ライブ会場にいる全ての時間を楽しむ〜複数ライブ映像のリアルタイム ストリーミング アプリ「Live Multi Viewing」インタビュー
WOWOWとTBSテレビは、複数あるライブ会場の映像をリアルタイムにスマートフォンやタブレットで、ストリーミング視聴できるアプリ「Live Multi Viewing」を開発。「SUMMER SONIC 2014」の会場で実証実験を行った。このアプリは、TBSテレビが開発した「低遅延・高レスポンスストリーミングエンジン」を使用しており、遅延がほぼ無くリアルタイムで瞬時にステージ映像を切り替えることができる。入場規制がかかったステージの映像を聴こえてくる音と同時に楽しむこともでき、大変好評だったそうだ。ライブ配信アプリとして、これまでにない特徴を備えた「Live Multi Viewing」の今後の展開について、WOWOW 技術局 技術計画部長 奥野俊彦氏、同社 技術局 制作技術部
神保直史氏、TBSテレビ 技術局マネージメントデスク部 兼 制作技術統括部 藤本 剛氏の3人にお話を伺った。
(Jiro Honda、Yuki Okita)
テレビ局ならではの高い技術力から生まれた「Live Multi Viewing」
——今回が初の実証実験となる「Live Multi Viewing」アプリの機能を教えてください。
奥野:複数あるライブ会場のステージ映像をリアルタイムで、スマートフォンやタブレットに最適化された映像と音で視聴ができるアプリです。例えば、今日のサマーソニックのようなフェスの場合、スタジアムにいながら、屋内のステージなど離れた場所のライブをリアルタイムで楽しむことが出来ます。
各映像は瞬時に切り替えることができ、遅延がほぼ無くリアルタイムで配信可能なのが最大の特徴で、TBSさんが開発した「低遅延・高レスポンスストリーミングエンジン」を使用しています。このアプリを複数のステージがあるフェスで導入したら面白いだろうと思い、今回主催者であるクリエイティブマンさんに提案をさせていただいたところ、「SUMMER SONIC 2014」の会場で実証実験を実施させていただけることになりました。
——このアプリの開発のきっかけというのは?
藤本:テレビ番組というのは複数のカメラで撮影して、リアルタイムでアングルを切り替えて作るんですね。それで、3年程前その技術をアプリでも体験できるようにして、映像のアングルを切り替えて歌番組を制作するというゲームアプリ「iカメラワーク」をTBSで作ったんです。そうしたら、そのアプリの技術を音楽ライブにも使えないかということで、WOWOWさんからお声かけいただきまして、音楽ライブ向けに改良して今にいたります。
神保:WOWOWでもライブ配信アプリというのは手がけていたのですが、マルチアングルで、かつタイムラグの無いリアルタイムという部分で苦労していたので、TBSさんの技術を知りまして、ぜひ一緒に開発しましょうということになりました。
——映像を専門にやられているテレビ局ならではの技術ということですね。開発の期間はどれくらいでしょうか?
藤本:ベースとなるエンジンの開発は半年くらいで、プロトタイプをWOWOWさんに見ていただいて、それからアプリの開発が2ヶ月くらいでした。
——開発時に苦労されたことはありますか?
藤本:とにかく遅延をなくすことと、素早く切り替えるための工夫ですね。あとは限られた帯域の中でも綺麗な映像を出す、ということに注力しました。
新しい映像体験を通してイベントに特色を
——先ほどモニター機を試しているお客さんも「とても便利」「楽しい!」と仰っていましたが、基本は会場に入場している人が楽しむアプリということになりますか?
奥野:基本的には、イベントを会場で楽しむ方々への新しい映像体験提供という位置づけでやっていこうと考えています。
神保:会場のお客さんにもっとイベントを楽しんでいただくことにフィーチャーしてブラッシュアップしていきたいなと思っています。パフォーマンスがリアルタイムで同時に進行していく感覚というのは、会場にいるからこそのものですからね。
奥野:会場以外においての視聴であれば、何十秒かタイムラグがあるVOD(ビデオ・オン・デマンド)等の仕組みは既にあります。「Live Multi Viewing」はそれとは別軸で、リアルタイムならではのサービスとして展開したいですね。
最近フェスもどんどん増えてきているので、例えば「SUMMER SONICだったらこんなアプリが使える」というように、イベントそのものに付加価値を付けるサービスの一つとして、今後はSNSだったり、グッズ情報の機能も含め、いかにそのイベントをより楽しいものにできるかを第一に考えていきたいです。
——フェスの特色を出すものとして、主催者側にとっても喜ばしい仕組みになりそうですね。
奥野:そう思っていただければ有り難いです。
——今日のような巨大なフェスになると数万人が一カ所に集まりますが、その環境においても映像はストレス無く視聴できますか?
神保:そこが会場限定でやっている利点でもあるのですが、アプリの映像や音はスマホやタブレットの電波ではなくて、会場内に専用のwi-fiアンテナを立てて配信しているんですね。ですので、お客さんの人数や使用量に合わせて環境を最適化すれば、映像や音は途切れることなくお届けすることが出来ます。
さらに低遅延ですので、会場で流れている音と映像が合うんですね。広い会場だと、音は聴こえるけどステージは遠くて見えないことってよくあるじゃないですか。あと、ご飯を食べているときとか、入場規制で入れないけどすぐそこで演奏しているとか。そういう時にこのアプリを使えばかなり楽しめると思います。
▲各ステージで収録した映像と音声を「Live Multi Viewing」サーバーに集約。無線wifiを通して専用アプリに配信する。
——さっきイヤフォンでアプリの各ステージの音を聴かせていただきましたが、クリアですね。
奥野:番組用にMIXしている音ですからね。各ステージで映像と音声を作って中継車に集めて、そこから信号をもらっているので、映像はもちろん良い音質も楽しめるアプリになっています。会場内を移動しながら、音だけ聴いて楽しむというのもありだと思います。
様々なジャンルのイベントで新たなライブ体験を提供
——中継するステージ数に制限はあるんでしょうか?
神保:アプリ画面のデザイン次第で制限はないですが、あまり増やすとスマホやタブレットにおいて各ステージの画面が小さくなって見づらくなるので、そこはバランス次第ですね。今回の実験では「MARINE」「MOUNTAIN」「SONIC」「RAINBOW」の4ステージを生中継しているんですが、「MOUNTAIN」ステージは、メインスクリーンの映像以外にも複数のカメラの映像を自由に切り替えられるマルチアングルシムテムを導入していています。
▲「Live Multi Viewing」メイン画面 6種類の映像がリアルタイムで視聴可能
▲マルチアングルシムテム 複数のカメラの映像から好きな映像を選んで見ることができる
——本格運用まではどれくらいのスパンを考えられていますか?
奥野:次はスポーツイベント向けに「Live Multi Viewing」アプリを使いたいと検討してます。今回が第一フェーズで、スポーツイベントでの使用が第二フェーズ、その後に第三フェーズとして何かしらのビジネスモデルに落とし込めればと思っていますね。なので、来年以降を考えています。
——このプロジェクトのキーワードなどはありますか?
藤本:「ライブ会場にいる全ての時間を楽しむ」ですね。
奥野:「新たなライブ体験をお客さんに提供」することです。
——今後は音楽はもちろん、それ以外にも応用できそうなアプリですね。
奥野:仰るとおりで、今回は音楽フェスという場でのテストケースですが、第二フェーズで考えているスポーツイベントや、その他にも様々なイベントなどで展開が可能だと思います。興味を持っていただける事業者さんからもアイデアがありましたら、何でも検討するのでぜひお声掛けいただきたいですね。
神保:そうですね、手作りのシステムなので柔軟に対応が可能ですしね。
藤本:関わっているスタッフも、全員が音楽を盛り上げていきたいなと思っているので、我々の技術でお役に立てることがあれば、色々な方々と一緒にやっていけたらと思っています。