広告・取材掲載

ニューミドルマン座談会「ナイトエンターテイメント」と「フェス」、注目シーンの最先端から見た、新時代音楽ビジネスの可能性

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:齋藤貴弘氏、津田昌太朗氏、山口哲一氏

IT、デジタル化の波は、音楽、エンターテイメントにも訪れている。新しい時代に対応した人材を育成することを目指しスタートしたニューミドルマン養成講座が第5期を迎えることを記念し、バグ・コーポレーション代表取締役 山口哲一さんが対談を行いました。

風営法改正の民間運動において弁護士として活躍したニューポート法律事務所 / 第二東京弁護士会所属の齋藤貴弘さん、世界の音楽情報を集約したサイト「Festival Junkie」、日本の音楽フェス情報サイト「Festival Life」を運営する津田昌太朗さんは、今、変革期の音楽ビジネス、エンターテインメント・ビジネスを「拡張」する注目の人物です。

2人は、ニューミドルマン養成講座の受講歴を持つOBでもある2人を迎え、テクノロジーやSNSがもたらす、音楽の楽しみ方の変化、音楽ビジネスや社会の変化を語っていただきました。

2016年9月6日掲載
  1. 弁護士、広告業界、、、他業種から音楽、エンターテインメント・ビジネスに関わった理由と動機とは?
  2. 【日本の音楽ビジネスの問題点】まだまだ「遠い」ユーザーが音楽にたどり着くまでの距離。ストリーミングで広がる音楽の楽しみに期待したい(津田)
  3. 風営法改正運動が成功した理由、ナイトエンターテイメント・シーンの可能性
  4. 「齋藤さん、フェスにも摘発のリスクはありますか?」(津田) フェス、クラブ、昼イベントが繋がるライブエンターテインメントの相乗効果の可能性
  5. オリンピック、インバウンド、音楽・エンタメの街としての「東京」の未来イメージ
  6. 訪日外国人からの東京の感想は?
  7. 企業、自治体、日本社会に向けての提言、理解してほしいこと、一緒に行っていきたいこと
  8. 日本人アーティストが海外で活躍する可能性

 

弁護士、広告業界、、、他業種から音楽、エンターテインメント・ビジネスに関わった理由と動機とは?

山口:今日はお忙しいところありがとうございます。デジタル時代の人材育成をテーマにした「ニューミドルマン・ラボ」を初めて1年半経ちました。今日は、ニューミドルマン養成講座の第1期を受講している二人に、その後の活躍状況を伺いたいと思っています。
ニューミドルマン・ラボには、イケメンも来るんだよということをアピールしようかなと(笑)、お二人にお願いしました。 まずは、自己紹介からお願いできますか?

齋藤:若いころは、高校卒で大学行かずにバンドやってました。その後、改めて大学に入って、司法試験を受験し、28歳で司法試験合格。当時の平均合格年齢でした。弁護士になってまる10年になります。最初は勤務弁護士として、企業法務やって、ボスについて回って離婚、相続などの個人案件からM&Aを含む様々な企業案件など、あらゆることをやっていました。

山口:今年から施行された風営法改正の運動では、齋藤君の貢献は大きかったと聞いていますが、エンターテイメントの分野に入っていったのは何がきっかけだったの?

齋藤:エンタメとの関わりは、伊藤穰一さん周辺のクリエイティブコモンズなどに関わったのがきっかけです。クリエイティブコモンズがテーマとする著作権は主にコンテンツのデジタル領域での流通で問題になってきますが、同じコンテンツでもクラブやライブエンターテイメントの分野にかかわる風営法扱っている人がおらず、当時の取り締まり強化の流れの中で関わるようになりました。

津田:僕は新卒で広告代理店に入って、マーケティングの仕事をしていて、このまま会社員として働き続けるのかなと思っていたんですけれど、2013年にイギリスのグラストンベリー・フェスティバルに行ったことがきっかけで、帰国した日に会社に辞表を出して、ロンドンに移住しました。

山口:思い切りがいいね(笑)。何のあてもなくやめたの?

津田:今考えると特になかったですね。僕はあまり感動しない性格で、田舎から東京に出てきた時と初めてフジロックに行った時の、10代での2イベントが衝撃的な体験だったんですが、歳もとってきたし、もうあそこまで感動することはないだろうと思ってたんですよ。ところが、グラストンベリーにいったらまた衝撃を味わってしまった。だから何かせずにはいられなかったんです。

元々、音楽業界で働いてみたいというのはあったんですが、アルバイトしていたレコード屋の尊敬する先輩方から「今音楽業界はやめておけ」ってアドバイスをされて、広告代理店に就職したんですね。その頃、Festival Lifeという日本の音楽フェスを紹介するサイトを仲間と運営していて、働きながら編集長をやっていました。そんな感じで平日は会社員をして、週末はフェスみたい暮らしをしていたときにグラストンベリーに行く機会があって、そのまま会社を辞めました。そのグラストンベリーでの経験が衝撃すぎてもっと海外のフェス文化を知りたいと思い、貯めた貯金を全部つぎ込んでイギリスを拠点に世界中回りはじめたんです。00年代後半から日本のフェスシーンも安定期に入っていたと思うのですが、会社を辞めたタイミングあたりでEDMフェスシーンも大きな動きがありそうな予感がしていて、フェスがさらに一般化すると思ったんです。そこで音楽業界に切り込むなら、フェス、さらに海外フェスという切り口はアリだなと。

山口:なるほど。学生時代に先輩たちのアドバイスを聞いたのは正解だったね(笑)。その後は?

津田:10代のことから日本全国のフェスを行きまくったことでフジロックの凄さみたいなものを理解できたという経験があったので、グラストンベリーに関しても同じで、他の色んな海外フェスを観て回れば、あの衝撃の謎が解けるかなと思って。そのうち変なことをしている日本人がいるってなったみたいで、海外や日本のメディアから仕事の依頼とか来るようになって、なんとか食いつなぐみたいな。でも僕がヨーロッパにいた頃、拠点にしていたイギリスのポンドが本当に高くって。

山口:その頃は、本当にポンド高かったよね。ユーロ離脱の国民投票がでたことで今は半額くらいになったけれど。

津田:そうなんですよ。1ポンド180円超えの頃は苦しかったですね。ちょうどそんな時に、日本からEDMフェス関連の仕事の依頼が来たり、フジロックオフィシャルショップの岩盤が、「富士祭電子瓦版」という新しいメディアを立ち上げるということになって、「何か一緒にできないか」と連絡をもらったり、他にも日本人アーティストの海外進出みたいな仕事が立て続けに入ったこともあって、再度東京にベースに置きつつ、日本と海外を転々とするような暮らしをするようになりました。海外のフェスを紹介する「Festival Junkie」と日本のフェスを紹介する「Festival Life」の運営をベースに、今ちょうど動いている仕事だと、Red Bullさんの音楽関連の仕事や富士フィルムさんのフェス/アウトドアシーン進出の支援をしたりと、自分の興味がある商品やサービスと音楽回りのカルチャーを繋ぐような仕事が多いですね。

 

【日本の音楽ビジネスの問題点】まだまだ「遠い」ユーザーが音楽にたどり着くまでの距離。ストリーミングで広がる音楽の楽しみに期待したい(津田)

ニューミドルマン座談会 Charlotte inc. 津田昌太朗氏

山口:僕が経済産業省監修の『デシタルコンテンツ白書』の編集委員をもう6年位やっていて、最近、2015年分が発行されるのですが、日本の音楽市場の最新状況ということでいうと、やはり、2015年は「ストリーミング元年」だったいうことになります。ストリーミングサービスについての見解を聞かせてもらえますか?

津田:ストリーミングサービスは、海外にいた時からずっと使っていたので、あって当たり前なんですよ。日本が遅すぎてよくわからなくなっています(笑)外国の友達に日本のデジタル普及の状況を話すと驚かれます。「CDってそんなに売れてるのとか、YouTubeで音楽聴くのって主流なの?」って。

山口:日本は、音楽に興味を持った時の、行き先がYouTubeになっているのが不幸なことだよね。そこから脱出するためにもストリーミングサービスを早く広めなければいけないのに、レコード会社がずっとストップさせてきた。去年、やっと始まったんだけどね。まだまだ一般には広まってないよね。

津田:ユーザーが音楽やアーティストに触れるまでが「遠い」って感じます。やや分断されている感じ。例えば、フェスでいうと、スペインのSonarというフェスは、Deezerと組んでいて、出演アーティストの曲とかアプリですぐ聞ける。グラストンベリーのアプリは、BBCのチューナープレイヤーに飛んでライブ音源が聞けるとか、ユーザーにとってのシームレスな環境が当たり前になっているんです。

山口:本当だよね。斎藤さんは?

齋藤:一般化はできないかもしれないけれど、個人的には、友達との会話から新しいアーティストや音楽を知ることが多いですね。

山口:友人との会話にはSNS上の会話も重要ですよね。日本はどうなればいいですか?

津田:どうなればいいかは色んな意見があると思いますが、まずは普通にSpotifyが始まってほしいですね。

山口:欧米に比べて5年遅いよね。実は僕は、Spotifyの開始をきっかけにストリーミングサービスが一般化するくらい普及しないと日本の音楽業界は終わるなという危機感があって、客観的にとらえられなくなっているんだけれど、日本でもちゃんとSpotify広まるかな?

津田:緩やかに広まるんじゃないですかね。他のサービスより圧倒的に使いやすいと思うので。

山口:それに、フリーミアムはいいよね。ユーザーにとって始めやすいきっかけになっている。無料で試して、音楽をもっと聞きたくなって、有料サービスに移行する人が3割いるって、素晴らしいサービスだと思うんだけどね。日本もそうなると素敵なんですけど。

津田:無料で聴けることはミュージシャンに対して失礼というような意見はもちろんあります。それは海外でもありますが、日本人に対しては、お金の流れとか分配の割合をもっときっちり説明したほうがよいと思います。日本人はそういうことに対して細かいし、ちゃんとしてると思うんですよ。だからこそサービスを提供する側が、自分たちのサービスがアーティストに対して敬意がある、そしてアーティストに長期的に貢献していける自信があるのなら、ちゃんとアーティスト側にどれくらい分配されるとかをきちんと噛み砕いた説明をするのが大事だと思いますね。

山口:乱暴な意見多いよね。ストリーミングの1再生あたりの分配額とCDの売価を比較したりとか、そういう問題じゃなくて、総売上の60〜70%が著作権も含めて、アーティスト側に分配される仕組みだと理解出来てない人も多い。アーティストがちゃんと調べもしないで怒るのとかよくないよね。

津田:向こうだと、Spotifyを批判するアーティストも、Spotifyをうまく”利用”しているんですよ。テイラー・スイフトはSpotifyに載せないというマーケティングで成功したと思うし、Vulfpeckという僕の好きなバンドは、30秒の無音の曲10曲を作って、「寝てる間にSpotifyでかけっぱなしにしてほしい」とファンに訴えて再生回数をあげて話題になったり。

山口:多分日本で今、Apple Musicの有料会員が30万人を筆頭に、全部で100万人位ストリーミングサービスの利用者がいるかなと思うんだけれど、その100万人ってSpotifyが3年前に日本でサービス始めていれば、間違いなく会員になっていた層なんですよ。アメリカでは、SpotifyをApple Musicが追いかける形だけれど、日本は逆でSpotifyが後から走り始めるのが面白い。ユーザー数の競争でハンディキャップがついているみたいになっています。

 

風営法改正運動が成功した理由、ナイトエンターテイメント・シーンの可能性

ニューミドルマン座談会 弁護士 齋藤貴弘氏

山口:齋藤さん、ナイトエンターテイメントの現状について話していただけますか?

齋藤:全体としてナイトエンターテインメント・シーンの市場は伸びています。CDとかデジタルよりもライブコンテンツの方が勢いありますよね。会場が足らないという問題や、夜の「死んでいる時間」をもっと活用しよう。という声は出てきています。お金が流れている、お客が入っているところ、リアルスペースを盛り上げていきましょうというのは乗りやすい話ですよね。そんなリアル体験という中で、夜のシーンを盛り上げていう話になっています

山口:風営法改正は本当に素晴らしい成果だよね。こういう言い方をすると偏見だといわれてしまうかもしれないけれど、日本で真面目な市民活動が社会的にきちんと実を結ぶことが珍しい気がします。正しい主張なんだけれど、言いっ放しになってしまうというか。ところが、今回の風営法改正に関する活動は、法律改正という具体的な成果を上げていて、しかも、まだ継続していきそうな感じになっている。これは齋藤弁護士の活躍も大きいと思うだけれど、何故、そんな風にできたのかな?

齋藤:確かに、最初は市民運動、社会運動だったと思います。山口さんもおっしゃるとおり、そういう活動って、一過性の自己満足で終わりやすい。今回、署名活動がわかりやすい世論喚起になりました。市民運動は法改正のために絶対に必要な起爆剤だったと思います。ただ、署名が集まった時に、スイッチを切り替えて、リアルな話をしないと法律は変わりません、ビジネスしている人を巻き込んでいったのが成功した理由だと思います。それもクラブ業界や音楽業界だけではなくて、音楽の周辺にいる様々な業界のビジネスパーソンを巻き込めたのです。

山口:なるほど。どういう人達が、どんな動機で関わってくれたの?

齋藤:いろんな方がいらっしゃるのですが、例えば伝説的な老舗ディスコを経営していた方が、今は大規模商業施設内のレストラン経営をしながら、食と音楽を融合させようとしていたり、タワーレコードの社長だった伏谷さんが、TimeOutという訪日外国人向けのメディア事業を行い、その中で街の魅力を高めるコンテンツとして音楽を紹介されているとします。つまり、かつて音楽業界で活躍された方々が、音楽業界の外から音楽を盛り上げようとしている状況がある。音楽の本質的な価値を理解しつつ、食や観光といったまた別の文脈で音楽に光をあて、新しい価値を見出し、ビジネスとしても成功している。そういった方々が賛同してくれたことはとても大きかったと思います。

山口:その人達は、ナイトエンターテインメントが盛り上がることがメリットと思っていた?

齋藤:音楽はとても広がりのあるコンテンツだと思います。例えば、観光資源にもなるし、飲食店の空間価値を高めることもでき、ホテルの集客装置にもなる。かつ、これまで法的に閉ざされていた夜間市場が開かれたということもあり、メリットを見出すことはできると思いますし、ただ、そういう現実的なメリットというよりも音楽への愛情という点で関わってくれた人も多かったと思います。

山口:なるほど、それは素晴らしいですね。

 

「齋藤さん、フェスにも摘発のリスクはありますか?」(津田) フェス、クラブ、昼イベントが繋がるライブエンターテインメントの相乗効果の可能性

ニューミドルマン座談会 弁護士 齋藤貴弘氏 × Charlotte inc. 津田昌太朗氏 × バグ・コーポレーション 山口哲一氏

津田:ちょっと、話が飛ぶのですが、ずっと齋藤さんに訊きたかったことがあるんです。いつかフェスもここ数年のクラブシーンで起こったことみたいなことが起こる可能性ってありますか?

齋藤:クラブは治安を悪化させたと思われたので、取締りが強化されたという面はあると思います。日本のフェスは事故がないようしっかり運営されており、また風営法改正の際にも業界の健全な取り組みが評価され、取り締まり強化という方向にはなりませんでした、

津田:なるほど。

齋藤:ただ、最近、海の家が問題視される流れがありましたよね。フェスもやんちゃが集まって荒らすというイメージがついてしまうと、取締りの対象になりえると思います。イメージが悪くないように気をつけたほうが良いですね。

津田:日本で音楽フェスシーンはある程度メジャー化しましたが、実は、今年はさらにエポックかなと思っていて。例えば、こないだ「アメトーク」でフェス芸人特集をやったんです。やっとここまできたんだと感慨深いものがありました。
 実際、フェス市場は飽和したなんてこともたまに耳にしますが、実際フジロックも今年の来場者は12万人を超えている。ロッキン・オン・ジャパンも日程を増やして、動員も増えているし、全体としてまだ市場は上がっている状況です。そんな時って、何かの出来事で、逆風が吹くような時期でもあるのかなと心配でもありますね。

齋藤:そういう意味では、クラブはフェスに客を奪われているって意識がある人のなかにはいる。潰し合いにならずに相互メリットあるような形を作れるとよいですね。

津田:例えば今年行ったスペインのSonarだと、世界中から音楽ファンが集まっているので、開催期間中や前後にフェス以外でもいいイベントがたくさんあったり、マイアミのULTRAも、フェスが終わってからも出演者がマイアミ中のクラブでプレイします。期間中はホテルやビーチでも昼間から色んなパーティーをやっていて、「今日はフェス行かなくて、ここで遊んじゃうか」みたいな人たちもいて(笑)

齋藤:それは意識的にやって、フェスとクラブをうまく繋いでいくべきだと思います。客を奪い合うのではなく、フェスとクラブが協力しあって市場自体を拡大してという始点が重要だと思います。

津田:クラブしかいかない人も、フェスしか行きたくないという人ももちろんいるとは思うけれど、両方楽しめる人もたくさんいる気がしますもんね。

山口:最近、月額3900円で都内クラブ行き放題という「LIVE3S」というサービスが出てきました。株式会社3.0という日本の若いスタートアップがやっていて、実は僕が主宰するSTART ME UP AWARDSの第一回の最優秀賞受賞会社で、応援しているんだけど、「LIVE3S」はどう思いますか?

齋藤:若い子のクラブへの入り口としては良いと思います。ただ個人的には、クラブに行く時のドキドキする感じは残したい、効率的なだけ、安いだけじゃないところにいきたいですね。閉じられた世界の良さもあるから。

津田:LIVE3Sは日本に遊びに来た外国人にとって便利なアプリだと思います。外国から友達来たときに、楽ですね(笑)。

齋藤:若い子が夜遊びに行き、そこでマナーや遊び方などを大人から色々と学ぶという文化も重要だと思いますが、そんな文化も薄れてきているので、若い子にとっての良き入り口になればと思います。

津田:10代も行ける、深夜じゃないイベントも増えていますね。

齋藤:そうですね。いわゆるサンデーアフタヌーンパーティと呼ばれるようなデイイベントなど、終電前に終わるクラブイベントも増えていますね。

山口:知らなかった、いい流れですね。未成年は電車で帰ると。

齋藤:ライブハウスに近いイメージだと思います。あとは、昔クラブで遊んだ人たちが家庭を持っており、早めの時間帯にお子さんを連れて遊びに来るための場も増えています。

 

オリンピック、インバウンド、音楽・エンタメの街としての「東京」の未来イメージ

山口:東京オリンピックというビックイベントを控えて、訪日外国人向けビジネス、インバウンドがキーワードになっていますが、エンタメとインバウンドの関係性について教えて下さい。

齋藤:風営法改正にとっても、インバウンドという言葉はとても重要でした。日本のクラブの海外に比べクオリティは高いし、コンテンツも人気です。日本に来てもらうための訴求力という点でも、リピーターになってもらうための日本での体験価値という点でも、ナイトシーンやライブエンターテインメントは外せません先日アムステルダムで夜の市長(ナイトメイヤー)サミットというのがあり、参加してきたのですが、そこでもナイトシーン推進のために重要なのは、アクセスとインフォメーションだと言われていました。特にインバウンドをみた際、日本は外国語でのイベントや店舗情報が圧倒的に足らず、またチケット販売も不便ですよね。

津田:フジロックなんかは、チケットを海外から買えるようになっていて、まだ便利さは足りないかもしれないですけれど、外国人は増えていますね。

山口:アジアの人で日本のロックフェス行きたい人多いよね。僕もずいぶん、チケット頼まれました。インバウンドという視点は、コンサートだと3つポイントがあります。外国語の情報と海外でのチケット購入、要するに決済だよね。それと気になるのが運営なんだよね。日本人って世界的に見て、異常にマナーが良い国民性じゃない?これから外国人が増えた時に、どうやって伝えていくのかって。心配なんだけれど。

津田:ところが、日本に来ている外国人は、勝手にマナーが良くなっていく人が多い気がします。フジロックもサマーソニックも外国人、とくにアジア人が増えましたけれど、みんなマナーが良いんですよ。こないだ外国人が現地でレンタルしたテントをものすごい丁寧に畳んでいる姿を見て、海外フェスではあまり見ない光景だなって思いました。

山口:へー、いい話だね。ちゃんとトイレも並ぶし、ゴミも分別するんだ?

津田:そうなんです。フジロックに限らず、他の日本のフェスでも外国人のマナーは良い。朱に交われば赤くなる、日本に来ている外国人はマナー良くなるんだなと思うようになりました。海外フェスで色んな現場をみてきているので(笑) あと、以前は、ファッションとかで韓国人、中国人、台湾人って割とすぐわかったけれど、最近はファッションを見ていても日本人と区別がつかない観客も増えた気がします。スナップとかで声かけてみて、日本人じゃないと分かる。

山口:なるほど。面白いね。みんなフジロッカーぽくなりたいんだね。

津田: 日本が牽引しているマナーってあると思います。それがアジアに輸出されたら最高ですね。

山口:とても良い話です。フジロックって、運営側とユーザーに「共犯意識」があって、「来年から無くなると困るからちゃんとしよう」というカルチャーがあると思うんだけれど、その共犯意識が外国人にも広がったんだね。

津田:海外フェスでたまに人目をはばからず用を足したり、ポイ捨てするとかがほとんどない。空気感で伝わるみたいですよ。

山口:外国人の増え方が、ちょうど良い感じの増え方なのかもね。

 

訪日外国人からの東京の感想は?

山口:海外から観た東京のイメージはどう?

津田:深夜でもお酒買えていいな。お店もやってるし。

齋藤:そうですね。実は海外の方が規制は厳しい。日本だけが「ノーダンス」みたいにいう人がいますが、そんなことはありません東京の魅力という点だと、他にライブやクラブを含めコンテンツ量も多く、多様です。そして、いちいちクオリティが高いのも日本らしさだと思います

それから、先ほどのナイトメイヤーサミットでも色々な人に言われましたが、法律を変えた熱さは凄いことだと言われますね。海外でも規制が強まっている流れがあるのに、日本では逆行できたという評価です。

津田:海外に比べれば、日本はボディチェックがクラブもフェスも緩いですね。健全な外国人にとっては、東京は遊びやすい街ですね。

2020年東京五輪に期待することは?

山口:2020年のオリンピック、パラリピックについては、何を期待しますか?

津田:五輪はフェスよりクラブが貢献するのかなと思います。ただ、例年通りだとフジロック、ロッキン、ライジング、サマソニという4大フェスと開催時期が大体重なるので、日本のフェスにも来てくれると嬉しいですね。

齋藤:開会式閉会式できちんと日本の文化を打出して欲しいですね。東京に注目が集まってくるので、どうプレゼンテーションするか、音楽をどう見せるのか?提案していきたいです。

山口:名実ともに東京が観光都市になるのが、2020年なのかもしれないね。フェス時期だというのは気づきませんでした。

津田:海外だとフェス中にW杯の生中継したりするんです。フェスはアンダーグランド、五輪はメジャーとか、そういう区別はやめたほうが良いと思う。ユーザーにとっては楽しめればよいことだと思うので。

 

企業、自治体、日本社会に向けての提言、理解してほしいこと、一緒に行っていきたいこと

ニューミドルマン座談会 バグ・コーポレーション 山口哲一氏

齋藤:風営法改正後に業界団体を2つつくりました。法改正の段階で設立された風俗3号営業を取得しているディスコ系の業界団体に加え、あたらしくライブエンターテイメントの夜間市場への参入をサポートする団体、ホテルやレストランとエンターテインメント業界を融合させるための団体を設立しました。

ライブシーンが活性化しているというのは先ほど話に出ましたが、クラブミュージックを聴いて育ってきた若いミュージシャンによるバンドが最近とても面白いです。ライブとクラブミュージックを掛け合わせ、そこに「夜」という時間軸を加えることで、深夜帯のライブハウスが、かつてクラブが担っていた実験的で創造的な音楽を育てる土壌になりうると思います。

もう一つの団体で、日常に近い場に音楽をインストールするという発想で、食とエンターテインメントを、ホテルやレストランなどの場で掛け合わせるということをしたく思っています。飲食業界からしたら、美味しい食事やお酒を提供するだけではなく、空間全体の価値を作っていくというニーズがあり、そこに音楽を含めエンターテインメント業界が提供できるコンテンツがある。またエンターテインメント業界としては、表現の場として、ライブハウスやクラブ以外にも、ホテルやレストランなどの街全体を活用していく。音楽は街づくりというレイヤーで語られるべきで、そんな話をデベロッパーともよくしますし、実際に今回の風営法改正には大手デベロッパーも深く関わりました。

山口:弁護士の範疇を超えていると思うんだけど、齋藤弁護士のアイデンティティは?

齋藤:弁護士の再定義が自分のテーマなんです。新しい産業を起こしていく裏方というか、世の中の制度設計をする、デザインする役割を弁護士のスキルを活かしてやっていきたいです。

山口:それはまさに「ニューミドルマン」的な発想、弁護士を再定義する弁護士なんだね。素晴らしい。

齋藤:いや、まだ若い人に僕に続けとは言えないです。マネタイズが伴っていないので(笑)。こういう活動はクライアントとの接点ができる営業ツールになるのだろうけれど、そういうスケールでは仕事をしたくないですからね。風営法以外にも無駄なルールはたくさんあります。規制緩和を実現して、その分野に新しい企業を進出させる。そして、そのような志ある企業の事業展開を弁護士としてサポートしていく。規制緩和と産業創出という社会実験みたいなテーマですね。

風営法改正も「朝まで踊れるようになったね」という話だけで終わりたくないです。ライブエンターテイメントとかホテル、レストラン、食の業界、インバウンドなど、街を魅力的にし、かつ大きな経済的インパクトを生み出せるような、新しい産業創出まで関わっていきたいと思っています。

山口:日本は、アメリカみたいになんでも裁判所で白黒つける社会ではなくて、コンセンサスを積み上げていく社会です。日本型も良さもあると思うのだけれど、意思決定が遅い、止まりがちというのが弱点。今回の風営法改正は、日本的な積み上げた型でルールを変えられたということでも、今後の日本にとても意義があったと思います。

齋藤:既存のクラブ業界とともに、他の業界も巻き込み、新市場を創出していこうという議論ができたので、変なしがらみにとらわれず、これだけ大きな法改正が実現できたんだと思います。

山口:津田くんの意見も聞かせてください。

津田:まだまだフェスを色物として見られることも多いので、日本の文化として、観光資源として多方面から見てもらえるようになったらなと。そういうことを草の根で広げていくために、フェスのメディアをやっています。観光資源という意味では、次にやりたいのはフェスのアワードですね。ヨーロッパは権威のあるフェスのアワードがあるので、アジア版のフェスアワードやりたいですね。

山口:アジアの他の国のフェスはどうなの?最近は良くなっている?

津田:香港なんかは日本に来ないアーティストが来たりもしていますが、まだまだ日本のフェスはラインナップも豪華だし、そもそもフェスとしてのクオリティが圧倒的に高い。音楽フェスは世界ではちゃんと市民権を得ているから、日本をアピールする場として使ってほしいと思います。

山口:いいね。俺にできることは何でも手伝うから言ってね。(笑)

津田:もっとフェスを流行らせたいですね。日本の音楽フェスに外国人を呼ぶこと、海外の音楽フェスに日本人がもっと簡単に行けるようになるようなサポートをやっていきたいと思います。

 

日本人アーティストが海外で活躍する可能性

山口:日本人アーティストの海外活動はどういう展望がありますか?これからは、海外市場に目をむけなくちゃだよね。

津田:外国人のフェス友達の反応を見ていると、BABYMETALとCrossfaithは、やっぱり人気ありますね。あと、フェスではないけど、きゃりーぱみゅぱみゅも。音楽だけでなくて、原宿カルチャーを背負ったのが強いです。

山口:クールジャパンの文脈以外に、もう一つ武器が持てて、複数のコンテキストを盛ったアーティストはチャンスが広がるよね。

齋藤:音楽家よりも、メディアアート系の人のほうが、海外に対して野心的な気がします。音楽の定義が変わってきている印象です。

山口:その通り。だから僕はポップミュージックがメディアアートと近づくと良いと思っています。たぶん、YMOって当時はそんな感じだった。テクノロジーが音楽を拡張するようなライブシーンを作りたいなと。テクノロジスト、映像クリエイター(VJ)と音楽家が一緒にバンドみたいに組むみたいにもっとなっていくとチャンスあるよね。

齋藤:20代が面白いのは、クラブミュージックを通っていて、普通にバンドやる音楽家がいるところですよね。そこではいわゆる、ギター、ベース、ドラム、ボーカルという従来型のバンド編成も流動的で、バンドの概念も大きく変わってきていると思います。

ニューミドルマン養成講座の感想、これからの受講生へのメッセージ

山口:最後に10月から第5期になるニューミドルマン養成講座の話をさせてください。この講座は、このままじゃ日本の音楽ビジネスがダメになるなという強い危機感があって、新しい若い人に音楽ビジネスに関わってほしい、そういうネットワークをつくりたいと思って始めました。なので、檄文みたいな文章をネットに掲げて、思い切り振りかぶって投げた感じで、どんな人が来てくれるかなと期待と不安があったけど、
一期生で面白い人達が集まってくれたので、これは続けようと決めたという経緯があります。二人はその僕が思い入れのある一期生なんだけど、そもそも「ニューミドルマン・ラボ」どうやって見つけたの?

津田:山口さんの書籍とかブログとか知っていて、海外にいるときもジェイコウガミさんのブログは読ませてもらったりしていたので、面白い人に会えるかなと思って申し込みました。実際斎藤さんに会えましたし。

齋藤:風営法に関わるようになって、Spotifyとかデジタル・サービスのトレンドを、現場の人からもっと教えてもらいたく、受講しました。ジェイコウガミさんのブログを読んでいたので、それがきっかけだった気がします。すごく面白かったけど、仕事が忙しくなって、後半行けなくなって残念でした。

津田:当時はあまり音楽業界に伝手がなかったけれど、ニューミドルマン講座でネットワークができましたね。

齋藤:普段会えないような、ありえない豪華な講師陣から、リアルな現場の話を直接聞け、かつネットワーキングできるのが魅力ですね。ゲスト講師の話を山口さんがホストで上手にまとめてくれるのがわかりやすい。

山口:僕は、自分が話を聞きたい人しか呼んでないからね。楽しんで続けています。日本は業界ごとに壁があるのを少しでも溶かして、繋ぎたいと思います。今日は有益な話がたくさんきけました。ありがとうございます。
二人の活躍も期待しています。斎藤さんには、第五期のニューミドルマン養成講座で講師もお願いしているので、風営法改正成功の秘訣と今後の展望を改めて話してもらいます。

本日は、ありがとうございました。

齋藤津田:ありがとうございました。

ニューミドルマン座談会 弁護士 齋藤貴弘氏 × Charlotte inc. 津田昌太朗氏 × バグ・コーポレーション 山口哲一氏

PROFILE
齋藤 貴弘(さいとう・たかひろ)


2006年に弁護士登録の後、勤務弁護士を経て、2013年に独立、2016年にニューポート法律事務所を開設。多様な企業をクライアントとし、幅広い分野の法律業務を取り扱うとともに、近年は、ダンスやナイトエンターテインメントを広範に規制する風営法改正をリードするほか、外国人の就労ビザ規制緩和などにもかかわり、各種規制緩和を含む各種ルールメイキング、さらには規制緩和に伴う新規事業も支援している。
・ニューポート法律事務所

津田 昌太朗(つだ・しょうたろう)


1986年生まれ。慶応義塾大学卒業後、博報堂に入社。2013年に独立し、Charlotte inc.を設立。音楽ビジネスを中心としたコンサルティング、アーティストマネジメント、「富士祭電子瓦版」「Festival Life」「Festival Junkie」など複数のメディア運営を手がけている。「Festival Junkie」の活動により、2016年に英国アンバサダーアワードを受賞。
・Festival Junkie | 日本初の海外フェス情報サイト
・Festival Life | 日本最大級の音楽フェス情報サイト

山口 哲一(やまぐち・のりかず)


1964年東京生まれ。「デジタルコンテンツ白書」(経産省監修)編集委員。アーティストマネージメントからITビジネスに専門領域を広げ、2011年から著作活動も始める。エンタメ系スターアップを対象としたアワード「START ME UP AWARDS」をオーガナイズ。プロ作曲家育成「山口ゼミ」や「ニューミドルマン養成講座」を主宰するなど次世代の育成にも精力的に取り込んでいる。異業種横断型のプロデューサー。 著書に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)、『世界を変える80年代生まれの起業家』(SPACE SHOWER BOOKs)、『とびきり愛される女性になる。』(ローソンHMVエンタテイメント)『最先端の作曲法・コーライティングの教科書』(リットーミュージック)『新時代ミュージックビジネス最終講義』(リットーミュージック)がある。
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