多彩なビジネスセミナーで海外進出の糸口をつかむ 「第13回 東京国際ミュージックマーケット(13th TIMM)」10月24日より開催
日本音楽の海外進出を目的とした「第13回 東京国際ミュージックマーケット(13th TIMM)」が10月24日〜26日に開催される。13回を迎える今年は、会場をお台場から音楽カルチャーの発信地でもある渋谷に変更(最終日の一部セミナーはお台場でも開催)。より音楽関係者が来場しやすい環境にすることで、新たなビジネスパートナーとの出会いや交流を促す目的だ。今年は特にビジネスセミナーが充実しており、様々なテーマから日本人アーティストが海外で活躍するためのキーポイントを語る。この他、国内外のアーティストが出演する連携ライブも行われる同イベントの見所について、音楽産業・文化振興財団 事務局長 道島和伸氏、同 専務理事 桑原誠氏にお話を伺った。
今年は日本カルチャーの発信地、渋谷で開催
——第13回を迎える東京国際ミュージックマーケット(TIMM)ですが、今年から渋谷での開催となります。どのような狙いがあるのでしょうか?
道島:お台場も良い場所ですが、音楽業界の皆さんは渋谷〜青山周辺にオフィスが多くあり、お台場に足を運ぶとなると若干遠いですから、去年から「渋谷でやれたら」という気持ちがありました。そういった構想を渋谷エクセル(ホテル東急)さんにお話したところ、良い場所を提供して下さることになり、ライブもO-EASTでできることになったので、今年は渋谷での開催となりました。やはり気軽に来られる環境を作ろうというのが一番の理由ですね。
——世界的にも渋谷や原宿は日本カルチャーの発信地という印象がありますから、海外からの来場者にもよりダイレクトに体験してもらえますね。
道島:そうですね。ライブ会場は、今年はO-EASTだけですが、将来的には海外のアーティストもショーケースをやることがあるかもしれないですし、「SXSW」のような規模まで行くかどうかは分からないですが、渋谷でしたらたくさんライブ会場があるので、BtoBにしてもBtoCにしても、今後の拡大を考えると最も適した場所ではいないかと思います。
——確かに渋谷は拡大しやすい条件が整っていますね。
桑原:将来的には渋谷の観光協会さんなどと街ぐるみの展開の中で、音楽の部分をTIMMが担えるようになれればありがたいなと思ってます。
——今年はどのくらいの参加者を見込んでいるのでしょうか?
道島:渋谷の会場だけですと2,000人強の来場者を見込んでいます。「Japan Content Showcase(JCS)」としてTIFFCOM、TIAFとお台場で共催すれば数字は大きくなるんですが、数字だけではなく、まずは参加してもらった人に「より意味のあるものだ」「参加した方が良い」と感じてもらえるようにしたいんです。もちろん沢山の人に来て欲しいとは思っているんですが、より海外とのビジネスの有効な場として機能してほしいという想いがありますね。
——来場者の満足度を上げていくほうが先だと。
桑原:ええ。4年前に初めてTIFFCOM、TIAFとお台場で合同開催になったときに、規模も大きくなりましたし、他のイベントとの連携が図れるので、それはそれで大きな効果もありましたが、もう一度音楽だけに戻して、参加してくれている方々にとって、もっと役立つ仕組みになりうるかどうかを見極めながらやろうと。その上でスケールアップしていきたいと考えています。
道島:今年も最終日の10月26日はお台場でTIFFCOM、TIAFとJapan Content Showcaseとしての合同セミナーを実施します。
「海外はとにかく“誰と組むか”が最重要課題」
——今年は例年以上にセミナーに力を入れているそうですね。
道島:今年は渋谷で8本、お台場で1本の計9本のセミナーを予定しています。TIMMのセミナーは音楽に特化したものですが、世界の第一線で活躍している皆さんをお呼びして、貴重な話を聞けるセミナーは今後の肝だと考えています。TIMMを海外のディールメイキングの話をするだけの場にしてしまってはもったいないと思っているんです。多彩なスピーカーの方がいらっしゃるので、例えば、その人の話を聞く。そして、多くのレコードレーベルの方が出展ブースを出しているので、名刺交換をしたりだとか、出会いの場としても有意義な場所に出来たらいいですね。
——海外市場の最先端を知ることができる上に、新たなビジネスパートナーとも直接出会える機会はまだまだ少ないですからね。
道島:今回は様々なテーマを用意していまして、その一つに「海外公演に向けて、日本アーティストがすべき準備とは」というセミナーもあります。今まで海外に活動の幅を広げるアーティストたちを見てきたのですが、「とりあえずライブをやって帰ってくる」というケースが多いように思えるんですね。呼ばれて行ってやるのは良いんですが、その前に現地でどんな準備をして、何をしたらより受け入れられるのかを戦略を立てて準備したほうがやはり良いです。また、海外展開はお金がかかるので、単発のお金の流ればかりを意識していても、最終的に「儲からないから止めようよ」という話になってしまいます。あとはご存知のように海外はとにかく“誰と組むか”が最重要課題なんです。TIMMには世界各国から音楽ビジネスのキーパーソンが参加するので、現地のプロモーターでもコーディネーターでも、多くの方々と話していただいて、組む相手を見つけてもらいたいですね。
——アーティストとの相性も含めて、誰とどのようなパートナーシップを結ぶかを見極める場にもなると。
道島:そうです。日本で言えば、現状アニソンが一番成功していますし、TIMMにもアメリカのアニメイベントのオーガナイザーがたくさん来ています。アニソン以外でも、去年から今年にかけて言えば、BABYMETALのようなバンドも成功しています。昨年TIMMでメンバー自らバイヤーにプロモーションしていたBAND-MAIDもヨーロッパ・ツアーが決まっていますし、海外での成功例は確実に増えています。上手くやっていけば、そういった流れも1年後には必ず出来てくるんですよ。
桑原:音楽産業と言っても、レコード会社、プロダクション、音楽出版と色々な会社や立場がありますが、数多いセミナーを通して、それぞれの立場で注目してもらえると、その人にとっての財産になると思います。特にこれからの日本の業界を背負って立つ若い人たちに参加してもらえると嬉しいですね。
——今回は9つのセミナーがありますが、中でも「これを是非観て欲しい」というお薦めはありますか?
道島:難しいですね。Kaz Utsunomiyaさんと丸山茂雄さんのセミナーは、多分凄く面白いと思います。話がどこに行くかですけど、非常に注目して欲しい。あとは初日にある「キー・プレーヤー:ザ・ブッキング・エージェント」。ジョン・パントルさん。この方は初音ミクやSEKAI NO OWARIのアメリカ公演を手がけたアメリカのエージェントで、日本の音楽に非常に理解がある方です。あとはロス・ワーノックさん。ヨーロッパにベースがある方ですが、BABYMETAL、Crossfaith、きゃりーぱみゅぱみゅなど、日本の音楽をかなり取り上げています。こういった大きなブッキング・エージェントの方が、今日本のアーティストをどういう風に考えてやっているのか知ることが出来るのは、TIMMならではです。
桑原:後は2日目の小室哲哉さん。ジェイ・コウガミさんもデジタルミュージック・ジャーナリストとして参考になる話をして下さると思います。
道島:他にも中国の著作権についてのセミナーもありますし、アジアのフェスのオーガナイザーが集まるセミナーもあります。ですから、どのマーケットに自分たちのプライオリティがあるのかを念頭に置いて、セミナーに参加してもらっても良いかもしれないですね。欧米に向いているのか、アジアに向いているのか、と。
——そういった意味ではバラエティに富んだ、今後の指標となるテーマがたくさんあるなと思いました。セミナーに関しては今後も力を入れていく予定ですか?
桑原:それはもうJCS全体として同じ意見です。
道島:ですから、1日だけ見たい人のために今年から「1DAYパス」を本格的に導入しています。僕らも毎年全く満足はしていないので、より良いものに変更していきたいと思っています。先ほど音楽業界の若い方々と言いましたが、そういった方々にどんどん入ってきてもらって、キープレイヤーになっていって欲しいですよね。
これから問われる「ネットワーク力」と「情報の蓄積」
——まずは海外戦略や海外展開を「面白い」「夢がある」と感じてもらわないとですよね。リオオリンピックの閉会式の評価がかなり高かったじゃないですか? 4年後の東京オリンピックは日本カルチャーの最大のプロモーションの場になりますし、この4年間をどう使うかでプロモーションの効果が大きく変わってくると思います。
道島:そうですね。数年前を思い起こすと、ブラジル音楽の輸出組織の方々がSXSWなんかで一生懸命プロモーションをやっていました。オリンピックのセレモニーはもちろん大切ですが、そこに出られる人は限られています。大御所の方は様々なジャンルにいらっしゃいますけど、やはり世界基準の新しい才能の出現に期待したいですね。
——ショーケースライブも毎年見応えがありますね。
道島:大変バラエティ豊かなラインナップですので、ぜひ足を運んでいただきたいですね。今年は韓国と台湾のアーティストが一組ずつ出演することも決まっています。台湾の音楽賞とマーケットである「Golden Melody Awards & Festival」とTIMMが連携していて、Golden Melody Festivalにはパスピエが出て、TIMMには八三夭(バーサンヤオ/831)という台湾の人気アーティストが出演します。韓国では「ミューコン」というソウルで行われる音楽マーケットと連携していて、スルタン・オブ・ザ・ディスコというアーティストがパフォーマンスをします。今後は日本のアーティストだけでなく、海外のアーティストが参加する機会が増えてくると思うので、世界の方が日本でプロモーションをする場としてもTIMMを活用していただきたいです。
桑原:海外のマーケットは各国のアーティストが観られる場になっている所も多いですし、アーティスト同士の交流を考えても、TIMMを国際的な見本市にしていきたいですね。
——最後にこのインタビューをご覧になっている方々にメッセージをお願いします。
桑原:現時点でTIMMはBtoBのマーケットに注力しています。特に海外で音楽を通したビジネスを考えてらっしゃる方は、一度足を運んでいただければ、絶対に良い経験が出来る場所だと思います。是非ご来場下さい。
——是非とも海外マーケットに関心を持っていただきたいですね。
道島:これからはアーティストも海外に出て行かないといけないですが、僕らも含めた音楽業界の人間も海外との人脈作りや情報の蓄積がすごく大事になってきます。ディールメイキングだけでなく、今後はネットワークをいかに持つかが重要だと思います。なぜかというと、ビジネスはいつ成立するかわからないじゃないですか。今売り込むべきアーティストを抱えていなくても、1年後にすごいアーティストを抱えているかもしれない。そんなときに、人間関係が出来ていなかったら何もできないですからね。ですからネットワーク作りはしておいた方がいいですし、TIMMはそれが出来る場だと思います。
桑原:自分の普段の活動範囲の中でいくら勉強しても経験を重ねても限界がありますので、一歩外に出て、色々な人と知り合いながら話を聞いて、刺激を受けることで新しい考えもまとまっていくと思いますし、そういう場としてTIMMを使っていただけたら嬉しいですね。