各社新人開発スタッフが語る“アーティストの才能を見抜くコツ” SONIC ACADEMY FES 2016「デビューを目指すアーティストのための”オーディション必勝講座”」開催
ソニーミュージックによるエンタテインメントの学びの祭典「SONIC ACADEMY FES 2016」の公開プログラムとして、各レコード会社の新人開発スタッフが今求められているアーティスト像や審査のポイントを語る「デビューを目指すアーティストのための”オーディション必勝講座”」を開催。オーディションのマル秘情報はもちろん、これまで関わってきた有名アーティストとの裏話や業界あるあるなど、第一線で新人開発に携わるスタッフならではのリアルな意見が次々と語られた。
◆参加パネラー陣(写真左から)
・ソニー・ミュージックエンタテインメント SDグループ 須藤一希氏
・ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA) 開発部 冨永周平氏
・エイベックス・マネジメント株式会社 代表取締役社長 伊東宏晃氏
・ビクターエンタテインメント 制作本部ADグループ 奥口法子氏
・ヤマハミュージックパブリッシング 音楽出版部 RDグループ 石田裕一氏
・ソニー・ミュージックエンタテインメント Red Project 加茂啓太郎氏(元ユニバーサル/Great Hunting)
・司会・進行 ハグてっぺい氏(浅井企画 / 渋谷gee-ge. / イベントプロデューサー)
- オーディションだけじゃない!始発電車で出会ったUNISON SQUARE GARDEN
- エイベックスの危機を救った若手クリエイター
- 今、求められているアーティスト像とは?
- イントロは短く4小節、サビは1分20秒までに 〜 1次審査はどこをみる?
- 「会った瞬間に全てが分る」オーディションで見ているのは平均点より突出した魅力
- オリジナル曲のストックはどれくらい必要?
- 「努力しないで才能が花開くことはない」
オーディションだけじゃない!始発電車で出会ったUNISON SQUARE GARDEN
ハグ:まずご自身のキャリアの中で出会った時に印象的だったアーティスト、そしてその印象を教えて下さい。
須藤:今日はビクター ADグループの奥口さんもいらっしゃいますが、自分の中で一番印象に残っているアーティストは、最近ビクターさんからメジャーデビューした「雨のパレード」です。一昨年、下北沢のライブハウスで見て「このバンド良いな」と。特にボーカルが、オーラというか雰囲気をまとっていて、「これはいける!」と思ったんですけど、同時にビクターさんも声をかけていて、最終的にバンドがビクターさんを選んだと、よくある話ですがやはり悲しいですね(笑)。
ハグ:では、お隣の冨永さんはいかがですか?
冨永:SMAは音楽事務所でもあるんですが、芸能事務所でもありまして、役者さんも声優さんもいます。僕は元々東京スカパラダイスオーケストラのマネージャーをやっていて、新人はそれまでやったことがなかったんです。それがある日、上司から「新人を探してきてほしい」と言われて、だんだんと今の仕事になっていきました。その中でオーディションではない出会いを2つ軽くお話します。
1つは電車の中です。総武線の始発電車でギターを抱えた男の子が座っていて、「ルックスがいい男子だな」と思って、彼の前に座るわけですね。ギターケースに聞いた事もない名前のバンドのパスが5枚くらい貼っているので、おそらくそのバンドのメンバーなんだろうと。普段だと声をかけたりすることもあるんですが、その日は会社に行ってパソコンで検索して「UNISON SQUARE GARDEN」というバンド名が出てきまして、それがボーカル&ギターの斎藤宏介くんだったんですね。2006年の5月でした。その直後に下北沢のライブハウスに行ったら、まだ数人しかお客さんがいないような感じだったんですが、とにかく顔が良かった(笑)。僕らはギターとか楽器を背負っている子は結構どんな人なのかを見ます。電車の中でも道ですれ違ってもわざわざ覗きに行ったりとかします。
ハグ:その後、ユニゾンにアポをとったんですか?
冨永:ライブハウスで観て「良いな!」と思って、そこから1年以上ずっと口説いていたんですが、当時はメジャーデビューする気が全くなかったらしく、その間にも色々な事務所から声がかかったそうですが、最終的に我々を選んでくれました。ありがたいですね。
ハグ:最初に総武線で見つけた冨永さんの手柄になったと。ご縁が実ったわけですね。
冨永:そうですね。もう1つは、日テレの『音燃え!』という高校生が勝ち抜くバンド合戦みたいな番組にパンクロックのバンドが出ていて、「かっこいいな」と思ったんですよ。そのしばらくあとに漫画家のみうらじゅんさんの高校時代を描いた映画のオーディションで主役の男の子を探していて、パッとその番組に出ていたバンドのボーカルの子のことを思い出しまして、それが「黒猫チェルシー」なんですが、当時高校2年生だったのかな。2008年の2月です。
「絶対この子はピッタリ合う」と思って、日テレさんに問い合わせたら「そういう青田買いみたいなことは出来ませんので、連絡先は教えられないです」と言われるわけです。それはそうですよね。ですから「黒猫チェルシーではなく、あのボーカルの子にオーディションを受けさせたいんです」と言って連絡先を教えてもらって、本当にヤラセも何もなくオーディションを受けさせたんです。そうしたら、2,000人の中から渡辺大知が選ばれて『色即ぜねれいしょん』の主役で日本アカデミー賞の新人俳優賞を獲るんですよね。僕らはなるべくアンテナを張って、「ピンと来よう」と思ってます。ピンと来る子は何かしら出していると思うので、出し続けてくれればテレビの片隅でも僕たちは見ているんです。
エイベックスの危機を救った若手クリエイター
エイベックス・マネジメント 伊東宏晃氏
ハグ:伊東さんは関わったアーティストで印象に残っているのは誰ですか?
伊東:うちのグループもSMAさんと同じようにアーティストとタレント、モデル、スポーツ選手だと本田圭佑、ダルビッシュ有、最近だとピコ太郎なんかのマネージメントをやっています。僕自身は小室哲哉さんのマネージャーからスタートしているんですが、小室さんとアメリカで一緒に生活しながら、あらゆる雑用をやっていて、毎日「辞める」って言ってたんですけど(笑)、小室さんのスタジオでヒット曲が出来るまでの過程を教わったり、かなり濃い時間を過ごしました。実は97年に小室さんとエイベックスは契約を解除をするんです。
ハグ:それは一大事ですね。
伊東:当時、売上の7割が小室プロデュース作品だったんですから大変ですよね、その売り上げがなくなるんですから。そのときエイベックスは小室さんに代わる音楽プロデューサーを探そうとしたけど、あんな天才は他にいるわけがないんです。ですから、小室さんと一緒にやっていく中で教わった作詞、作曲、アレンジ、宣伝、プロモーション、ライブ、マーケティングなどを分業化することにして、これが今のエイベックスの骨子になっています。
そこで「作家を探せ」という使命をもらって、捨ててあるデモテープを聴き漁ったんですね。そこから生まれたのが、後にDo As Infinityのメンバーになった「長尾大(D・A・I)」だったり、浜崎あゆみの曲を作った「菊池一仁」、それから「多胡邦夫」(木山裕策の「home」など)。全員当時はアルバイトの青年で、長尾大については、カセットテープのケースは捨てて中身だけを白い封筒に入れて「長尾大」って書いてるだけなんですよ。切手50円で送れるから。皆さんデモテープを聴いたことはあると思うんですが、2秒くらいで良いか悪いか分かるんです。で、カセットを聴くと31曲入っていて全部良いんですよ。その場ですぐ電話して「すぐ来て」と。それで原宿で会って、竹下通りでラーメン食べて「契約しよう」と。そうしたらラーメンなんか奢られたことないって喜んで契約してくれて(笑)。
ハグ:安く上がりましたね(笑)。
伊東:実際その31曲はその後全部使われましたね。そのくらいクオリティが高かったんです。最初に声掛けてくれたのがポニーキャニオンさんで、当時チェキッ娘というアイドルがいて、2曲渡したうちの1曲を選んでそれがデビュー曲になったんです。でも、返してくれた曲に、浜崎のブレイクのきっかけになった「TO BE」って曲があったんですよね。ちょっと運命的な話ですけど。
ハグ:長尾さんは他にも送ってたんですか?
伊東:『Musicman』って本、知ってます? あれのレコード会社とかプロダクションの一覧に”あいうえお順”で片っ端から送ったらしいんですけど、当時エイベックスのプロダクションは「アクシヴ」という名前だったので、届くのが早かったんですよ。その後どんどん電話がかかってきたらしいんですが、早い者勝ちなので。長尾とか菊池一仁が作家として浜崎とかEvery Little Thing、hitomiとか、ヒットを作っていった相乗効果でエイベックスのクリエイティブ面のレベルが上がっていきました。それによって作家からもどんどん「所属したい」っていう連絡がくるようになりましたね。
ハグ:ありがとうございます。では唯一の女性、奥口さん。
奥口:皆さんお話が面白くて聞き入ってしまいました(笑)。私がビクターエンターテイメントに入ったのは実は2年前でして、その前は冨永さんと一緒の会社、SMAという会社でマネージメントをやらせていただいてました。
ハグ:大手から大手に転職するのは、音楽業界あるあるですね。
奥口:12年くらい前に初めて音楽のマネージメントしたのが「木村カエラ」で、彼女のデビュー時から初の武道館ライブが終わるまで担当しました。自分も現場マネージャーとして駆け出しで、学ぶことが多く「一緒に成長していったな」という感じです。その後、新人バンドを担当したんですが、そのバンドと対バンしていたバンドを観て、「凄いな、この声」って圧倒されて。自分は担当出来なかったので別のマネージャーに紹介しました。当時「banbi」という名前で活動していて形を変えて今は「sumika」というバンドで活動しています。今凄く人気なので間違ってなかったなと思います。
ハグ:では、ヤマハの石田さん。
石田:私は「Music Revolution」など歴史あるオーディションの現場に15年ほど携わってきました。印象に残ったアーティストは「吉澤嘉代子」(4回目の「Music Revolution」グランプリ受賞者)。彼女の音源はAG弾き語りだったのですが、そのメロディと詞のマッチングが素晴らしかったんです。何百曲も聴いた中で、その曲がずーっと耳に残ってて、そこにいたスタッフが皆「あの曲のあの歌い出しがもう耳から離れない」と。それで、実際イベントに出てもらったら、あれよという間にジャパンファイナルのグランプリを獲り、デビューされました。やはりメロディと詞が上手くマッチングしてるというのは奇跡的なものだと思うんです。
ハグ:それはなかなかない話ですね。では最後に加茂さん。
加茂:一番は「氣志團」の綾小路翔ですね。氣志團のビデオを観てコンタクトを取って会ったら、白のダブルのスーツに革ジャン着て2時間くらいずっとひとりで喋っていて、その話がかなり面白い。最高でしたね。あと「Base Ball Bear」もデモを聴いて来てもらったんですが、当時4人とも学生で、ドラムの子が「明日デートをする。初デートだ」と。「それがどうなるか」って話だけを2時間。
今、求められているアーティスト像とは?
ソニー・ミュージックエンタテインメント 須藤一希氏
ハグ:(笑)。このテーマで話を続けると、エピソードが山ほど出てくると思うんですが、今日はオーディション必勝講座なので次に進みます。続いて「今、求められているアーティスト像は?」というテーマでお話を聞いていきたいと思います。
須藤:アーティストを目指している方でも、音楽以外のもう一味というか、例えば、映像を作れますとか、こんなイラストが描けますとか、そういった音楽以外のクリエイティブな部分を得意とする人に惹かれますね。
冨永:今、須藤さんが仰った通り、僕よりも詳しいことがあったり、こだわりがある人がいいですね。話をしていて勉強になりますし、友達になれるような人がいいなって。音楽に関して言うと、例えばMr.Childrenが好きで似たようなことをやってても、まったく意味がないので「なんでこんなことになっちゃったのかな?」という人を見たいですね。カラオケで歌うにしても例えば中島みゆきさんの『糸』を西野カナみたいに歌ってみるとか、逆に西野カナを中島みゆきみたいに歌っている人がいたら、めっちゃオモロイと思います。
伊東:僕はもう王道、ドンズバで「歌が上手い」ってだけでいいんですよ。歌だけで感動させられるような人に来てもらいたいですね。いまだかつて欧米のポップスの世界で歌をうたってステージに立っている日本人を見てないわけじゃないですか? これからの人たちにはそこを目指してもらいたい。これだけ世界が近くなって、自分でYouTubeに動画を上げてブレイクする時代です。だから技術は磨いてもらいたい。かと言って他のアイドルがダメだとかそういうことではないですよ。
ハグ:色々経た上で王道に戻るんですね。では奥口さん。
ビクターエンタテインメント 奥口法子氏
奥口:ライブパフォーマンスに長けている人には惹かれますね。いわゆる「察しが良い」というか、お客さんに何をしてあげたいのか、という「おもてなし」の心を持っていることですね。先日、女王蜂とアルカラの対バンを企画しまして、アルカラが先攻で素晴らしいパフォーマンスをして、その後の女王蜂のアヴちゃんが「全員抱いたるわ!」って言ってステージに出ていった瞬間、「あぁもう…本当に素敵!」って思いましたね。そういうアーティストを見つけたいですね。
ハグ:最終的にはライブだと。ではヤマハの石田さん。
石田:ここ何年もYouTubeや教則本が充実して、どう演奏すればいいのかどう歌えばいいのか、答えがすぐ目の前にある状態だと思います。世の中的に表現として平均点を取るのって、意外と容易い時代なんだなと思ってるんです。その中で「自分は何を表現したいのか」「自分はこれなんだ」っていうものが、たとえ同じコード進行でも絶対に熱量として入ってくるんですよ。そういうものがある人と出会いたいです。
ハグ:ありがとうございます。では加茂さん。
加茂:料理に例えて言うと、どんな難しい料理でもレシピ通りに作れば出来るんです。でも才能っていうのは、新しいレシピを作れることなんですよね。最近の例で言うとBABYMETALですね。
ハグ:「苺大福」理論ですね。
加茂:そう。今までありえなかった食材を混ぜ合わせたときに新しいものが生まれる。そういうことを常に心がけて、思いつく人が成功するんだな、と思います。
イントロは短く4小節、サビは1分20秒までに 〜 1次審査はどこをみる?
ハグ:3つめにいきたいと思います。オーディションの一次審査で「どこを注目して見ますか?」という質問です。
須藤:僕は写真ですね。「簡単で良いんで送ってください」とは言いますけど、その「簡単」をどうとらえるか。例えば家の中のふすまとかタンスがバックに写っているような写真もあるんですが、クリエイティブなことを目指すなら、その「簡単」というものを自分の中で咀嚼して撮影してみてほしいですね。そう言うと難しく考えちゃうのかもしれないですが、なにか考えられるんじゃないかなと、見てて思っちゃいますね。
ハグ:わかります。でも逆に素人だけど「モデルやり慣れてます」みたいなバッチバチのやつも…。
須藤:それもまたキツいですね。難しいんですけどね。
ハグ:なるほど。冨永さんはどうですか?
ソニー・ミュージックアーティスツ 冨永周平氏
冨永:やはりセルフ・プロデュース、自分の作品に対して客観的であるかということですね。例えば、チューニングが合っているか、テンポはそれで良いのか、歌い出しで歌の力が伝わるのかどうか。自分が作ったものを最高だと思わずに、一回客観的に見直してから、我々に提示してくれる人はクレバーでいいなと思います。
ハグ:優しそうな口調で結構厳しいことを言いますね(笑)。でも、それがプロの世界ですからね。では伊東さん。
伊東:さっき話に出ましたが、長尾の場合は全部サビ始まりで送ってきたんですよ。曲も大体90秒以内で、2〜30秒、60秒、90秒と、CMに使われることも想定して作ってあった。そのくらい先のことを考えて送ってくるかどうか。でも中には地方の小学生くらいの女の子とかで、多分お母さんに内緒で小声でコッソリ歌ったのを送ってきたりするんだけど、それじゃあわからないじゃないですか(笑)。で、一応呼ぶんですよ。大きな声を出したらどうなるのかって。そうしたら同じ感じで(笑)。でも聴かないとわからないですからね。
ハグ:送ってみたら何かの返りがあるんですね。
伊東:行動しないと伝わらないし、多分ここにいる人たちは何度かそういうアプローチをしているでしょう。ソニーさんでダメでもエイベックスでってこともある。これはめぐり合わせなので、絶対に諦めないでほしいですね。
ハグ:1つの会社がだめでも諦めないことですね。では奥口さん。
奥口:先ほど客観的になれという話がありましたが、「自分がそれを聴いたらどう思う?」みたいな所を考えて送ったほうが良いんじゃないかなと思います。すぐ聴ける状態なのか、逆に梱包が凄く厳重過ぎてなかなか開けられないとか、あるいは2分くらい歌が始まらないとかですとちょっと聴く気持ちが萎えるというか…、さっきの「おもてなし」と同じ様なことなんですが、聴く側がどういう状態で聴くか、あまり考えられていないことが多いんですよね。
ハグ:何百通も送られてくるものを聴く立場になって送ると。では石田さん。
石田:再生したときに「私はこういうアーティストです」というのが、なるべく早く分かるといいですね。先ほどの長尾大さんのサビ始まりというのもそうなんですけど、「この曲はこういうことを言いたいんですよ」というのが、早く来るといい。一曲目に聴いて欲しい曲を入れて、最初の30〜40秒に全てをかけるくらいの熱量というのは、デモテープには必要だと思います。
加茂:イントロは短く4小節まで。僕は8小節は聴かないです。サビは1分20秒までに来る。あと、もうひとつはプロフィール欄。Mr.ChildrenとかMISIAとか絢香…彼らをディスるわけじゃないですよ? そういう一般的な誰でも知ってるようなアーティストが書いてあると「フ〜ン」って感じですね。例えば、湯川潮音ちゃんは高校2年でフェイバリットはジョニ・ミッチェルとローラ・ニーロって書いてあって、「この子なに?」ってなりますよね。あと相対性理論の真部脩一くんは会ったときに「プロデューサーって誰にやってほしい?」って聞いたら「キップ・ハンラハンが良いですね」って。キップ・ハンラハンってニューヨークのアヴァン・ポップって呼ばれてるジャンルのアーティストなんですけど、「コイツ、ただもんじゃねーな」って思いますよ。
冨永:それ、下手をすると、かましてるだけみたいな感じになりません?(笑)。
加茂:そう。嘘書いてもこっちはプロなんで分かりますけど、一応自己演出と言うか。
冨永:直接的に影響を受けたものは書かないほうがいいですよね。ミスチルを聴いて好きになって音楽を始めたんなら「ミスチル」って書くとネタバレになるから。
加茂:だったら好きな映画を書いてくれたりとか、ミスチルが影響を受けたアーティストに遡って、そっちを書くとか。結局、知的好奇心があるかどうかだと思うんです。ミスチルが好きならエルヴィス・コステロを聴いてなきゃ嘘になるんです。ビートルズ聴いてなきゃ嘘になるんです。知的好奇心がある子がやっぱり才能があるから。
伊東:本当に最近の人たちはミスチルで止まっているんですよ。ルーツを探って行かない。この人たちが聴いている量を凌駕していないから話が終わっちゃうんですね。そういう人が多い。
「会った瞬間に全てが分る」オーディションで見ているのは平均点より突出した魅力
ハグ:今日参加した皆さんには、是非自分の音楽を深めるためにもルーツを探っていって欲しいなと思います。次は二次審査というか、面接やオーディションでどういうところを見ているのか聞いていきたいと思います。
須藤:歌はもちろんですが、歌っているときの表情ですかね。無表情でも楽曲に合ってれば惹かれますし、熱く歌うなら熱く歌うなりの楽曲であって欲しい。全てがリンクしている感じがあるかどうかは見ていますね。
ハグ:それは直接見たら伝わるものですか?
須藤:そうですね。
冨永:バンドに関しては、スタジオ審査をするのは失礼だなという感覚があるので、僕らがライブハウスに行きます。そこでのびのびお客さんを巻き込んでやっているところを見たい。シンガーソングライターとか、シンガー志望の方は、オーディションという形で会うしかないので。実はこの質問は難しいなあと思っているんですが、さっき伊東さんがおっしゃっていたような小声の子でも会いたいんですよ。ただ会った瞬間に全てが分かっちゃうんですね。それは説明できないんです。個人の感覚とかセンスなのかもしれないので。
ハグ:逆に会ってみて「ダメだな」と思ったけど、歌い出した瞬間に「あれ、良いな」となることはありますか?
冨永:それはありますね。さっき須藤くんが言っていた表情だったり、歌に入り込んで人格が変わって見えるような感じとか、歌がすごく強かったりだとか、そういうときは何か評価が変わるのかもしれないなと思います。でもこれは本当に人それぞれなので。
伊東:僕は最初は声。難しいのは出会ったときの年齢とかですね。女の子は年齢でかなり変わってくるし。
ハグ:その場合どこで判断しているんですか?
伊東:もう素材でしかなくて。僕らは開発の後にどうやって鍛えていくかを考えるんですが、そこを待てる人と待てない人がいるんです。でもやっぱり4〜5年かけて育成された人の方が、デビュー後の活躍が全然違ってくる。あと、バンドなんかで難しいのは、作詞作曲してボーカルやってる人は良いんだけど、演奏のテクニックが追いついてないことがあって、メンバーを変えてまでやる気があるのか選択を迫ることもあります。そこは「どこまでプロとしてやっていくつもりがあるのか」という話を、メンバー間でしているのかなと言うところも含めて見ているので。下手だからダメという話でもなくてね。なかなか難しい質問ですよね。
ハグ:メールや紙では伝わらない、会ってこそわかるものがあるということですね。
伊東:僕はよく言ってるんですが、最終的に残る人って人柄なんですよ。そこにスタッフもファンもやられちゃってるから。それがないと歌も伝わんないですよね。だから凄く良い作品を作るけど人間的にダメな人って結構いて、それは一瞬グッと行くけど、やっぱりどんどん周りが去っていくんですよね。
ハグ:なるほど。では奥口さんは?
奥口:自分の魅力をどれだけ伝えられるかですかね。そう言っちゃうと難しいかもしれないですけど、何を伝えるかっていう熱意は大事だなと思います。伊東さんのおっしゃる通りそれが伝わった瞬間にスタッフ側の気持ちが働いていったりもしますし。会うまでの時間をその一瞬に込められるかみたいなことですね。
ヤマハミュージックパブリッシング 石田裕一氏
石田:普段からどういう気持で音楽に接しているかとか、表現について考えているかって、ステージ上とか歌にすぐに出ると思うんですね。そういうときに、よそいきの顔はあんまり見たくないなと思っていて。その一回のステージだったりオーディションのために表情まで作り込んできても、おそらくここにいる皆さんはすぐに見破ると思うんですね。そういうことよりも普段の自分をいかに自然体で出せるか。普段から意識できているか。そういう所を二次審査では見ていきたいですね。
ハグ:加茂さんいかがですか?
加茂:付け焼き刃では無理ですよね。会ったときに「人間力があるな」「コイツ話して面白いな。いくらでも話してられるな」みたいな。さっき言った綾小路翔とかBase Ball Bearとかずっと喋ってられるから。やっぱり音楽的才能がある人って、人間的にも興味が持てるケースが多いので。日頃から人間力を上げる努力をして欲しいですね。
石田:終わった後にスタッフで話していて、1日で50人とか100人に会うわけです。「あの子」って言えるような印象が残るといいですよね。平均点はいらなくて一個印象に残るものを。加茂さんがおっしゃってた人間力がある特殊な方向にだけ出ているみたいなのがあると印象に残ります。
ハグ:五角形のパラメータで言うと、平均点ではなくて一個だけずば抜けてる方が面白い?
奥口:でも奇をてらえば良いという訳ではないです。すべてが人間力に繋がるので。全て培った上でということだと思います。本当に難しいですけど自然に派生するものだと思いますので。
石田:おそらくここにいる皆さんは音楽が好きなんですよ。なので音楽のファンとして音楽に向き合おうとするんですけど、皆さんが将来ショウビズの世界に入って、音楽のファンじゃない人にもCDを手に取ってもらうことを考えたときに、自分が何者かということを簡単に相手に知らしめなくてはいけない。例えば、先ほどお話にあったフェイバリットアーティストを細かくいっぱい書いてる人っているんですよ。しかもブリティッシュロック系からアメリカン系から、君はどっちがルーツなんだよみたいな。そういうことじゃなくて「私はコレなんです」というのを分かりやすくすることも、やった方がいいかなと思います。
オリジナル曲のストックはどれくらい必要?
ソニー・ミュージックエンタテインメント 加茂啓太郎氏
ハグ:ここからは質問コーナーにいきたいと思います。聞きたいことがある人は挙手を。
客A:現在僕は40曲ほどオリジナル曲を持ってるんですけど、クオリティによると思うんですが、大体どれくらい持っていると売り出しやすいというのはありますか?
加茂:使える曲が最低30は要りますよね。
伊東:多分30曲あったらその中で本当に使えるのは1〜2曲じゃないですか? で、作ってきてもらったものを何度も手直しして仕上げる。過去の洋楽・邦楽も含めて「ファーストアルバムが一番いい」とよく言われるのは、色んな物を集めてギュッと10曲にしてるから。あとは発売のペースにだんだん追いつかなくなってくんですよね。だからデモテープは沢山あるに越したことはない。
加茂:椎名林檎はデビュー前に二枚目のアルバム分まで曲が全部ありましたよ。
奥口:デビューすると曲を売り込むためのプロモーションだったり、本当に時間が無くなっていくので、ストックは多いに越したことはないですね。
冨永:僕はオリジナルが80曲とか100曲あるとか言われるとゲッソリするんですよね。だったら「90曲捨てて、残り10曲を物凄く良くしたら良いのに」って思っちゃうので。ただ、いつでも厳選してアルバムを3〜4枚なんとかできるよって状態になってたらいいと思う。1つやって欲しい遊びがあって、その40曲をインディーズ時代のミニアルバムにはどの曲を何曲入れます、メジャーデビューのシングルはこの曲がA面でこの曲がB面、ファーストアルバムで結構ブレイクして、CMに提供する曲はこれみたいな感じで、今持っている曲で試しにプランを組み立ててみる。そうすると色んなことが分かってくると思うので。
ハグ:曲数あればいいってもんじゃないけど、たくさん曲を作る感覚はあった方が良い、と。
———
客B:デモテープはアレンジとかも全てされている100%のクオリティにしたものを送るべきなんでしょうか?
加茂:その必要はないです。才能があったらギターの弾き語りでも、ピアノの弾き語りでも分かるから。音楽性がなければ、どんなに上手くアレンジしてあっても才能ないなって分かるので。
ハグ:出来なかったら弾き語りでも良いし、アカペラだって良いですよね?
加茂:そもそも100%の完璧なアレンジって無いんですよ。自分の中で今出来る100%を出せばそれで良いと思う。
オーディションで重視するのは年齢よりも人間力客C:年齢が制限されてるオーディションもあると思うんですが、何歳くらいまでだと通過しやすいとかありますか? どれくらい年齢を見ているんでしょうか。
加茂:クリトリック・リスって知ってる人います? 今一番推してるんですけど、彼は46歳ですから。36歳で音楽始めて42歳で会社辞めて、去年46歳で渋谷のWWWでワンマン。ソールドアウトでしたよ。
伊東:僕は木山裕策ってアーティストをやってるんですが、当時38歳で子どもが4人いました。でも、オーディションをやったら歌がすごいので彼の人生をそのまま歌にした。今も活動してますし、もう45、6。だから年齢は関係ないですよ。
ハグ:よく何歳までとは書いてあったりしますけど、1歳2歳オーバーしてても見ますよね?
奥口:全然見ます。人それぞれの良い時期と言うか、人間力が培われている時期って違うと思うんです。木山さんはその歳がすごく良かったということだと思うので。気にしないで自分を磨く事が大事だと思います。
———
客D:作詞をする際にどうしても自分のわかりえない領域、例えば母子家庭であったりとか、若い時に親を亡くしたという話は、どんなに人間力を上げても知ることができない。でも、そういう経験をしている人たちに言葉を伝えたい思ったときに、自分の中でどうやって消化をしていけばいいのかな、と。
須藤:自分が経験した中での消化で良いんじゃないですか? 無理に自分が経験したことがないことを描こうとしてるってことですか?
客D:本の登場人物に感情移入して、世の中にはこういう人がいるんだと感じて。それをどうにか自分の歌で少しでも伝えたいと思いました。
加茂:ユーミンって22か3で結婚してるけど、今までずっと恋愛の歌を歌っているじゃないですか。つまり経験の有無ではなく説得するだけの表現力があれば良いって話です。表現は結局自分のフィルターを通しているわけじゃないですか。そこを気にしだすと何も書けなくなっちゃうので。それより自分は何者で、自分という表現は自分のフィルターを通して、例えば、自殺の問題に対して、どういう風に向き合うのか。肯定するのか否定するのか。そういうスタンスがきっちりしていれば、周りがどうあれ「自分の表現はこれです」って胸を張って出せるはずなんです。それを本当に世の中に出して良いかっていう最終判断はこちら側の人間がするので。
「努力しないで才能が花開くことはない」
ハグてっぺい氏
ハグ:では、最後にパネラーの方々から一言ずついただきましょう。
須藤:自分自身がためになる話をしなければいけないところ、諸先輩方から非常にためになる話を聞かせていただきました。皆さんぜひ本気でチャレンジしてください。自分がやりきったと思うまでなのか、音楽で飯を食ってやろうという気持ちが途絶えるまでなのか、死ぬ気で今思っていることをやり尽くしてもらいたいと思います。
冨永:おわかりかと思いますが、我々は物凄く話好きなんですね。皆さんから聞かれたら一生懸命答えるし、本当は全員の質問に答えたいぐらい。なので皆さんと出会える場所がまたあるといいなと思います。それにはオーディションを受けてもらったり、ライブハウスで見かけたら無理やり声かけるのもいいかもしれない。機会を自ら探していただければなと思います。
伊東:音楽が斜陽産業と言われ始めていますが、CDの売り上げだけ見たらそうかもしれないが、僕自身は全然マイナスに思ってなくて、音楽って本当に素晴らしいなと思っているし、音楽に助けられることもあります。皆さんはこれからそこに向かって行く。ステージに上がれる人というのは、すごく限られた選ばれた人たちだと思います。その重みを分かってもらいたいです。僕なんかは学生の頃ヤマハさんのコンテストに応募して、落ちまくってステージに上がれなかった側の人間です。だからステージに上がる人たちの凄さ、重みを感じながら一生懸命やってもらいたいなと思います。何歳になってもそこの想いは忘れないで欲しいなと思います。
奥口:さきほど伊東さんが話されたように、私もエンターテイメントに魅せられてこの仕事をやっております。「舞台に上がるのってどんな人間なんだろう」「100万人を感動させられるのってどんな人なんだろう」と、常に自問自答しながら成長して行って欲しいなと思います。人前に出て、どんどん傷ついて、恥ずかしい思いや辛い思いをするべきだなと思います。そういう人たちがアーティストとして、どんどん上にあがっていってるんだと思うので。皆さんオーディションに落ちても諦めずに、良い時期が自分に回ってくることを信じて頑張ってください。
石田:並んでいる方々の話を聞いていると、本当に会社は違えど「考えていることは同じなんだな、嬉しいな」と思っていました。そしてご来場の皆さんも、おそらく好きなアーティストや音楽に影響されて、人生が変わってしまった、何かに影響を受けてここにいらっしゃるんだと思います。将来自分がアーティストになるということは、もしかすると誰かの人生を変えることになるかもしれない。音楽で上手く行かなくて「辛いなあ」と思ったときも「自分が音楽を始めるきっかけになった曲やアーティストみたいなものに自分もなるんだ」という気持ちを忘れないで、音楽と一所懸命向き合って欲しいと思います。
加茂:努力しないで才能が花開くことはないので、シンガーソングライターだったら月に10曲作る。バンドなら週2回スタジオに入る、月2回ライブをやって、月2曲新曲を作るのを2年間やれと言うんですね。それをやってみて、才能と運があれば次のステージに行けるし、ダメだったら考え直せ、と。本当に音楽で食って行きたいんだったら、2年間それくらいのことをしてもらえると才能は開くかもですね。
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