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第169回 LUNA SEA / X JAPAN SUGIZO 氏【後半】

インタビュー リレーインタビュー

SUGIZO
Photo by Keiko Tanabe
今回の「Musicman’s RELAY」は立川直樹さんのご紹介で、LUNA SEA / X JAPANのSUGIZOさんの登場です。オーケストラプレイヤーのご両親のもと、幼い頃からバイオリンの英才教育を受けたSUGIZOさんはロックとの出会いをきっかけに、多くのアーティストやジャンルから影響を受け、表現者としてのその美意識を磨き上げていきます。その後、奇跡的な出会いから結成したLUNA SEAは、2000年の終幕を挟みつつ、昨年30周年を迎えました。同時にソロアーティストとして、また2009年に加入したX JAPANのギタリストとしても活動するSUGIZOさんに、自身を形作った先人たちのお話から、積極的に取り組まれている環境保護活動や社会活動について、そしてLUNA SEAのニューアルバム「CROSS」までお話を伺いました。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦)

 

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第169回 LUNA SEA / X JAPAN SUGIZO 氏【前半】

 

芸術は「先人たちからなにを学んだか?」が全てである

──今の20歳のミュージシャンがなにを考えているかを想像すると、当時のSUGIZOはやはり早熟だったと思います。

SUGIZO:それは時代性もあると思いますし、やはり何に影響を受けてきたかが大切なんですよね。結局、音楽は影響を受けたものの質が全てです。僕は素晴らしい先人に影響を受けてこられた、ということが一つの誇りです。

──音楽というのは一言で言うとそういうことだとお考えなんですか?

SUGIZO:はい。音楽は反復芸術だと思います。全く音楽を聴いたことがない人が、天才的なものは絶対に作れない。それができるのは多分モーツァルトぐらいです。モーツァルトは5歳ですごいレベルの作曲したそうですが、間違いなく前世でやっていたんでしょうね。だからそれを覚えていただけであって、何者にも影響を受けずに音楽をやることは、普通は無理だと思います。ですから何に影響を受けたか、何を学んだか、それを自分でどう解釈して咀嚼して自分流に表現するかということが、音楽だけじゃなくて絵画でも映画でも彫刻でも重要です。芸術は「先人たちからなにを学んだか?」が全てだと思います。

──SUGIZOさんは影響を受けたものが良かった?

SUGIZO:本当にそうです。もちろんYMOもボウイもザッパもそうですし、16歳でマイルスやジャコにハマったのはラッキーだったと思います。もともとはクラシックをやっていましたから、テクニックや演奏のレベルが高いということは大前提で、その反動もあって中学のときはパンクやニューウェーヴに傾倒したんですが、そこで本能でクリエイティヴを爆発させるアティテュードを学び、クラシックやジャズ、プログレッシヴ・ロックなどの圧倒的なクオリティとの両方の良さを僕は10代の頃に享受することできたんだと思うんですね。

──SUGIZOさんのソロアルバムを聴くと「マイルスが好き」というのが伝わってくるんですよね。

SUGIZO:ありがとうございます。ロックバンドをずっとやっていると、自分の持っているものを100パーセント表現できないんです。自分の表現をしたいこと全ての要素をバンドにぶち込もうとすると、やっぱり崩れるんですよね。LUNA SEAはいい意味で、みんなが均等に存在していて、その融合で生まれているものですし、ワンマンバンドにしてしまったら絶対に今のようにはならなかったと思います。

もちろん、自分が好きでもみんながわからないことも多々ありますし、その逆も然りです。LUNA SEAの中で使える自分の要素をずっと使っていますが、それは自分の20~30パーセントであり、どこかで残りを表現していかないと、表現者として自分が段々と窒息しそうになるというか。それは恐らく表現者の本能だと思うんです。

──SUGIZOさんのバックボーンを考えたら、表現したいことが膨大にあるだろうことは想像できます。

SUGIZO:それでソロ活動を始めましたが、一方にはLUNA SEAという強力なバンドが自分にはあるので、そこで表現をするべきことと、自分のソロワークとして表現するべきことをきっちり分けるようになっていったんです。ソロワークは、自分の本当に表現したい自分の本質だとしたら、バンドってとても窮屈な場所なんですよね。いろいろ持ち得ている武器のお多くを取り上げられて「この武器だけでやりなさい」みたいに言われているようなものなんです。表現方法の幅も狭まりますし、常に同じメンバーですし。でも、ここが最重要なことなのですが、窮屈だからこそ面白いものが生まれたりするんです。

──その制約の中でいかに表現していくか。

SUGIZO:そうです。本当はオーケストラにしたかったけど、それをギターで表現するしかなかったり、全然違うジャンルの表現方法をロックバンドの中に転換するということをずっとやってきたのがLUNA SEAで、今振り返ると結果的に「面白いものができたかな」と思っているんですよね。

対して、自分のソロというのは聴こえてきた、浮かんだままを音にできるので、そうなるとほぼロックバンドで使う楽器は使わなくなっていきます。LUNA SEAはロックバンドとして表現をしていますが、僕の楽曲に関しては、実はほぼロックバンドのイメージじゃないことが多くて、電子音楽がメインだったりするのはそういう理由です。同時に、僕が影響を受けたあらゆる国の楽器や文化、声を取り入れたりします。またLUNA SEAでは、ここまで過激な社会的・政治的な思想や発言を音楽にすることが難しいですが、ソロではそういったメッセージを自分の意識の赴くままに表現できますね。

 

スポットライトを浴びるよりスタジオワークが自分の一番の仕事

──先ほど電子音楽というキーワードが出てきましたが、SUGIZOさんにとってクラブミュージックの影響は大きいですか?

SUGIZO:ものすごく大きいですね。YMOから始まって、90年代にはジ・オーブやシステム7の音楽に影響を受けました。いわゆる80年代後半~90年代初期の、イギリスのレイヴ・カルチャーが自分の中ではすごく大きくて、それはドラッグ・カルチャーともすごく結びついているわけですが、それこそ60年代から70年代のフラワー・ムーブメントとすごくつながる精神性があります。

──当時のレイヴ・カルチャーは「セカンド・サマー・オブ・ラブ」ですものね。

SUGIZO:ええ。ですから、その頃のクラブ系のアーティストたちの多くは、例えばピンク・フロイドの影響を受けているわけです。僕が最も影響を受けたサイケデリック・トランス・シーンの1つの聖地はゴアです。彼の地でなぜあのようなスピリチュアルなトランス・ミュージックが発展したかと言えば、70年代にピンク・フロイドがツアーでゴアを訪れて、そこで大きなコンサートをして、そのシステムを丸々置いていったからなんだと言われていますね。つまり、ゴアトランスはピンク・フロイドの残したものから生まれてきた音楽と言えるわけです。

──ピンク・フロイドの影響は大きいと。

SUGIZO:ロックバンドという形で表現をする僕の精神性や美意識は、今となってはやっぱりピンク・フロイドが近いかもしれませんね。そのピンク・フロイドの精神性や美意識をロックバンドではなくて、電子音楽、テクノ、クラブミュージックという表現方法に置き換えたら、それがジ・オーブになったりするわけです。それこそジ・オーブとデヴィッド・ギルモアはコラボアルバムを作っていますしね。

つまりソロであろうとLUNA SEAであろうと僕の表現的根幹は変わらなくて、その手段が電子音楽なのかロックバンドなのか、ということだと思っています。さらにLUNA SEAにはRYUICHIという強力なシンガーがいるので、「歌モノ」であるという意識が強いです。かたや僕のソロはインストで世界を広げるという、その違いを楽しんでいます。

また、僕にとってクラシック音楽の影響はすごく強いので、サントラの仕事はとても大切にしています。実は映画音楽家として成功したいという想いがあって、そちらでは自分のオーケストレーションを存分にチャレンジできます。そういった映画&舞台音楽もソロも、LUNA SEAもX JAPANも、どれも重要なファクターになっています。

──これからも映画音楽を手掛けていきたいですか?

SUGIZO:是非やりたいですね。この歳になって「人前に出るのは本当は向いてないな」と実感しています(苦笑)。人前に出て、ステージやテレビでスポットライトを浴びるより、スタジオワークをしていることが、自分の一番の仕事だと思っています。

──周りはそう思っていないかもしれませんが。

SUGIZO:それがありがたいことでもあり、僕の中でのジレンマでもあります。本来はザッパじゃないですけど作曲家として、一音楽家として人様から評価をされたいという希望があります。でも、一般的にはLUNA SEAやX JAPANのロックギタリストなんですよね。僕はそのポジションをあまり求めていなかったので、本当にありがたい話ではあるんですが、残念ながら自分が真に希望するポジションにはまだ立てていないというのが正直な気持ちです。

──今回お話を伺ってみて、そのことがよくわかりました。ロックスターとしては、SUGIZOさんはインテリすぎる。

SUGIZO:そんなそんな(笑)。

──例えば、ステージでは演じている自分がいるような感覚なのでしょうか?

SUGIZO:というわけでもないですが、少なくとも素の自分ではないですね。メチャクチャ頑張って自分をステージモードに持っていかなければなりません。それはまさに命を削ってくような行為で、決してラクではないですし楽しいものでもありません。心身共にボロボロになります。でも、同時にオーディエンスの皆さんから無限のパワー、光のエネルギーをもらっている感覚もあります。それは本当に素晴らしいことです。なので非常に矛盾するんですが、ステージに立つことは大好きです。

──LUNA SEAは 30周年を迎えましたが、その途上の2000年に一旦終幕しましたよね。その終幕の時期というのは、メンバーがそれぞれ問題を抱えていたんでしょうか?

SUGIZO:ええ。人間関係がすごく悪化していた時期です。正直顔も見たくなかったですし、7年間全く連絡を取らなかったメンバーもいました。一応、無期休止としましたが、ほぼ解散に近い状態でした。その7年後に一度復活したときに、みんなすごくいい感触を得て、次の年も1回だけ大きなイベントに出て、そこから1年半ぐらいバンドとしてのインフラをきちんと整えて、ちょうど10年前の2010年に完全復活しました。

──終幕からの10年はソロワーク中心ですか?

SUGIZO:ソロがあり、X JAPAN加入もありました。自分の状況が大きく変わった時期です。

──X JAPANでやるときとLUNA SEAでやるときとは、自分の中でなにか変わりますか?

SUGIZO:全く違いますね。LUNA SEAは自分の美学や、自分が思うロックバンドとして最も格好いい形を築き上げることを30年間やってきたわけで、要するに自分のスタイルですよね。逆にXは完全にできあがったスタイルに、僕はいちギタープレイヤーとして機能するという役割ですので、そこに自分の音楽的な趣味嗜好をほぼ使ってはいません。もちろんYOSHIKIさんやToshlさんが求めてくれれば惜しみなく自分のスタイルを出しますが、僕が加入する以前の曲に関しては、シーンの中に伝説として残っているものですから、それを僕のスタイルで変容させてはいけないと思っています。

これはいつも言っていることなのですが、僕は今HIDEさんのパートを担っているわけで、例えるならば、クラシック奏者と同じ気持ちなんです。その作曲者が意図したことを汲み取る、チャネラーのような感覚ですよね。そして、僕が加入して以降の曲というのは、僕のスタイルが求められてばもちろんどんどんやらせてもらいますし、きちんと音符が決まっていて「この通りにやってほしい」という要望があれば、その通りにやります。だからLUNA SEAとは真逆ですね。

「BABAGANOUJ PROJECT 2019 中東音楽交流」

「BABAGANOUJ PROJECT 2019 中東音楽交流」Photo by Keiko Tanabe

 

社会活動や環境保護活動は誰でもできること

──SUGIZOさんは環境保護活動や社会活動に積極的に取り組まれています。何かきっかけがあったのでしょうか?

SUGIZO:娘の誕生がすごく大きなきっかけでした。娘が生まれたことによって、初めて社会を考えるようになりました。それまでは超無責任な人間だったと思います。でも親となり、親としての責任を考えるようになったときに「この子たちが大人になったときに世の中がもっとよい方向に進化していてほしい」という思い、そこからです。

──そう思う方はたくさんいるかもしれませんが、実際に活動をする人は限られていますよね。特に日本では非常に少ないように感じます。

SUGIZO:それが僕には逆にわからないんです。例えば、僕らミュージシャンやアスリートは、特殊技能を持っていないと成立できない立場じゃないですか。専門のトレーニングを長年積まないとできない分野です。でも社会活動や環境問題に関する活動は、特殊技能がなければできないわけではないですし、優れた身体能力がなければできないわけではありません。それこそ誰でもできることなのに、多くの人は口を揃えて「自分にはできない」と言う。何故やれないのかが僕にはわからないです。災害ボランティアも同様で、誰でもできることなんです。特殊な能力や強靭な体力がなくても充分にできることです。正直に言って皆さんのそれは「できない」んじゃなくて、「やりたくない」だけなのではないでしょうか。

──やりたくないだけ…本当にそうですね。

SUGIZO:辛辣な言葉ですが僕は「あなたがやりたくないだけですよね?」と心で思っています。「あなたみたいにギターが弾けない」とか、オーケストラの指揮者に向かって「あなたみたいに(指揮)棒を振れない」というのなら分かります。でもボランティアができない、また、選挙に行って一票を投じない、それはできないんじゃなくてやっていないだけです。

──例えば、原発の問題も、あれだけの状況が起こって、これで一斉になくなると私は思いました。でも、何事もなかったように復活させようとする人たちが、世の中にこんなにいたんだということにびっくりしたんです。

SUGIZO:驚愕ですよね…。僕はそれこそ12年前になりますが、ツアーで訪れたウクライナでチェルノブイリに行ってきたんです。僕はなんでも自分の目で見たいんです。もんじゅも行きましたし、六ヶ所村核燃料再処理工場にも行きました。そして、実際に自分の目で見ると、やっぱりその悲惨さがわかりますし、「絶対にこれはいけないよな」と痛感するんですが、日本人の多くは対岸の火事だと思っているように感じます。もしかしたらそれは島国という条件による日本人の残念な特性かもしれません。

例えば、福島で原発の被害に遭われた方たちは、間違いなくみんな原発は必要ないと思っているはずです。でも、福島から遠くに住み、直接的に被害に遭っていない人たちは、そのときは「大変だね」と思うけれど、時間が経ったら風化して、対岸の火事になってしまうと思います。もしチェルノブイリを直接見れば、福島の痛みを実際に味わえば、全員がそこに戻らないはずです。

──福島の原発の事故の直後に、このリレーインタビューでピーター・バラカンさんにお話を伺ったんですが、そのときに「これでやっと日本からも原発がなくなって自然エネルギーになりますよね」と話をしたら、バラカンさんが「いや、そんな簡単なことじゃないと思いますよ」と。実際にバラカンさんのおっしゃる通りでした。

SUGIZO:もちろん原発問題に真剣に取り組んでいる政治家の方々もいらっしゃいますが、そういった方々がコントロールできる立場に立てていないという非常に残念な状況があります。ただ、原発に対する意識は確実に変わってきているとは思います。

環境問題の話ばかりで恐縮ですが、これから重要なのは地球に負荷をかけない生き方です。ただ、環境を汚さない世の中に変化していくイコール、原始的な生活に戻るというのは無理だと思います。ですから、そうではないやり方ですよね。テクノロジーが進み、生活の心地よさはキープしながら、極力環境を汚さないやり方にシフトしていく。それは可能だと思います。今はまだ難しいですが、新しいエネルギーのあり方、少なくとも再生可能エネルギーで賄えるようには絶対になるはずです。ですから、この21世紀は壮大な実験の100年になるんでしょうね。地球にとって人間は害悪ではないんだということを証明しないといけない時期だと思いますね。

──SUGIZOさんは水素電力の活用に取り組んでいらっしゃいますよね。しかもU2の来日公演に水素電力を供給するプロジェクトにも協力されています。

SUGIZO:これは環境省側、ルール形成戦略研究所側から「SUGIちゃん、U2にお願いしてくれないかな」って相談を受けたんですよね(笑)。

──そういういきさつだったんですか(笑)。

SUGIZO:ただ、あながち非現実的な話ではなくて、ご承知のようにLUNA SEAの今のプロデューサーがスティーヴ・リリーホワイトで、僕らと同時期にU2も手掛けていたので、スティーヴからU2のメンバーに「日本でライブをやるときに、水素発電を試してみてくれないか」訊いてもらったんです。そうしたらすごくいい反応が得られて「是非やってみよう」ということになりました。

ここで重要なのが、化石燃料や原発等で作られた水素=ブラック水素を使わないことなんです。つまり、R水素という環境に負荷をかけない再生可能エネルギーで作られた水素でやることが重要なんですが、わりとどこでも充填できるブラック水素に対して、R水素は現状、特定の施設じゃないとできないんですね。2年前までは、有明にR水素が充電できたんですが、その施設が閉鎖されてしまって、今は長野の長州産業という素晴らしい会社が行っています。

──ちなみにトヨタの水素自動車MIRAIはブラック水素でもR水素でも、どちらでもいいんでしょうか?

SUGIZO:はい。「どうやって作ったか」だけの違いなので、どちらでも使えます。僕はMIRAIに乗っていますが、そのMIRAIと電気に変換するホンダ製のコンバーターを使って発電しています。LUNA SEAでも、この前のU2でもそれを使っています。

──その電気だと音が変わりますか?

SUGIZO:ものすごく変わります。よく考えてみたら、音が違うのは当たり前なんです。わかりやすく言うと、何十キロ、何百キロと離れた発電所で生成された電気は長い距離電線を通ってきて、その段階ですごくノイズが混じりますし、多くのパワーは外に放出されてしまいます。僕らはその劣化した電気をあれこれ工夫して質を整えて使っているわけですが、その場で生成した電気は劣化していないですし、活きがいいに決まっています。

──カーステレオがいい音するわけですよね。

SUGIZO:わかりやすく刺身で例えると、長い距離を経て輸送されたスーパーで売っている刺身と、船で漁師さんが釣ったものをその場でさばいてもらった刺身とどちらが美味いのかという話ですよね。それと全く同じことが電気にも言えます。でもそれによって音自体が変わってしまう、豹変をしてしまうので、ちゃんと水素電力を使った音作りをしないといけません。

──レコーディングのときも水素電力を使っているんですか?

SUGIZO:それは、これからやってみたいんです。自分は車とコンバーターを持っているので、次の段階としてレコーディングスタジオで試したいと思っています。

 

謙虚に、全力で音楽に邁進していきたい

──LUNA SEAの最新アルバム「CROSS」は先ほどお話にも出ましたスティーヴ・リリーホワイトがプロデュースしていますね。

SUGIZO:そうですね。非常にいい作品ができたと思っています。自分にとってはできてしまったら過去のものになってしまうので、今となっては色々恥ずかしいところや「もっとこうしたかったな」というのが多々あるんですけどね。

──ミックスもスティーヴ・リリーホワイトですか?

SUGIZO:全てスティーヴです。スティーヴのアドバイスを元に自分たちで録った音を送って、スティーヴがミックスしたんですが、全く日本のロックバンドの音じゃなくなって返ってくるんですよね。本当に不思議でした。

──ミックスの現場は見たんですか?

SUGIZO:見ていないです。スタジオはスティーヴのお家を訪ねたときに行きましたが、そのときはちょうどU2の仕事をしていました。ですからミックスの現場で一緒に作業はやっていないんですが、送り返されたものに対して要望を出すということはやりました。ただ、その要望も微々たるもので、スティーヴが作ってくる根本的なものがとにかく素晴らしかったです。それまでのLUNA SEAはエンジニアと何度も何度もミックスをやり直して作ってきたんですが…(笑)。

──スティーヴ・リリーホワイトのミックスは何が違ったんでしょう?

SUGIZO:抽象的な表現になってしまいますが、音がパキ!っとくるんですよね。決してレベルがバカでかいわけじゃないのに、音が抜けてくる。ドラムの圧が違いますし、ドラムとベースの置き方も違って、ただただその音に驚愕するしかなかったです。このアルバムでLUNA SEAはやっと次のステップに行けたなという感じがしています。

──その他、スティーヴ・リリーホワイトのプロデュースワークはいかがでしたか?

SUGIZO:スティーヴが素晴らしいのは、ああだこうだ細かいことは言わないんですよ。もちろんアレンジの細かいことを指示するのは得意な人ですから、いろいろとアドバイスはくれるんですが、彼が強く言ったのは根本的なアティテュードの部分だったんですよね。「ロックバンドとはこういうものだ」という。

──具体的にどのようなアドバイスをもらったんですか?

SUGIZO:スティーヴはLUNA SEAに会ったときに「各メンバーの心が離れている」と思ったそうなんです。まさしくLUNA SEAは今、ソロアーティストの集合体みたいなところがあります。そこで彼は「バンドを組んだときの、あの感覚を思い出してほしい。君たちはこのバンドに、このメンバーに恋をしたわけだよね? あの恋に落ちた時の感覚と思い出して!」と。

結局、僕らはロックバンドとしてのアティテュードを鼓舞してもらったんですよね。そして「プレイヤー、ミュージシャンとして、君たちは一流だから僕はなにも言うことはない」とも言ってくれて、「こういう風に演奏しろ」といった指示は一切なかったです。

──アーティストサイドに立った素晴らしいプロデューサーですね。

SUGIZO:本当にそうですね。ですからレコーディングをする前のアティテュードづくりと、レコーディングしたものの仕上げという最高の関わり方をしてくれました。「CROSS」は10作目のアルバムですが、自分で言うのも変ですけど、すごく瑞々しい、バンドを組んだ頃の、バンドが楽しくて好きでしょうがないという、そういう感覚が、その鮮度がパックできた作品だと思います。

──瑞々しい感覚に戻ったLUNA SEAのツアーも楽しみです。

SUGIZO:ツアーはすごいものになると思いますので、是非、新しいLUNA SEAを多くの方々に観ていただきたいですね。

──最後にSUGIZOさんご自身の今後の目標をお聞かせください。

SUGIZO:小さい頃からの願望として、映画音楽家や作曲家として成功したいという想いがあります。が、僕はただただ音楽に奉仕していきたいんですね。今後は音楽も社会活動も、国境を越えて、世界レベルでどんどんやっていきたいと思っていますが、そのためにも自分の足元を見失わずに、謙虚に、全力で音楽に邁進していく所存です。

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