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東洋化成株式会社 カッティング・エンジニア 西谷俊介氏インタビュー【後半】

インタビュー 特集

東洋化成株式会社 カッティング・エンジニア 西谷俊介氏
東洋化成株式会社 カッティング・エンジニア 西谷俊介氏

日本においてレコードプレス工場を設立時から一時も絶やすことなく、数年前までは日本唯一のプレス工場としてアナログレコード文化を守り続けてきた東洋化成株式会社。その東洋化成に2009年に入社して以来、カッティング・エンジニアとして働いていらっしゃる西谷俊介様に転職のきっかけや、お仕事内容とその特徴、日々どのような思いで取り組まれていらっしゃるのか伺いつつ、さらに日本と世界のアナログレコード情勢や、この数年で世界中のアナログレコード関係者たちが共有している課題などお伺いしました。

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東洋化成株式会社 カッティング・エンジニア 西谷俊介氏インタビュー【前半】

デジタルとアナログの音の特性

──レコード、CD、ダウンロードと色々メディアが増えましたが、音質についてはいかがでしょうか。

西谷:アナログレコードはデジタルメディアと違って、針と溝が触れ合ってその摩擦により共鳴して音が出る接触メディアです。音が入っていない無音のところでも針を置くとジリジリなるのがレコードですね。CD以降のデジタルメディアは光を反射させて信号の0、1で読み取っていくという非接触メディアですので、接点がないからノイズがないんですね。

CDで一番最初によく言われていたのが、全くの無音の状態が人間にとって無機質的に冷たく聞こえるらしいんですね。自然界の中では、音が始まる前後に全く音がない状態というのはないですよね。レコードはジリジリとちょっとしたノイズが鳴ってはいますので、そこが有機的な音として温かみある音と捉えられるのかなと思っています。実はCDも、曲と曲の間は本当に無音にできるんですが、無音というのが本当に違和感があるので、デジタルノイズが聴こえない程度で入ってるんです。本当に聴こえるかどうかわからない程度ですが、でも、それがあるとないで、音が始まる瞬間の音の聴こえ方が変わってくるんですよね。

──ダウンロードサービスやサブスクリプションで聴く場合も入っているのでしょうか?

西谷:1曲単位のものになるとその前後に多少入ってるかどうかはわかりませんが、アルバム単位で曲が順番に並べられているものには入っているかもしれないですね。

デジタルメディアは再生機に関係なくノイズがなく音質の変化も少ないのでパソコンで聴く音源と、携帯電話やデジタルメディアプレイヤーで聴いたり車のオーディオで聴く音源と比較してもそんなに音の劣化はないですが、アナログは針やスピーカーやアンプが違うと音はかなり変わってきます。オーディオ好きな人には、オーディオアクセサリーが豊富なのも魅力で、自分の好みのセッティングで楽しめる幅の広さもアナログの魅力かと思います。

デジタルメディアはレコードのように音が鳴っているところは見えないので、こだわれる場所が少ないですよね。ただ、アナログはレコード自体の手入れが必要になってきますし、汚れたらクリーニングも必要です。そういった手間も含めて楽しんでる人はいると思います。

──どこか車と似ているところはありますよね。

西谷:そうですね。手間がかかるけどビンテージカーが好きな人もいれば、メンテナンスフリーのハイブリッドカーが便利という人もいます。初めてCDが出たときには、音楽ファンとして女性が増えたという話がありました。アナログは針を置いて音を出す動作から始まりますが、そこが難しく捉えられがちで、レコードの保存も立てかける時に斜めにしちゃいけないよとか直射日光を避けるとか色々な制約があるので、CDになって音楽を再生するという行為がすごくイージーになったのが音楽ファンを広げるとして一躍を担っているとも聞きます。

──確かにCDによって音楽がより手軽になった面はありますよね。

西谷:あとデジタルとアナログの音の特性としては、今のデジタルはレコード以上に長時間の録音と、高い音から低い音まで周波数特性の再現性がアナログよりも断然優れているんですよ。

人間の耳に聞こえる可聴帯帯域が一番高い音で20kHz、一番低い音で20㎐と言われています。これは年代や人の耳の聞こえ方にもよると思いますが、よく聞こえる人でも20から20までというのが可聴帯帯域ですが、CDは上から下まで全てが収録できる。レコードのように内周にいくと音が歪むというような音の変化はCDにはないですし、レコードのように内側にいくにつれて音の調整が必要なものと、CDとは違ってくるんですね。レコードは可聴範囲を超える音が入ってると聞いたことないですか?

──それはよく聞きますよね。

西谷:それは実際に聞こえない音も収録できますがかなり限られた環境で、高い音になるほど内側にいくと減衰するという物理的な特徴があり、内周部に近いところで20kHzのカッティングすると音が歪むんですね。ですので、レコードの外側3センチぐらいの位置でかなり音量を下げた状態であれば歪みなくカッティングできますが、高い音はどんどんレコードの音は歪んでしまう。ですから、レコードに収録されてる音は人間の耳の可聴帯域の範囲内、20kHz、20ヘルツ以内に抑えられているのがほとんどなんです。

CDは音量に関係なく歪みなく、音量をいっぱいいっぱい入れられます。そういったCDをずっと聞いてると、音に疲れる。人間の耳に限界の範囲で大音量で聞き続けると鼓膜が疲れてくるんですね。対して、レコードのように人間の聞こえる範囲内に収まっている音に関しては、比較的耳に優しい音なんですね。ですのでレコードの方が疲れづらくマイルドな音になってると思います。

ただ、レコードの針の特性によっては20kHz以上再生できる音もありますので、レコードはカットしたときの音の周波数特性と別に、再生のカートリッジによって周波数特性が変わっていきます。例えば高い音まで聞こえる針で再生していけば、レコードの再生時には無音でもノイズがあるのでそういった音と倍音になって20kHz以上の音が途切れずに再生はできます。ただ、CDの場合は20キロヘルツ以上になるとスパッと切られてしまうんですね。ですので20kHz以上の音は収録ができないんですね。

レコードは収録はできたとしても再生カートリッジでそれ以上聞こえるものというのがあるんですね。途切れることなくフェイドアウトのように音が切れていくので人間の耳には違和感なく聞こえます。突然音が切れると違和感を人間の耳は覚えてしまうんです。CD以降のデジタルメディアは人間の可聴帯域よりもっと高い。384kHzとか、全く聞こえない音なんですけど何か耳の上の方で何か感じるというぐらいのノイズを再生するということもデジタルメディアでは可能になっています。

ですので今、デジタルメディアがどんどん進化してレコードの器よりどんどん大きくなっていってるんですね。昔はアナログテープに収められてるものであれば時間も周波数特性も含めて無理なくアナログにカットできたんですが、今は、膨大なデジタルデータの状態からアナログにカットするとき、高い音が強すぎて歪んでしまうことがほとんどなんですね。

──すごく苦労しますね。

西谷:結構大変です。ハイレゾリューションの192kHzだったり、96kHz以上の高い音になってしまいますと実際にはカットできない音というのが存在します。そこはある程度マスターでレコードの音に合うように調整していただかなければレコードでより良い音が出せないようにもなっています。ですので、デジタルからマスタリングや、音楽制作を始めた方はそういったアナログ特性というのをご存じないと思うので、例えばデジタルで作った音源、これはこのままアナログにできるだろうと思って入稿されると実際にそうはいかないということがあるんですね。

──このことはアナログレコードを作りたいという皆さんに知っておいてもらわないと、1つ1つ説明していくのは大変ですね。

西谷:ですので、今、重要視されてるのはアナログに適した音を作られるエンジニアさんなんですね。実際、アーティストと一緒にエンジニアも同行してくださって立会いでカッティングするパターンも増えていますね。アーティスト自身がアナログに興味があって、絶対にアナログを出したいということで楽曲を作る時点で音をアナログに合わせている方もいらっしゃいます。代表的な方はクロマニヨンズさんですね。彼らは昔からレコードしか聴かないそうです。

──あとアナログレコードの収録時間がちょうどいいとおっしゃる方も多いですよね。

西谷:私も仕事をしていて、音に向き合って集中できる時間は40分が限界なんです。レコードは20分ずつ収められているA面とB面がありますが、B面に移るときに針を上げる動作があるのでそのときに一度リセットできます。CDであれば10曲あるうちの1曲目から5曲目がA面で、6曲目から10曲目がB面とした場合、CDを再生して1曲目から聞くと前半の曲は印象に残ってたりするけど、5曲目以降はなんとなくうろ覚えだったりするということもありますね。レコードは6曲目がB面1曲目になります。そうなると、人間の耳に聞こえてくる印象は変わってくるんですね。記憶の残り方が違うといいますか、CDとは聴き方、聴こえ方が変わってきますね。

──今やA面、B面ってなんのことかわからない人も多いですよね。

西谷:そうかもしれないです。昔のレコードやCDは作品を全体で楽しむという聴き方ですが、今のようにダウンロードやサブスクリプションになってくるとアルバム単位というより1曲単位になってきますよね。それがランダムに再生されて、何かをしながら聴くことが多いです。音楽好きにとって常に音楽が身近にあるというのはいいことだと思いますが、レコードのようにプレイヤーがあるところでしか聞けないという状況とはまた違った音楽の楽しみ方かと思います。

アナログ業界の現状と課題

──現在アナログが多く作られているのは、どのジャンルになりますか?

西谷:シティポップでしょうか。日本の80年代の歌謡曲がリバイバルで人気になっています。弊社でもそういったシティポップだけでリリースをまとめる企画(「CITY POP on VINYL」注2)をしていたりします。クラブミュージックもだいぶポップ・ミュージックに昇華されてきていまして、そのようなアイテムも増えていますが、アンダーグラウンドなクラブミュージックのアナログの需要は少し減ってきていて、クラシックやジャズの再発も一回りしてしまい、ここ最近はリリースが減っている印象です。

最近増えているのはライブ会場の物販の一つとして、アナログレコードを作るアーティストさんです。ピクチャー盤などレコードプレイヤーを持ってなくても買ってもらえるようなツールとしてレコードを作る人もいます。また、台湾や香港の歌謡曲のオーダーも受けています。例えば、テレサ・テンが生誕60年記念ということでシンガポールや台湾、香港でテレサ・テンのタイトルがたくさん出た時期があって、弊社でプレスをしていました。そのようにアジア各国からのオーダーもありますが、ここ最近は中国や台湾にもプレス工場ができたので、現地でも製造され始めているのではないでしょうか。

──ジャズやクラシックのジャンルにおける最近のアーティストの動きはどうでしょうか。

西谷:高音質CDやブルーレイでリリースされることが多いかもしれませんが、アナログも少なくはないですが、むしろ『ファイナルファンタジー』のようなゲーム音楽が増えていまして、実際にゲーム音楽をオーケストラで演奏するような企画盤も近年増えてきています。ゲームの背景で鳴っている壮大な音楽がありますよね。それを実際にオーケストラを使ってアルバム作るという流れはゲーム音楽界ではありますね。そういったものをニュークラシックとして聴くクラシックファンも出てきていますね。

──映画『スターウォーズ』が人気になり、その映画音楽を通じて初めてクラシックに触れ「いい音楽だな」と思う人が出てきたのと少し似ているかもしれないですが、ゲーム音楽の場合はもともとオーケストラではない音楽をオーケストラで演奏してアルバムにするということですよね。

西谷:ゲーム音楽はもともと電子音楽で作っていたものがメインでしたが、電子音で作った壮大な音楽をあえてオーケストラでやることでクラシックにしてしまうという感覚ですね。

──2000年代初頭に、元々存在していた楽曲を電子音で着メロに作り変えて携帯電話を通じて配信するということが行われていましたが、その動きとは逆ですね。今は電子音楽が最初にあり、それをオーケストラ化するという。

西谷:ええ。そういう動きが起きています。

──世界におけるアナログレコード市場はいかがでしょうか。

西谷:去年までは欧米も含め、レコードをオーダーしても半年待ってしまう状況で、工場の稼働がフルだったんです。いろんなレコードショップやレーベルが増えていく中で、どんどんレコードの供給量も多くなっていましたが、今年2月に世界中のレコード業界を震撼させる出来事があったんですよ。

──一体何があったんですか?

西谷:実はアメリカのラッカー盤を作る工場が燃えてしまったんですね。アポロマスターズというカリフォルニアの会社が火事で工場が全焼してしまって。レコードの原盤であるラッカー盤はアメリカの1社と、日本にある会社が1社、その2社しか生産していないんです。ラッカー盤の世界的シェアから見ると日本で作ってるラッカー盤は世界的に見ると2割に満たない規模でしかなくて、アメリカで燃えてしまった工場が8割のシェアを占めていました。ですから、今、ラッカー盤がないために欧米ではアナログのオーダーが一旦ストップしているところもあるようです。

しかもラッカー盤をカッティングするときのカッターの針はサファイアなんですが、そのカッター針も、ラッカー盤と同じ工場で作っていたので、ディスクも針も作れない最悪の状態なんですよ。日本では針製造の会社は別で1社ありますので、日本だけはあまり影響はなかったのですが。

──不幸中の幸いだったんですね。

西谷:でもここにきてコロナの影響があり、新譜はリリース量が一旦ストップするんじゃないかと思っています。

──今のこういう時期だとアメリカの会社の復活も難しいですね。

西谷:そうですね、年内復旧は難しいと思います。フランスで、新規参入でラッカー盤を作ろうという動きも出ていたのですが、ロックダウンとなると進行が難しいと思いますね。

ですので、アナログ業界は2020年はどうしようもできない大打撃を受けています。弊社でもオーダーがストップになったり延期になっているところもあるんですが、今後もしかしたら、海外がストップしていることで、そのオーダーがこちらに来る可能性はあるのではないかと考えているんですけどね。

ただ、実際に1社が潰れると回らなくなるような状態というのがアナログ業界の現状で、どこの国でもアナログに携わるアクセサリーや材料を作るところは数社しかない状態ですので、どこか1つダメになると共倒れになるという可能性があります。またプレスなどカッティング以降の製造工程に関しましては、現在でも新たに工場は作れるんですが、レコードのカッティングマシンは1980年代の機械を今も使っている状況で、新しく作られていないんですよ。

──それはなぜですか?

西谷:カッティングマシンは1984年に出たものが最後で、西ドイツのノイマンという会社の機械なんですが、多くのスタジオがこの機械を使っていると思います。1984年というのは時代的にCDが流通し始めていますのでスタジオに導入された機械も少なく、その機械を刷新する需要がないので新しい機械は作られておらず、どこの会社もメンテナンスして継続して使っているというのが現状です。ですから技術を若い人が継承しても、カッティングマシンが壊れると、それを刷新しない限り、アナログは残っていかないことになる。これこそが世界中のカッティングスタジオが抱えている大きな問題なんです。

2年ぐらい前にアメリカのデトロイトで世界中のレコードプレス会社などレコードにまつわるビジネスをやっている人たちが集まるサミットがあったんですね。そこで色々な方がプレゼンをしたり、ディスカッションをしていく中で、やはり「カッティングマシンが壊れたときどうしよう」という話になりました。私自身もその疑問をぶつけたくて色々な人に聞いてみたんですが、欧米の人に聞くと「そういう機械は日本やドイツが作るものだろう」と言うんですね(笑)。

──「いやいや、丸投げしないでください」と。

西谷:本当に。でも、このカッティングマシンの問題が解決しない限り、レコードというのはいつか作れなくなる日が来るかもしれないです。新たなカッティング方法としてレーザーカッティングという、針を用いないで溝を掘る方法も一部開発が進んでいますが、まだ浸透していないというのが正直なところです。つまり…針で刻まないならCDでいいんじゃないかということなんですけどね。

──アナログレコードの特徴ともまた変わってくるということですよね。

西谷:ええ。あまりハイブリッドになりすぎるとそれはもうデジタルでいいのではということもありますね。やはり針と溝のふれあいによる共鳴がレコードの音ですので。

アナログレコードという文化を途切れさせないために

──ちなみにカッティングマシンに関して、ノイマンはどのようなスタンスなんですか?

西谷:ノイマンは今はマイクしかやっていなくて、マシンのサポートも終わっているんですよね。しかもカッティングマシン自体をメンテナンスできる人というのはエンジニアよりも少ないのが現状でして、この機械を直せるのも必然的に高齢の方が多いので、そういった部分の技術継承も必要だということです。ですから、全世界的に問題を共有して、解決できるように協力していこうという動きにはなっていると思います。やはり日本だけだと完全にガラパゴス状態になってしまいますので。

──問題を解決しつつ、未来へ向かっていかなくてはなりませんものね。

西谷:そうですね。レコードは再生方式が昔と変わらないやり方で今も再生できるという面に大きな価値もあると思いますが、デジタルで普通に聴いて来た若い人たちはノイズのない音が普通になってきてもいます。「レコードってジリジリ、パチパチしてノスタルジックでいいよね」と思う人も多いと思いますが、制作現場で全くノイズのない音源を渡されてレコードになったとき、製造工程のちょっとした条件の違いでわずかなノイズが発生することもあります。が、そういったところで過敏なお客さんも増えてるのが実情です。

昔なら「レコードというのは多少のノイズが発生するもの」という説明も、言い訳がましいですけど、ある程度は出来ていましたが、今はレコードは数ある音楽フォーマットの中の1つのツールになってしまっているので、できるだけノイズが少ないレコード、製品づくりが求められています。つまり製作する機械は古くなっていっていますが、お客さんの耳は厳しくなっている。そういったところでも難しい部分はありますね。

──なるほど…。

西谷:私たち工場の立場になるとエンドユーザーの方々と直接商品を渡し合うことはありませんが、できるだけエンドユーザーの要望に答えていきつつ、アーティストさんたちとは必要な情報をどんどん共有していくことが弊社の生存につながってくるのかなと思います。ただ、これは以前、先輩エンジニアから言われたことなのですが「この仕事は諦めが肝心だよ」とも思うんですよ。

──「諦めが肝心」ですか?

西谷:例えば、カットする音に対しても何かを変えればどこかが変わってしまうというのがアナログであり、どこかいいと思って変えても、どこか悪くなる可能性も多く秘めているので、その中でどこを取るかというのが妥協点になってくるわけですね。そういった意味で「諦めが肝心」ということと、これからの時代、サービス精神を持って忍耐強くお客様に説明していくのがエンジニアの仕事の1つになるのかなと。

──ここまで西谷さんのお話を伺ってきて、カッティング・エンジニアにとって大切なのは「コミュニケーション」なのではないかと感じました。技術職として一見関係なさそうに思えることがむしろメインと言いますか。

西谷:私たちがマスター音源からカッティングする際に、マスター音源からの変化がなくカットできる可能性は1割もないんですね。その1割ない中で、できるだけ音が変化しないように良くしていこうという部分に全てを捧げているんです。ただ、お客さんの好みもありますし、私たちがいいと思うことと、アーティストさんがいいと思うこととの間にズレも微妙にあったりして、そういうことも含めて私たちエンジニアができることって限られているんですね。それを踏まえた上で、お客様に納得してもらうにはコミュニケーションが非常に大切なんですね。

──そういう大変なやり取りから1枚のレコードが生まれるわけで、いいものができあがったときの達成感はひとしおなのではないですか?

西谷:そうですね。Face to Face、Hand to Handでできるビジネスというのは日本のものづくりの原点というところもありますので、それも含めて大事にしていきたいですね。レコード作りはどの工程も人の手で感覚的にやっている部分が多いです。それを数値化、データ化するというのは安定度を保つための一つの基準にはなるんですが、どの工程もスタッフの経験によって成り立ってる部分もありまして、それが製品のクオリティコントロールに直接的に影響してくるので、いかにそういった環境を持続させることができるかが課題かと思いますし、技術継承も含めてアナログレコードという文化を途切れさせないようにしていきたいと思っています。

(注2)CITY POP on VINYL
国内はもちろん、海外からも注目される「CITY POP」に特化したVINYLイベント。今年2020年が初開催となる。8月8日より新旧CITY POPアイテムが多数発売される。(予約販売、WEB販売あり)
http://onvinyl.jp/

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