【チケット不正転売問題】「行けなくなった」ニーズに応える新しいプラットフォームを提供 ヤフー株式会社ヤフオク!サービス推進本部本部長 建山雄旗氏 インタビュー
エイベックス・ライヴ・クリエイティヴとYahoo! JAPANが、チケットの公式再販の新しい仕組みを提供する新会社「パスレボ」を設立。Yahoo! JAPANの持つメディア機能を活用するだけでなく、オークションサイト「ヤフオク!」との連携も視野に入れた第一段階プロダクトの年内リリースも予定されている。日本最大級のプラットフォーマーはチケット高額転売に対し何を考えどのような対策を検討しているのか。ヤフー株式会社 ヤフオク!カンパニー ヤフオク!サービス推進本部 本部長の建山雄旗氏にお話をうかがった。
ヤフオク!ではない公式再販の仕組みを年内に
——どのような経緯でパスレボを立ち上げるに至ったのでしょうか?
建山:2014年5月にサービスを開始した「Yahoo!チケット」を立ち上げるにあたって、ヤフーだけで音楽興行の世界に飛び込んでいくことがなかなか難しく、その世界に長けたパートナーを探していました。そんな中で、エイベックスさんのオープンな経営戦略や発想が、ヤフーのプラットフォーマーとしての性質と親和性が高いのではと判断し、共同で「Yahoo!チケット」を立ち上げることができました。そして、2016年5月に、さらなるサービスの強化を図るために共同で新会社を設立することになりました。
——チケットの公式再販に参入される予定とのことですが、どのような狙いがあるのでしょうか?
建山:ヤフオク!のチケットカテゴリーはユーザーが集まりやすい場所でしたが、高額転売について、アーティストや興行主の方々から常にご意見をいただいていました。我々もその問題に対して、解決に向けて取り組んで参りましたが、ヤフオク!のチケットカテゴリーだけでは解決できないと方針を転換し、新たに取り組もうとしているのが公式再販です。年内をめどに新しく構築しようとしているチケット販売の仕組みでは、1次流通から2次流通まで様々な方法でチケットを取り扱うなどあらゆる可能性を検討しており、アーティストや興行主の方、そしてユーザーにも納得して使っていただけるような仕組みを作っていきたいですね。
——ヤフオク!のチケットカテゴリーも引き続き運営していくのでしょうか?
建山:よく「そう思うならすぐにヤフオク!を止めて欲しい」という話になりがちなんですが、チケットの転売自体が法律で認められていて、ニーズはあるものの公式なキャンセル、再販手段が提供されていないという大前提があります。そのような状況を踏まえ、営利企業としてビジネスをやっている中で、公式再販のような動きを実現していくためにも、新たな仕組みへの投資の元手を確保しておかないと、売上を急に止めるというのは難しく、プロジェクト自体が止まってしまうことも考えられます。それは避けないといけないので、別の方法として、今まで二次流通で流れていたチケットについて、本当にアーティストが好きでライブを観たいという人に公式で譲渡できる仕組みを、第一段階のプロダクトとして年内を目処に出して行く予定です。
——それはYahoo!チケットがベースになるんでしょうか?
建山:そうですね。ただ、今回パスレボ社として取り組んでいる新しいチケット再販の仕組みも、ヤフーとエイベックスさんだけで使っていこうとは思っていなくて、アーティストの皆さんや、興行主の皆さんが「この仕組みのほうが売りやすい、ファンにも喜んでもらえる」と選んで頂けるようなサービスにしていくことが理想です。
売り方・買い方の自由度と収益構造の変化がマーケット拡大の鍵
——チケットの高額転売の課題はどこにあると思われますか?
建山:まずファンクラブに入っていても抽選になると手に入らないケースが多いこと、次に先行受付が数ヶ月前から始まることですね。先の予定はわかりませんし、行けなくなる可能性がありますよね。いざ行けなくなったときに、チケットをキャンセルする方法が公式な形では提供されていない。それに対して、高値で転売することを目的にファンクラブに潜り込んで買い占めたりといった行為がなされているようで、結果チケットが高額化してしまうということが、二次流通市場においては課題だと思っています。
——課題を解決する具体的な取り組みとしては、どのようなものが検討されているのでしょうか。
建山:イメージで言うと、飛行機に乗るときに皆さんチケットをオンラインで買っているじゃないですか? かつ搭乗手続きのゲートは全席指定でスマホやQRコードでやれています。またキャンセルと再販の仕組みも公式に提供されています。チケットもそういった類のものに近づけていこうという感じですね。アーティストや事務所からの要望に合わせて、いくつかのパターンに落とし込んで、その中から自由に選んでいただくことになると思います。
——機能として用意しておいて、アーティストや事務所が取捨選択すると。
建山:そうです。ヤフオク!も含めてですが、色々な二次流通の場があったとすると、高く売ることが目的の人たちは、結局そっちに行ってしまうじゃないですか。ですから、そのニーズを潰すのではなく公式の形で作らないと、結局何かしらのやり方で地下に潜ってしまうだけなんですね。
——ヤフオク!と連携したソリューションも検討しているそうですね。
建山:導入に向けて進めてはいますが、時期もまだ明確ではないです。
——転売で価格が上がったものがアーティストに還元されない事も問題視されていますが、そういったところも改善されるのでしょうか?
建山:そうですね。「できる」とはまだ言えないですが、当然検討はしています。そこで大きく儲けるためにはそれこそ高額にしていかないと無理なので、正直なところ我々としてもそこで収益化しようとは思っていません。それよりも我々が一次と二次のニーズを満たすプラットフォームを提供し、そこをできるだけ多く使っていただくほうがより健全かと思います。
——今後チケットの販売や二次流通はどういった変化を辿っていくとお考えでしょうか?
建山:チケットの電子化は既定路線としてあると思います。ストレートに言ってしまうと、紙のチケットは流動性が高すぎるので転売の原因になります。そこをチケットという「モノ」ではなくて「権利」に変えていく。その権利をデジタルな仕組みの中で、他の人に移し替える仕組みが求められるだろうと。もちろん紙も使い続けたいという興行主やアーティストはいらっしゃるだろうと思いますので、オプションとして残っていくとは思っています。
もうひとつは「二次流通市場」というマーケット自体が結果的にはシュリンクしていくと思っています。業界団体の方々も「不正転売」「高額転売」に対しては否定をしていますが、行けなくなったときの転売ニーズ自体を否定するものではないと仰っているわけですよね。ただ、そこに発生していたニーズというものは、別の形で解決しないと「水は低きに流れる」ということになります。「二次流通市場」という括りが今あるのであれば、そこは将来的に一次流通ないしは公式販売システムの中に吸収されていくだろうと中長期的な視点では考えています。
——チケット流通の整備は、ライブ市場の更なる拡大の後押しになりそうですね。
建山:興行の市場が拡大するためには2つ必要な要素があると思っています。ひとつは売り方・買い方の自由度、つまりバリエーションの拡大。もうひとつは興行の収益構造の変化だと思っています。今の日本の音楽興行でお金を儲けられるのは、スタジアムを一杯にできて、ツアーが組めるアーティストだけなんですね。そこにITの力を活用して別の価値を付与することで、小箱で楽しむ音楽をやっている人たちも継続していける仕組みができるんじゃないかと考えています。興行側の視点で言うと満席率、ユーザーの側から見ると、価値に応じた価格設定で権利を得られるようになれば、よりマッチングが成立しやすくなると思います。
——根本的な構造の改革が必要な時期にきているということでしょうか。
建山:ヤフオク!などの収益源であったり、ユーザーベースであったり、そういうものを全てキープした上で余裕を持ってチャレンジングなことをやりたいというのは受け入れられないと思うんですよ。やはりどこかで意思決定していかないといけない。我々としてはチケットの売り方で、「ヤフオク!ではない」という意思決定をしましたので、一部では泣くことになるとは思います。
その上で、今後の日本の音楽シーンを考えたときにも、やはりお金を稼げるアーティストをどれだけ育てられるかというところが大きなポイントになるだろうと思うんです。そのためにチケットの売り方や買い方、音楽興行の提供の仕方のバリエーションを増やしていく努力が不可欠です。我々はそこに必要なプラットフォームを作ることで貢献してきたいと思っています。