「dヒッツ」で幅広いユーザー層に音楽との出会いを提供 株式会社レコチョク 執行役員 板橋徹氏 インタビュー
2015年に入り続々と定額制音楽配信サービスがスタートし、CDやアラカルトダウンロードに次ぐ新たな音楽サービスとして存在感を増してきている。それに先駆けて2012年からサービスを提供している「dヒッツ powered by レコチョク」は、レコチョク協力のもと、NTTドコモが提供するスマートフォン向け定額制音楽配信サービス。ラジオ型をベースとしたハイブリットモデルで既に会員300万超を獲得しており、今も順調にユーザーを増やしているという。同社執行役員 板橋徹氏に話を訊いた。
受け身でも楽しめる「ラジオ型」でサービスを提供
——dヒッツはどのような経緯でスタートしたのでしょうか?
板橋:もともとレコチョクとドコモはフィーチャーフォン時代から一緒に音楽サービスを提供しているのですが、dヒッツも同様にドコモと協業で運営しているサービスとなります。
レコチョクは着うたや着うたフルの頃から、新しい音楽体験を提供することを事業ドメインとしています。我々は音楽市場をさらに最大化させるために、新しい体験や商品を提供していこうという意識を常に持っています。
まず2010年12月にフィーチャーフォン向けアラカルトのダウンロードサービス「ドコモマーケット MUSIC ストア powered by レコチョク」(現在のdミュージック)をドコモと協業で立ち上げ、翌年10月にスマホ向けダウンロードストア「dミュージック」を開始しました。
その後通信環境も整備が進み、スマホの使用用途が拡大するにつれて、もっと新しいアーティストとの出会いを日常的に楽しんでいただけるようなサービスを作ろうということで、2012年7月、我々がセレクションしたプログラムを定額300円で聴けるストリーミング形式のサービスとして「MUSICストアセレクションpowered by レコチョク」(現在のdヒッツ)をスタートさせました。
——当時は定額制サービスそのものがあまり無かったので、ユーザーやレコード会社の理解を得るのには苦労されたでしょうね。
板橋:そうですね。当時は定額制に対する理解は、まだまだだったかもしれません。さまざまなサービスがスタートし、ようやく定額制に対する理解も進み、認知も高まってきたなと実感しています。
——dヒッツをラジオ型のサービスとしたのは?
板橋:先にスタートしたdミュージックのサービスを分析すると、レコチョクで楽曲ダウンロードしている方とはユーザー層が全く違うことが分かったんです。レコチョクのユーザーは音楽に対する感度が高い方が多く、dミュージックにはどちらかというと音楽のライトユーザーが集まっていたんです。
この結果を受け、dヒッツは、音楽のミドルからライトユーザーが受け身でもお楽しみいただけるサービスを提供しようということで、セレクトされた楽曲プログラムで楽しむラジオ型のストリーミングサービスとして設計しました。
日本人のニーズに合わせたハイブリットモデルに
——そこからdヒッツにmyヒッツ機能(毎月10枠まで自由に楽曲を登録できる機能、2014年追加)が導入されてハイブリット型になりました。
板橋:ラジオ型としてサービスをスタートしましたが、やはり自由に好きな曲も聴きたいという要望があったんです。
プログラムで流れてくる曲からいつでも聴きたい楽曲を登録する方法で、月額500円のプレミアムプランで、通常のdヒッツの機能に加え、月10曲まで好きな曲を聴けるというハイブリットなサービスとしてお楽しみいただけます。
——myヒッツの導入でMAUもかなり伸びたと聞いたのですが。
板橋:楽曲プログラムも増やしていきましたが、myヒッツによってdヒッツの楽しみ方の幅を広げることができたのかなと思います。
日本は欧米に比べると、音楽を聞き流すというだけでなく好きな音楽を好きなときに聴きたいというニーズも高いようですね。
——ワンコインで収まる価格帯もユーザーの理解を得やすい?
板橋:iモードで月額のサービスを開始したパイオニアとして、ドコモの過去のマーケティングデータやノウハウを参考にともに検討した結果、500円という価格設定になりました。
音楽ライトユーザーをターゲットとすることはすなわち、幅広い層にリーチしなければならないということなので、最適な価格を考慮しユーザー数を増やしていけるサービスを目指しています。
今年は、J-POPのシングルやアルバムの先行配信もはじめ、音楽ファンが聴きたい楽曲をいち早く聴けるサービスであることもアピールしています。例えば、「POWER PLAY」と名付けてトップページで展開し、アーティストや楽曲の魅力を打ち出すなど、新しい試みも始めています。
競合他社やアーティスト、足並みを揃えて市場を作る——現在の会員数は300万人を超えていますが、プラン別の割合をお伺いしてもいいですか?
板橋:当初は300円のプランのユーザーが多かったのですが、途中で逆転しまして、現在はだいたい300円プランが100万人、500円プランが200万人という割合になっています。
——dヒッツはドコモ以外のキャリアでも利用できるんですよね。
板橋:はい、利用いただけます。dヒッツはドコモの店頭で認知していただく割合が高いこともあり、ユーザーの方はドコモが多いですが、今後は他のキャリアの方にもご利用いただくよう訴求していく予定です。現在オンエアされているCMでも、「ドコモじゃなくてもOK」とうたっています。
——ラジオ型のサービスは、国内でも複数ありますね。
板橋:音楽市場を最大化して、さらに音楽を楽しんでもらいたいという想いは、ベクトルとして音楽事業者共通のものだと思っているので、2015年に多くの定額制音楽配信サービスがスタートし、普及しているという環境は、我々にとっても音楽ファンにとっても大変よい状況だと思います。
——確かに、今はようやくストリーミング市場が立ち上がりはじめた段階ですね。
板橋:これまでなかなか配信許諾をいただけなかったアーティストさんから許諾をいただけるようになるというケースもでてきていますし、各方面でストリーミングに対する理解度は高まってきたかと思っています。
定額制音楽配信の市場を作るという意味では、今後も許諾が進んでいくことを期待したいですね。
競合他社やアーティスト、足並みを揃えて市場を作る
——現在の会員数は300万人を超えていますが、プラン別の割合をお伺いしてもいいですか?
板橋:当初は300円のプランのユーザーが多かったのですが、途中で逆転しまして、現在はだいたい300円プランが100万人、500円プランが200万人という割合になっています。
——dヒッツはドコモ以外のキャリアでも利用できるんですよね。
板橋:はい、利用いただけます。dヒッツはドコモの店頭で認知していただく割合が高いこともあり、ユーザーの方はドコモが多いですが、今後は他のキャリアの方にもご利用いただくよう訴求していく予定です。現在オンエアされているCMでも、「ドコモじゃなくてもOK」とうたっています。
https://www.youtube.com/watch?v=lLVBIVMVPx0
——ラジオ型のサービスは、国内でも複数ありますね。
板橋:音楽市場を最大化して、さらに音楽を楽しんでもらいたいという想いは、ベクトルとして音楽事業者共通のものだと思っているので、2015年に多くの定額制音楽配信サービスがスタートし、普及しているという環境は、我々にとっても音楽ファンにとっても大変よい状況だと思います。
——確かに、今はようやくストリーミング市場が立ち上がりはじめた段階ですね。
板橋:これまでなかなか配信許諾をいただけなかったアーティストさんから許諾をいただけるようになるというケースもでてきていますし、各方面でストリーミングに対する理解度は高まってきたかと思っています。
定額制音楽配信の市場を作るという意味では、今後も許諾が進んでいくことを期待したいですね。
編集部を立ち上げ楽曲プログラムを強化
「dヒッツ」トップ画面
——dヒッツのプレイリストはどのように作成しているのでしょうか?
板橋:今年はストリーミングサービスにとって重要な年ですので、我々もプレイリストの強化を図るために「編集部」という部門を新たに設立しました。
もともとプレイリストの編集担当のチームはありましたが、さらに本腰をいれて取り組んでいくという姿勢を内外に示すためにも、改めて部門という形にしました。この部門が、楽曲プログラムの作成やアラカルトの面出しなど、全てのサービスの楽曲編成を統括しています。また、7月から「クリエイターズプレイリスト」というレコメンド機能も始めました。
プレイリストの作成では、伊藤政則さん、富澤一誠さんをはじめミュージシャンや音楽業界、各界の有識者の方にもご協力いただいています。
——レコメンド機能も強化されていっていますよね。
板橋:はい。ソケッツさんにもご協力いただきながら、彼らが持っているデータベースに、オリジナルの要素とこれまで培ってきたアラカルトダウンロードの購買履歴等をロジックとして入れるなどして、さらに精度の高いレコメンド機能を目指しています。お客様が聴きたい楽曲、昔聴いていた楽曲に簡単に出会えるようなレコメンド機能の充実や、お客様の利用履歴から、一人ひとりに最適化した選曲を提供するパーソナライズレコメンド機能「あなたにおすすめ」なども提供をはじめました。
——音楽配信において、ドコモやレコチョクは膨大な顧客動向のデータをお持ちでしょうね。
板橋:着うた、着メロ時代からですからね。そういったノウハウから分かる最も大切なことは、やはり「音楽との出会い」なんです。まず出会いそのものがないと、どんどん音楽ファンと音楽との距離が離れていく。
「音楽を卒業」とかって言いますよね。社会人になって仕事が忙しくなって、さらに家庭ができると、音楽に触れる機会が無くなってしまう。音楽との出会いが止まってしまうんですよね。
ですが、お気に入りの音楽に出会いさえすれば、もう少しCDを買ってみたり、ライブに行くようなケースもあるでしょうし、そんな「受け身だけど音楽好き」な音楽ファンにいかにリーチするかが大切になると考えています。
「好きなアーティストや楽曲に出会って、リピートして、共有する」というミュージック・エクスペリエンスそのものは、時代を問わず変わらないものだというのは分かっていますからね。
——人間はそもそも音楽が好きだと。
板橋:実は、以前、音楽が嫌いと言う人は日本に何人いるんだろうって、調べたことがあるんですが(笑)「音楽が嫌いです」という人はやっぱりいないんですよ。
音楽の価値自体も下がっていないんです。ライブ市場は拡大を続けているし、カラオケ市場も落ちていない。「音楽の体験」においては新しいものを提供出来ていると思います。ただ、シンプルに音楽を「聴く」という行為に関しては、まだ何か新しい価値を提供できる余地があるような気がしますね。
——音楽が新しい価値を持つには、今後テクノロジーとの連携が不可欠になってくると思います。
板橋:弊社では2014年にマーケティングリサーチや次世代のサービスを開発する「レコチョク・ラボ」という研究機関を設立していまして、9月から、よりテクニカルにシフトしようということで、体制を変更しました。おっしゃるように、今やテクノロジーの進化なくして本当に新しいサービスの提供はできないと考えています。
音楽の指向性に合わせ全方位でサービスを展開——レコチョクとしては、定額制のストリーミングだけでなく、幅広くサービスを提供されていますよね。
板橋:我々のサービスは、アラカルト、定額制のラジオとオンデマンド、そして、CD購入へのリンクもいれると、フィジカルからデジタル全てに及んでいます。
音楽の指向性というのは個人によってバラバラなので、我々サプライヤーは音楽ファンそれぞれの音楽の楽しみ方にあわせて、その全てを用意するという形で今後もサービスを提供していきたいと考えています。
レコチョクは事業として音楽中心でいくと決めています。昨今の音楽産業の状況から考えると険しい道のりではあると思いますが、使命感を持って取り組んでいきます。
——今年は音楽に関する報道も増えました。
板橋:定額制モデルを多くのメディアが報道していることは非常に良い傾向だと思います。音楽への関心そのものが高まりますし、「こんなサービス始まったよ」「このアーティスト面白いね」と、話題のきっかけになりますからね。
——最後に「音楽は無料が当たり前」という意識を持っているユーザーが多くいる現状についてどうお考えですか?
板橋:過去にヒアリングをした際、dヒッツをアクティブに使っているユーザーも、割とYouTubeで音楽を聴いているという結果がでました。これを事実として、ネガティブに考えるよりも建設的な思考をもって、最初の音楽との出会いのハードルは低いけれども、例えばYouTubeと有料サービスを上手く繋ぐなど、そこからさらに深く興味を持つことができるような仕組みを設計することが今後大事になってくるでしょうね。
音楽を発見して、気に入って、お金を払って、繰り返し聴いて、共有する。この流れを、いかに上手く線として繋げることができるか。そこを音楽業界全体で協力しながらしっかり作り上げていきたいですね。
関連リンク
関連リンクはありません