世代を突き抜けた楽曲を生み出すために ユニバーサル ミュージック 社長兼最高経営責任者(CEO) 藤倉 尚氏インタビュー
今年1月1日付でユニバーサル ミュージック 社長兼最高経営責任者(CEO)に藤倉 尚氏が就任した。昨年4月のEMI ミュージック・ジャパンとの統合も記憶に新しい中、46歳の若さで代表に就任した藤倉氏は、92年にポリドール入社以来、営業や邦楽の宣伝、制作などのキャリアを積まれ、K-POPブームやカバーアルバムなど新しいジャンルを確立。2012年から同社邦楽を統括した手腕で、邦楽のより一層の強化を期待されている。先日、新マネジメント体制後初の大型コンベンション「UNIVERSAL MUSIC PRESENTATION2014」を開催した新生ユニバーサル ミュージックの現状とこれからについて藤倉氏に伺った。
PROFILE
藤倉 尚(ふじくら・なおし)
ユニバーサル ミュージック合同会社 社長兼最高経営責任者(CEO)
1967年12月11日生まれ
1991年4月 メルシャン株式会社 入社
1992年4月 ポリドール株式会社 (後にポリグラム株式会社に改名) 入社
1999年4月 マーキュリー・ミュージックエンタテインメント株式会社 (ポリグラム株式会社傘下の制作レーベル)
2000年7月 ユニバーサル ミュージック株式会社 (ポリグラム株式会社より改名)
2007年1月 ユニバーサル シグマ マネージング・ディレクター
2008年4月 執行役員ユニバーサル シグマ マネージング・ディレクター
2011年8月 ユニバーサル ミュージック合同会社
常務兼執行役員 ユニバーサルシグマ マネージング・ディレクター
兼 NAYUTAWAVE RECORDS マネージング・ディレクター
2012年1月 副社長兼執行役員 邦楽統括 ユニバーサルシグマ マネージング・ディレクター 兼
NAYUTAWAVE RECORDS マネージング・ディレクター兼 SMU 統括ディレクター
2014年1月 社長兼最高経営責任者(CEO)
社員一人一人が力を発揮できるような組織作り
——ユニバーサルミュージックの社長就任おめでとうございます。藤倉さんは46歳で社長に就任されたわけですが、ユニバーサルミュージック自体フレッシュな印象になりましたね。
藤倉:ありがとうございます。フレッシュと言っても、ただ単純に若い人に変えようという思想はありません。例えばカタログセクションやクラシック、ジャズなどは、購入者層の年齢が高いこともあり、そこはしっかり分かっている人材を配置すべきだと考えています。
新しい組織でまず考えたのは、社員一人一人が力を発揮できるような組織にしたいということでした。私自身が担当していた部門のスタッフについては把握していましたが、ユニバーサル ミュージック全体の事業や進むべき方向と照らし合わせて社員それぞれの能力をしっかり判断した上でかなりダイナミックに動かしました。
例えば、EMI Recordsの子安はEMIミュージックの時代からJ-POP、K-POP、邦楽カタログをはじめとした幅広いキャリアがあります。歌謡曲でも由紀さおりや坂本冬美でヒットを出していましたし、皆さんご存じのようにロック、BOφOWYやウルフルズなどもヒットさせた、優秀な人材です。NAYUTAWAVE RECORDSとEMI Records Japan(EMI J)を1つのレーベルとし、子安の元で統合を象徴する新しいレーベルが誕生することになりました。
——そんな中、若手の山崎吉史さんが新レーベル(ZEN MUSIC)のトップになっていますね。
藤倉:山崎に関しては35歳と若いですが、今回レーベルのヘッドになってもらいました。GReeeeNや少女時代をヒットさせるなどレーベルのトップとしての実績は十分持っています。彼とのコミュニケーションの中で、以前からアーティストや作品を世の中に伝えるのはCDやコンサートだけではなく、他にも何かあるんじゃないか?と、常に新しい提案がありました。GReeeeNのようにコンサートやテレビに出演できないアーティストをヒットに導いた実績もありますし、自由にやってもらえる環境が実現できないかと考えた結果、ZEN MUSICを率いてもらう事になりました。
——今までのユニバーサルにはそういう例はあまりなかったんですか?
藤倉:珍しいケースだと思います。現在、ZEN MUSICの所属アーティストはGReeeeNのみですが、契約、あるいは育成したいアーティスト候補が何組か挙がってきています。まだ名前は明かせませんが、非常に楽しみにしています。
また、ワーナーミュージックで洋楽の最前線にいて、カタログビジネスも熟知している田中宏和が弊社に加わった事も心強いです。彼が入社してきて、ユニバーサルのカタログを見て、まずそのレパートリーの多さに驚いていました(笑)。楽曲やアーティストの数も多いですし、その中にビートルズもストーンズもあります。EMIとの統合によりカタログも厚みを増したので、邦楽・洋楽ともに、様々なことに挑戦したいと思っています。
——ただ、ユニバーサルとEMIの組織的な融合は大変そうですよね。
藤倉:ユニバーサルとEMIでは得意分野がそれぞれ違いました。邦楽に関して言えば、ユニバーサルはポップスが得意、EMIはロックが得意ですとか、ユニバーサルは新人発掘してから短期間で大きくするのが得意、逆にEMIはゆっくり育てるけれど一度ブレイクさせたら長くアーティストをヒットさせることができるなど、お互いの強みが異なっていました。今回の組織変更でバックオフィスも含めて、それぞれ良い所は取り入れ、足りない部分は補い合えるような組織作りを心掛けました。
——社内のコミュニケーションはどうですか?
藤倉:統合というのは、心が通うまでどんなに早くても3年は時間がかかるものだと聞きました。長いと20年ぐらいかかってしまうそうです。であれば、本音をぶつけ合い、コミュニケーションをしやすい環境を提供することがマネジメントの役割だと考え、社内でもコミュニケーションする場面を意識的に増やしました。
2月にコンベンション(「UNIVERSAL MUSIC PRESENTATION2014」)を開催しました。コンベンションの本来の目的は、メディアや取引先の皆さんに新しいユニバーサルを見てもらうことだったのですが、社員にも喜ばれました。統合して、全社員が集まったのはあのコンベンションが初めての機会でした。全社員が一つの場所に集まって、ユニバーサルを代表するアーティストたちを生で見る。そしてマックス・ホール(ユニバーサル ミュージックグループインターナショナルUniversal Music Group International (UMGI)/CEO)や私を含め各レーベルの責任者が考えていることを直接伝えることができたのは、とても意味がありました。後日社員から感想を聞いて、本当に実施してよかったなと思いましたね。
——色々な意味で、コンベンションは大成功だったんですね。
藤倉:2つの会社が統合して、今のユニバーサルをありのままお見せするコンベンションになりました。アーティストもイベントの主旨に賛同してくれ、積極的に参加してくれました。感謝しています。
一番のポイントは「邦楽の強化」
——社長に任命されたとき、率直にどのように思われましたか?
藤倉:純粋に驚きました。そして驚いたと同時に、23年ずっと邦楽に関わってきましたので、その私に「トップをやれ」ということは「更なる邦楽の強化」が必要だと理解しました。現在、音楽産業は各国ごとに収益構造が変化しています。日本においては邦楽の比率が毎年上がってきていますので、邦楽の強化は大きな課題だと認識しています。
一方で、洋楽の力や可能性も十分に感じています。洋楽マーケットの活性化にチャンスがあるので積極的に取り組みたいと思います。少し矛盾しているかもしれませんが、洋楽の中で邦楽的な耳を持つ人材を揃えたり、邦楽的な売り方をしたり、そういったことをする必要があると思います。社内でもっと競争力をつける必要もあるでしょうね。
——加藤公隆さんが洋楽のトップということですね。
藤倉:そうです。加藤は「INTERNATIONAL」、そしてその中にある邦楽レーベル「Delicious Deli Records」を持っています。今年はそこからSPICY CHOCOLATEがヒットしました。先日発表になりましたが、加藤には新しいレーベル「Virgin Music」のマネージング・ディレクターとして新たに邦楽のみのレーベルも担当してもらうことになりました。ユニバーサル ミュージックの持つ海外ネットワークの活用はもちろん色々な形でヒットのチャンスを持っている今後が楽しみなレーベルです。
——ちなみにユニバーサル ミュージックグループのルシアン・グレンジCEOやUMGIのマックス・ホールCEOとはどのくらいの頻度で打ち合わせしているんですか?
藤倉:マックス・ホールとは、来日した時はもちろん、頻繁にミーティングを行っています。マックスは世界各国を飛び回っていますので、ビデオ会議、電話会議などで工夫しながら密にコミュニケーションをとっています。また、会長のルシアン・グレンジともユニバーサル ミュージック全体の会議などで直接会って話をします。彼ももともとレーベル、A&Rをやっていたのでとても感覚が近いです。彼は本当に音楽が好きで、音楽の素晴らしさをどうやったら多くの人に伝えることができるか、常に真剣に考えている人ですね。
——ユニバーサル ミュージック グループは現在世界のトップですが、その中でも日本は特別な立ち位置であるというのは、マックス・ホールさんもルシアン・グレンジさんも理解しているわけですよね。
藤倉:そうですね。日本のマーケットは規模も大きいので、グループ全体の中でもとても重要視されています。文化や言語が違ったりするだけではなく、今一番注目されているのは、日本は世界で唯一CDがシェアの80%を占めているマーケットであるということです。イギリスでも昨年初めてデジタルの売り上げがフィジカルを上回り、アメリカではもう数年前にはすでに逆転していましたからね。
——ルシアン・グレンジ会長はストリーミングに対して積極的ですよね。
藤倉:ルシアンは音楽を届ける機会や手段をどうやって増やすかを常に考えています。その一つの方法がストリーミングだったんですね。ただ、日本はフィジカルの市場がしっかりありますので、日本でのビジネスを全部ストリーミングにしようという発想ではありません。
ヨーロッパやアメリカはストリーミングに代表される音楽配信を積極的に推進しているように見えるかもしれませんが、純粋に音楽を聴く機会を増やす、そしてアーティストや事務所、レコード会社にきちんと対価が支払われるような仕組みを作ろうとしているだけなんですね。対価を支払わずに音楽を手に入れる事ができる環境が増えてしまったので、そこはものすごく危惧していると思いますし、私も心配しています。
——藤倉さんご自身は、フィジカルが未だに売れている日本の状況をどのように見ていらっしゃいますか?
藤倉:素晴らしいことだと思いますし、デジタルと両立できたらベストだと思います。日本はフィジカルが一番売れている国で、デジタル配信においても、たくさんの会社が存在しています。聴き放題サービスなど音楽を聴く手段も格段に増えています。「サブスクリプション」という言葉を聞くと「黒船が来た」というような印象があるかもしれませんが、音楽を聴いていただくための機会を増やす方法のひとつだと思っています。
——フィジカルとサブスクリプションの両立は可能だと?
藤倉:はい。例えば「ネットで見ていればいい」という音楽に対価を払わない方達に対して、内容が充実したサブスクリプションがあったら、ライブラリに魅力を感じてもらえると思います。また、私の世代に限らず、やはりCDや本など物として所有したいという方もいらっしゃると思います。ですからCDからサブスクリプションに移行すればいいということではなく、人それぞれのライフスタイルや嗜好で選べる状態が一番よいのではないでしょうか。
もう一度日本人アーティストでビルボードNo.1を獲りたい
——社長に就任されて3ヶ月ほど経ちましたが、手応えはいかがですか?
藤倉:大変ですがやりがいを感じています。よく「マーケット自体が縮んでいる」という話が出ますよね。でも「今頑張らなくていつ頑張るんだ!」という想いが自分の中に強くあります。それこそ大先輩の石坂敬一さんや寺林晁さん、小池一彦さんたちが色々なやり方で音楽業界を牽引して来られたのを間近で見ていたことも大きいと思います。
皆さんそれぞれが一所懸命音楽の素晴らしさを伝えよう、そして会社を、業界を良い方向に変えていこうという気持ちが、横で見ていてものすごく伝わってきていました。就任にあたって「驚いた」というのは嘘偽りのない気持ちなのですが、私の順番が来たんだと思い、気持ちを切り替えました。
——先人の意志を継いでいこうと。
藤倉:そうですね。音楽業界に貢献したいという気持ちが強いです。「音楽を愛し、人を愛し、感動を届ける」をいつも心に留めていますが、そこからは絶対にブレないようにしなくてはいけないなと思いますね。
——現在の音楽業界は藤倉さんの世代の方々が引っ張っている印象があります。そういう方々と横の繋がりはあるんですか?
藤倉:はい。とても親しくさせていただいています。でも、逆に馴れ合いになってもいけないと思うんですよね。マーケットを作ると言うと大げさに聞こえるかもしれませんが、自分たちが信じているものを競わせて、世の中が音楽に振り向くようにしなくてはいけないんじゃないか? とよく話し合っています。ライバルとして、同志として音楽業界を盛り上げていきたいですね。
——ユニバーサル ミュージックの今後の目標は何でしょうか?
藤倉:ユニバーサル ミュージックは世界に出られるインフラを持つ会社です。これまでは日本のアーティストを預かり、国民1億2千万人を相手にしていましたが、今後は世界に向けて日本の音楽を発信していかなくてはならないと思っています。ユニバーサルは現在60を越える地域に拠点があり、約120ヵ国に音楽を届けられる環境をもっています。これから私たちが世界へ日本の音楽を届ける番です。いよいよだなと思っています。
日本の音楽業界で、海外とのやりとりは作品の輸入がほとんどでイギリスやアメリカなどたくさんの海外の音楽を日本に紹介してきました。これからは日本から海外でも活躍できるアーティスト、ユニバーサルではPerfumeやVAMPS、MIYAVIなどがそうですが、そういったアーティストたちに本当のチャンスが来たのではないでしょうか。
1963年に坂本九さんの「上を向いて歩こう」がビルボードでNo.1になりましたが、約50年の時を経て、我々はもう一度日本人アーティストでビルボードNo.1を獲りたいと本気で思っています。
——日本人アーティストがビルボードNo.1を獲る姿は是非見てみたいです。
藤倉:また、私が今年やりたいと思っているのは、一つの楽曲を全世代でヒットさせることです。例えば、今年SPICY CHOCOLATEの「ずっと feat. HAN-KUN & TEE」という曲がヒットしています。60万ダウンロードを超えているのですが、歌詞、曲ともに本当にいい曲なんですね。若い世代向けのように感じる方も多いと思いますが、幅広い世代にアピールできる楽曲だと思います。やはり「今年売れた曲はコレだ!」という楽曲を出すのが、変わらずレコード会社の一つの役割だと考えています。
もちろん、国民的スターを作ることでもその世界を劇的に変えられると思っています。それこそスポーツの世界、例えば、ソチ冬季オリンピックの羽生結弦さん―――彼のようなスターが生まれることによって、アイススケートが急激に身近な存在になります。やはりスターの力はすごいと思います。大スターを発掘し、育てていくことはもちろん大命題として追求していきます。まずは世代を突き抜ける楽曲を生み出していきたいですね。
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