Windowsをプラットフォームとした音楽配信サービスの戦略とは — 「Xbox Music」日本マイクロソフト 井上正之氏 インタビュー
世界でも次々と新しいプレイヤーが登場している音楽配信市場において、国内でもまた新たなサービスがスタートした。ゲーム機でおなじみのXboxがそのエンターテイメント領域の拡大に伴い展開しているのが「Xbox Music」。
特徴的なのは、昨年提供開始となったOS Windows8.1に標準搭載されているサービスであるということ。タブレットをはじめ多様化するデバイスの状況を鑑みると、確たるマーケットシェアを誇るMicrosoftがこれから音楽サービスにおいてどのような動きを見せるのか、非常に気になるところだ。サービスを担当する日本マイクロソフト インタラクティブ・エンターテイメント・ビジネス Xboxプロダクトマーケティンググループ シニアマネージャー井上正之氏に話を伺った。
(取材・文・写真 Jiro Honda、Yuki Okita)
- Windowsならではの体験を通じ、もっと深く音楽の世界を楽しんでもらう
- Windows8.1ユーザー = Xbox Musicユーザーという強み
- キーワードは「Windowsなら音楽がもっと好きになる」
Windowsならではの体験を通じ、もっと深く音楽の世界を楽しんでもらう
——Xbox Musicは、昨年12月20日に日本でサービスがスタートしましたね。
井上:Xbox MusicはWindows8.1に対応したサービスで、大きく2つの機能があります。1つは「コレクション」で、既に保有している楽曲データを自分のライブラリーとして検索したり聴いたり、もしくはプレイリストを作ることができるという機能です。
もう1つが「ミュージックストア」になります。いわゆるDTO(Download-To-Own)で楽曲単位で購入できるサービスです。購入後のフォーマットはDRMフリーとなっています。日本は世界で23番目の提供開始となっていまして、全世界では総楽曲数3,600万曲を提供しています。今回日本ではスタート時点で2,500万曲となっています。
——購入楽曲のビットレートは320kbpsと高音質です。
井上:レーベルさんから指定がある楽曲についてはそれに準じていますが、基本的には320kbpsで提供しています。
——価格帯は他のアラカルトサービスと同じぐらいですか?
井上:そうですね、150〜250円が中心価格帯となります。アルバムの価格は提携レーベルさんと相談しながら決めていくようなカタチになります。
——具体的な使い方はどのような感じですか?
井上:Windows8.1のスタート画面に元々「ミュージック」というアプリのタイルがあるので、そこを押すと立ち上がります。そしてそこで「見つけよう」を押すとストアに移動します。
※コレクションの機能
※「見つけよう」の画面
——Xbox Musicというアプリを改めてダウンロードするのではなく、Windows8.1に予め入っていると。
井上:そうです。ストアでは、新作のアルバムやユーザーに人気の楽曲が表示されます。
また、あるアーティストに興味をもった時、人型のマークがあるのですが、それを押すとそのアーティストの作品リストやバイオグラフィー、関係性のあるアーティスト情報などが網羅的に分かるようになっています。
さらに「検索」でアーティスト名を検索すると、自分の持っていないそのアーティストの楽曲ファイルがひっかかりますし、そのアーティストに関係する画像やビデオも出てきます。アーティストを深く知りたいときに、途切れることなくすべて繋がって体験できるのがWindowsならではだと思いますね。こういう体験を通じてユーザーにもっと深く音楽の世界を楽しんでもらって、新しい音楽との出会いを提供することを目標としています。
将来的にこの検索機能は拡張されますし、ミュージックストアでの販売楽曲もどんどん追加されます。
——Windowsならではの体験を通じた、アーティストを軸とするレコメンデーションという感じですか。
井上:現時点では今紹介した機能が中核となります。やはり音楽配信サービスにおいて利便性は当然重要ですが、それ以上に「音楽を楽しむ」ということをとても大事にして取り組んでいます。
アラカルトでの購入やサブスクリプションのストリーミングで聴くといった体験自体の境目を無くして、自分好みの方法で聴きたい音楽を探し出そう・見つけよう、というのがサービスのコンセプトですね。
Windows8.1ユーザー = Xbox Musicユーザーという強み
——海外だとradio機能や、いわゆるストリーミングの「Xbox Music Pass」があるんですよね。
井上:それらについても、当然国内で新しい音楽の楽しみ方として検討をしています。
——Xbox Musicの始まりというのは?
井上:元々はアメリカでの「Zune(ズーン)」という音楽サービスが始まりになります。当時はデバイスとサービス、というモデルだったんですけどもそれがサービス主体のモデルに変わり、そしてXbox Musicになって現在に至ります。
——アジアでの展開状況というのは?
井上:日本が一番最初のサービスインになります。
——日本を皮切りにその他のアジア地域でも展開予定ですか?
井上:Xbox360自体は、Xbox Musicが展開しているよりもっと多くの国で販売しておりますので、販売国数に近くなるように展開していきたいですね。
——Windows Phoneへの対応は?
井上:まだ対応はしていませんが、今後計画があればサービス拡張の対象になると思います。
——収益としては今のところ楽曲販売がメインですか?
井上:現在はそうですが、今後は広告モデルを含め柔軟に考えていきたいと思います。サービス利用者が増えると共に、楽曲を提供いただいているレーベルに喜んでもらえるようなビジネスの健全性も必要だと思いますので、決め打ちではなく、他の国の事例や国内の他サービスをきちんと参考にしながら良いモデルを展開していきたいと考えています。
——日本ではまだXbox=ゲームという印象の強い方も多いかもしれませんが。
井上:私が現在所属する部門はインタラクティブエンターテイメントビジネスというのですが、そこはMicrosoftにおけるエンターテイメント事業を担当している部門になります。今までは家庭用ゲーム機のXboxを中心にやってきましたが、数年前にXbox Videoという映像配信のサービスをスタートさせました。そして今回のXbox Musicということで、現在はXboxのゲーム機だけではなくMicrosoftの様々なデバイスでエンターテイメントサービスを提供する業務を行っています。
まず最もユーザー数の多いWindows向けに音楽を提供して、今後Xboxというゲーム機でも同じように使えるようにしていきます。Xbox Musicの開始により、ユーザーにとっては「ゲーム」「映画」「音楽」の三つがやっと揃ってくるということですね。
——Windows8.1搭載のデバイスを持っている全てのユーザーが、イコールXbox Musicユーザーというのはアドバンテージですね。
井上:そういう意味では、音楽ユーザー数自体を拡大する力になれるかなと思います。それは、我々がユーザーと音楽産業に対して良い影響を与えられる一つの部分でありますし、またそれと同時に「Windowsでこんなに楽しいエンターテインメントの体験ができるんだよ」というのをしっかり理解していただけるようなマーケティング活動もしていきたいですね。
Windows 8.1では「スナップ」というマルチタスクの機能がありますので、仕事はもちろんあらゆるシーンでWindowsならではの使いやすい音楽の楽しみ方ができると思います。
※動画は海外版の操作の様子
キーワードは「Windowsなら音楽がもっと好きになる」
——国内でサービスを展開する際に掲げているキーワードなどはありますか?
井上:非常にベーシックなんですけれども、社内で音楽サービスを起ち上げたときに決めたのは「Windowsなら音楽がもっと好きになる」ですね。
——なるほど。
井上:音楽や映画といったエンターテインメントは、人の気持ち、感情をグッと動かすものですよね。みなさん自分にとって特別な楽曲ってあると思うんですけど、願わくば「あの時にWindowsでああいう聴き方をしたから、この曲が特別になった」みたいなことがあれば良いですね。ちょっとロマンチック過ぎますけど(笑)。そういう想いを持って、音楽業界の発展に貢献できればと思います。
——レーベル各社との交渉はいかがでしたか?
井上:各社さんには「Windowsならではの体験で、音楽とアーティストとの関係が生まれる」という部分に最も共感していただきました。いわゆる音楽ユーザー人口を増やしていけるようなサービスとして捉えていただけたというのは、ご協力いただく大きな原動力になったなと思います。
その分期待値も大きいと思うので、これからもっとユーザーへの認知を高め、楽しみ方の訴求もして期待に応えていきたいです。
——国内展開の予定はいつ頃からあったんですか?
井上:計画はだいぶ前からありまして、ユーザーに十分だと感じていただける程度に楽曲を揃えることを目指していましたね。
——それで2,500万曲揃った時期が去年末だったと。
井上:あとはWindows8.1のリリースという大きなタイミングでもありましたので、それとあわせてですね。
——競合サービスとの差別化に関してはどのように考えていらっしゃいますか。
井上:競合がどんなサービスを提供しているかはすごく重要だと思います。ユーザーの嗜好も移り変わりのスピードも早いですから、サービス拡張の方向性を今までと違うものにする必要も今後あるかもしれませんし、開発の時間軸を早めなければならないかもしれません。
単に他のサービスと比べて優劣というよりは、ユーザーにとって彼らが一番楽しめる方法を学んで、それをより良いものとして反映し、デジタル音楽全体を伸ばしたいですね。
——マイクロソフトとして、音楽業界に対してはどのような印象を持たれていますか。
井上:正直、我々自身が新参者ですので(笑)。
Xboxの起ち上げの際も、当時ゲーム業界への新規参入ということで大変鍛えられました。クリエイターもたくさんいらっしゃいますし、やはりコンテンツやユーザーに対しどういう風に向き合っているかを一番見られるんですよね。そこが分かっているかどうかを、すごく重要視されていたような気がします。
音楽においても、Windowsというパソコンの市場を我々は持っていますので、音楽業界のみなさんからはそこに対しての期待は感じています。一方で、アーティストはもちろん作品や楽曲が生まれてくる背景までしっかり理解しているか、そしてその上でユーザーにきちんと楽しんでもらいたいというスピリットを我々が持っているか、そういう部分を今後評価されるだろうと思っています。
——アーティストと作品、そしてユーザーに真摯に向き合うということですね。今後Xboxの音楽面を広める為に、どういうことを予定されていますか?
井上:ゲームユーザーは基本的にはエンターテイメントコンテンツが大好きなんですね。なので、家庭用ゲーム機、Xboxのサービス拡張と共にまずゲームファンにXbox Musicを提供して、楽しんでいってもらいたいです。それにあわせて、Windowsを利用している幅広いユーザーにも楽しんでいただく努力を行っていきます。この二つの層は濃度が全く違いますからね。
——両方に届くように。
井上:Xbox MusicはWindowsで提供を始めていますが、今後Xboxにサービスが拡張されたときにゲームユーザーを取り込むことによって、利用者の大きな塊ができていくと思います。
——ゲーム、アニメと音楽は親和性が高いですよね。
井上:Xbox360ユーザーの4割以上がXbox360でCDを聴いていたりと本当に音楽と親和性があるので、家庭用ゲーム機でもなるべく早い段階でサービスの提供を開始したいと思います。最終的には「ゲーム」「アプリ」「ビデオ」「音楽」と、この4つをきちんとユーザーに楽しんでいただけるような活動を目指します。
——ゲームの方で培った強みもありますね。
井上:ゲーム機を手がけているのでコントローラーやアナログなデバイスもすごく研究しているんですけど、やはり人間ってつくづくアナログだなと思うんですね。ストリーミングのようなデジタルなサービスの具現化においても、何か手に取るとか実際に触るとか、そういう直感的でわかりやすい使い方を用意することでユーザーにも「このデバイスでこういうふうに楽しめるんだ」というようにバックエンドのデジタルな仕組みとは関係なく楽しんでもらえるようになるかなと。人間のアナログ性を理解しているという部分は我々の強みにしていきたいですね。
——最後に、Musicman-NETのユーザーには音楽関係の方も多くいらっしゃるのですが、お伝えしたいことはありますか?
井上:音楽に熱心な方々が多くご覧になられていると思うのですが、そういった方々がいちユーザーとしてXbox Musicを使ったときに「楽しいね」と言っていただけるように頑張りたいです。サービスとして「良い」と思って頂いて、かつ、個人ユーザーとして使っていただけるようなサービスを目指せば、必然的にWindowsという大きなプラットフォームで一般的な利用者を広げていくことにつながるのではと思っています。