“時間と場所からの解放”、USENにきく革新的な「働き方改革」の現状と課題
新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の影響により、在宅勤務や時差出勤を導入する企業が急増。多くの企業が就労環境の急激な変化に追われており、今までと異なる働き方に注目が集まっている。
その中で、2018年より働き方改革を推進する新人事プロジェクト「Work Style Innovation」を発足し、フレックスタイム制度、テレワーク勤務制度の導入など、ウイルス拡大以前から柔軟な勤務体系を推進するUSEN-NEXT HOLDINGSに「働き方改革」の現状と課題、今後の取り組みについてお話を伺った。
働き方の本質は“時間と場所からの解放”
──2018年より新人事プロジェクトとして様々な勤務制度を導入していますが、働き方改革を取り組むに至った経緯をお聞かせください。
住谷:当社は2017年12月に経営統合を行い、USEN-NEXT HOLDINGSが発足しました。グループの体制が一新されたんですが、組織として新しいことにチャレンジする風土が欠けているように感じたんですね。組織が新しくなったということは、業務改革の余地がありますよね。でも、その提案がなかなか挙がってこなかったんです。
──新しい枠組みに社員の気持ちが伴っていなかったのでしょうか?
住谷:そうですね。今までのやり方を疑わず、変化を恐れ、現状で満足していたのかもしれません。それでは組織の成長は見込めません。そこであらためてグループ、個人として“働く”とはどういうことかを考えるようになり、働き方改革に取り組み始めました。そして、本質的な働き方を突き詰めるため、代表の宇野(康秀)とのディスカッションから「時間と場所からの解放」というキーワードにたどり着きました。
──今までの働き方から抜本的な改革が必要になったということですね。
住谷:はい。国内企業の多くが朝の9時に出社、夕方の6時までのような勤務体系だと思いますが、私たちは「仕事ファースト」を掲げて、スーパーフレックスタイム制度やテレワーク勤務制度という仕組みを全社で導入しました。
現在、私たちは組織の源である既存の社員たちを活性化するために、新人事プロジェクト「Work Style Innovation」を立ち上げて、具体的な施策を実行中です。社員一人ひとりには“いつ、どこで、だれと、どのように”仕事をするのか、自律的に働き方をデザインしてほしいと考えています。
──これまでに行ってきた施策を教えてください。
住谷:まず、2018年6月にUSEN-NEXT HOLDINESでスーパーフレックスタイム制度、テレワーク勤務制度を導入しました。翌年7月には分散していたオフィスを東京・目黒へ集約し、9月にはグループ全体でスーパーフレックスタイム制度、テレワーク勤務制度を順次開始しました。
そして、2019年4月からは、2020年度の採用からの新卒と中途の垣根を越えた新リクルーティングプログラム「GATE」を始動し、5月から地方拠点オフィスのリノベーション「U BASE」グランドオープンしました。また、9月には従業員の定年を60歳から70歳まで延長しています。
──施策の成果はありましたか?
住谷:2018年度は1求人400名ほどだった中途採用の応募者が、2019年6月に掲載した本社内務職向けの求人媒体では2,500名と約6倍になり、直近の20年で最も高い数値を記録しました。社員の総労働時間も1割減っており、業績も上を向いています。
社員から喜びの声が続々と
新型コロナウイルスの影響について
──現在、新型コロナウイルスの感染拡大により外出・出勤の自粛が求められ、今まで以上にテレワークが注目されています。テレワーク勤務制度を2年前から取り入れていましたが、その効果はありましたか?
住谷:国内の多くのテレワーク環境はセキュリティ上、社内の業務システムに入れませんでしたが、私たちは業務効率を重視して、一定のセキュリティを保って別の環境からでも社内システムに入れるようにしています。社内でも自宅でも同じ環境を実現しているのは大きかったと思いますね。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、首都圏では3月末より、テレワーク勤務制度の活用を社員へアナウンスしていますが、かねてよりテレワーク勤務制度を導入していたため、グループ社員にノートPCやスマートフォンなどのデジタルツールを支給していました。そのため、現在もオンライン会議システムの活用やグループウェアでのチャットを通じたコミュニケーションなどが活発に行われ、社員が在宅勤務環境へ比較的スムーズに適応できていることを実感しています。
──新卒採用活動はどうですか?
住谷:グループで2021年卒の新卒採用活動、説明会から最終面接までのすべてをオンラインで実施しています。会社説明会は「Online Seminar(ウェブ説明会)」で開催し、時間や場所に制限されずに視聴可能な環境を用意しており、選考はスマートフォンなどでできる「Smart PR(動画投稿による選考)」および「Online Interview(LIVEチャット面接)」で進めています。政府が感染の拡大に備えた基本方針を定めたことなどを踏まえ、学生が安心して就職活動に臨めるように採用活動にあたっています。
※参考資料
求職者と企業が常に“対等”であるために
──新リクルーティングプログラム「GATE」の反響はいかがでしたか?
住谷:「GATE」は採用の本質を見つめ直したときに感じた「新卒や中途といった求人の垣根は必要ないのでは?」という気付きから開設しました。求職者に求めるのは、企業カルチャーやその先のビジョンに共感してくれるかどうかであり、一緒に成長していきたい、貢献したいという人を広い視野で採用したいと考えています。
エントリー方法は、名前と年齢とメールアドレスだけで応募ができる「Simple Entry(シンプルエントリー)」という方法を実施しています。
また、新たにふたつの取り組みを加えました。ひとつ目は通年採用で、18歳以上であれば大学生であっても正社員で働くことができるようになったことです。固定でお給料を支払うことにより、奨学金返済によって多忙なアルバイトを強いられている勤労学生にも良い環境を提供することができます。実際に昨年、大学2年生に内定を出しました。
ふたつ目は入社時期が自由であることです。例えば内定者が2か月の入社を希望すれば、その希望時期にあわせて入社ができます。これは個々の意思を尊重したもので、各自の働きたいという気持ちさえあれば「いつでもどうぞ!」というのが新しいリクルーティングプログラム「GATE」です。
──全ては内定者のモチベーションを高め、より良い人材に出会うための仕組みなんですね。
住谷:「GATE」が目指すのは、求職者と企業が常に「対等(FAIR)」な関係にあり、複雑さや無駄を排除した「わかりやすい(SIMPLE)」設計で、既成概念にとらわれず「革新的(INNOVATIVE)」であることです。これらの取り組みによって、当社のカルチャーを理解し共感して欲しいという狙いもあります。
──「GATE」に対して、求職者・採用側からはどのような感想がありましたか?
住谷:採用側からは、「動画投稿エントリーの導入によって、一人の面接官の判断ではなく複数人で動画をチェックしたうえでの判断が可能になったため、精度が上がった」という声や、「録画された先輩社員の面接風景を見て自ら学ぶことができるようになった」という感想もありました。また、21年度面接をした学生からは、「ウェブ面接に対し不安があったが、対面に近い感覚で面接に臨め、違和感がなく取り組めた」という感想や、「移動がなく時間の節約ができ助かった」との声もありました。
──そういった好意的な意見は数字にも反映されていますか?
住谷:新卒採用の内定承諾率は、過去20年間、約40%だったのが、グループ一括の19年4月入社の採用では、約60%に上昇することができましたので、しっかり結果として出ていると思います。
これからも続く、革新的な「働き方改革」
──今後予定している「働き方改革」関連の新たな取り組みはありますか?
住谷:拠点のサテライトオフィス化を検討しています。例えば、自宅から近い拠点をサテライトオフィスとして事前に登録してもらい、その拠点のセキュリティカードを渡して、いつでも使えるようにするという取り組みです。カフェで仕事をして忘れ物をするなどのリスクを考えれば、この方が安心ですからね。
また、ローカルの人材確保を目指す、転勤がない「エリア限定社員採用」の導入を予定しており、全国約150ヶ所のグループ全拠点のリノベーションを5年間で実施する予定となっています。
──その2つの施策にはどのような狙いがあるのでしょうか?
住谷:オフィスに来る意味は大きく2つあります。ひとつは仕事がしやすい。ふたつはコミュニケーション、ミートアップのためです。さらに「社員が誇りに思えることではないか」と考えております。本社移転後、社員からは「このかっこいいオフィスにふさわしい服装を考えるようになった」といった声も聞かれ、社員の自律的な意識醸成にもつながっていると考えています。
さらに、主要地方拠点オフィスのリノベーションも進行中です。机と椅子などは全拠点同じものをロングタームで発注することで、コストも抑えながら改革に取り組んでおります。札幌オフィスの場合、社員がお客様をオフィスに連れてくるようになったという声も聞いています。
──社員の方々が見せたくなるオフィスって素敵ですよね。
住谷:オフィスをお客様に案内しているそうですよ。地方拠点で働く社員にとってのオフィスは、自分が毎日出社する支社や営業所が会社そのものです。彼らにとっての会社である拠点オフィスを、快適に仕事ができて、働きやすく、生産性が上がるオフィスに変えていくことが、経営課題のひとつであり、これからの取り組みになっていくと思います。