」化が必要だと。

中山:ブログにおいても、ブログがあるからこそファンがついてきてくれるということに繋がっていますし、ブログをやっていることがアーティストの活動にも明らかにプラスになっているという状況があります。

クラウドファンディングもブログと同じように、アーティストの活動にプラスになるインフラとなるのは分かっているので、いち早く僕らのようなプラットフォームが頑張って「そういうものだから」感を世に広めないといけない。そして、そういう中でご賛同いただけるアーティストや事務所、プロダクションと共に新しい文化を作っていきたいですね。

——国内のクラウドファンディングサービスの事業者同士で、そういう文化を共に広げていこうという動きはありますか?

中山:ありますね。集まって、トラブルがあった際のケアについてや政府の動向の情報なども共有したりしています。

——「そういうものだから」感がまだまだというのは、ストリーミングで音楽を聴くスタイルが国内で根付かないことと通じるところがあるような気がします。日本でSpotifyのようなサービスを普遍化させる進捗状況と、クラウドファンディングのそれは、今のところ似たような経緯を辿っているのかなと。

坊垣:たしかにそうですね。

中山:やはり僕ら事業者だけでは難しいので、音楽業界のみなさんとタッグを組みながら取り組んで行きたいですね。

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もっとファンと一緒に何かを作っていくという文化を根付かせていきたい

——音楽まわりだと、現在はaudioleaf寺岡呼人さんと提携されていますよね。

中山:audioleafさんとは元々知り合いなんですけど、この事業をやるにあたって「何か一緒にできないですかね」ということで、彼らがインディーズにフォーカスしている部分が僕らのコンセプトにバッチリ当てはまるということもあって、一緒に夢をもったミュージシャン達を応援していきたいなと。

——寺岡さんとはどういう経緯だったのですか。

中山:たまたまお知り合いになる機会がありまして、その時に色々お話を伺ったら「実は以前から注目していたんです」と言っていただきまして。それで、その数日後にはもうちゃんとした形で話し合いをさせていただいたという。

坊垣:こういう新しい動きにまだためらいがある雰囲気の中、寺岡さんご自身から積極的に「やりましょう」とお話をくださって、本当にスピード感と先見性をお持ちだなと感じます。

中山:ゴールデンサークルもただのフェスではなく親子三世代という素晴らしいコンセプトで実施されていますし、プロデュース等様々な活動で実績を残しているにもかかわらず、どんどん新しいチャレンジを行っているところに本当に共感していますね。

——他に音楽との関わりでは、今後どういった部分を応援していきたいですか。

中山:CDに代わる新たなサービスの立ち上げだったり、もちろんCDのリリースということでも、とにかく何でもチャレンジする人・プロジェクトに対して全面的に協力をしていきたいです。

坊垣:各所でお話をさせていただくと、需要があるというのは実感していますしね。

中山:もっともっとファンと一緒に何かを作っていくという文化を根付かせていきたいなと思っています。そこにおいては、「ツール」としてクラウドファンディングが最適だと思うので、ファンと共に新しいチャレンジをするときは、ぜひ音楽業界のみなさんとご一緒させていただければと思います。