【THE VR PARADE】カジュアルVRとマネタイズ戦略で「半歩先を行くコンテンツ」を提供 SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二氏 セッション
7月28日に開催された「THE VR PARADE」にSHOWROOMの前田裕二氏が登壇。ライブ動画ストリーミングプラットフォーム「SHOWROOM」にVR専用コンテンツを導入したことで有料ギフトの数が10倍以上になるなど、「マネタイズがしやすくなった」と語る前田氏。「カジュアルVR」をキーワードにVR展開を進めるSHOWROOMの最新の取り組みについて紹介した。
SHOWROOMについて
前田:SHOWROOMの前田です。よろしくお願いします。「SHOWROOM」のサービスを知らない方もいらっしゃると思うので、まずは簡単にサービスの紹介をしてから、我々のVRの取り組みをご紹介できたらと思います。
SHOWROOMはもともとDeNAという会社の中で事業を立ち上げて、現在はひとつの会社として、独立して運営をしています。完全リアルタイムに特化した配信サービスで、サービスの全てがライブです。次に、ユーザーがアバターという形で仮想空間に遊びに来るんですが、配信を見ているリスナーのアクションだったり、姿形といったアイデンティティを可視化してるのがもうひとつの特徴です。今まさに画面上でユーザーがハートとかを投げ込んでるんですけども、これがギフティングというやつで、路上アーティストへの投げ銭のようなものです。サービス自体は2013年の11月末にスタートして2年半ちょっと経ちましたが、事業規模は拡大し続けており、先月も過去最高の売上を記録しました。エンターテイメント分野のアプリでは、セールスランキングで大体1位にいます。我々のサービスはエンゲージメントの高さ、つまりユーザーがアクションしたり、視聴時間が長いなどの参加度が高いことが特徴でして、そこが一つの成長要因になっていますね。
——これだけの人が同時に繋がっているのにスムーズに動くのがすごいですよね。エンターテイメントとしてしっかり楽しめる。
前田:そうですね。6月にはAKB48の選抜総選挙というコンテンツに連動して、272人の立候補者全員の配信を行ったんですけど、何者かに攻撃されてるんじゃないかと思うくらいアクセスが集まりました。SHOWROOMは、DeNAの中でも際立ってサーバー台数が多く、そのときも落ちることなくスムーズに動いてたんですが、こういったネットワークインフラの安定性はSHOWROOMをDeNAの中で立ち上げてよかった思うひとつの理由ですね。
また、SHOWROOMでは、すでに人気の人がそのファンベースをマネタイズするというわかりやすいレガシーモデルだけではなくて、まだまだ知名度の低い子たちも含め、ここでファンを獲得して、その子の成長ストーリーを一緒に作っていくことができるので、色々なドラマが生まれます。SHOWROOMには、メジャーデビューができるとか、テレビに出られるとか、ラジオのパーソナリティになれますといった、出口がたくさん存在していて、その出口に頑張り次第でたどり着くことができます。トップコンテンツもパワフルに巻き込んでいて、最近だとAKB48とか乃木坂46の企画連動があります。大手出版社とも取り組みを始めていて、例えばSHOWROOMで頑張ると、ある雑誌で表紙を飾れますよとか、グラビアに載れますよとか、いろいろな演者の方の夢をプラットフォームとしてサポートしています。実際にメジャーレコード会社の新人開発担当者やプロデューサーの方もSHOWROOMを毎日見て、何か新しい才能はないかと発掘にきている状況を作れており、これも演者さんのモチベーションの一つになっています。
そして、本題のVRにまつわる取り組みなんですけれども、我々はとにかく「カジュアルさ」にこだわっていまして、スマートフォンである程度のVR体験ができるようなコンテンツを作っています。当然HMDをつけてゴーグルで見るようなモードも搭載してるんですが、もっと気軽なVR体験への入り口として、スマホのジャイロセンサーと360度の画像情報を連動させて、スマホを傾けるとユーザーの好きなカメラワークでライブ配信を視聴できるモードを主軸に据えています。面白い機能としては、左上にあるレーダーで、ユーザーがVR空間のどこにコメントを打ったのか、位置がわかるようになっています。
——コメントのある位置がマッピングされていくみたいな感じですか?
前田:そうです。黄色いのはギフトの位置なんですけど、白点で表示されているコメントと合わせてレーダーを見ると、番組の中のどこが盛り上がっているかが一目でわかるようになっています。また、ギフトアイテムを投げると、空間上に名前付きでギフトが表示されて、誰がどこにアイテムを投げたかがわかるようになっています。
VRの導入で有料ギフトの数が10倍に
——アイテム投げた場所は配信してる側からもわかるんですか?
前田:わかります。
——じゃあ、アイテム投げた位置に配信してる人が行って、直接「ありがとう」と言うというようなこともできる?
前田:もちろんです。それも今からお伝えする、SHOWROOM VRの3つの特徴のうちのひとつなのですが、うちの強みは、①カジュアルVR、②マネタイズ、③インタラクティブ、の3点です。まず第一に、「カジュアルVR」という概念にかなりこだわっていて、スマホだけで気軽にVRを体験できるというのが、ひとつのポイントです。これはですね、VRをプロモーションに使いたいと思っているコンテンツホルダーにとってもかなりのメリットがあります。
そもそもHMDが前提のコンテンツを作っても、今デバイスを持ってない人たちに対して訴求できないという課題がありましたが、SHOWROOMのカジュアルVRという発想があれば、何かバズを生むようなコンテンツを作ったとき、誰でもハードルなくコンテンツを体験してもらうことができます。なぜなら、スマホならベースインフラとして誰もが持っているから。ここがすごく重要です。
第二の特徴としては、これも極めて重要なんですが、きちんとしたマネタイズ戦略があることです。VR分野において、テック周りの議論や研究は盛んになされる一方で、果たしてマネタイズはどうするのか、という部分には、一般的に大きな課題があると思っています。SHOWROOMでは、実際にVR機能を実装してから、かなり売り上げが上がりました。どうやったらこれを伝えられるだろうかと思って、この画像をもってきたんですけど。一目瞭然かなと思います。
——通常のSHOWROOMよりもさらに可視化が進んでますよね。
前田:はい。我々はギフティングの本質はユーザーエンゲージメントにあると思ってるんですけど、エンゲージメントを仮に参加度・没入度と置き換えると、VRを導入してユーザーの没入感を促していけば、ギフティングは加速するのではないか、という仮説を立てました。実際にやってみたらこの仮説がきれいにハマりまして、あるグラビアアイドルの事例だと、有料ギフトの数が10倍になりました。女性アイドルグループの場合も12倍になりましたので、明確にマネタイズがしやすくなりました。
——VRでマネタイズが加速するという仮説が正しかった、と。。
前田:そうですね。理由を考えると、より深いエンゲージメントと、もうひとつは、インタラクティブ性。SHOWROOM VRがユニークなポイントとして、全コンテンツが生放送、つまりリアルタイムであることだと思うんですが、オンデマンドで見るVRコンテンツと違って、向こう側にいる人達とコミュニケーションを取ることが出来るというのがユーザーエンゲージメント観点では重要なポイントとなっております。
例えば、この画像を見てください。田村淳さんが司会で、結婚式をVRで流したものなんですが、VRで参加することによって、投げ銭でご祝儀を渡すことができるんですね。そのご祝儀は新郎新婦にそのままお渡ししたんですけども、淳さんの考えでは、結婚式というイベントは、泣きもあって笑いもある立派なエンターテイメントだと。なので、親族だけにこだわらずもっとオープンに見せていって、みんなで幸せを共有して、世界中で幸せの連鎖を巻き起こそうよ、と。この考えにすごく共鳴していますし、もともとある見慣れたコンテンツでも、視点を変えるだけで、もっと面白いコンテンツへと昇華されることってあると思います。例えば結婚式では基本的に新郎新婦がメインコンテンツになるんですけども、その視点をオーディエンスに移したらどうでしょう。お父さんが泣いてるとか、友達が号泣してるとか、いろんな違った形の感動が垣間見えるかもしれませんね。オーディエンス側がコンテンツになり得る。という新しい可能性を秘めていると思います。
この他、開発上こだわったところが、①演者とカメラの距離間、②盛り上がりレーダー、③スムースなモード切り替え、の3点です。まず第一に、演者とカメラの距離間ですが、我々はVRにとって「隙」は大事なキーワードだと思っています。いつも、あえて普通のカメラでSHOWROOMを配信しながら、同時にVRのカメラを置く、ということをやるんですが、これは演者の意識をVRカメラに向かせないようにする意図があります。それによって、普段カメラを直接向けた時には見れないような表情を見れたりとか、その一瞬の隙がさらに臨場感を促すことがわかりました。
男女で大きく異なる目線を可視化、ヒートマップでユーザーの視覚を分析
——VRを配信するときはどんなカメラを使っているんですか。
前田:THETA SとGoProがほとんどです。先ほどカジュアルVRと申し上げたんですけども、将来的には視聴者だけじゃなくて、配信者にとってもカジュアルに配信できるサービス目指しています。SHOWROOMにはかなり多くの演者さんがいて、その人たちが気軽にVRで配信できるように環境を整えていきたいですね。よくVRでスポーツを配信したらいいんじゃないか、みたいなことに発想がいきがちなんですけど、ちゃんとビジネスにしていくとか、ユーザーにとって見てて飽きないドキドキするコンテンツを作るという観点でいくと、カメラと演者の距離感がかなり重要な要素だと我々は思っています。
——相性はいいですよね。先ほどライブの話もあったんですけど、やっぱりステージ上の演出との兼ね合いでカメラをそんなに近くに置けない。
前田:仰る通りです。近すぎてもダメだし、遠すぎてもダメ。絶妙なバランス地点を探らないといけないのです。
次に、開発上こだわった2つ目のポイントですが、これも繰り返しになっちゃうんですけど、コメントレーダーとか、ギフトレーダーで、リアルタイムに盛り上がってる場所を可視化することで、ユーザーの行動を促したりすることができるんじゃないかと思ってます。
そして3つ目に、ノーマルとゴーグル、2つのモードをかなりシームレスに移行することができるというポイントです。やっぱりユーザーの行動を見ているとノーマルモードで視聴するひとが大半で、わざわざハコスコやカードボードを使ってゴーグルで観る人は、一般人よりはもっとギーク寄りな、IT系の方々に限定される印象です。
——現時点ではってことですね。
前田:もちろん、現時点では、ですね。そういう意味で我々も数年先にはVRの世界が広がって、みんながHMDをしてコンテンツを楽しむ世の中が来るだろうと思ってるんですけど、現時点ではデバイスの価格やコンテンツクオリティなど様々な制約があって難しい。僕らはあくまで、VRの魅力を伝えるために、とにかくハードルを下げるということでカジュアルVRを提唱しています。
その他、SHOWROOM VRの最新の取り組みをご紹介します。まず、最近映像だけでなく、サウンドに意識を向けています。ダミーヘッドマイク使って、例えば後ろの方からアイドルの声がするとか、リッチコンテンツも作れるんじゃないかなと思ってます。
あと、これは次のバージョンから入るヒートマップで、ユーザーの視点移動を検出して、一番見られてるポイントが赤くなります。ユーザーの視点移動をリアルタイムにコンテンツ側にフィードバックできるので、例えばアイドルグループ5人で配信していて、一番ユーザーに見られてない人が罰ゲーム、とかも出来ますね。
あとは、僕自身が演者でパフォーマンスをしてたということもあって、どうやったらファンが増えるかとか、エンゲージメントが上がるかとか、そのノウハウを事務所の方々にお伝えして、いわゆる配信のPDCAを回していってるんです。
例えば、一つ面白いデータをご紹介すると、男性ユーザーと女性ユーザーでは、ヒートマップの傾向が全く異なります。結論を言うと、要は男性は浮気性であるということなんですけど、女性ユーザーは、とにかく自分が好きな演者さんをずっと見ている一方で、男性ユーザーは、あちこち赤くなってるというか、まあいろんなところを見ています(笑)。
——落ち着きがない、みたいな。
前田:いろいろ理由はあると思うんですけど、こういう傾向もビッグデータ化して、企業向けのビジネスに展開できる可能性もありますね。
“普通”の視点を忘れない「半歩先を行くコンテンツ」
——これはVRコンテンツ全体に言えるかもしれないですね。どこを見てるかデータを取ることで、どう見せるのが効果的かとかいうのも分析で出てきますよね。
前田:出てくると思います。例えばちょっと冷酷ですけど、この子は毎回あまり見られてないから、次回から外しましょうということもできる(笑)。配信自体の価値を上げるためにどうすればいいのか仮説を立てて、毎回データ分析をして次のアクションを起す。エンターテイメントって元来定量的にPDCAを回し辛いものだと思いますが、インターネットにおいては、ユーザーの行動がかなり定量的に客観的事実として分析できるので、それに基づいてコンテンツをよりよくしていくということが我々のところでは実現できています。
——それがひとつエンターテイメントの未来を作る大きな要素になりそうな感覚はありますよね。
前田:従来のトップダウン型のエンターテイメントは、時折押しつけがましくなるというか、上目線になってしまう危険性も孕んでるんですけど、今後はボトムアップでユーザーの行動からコンテンツを作ることが出来るようになってくるので、コンテンツの作り方が変わっていくんじゃないかと思っていますね。
——PDCAやデータ分析が、スマホというプラットフォームだからより出来る、というとこが大きいですね。
前田:そうですね。スマホだとユーザーの行動をトラッキングしやすいので、そこは大きいなと思いますね。ユーザー視点が取れると面白そうなコンテンツということで、試験的にやったコンテンツなんですけど、グラビアアイドルの子にポーズとってもらったりとか、通常とVRを混ぜこぜでやったんですよ。
——VRを体験してるところを配信する。
前田:例えば今、肩を見てるとか胸を見てるとか、そういうことが如実にわかるような配信もできますよと。こういうわかりやすい男性向けコンテンツとVRは相性がいいですね。
——おもしろいですね。
前田:まとめると、SHOWROOMはとにかく気軽にVRの面白さを体験してもらうことにVR開発の主眼を得ています。つい技術のすごさを追求して、テックの人達がテックの人達のために作ってしまう誤謬も起きてしまうと思うんですけど、一般のユーザーがそれを本当に買うかどうかというシンプルな視点、普通の視点を忘れないようにしようというのが我々の強い意志でして。気軽さとかカジュアルさというのを先ほど何度も申し上げているのは、そういう理由があります。
また、我々はプレゼンスと呼んでますけど、SHOWROOMではユーザーがそこに存在する感覚を味わえるというのが、すごく大事だと思っていまして、二次元のSHOWROOMでもアバターがそこにいて、自分もそこにいると感じることでエンゲージするとお伝えしたんですが、実はその本質はVRと変わらなくて、あたかも自分がその空間にいるかのような感覚になれることが重要なんですね。VRとSHOWROOM最大の共通点はこのプレゼンスだと思っていて、ですから親和性が高いというのが僕の仮説です。本質は同じなので、VR技術が進化する過程でSHOWROOMも進化するということを考えています。VRは目的ではなくてあくまでコンテンツをより楽しむ手段なので、僕らが持ってるコンテンツをどうやったらより面白いものにできるかという観点で、あまり先を見すぎず半歩先を行くことを意識してコンテンツを作っていきたいなと思っております。
——SHOWROOMは、インタラクティブ性や没入感などの要素に、マネタイズプラットフォームが備わっていることが強みになっていますね。さらなる進化が楽しみです。