【13th TIMM】「海外公演に向けて、日本アーティストがすべき準備とは」〜レヴァレント・ムース氏×アソビシステム・中川悠介氏×ZAZA・南部喨炳氏×BBC Radio 3・ニック・ラスコム氏
<モデレーター>
Marauder / Co-Founder
Rev.Moose / レヴァレント・ムース (写真左)
<スピーカー>
アソビシステム株式会社 代表取締役社長
中川 悠介 (写真中左)
株式会社ZAZA 代表取締役 / 株式会社FYD 取締役
南部 喨炳 (写真中右)
Broadcaster/BBC Radio 3
Nick Luscombe / ニック・ラスコム (写真右)
文化と同じく日本音楽の独自性は海外進出において有利にも不利にもなりえる。世界各国をかけまわる音楽業界のベテラン達が、日本のアーティストが海外のファンベースを作る際に直面する様々な障害について語るセッション「海外公演に向けて、日本アーティストがすべき準備とは」。北米で世界のアーティストをデベロップするスペシャリスト・Rev.ムース氏をモデレーターに、スピーカーとして、きゃりーぱみゅぱみゅや日本カルチャーイベント「もしもしにっぽん」を手掛けるアソビシステム・中川悠介氏、MAN WITH A MISSION(以下 MWAM)をマネージメントするZAZA・南部喨炳氏、そしてBBC Radio 3・ニック・ラスコム氏が登壇した。
- きゃりーぱみゅぱみゅとMAN WITH A MISSIONのグローバル展開
- ローカライズ、コラボレーション、そしてジャンルを跨いだプロモーション
- 環境の違いを密なコミュニケーションで克服する
- 日本の伝統、文化、慣習が妨げになるケース
- 日本の音楽は壁を作っている?〜ネットワークを繋ぐことの重要性
きゃりーぱみゅぱみゅとMAN WITH A MISSIONのグローバル展開
ムース:今回のテーマは「海外公演に向けて日本アーティストがすべき準備とは?」という事ですが、これは非常に包括的な、大きなテーマだと思います。日本人アーティストが世界に目を向けるにあたって、まず一番最初に何をしなければいけないのか?というお話からしていきたいと思います。
中川:僕たちは元々日本のカルチャーが世界から注目されていると思っていたんですね。僕は原宿という街に事務所を構えていますが、原宿に来ている外国人や、原宿に行ってみたいと思っている外国人のたくさんの意見を聞いていて、やはり原宿のブランドを日本オリジナルとして注目した外国人がいるというのは、すごく大きなことだと思いましたし、作り出す音楽だったり、PVの世界観だったり、日本人の作るクリエイティブの凄さみたいなものがあるんじゃないか? とずっと思ってきました。
そこで増田セバスチャンという原宿カルチャーを代表するアートディレクターがいるんですが、彼をきゃりーぱみゅぱみゅのPVに投入して映像自体の色味だったり、世界観を細かく作り込んでいきました。そして、YouTubeにアップしてみたら、世界中から多くの反応が来たのが第一歩でした。きゃりーはバンドではないので、PVだったり、本人のSNS発信だったり、見せていくことをすごく重要視してやっていました。
ムース:インターネットに素材をアップロードするというのは、世界に発信するための手軽な方法ですよね。
中川:当時の日本はPVをフル尺でアップするということ自体、懐疑的な意見が多かったんですが、世界に広めていくためにどんどん出していきました。彼女が最初にPVをアップしたときは、ケイティ・ペリーやリンキン・パークが「このPV超面白い」とツイートしてくれた影響で拡散していったんですが、ファッションマガジンの『DAZED & CONFUSED』の表紙をやらせてもらったのもすごく大きかったです。アジアのポップカルチャー特集みたいな号だったんですが、そのときはすごく反響がありました。やはり音楽だけでなくファッションとリンクして世界に出ていったのかなと思いますね。
ムース:南部さんが手掛けてらっしゃるMWAMは、おそらく外国人が考える典型的な日本人アーティストとは違うと思います。それを踏まえた上で、どのようにグローバル展開されていったのでしょうか?
南部:MWAMは日本のアーティストという言い方も中々難しいのですが、彼らがどうやって日本以外のエリアで活躍していくかを考えたときに、様々な壁がありました。想像してみてください。日本のアーティストでこれまでビルボード、グラミーを獲ったロックバンドはいませんでしたし、きっちりとした形で世界中に知られる日本のロックバンドはいなかったように思います。そこには言語の壁、人種の壁、宗教の壁とかいっぱいあると思うんですね。ただMWAMはそういった壁をぶち壊せるんじゃないかなと自分自身は思っておりますし、その上で重要なのは、やはり言語力だと思っています。
また、日本を推していく手段の一つとしてニッチ戦略があるかと思います。日本の音楽で言えばヴィジュアル系やアニソンなどがそうですね。自分自身もすごく愛着がある音楽ですし、良いものをクリエイトしてくださっていると思うんですが、それが果たしてマスにリーチしているのかと言えば、そうではないんじゃないかなと思うんです。例えば、oasisは英国出身のバンドですがどこから来たバンドなのか特に意識せずに聴いていたと思います。国や国籍、民族などそういったものを淘汰できるというか、どこから来たものか気にせずに評価されるのが、音楽が持っている本来の良さであり、そういった普遍的なメインストリームできっちり評価されるようなものを、日本人のチームで輸出していきたいという思いが強くありますね。
ローカライズ、コラボレーション、そしてジャンルを跨いだプロモーション
ムース:お二人ともグローバル戦略として考えたのは、まず自分たちのブランディングをきちんとされたわけですね。
南部:そうですね。ブランディングはきっちり作っていこうと思いました。
ムース:ここでニックに聞きたいんですが、私たち西洋側の観点からすると、ブランディングって重要ですか? 日本人のアーティストということが重要なのか、それとも西洋のアーティストというが重要なのか。
ニック:その音楽がどこから来たかはあまり考えません。音楽が持つ一番重要な要素は、良い音楽かどうかです。例えば、ロンドンのバンドでも、ラジオやメディアやプロモーターに知られるということはすごく難しいわけで、日本から来るバンドはさらに難しい。ですから、こちらに来る前に理解していただきたいのは、どこのバンドだろうと認知してもらうのは容易ではないということです。だからこそ、初期の準備という意味でのブランディングは、もしかしたらすごく重要かもしれません。ただ、私たちは日本で何が起きているかについて、すごく興味を持っていますし、だからこそ何度も日本に来ているんです。
ムース:MWAMは積極的にアメリカでツアーをされていますが、その意義はどこにあると思いますか?
南部:MWAMはヨーロッパやアメリカでツアーをやっていますが、その際に自分たちだけではなくて、土地で人気のあるバンドとツアーを回らせていただいています。なぜかというと、そこのシーンに入り込むというか、各々のシーンでのトーン&マナーがあると思うんですよね。「このアーティストとやるのはカッコいいけど、このアーティストとやるのはカッコ悪い」みたいな。それはそのシーンに精通している人たちでないと分からない事で、MWAMはそのシーンで人気のある人たちと一緒にツアーを回るようにしています。
例えば、Zebraheadです。さいたまスーパーアリーナのMWAMの公演に、Zebraheadをゲストで呼ぶ。そしてZebraheadの名古屋公演、大阪公演を我々がサポートする、と。その代わり、彼らとヨーロッパツアーを2回、一緒に行く機会をいただきました。それってお互いストリートカルチャーに精通し合うような、リスペクトだったり、信頼関係の上に成り立っているんですね。そういったものがあると、Zebraheadとフランスにツアーへ行って、Zebraheadを待っていた子たちにとって、MWAMはすごく説得力のあるように聴こえると思うんですよね。それはアドバンテージであるし、充分な価値があるんじゃないかなと思っています。
ムース:Zebraheadとのツアーはどうやって実現したんですか?
南部:MWAMがLAでソングライティングをしていたんですが、そのときに我々の友人でLA在住の日本人デザイナーがいて「彼はZebraheadと古くからの友人関係で我々のスタジオへZebraheadメンバーを連れてフラッと遊びに来てくれたんです。そこでメンバー同士が意気投合して「ソングライティングしているんなら、俺らとも一曲作ろうよ」と話が飛躍して、映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』主題歌の「Out of Control」という曲も生まれました。そして「曲が出来たんだから、日本とヨーロッパでツアーも一緒にやろう」と。ですからZebraheadのケースに関して言うと、アーティスト並びにマネージメントも含めて、完全に個人的な付き合いから発生したものです。
ムース:きゃりーぱみゅぱみゅのように、すごくユニークなアーティストの場合、どのように海外でキャリアを積み上げていったのでしょうか?
中川:きゃりーは、そういったコラボレーションができなかったので、フランスの「ジャパンエキスポ」や、王道のファッション誌とか、色々なジャンルを跨いでプロモーションをしていくことが重要だと思っていました。彼女にはもちろん音楽というバックボーンがあるんですが、そこにファッションを組み合わせることで、海外に出て行きやすくなったんですよね。海外のメディアへのアプローチで、ラジオというのは僕たちにとってやはり難しかったんですが、「日本から来たアイコンが、ファッション誌に出るよ」みたいなことは割とやりやすかったので、そこから攻めていきました。
ムース:アメリカ人の多くは、原宿に注目をしていますし、そうするときゃりーぱみゅぱみゅが影響力を持っているということに繋がっていくと思うんですね。そういった違うコンテクストで、きゃりーぱみゅぱみゅをプレゼンしているという認識はありますか? 日本人の典型的なアイドルとは違った形でプレゼンされていると言いますか。
中川:前提として、きゃりーはアイドルではなくアイコンだと思っていまして、そこのプレゼンテーションはすごくしています。例えば、ケイティ・ペリーやアリアナ・グランデが来日したときに、一緒にインタビューをやったり、メディアに出たりしました。そして、SNS上で繋がってもらうことは、すごく大事だなと思っています。その繋がりから、アリアナ・グランデがきゃりーの誕生日にハッピーバースデー動画を送ってくれたり、ミュージシャンとしてだけではないコミュニケーションもできているのかなと思います。
ムース:日本へのプロモーションをしたい西洋のアーティストと、海外へ出て行きたい日本人アーティストを繋げた?
中川:そうですね。そこは重要だと思っています。日本のマーケットが大きいことは世界の方が理解していると思います。そのマーケットの中で、どうやってお互いのことを利用できるか考えることは、すごく重要なんじゃないかと思っています。
環境の違いを密なコミュニケーションで克服する
ムース:中川さんはアーティスト抜きで現地に行って、現地のスタッフとミーティングを行ったりする機会は多いですか?
中川:頻度的に多いのか少ないのか分かりませんが、やはり現地に行って知ることは大切だと思っています。例えば、きゃりーはワーナーの所属なので、世界中のワーナーの人たちとミーティングをして、その国の市場と情報を聞いたり、あと若い子たちが集まる街に行ったときに、どういったものが流行っているのかは見るようにしています。ただ正直、自分がどこまでそういった時間を費やしているかと聞かれると、そこまで費やせてはいないなと思います。さっき言ったローカライズではないですが、もっと世界へ自分が実際に行く数を増やしていくことは、これから成長していくために重要なのかなと思っています。
ムース:南部さんはどのくらいの頻度で海外に行っていますか?
南部:定期的にアーティストにはついていきますので、年に数回は行きますが、その度に何らかの打ち合わせやミーティングはするようにしています。またスカイプミーティングは、明日も早朝からあります。時差がありますので、だいたい朝の7時くらいからミーティングしていますね。
MWAMは元々アメリカのマネージメントと契約している時期があって、今はそのマネージメントとは一緒に仕事はしてないのですが、そのときに感じたのは明らかに違う環境で育った人が、同じプロジェクトで仕事をすることの難しさで、それを克服するにはコミュニケーションの回数を重ねていかないとダメなんです。それは日本でも同じだと思うんですけどね。「初めまして」と会った人といきなり仕事ができるかというとそうではなくて、複数回打ち合わせを重ねたり、時には会食したり、そういった言語という壁以外の、人となりを知ることも非常に重要です。どういう趣味で、どういう家族構成で、どういう事をしたら喜ぶのかという事を知ってから、本当の意味での仕事は始まるんじゃないかなと思っています。
とは言え、それを全ての人にできるかというと難しいので、僕の理想は、そういった自分が信じられる自分の分身となるような人が、各主要エリアにいるという形なんじゃないかなと思っています。北米と言っても地域によって全然違うので、東西に複数人、自分の分身がいたらいいなと(笑)。ヨーロッパで言うと、理想は自分がひとりひとり各エリアを任せる人に会って、レコードディールも含めてやるのが良いと思っています。先日たまたまPrimal ScreamやThe Chemical Brothersのエージェントの方と話しているときも、まさにそのような話をしました。
北米やヨーロッパというのは、アーティスト、マネージメントが基本的に100%のライツを原盤権も含めて持っています。自分たちでクリエイティブチームを作って、信頼出来る人とひとつひとつディールを交わして行くという話をされていたので。日本のアーティストはそういう感覚に疎いのかなと思います。日本のアーティストを日本で売ることを考えた場合でも、レーベルにある程度任せておけば勝手に売れるんじゃないか? と思っていることも多いと思うんですが、海外のマーケットを考えた場合、それでは絶対にうまく行かないと痛感しています。
ムース:日本のアーティストはレコード会社を信頼している?
南部:ここにはレーベル関係者の方もいるので「信じていません」とは言えないんですが(笑)。もちろん信頼していますが、中心はあくまでアーティストとマネージメントで、アーティストが360度ライツのどのパートナーと組むかという考え方をしています。
そもそもレコードレーベルは複数のアーティストを抱えていますし、マネージメントみたいに数が限られているわけではないので、ひと月に複数のアーティストが推されます。同じ発売日に複数のアーティストが出ますと。私どもとしたら自分たちのアーティストを、一番力を入れて売っていただきたいので、自分たちのアーティストのプライオリティを上げてもらうための詰将棋は滅茶苦茶しますね。それで嫌われてもかまわないと言ったら語弊がありますが、「アーティストにとって」というところで考えていくとどうしてもそういう発想になります。自分たちはグラミー賞を狙いたいと思っているのですが、そこに到達するための最短距離を行けないことがあるなら、徹底的に喧嘩することもありますね。
日本の伝統、文化、慣習が妨げになるケース
ムース:あと言語の問題はいかがですか? 南部さんは英語の勉強をされていると伺っています。
南部:この3年間アメリカのマーケットで展開するために、海外と交渉している内に自然と覚えましたが、まだ勉強中です。会議を頻繁に行う場合、週に2回スカイプでアメリカと会議しているんですが、どんどん英語力は増していっているとは思います。その唯一の原動力はアメリカの市場でブレイク・スルーしたいということで、そのために英語はやらなければいけない事だと思っています。
ムース:中川さんは「通訳を介している」とおっしゃっていましたが、英語圏の市場で仕事をするにあたって、言語の問題はどうお考えでしょうか?
中川:英語は必要だと思っています。出来た方が良いなといつも思っているんですが、単純にやっていないだけなので(笑)。言い訳としては、喋れなくても海外に行って通用していますし、何とかコミュニケーションは取れるという自信もどこかにあります。キャラクターと勢いで仲良くなったり、台湾のチームはみんな英語なんですが、「ファミリー」とか言って仲良くなっていく感じがあるんです。本当は必要なのは分かっているんですが、勉強して待っている暇はないな、と。とりあえず行くことが優先だなと思っています。
ムース:これは決して日本特有の問題ではないと思います。フランスなんかはとても頑固でプライドが高いというのもあるんですが、新しい言語を習得しない。フランスあるいはカナダのケベックでビジネスを展開しようとすると、あえて英語を話さないという人も多いんですね。それが障害、障壁になりうる事もあります。 あと、日本はマナーが比較的カジュアルな西欧の国と違い、とても丁寧だと思います。丁寧過ぎるあまり、少し違和感を覚えるくらいです。
ニック:そうですね。敬意を払って申し上げますが、少し冷たい感じがしてしまうんです。イギリス人はアメリカ人ほど、カジュアルな雰囲気を持ってはいません。ですから形式とかはある方だと思いますが、日本人よりは堅苦しくないように思います。ただそれが日本の美徳であり、私個人も好きなところです。
ムース:海外の音楽業界に適応するにあたって、日本の伝統、文化、慣習が妨げになっている事ってありますか?
南部:たくさんあると思います。例えば、日本人のアーティストは基本的に撮影禁止です。でも「撮影禁止です」と言っていても基本的に撮るというのがアメリカ、ヨーロッパです。それ以外にも人との距離感というのがすごく難しくて、日本の価値観のまま行くと、やはり一線を越えられない感覚はありますね。メールでいきなり「ヘイ!」って使って良いのかとか、メールの最後は「ベストリガード」で締めなきゃいけないんじゃないか、とか。
「この人との関係であれば、このくらいで良いのかな?」というのは、日本語だったらもっと分かるのかもしれません、例えば「お疲れ様です」で始まるのか、「お世話になっております」で始まるのか、「何卒」は使うのかとか、そういうニュアンスまで言語のレベルとして、まだ入り込めていないですし、どうしても気にしてしまいます。ただ、ニックさんやムースさんからのメールに「さん」がついてなかったからと言って、そこに違和感はないと思いますし、外国人の方が思っているほど日本人は気にしていません。特に外国の方に対しての礼儀とかマナーに関しては寛容な部分があると思います。逆に「外国人らしく、もっとフランクに来てよ!」と感じるときも結構ありますね(笑)。
日本の音楽は壁を作っている?〜ネットワークを繋ぐことの重要性
ムース:ニックさんにファンの観点から話を聞きたいと思いますが、私の経験上、ファンというのは、アニメやマンガといった日本のカルチャーがすごく好きな人か、音楽だけが好きな人に分かれると思うんですが、いかがですか?
ニック:イギリス人は比較的音楽志向の人が多いんですが、ロンドンにおいても『ハイパージャパン』と呼ばれる日本のカルチャーを紹介するイベントがありますし、そういうものを好む人たちもいます。そういったイベントを通じて、ロンドンで日本のカルチャーを経験できると思いますし、それがミュージシャンにとってのプラットフォームになりえるかもしれません。ただ私のような人間は、もうちょっと深いところまで行きたいですし、多分イギリスの音楽ファンもそうだと思います。
ムース:日本の音楽は壁を作っているように感じてしまうんです。つまり自分たちの音楽と西洋の音楽、この二つを分けている。日本カルチャーのイベント、原宿のスタイリングなんかもそうですが、意図的に二つを分離しているように思えます。それだと、よりグローバルなオーディエンス、単に日本好きのオーディエンスではないところまで、訴求できないと思うのですが。
中川:まず前提として日本のマーケット自体が充実しているというのがあると思います。レコード会社、マネージメント、イベンター、きちんとビジネスが成り立っている中で、日本の中での稼ぎ方がすでに成立していることが、要因としてあると思います。日本人って自分たちをアピールするのが苦手なのかなと思っていて、例えば、フランスの「ジャパンエキスポ」はフランス人の方々が日本の事が好きで始めたイベントだったりするわけです。
ムースさんは「壁」と表現していましたが、日本の中で成功してしまうと、日本の中の価値観で世界に行こうとするというのが、今までだったのかなと思います。例えば、僕たちが日本でアリーナツアーを回っていたら、スタッフは100人で、ホテルもまあまあ良いところに泊まれたりします。でも、僕らが今実際にワールドツアーへ行ったら、一行は10〜15人で、ホテルは本人とスタッフが一緒です。僕らはそれが当たり前だと思いますが、中には「日本で成功したのにこの扱いはない」とプライドが邪魔する人もいるのかな? と。
中川:世界に出たときに、「こんなに日本のカルチャーが好きな人がいるんだ」と驚いたと同時に、ニッチな集まり以外にも、きちんと受け入れてもらう素質があるんじゃないか? とも思いました。きゃりーの場合はニッチな部分と、『DAZED & CONFUSED』に出ているようなおしゃれな人達とも交流していきたいなというのが、自分たちが動き出したきっかけなんです。
ムース:「日本ではビッグだ」というプライドを捨てなければいけないと言うのは、とても重要なポイントだと思います。それをしないとグローバル展開は出来ないかもしれません。アメリカ人というのはとても鈍感で、UKの市場に対してもヨーロッパの多くの市場に対しても、アーティストのニーズに対応せず、どちらかと言えば、ビジネス寄りで物事を判断する傾向があります。そしてそのビジネスの決定権は、地元の会社ですとかクラブのプロモーターが持っています。あたかも上から目線で「俺達がやってやっているんだぞ」という風に思うわけです。ここで南部さんにお伺いしたいのですが、そのような人たちと話し合いをするとき、どのようなアプローチをしているのでしょうか?
南部:ここ3年ほど海外を見据えて活動してきましたが、180度考え方を変えないといけないと思いました。それは北米に限らず、ヨーロッパでも一括りは絶対に良くなくて、フランスとドイツは全然違いますし、北欧もアジアも違います。そういうところをローカライズしていくという言い方が合っているか分からないですが、ワン・コンテンツを、そのまま同じ形で輸出していくのではなくて、そこにいる人たちのチャンネルにキチンと合わせることが大事だと思っています。
そういった感覚は、3年前には全くありませんでした。「日本と同じようにやれば、ある程度結果が出るんじゃないか?」と思っていましたが、特に北米はかなりの壁があり、アメリカの音楽以外は受け入れないというような肌感を正直感じたんです。ではその中にどうやって入っていこうかと考えると、日本と同じ様に人、物、金といったリソースをきっちりかける。というのはマインドも、体制も変えなければいけないところがたくさんあるからなんですが、ただ変えれば入っていけるかというと、そうではなくて、先程申し上げた生きた人脈というか、そのシーンに通じることの大切さは如実にあります。それは日本のアーティストに中々手に入るものではないので、日本で売れるまで時間がかかるように、それと同じくらいの時間を、もし時間で難しいのであれば、それ以外の何かを費やさないと、海外で成功するのは難しいと思います。
ムース:ニックさんは色々な国のレコード会社あるいはマネージャーからたくさんのアプローチをされる立場ですよね。
ニック:はい。やはりネットワークというのはすごく重要だと思います。例えば、エストニアのアーティストがレコードを送ってくれたんですが、すごく美しい音楽で、こういったものを私が受け取れたことに感謝するわけです。私のオーディエンスにも新しい音楽を届けることができますし、そこからまた新しいネットワークを築く事ができるわけですからね。重要なのは点を繋げていくことです。
南部:本当にそうですね。先陣を切って、世界へ切り拓いてくれている中川さんがいて、それに興味があってここにはたくさんの人が集まっています。ここにまたご縁があると思いますし、今後もMWAMだけに留まらず、色々なことをやっていこうと思っていますので、これをきっかけに気軽にコンタクトを頂ければと思いますね。