「ライブ、トーク、プレゼンで音楽を楽しむ・知る・考えるエンタメフェス」 YEBISU MUSIC WEEKEND オーガナイザー 大山裕之氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

大山裕之氏

11月1日、2日、3日に、東京・恵比寿ガーデンプレイスの3会場(ザ・ガーデンホール、ザ・ガーデンルーム、STUDIO38)にて、音楽イベントYEBISU MUSIC WEEKENDが開催される。「ライブ、トーク、プレゼンで音楽を楽しむ・知る・考えるエンタメフェス」を掲げる同イベントは、その言葉の通り音楽を軸としたコンテンツがこだわりのあるコンセプトのもとに混在しており、多彩なアーティストが良心的な価格で楽しめるということでも話題を呼んでいる。
「僕はあくまでいち音楽リスナー」と語るオーガナイザーのひとりの大山さんに、イベントについてはもちろん、リスナーの立場から感じるシーン、同世代の音楽体験の現状、昨今のメディアの潮流にいたるまで話を伺った。(Jiro Honda)  

2014年10月17日掲載

PROFILE
大山裕之  


UI・UXデザイナー、音楽ブロガー(Come-In Come-Out)、KKBOXでニュース執筆などの活動を行う。
YEBISU MUSIC WEEKEND / Come-In Come-Out / Twitter

  1. フェスってまだ出来ることがある
  2. 音楽イベント作り あくまでリスナー目線で
  3. 大人の街でカオスなイベント「確信犯的に」楽しんで

 

フェスってまだ出来ることがある

——YEBISU MUSIC WEEKENDは、YOAKEの延長線上に産まれたイベントということですが、大山さんが関わるようになったきっかけは?

大山:YOAKE第一回目のトークセッションに飛び入りで出演させられまして(笑)、そこではじめて現在YEBISU MUSIC WEEKENDの実行委員会として一緒にやっている三人とお会いして、繋がりができました。

——大山さんが音楽イベントに関わっていくモチベーションというのは?

大山:初めのうちは完全に巻き込まれた感じだったんですけど(笑)、フェスってまだ出来ることがあるんじゃないかなという気持ちが出てきましたね。例えば、Coachellaだったらストリーミングのライブ配信とか、SNSでの情報の拡げ方とか、イベントとしてのブランドは既に確立されているにも関わらず、どんどん新しいことへ取り組んでいるのに影響されたというか。

——音楽イベントやフェスとして、まだファンやリスナーに提案できる余地を感じていると。

大山:あと、イベント制作者の中に僕のような音楽業界の外にいる人間の視点があった方がいいというのもあります。しがらみがない分、業界の慣例にとらわれない客観的な意見や考えを、敢えて空気を読まずに提示できると思うので。それが実現できるかどうかは別ですけど(笑)。

——大山さんの本業はWebデザイナーですが、音楽ブログをやって音楽ライターでもあり、音楽メディアSpincoasterのキュレーターだったり、今回のように音楽イベントを手がけていたり、一般の人からすれば音楽の仕事をしている人に見えるかもしれませんよ(笑)。

大山:いえいえ、全然違います。断じて音楽ライターじゃないです…。いち音楽リスナーですね(笑)。

——そもそも音楽を好きになったきっかけは?

大山:もともと実家が自営業なんですが、父親が趣味で写真集だしてたり、母親が日本画やってたり、叔父さんが版画家だったり。親類にサラリーマンがいない環境で育ったんです。それで、みんな家にいて、作品を作っている時は何かしら音楽をずっとかけているので、小さい頃から音楽は生活の中に自然にありました。でも、例えば、学校で「昨日の美の巨人たち見た?」みたいな会話はないじゃないですか、CDTVはあっても。自分の周りで話題になる芸術は音楽が一番多いので、そこに落ち着きました。

——アーティスト一家に育ったんですね。

大山:そういう環境にいるからこその疑問も持ちましたね。例えば個展の開催で、ギャラリーってなんか入りづらくて、来るのは身内ばかりみたいなケースがけっこう多いんです。なので、集客の方法や告知の仕方に関してもっと他にやり方があるんじゃないかなって、子供ながらにずっと思っていました。それで、大きくなって、ライブハウスとか音楽でも似たような問題を抱えてることに気付いたり。

——そういう部分も、今回のイベント作りに活きているんでしょうね。

 

音楽イベント作り あくまでリスナー目線で

YEBISU MUSIC WEEKEND
▲11月の初週末、3日にわたり恵比寿ガーデンプレイスの3会場で開催

——大山さんは25歳ということですが、その前後の世代のみなさんは、上のジェネレーションからのフックアップを期待するというより、自分達は自分達のやり方で好きなことをやる・作る、というような雰囲気がある気がして、大山さんが上の世代の人達とこうやってイベントを作るというのはちょっと意外な気もしたのですが。

大山:やはり世代間で意見の衝突はあります。とはいえ、僕ら若い世代だけでできることにも限界があります。例えば、今回出演いただく細野晴臣さんも、永田さんや渡邊さんが今まで培われてきたコネクションやノウハウがあってこそ出演いただけることになったと思うんですね。そして、細野さんが出演することによってイベント自体の幅も大きく広がったので、上の世代の方々がいないとやはり成立しなかっただろうなと思います。

 なので、僕の立ち位置としては、あくまでリスナー目線でそこにいるということです。リスナーに向けた音楽イベントを作るにおいて、作る側にも純粋なリスナーがきちんといた方がいいですよね。音楽産業自体がリスナーありきのものだと思っているので。

——今東京で開催されているレッドブルミュージックアカデミーのメインビジュアル、サカナクション 山口一郎さんの「未来の音楽を作るのはミュージシャンでもメディアでもなくてリスナーだと思う。」という言葉も印象的ですよね。

大山:まさにそうだと思います。あと、これまでのYOAKEでも、お客さんがトークとライブ両方を体験したらどっちも楽しかったと仰っているんですね。ということは、トークやプレゼンテーションも、リスナーが音楽と同じぐらい楽しめるエンタテインメントになりうる可能性があって、その方向から新しい音楽やフェスが産まれたりもすると思うんです。

——音楽まわりのトークイベントは興味関心のある人が限られているというか、集まる人も出演する人も同じような感じになってしまう傾向もありますが。

大山:なので、今回のYEBISU MUSIC WEEKENDのトークセッションでは、基本的に音楽業界向けというよりリスナー目線で普通に楽しめるセッションを揃えました。

——大山さんからいくつか具体的にトークセッションやライブをご紹介いただけますか?

大山:NPO「Arts and Law」理事の藤森さんによる「今勉強する、音楽の著作権!!!」では、「契約」に焦点を当てたお話をします。著作権よりも、まずその前段階の契約が一番大事なんだよ、というリスナーも裏側がのぞけて、アーティストにとってはタメになる内容になっています。

 他に「個性的すぎる才能とつきあう方法」では、アーティストって個性的だから付き合いづらいとか変わってるというステレオタイプなイメージがあると思うのですが、実はアーティストと上手に付き合って、その良さをさらに引き出すマネージメント方法がありますよ、というのを精神科医の先生とトークするといった特殊なものもあります(笑)。

本田秀夫手島将彦高階經啓
▲音楽イベントに医学博士:精神科医の先生が登壇する

——斬新な切り口ですね(笑)。

大山:あとは、THE NOVEMBERSの小林祐介さんとマーケターの高野修平さんがチームつくりを語るプログラム(「音楽を届ける新時代のチームづくり」)があって、具体的なバンドの取り組みを自ら話す貴重な機会になると思います。ファンから見ても、とても発見のある内容になっています。他にも、レナード衛藤さん、西寺郷太さん、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さん、SuGの武瑠さん、tofubeatsさん、など多くのアーティストのみなさんがトークセッションに出てくれます。

高野修平NOVEMBERSジェイコウガミ
▲THE NOVEMBERSを支える革新的なチーム「MERZ」の姿が明らかに

 ライブの方では、ジャンルというものすら意識していないというか、とにかく楽しめるラインナップを目指しました。細野晴臣さんを観に来た人が、ゆるめるモ!BELLRING少女ハートNATURE DANGER GANGなどを観てハマってくれれば最高ですよね。普通に音楽が好きだけど、実は密かにアイドルやアニソン、ゲーソンにも興味がある人にはたまらないと思います(笑)。現場のライブミュージックをもってして、その場で様々な音楽やアーティストをオーディエンスにレコメンドできるイベントになればいいなと思います。

——音楽を見つけるとか、レコメンド、キュレーションについて、日本だと誰がキュレーターになって発信するとみんなが関心を持つと思いますか?

大山:もはや誰がというより、コンテクストだと思うんです。例えば、ニュースで話題になっている人が選ぶ音楽だったら、違う角度かもしれないけどみんな気になると思うし、ファッションやアート、飲食とかの別のカルチャーの文脈だったり、こういったイベントで実際観て貰ったり。僕の肌感覚なんですけど、有名なアーティストが選んだ10曲だったとしても、もうあまり興味を持ってもらえないような流れになっている気がします。

——大山さん自身は、音楽情報をどこからインプットしていますか?

大山:SoundcloudBandcampで漁っています。

——そういう音楽サービスに山ほど楽曲があるのは知ってはいるけど、どうやって探していいか分からない、という人も多いと思います。具体的な方法は?

大山:音楽ブロガーとか自分なりのフォローしておくべき人が何人かいてそこから辿っていくとかですね。結局キュレーション的なんですけど(笑)。

——音楽リスナーという立場から、SoundcloudやBandcampの他に、最近注目している音楽サービスはありますか?

大山:トークセッションにも出演していただく文原さんが手がける「nana」は面白いですね。録音して誰とでもセッションできるという「音楽コラボレーションアプリ」で、特に10代にすごく人気らしいです。リスナーという立場にいながら発信する側にもなれる部分がすごく良いですよね。Instagramみたいに、受け手が発信者になれる、という部分はムーブメントが起きる要素の一つだと思います。

nana文原 YEBISU MUSIC WEEKEND
▲10代を中心に人気を集める音楽アプリnana

——ニコニコ動画や、すごい勢いで広がっているツイキャスもまさにそうですよね。

大山:あと海外の音楽サービスで好きなのは、音楽ブログを集計してランキングを出すThe Hype Machineですね。リスナーが発信者となってブログを書いて、それが集計されランキングとしてアーティストのフックになるという、つまりこれも「受け手が発信者に」という流れで盛り上がってるんですよね。

 Bandcampの膨大な楽曲の中から音楽ブロガーが良い曲を見つけ出すことによってThe Hype Machineにランクされて、そこから音楽メディアに載ってみんなが知るようになる、みたいな流れがありますよね。

——音楽メディアに関してはいかがですか?

大山:音楽メディアに関しては、モバイルファーストということ、そして今後ますますとてもライトなものかとてもコアなものか、どちらかに寄っていく流れを感じますね。

 ライトな方はラジオ的な方向に行くと思いますし、コアな方だと、例えば米Atlantic Mediaがやっている「QUARTZ」というメディアがあって、そこの「オブセッション」というカテゴリでは、ひとつのテーマに沿って色んな角度の記事があって、そのテーマを深く理解することができるんです。そういうことを音楽でやるメディアがあってもいいんじゃないかなと思います。

——バイラルやキュレーションの次ということで、確かにそういう流れがありますよね。

大山:QUARTZってニュースビジネスをコンテンツ業じゃなくて、サービス業だと思ってやっているんです。デザイン含め読者ファーストで、きちんとユーザーを満足させる、楽しませるという考え方なので、従来のメディアとはそもそものスタンスが違うので、とても興味深く面白いメディアだと思います。

 

大人の街でカオスなイベント「確信犯的に」楽しんで

——便利な音楽サービスが日々登場していて、リスナーが音楽に接するハードルはすごく下がっています。

大山:その流れもあって、過去のカタログと新しい楽曲へのアクセス経路はもうフラットなので、ゼロ年代以降、特に僕らのような若いリスナーは新旧に関係なく良いものは良いという聴き方をしていると思います。音楽へ興味を持つ人が増えているかは分かりませんが、音楽へ興味を持たせる仕組みやきっかけはすごく増えていますよね。

——スマホアプリの音楽カテゴリで無料のランキングをみると、それが良いか悪いかはまた別の話になりますが、「無料で音楽聴き放題」などが謳い文句のアプリが、数百万DLとかされてるのを考えると、音楽好きという人自体は決して減ってはいないですよね。

大山:あとは、そもそも「音楽を買う」という発想があるかどうかですよね。高音質の流れもありますけど、若い世代はとりあえず聴ければいいという層が圧倒的に多いと思います。良い音を体験したくても、例えばハイレゾだと、それを楽しむまでのハードルがとにかく高すぎて、楽しむ前に「分からない、もういいや」ってのが先に来ちゃっている気がします。

——辿り着く前にあきらめてしまう。

大山:本業でWebサービスに関わってる立場からすると、その場ですぐに分かってもらえないものは受け入れられにくくなっています。アプリでも多機能過ぎると、何でもできるが故に、逆にユーザーは何ができるかわからなくなってしまいます。何ができるか明確にすぐ想像できるアプリの方がDLされる傾向にあります。ウェブメディアの記事がどんどん直接的になっているのも同じかもしれません。

——Spotifyでさえも、体験すると良さがすごく分かるけど、前提としてまず音楽ストリーミングとは何か、そしてそれで何ができるか、それなりのインフォメーションやイメージを多少なりとも事前に持っている人じゃないと、まだ普通のユーザーにはハードルが高いかもしれませんね。

大山:イベントもそうで、とにかく一度体験してもらわないことには、僕らがいくら大仰な趣旨やコンセプトを掲げても、それは音楽を純粋に楽しみたい音楽ファンやリスナーからしてみたら関係のないことですから、いかに分かりやすく面白い現場や体験を作ることができるかが重要だと感じています。

——色々なところで言われていると思うのですが、このイベントは内容に比べてチケット料金がかなり購入しやすい設定になっていますよね。

大山:1から10まで全力で楽しむこともできるし、「ちょっと覗いてみるか」ぐらいのテンションで来ても十分に楽しんでいただける料金設定にしています。途中入退場も自由なので、他のイベントや学園祭などのついでに恵比寿にも寄ってこのイベントも楽しむ、というのも全然ありだと思います。ギリギリまで頑張って安くしているので、まだまだボランティアスタッフを募集しています(笑)。

YEBISU MUSIC WEEKEND ボランティア
▲ボランティア・スタッフは、職業、性別、地域、国籍一切不問とのこと

——レジーさんのブログのインタビューで仰っていた「洗練された空間の裏側で実は混沌としたヤバいイベントが行われている。そんな構図を作れたらいい」という発言が興味深かったです。

大山:今年は恵比寿ガーデンプレイスが20周年ということもあって、特別協賛いただいて場所をお借りしているんですけど、恵比寿ガーデンプレイスという「大人の街」な場所で、「ニコニコ超会議」や「FREE DOMMUNE」を意識して若い音楽ファンを中心に様々な人が集まるカオスなイベントを僕らはやります。このギャップがたまらなく面白いと思っています。贅沢を言うなら、お客さんにもそのギャップや空気感を「確信犯的に」楽しんでもらいたいんですね。「恵比寿にいるんだけど、どこか違うところで遊んでる」みたいな、外界と遮断されたカオスな非現実感を感じてもらいたいです。あとで怒られたらどうしよう。

——イベントHPにはSXSWのロゴがありますが、そこを目指しているわけではないのですか?

大山:特に目指してはないですね。先ほどのような、今日本にある「ニコニコ超会議」とかの「ヤバい!」っていうカオスなノリに、もっと音楽をからめた方向性の方が近いと思います。

YEBISU  MUSIC WEEKENDsupporters
▲YEBISU MUSIC WEEKEND supporters

——本当に良い意味で混沌としたイベントになりそうですね。

大山:このイベントで僕らが本当に届けたいのは、「ライブ、トーク、プレゼンで音楽を楽しむ・知る・考えるエンタメフェス」という事だけなんです。これが伝えたいことの全てで、ライブもトークもプレゼンも、それぞれちゃんと面白くなっていますから、ぜひ足を運んでいただければと思います。あと、しつこいですけど(笑)本当にボランティアスタッフを全力で募集しているので、興味のある人はお気軽にご連絡ください!

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