レーベル統合でトッププライオリティを明確に ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレイト・エグゼクティブCOO/ソニー・ミュージックレーベルズ 代表取締役 村松俊亮氏インタビュー
今年4月1日付でソニー・ミュージックエンタテインメントの邦洋8レーベルが再編・統合され、新たに株式会社ソニー・ミュージックレーベルズが誕生した。2001年にレーベルを分社化してから13年。なぜ今再び統合するに至ったのか。またどのように生まれ変わるのか。事業の核となるレーベルビジネスを統括する同社代表取締役 村松俊亮氏にソニーミュージックが目指すレーベル運営についてお話を伺った。
PROFILE
村松 俊亮(むらまつ・しゅんすけ)
ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレイト・エグゼクティブCOO(レーベルビジネスグループ担当)
昭和38年(1963年)6月8日生まれ
昭和62年(1987年) 4月 (株)CBS・ソニーグループ入社 販売推進本部東京第1営業所2課
平成 2年(1990年) 1月 同社CBS・ソニーレコード販売促進部1課
平成 3年(1991年) 4月 社名変更により(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント
平成 8年(1996年)10月 同社SR制作本部制作3部
平成11年(1999年) 9月 同社営業グループ大阪営業所販売促進課課長
平成13年(2001年) 2月 同社Soffio Recordsプロモーションルーム課長
平成13年(2001年)10月 分社化により(株)ソニー・ミュージックレコーズ Soffio Records 代表
平成14年(2002年)10月 同社代表取締役執行役員専務
平成17年(2005年) 6月 同社執行役員社長
平成20年(2008年) 3月 (株)ソニー・ミュージックエンタテインメント コーポレイト・エグゼクティブ
レーベルビジネス第1グループ代表
平成25年(2013年) 6月 同社コーポレイト・エグゼクティブ レーベルビジネスグループ代表
平成26年(2014年) 2月 同社コーポレイト・エグゼクティブCOO(レーベルビジネスグループ担当)
現在に至る
レーベル分社化による弊害と統合によるメリット
——今年4月1日付でレーベルが再編・統合され、新たに「株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ」が誕生しました。まず、代表に就任されたご感想をお聞かせください。
村松:去年の6月にソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)CEOの北川(北川直樹氏)から、洋楽を含めた8レーベルの統括について要望があり、それから1年弱の間に自分なりにレーベルをどのように運営していくか考える中で、レーベルをそれぞれ運営していくよりも、一つのダイナミズムを持って運営した方がメリットがあると判断し、4月1日で統合しました。
しかしながら、それぞれのレーベルバリューや歴史、人の想いなど大事なものが異なりますので、統合しつつもレーベル名は残しています。名称が残ることによって人もほぼ変わらずに残っていくので、こういった縦軸の良さと、統合した横軸のダイナミズムを活かして、今までにない作品を作り上げていくことが、今後の使命だと思っています。
——2001年頃レーベルを分社化する動きがありましたが、当時はメリットがあって細分化されたと思います。それから13年経つ中で、弊害もあったということでしょうか?
村松:そうですね。私自身、分社化がスタートした時期と同時期の2002年にソニー・ミュージックレコーズの代表に就任しているのですが、当時39歳だった私に一社を任せてくれるということが本当に幸せなことだと思っていましたし、ここまで期待されているからには、やるしかないという責任感が一つの活路になりました。
当時のマーケットが今の倍近くあったこともあり、施策・取り組みに対する見返りがはっきり体感できる時代だったので、それが分社化のフットワークの良さに繋がっていくんですが、一方でプライオリティがそれぞれ決まって行くので、レーベルとしてのトッププライオリティもSME全体としては1/8のプライオリティになり、弱いものにならざるを得ませんでした。
また、ヒットに導くためのスキームやインフラが似通ってきてしまう問題点もありました。私はCBS・ソニー出身で、1987年の入社当時はCBS・ソニーとEPIC・ソニーしかレーベルがなかったのですが、EPIC・ソニーは、アーティストの選定や楽曲の指向性、アレンジ、アーティストを育てるスキームも全く違っていたので、完全に異質と言いますか、全く別の団体という印象がありました。そういった特色を持たせるためにも、もう一度、六番町と乃木坂でグループ分けをして、六番町グループは桂田(桂田大助氏)、乃木坂グループは大谷(大谷英彦氏)の二人にそれぞれ任せています。
——六番町グループと乃木坂グループはどのように分かれているんでしょうか?
村松:六番町グループは、ソニー・ミュージックレコーズ、SMEレコーズ、デフスターレコーズ、アリオラジャパン、乃木坂グループは、EPICレコードジャパン、キューンミュージック、ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズを統合しています。また、両グループには属さない形でソニー・ミュージックジャパンインターナショナルが存在します。
——ソニー・ミュージックレーベルズの傘下に六番町グループと乃木坂グループを置いたということですね。
村松:ええ。レーベルは残しましたが、今後はそれぞれのレーベルカラーを鮮明にしていかない限りは、いつまでも存続させようとは思っていません。スタッフにも危機意識を常に持っていてほしいと思っています。
——残す意義がなくなれば廃止の可能性もあるということでしょうか?
村松:そうですね。そして、自分たちの色を作った上で勝つことですね。色を作っても負けていれば淘汰されていきますし、安穏としていては良い作品を作ることはできませんから。
様々な企業とアライアンスを組んで独自のマーケットを創出
——再編から約1ヶ月と日は浅いですが、変化を実感することはありますか?
村松:去年の6月から各レーベルの代表とは常にコミュニケーションを取っており、私の意向に沿った意識改革や組織自体の構造改革をそれぞれが進めてくれていたのでそういった変化はありますが、彼らとの関わり自体は変わりません。また、新しく企画戦略部というセクションを設置しまして、ここが全体を横断することになるので、企画戦略部が動きだして初めて大きく変化するのではないかと思います。
——レーベルの再編と同時に村松さんが代表を務めるウルトラシープも立ち上がりました。
村松:ウルトラシープは音楽だけじゃなく、映像や絵師やストーリーなどクリエイターの発掘、エージェント&マネジメント、プロデュース等を行っています。現在は「じん」という、元々ボーカロイド・クリエイターで小説も書くマルチ・クリエイターをレーベル・ディビジョンで手掛けていまして、彼が原作・脚本・主題歌(音楽)を担当するアニメ「メカクシティアクターズ」も放送されています。
——ウルトラシープも村松さんが統括しているんですか?
村松:ウルトラシープは極めて現場主導型の会社で、ニコニコ動画やクリエイターの世界をわかっている非常に優秀な担当者がビジネスを広げていくという感じで、私はそのバックアップをするだけですね。
——今後は世界進出も視野に入れていらっしゃると思いますが、ジャンルやアーティストなどの選定はされているのでしょうか?
村松:まずアジア、それから世界というように見据えると限られてきますね。ですが、やはりアーティストの総合力と強みが重要で、あえて言うならソロアーティストかなと思っています。日本人の強みは哀愁とか切なさなんですよね。それはソロアーティストの方が表現しやすいと思います。坂本九さんが、日本人でビルボードをにぎわせた唯一のアーティストだとするならば、一つの成功例として学ぶべきかもしれないですよね。
——日本は今でもパッケージの売上が市場の多くを占めていますが、ソニー・ミュージックレーベルズとしても、パッケージに重きを置いていくのでしょうか?
村松:パッケージを中心にするといった考えはないですね。パッケージ、配信に関わらず、やはりユーザーの保有欲を促すようなアーティストを作るしかないと考えています。とはいえ、魅力的なアーティストをマーケットに投入しても、そこに市場がなければ音楽は趣味でしかなくなってしまいますので、他業種も含め、色々な企業とアライアンスを組んで、独自のマーケットを創出していく意気込みはあります。
独自の新人開発・発掘でスーパースターを生み出す
——ソニー・ミュージックレーベルズが目指すレーベル運営についてはいかがでしょうか?
村松:レーベルは一人のスターや一つのヒット曲というのが経済的にも精神的にも連鎖していくので、まずはそういう実績を作らないといけません。そういう意味では、1/8だったプライオリティを1/1にしてはっきりさせることで、宣伝・戦略に大きな違いが出てくると思います。
グループとしても色々とユニークな特性を持っているので、アーティストを大きく育てていくために、グループのシナジーを使えるわけです。今までは無意識でレーベル間の綱引きがありましたが、今後は社内外問わず、ヒットを生むための戦略を意識的に一つのアーティストに集約していきます。
——ある意味、原点に戻り効率化を図るということですね。
村松:そうですね。ヒットを生み出すという意味での無駄をなくすことに関しては徹底的にやっていこうと思っています。また、SD(新人開発・発掘セクション)の充実および強化をしていきたいですね。
——新人開発・発掘に関して新しい試みは?
村松:「X FACTOR」というワン・ダイレクションなどを輩出したイギリスのオーディション番組の日本版を本国と提携して去年の10月から沖縄で2クールやりましたが、やはり沖縄ならではの才能が集いました。今後どう展開していくか具体的には決まっていませんが、スターを作るための発掘・育成インフラについては独自性につながるいい起爆剤になったと思います。
——有望そうなアーティストはいましたか?
村松:いますね。やはり若者が目立つ場所が必要ですよね。今ロックスターを夢見るような若い子が減っているじゃないですか。もう一度少年・少女たちに憧れを持ってもらえるようなアーティストを出す。そのためのマーケットは私たちが作っていかないとと思いますね。
——ソニー・ミュージックのSDは革新的な施策を行ってきていますし、今後が非常に楽しみです。
村松:国内メジャーでこれだけの新人発掘セクションを内包しているのはなかなかないと思います。ただ、やはり時代は変わりますし、時代に即応しきれているかといったらそうではないので、今後は新人発掘という概念を変えていかないといけないと思っています。いずれにしても、まずはスーパースターを作り、それを我々が供給するシステムを再構築することが重要だと思っています。
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