【13th TIMM】BABYMETAL、スカパラ・・・日本人アーティスト海外公演の舞台裏を語る「キー・プレーヤー:ザ・ブッキング・エージェント」
<モデレーター>
Billboard magazine / Tokyo Bureau Chief
Rob Schwartz (ロブ・シュワルツ:写真左)
<スピーカー>
APA Talent and Literary Agency / Vice President
John Pantle (ジョン・パントル:写真中)
UNITED TALENT AGENCY / Agent
Ross Warnock (ロス・ワーノック:写真右)
- 海外展開のキーパーソン=ブッキング・エージェントの役割
- BABYMETAL成功の裏に入念な計画
- イレギュラーだらけだった初音ミクの海外公演
- 海外ツアーのチーム規模はミニマムに
- 日本人には逆境に立ち向かうハングリー精神が必要
10月24日〜26日にかけて開催された、日本音楽の海外進出を目的とした国際音楽マーケット「第13回東京国際ミュージック・マーケット」(以下 13th TIMM)にて、BABYMETALや初音ミク、東京スカパラダイスオーケストラなど、日本アーティストの海外コンサートを手掛ける国際的ブッキング・エージェントが登壇したビジネス・セミナー「キー・プレーヤー:ザ・ブッキング・エージェント」が行われた。
ここ数年で日本アーティストの海外公演が頻繁に行われるようになり、その盛り上がりはメディアや動画サイトを通じて話題になることも増えてきたが、実際にどのようにアーティストをプロモートしコンサートを成功に導いているのか、過去の事例とともにブッキング・エージェントの役割を語った。
今回登壇したのは、東京スカパラダイスオーケストラ、初音ミク、the GazettE、SEKAI NO OWARIなどをクライアントに持つジョン・パントル氏。そしてBABYMETAL、きゃりーぱみゅぱみゅ、RADWIMPSなどを担当しているロス・ワーノック氏。2人とも日本のアーティストを海外に展開するにあたって重要な役割を担っているエージェントだ。
海外展開のキーパーソン=ブッキング・エージェントの役割
そもそも日本ではあまり馴染みのないブッキング・エージェントという仕事。海外展開において、アーティストとプロモーターの間を取り持つ導線を担っており、どの市場が適切か、ツアーの開催時期など最良の戦略を立て、それを実現するためにあらゆる方法を提案するチームのキーとなる。
「他のエージェント、フェス、プロモーター、そしてそれぞれの会場の担当者とコンタクトを取り、ツアーコンセプトを考え、そのクリエイティブプロセスの一部となり、常にクライアントのためにできるだけ多くの収益を上げる事を考えています。我々のビジネスは淡々と仕事をこなすわけでなく、どのようなストーリーをどのように組み立てていくかが重要なのです。」とジョン・パントル氏。
しかし、ブッキング・エージェントの仕事も時代の変化とともに求められることが変わって来ているとロス・ワーノック氏は語る。
「最近はクリエイティブなプロセスが非常に増えており、私達自身とクライアントに対してモチベーションを与えていく事で、以前では考えられなかったような役割も担うようになってきたと思います。例えば、欧州でBABYMETALを展開したとき、ブランド、パートナーシップ、マーチャンダイジング、デジタルメディアマーケティングと、本当に多くのことに積極的に関わりました。」
ブッキング・エージェントは海外展開において以前から重要なポジションではあったが、今ではショーにアーティストをブッキングするだけではなく、あらゆる海外クライアントとコンタクトを取り、全体のプロセスを提案する存在になりつつあるようだ。
また、「クライアントと契約書は交わしているのか?」という質問に対しては、ジョン・パントル氏は「場合によっては契約書を交わしますが、そんなに多くはありません。アーティストと強固な関係を持っているからこそ、契約書が必要ないんです。ただ、エージェンシーの責任や範囲はどのくらいなのか、あるいはエージェンシーが責任を持つべきでない部分はどこなのかということを、法的な拘束力をもって明確化することが出来るので、契約書を交わすのは良い方法です。特に異文化の出身者同士が仕事をする上で、とても重要だと思います。」と答え、現在は契約書は交わさないことが業界のスタンダードになっているが、やはりそのメリットも感じているようだった。
BABYMETAL成功の裏に入念な計画
そして具体的な事例として、日本で初めて英・ロンドンのウェンブリー・アリーナでコンサートを開催し、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのツアーに参加するなど、目覚ましい活躍を見せるBABYMETALのプロセスを紹介。
「オンライン上で『Gimme Chocolate!!(ギミチョコ!!)』の動画を観たことがきっかけで、BABYMETALを海外に展開したいと思い、クリエイティブマンに連絡したんです。そしてバンドとのパートナーシップを構築する事が出来ました。」とBABYMETALとの出会いを語るロス・ワーノック氏。
最初はライブ・ネイションに公演を手がけてもらおうとしたが上手くいかず、次に連絡を取った友人のプロモーターが「成功する。賭けても良い」と、大躍進のきっかけとなった「ソニスフィアフェスティバル」に引き継いでくれたそうだ。そしてオンライン上での反響があまりにも大きかったので、セカンドステージからメインステージへアップグレードしライブは成功。強烈なインパクトを残すことができた。
この当時について「初期の頃ですが、マネージメントが私たちに耳を傾けてくれたんです。そしてプロモーターらと入念な計画を立て、イギリスではひとつひとつステップを踏んでアリーナレベルまで育てることが出来ました。ですからBABYMETALの成功は偶発的ではないんです。本当に素晴らしい経験をさせていただいたなと思っております。」とマネージメントの柔軟な協力姿勢が不可欠だったと語る。
BABYMETALは2枚目のアルバムがUKのチャートで30位を獲得。日本人の中では歴代最高位を獲得したが、「これも入念に我々の方で計画をしました。ブランディングパートナーも巻き込んでUKのビデオも制作しましたが、その時点でバンドは現地のコミュニティから受け入れられていました。そして英『METAL HAMMER』主催のアワードで賞を受賞することが出来ましたし、『KERRANG!』という雑誌でも賞を受賞することが出来ました。それも非常に重要なきっかけだったと思いますし、タイミングが重要だったと思います。」と、成功までのストーリーを描き、フェスやイベントと併せて最もインパクトがあるものを同じタイミングで動かしていくことが重要だと語った。
イレギュラーだらけだった初音ミクの海外公演
また、初音ミクの事例について、「初音ミクに関しても大きな反響がありました。初期の段階で、私が考えている事と初音ミクチームが考えている事が合致したことで、幸いながら彼らと仕事をする機会を頂いたわけです。初音ミクは、アメリカではレコードレーベルとの契約がありませんでした。主にホームテリトリーでの成功で海外からの評価を受けていたわけです。つまりオンライン上での人気が高かったという事ですね。インターネットの素晴らしいところは、情報収集が出来るという事です。私達が話し合いを始めたのもオンラインがきっかけでした。」と語るジョン・パントル氏。
苦労した点として、「人ではなくボーカロイドのキャラクターだという事です。スクリーンやプロジェクターなどを様々な機材を用意しなくてはいけないですし、イベントを構成する際も多くの事を考えました。もしひとつ間違えれば全てが無駄になるわけです。ですが、これが我々にとってエキサイティングな事でもあります。」と特殊なケースながら、やりがいのあるプロジェクトだったことを明かした。
海外ツアーのチーム規模はミニマムに
さらに、日本のバンドが海外で公演をする場合のチームの規模について話が及び、「日本でビッグなアーティストだったとしてもチームを大勢連れて行くと赤字になってしまう。アメリカでツアーをやっていきたい、将来成功を収めていきたいのであれば、ツアーの規模を調整し、収益に伴った人数にするべき。」という意見に対して、
「それも正しい方法ですが、何を成し遂げたいのかを明確に描くという事が重要だと思います。例えば、特定のツアーに関してに赤字なるかもしれない。しかしツアーを撮影する事によって、新しい収入源を創出する事が出来る。DVDやCD、映像の権利をテレビ局に販売する事も出来るわけです。」と、ツアーで赤字になったとしても、マーチャンダイズあるいは映像で、総合的に黒字に転換する方法も提案されていた。
日本人には逆境に立ち向かうハングリー精神が必要
「欧米での成功を例を増やすために日本のアーティストやマネージメントに欠けているものは?」という会場からの質問については、「例えば、誰かに『これをやっちゃいけない』と言われると逆に燃える、そういう逆境に立ち向かうハングリー精神がある程度必要なのではないかと考えています。その変化を増やしていかなければならないと思います。」とロス・ワーノック氏。
それを受ける形でジョン・パントル氏は「幸い私の会社には、『物事はどんどん良くなっている』と言ってくれる人が沢山います。スカパラ、the GazettE、SCANDALの前例があるじゃないかと。そしてBABYMETAL、Perfume、その他のアーティストの成功を導く事が出来たと思うんです。このビジネスは将来的には、様々な不確定要素が増えてくると思います。レコード会社も何をしたら良いかわからなくなる。そして利益を上げるのも難しくなっていくでしょう。しかしそういう時こそ、クリエイティビティ、行動力、アイデアが重要になってくると思います。ですのでお答えしますと、状況は改善していっていると思うんですが、現状に満足せず、さらに追求していかなければいけないのではないでしょうか。」とコメントし、セミナーを締めくくった。