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レコードブームを次のステージへ、世界初レコード特化型ウェブサービス「QRATES」 — TDMS代表 Yong-Bo Bae 氏

インタビュー スペシャルインタビュー

Yong-Bo Bae 氏

音楽配信サービス「WASABEAT」を運営するトウキョウ・デジタルミュージック・シンジケイツ(TDMS)は、アーティストや音楽レーベルがファンディングを利用して自らアナログレコードのプレス製造と販売ができるプラットフォーム「QRATES(クレイツ)」をローンチした。サービスイメージは、「NIKE IDのレコードバーションにKickstarterのファンディング機能を組み合わせた」ようなものだという。その需要に対して、製造のハードルが高いなど、アナログレコードが抱える諸問題をクリアしようとする「QRATES」の試みは、レコード・ブームをさらに加速させることができるのか。TDMS代表 Yong-Bo Bae氏に話を聞いた。

(取材/文:Kenji Naganawa、Jiro Honda)
2015年4月24日掲載

PROFILE
Yong-Bo Bae(ヨンボ・べ)
トウキョウ・デジタルミュージック・シンジケイツ株式会社 代表取締役


2007年にTDMSを設立し、クラブミュージック専門のオンラインストア「WASABEAT」を運営。ダンスミュージックの総合情報サイト「block.fm」の共同ファウンダーでもある。

  1. 日々感じる「音楽無形化」に対する反動
  2. いわばレコード版「NIKE ID × Kickstarter」
  3. 多彩な利用法 アーティストやレーベル工夫次第で
  4. QRATESは日本発のグローバルサービス
  5. 一過性ではないアナログブーム 定着の一助に

 

日々感じる「音楽無形化」に対する反動

——QRATESを構想されるきっかけは何だったんですか?

Yong-Bo Bae:我々はiTunesが始まった翌年2007年からダンスミュージックに特化したWASABEATという音楽デジタルダウンロードストアをやっていまして、現在は10,000以上のレーベルと契約し、約100万曲を配信しています。そういった事業を通じて、アーティストやレーベルと日々接する中で、実はみんな配信というものに対して、そこまで思い入れがないんじゃないか? と感じる機会が多々あったんですね。

 アーティストの立場で考えると、売れてもあまり還元されない、無形なのでアートワークをじっくり見てもらう機会もない、楽曲もスキップされてしまう配信に、こんなことを言うと怒られちゃうかもしれないんですが(苦笑)、アーティストはあまり興味がないんだろうなと思うんですよ。その一方、「音楽が無形になったこと」に対して、モノを作りたくなる、残したくなる反動を現場でひしひしと感じていました。実際、みんなレコードを作りたいって言うんですよね。

——ただ、レコードを作るのはハードルが高いですよね。

Yong-Bo Bae:そうですね。今はネットのレーベルですと、音楽があって、レーベルの名前とロゴさえあれば誰でも配信できます。でも、レコードを作るとなると、それなりの覚悟が必要になりますよね。それで、みんな苦労しながらレコードを作るんですが、作り続けることは本当に大変で、そういった状況をずっと見てきたので、僕らはデジタルのビジネスを手がけつつも、心の中では、レコードを作る何らかの仕組みを作りたいなと、ずっと思っていました。

——なぜレコードを作り続けるのは大変なんでしょうか?

Yong-Bo Bae:今、少しずつレコードが盛り上がっていますが、産業の仕組自体は以前のままなので、製造と流通の部分で明らかにシステムとしてバランスを失っているんですね。アーティストやレーベルが身銭を切って、リスクを負って300枚プレスし、それが全部売れたとしても、現状の仕組みだとアーティストの手元には1円も戻ってこない。海外に流通しても、どんな人が手にとってくれているかも分からないんですよね。ですから、製造と流通に関して、インターネットを使うことで、上手くバランスをとることができるんじゃないかと考えていました。またレコードって事前にお金を集めて作るには向いているんじゃないかとも感じていたので、クラウドファンディングのアイデアが融合し、QRATESの原型になりました。

——QRATESはオープンプラットフォームも特徴の一つになっていますね。

Yong-Bo Bae:ええ。今の時代、特にインディーのアーティストはWASABEATのようなデジタルストアで売りつつも、自分たちで一生懸命SoundcloudにアップロードしてプロモーションしてBandcampで販売していたりしますよね。それで、割とセルフの方ではバズが起きたりするんですが、片やデジタルストアでの販売はスピード感もなくなっていたりして、もはやストアとオープンプラットフォームが乖離している状況なんですよね。

 もちろんWASABEATもストアとして、キュレーションを含めた役割というのは未だあるとは思うんですが、オープンプラットフォームにもすごく魅力を感じていたので、アーティストが直販できるソリューションを提供できないかと思い、資金調達を行ってきました。とはいえ、Bandcamp的なものはすでにあるので、我々はどこで差別化できるかを突き詰めて考える中で、レコードとファンディング、そしてオープンプラットフォームを融合させたプランはどこにもないものだったので、じゃあやってみようと。

 

いわばレコード版「NIKE ID × Kickstarter」

——QRATESの機能や特徴について、ご説明願えますか?

Yong-Bo Bae:QRATESを一番分かりやすく説明するなら、NIKE IDのレコードバーションにKickstarterのようなファンディング機能を組み合わせたイメージのサービスです。レコードをアート作品としてオンラインでビジュアライズして楽しく作りながら、みんなから資金を調達できます。具体的に操作をしながら見ていきましょう。

QRATESでのレコード作成流れ

※以下、各画像クリックで拡大

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QRATESトップページ。

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3Dビジュアライザー ページ。盤面の色は通常の黒やその他の色をはじめ、透明、マープル、スプラッターまで選択でき、それが3Dで表示される。

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インチサイズを選択。

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画面右では、それぞれの作業ごとに自動でコストが計算される(USドルと日本円、ポンドそれぞれで換算)。

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スプラッターの2色指定も可能。

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ラベルもデザインすることができ、オリジナルのアートワークを使用できる。

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スリーブも同様に好きなようにデザインできる。

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デザインが決まったら、トラックを実際に入れて、楽曲を登録。レコードを作るだけではなく、デジタル販売の機能もあり、アナログを売る為のデジタルのプロモーション機能を兼ねている。

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販売に関しては、曲毎に細かく設定可能。もちろん試聴機能もある。アナログオンリーで販売したり、プレオーダーしてくれた人にはダウンロードできるようにしたり、デジタルでフリーダウンロードさせたり、好きな販売方法を一曲一曲コントロールできる。
一つのプロジェクトは、ファンディング形式にしてもいいし、単純にプレスオーダーすることもできる。単価も枚数も全て設定可能(最小ロットは100枚)。テストプレス機能もあり、マスタリングもオンラインで行われる(音源をアップロードすると、翌日にはマスタリングされたものが確認可能)。

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全ての作業が終わり、レコード販売ページが完成。

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カスタマイズできるアーティストプロフィールページ、簡単なSNS機能もついている。

 

多彩な利用法 アーティストやレーベル工夫次第で

——QRATESの3Dビジュアライザは操作しているだけで楽しいですね。

Yong-Bo Bae:ありがとうございます(笑)。この3Dビジュアライザもファンディング機能もスクラッチから自分たちで開発しましたが、QRATESは今までアナログを作ったことがない人にも、簡単かつ直感的に操作できるように設計しました。

 また、QRATESは色々な機能があるオープンプラットフォームなので、使い方もその人次第で、様々な可能性を秘めています。我々が考える主な使い方は3つありまして、まずは、資金や製造、販売も全てQRATESの中で完結させるのが一つ。もう一つは、費用や販路はすでにあるので、プレスだけQRATESで行うパターン。最後が、すでに作ったレコードを同じビジュアルでQRATESで作って、自分専用のストアとして利用するというもの。この3つが考えられると思います。

——QRATESは自由度が高いので、使う人によって可能性は大きく広がりますね。

Yong-Bo Bae:とにかく、まずはビジュアライザでレコード作るとこを楽しんでもらいながら、色々いじって試していただければと思いますね。我々も、QRATESの中だけで全てが完結することを期待しているわけではないので、使いやすいように、好きに利用してもらえれば嬉しいです。

 例えば、300枚を製造するファンディングのプロジェクトをやるとして、QRATESでは特典をつけて100枚を販売し、残りは流通に乗せたり、自分で買い取る事もできますし、レーベルの場合ですと今までのパートナーもいらっしゃると思いますしね。その辺も自分でバランスとりながら調整できます。

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QRATESは日本発のグローバルサービス

——正直ファンディングってなかなか厳しいケースもありますよね。特に日本で、音楽の分野ですと…。でも、QRATESはそこを調節できるのがいいですよね。

Yong-Bo Bae QRATES

Yong-Bo Bae:日本でインディーですとレコード100枚分のお金集めるのも、実はけっこうハードルが高かったりすると思うんです。ですから、そこは世界シェアを前提にサービス展開を考えています。ビジネスとして見たときに、日本だけのサービスではやはり厳しいので、僕らは世界標準のサービスとしてやっていくというのは初めから決めていました。ヨーロッパですとシッピングコストもかからないので、安く作れますし、アジアも現状からするとQRATESのようなサービスに対するニーズがあることは把握できているので、アジアとヨーロッパで勢いをつけてアメリカマーケットへの展開を目指します。

——QRATESでは通常よりレコードを安くプレスできますが、それはなぜですか?

Yong-Bo Bae:我々はチェコとフランスのプレス工場と提携しているんですが、シッピングコストを含めても、利用者の負担にならないような価格で提供できるようにしました。今レコードを作るというのは、製造や流通の産業構造上、本当に仕方の無いことなんですが、どうしてもアーティストへの還元がないに等しい仕組みになっているんですね。でも、QRATESでは海外からの送料を含めても、コストダウンできているので、アーティストへの還元も実現できます。アーティストはそもそも自分たちへの還元がなくてもレコードを作りたかったりしますが、やはり作ったモノに対価があるというのは、そもそもの正しい姿ですよね。この辺も、レコードビジネス自体が盛り上がれば、全体の単価が下がって、今は難しい提携もスムーズに進められのではと思っています。

——余談ですが、現在世界にアナログのプレス工場って結構あるんですか?

Yong-Bo Bae:実は意外とあるらしくて、ヨーロッパにも数十社はあると思います。ただ、どこもフル稼働しているらしくて、我々のような少ないロットで対応してくれる工場を探すのは苦労しました(苦笑)。工作機械も高価ですし、代替できないマシーンもありますからね。そんな中で、我々の話を受けてくれたのが、先ほどお話したチェコとフランスの工場だったんです。

 

一過性ではないアナログブーム 定着の一助に

——なるほど。今後、QRATESをどのように活かしていきたいとお考えですか?

Yong-Bo Bae:レコードビジネスにおいて、ショップのみなさんは重要なポジションにいらっしゃいます。世界中どこでも、ショップにお客さんがついていますし、そこにコミュニティーがあります。ですから、QRATESを通してショップも盛り上げることができたらいいなと思っています。今後の展開として、例えば、世界中のレコードショップと提携を進めて、QRATESに集まったプロジェクトに対し、ショップの人がホールセールプライスで仕入れられる仕組みを構築することなどを考えています。QRATESの中にショップができるイメージですね。海外のスタッフもいるので、そういう実店舗のアライアンスやロジスティクスのソリューションにも積極的にチャレンジしていきます。

——どのようにサービスのプロモーションをされる予定ですか?

Yong-Bo Bae QRATES

Yong-Bo Bae:すでに色々な企画が進みはじめていますが、基本はB to B to Cのサービスなので、まずはとにかくその真ん中のレーベルやアーティストが便利に楽しく使ってもらえるような状態を作り出すことが重要だと考えています。ですから、普通にマスな広告を打ったりということではなくて、今まで培ってきた繋がりがあるので、それを活かしながら、しっかり広めていきたいと思います。すでに、国内外問わず「早く使いたい」と仰って頂いているレーベルさんが多くいらっしゃいますし、アーティストにもテストで使ってもらったら、「こういうのを待っていた!」とすごく喜んでもらえていて、各方面からの期待を感じています。

——今、世界中でアナログが盛り上がっていますが、この状況をどのように見ていらっしゃいますか?

Yong-Bo Bae:世界に続いて日本でもやっとアナログの盛り上がりが来ていますし、新聞の記事でもレコードに関して見かけるようになりました。アメリカの場合は、アナログブームに関して色んな説がありますが、アーバンアウトフィッターズみたいな洋服屋ですごく売れている状況を考えると、デジタルネイティブな若い世代がこの盛り上がりを支えている面が、実はあると思うんですよね。そんな状況の中で、日本という独特の音楽マーケットにおいてレコードがこれからどのように扱われていくのかは、とても興味深いです。

——日本でもプレイヤーなどレコードの再生環境が整ってきたり、レコードストアデイも年々、注目を集めていますね。

Yong-Bo Bae:今は割と購入しやすい価格帯のレコードプレイヤーがたくさんあるんですよね。昔はアンプとか揃えるのが大変だったんですが、メーカーも色々なバリエーションのものを出していますし、気軽にレコードを楽しめるプレイヤーがすごく売れています。アプリでスマホにも取り込めますし、日常でレコードを楽しめる環境はどんどん増えていると思うので、その中でQRATESが世界中のアーティストやレーベル、ショップから使われることにより、レコードビジネスがより盛り上がってくれたら嬉しいですね。