【第6回 ライブ・エンターテイメントEXPO】初日に開講されたセミナーをダイジェスト 〜ソニーミュージック水野氏/ぴあ村上氏/亀田氏&いしわたり氏/ライゾマ真鍋氏〜
2月27日から3月1日にかけて幕張メッセにて開催された、第6回ライブ・エンターテインメントEXPO。イベント総合EXPO、スポーツビジネス産業展、地方創生EXPOと4展同時に開催され、3日間で延べ2万5872人の来場者数、1万6737人のセミナー受講者数を記録した。ここでは初日に実施されたセミナーのうち4つに焦点を当て、要点をまとめていく。
ソニーミュージックが掲げる次世代エンターテインメントのキーワード
ソニー・ミュージックエンタテインメントの水野道訓代表取締役CEOは、「ソニーミュージックグループが挑戦する次世代エンターテインメント」をテーマに講演。キーワードとして「人を集めるビジネス」「海外展開」「テクノロジー」を挙げた。
「人を集めるビジネス」においては、デビッド・ボウイ展、スヌーピー・ミュージアムなどでの実績を踏まえ、ロングランイベントの手法としてミュージアム的な形態に未来を感じており、またスポーツの分野では、演出やイベント企画・運営、物販、ファンクラブなどで自社の持つノウハウを活かすことができるのではとの見解を示した。
「海外展開」ではアジアに注力。コンテンツのローカライズに取り組みながら、アニメ、モバイルゲームの事業を筆頭に、イベント、ライブ興業も展開していくとのこと。現在シンガポール1カ所で展開している海外のZEPPネットワークを2020年には台北とマレーシアにも拡張し、日本・アジアをひと続きにしたZEPPツアーを実現させたいと意気込んだ。
「テクノロジー」に関しては、ブロックチェーンを音楽出版に導入する実証実験など、自社グループ内の様々な研究のエンターテイメントへの活用を試みているという。5Gを見据え、ハイレゾのストリーミングも着手しており、今春にパソコンでのサービスを開始し、数年後にはサブスクリプションで楽しめるようにしたいとのビジョンを掲げた。
ぴあが音楽アリーナの建設に踏み切ったワケ
続いてマイクを取ったぴあの村上元春取締役は、同社が100億円近くを投じて音楽アリーナを建設するに至った経緯と全貌を語った。
ぴあは現在、2020年春の開業を目指して、音楽特化型のアリーナ「みなとみらいMM」の建設を進めている。ここ20年、ライブ・エンターテインメント市場の拡大を音楽コンサートの伸びが牽引していることから、「エンターテインメント市場拡大の流れを維持するために、ジャンル、キャパシティ、ニーズが拡大している音楽の会場を増やしたい」との思いが生まれ、今回会場の建設に踏み切ったという。
会場規模は収容人数を1万人としており、この数字は収容人数1万人以上の会場の稼働率が高いことや、アリーナクラスの会場演出をするうえで採算の取れる規模であることから設定されたとのこと。村上氏は「エンターテインメント、とくに成長著しい音楽コンサートでもっともニーズの高いキャパシティを持つ会場の建設に民間が挑戦することで、こうした動きが他にも増えれば」と、後続への期待も寄せた。
ヒットメーカー2人が語る、ストリーミング時代における音楽制作
音楽プロデューサー・ベーシストの亀田誠治氏と、作詞家・音楽家・プロデューサーのいしわたり淳治氏の二人は、音楽ジャーナリストの柴那典氏を交えて「音楽シーンの現在と未来」をテーマに議論した。
世界的にストリーミングが普及し、日本でも「再生回数」がだんだんと重要視されるようになってきている昨今。市場の変容により、作り手側の発想は変わったのかという柴氏の問いに、亀田氏、いしわたり氏ともに「楽曲にイントロがなくなった、もしくは短くなった」と回答。
いしわたり氏は「雰囲気やシチュエーションを説明する導入部分がなく言葉から始まるので、Aメロを書くのがむずかしくなった。昔はサビが大事と言われたが、今はAメロ」と胸の内を明かしている。
「日本では、聞く側も作る側も、まだまだ自作自演であることに重きを置いている」といういしわたり氏の意見を受け、亀田氏は「その”シンガーソングライター信仰”が、日本でストリーミングの普及が遅れていることと密接に関係しているのではないか」と自論を展開。
ストリーミングではより曲単位のクオリティが求められ、どれだけ音、言葉を磨き上げられるかが重要であるとし、全カタログを陳列しておくことのできるストリーミング時代は、時間をかけ、丁寧な曲作りをしていけばいいのではないかとの考えを提示した。
ストリーミング時代について、「”いい曲がない” のではなく、”いい曲が見つけにくい” 時代」と表現したいしわたり氏。これから作っていく音楽には、ある種の見つけやすさが大切となり、どういった仕掛けでその見つけやすさを作っていくかを頭の隅に置きながら楽曲の制作をしていきたいと話した。
ライゾマティクスが取り組む、未来のエンターテインメント・テクノロジー
AR、MR技術などのデジタルテクノロジーとともに進化を続けるエンターテインメントの可能性について、ライゾマティクスの真鍋大度取締役が独自の視点から説いた。
ElevenplayやPerfumeのパフォーマンスに採用されているモーションキャプチャカメラでドローンの位置を認識・制御する技術、またリオ・オリンピック閉会式の演出に取り入れられた「シームレスMR(リアルな世界とバーチャルな世界をシームレスに行ったり来たりするように見せる技術と表現)」といったテクノロジーを、技術デモの映像なども交えながら解説。
ダンサーとドローンのコラボレーションのように、人間とテクノロジーが相互作用している演出は「半分人力、半分テクノロジーで」成り立っており、テクノロジーだけでなく人間にも高いベルの技能が求められると言及した。
真鍋氏は近年、京都大学の神谷之康教授の研究室と共同で、脳活動と音・映像の関係性に着目した作品づくりに取り組んでいる。
ファンクショナルMRIで計測した脳活動パターンを機械学習によるパターン認識で解析することで心の状態を解読する「ブレイン・デコーディング」を活用し、将来的には、音楽を聞いて頭の中にイメージした映像でミュージックビデオを製作したり、映像を見て頭の中にイメージした音を生成したりすることもできるようになるだろうとした。
「まだ本当に実際にエンターテインメントとして昇華されるには時間がかかるようなプロジェクトだが、もしかしたら10年後に当たり前になるような表現かもしれないと思って研究をしている」と、自身の研究に臨む姿勢についても語られた。