ライブを軸にファンとアーティストを繋ぐ「LiveFans」の未来
ライブファンズ 代表取締役社長 渡辺泰光 (写真左)
ライブファンズ 執行役員 阿部和生 (写真右)
音楽ライブ情報サービス「LiveFans」が、サービス開始から5年を迎え一つの節目を迎えようとしている。ライブ・フェスのセットリストを中心にしながらも、フェス向けのアプリ開発やラジオ番組の開始、さらに「ライブファンズ大賞」の実施など多方面でサービスを拡大。10月にはアーティストコミュニティの開設もしたLiveFansの今後について、ライブファンズ代表取締役社長 渡辺泰光氏、同執行役員 阿部和生氏にお話を伺った。
- 5年でLiveFansの業界認知度が大きく上昇
- フェス専用アプリで来場者へ快適さを提供
- ネット番組全盛の今、あえてラジオを選ぶ理由
- ラジオ番組から派生した独自の対バンライブ
- 熱いファンの存在を実感した「ライブファンズ大賞」
- 受賞アーティストが出演するライブイベントの開催も視野
- リアルな日本の音楽状況を反映する「推定動員ランキング」
- アーティストとファンを繋ぐ“アーティストコミュニティ”を作る
5年でLiveFansの業界認知度が大きく上昇
――LiveFansはローンチから5年目を迎えましたが、この5年を振り返ってみていかがでしょうか?
渡辺:LiveFansの業界認知度がかなり上がって、事務所さん、レーベルさん、アーティストさんなど、みなさんから好意的なご意見をいただくようになったことが、この5年で一番大きな変化ですね。
――セットリストだけでなく、様々なサービスやコンテンツも積極的に展開されていますね。
渡辺:まだやりたいことの全てはやれていないんですが、試行錯誤しつつ「どういう機能を入れたらユーザーに喜んでもらえるか?」というところを第一に考えてやってきました。2017年9月現在、LiveFansは月間ユーザー100万人、1000万PVなんですが、私たちの感想としては、まだまだLiveFansの存在を知らないユーザーは多いですし、知っていたとしても好きなアーティストのセットリストだけを見て帰るパターンが多いんですね。それをいかに引き止めるかが今後の課題です。
――最近ではフェス向けのアプリも制作されていますが、これはどのようなきっかけから作られたんでしょうか?
渡辺:もともとLiveFansアプリとは別に「ライブへGO!」という、過去のセットリストや、当日の天気、会場までの経路など、個人がライブへ行くためのナビゲーションアプリをだいぶ前から出しています。当時はそれを「アーティスト専用アプリにOEM(他社向けの制作を)できないか」と切り分けていたんですが、フェス専用アプリでしたら基本的には1年に1回カスタマイズすることで、主催者側は管理の手間もないですし、安価に自社のものを出すことができるんじゃないか?と作成しました。
ユーザーに対しても、フェスに行く前から行った後まで、当日はもちろん、色々な楽しみ方が提案できるので、このアプリの話をフェスの主催者様に持っていったところ、今年は「VIVA LA ROCK」と「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」が採用して下さりました。
――フェス専用アプリとしては今年からやられているんですか?
渡辺:去年「TOKYO CALLING 2016」で実験的にやっています。その実績を評価していただいて、今年は2イベントで採用していただきました。
フェス専用アプリで来場者へ快適さを提供
――フェス専用アプリにはどのような特徴がありますか?
渡辺:ひとつは「マイタイムテーブル」という、自分の観たいアーティストのタイムテーブルをオリジナルで作れる機能があります。
阿部:複数の会場をまたぐとタイムテーブルがわかんなくなっちゃうんですよね。また、移動距離や移動時間も加味して考えないといけないですし、そのあたりも考慮して皆さんスケジュールを組まれるので、「マイタイムテーブル」は重宝されていますね。
渡辺:主催者側からの感想として、アプリはインストールしてもらうとそのユーザーを抱え込めるので、アプリ自体がひとつのメディアになるんですよね。しかもプッシュ通知でこちらから情報を送れるので、その点はかなり高い評価をいただいています。
――ユーザーからの反響はいかがでしたか?
渡辺:「VIVA LA ROCK」はすごくよかったですね。逆に「混み具合がわからない」とか「飲食店情報がもうちょっと欲しい」とか、来年に向けての意見もいろいろいただけました。
――入場規制や混雑状況がわかるのはいいですね。実際にやってみて、今後フェス専用アプリの需要は拡大すると感じられましたか?
渡辺:そうですね、それはすごく感じています。ただ、マネタイズの部分はなかなか難しいです。直接的に「お金ください」というのは難しいので、来年からは飲食店のクーポンや、アプリを利用して売上を上げたい人たちも巻き込んでやっていこうと思っています。
阿部:あとアプリを使って、スポンサーさんのブースにお客さんを誘導する施策も今後は取り入れていきたいですね。
ネット番組全盛の今、あえてラジオを選ぶ理由
――LiveFansはラジオ番組も放送されていますね。
渡辺:去年の7月から1年間、CHABO(仲井戸”CHABO”麗市)さんをメインパーソナリティに迎えてInterFMでやりました。そして、新たに今年7月から@FM(FM愛知)で「LiveFans」という番組の放送をスタートしています。
――ここ数年はLINE LIVEやAbemaTVなど、ネットで番組を配信するケースが増えていますが、その中であえてラジオを選ばれた理由は何ですか?
渡辺:ネットという方法もありだと思うんですが、アーティストさんに出演してもらうにはテレビ、もしくはラジオで番組を持つのが圧倒的に早いというのが本音ですね。ただ、ネットへの導線も当然用意していまして、ラジオでは流さない「GUITAR FANS」というWEB限定コンテンツも独自取材をして作っています。@FM「LiveFans」では、菅野結以さんという、すごくライブが好きで音楽に詳しく、さらにミュージシャンからの信頼も厚いファッションモデルの方にDJをお願いしています。
――ラジオ番組をやられてみていかがですか?
阿部:「LiveFans」に関しては旬のアーティストさんにもたくさん出演していただいていますし、ファンの方の反応もいいですね。
ラジオはアーティストさんにとって気軽に出演できるメディアなんですよね。メイクもせずに着の身着のままで出演できますし、ユーザーとの距離も近いメディアですから。また、ラジオって“ながら”聞きができるのでファンの方には気軽に聞いていただけますし、若い世代の方もradikoプレミアムなどで聞いていただけているようです。
――番組で一番反響が大きかったコーナーは何ですか?
阿部:「LIVE MASTERS」という、マンスリーゲストがライブの裏話や自分の好きなライブを語るコーナーですね。他の番組では聞けないような話もかなりしてもらっているので、「へぇ〜そうなんだ」「いいな、こういう番組」という反応は多いですね。
ラジオ番組から派生した独自の対バンライブ
――その他に番組として取り組んでいることはありますか?
阿部:「LiveFans AROUND」という企画で、5週ある月曜日にライブハウスを借りて無観客で対バンライブをやっていただいていて、それを収録して放送しています。前回はOmoinotakeという新人バンドと、先輩にあたるthe band apartの2組でやっていて、10月も別のアーティスト企画で、生のライブを番組とウェブを通じて伝えていければと思っています。
10月は1週目に「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」スペシャルとして、中津川で公開録音をして、その模様を一部ラジオで放送しました。公開収録の当日は、入場規制がかかってしまうほど人が集まり、観覧できなかった方も多かったので、ネットでフルバージョンを動画で公開という展開もしています。
――今後「LiveFans AROUND」は観覧の予定もあるんでしょうか?
阿部:そうですね。リスナーを招待していきたいですね。「LiveFans AROUND」はアーティストサイドからの反応もかなりいいですし、続けたいと思っています。
熱いファンの存在を実感した「ライブファンズ大賞」
――昨年第1回が開催された「ライブファンズ大賞」ですが、どのような経緯で実施されたのでしょうか?
阿部:CDショップ大賞など様々な賞がある中で、ライブに関する賞ってあまり見受けられないなと常々思っていまして、LiveFansはライブを切り口にサービスをしているので、「これはうちがやらなきゃいけないだろう」という使命感に駆られて、昨年初めて「ライブファンズ大賞」を実施しました。
今も夏フェスの「ベストアクトは誰?」というユーザー投票をやっているんですが、最初は「そんなに集まらないかな」と思っていた投票も、蓋を開けてみると約3万人のユーザーが参加してくれました。内容もかなり熱いものが多くて「LiveFansはこんなに熱心なファンに支えられているんだな」と実感しました。
――3万人はすごいですね。
阿部:やっぱりユーザーさんは自分の好きなアーティストを他の人にも知ってもらいたいという強い想いがあるんですよね。
――昨年の「ライブファンズ大賞」はどのような部門を設定したんでしょうか?
阿部:「みんなで選ぶベストライブ」と「あなたが選ぶベストライブ」という切り口で、「みんなで選ぶ」の方はノミネートをこちらで絞らせていただいて、ジャンルごとに分けてTwitterのアカウントを使って投票をしてもらいました。それは2万票くらいいきましたね。
「あなたが選ぶ」の方は、インディーズでもメジャーでも誰でもいいので、今年一番だと思ったライブを感想と一緒に送ってもらう企画でして、こちらは1万くらい投票がありました。レポートの内容もかなり熱くて、文字数も3000〜4000字以上の、ライブレポートのようなボリュームのある投稿がかなり集まりました。
受賞アーティストが出演するライブイベントの開催も視野
――投稿はどのような内容が多かったですか?
渡辺:選考するのに投稿はほぼ全て読んだんですが、知らないアーティストもいて、でもすごく想いが伝わってくる、とても良いレポートが多かったです。あと昨年に関してはKAT-TUNのライブの評判の高さにびっくりしました。「ただのアイドルと思っちゃダメだ」「実力を侮ってはいけない」というような投稿が結構あって、結局KAT-TUNは「あなたが選ぶ」の優秀賞を獲りました。
――第1回「ライブファンズ大賞」は氷室京介さんが獲得していますね。
渡辺:去年「ライブファンズ大賞」をやろうと思ったときから、「大賞は氷室さんのラストギグス(KYOSUKE HIMURO LAST GIGS)だろうな」とみんな思っていましたね。そのくらいインパクトのあるライブだったと想います。
阿部:氷室さんのラストギグスのときは、ライブが終わる前からLiveFansへのアクセスがすごくて、20時くらいからもう全然つながりませんでした。セットリストをみなさん本当に気にしていたみたいです。
渡辺:ただ、「ライブファンズ大賞」に関しては数値化できない部分もあるので、どう選ぶかというのはなかなか難しいですね。ノミネートについては、ライブの数やクリップ数を全部数値化しているんですが、ライブをやってない人は、どんな大物でも入らないんですよ。
――一方でその方法でしたら若手アーティストが選ばれる可能性もありますよね。
渡辺:はい。ラジオでもそれはやっていて、「NEXT FANS」という次に来そうな若手アーティストを一組必ず紹介しています。
――来年以降「ライブファンズ大賞」をどういった賞に発展させていこうとお考えですか?
阿部:最終的には投票結果を結びつけて、授賞式、アワード的なリアルライブをしたいと思っています。
渡辺:選出されたアーティストが、みなさん喜んで出てくれるぐらいのライブになるといいですよね。
阿部:ユーザーのみなさんが「ライブがいい!」と言うアーティストが集うことはなかなかないと思うので、そういった機会になればと思っています。
リアルな日本の音楽状況を反映する「推定動員ランキング」
――毎年、提供していただいているライブの「推定動員ランキング」ですが、これは独自調査で集計されているんでしょうか?
渡辺:LiveFans独自ですね。業界の人たちがこのランキングをきっかけにLiveFansに注目してくれればという想いと、ビッグデータ解析でライブに関する様々なデータを販売できないかと思って提供し始めました。
――この「推定動員ランキング」はリアルな日本の音楽状況を反映していますよね。
渡辺:そうかもしれないですね。今は各会場が満員になっている前提で集計しているんですが、今後は会場の満席率も反映するかどうか検討しているところです。
阿部:「推定動員ランキング」に関してはテレビ局さんからの問い合わせが非常に多いですね。最近のCDランキングはあまりユーザーさんに響かないのか、ライブの動員でそのアーティストのパワーを紹介したいというお話は結構いただきます。在京キー局は全て、色々な番組で「推定動員ランキング」を紹介していただいていて、公表していない集計に関しても相談を受けることがあります。
――何年分ぐらいのデータが蓄積されているんですか?
阿部:LiveFansのデータベースにあるもので出しているので、過去4〜5年分だったら正確に出せます。最近のものについては、ほぼ抜けはないですね。
アーティストとファンを繋ぐ“アーティストコミュニティ”を作る
――今後、LiveFansはどのような展開をされる予定でしょうか?
渡辺:ビジネスという意味では、5年前はデータの販売が一番大きくなると思っていたんですが、実際は広告の需要が大きいので、今は有料化を始めています。そこで収益を上げるためには、やはりユーザーを増やすことが第一ですから、10月にアーティストコミュニティを開始しました。
「Twitterじゃダメなの?」という声もあるんですが、やはり昔のmixiのアーティストコミュニティのように、「好きなアーティストのライブだったらLiveFansで語ろう」というような場を作って、動画投稿や写真の投稿機能も入れて、ファン同士のコミュニケーションを促したいですね。
LiveFansにはものすごく熱心なファンがいますし、アーティスト本人を「出してもいいよ」と言ってくださる事務所もあるので、本人とコミュニケーションできるようになれば、コミュニティスペースとして差別化もできるかなと思っています。
――事務所サイドの反応としては、前向きな感じですか?
渡辺:現段階では前向きです。後は認知度を上げることも重要なんですが、膨大な予算があるわけではないので、地道にどうやって広めていくか考える必要があります。業界内に関しては信頼をほぼ得られたと思っているので、あとはユーザーとどう繋いでいくかですね。
その他にもVR活用したライブ中継についても話が上がったりしていますし、音楽やライブに特化したオークションなどのアイデアもあります。何が上手くいくかはやってみないとわからないですが、やはり、「どういう機能を入れたらユーザーが喜ぶか」を一番に考えて、これからもやっていきたいですね。