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申請手続をサポートし、日本コンテンツの海外発信を支援する助成金「J-LOP」ジャパン・コンテンツ海外展開事務局 市井三衛氏、小山早苗氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

市井三衛氏
市井三衛氏

クール・ジャパン戦略の一環として、総務省と経済産業省が昨年3月より実施している「ジャパン・コンテンツ ローカライズ&プロモーション支援助成金(J-LOP)」。”日本ブームの創出”を目的に日本のコンテンツの海外発信を総合的に支援するもので、映像素材のローカライズ支援(字幕、吹き替え等)、プロモーション支援(PRイベントの開催、見本市への出展・参加等)を実施。

既に3,000件以上の申請がされ、多くの交付事例もある同助成金だが、申請や審査が繁雑なのでは? と一見とっつきにくそうな印象がある。そういった不満を少しでも解消し、スムーズな助成を行うために様々なサポートを行っているのがジャパン・コンテンツ海外展開事務局(J-LOP事務局)だ。企画のアドバイスから、必要書類のレクチャーまで、煩わしい部分を噛み砕いて事業者を支援する体制をとっている。同事務局 事務局長 市井三衛氏、広報担当の小山早苗氏にお話を伺った。

 ジャパン・コンテンツ海外展開事務局(J-LOP事務局)logo

参考資料
J-LOPウェブサイト
J-LOP説明会のお申込みページ
J-LOP支援事例紹介

 

  1. 総額約155億円の助成金で日本のコンテンツを世界市場に
  2. 楽曲やアーティストも組み合わせ次第、幅広いケースに対応
  3. エントリー作成レクチャーなどで申請しやすい環境作りを強化
  4. 野球やサッカーのように世界で勝負するのが当たり前、という土壌を作る

 

総額約155億円の助成金で日本のコンテンツを世界市場に

——J-LOP事務局とはどのような団体なのでしょうか?

市井:昨年の3月にNPO法人映像産業振興機構(VIPO)内に設置された、日本のコンテンツの海外展開を支援する助成金「ジャパン・コンテンツ ローカライズ&プロモーション支援助成金(J-LOP)」の基金管理団体です。日本には海外で人気のある魅力的なコンテンツが豊富にありますが、その魅力を産業に転換して、経済再生・活性化することが必要です。そのために、政府は「クールジャパン戦略」として多くの施策を実行しています。

このクールジャパン戦略の中で、コンテンツを活用して日本ブームをどのように創出していったらいいか、というときに、日本の魅力を効果的に発信し、海外流通を促進するためにはビジュアルに訴えかけるのが、一番わかりやすいだろうということで、映像を中心に「ローカライズ支援」「プロモーション支援」を実施することになりました。助成金は両方合わせて総額約155億円になります。昨年スタートしたときには、申請期間は今年の2月末までの予定だったのですが、1年延び、2015年3月までに交付が決定した事業が対象となりました(申請締切は2015年2月末)。日本ブームの創出には継続することが重要だと思っておりますので、更なる延長のための効果測定も平行して行っております。

——ブームの創出のためにも事例を増やすことを推進したいですよね。

市井:約155億円という総額のもと助成していますから、コンテンツは数多く出るようになりましたが、それが実際に海外で放映されるなどして、日本ブームにつながり、他の産業に影響を与えるにはまだまだ時間がかかると思います。この予算は今年度で消化される予定ですので、我々としては、新しい予算をより長い期間、妥当な金額を出してもらうべく所管官庁等と話し合っていきます。

——音楽ですとどのようなケースが対象になりますか?

小山:J-LOPの支援は「ローカライズ支援」と「プロモーション支援」の2つに分かれています。どちらも申請が採択されれば、最大で助成対象費用の半分が交付されます。支援対象ジャンルの範囲も異なっており、「音楽」は「プロモーション支援」のみが対象となります。ただし、ローカライズ支援(字幕付けや吹替え)でも、音楽関連の「映像」の支援であれば対象です。例えば、今年スカパーJSATさんがインドネシアで「WAKUWAKU JAPAN」という日本チャンネルを開局しまして、そこで放映される日本の音楽番組や、音楽ライブ・コンサートの番組の字幕付けなどの支援はさせていただいています。

図表1)J-LOP助成金の目的

市井:音楽番組だけでなく、J-LOPのプロモーション支援を受けた、ジャパン・フェスのようなイベントを海外で実施する際に、歌っているアーティストの後ろで流すPVなどの映像に、現地の言葉の字幕を入れるという一過性のものであっても対象になります。

小山:「プロモーション支援」の場合は、ミデムなど海外で開催される国際見本市への出展の際の対象費用(ブース代や渡航費等)や、他企業などと連携したイベントなどを実施する際のイベント実施時の対象費用を支援しております。

——映像のパッケージも支援対象となりますか?

市井:いずれの場合であっても、パッケージは対象外となります。DVD等、パッケージにして海外で売るための助成ではありません。テレビ放送、インターネット配信、映画館などでの上映などで、海外で広く発信してもらう必要があります。

ちなみに、日本展開用のコンテンツを海外用に変えることをローカライズと言って、海外展開用のコンテンツを作ることは「制作」になるので対象にはなりません。

——確かに、そこに一線を引いておかないと助成の目的が明確でなくなってしまいますね。

市井:そうなんです。あとはコンテンツの定義ですね。「日本の法令に基づき設立された法人によって製作され、かつ日本国民または永住者がその製作活動に主体的に関わっており、主たる言語が日本語であり、その法人が著作権の全部または一部を有しているコンテンツ」というのが大前提です。または、主に日本語で製作した個人のコンテンツや、海外と共同制作したコンテンツが対象となります。また、上記の定義からはずれていても、日本ブームの創出を見込める場合は例外として対象となる場合もありますが、かなり稀ですね。

 

楽曲やアーティストも組み合わせ次第、幅広いケースに対応

——今の若い人たちはYouTubeをよく観ていますが、配信ではどのような場合に対象となるのでしょうか?

小山:YouTubeのみが発信の場という申請は原則認められません。ただ、かなりのユーザーが観に来ているオフィシャルチャンネルを持っていて、既にアクセス数などの実績もきちんとあって配信するのであれば、外部の有識者による審査委員会で発信力があると認められる可能性もあるかもしれません。

——工夫次第ということですね。

市井:日本ブームの創出を目的としていますので、前提として海外発信力・波及効果に対する費用対効果が合わないと難しいですね。そういう意味では海外にて比較的人気のあるアーティストですとアクセスも当然多いでしょうから、可能性は高いと思います。

図表2)参考:政策上のクールジャパン戦略と『日本ブーム創出』の位置づけ
拡大

——日本語の音楽サイトのローカライズは対象になるんですか?

市井:ウェブサイトとなると難しいですね。毎日情報を発信している情報サイトの翻訳を対象にしますと運営費そのものを助成することになってしまいますよね。したがい、現在は対象外の費用となります。

——コンテンツというよりも、作品というイメージになるんですね。

市井:その通りですね。ネットで情報を出すのは簡単なんですけども、たくさんの人に見てもらうのはすごく大変じゃないですか。魅力的にするためには、常にアップデートしなければいけないということになると、なかなか今の僕らの助成金では難しいのかなと思います。

——助成申請の中で音楽関係の案件は増えているんでしょうか?

小山:そうですね。定期的に支援事業者の会社名・団体名などの一覧をウェブサイト上で公表させていただいておりますが、、インディペンデントも含めるとかなり数は増えてきています。多くはMIDEMや東京国際ミュージックマーケット(TIMM)などの国際見本市に出展するときに使っていただいたり、団体の方々は海外でイベントを主催されるときに使っていただいたりしています。J-LOPウェブサイト上に、支援事例をジャンルごとに掲載しておりますので、是非ご覧いただき、参考にしていただけたらと思います。

市井:SXSWに行かれた方もいらっしゃいます。あとはシンガポールでやっている「MUSIC MATTERS」というイベントへの出展にも申請がきていますね。

また海外におけるCMなども対象になります。現地制作の番組にCMや広告を出稿する場合は対象にならないのですが、日本のコンテンツにCMを出す場合、出稿料は助成の対象になりえます。日本のコンテンツがより多く海外に発信されるサポートになるであろうという理由から、対象となりました。

——連携先としては、日本の魅力を伝えられるような企業や団体であれば対象になるということですね。

小山:そうですね、オールジャパンで日本の魅力を発信していただくことが、この助成を活用いただく上での大切なポイントとなります。

——では、吉田兄弟のようなアーティストでしたら連携しやすいですよね。

小山:そうですね。この助成金のいいところは申請時の上限金額が設定されていないところです。(もちろん波及効果や費用対効果を審査時には慎重に確認しますが、)大きなイベント等を海外で実施するときのリスクマネーとして活用いただけます。

市井:アニメやゲーム以外にも、実写のテレビ番組や映画、実際のアーティストなどが海外の現地に出ていくことは、強烈なインパクトだと思うんですね。もちろん、アニメやゲームの良さもあるんですが、K-POPが世界で流行った理由の一つとして、ドラマやアーティストが直接出て行ったということがあると思うんです。今後はそういうところにもっと音楽業界は投資していく必要があると思います。特にアーティストは、ペイしないからなかなか海外には行けないという考え方もありますが、長い目で見たときに、今からやっておかないと先が見えないじゃないですか? 他の国の人たちはどんどん行っていますし、どういうアーティストが海外で好まれるかは、まだまだわからないところもあると思いますので、たくさんの方にトライしていただき、様々なジャンルのアーティストが出てくると、そこからおのずと色々なものが見えてくるんじゃないかなと思っています。

 

エントリー作成レクチャーなどで申請しやすい環境作りを強化

——エントリーしてから審査結果が出るまでにはどれくらいかかるんですか?

市井:平均で1ヶ月です。何度か申請されている方は要領をつかんでいますから、最短で2週間位です。逆に全く慣れていなくて3ヶ月程かかる場合もあります。

——どれくらいの確率で助成されるんでしょうか?

小山:今年3月末時点での数字ですが、約1年経った今、申請件数は3,000件を超えまして、採択件数が約2,000件になっています。注目していただきたいのは、不採択件数が54件しかないというところです。辞退件数が379件あるんですが、事業者さんからの要望などを反映して要件緩和をこれまでに何回が実施しており、緩和後の方が対象費用が多くなるため、それ以前に申請された方が、採択される前に一旦辞退されているんですね。その件数も辞退件数に含まれています。したがい、採択率は高いですね。

コンテンツ業界にここまで大きな助成金がつくのが初めてなので、コンテンツ業界の方も国の助成金を申請するのが初めての方が多く、また、特にプロモーション支援では「(他企業や業種との)連携性」が必要だったり、少し複雑な面があるのは事実です。ですから、事務局側もヒアリング・アドバイスをして一緒に作っていけるような体制(相談会・サービスデスク)を設けています。是非、そのような場をうまく活用していただけたらと思います。

——では、きちんとした目的と基準を満たしていれば、何らかの助成は受けられるということですね。

小山:そうですね。ただ、先ほどお伝えしたように、この助成金は、プロモーション支援の場合は、「連携」が必須(見本市への出展、イベント参加は除く)となっている場合がほとんどです。2社以上で連携して、面として世界に出て行くことが一つの条件になっています。その点に戸惑う事業者さんも多いのですが、アイディア次第では「連携」は意外に簡単に出来ますので、一緒に海外に出ていくパートナーを探してみてくださればと思います。

市井:コンテンツ業界以外の産業との連携も目的としているので、コンテンツを主体もしくは、有効に活用していれば、どの産業でもかまいません。
例えば「東京ガールズコレクション」がシンガポールで行われたんですが、ファッションは助成対象になっていないんです。そこに音楽アーティストが出演することで、音楽を有効に活用したイベントとみなされて認められたわけですね。このように音楽関連の人たちが一緒にやっていける部分ではあると思うんですね。

——そういった解釈もあるんですね。

小山:この企画だと、申請自体はファッション・イベント関連会社です。ファッション・イベントとともに、音楽面での費用も一緒に申請しているというパターンなので、他の産業発の企画に乗るというのも一つのやり方としてありますよね。

——とにかく、一度申請という形で相談に来てくれれば、具体的なアイデアなり指導なりでコンサルティングしてくださるということなんですね。

小山:説明会に参加した方のみになりますが、相談会を実施しています。よく申請者の方が勘違いされるポイントとして、「コンテンツ」の言葉の解釈の違いがあります。一般的に「コンテンツ」は非常に幅広い意味を持ちますがJ-LOPの場合は、支援対象可能な「コンテンツ」の範囲が非常に限られています。そういった初歩的な部分をきっちり説明会でお伝えしております。

——説明会はどれくらいのペースで行われているんですか?

小山:大体毎月2回ほどです。これまでは概要の説明と事例の紹介だけだったんですが、いざ、申請書を書く段階になって苦労される企業さんが多かったので、こういった不満を解消するために、今年から2部制にして、1部はこれまで通り概要の説明と事例の紹介を行い、2部で5種類の添付書類をどのように書いたらいいかを説明するエントリー作成レクチャーを行っています。申請しやすい環境作りは今年に入ってからさらに強化していますので、もし昨年説明会に参加してよくわからなかったという方は、ぜひもう一度参加していただきたいですね。

——説明会は東京以外でも行っているんですか?

市井:北海道、大阪、京都、沖縄などで行っていました。今後も広島で6月25日、福岡で7月に行う予定です。この4月から海外法人を申請できるようになったので、海外でやれないかという話もしています。実際に助成した事業が行われるときに現地へ行くんですが、その都市の日本法人の子会社さんを集めて実施できるといいですね。特に非コンテンツの方、例えば海外進出に積極的な自動車メーカー、家電機器メーカーなどは、現地の方と話をした方がより支援の幅が広がるかなと思っています。

 

野球やサッカーのように世界で勝負するのが当たり前、という土壌を作る

——例え、アーティストがいなくても、コーディネートすることによって大きなプロジェクトを仕掛けることができるわけですよね。そういう志向を持った若い人たちにもぜひ使ってほしいですよね。優れたアイデアを大いに活かすチャンスですし。

市井:実際そういう方たちも相談に来られます。3,000件のエントリーを見ていますと、映画にしてもテレビ番組にしても、元々そういうことを考えていて、機会をうかがっていたところに助成金がフォローウィンドウになって事業が生まれているというケースもあります。

小山:よく音楽業界の方の相談で陥りがちなのが、「このアーティストを海外に出したいから応援してください」という相談なんですが、特定のアーティストを海外で売るというよりも、日本ブームを創出するための助成金なので、ゴールから考えて頂いた方が良い結果に繋がります。日本ブームを創出するためには、どんな企画だったら審査に通るのか、そこに自分たちのアーティストをどうフィットさせるかというように考えて頂けると、実は結構スムーズだったりします。

——事務局のみなさんが想像する理想的な展開というのはどういったものなのでしょうか? 例えば、この助成をきっかけに世界に通用するような人たちが生まれてくるとか。

市井:もちろん世界に通用するスーパースターが生まれれば、というところがないわけではないんですが、例えば、毎年継続してやっていることが、この助成で規模を拡大できたとか、数年ぶりに海外のイベントに参加できたとか、そこに何らかの意味があると思います。金銭的な問題で諦めていた人がもう一回チャレンジできるようになり、そこからまた新しい芽が出てくる。それが最終的に日本ブームの創出に繋がっていくことが理想ですね。一つの案件でブームが創出されることはたぶんないと思います。ただ、皆さんの思考が海外志向に変わっているので、ボディーブローのように、地道に積み重なっているところから一つヒットが出ることにより、皆さんが後に続けるような土壌を作っておきたいですね。

——野球やサッカーはもうみんなが行けるようになっていますからね。日本で売れたら世界で勝負するのが当たり前、みたいな形になってほしいですよね。

市井:成功例がほしいですよね。野球だったら野茂英雄さんが切り開いたという言い方ができるわけですし、一番わかりやすいですよね。

——海外でも通用するんだという実感を僕らはまだ持っていないですよね。日本の音楽はドメスティックな方にどんどん行ってしまっていますし。

市井:音楽だけじゃなく、ドラマもそうですよね。そういう意味では韓国のように全部ではないにしても、海外を意識した音楽作りですとか、アーティスト作りとか、そういうことを意識した形になっていけばいいと思うんですが、日本のマーケットはあまりにも大きいので、全部が全部そうにはならないと思うんですが。

あとは、J-LOPというところからはちょっと外れているかもしれないですが、日本ブームが起こることによって、国家間の交流や関係にも当然ながらいい影響がありますよね。そういうところまで繋がっていったら嬉しいですね。