世界における “日本音楽の機会損失” を防ぎたい — 音楽配信プラットフォーム「CI」の日本展開
ロンドンに本社を構えるCI社は、2002年にサービスをスタートし、現在はアジアを含む全大陸のクライアントにサービスを提供している。「デジタルプラットフォーム」というそのサービス詳細は下記インタビューを参照していただきたいが、「全世界の配信事業者へ効率的かつ経済的にデータ配信」することをミッションに掲げるCIは、グローバルの独立系レーベルにとっては欠かせないサービスの1つになっているという。「今後は日本にもコミットしていきたい」と語るCIのHead of Business Development Summer Kim氏、日本ビジネス担当 福山泰史氏。先日来日したタイミングに話を聞いた。
What is CI?
——まずCIがどのような事業を行っているのか簡単にご説明頂きたいのですが。
Summer:CIは、楽曲権利者がSpotifyやiTunesのような音楽配信サービスに楽曲を送る際、そのデジタルデータのデリバリーをアグリゲーターの様に代行するのではなく、楽曲権利者自らがデリバリーを実現できるプラットフォームをサービスとして提供させていただいております。
例えば、CIは世界の約250社の音楽配信サービスと提携していますが、我々のようなサービスをもし利用せずに配信しようとすると、250社分の各メタデータを作らないといけなくなります。iTunesだったらWAVファイルだったりロスレスだったり。CIはそういったエンコーディング作業の代行なども含め、一元管理されたメタデータ、アートワークを管理しています。
福山:今までは大きい音楽会社じゃないと、各配信サービスと直接契約ができませんでした。でも、インディーズだからといってカタログ力がないわけではないですし、インディペンデントからビッグヒットが生まれる世の中にすでになっていますよね。
ロイヤリティの部分でもようやくインディペンデントが同じ交渉のテーブルに立てるような配信サービスが普及している中、彼らが楽曲を効率的かつ経済的に納品できるようなサービスとして、CIが存在しています。
——個人でもCIを使うことができるんでしょうか?
福山:もちろんできますが、個人として各サービスと契約を結ぶ時のためにTUNECOREなどのサービスが存在しているのかなと思います。なので、TUNECOREは「アーティスト・アグリゲーター」と見なされているんですね。もっと分かりやすく言うと、CIみたいなサービスは「レーベル・アグリゲーター」という位置付けですね。アーティストが使うのがTUNECOREで、レーベルが使うのがCIという感じでしょうか。
CIの事業イメージ(1)
CIの事業イメージ(2)
——CIの収益構造はどのようになっているのでしょうか?
福山:我々のビジネスモデルとしては、楽曲ファイル、アートワーク、メタデータのマスターを保管するサーバースペースだったり、各サービスに送るルートを提供する部分で、1楽曲につきいくらという月額課金モデルになっています。
楽曲の売上に対して手数料をいただくことはありませんし、ダウンロードやストリーミングの各サービスからの支払いは直接楽曲権利者に支払われます。
——仲介を行っているというわけではないんですね。
Summer:そうですね。我々が行うのは、楽曲データのデリバリーやアップロード、ダウンロード、保管などですね。
それと、今後、Amazon EchoなどIoTのハードウェアやウェアラブル端末等々、色んな所で音楽が流れる時代になっていく中で、そういうものに耐えうるアートワークの保存の仕方だったり、楽曲データの持ち方、メタデータの管理の仕方というところで、実は海外ではフォーマットの統一化を図るDDEXという団体があるんですね。CIはその発足メンバーの一社であり、今後どのようにメタデータを発展させていくか、そういったところにグローバルレベルで貢献しています。
日本の音楽をもっと世界へつなぐデジタルプラットフォーム
——CIは何社ぐらいの独立系音楽会社が利用しているのでしょうか?
Summer:ベガーズやPIAS、Kobaltをはじめ、世界中の約5,000レーベルと仕事をさせていただいています。
福山:ソニー、ユニバーサル、ワーナーなどのグローバルメジャーは、カタログが大きく且つ、グローバルに人気がありますから、世界中の配信事業者と交渉がやり易いわけです。しかしカタログが小さいインディペンデントは、配信事業者と交渉するにあたって束にならないと難しいんですね。そこをまとめて交渉を行っているのがマーリン・ネットワークスで、CIはそのマーリンとも提携しています。
マーリンは「交渉はやるけど、ファイルのやり取りは会員のあなたたちが責任を持ってやってください」という方針なんですね。でも、配信事業者としては、マーリンを通して交渉が済んでも、楽曲データがレーベル自社のそれぞれバラバラのフォーマットで送られてきたら困るわけです。そういったときに、CIでは、マーリンが契約している配信事業者向けに適切なフォーマットを用意していますので、マーリンもレーベルに対してCIの利用を推奨してくれています。
——CIの競合はいるんですか?
Summer:楽曲をアグリゲートしている事業者さんと競合している部分もありますが、むしろ我々としてはディストリビューターやアグリゲーターらに対して「彼らの事業のバックエンドを支えるサービスを提供しているんだ」という意識でいます。
例えば、アグリゲーターがレーベルから楽曲を預かり、メタデータを打ち込んで色んなサイトのフォーマットに合ったものをそれぞれ用意している現状がある中で、CIの場合は1回打ち込めば250社に対応できるという大きなメリットがあるわけです。そういったところで、例えば日本のディストリビューターにも、サービス導入をご検討いただけるのかなと思っています。
福山:そもそもCIのようなサービスへのニーズって日本ではなかったと思うんですよ。ストリーミングもダウンロードも、今まではレーベルが各サービスにCDを送って、各サイトが自社でメタデータの作成を代行していましたからね。
そういう時代からちょっとずつ「全世界の配信事業者に楽曲を送ってみようか」という流れになって来たのは、本当に最近の話だと思います。
——日本の音楽を海外に出していくに当たって、CIが果たすであろう役割は大きい?
Summer:そう思います。先ほど申し上げた約250社については技術的な繋ぎ込みが終わっていますし、CIを介して世界中の配信サービスの担当者を紹介することもできます。貢献できることはこれから多くあると思います。
——CIを利用している日本のレーベルはありますか?
Summer:まさに今ちょうど何社かと話している最中で、交渉中です。
福山:レーベル側からも「海外のサービスに送りたい」といった相談をすでに受けています。グローバルメジャーレーベルに関しては、自社でデータを送るためのプラットフォームを持っているんですね。CIはインディーズでないと使えないというわけではないのですが、そういった技術的なプラットフォームを自社で持っていない、もしくは「持っているんだけれども世界対応ができていない」という会社に採用されています。
Summer:そもそも我々は、2002年からデジタルミュージックの領域でビジネスを行ってきています。その蓄積もあるので、効率化も進んでおり、例えばメタデータの打ち込みミスを全部検知できるといったシステムも構築しています。ですので、サービスのリーズナブルな提供も可能になっていますし、クライアントのコスト削減に最大限貢献できるようサービスを設計しています。
世界に対して「機会損失」が起きている日本の音楽
——ちなみに福山さんもSummerさんも海外にいることが多いと思うのですが、そういった視点から、日本の音楽産業の世界に対する取り組みをどの様にご覧になられていますか?
Summer:日本の音楽はこれだけレンジの広いカタログがあるのに、ライセンスされていなかったりして世界に届いていないことは、純粋にもったいないと思います。「音楽の機会損失」が起きていると感じますね。
福山:「なぜ日本のアーティストでもっと外貨を稼ごうとしないんですか?」と業界の色んな方に聞いてみると、「海外の市場はよく分からない」「まだそこまで見えてこない」という反応が多くて、ちょっと別の世界の話のような感じなんですよね。
しかし、グローバルニーズはどこに眠っているか分かりませんし、CIを使ってとりあえずえ繋ぎ込んで世界に対して音楽を上げておけば、マネタイズできる可能性が拡がると思うんですね。ですから、少しでも皆さんに「こういったツールを使えば、コストもさほどかからずに、簡単に海外へ配信できるんだよ」ということを伝えていきたいですね。
——今後CIは日本での展開に関してどういう戦略をお考えですか?
Summer:日本でも様々な音楽配信サービスが始まっていますし、カタログが充実していくことは、日本の音楽ファンにとっても嬉しいことだと思います。ファンが喜ぶことこそ各事業者さんが目指すところだと思いますので、そこにCIが現在預かっている楽曲をご紹介できれば嬉しいですね。
あとは日本の楽曲の権利者様たちに、CIのようなサービスに一度触れていただきたいです。例えば今は、レコチョクやiTunesに対して自社で楽曲を上げていると思うんです。それと同じ作業量で、海外の主要サービスに簡単に繋ぎこむことができるということを知っていただきたいですね。
ですので、音楽における日本と世界のインバウンドおよびアウトバウンドでお役に立てればと考えています。
福山:加えて、CIが繋がっているのは配信事業者だけではありません。配信はしてないけれども楽曲のメタデータを受け取る業者、例えばShazamはメタデータや楽曲のフィンガープリントを受け取ることによって成立するサービスですし、YouTubeのコンテンツIDもフレームは同じですよね。我々はそういったところにも対応しています。
——日本にはローカルなストリーミングサービスもありますが、そこにも今後対応していく予定ですか?
福山:はい。例えばAWAさんやLINE Musicさんなどについても、楽曲のカタログを増やす上で、何かお手伝いできることはないか、もっと積極的にお話しできればと思ってます。
——最後に、日本の音楽業界の方々へ伝えたいことはありますか?
Summer:日本のレーベルのみなさんとは、CIのサービスだけじゃなく、海外の配信市場の現状も含めて、是非お話ができればと思っています。今、大きな流れとして、配信事業者が動画も含めてエクスクルーシブのコンテンツを用意していますし、今後それが何よりのメリットになっていくでしょう。
これからは、どうやって配信事業者と協業してアーティストとエクスクルーシブ・コンテンツの交渉をしていくか、あるいは作っていくか、そこがキーになってくるかと思います。
福山:グローバルスタンダードの中で戦っていくのか、それともグローバルスタンダードを知ったうえで日本国内では違うやり方をして差別化を図っていくのか、戦略はそれぞれだと思います。
しかし、「全て自前でやっていたから、こんなにお金がかかっていたんだ」みたいなこともあると思うので、とにかく、まずは色々なサービスが世界にあることを知っていただければと思います。そうすれば、一生懸命作った音楽をファンに届ける際の機会損失をもっと減らすことができると思います。そのサービスの一つとして、是非CIに対しても興味を持って頂ければ嬉しいですね。