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プラットフォームの巨人、アマゾンが独自レーベルを手がける狙いとは アマゾンジャパン「Amazon Records」設立インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

山下浩一郎氏

「地球上で最も豊富な品揃え」を企業理念として掲げるアマゾンが、音楽・映像レーベル「Amazon Records」を立ち上げた。コンサートライブの実施から3週間以内にお客様にお届けするオリジナルシリーズ「LIVE DIRECT」の販売を始め、アマゾンのプラットフォームを通し、アーティストやクリエイターに発信の場を提供していく。日々多くのユーザーが利用するアマゾンの強みを活かし、どのようにレーベルビジネスを展開していくのだろうか。アマゾンジャパン ゼネラルプロデューサー 山下浩一郎氏にお話を伺った。

(Jiro HONDA)
2015年7月30日掲載
  1. ユーザーニーズに応じながら、アーティストをサポートする
  2. 3週間でライブ音源を届ける —「LIVE DIRECT」シリーズ
  3. レーベルカラー あえて方向性持たず
  4. 世に出るきっかけとしてのAmazonプラットフォーム

 

ユーザーニーズに応じながら、アーティストをサポートする

——「Amazon Records」の設立経緯というのは?

山下:アマゾンは、「地球上で最も豊富な品揃えを提供する」という理念を非常に大事にしている会社で、老若男女すべてのお客様に喜んでいただける品揃えを追求しています。音楽や映像などのパッケージ商品の販売だけでなく、音楽や映像コンテンツも配信していますし、またKindleといった媒体もプラットフォームとして持っていて、流通という側面も含め、お客様の生活に身近なサービスを提供しているのは確かだと思うんですね。

音楽に関しては、日々新しい作品が発売される一方で、廃盤になってしまったり、在庫が切れて市場から姿を消してしまう作品も多数あります。お客様が「最後の砦」としてアマゾンに作品を探しに来ていただいた時に、そこでご要望にお応えできないということはやはり本意ではありませんので、我々自身で制作・製造、販売の全てに関わり、できるところからやっていこう、というのが今回のレーベル設立のきっかけですね。

AmazonRecord ロゴ

——プラットフォーマーがコンテンツ/ソフトを作る流れは世界でも進んでいますね。

山下:最近、アーティストやクリエイターが活躍できる場をどのように提供できるかが音楽や映像の世界で重要な課題になっていますし、我々もそれについては検討を重ねてきました。例えば、アメリカでは既にオリジナルドラマや映像作品の制作を行う「Amazon Studios」を運営しており、クリエイターが才能を発揮できる場所も用意しています。またそこで制作された作品を「Amazonプライム」と称する会員向けに配信したり映画配給会社などに買っていただくというディストリビューションも行っています。

米国Amazon.com 20周年の前日にあたる7月15日には、「Amazonプライム」会員向けにAmazon最大のセール「プライムデー」を世界9か国で実施しました。このイベントのために、オフィスオーガスタ所属の新人ソングライター 松室政哉さんが書き下ろしたキャンペーンソング「Happy Prime Day」をAmazon.co.jp内デジタルミュージックストアにて無料配信したんですが、情報解禁となった7月6日より10日連続で、Amazonの無料ダウンロード1位を記録しました。今後もこのような取り組みを通して、Amazonサイトをプラットフォームに、魅力的なアーティストを広く知っていただくきっかけを創れたら良いなと思っています。

Amazon最大のセール「プライムデー」

——海外のアマゾンにも音楽レーベルというのはあるんですか?

山下:このAmazon Recordsがアマゾンにおいて世界初の音楽レーベルになりますね。日本発、世界初です。今回レーベルを設立するにあたって、我々のディスク・オンデマンドというサービスも活用しています。これは2013年に立ち上がったサービスで、お客様のオーダーに応じてアマゾンでCDやDVDを製造・販売して出荷するという仕組みです。ジャケットや音源をアマゾンのサーバーに入れていただきますと、在庫リスクなく、またロット数にも左右されず一枚からでも販売できるので、こうしたリソースを活用することで、他にはないレーベル運営が可能になりました。

——Amazon Recordsのコンセプトを教えてください。

山下:ひと言で言えるようなスローガンはありませんが、「音楽と映像の楽しさを伝える」こと、「音楽と映像に出会う機会を提供する」ことが、このレーベルの目指すところです。

 

3週間でライブ音源を届ける —「LIVE DIRECT」シリーズ

——第1弾タイトルは、ビルボードライブ(阪神コンテンツリンク)と提携したライブ音源ですね。

山下:ライブ市場が成長し続けていることもあって、「臨場感のある体験」に対するお客様のニーズの高まりを感じていました。この「LIVE DIRECT」シリーズは、ライブが行われた日から3週間という短いスパンで商品化し、お客様に届けるという企画です。臨場感のある音楽を、高い品質で可能な限り早く届けることにチャレンジしています。

——まさに「DIRECT」ですね。

山下:ビルボードライブさんでは、「Billboard」という信頼あるブランドのもと、日夜著名なアーティストが出演し、素晴らしいライブを行われています。ライブミュージックというお客様ニーズに応える音楽を提供する上で、好ましいパートナーなのではないかと考え、ご一緒させていただくことになりました。ビルボードライブさんとしても、実際の来場者の方だけでなく、より多くの方に質の高いライブミュージックを聴いていただきたいという想いがあったようで、お互いの考えが合致しました。

——どうして3週間なのでしょう?

山下:ライブで録音した音源そのままでいいのであれば、もっとスピーディーに出すことはできますが、それだと品質が保てないんですよね。プロデューサーをのもとしっかりと音を作り、確認をしながら丁寧に制作するとなると、3週間が最短のスケジュールになります。

——まず、H ZETTRIO、オルケスタ・デ・ラ・ルス、手話のダンスパフォーマンス・グループHAND SIGNの3作品をリリースされました。どのような理由からこの作品を選ばれたのでしょうか?

山下:HAND SIGNはご存じでしたか? 手話でダンス・パフォーマンスをする非常にユニークなアーティストで、神奈川の平塚を拠点に活動しています。活動を続けるうちに、手話が教育において重要視されはじめ、今ではテレビ番組に出演し手話を教えたりもしています。手話とダンスを通じて、ろうあ者の方にも音楽の魅力を感じていただきたいと願い、活動しているんですね。ダンスミュージックって体にズンズン響きますから、全身で音楽を体感できるんです。彼らのパフォーマンスは本当に素晴らしくて、ニューヨークの名門アポロシアターでも高い評価を受けているんですよ。こういった新しい分野を切り拓こうとチャレンジしているグループなので、我々としてもできるだけ多くの方に知っていただきたいということで今回リリースさせていただきました。

HAND SIGN「Tracks of HAND SIGN [CD+DVD]」
▲HAND SIGNのライブを収録したCD+DVD作品。映像全てに歌詞字幕がついている

——言葉の壁もありませんし、グローバルに展開できますね。

山下:恐らく、世界でもあまり類を見ないグループではないかと思います。とはいえ、HAND SIGNのように非常にオリジナリティあるアーティストであっても、パッケージ市場は縮小を続けていますから、音楽パッケージで全国販売するとなるとかなりハードルがあるんですよね。そこで、我々は先程お話ししたディスク・オンデマンドの仕組みを活用することで、音楽ジャンルにとらわれず、個性あるユニークな作品を、グローバルかつ在庫負担のリスクなどを低減してお届けしようとしているのです。Amazon Recordには、そういった側面もあるというところもぜひ皆さんに知っていただきたいですね。

——H ZETTRIO、オルケスタ・デ・ラ・ルスについてはいかがでしょうか?

山下:オルケスタ・デ・ラ・ルスは、世界的にも評価の高いバンドで、且つライブを精力的にやられているというスタイルが、Amazon Recordsにぴったりだなと思いました。素晴らしい音、ライブ感、そして熱気を3週間以内に届けるためには、まずはアーティストの方々に理解していただくことが不可欠です。「自分達が納得する音を商品化するには、最低3ヶ月はかけて欲しい」とアーティストに言われたら、LIVE DIRECTのコンセプトが損なわれてしまう。我々の目指す方向性や強みなどを理解いただけ、かつお客様に喜んでいただけるような良い音と臨場感をお届けできるアーティストを検討した結果、まずオルケスタ・デ・ラ・ルスとH ZETTRIOにお声掛けしました。

Orquesta de La Luz Billboard Live 2015 [LIVE DIRECT]
▲Orquesta de La Luz 2015年5月6日のBillboard Live公演を収録

——そもそものパフォーマンスのクオリティが高いからこそ、できることでもありますよね。

山下:それももちろんありますね。あと、ライブ当日は会場にフライヤーを置き、その場でライブ音源の予約開始を受け付けたところ、非常に高い割合でご予約いただきました。一般的にライブ音源は録音されたとしても作品としていつ発売されるのかわかりにくいですが、Amazon Recordはリリースする日を約束しており、今観たライブの興奮を3週間後には再び味わえます。音源を聴いて、改めてライブを追体験することができるという点は、購入動機を強く刺激する一つになるのではないかと思います。

——実際に足を運んで会場の空気感も分かっているので、当日の体験が鮮明に甦りますね。

山下:おっしゃる通りだと思います。また、会場まで来ることができないファンの方にも、アマゾンのプラットフォームを使うことで、一期一会でしか体験できなかった素晴らしいライブミュージックを全国どこでもお届けすることが可能です。

H ZETTRIO 「DYNAMIC! Tour 2015」 Billboard Live 2015 [LIVE DIRECT] CD
▲H ZETTRIO 5月3日「DYNAMIC! Tour 2015」Billboard Liveのライブを収録

 

レーベルカラー あえて方向性持たず

アマゾンジャパン ゼネラルプロデューサー 山下浩一郎氏

——レーベルの音楽的な方向性というのはありますか?

山下:基本的には、「お客様が求めているものすべて取り扱う」というスタンスでいますので、ジャンルなどは限定せず、多様な作品を販売していく予定です。あえてレーベルカラーを作らないというのが特色だと考えています。

——では、音楽以外の作品をリリースする可能性もあると。

山下:既にヨガのレッスンDVDを発売しています。有名なヨガインストラクターである吉川めいさんが監修した作品が8年前に発売されていて、それがずっとAmazon.co.jpで売れ続けていたんですね。ヨガに関心を持っているお客様がこれだけいるんだということで、吉川さんにアプローチしたら「私も新しいものを作りたいと思っていました」と言ってくださって、新しいコンセプトも取り入れた新作を一緒に作ることになりました。

「朝昼夜の20分ヨガ for Health & Beauty」
▲「朝昼夜の20分ヨガ for Health & Beauty」簡単で実用的なヨガプラクティスを紹介

——マーケティングは、やはり膨大なデータを持つアマゾンは一日の長がありますよね。

山下:販売データは、お客様のニーズや商品の販売予想を把握する上で参考になりますね。

——アマゾンにおいて、売れる音楽のジャンルがあったりしますか?

山下:特定の売れるジャンルがあると言うより、アマゾンじゃないと手に入らないものがあり、それをお届けしているという方が正確かもしれないですね。世の中で人気のあるアーティストはアマゾンでももちろん売れますが、アマゾンでしか手に入らないものも数多くあると思いますので。

——今後どのような作品のリリースを予定されていますか?

山下:眠っているお宝音源やお宝映像は、きっとお客様に喜んでいただけると思います。記録アーカイブとしての音や映像はあるけども、商品化していないというケースは多く、ニーズがあると思います。新作だけでなく、廃盤になってしまった作品や世の中であまり知られていない素晴らしい作品の掘り起しなども積極的に行っていきます。

——デジタルへの展開はいかがでしょうか?

山下:配信もやっていこうと思っています。AmazonインスタントビデオなどのサービスやKindleなどのデバイスを含め、販売方法やチャネルをたくさん持っていることは、アマゾンならではの強みですからね。

——今後、レーベルとしてプロダクション機能を兼ね備えるご予定は?

山下:まだ予定としてはありませんが、まずはとにかくレーベルとして基本的な機能をしっかり整えて、アーティストやクリエイターの方に認めてもらうことが一番大事だと思っています。

 

世に出るきっかけとしてのAmazonプラットフォーム

アマゾンジャパン ゼネラルプロデューサー 山下浩一郎氏

——アーティストやクリエイターにはAmazon Recordsをどのように認識していただきたいですか?

山下:Amazon Recordsを通じて、アーティストが広く世の中に知っていただけるきっかけを作れればと思っています。「アマゾンのプラットフォームを使って世に出ていってもらう」というイメージですね。アーティストにとっては素晴らしい作品を作ることももちろんですが、視聴者との接点を広げ、「まずは聴いてもらうこと」が大事です。制作から販売まで一貫して、アーティストが世に出るためのサポートを我々の方で提供できれば何よりだと思っています。

まだ構想段階ですけれども、例えば、毎月アマゾンのサイトでアーティストの魅力を紹介し、そのアーティストの認知や人気が高まった時に、お客様と一緒になってアーティストをさらに次のステージへ後押しするようなインタラクティブ性のある企画とか。作品の販売だけではなくて、プロモーション面でもサポートできるといいですね。

——Amazon Records発のヒットが出る可能性もあるかもしれませんね。

山下:そうなったら最高ですね(笑)。発信する機会を作ることに制限はないですよね。従来型の新人発掘オーディションのような世に出るための仕掛けづくりではなくて、既に活動しているアーティストの魅力をお客様に知っていただき、お客様と一緒に後押ししていくことが大事かなと。

——最終的な選択をお客さんに委ねると。

山下:そもそも我々が選ぶこと自体、おこがましいと思っていて。実際は、作品を手にする音楽ファンの方たちこそが主体じゃないですか。アマゾンのプラットフォームにアーティストがやってきて、お客さんがそれを見て、いいと思ったら応援するような仕組みを作っていければ、チャンスは限りなく広がると思います。我々は世界中にサービスを提供していますので、アマゾンジャパンから世界へ発信していくことも考えていますし、反対に、海外のアーティストたちが日本のフィールドで活躍できるような環境を提供することもできると思います。

——海外のアーティストをAmazon Recordsでリリースすることもありえる?

山下:もちろんやっていきたいですね。音源さえあればいいので、世界のあらゆる音楽を集めたいと思っています。将来的には世界中の音楽が聴ける、買える形にしたいですね。

——最近はアーティスト自身がどんどんクレバーになってきていますし、そういったアーティストのニーズに合ったレーベルのように感じます。

山下:昔はほとんどプッシュ型だったので、売る側が「これを聴いてください。これはいいものですよ」というスタンスで提供していたと思うんですが、これだけ情報が溢れて、人の好みも多様化している現在、こちらが選んで提供すること自体がもはや難しいと思うんですよね。時代が変化しているのであれば、その多様性全てに応えていき、そこからみんなに魅力的な音楽やアーティストを発見していただく方が、今の時代の流れにあっているのかなと思います。

——Amazon Recordsは音楽業界でどのようなポジションを目指されますか?

山下:アマゾンというプラットフォームをもつレーベルということで、誤解される方もいらっしゃるかもしれませんが、我々は活動を通じて音楽の楽しさを提案し、音楽シーンやを一緒に盛り上げていくことが非常に大事だと思っています。そのためにも、様々なアーティストや企業の皆様とパートナーシップを組み、業界を盛り上げるために、協力・補完しながらやっていきたいと考えています。我々が持っている仕組みをどんどん活用していただいて、一緒に多様なプロジェクトを実現できればいいですね。