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世界で最も多忙なマスタリングスタジオ — STERLING SOUND ムラット・アクタール、テッド・ジェンセン、トム・コイン インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:ムラット・アクタール、テッド・ジェンセン、トム・コイン
左から:ムラット・アクタール、テッド・ジェンセン、トム・コイン

 音楽制作の現場に関わる人間にはお馴染みのマスタリング・スタジオ、スターリング・サウンド。数々の世界的な名作を手がけ世に送り出してきた同スタジオ、その名を知らなくてもスターリング・サウンドがマスタリングしたサウンドは、誰もが一度は耳にしたことがあるはずだ(下記のテッドとトムの作品リストを見ると、見たことのあるジャケットがいくつもみつかるだろう)。
 ニューヨークにあるスターリング・サウンドには、より良い音質を求めるクライアントから日々様々なアーティストの案件が舞い込み、世界で最も多忙なマスタリング・スタジオと言われている。
 そんなスターリング・サウンド社長のムラット・アクタール氏、チーフエンジニアのテッド・ジェンセン氏、シニアエンジニアのトム・コイン氏が先日来日した際、短い時間だったが話を聞く機会に恵まれたのでここにお届けする。
(Kenji Naganawa、Jiro Honda、協力:Solid Sound Lab

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テッド・ジェンセン 作品
トム・コイン 作品

 

  1. ムラット氏に聞く、新システム「Certified Masters」とは
  2. ビヨンセだろうと、若い新人アーティストだろうと、誰にでも最高の技術とサービスを提供する
  3. テッド・ジェンセン&トム・コイン インタビュー
  4. Certified Masters 参考画像
  5. eMastering ファイルUL/DL新システム参考画像

 

ムラット氏に聞く、新システム「Certified Masters」とは

——先日スターリング・サウンドは「Certified Masters」というシステムを提供開始されたそうですが、まずはそれについてお聞かせください。

ムラット・アクタール(以下 ムラット):「Certified Masters」の主な特徴は二つあります。一つは、マスターとして納品されたWAVファイルがどういうステータスにあるか、つまり「承認済み」、「試聴中承認前」、「キャンセル」といったどの状況にあるかが分かること。もう一つは、それが改変されたものでなく、間違いなくスターリング・サウンドでマスタリングされたものであるということを証明できる、ということです。それをオンラインで提供するシステムです。

 昔、アナログの時代はマスターといえばラッカー盤のみだったので、そういう管理がシンプルだったんですね。CDの時代になると、プレス工場に納品するマスターは、UマチックからPMCD、そしてDDPへと変わってきました。

 そして現在、配信用には24bit/96kHz等の高音質のWAVファイルを納品するようになっているのですが、ファイル数が膨大になることが多々あるんです。例えば、15曲のアルバムをマスタリングするのにも、修正が入ったり、TV用のエディットやミュージックビデオ用バージョンを作ったりで、それこそ60〜70ものファイル数になってしまうこともあります。

——曲のバージョン違いだけでなく、プラットフォーム毎にファイル形式が異なる場合もありますから、修正・却下されたものまで含めると、確かにファイル数は相当増えますね。

ムラット:どのファイルがどのバージョンか、そしてそのステータス、つまり承認済みのファイルなのか、却下したバージョンなのか、どの媒体(メディア)用のものなのかなど、発注するクライアント側も混乱して把握が難しくなっているんですね。ですから、そういう状況に対応しようとこのシステムの提供を始めたんです。

 この「Certified Masters」システムによって、ファイルの間違いから不正アクセスなどによる改ざんの問題まで解決されると思います。スターリングでマスタリングされた全てのファイルに関して、クライアントは「Certified Masters」で照合すると、「いつ、誰が、どういう経緯で作成したか」など一目で分かるようになっています。

——「Certified Masters」はいつごろから提供しているんですか?

ムラット:2013年9月ぐらいからですね。

——クライアントからの評判はいかがですか?

ムラット:毎日使うものではないかもしれないですが、いざ管理するときにはとても便利なツールだと大変好評です。

——日本のクライアントも使用していますか?

ムラット:それはこれからという感じですね。現在、日本のお客様へのご案内の準備を進めていますので、ぜひ近いうちにと思っています。

 

ビヨンセだろうと、若い新人アーティストだろうと、誰にでも最高の技術とサービスを提供する

——さらに最近はファイルのアップロード、ダウンロードにおいても新しいシステムを導入したとか?

ムラット:これまでは「eMastering Transmission Utility」というアプリを使用していたのですが、ファイルをダウンロードして、インストールして、という若干ですが手間がかかる部分があったんですね。それを先日、ブラウザに機能拡張を追加すればファイルの上げ下げができるようにしたんです。こうすることによって、OSが毎回バージョンアップするごとにプログラムをいちいち書き換える必要もありませんし、簡単でスピードも速くすることができます。こちらはもう全世界で提供を開始し、日本のお客様にもご好評を頂いています。まだ少し不具合もありますが、随時修正をしていますので、ぜひお試しいただければと思います。

——今回の来日は、今お伺いした二つのシステムを日本の関係各所に紹介するためですか?

ムラット:いえ、実は日本には2003年ぐらいから毎年、年に1〜2回来ているんですよ。

——そうなんですね。最近の日本の音楽マーケットに関してはどのように思われていますか?

ムラット:日本の音楽市場は、現在世界2位なので、我々マスタリングスタジオとしてもアメリカと同様に重要なマーケットと考えています。

——日本は未だにフィジカルが売れるという世界的に独特な市場ですが。

ムラット:まだフィジカルが売れているというのは、日本のレコード会社にとっては良いことだと思います。次の時代への移行はいずれ来ると思いますが、他の国に比べるとその移行のスピードが緩やかなので、その間に対策を考えられると思いますしね。逆に、すぐに移り変わって対応できなくなってしまうより良いですよね。

——東京では制作現場の予算が限られてきていて、伝統のあるレコーディングスタジオも営業終了を余儀なくされていたりするのですが、ニューヨークでも同様ですか?

ムラット:同じですね。ニューヨークは特にそうだと思います。大きなスタジオが、どんどん閉鎖に追い込まれています。

——やはり厳しい状況なんですね。でも、音楽制作に携わっている人だったら、スターリング・サウンドを知らない人はいないですよね。もちろん日本でも。

ムラット:日本はすごく大切なマーケットですし、いつもお世話になっている方もいます。毎回来日する度にそういう関係がどんどん築き上げられていくので、すごく楽しみにしています。

 スターリングは、アーティストの知名度に関係なく、それが、例えばビヨンセのような大物であろうが、若い新人アーティストであろうが、誰でも快適に使えるシステムと、より良い音に仕上げるマスタリング技術、最高のサービスを提供しています。

——スターリング・サウンドは広く門戸を開いていると。

ムラット:みなさまに満足していただけるようなサービスを提供しますので、まだスターリングを利用したことのない日本の音楽業界の方々は、興味があればぜひ気軽にコンタクトいただければと思います。

 また、最近弊社には新しいエンジニアも加わりました。第56回グラミー賞Record of the YearにImagine Dragonsでノミネートされたジョー・ラポルタです。

 ぜひ日本のお客様にも彼の素晴らしいサウンドをご体験いただけたら嬉しいです。スターリング・サウンドを今後もよろしくお願いします。

 

テッド・ジェンセン&トム・コイン インタビュー

——今回の来日では、日本の若手エンジニア、クリエイターと交流する機会があったそうですね。

テッド・ジェンセン(以下 テッド):みなさん若手ながら有名なアーティストをたくさん手掛けて素晴らしい仕事をしている人ばかりで、話をすることができて良かったです。僕らは普段ニューヨークにいるのですが、初めてお会いする方もいれば、既に知っている方、一緒に仕事をしたことのある方もいて、とても楽しかったです。

トム・コイン(以下 トム):普段仕事の際はレーベルを介しているので日本のクリエイターと直接やり取りをすることは少ないのですが、今回の来日で色々な方と実際お会いしたら、実は一緒に作品を作っていた方もいて(笑)、嬉しい驚きでした。

ted jensen tom coyne
交流会の様子

——スターリング・サウンドは世界的に最も多忙なマスタリングスタジオとして有名ですが、日本の作品では最近ですとどのような作品を手がけられましたか?

テッド:多すぎて思い出せないくらいですが(笑)、最近は桑田佳祐さん、サザンオールスターズ、Mr.Children、宇多田ヒカルさんの「First Love」15周年盤、ブンブンサテライツ、奥田民生さん、FACTなどを手がけました。今年に入ってからでは中村弘二さんのソロアルバム、JUJUさんやゆずの最新アルバムですね。

——トムさんはどうですか?

トム:安室奈美恵さん、AIさん、少女時代、SEKAI NO OWARI、シェネルさん、徳永英明さん、JASMINEさん、AK-69、PUSHIMさんなど、とにかく沢山あります。

——最近の日本のサウンド、音楽に対してどのような印象を持たれていますか?

テッド:日本の音楽性はすごく進化していますし、いつ聴いても楽しく刺激的ですね。エンジニアをはじめ、制作に関わっている日本の方々はしっかりしているので、すごく仕事がしやすいです。日本での仕事を楽しめる要素は、そういうところも関係していると思います。

 ただ、音楽を成り立たせている「音」というものは世界共通なので、僕らからすると「日本の音楽だから」とか「他の国の音楽だから」と分ける意識はありません。それらを全て音として聴き分けて、どんな音もいかに僕たちのサウンドに作り上げるか、といったことに取り組んでいます。

——どこの国の音楽であろうと、また音楽の流通の形態が今後どうなろうと、エンジニアとしては影響はないと。

テッド:フォーマットが変わろうと僕たちとしてはサウンド的にも技術的にも影響はないと思います。現状、ストリーミングにシフトしていく中で、きちんとお金が配分されるかと言った点でいうと、直接影響を受けるのはやはりアーティストやミュージシャンだと思います。

トム:僕たちの仕事は、マスタリングする音源をもらって、それをベストな形にすることですからね。

——トムさんは日本の音楽についてどう感じていらっしゃいますか?

トム:そもそも僕は日本が大好きで、1年のうち4ヶ月くらいは日本に住みたいくらいなんです(笑)。

 日本でのミーティングの中で、レーベルの人から話を聞いたり商品を見せてもらったのですが、日本ではパッケージにすごく付加価値をつけていますよね。例えば、アメリカでは絶対にありえない握手券が入っていたりとか、マニアックというか、そういった工夫がすごいなと感じています。

——トムさんは日本のどのようなところが好きなのですか?

トム:道を歩いていても楽しいし、食べ物も美味しいし、人もすごくいいです。何も言わなくても秩序が守られている行儀の良さや、自国の文化に敬意を払い、伝統を大切にするところなど、そういった全てが大好きです。

——テッドさんは、最近カメラに凝っているそうですね。

テッド:前回来日した際は、皇居や美しい建築物など写真をたくさん撮れたんですが、今回は忙しくて中々そういう機会がないのが残念です。でも、昨日はブンブンサテライツのライブの様子を撮りました。

——写真をTwitterで拝見しましたが、とても高いクオリティでしたね。最後に、お二人のようなエンジニアを目指す日本の若いエンジニアへアドバイスはありますか?

トム:若手の頃は長時間働かなくてはならないこともあるでしょうし、そうなると仕事だけでなくライフスタイルも問われてきます。そういったことも見越して、どれだけ努力できるかが大切だと思います。そして、その努力をできた人だけがこの世界で生き残れると思うので、一生懸命仕事をして欲しいですね。そして、もし今彼女がいるんだったら、さっさと別れて仕事に集中してください! もちろん冗談ですが(笑)。

テッド:成功したいという気持ちと意志があって、道さえ見つけることができれば人生の旅は上手くいくんじゃないかと思います。自分たちが若手だった40年前は、今とは全く状況が違うので、成功する方法をアドバイスすることは難しいのですが、根底にあるのは、今も昔も変わらず自分の強い意志だと思うので、ぜひ頑張ってほしいですね。

テッド・ジェンセン&トム・コイン

 

Certified Masters 参考画像

CertifiedMaster01
Mastered for iTunes用のマスターファイル。
“Certified”の表示から、試聴用データではなく承認されたマスターであることが分かる。

CertifiedMaster02
上記とファイルの種類が異なる、ハイレゾのマスターファイル。

CertifiedMaster03
“REFERENCE” “DO NOT USE FOR PRODUCTION”の表示で試聴用データであることを示している。

 

eMastering ファイルUL/DL新システム参考画像

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