渋谷La.mama 新プロジェクト「CONNECT-20▶︎21」始動、河野太輔氏 インタビュー【後半】
コロナ禍でライブハウスに通う日常が遠のき、その魅力について改めて考える時間を過ごした人は少なくないと思います。
そんな中、渋谷の老舗ライブハウスLa.mamaが7月に始動した新しいプロジェクト「CONNECT-20▶︎21」は、まさに私自身、そして多くのライブハウスを必要とする人々の想いを代弁するものでした。「私たちの仕事は、音楽を通じて人と場所を、時間と時間を、気持ちと気持ちを繋ぐことです。」と本プロジェクトを打ち出したのは、La.mamaに15年在籍、攻めたイベントを沢山打ち出してきた河野太輔さん。
河野さんに「CONNECT-20▶︎21」を話の起点として、ブッキングの美学、そして周りの人との繋がりを大切にする、ご自身の哲学まで深くお話を伺いました。
(取材日:2020年9月2日 インタビュアー:柴田真希 撮影:加藤春日)
プロフィール
河野 太輔(かわの・だいすけ)
1985年1月生まれ。宮崎県出身。自身のバンドでドラマーとして活動後、2005年にLa.mama に入社。入社後はイベントの企画制作、新人アーティストの発掘や育成、レーベル運営など活動は多岐にわたる。
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渋谷La.mama 新プロジェクト「CONNECT-20▶︎21」始動、河野太輔氏 インタビュー【前編】
「年末だからお世話になっている人たちが集まる」風潮がすごく嫌いで、絶対そういう日にしたくない
──この日もすごいですね。
河野:この年末の出演者(2018年12月30日「道玄坂異種格闘技戦 vol.107」MINAMIS/Mom/TENDOUJI/The Wisely Brothers/SEVENTEEN AGAiN/your gold,my pink/KALMA/踊Foot Works/2)は相当面白いです。おそらく僕にしか組めないですね。KALMAは当時高校生で、この日初めてLa.mamaに出たんですよ。
──年末に初めて。
河野:そう。年末だったら学校が休みだからもしかしたら北海道から来てくれるんじゃないかと思って連絡しました。元々ミスチルが好きだったらしくてLa.mamaを知っていたのもあって、話が進んで決まりました。彼らは2とかTENDOUJIとかもすごく好きだったみたいで、テンション上がっていましたね。
──Momもいいですね。
河野:Momもこの時が初ですね。「普通じゃないことをしたい」と常日頃から思って生活しているので、年末は必ず出たことがないアーティストを入れるようにしているんですよ。「年末だからお世話になっている人たちが集まる」風潮がすごく嫌いで、絶対そういう日にしたくない。僕もそうだし、アーティストに対しても、お客さんに対しても、緊張感が取れない状態をある種作りたい。だから、オタクっぽい人たちが集まってきます(笑)。
自分の企画の日は大体入場整理を自分でやるので、どんな人が見に来るのか楽しみなんですよ。年末、2日間で出演者は全然違うのに、2日とも来てくれた人たちがいました。すごく音楽聴いていそうな、若者だったな。今思うと、この日(2018年12月30日)好きです。
──MomとTENDOUJIを同じ日に見たことがあるんですけど、それだけでも衝撃的でした。
河野:(新宿)MARZですね。
──よくわかりますね!
河野:わかります。面白そうなイベントはチェックしているので。箱の企画だったかな。
──そうです。その日は他に髭も出ていました。
河野:攻めたイベントですね。いいところをついていると思います。攻めているブッキングはなかなか集客が難しくて、イベンターは普通やらないと思うんですよ。でも僕はある種、カウンターを食らわせたいと思ってブッキングをやっているので、売上げを目的としてイベントを組む心理とはちょっと違いますね。音楽性やお客さんの層が近いアーティスト同士を組んだ方が、お客さんはたくさん集まるんですよ。でもそれだと「1足す1は2」じゃないですか。
──はい。
河野:「1足す1」を「2」より大きくしたい、と思ってやっているんです。びっくりさせたい、ということの優先順位の方が売り上げとかよりも断然上ですね。
──この日もすごいですね(2012年8月29日「道玄坂異種格闘技戦 vol.40」9mm Parabellum Ballet/group_inou)。
河野:9mmに出てもらった回だと、MUCCとの対バンもなかなかやばくないですか?笑
──これですね。(2015年7月16日「道玄坂異種格闘技戦 vol.79」MUCC/9mm Parabellum Ballet)会場はLIQUIDROOMですか?
河野:La.mamaなんですよ!これが(笑)!プレオーダーで5,000弱くらい応募が来た記憶があります。すごいですよね。チケットが取れなさすぎて、僕の中でお客さんに対して申し訳ない日ベスト3に入っています(笑)。「(新木場スタジオ)コーストとかでやっておけばよかった」って思いました。たくさん売れるときはいつも、一時そう思うんですけど、やばいイベントほどLa.mamaでやりたいんですよね。
──無地の球は出ませんでしたが、これからやりたい組み合わせはありますか?
河野:たくさんあるんですが、秘密です。組み合わせではないですが、いろんな場所でイベントをやってみたいです。
──ライブハウス以外の場所でのイベントもいいですね。
河野:地元でフェスをやりたいなっていう夢もあります。宮崎にお金を落としたいなと思いますし、今はコロナで移動ができないですけど、美味しい食べ物もたくさんあるし、美味しいお酒もたくさんあるし、来てもらって、知ってほしい。
──宮崎のフェス、ありますか?
河野:ジャズフェスはあるんですけどね、ロックフェスはないかもしれないです。フェスができそうなスペースはたくさんあるので、あそこでやったら楽しそうだな、とかはイメージしています。
──他に、La.mama以外でイベントをやるとしたらどこでやりたいですか。
河野:アーティストが初めて行った本屋さんとか、よく行っていたデパートの喫茶店とか、そういったゆかりの場所や、思い入れのある場所でやってみたいですね。あとは地元のお寺でもやってみたいです。この前久しぶりに友達がやっているお寺に行ったら、シャワーとかお布団とかもあって、人が泊まれるようにすごく綺麗にしていて、そのホスピタリティーも含めて素敵なお寺だな、と思ったんです。僕の中学時代のタイムカプセルもそのお寺のお堂の下にある(笑)。
僕のイベントは、「この人とこの人の鳴らしている音って同じことを言っているよね」っていう「解釈」なんです
──これだけ沢山の対バンイベントを組んでいるのはすごいですね。
河野:ライブハウスって、うちの場合真っ黒だけど、僕にとっては真っ白な画用紙みたいなもので、毎日そこに「何を描くか」っていう気持ちで働いているんです。
──画用紙。
河野:うん。画用紙です。今日は鉛筆で描いてみよう、今日はクレヨンで描いてみよう、今日は空の絵を描いてみよう、そういう感覚ですね。それに一緒にお絵描きしてくれる人たちがいる。周りからしたら「毎日同じ場所で同じことをやっている」と思われるかもしれないですけど、その中で新しい気づきがあるから、「同じことをやっている」っていう感覚は僕の中にないんですよ。
──それだけ夢中になるのはどうしてですか。
河野:自分がやっている仕事ってどういうことなんだろう、と考えた時期がありました。そのときに、「気持ちと気持ちを繋いでいるんだ」というところに行き着いたんですよ。心ってみんな持っているじゃないですか。心の声が鳴っているから、そこを繋いで、集まってくる人たちをイメージしたりして。
──曲を聴いて想像するんでしょうか。
河野:ほとんど音楽からですね。音楽って歌っているし、語っているじゃないですか。僕のイベントは、「この人とこの人の鳴らしている音って同じことを言っているよね」っていう「解釈」なんです。音楽性やルーツは違っているけれど、同じ気持ちでギターを弾いている人同士を勝手に拾い上げて、出会わせる。だって、同じ気持ちでそこでギターを弾いているなんて、素敵じゃないですか。
そこに、同じ様な気持ちでその音楽を聴いているかもしれない人たちが集まってくる。イベント当日は、「僕はこう思ったけどみんなはどう思うんだろう」、そういう気持ちで迎えています。人が集まると、「あの人の着てる洋服可愛いな」とか「あの人良い感じだな」というように色んなことが繋がって、ワクワクする。きっかけが生まれる場所だと思います。
──きっかけ。
河野:そう。「好き」とか「嫌い」とか、「やってみよう」とか。それはその場にいた人みんなですね。ライブハウスの人も、出演者も、お客さんも。
──人が集まることで、きっかけもたくさん生まれて、広がっていく。
河野:うん。だから、たくさんの人が集まってくれた方がこの場で最大のものが作れるな、という感覚はあります。みんな登場人物で、みんなでどれだけ作れるか、盛り上げられるか。集客も、売り上げではなく、そういう感覚で考えていますね。
イベントって集合体で、みんな時間とかお金とか魂とかを削って集まって、ストレスを発散したり、生きがいを感じたりする瞬間ですよね。一手一手が全部その瞬間に繋がると思ってやっているから、どの一手も気は抜けない。僕なりの創作活動、芸術なんですよ。
──庭を造っているみたいです。
河野:そうですね、育っていきますからね。2年後3年後、ここにいた人たちがどうなっていくのか、そういうことも漠然と想像しながらやっているので、すごく楽しいです。だから続けている。
ライブハウスがあるからこそ、誰かと誰かの気持ちは繋がることができる。そういう場所だから、配信ライブをやっていると、必要性をより感じます。
──オンラインではなく、場所として。
河野:そう、場所として。ふと周りを見ると、この場所がなかったら出会っていなかった人ばかりなんですよね。そういう意味で、絶対必要な場所だと思います。
自分の身近なところから「CONNECT-20▶︎21」の精神を広げたい
──対バンができない中、「CONNECT-20▶︎21」で「”繋がり”を感じられるような企画を立てていきたい」ということでしたが、今想像していることはありますか?
河野:物販を作り始めて、デザインしたりプロデュースしたりするのが楽しいんですよね。なので、アパレルブランドを立ち上げたいです。うちの代表とも、「La.mama」っていう一つのブランドの話をよくするんです。弟がアパレルで働いていて、音楽と一緒に何かできないか相談しました。とりあえず思いついたら近くにいる、その道の人に話をするんですよ。そこから繋がって形になっていくこともたくさんあります。
──トートバッグの企画もそうでしたね。Tシャツに使われている写真やデザインにも、そういった繋がりを感じます。
河野:そうやって、身近に素晴らしいことを考えたり、行動したりしている人たちがいることを、常に伝えたいと思っています。La.mamaスタッフのおじいちゃんが趣味で農業をやっていて、その素材を La.mamaのバータイムで調理して出したり、カレーで使ったりもしていました。これからもやりたいことがたくさん生まれてくるだろうし、音楽の垣根も超えていきたい。
──その精神が広がっていくと、良い世界になりますね。
河野:一人でできることって多くないと思うし、必ず誰かが関わっていますよね。繋がりに気がつくことで、周りの人と一緒にやりたいなと思うことをやったりとか、人に優しくできなかったことがあれば優しくしたりとか、前向きなアクションに一つでも繋がってほしいし、繋がると信じてやっています。僕はそういうことが改めて大事だなと思って、「CONNECT-20▶︎21」を通して発信していきたいと思っています。自分の身近なところから、そういう世界を作っていきたいです。
「CONNECT-20▶︎21」は、自分たちも厳しい状況下だけど、どこまでできるんだろうっていう挑戦でもあります
河野:少し話が変わりますが、最近、9月と10月の公演をたくさん中止にしたじゃないですか。
──そうでしたね。3月から5月の公演の振替公演でした。
河野:はい。そのとき、ものすごく罪悪感があったんです。以前は申し訳ないという気持ちよりも、しょうがないという気持ちの方が強かったんですよ。
──公演の中止に対する気持ちの変化があったのはどうしてですか。
河野:最近、本当にライブハウスに行くことが生きがいだったりとか、それでメンタルをなんとか保っている人はいるんだということを再認識したんです。
公演がなければどうしたってライブを見ることはできないし、配信もできない。「ライブがなくても少しでも楽しいことを」という気持ちで物販もやっているけれど、そんな次元でないところで切羽詰まっていて、音楽が生きがいだった人がいることを知ったんです。
その人たちにライブハウスは支えられているし、そうでなくとも同じ人間である以上は助けたい。だけどライブは出来ないから、先々で必ず何かやるぞっていう、その糧にするしかない。だから「CONNECT-20▶︎21」は、自分たちも厳しい状況下だけど、音楽が生きがいの人をどこまで助けることができるか、という挑戦でもあります。
──挑戦。
河野:はい。「再生プロジェクト」と言いつつも、「挑戦」ですね。最終的に再生ボタンを押すのはその人自身だけど、そこまでのバックアップをどれだけできるか。気持ちが止まってしまっている人が、前向きになれる働きをしたい。
ライブハウスに対しての見方は千差万別ですよね。そんな中で、ライブハウスがどんどん前向きに新しいことをやっている、ということ自体を、少しでも希望として捉えてもらうことが目標です。先のことは分からないから、毎日ベストを尽くすしか、ないですね。