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第174回 株式会社フライングドッグ 代表取締役社長 佐々木史朗氏 インタビュー【後半】

インタビュー リレーインタビュー

佐々木史朗氏
佐々木史朗氏

今回の「Musicman’s RELAY」は土橋安騎夫さんのご紹介で、株式会社フライングドッグ 代表取締役社長 佐々木史朗さんのご登場です。

高校、大学でバンド活動に熱中した佐々木さんは、その後、裏方を志し、1982年にビクター音楽産業(現ビクターエンタテインメント)に入社。

3年の大阪営業所勤務を経てアニメ音楽制作ディレクターとなり、以降『AKIRA』『トップをねらえ!』『マクロス7』『カウボーイビバップ』『創聖のアクエリオン』『マクロスF』『この世界の片隅に』など数多くの音楽プロデュースを担当。2009年にはフライングドッグ設立と、長年にわたり日本のアニメ音楽を牽引されてきました。

そんな佐々木さんにご自身のキャリアのお話から、アフターコロナにおけるアニメの可能性まで、じっくり伺いました。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦)

プロフィール
株式会社フライングドッグ 代表取締役社長 佐々木 史朗(ささき・しろう)


1982年ビクター音楽産業(現ビクターエンタテインメント)入社。

3年の大阪営業所勤務を経てアニメ音楽制作ディレクターとなる。「AKIRA」「トップをねらえ!」「マクロスプラス」「マクロス7」「逮捕しちゃうぞ」「MEMORIES」「勇者シリーズ」「エスカフローネ」「カウボーイビバップ」「X」「カードキャプターさくら」「ラーゼフォン」「人狼」「攻殻機動隊STANDALONE COMPLEX」「創聖のアクエリオン」「マクロスF」「Panty & Stocking with Garterbelt」「この世界の片隅に」等の音楽プロデュースを担当。

2009年1月、株式会社フライングドッグを設立。

2017年3月、株式会社アニュータを設立


 

▼前半はこちらから!
第174回 株式会社フライングドッグ 代表取締役社長 佐々木史朗氏 インタビュー【前半】

 

ビクターの伝統=“犬の遺伝子”を引き継ぎたい〜フライングドッグ設立

──2009年1月にフライングドッグは別会社として独立しますね。

佐々木:自分がアニメのセクションの部門長になって、6~7年ぐらいしてからですね。JVCエンタテインメントという新会社がビクターエンタテインメントの兄弟会社として設立されたんですね。そこはプロダクション機能、代理店機能、映像制作機能、着うたから発生した音楽配信機能を持ったエンタテインメント会社を目指すという今思えば先進性のあるコンセプトを持った会社だったんですが、そこにアニメセクションが丸ごと移動になったんです。

自分としてはアニメセクションがそこに行く理由がわからなかったというか、ビクターに残った方が仕事がはるかにやり易い事もあって本当はすごく反対だったんです(笑)。で、結局JVCエンタテイメントに部ごと行く事になった2007年に、ビクターって名前が使えなくなっちゃった事もあり、「じゃあ、レーベル名を考えよう」という事になったんです。そこで色々な名前を考えたんですが、ビクターといえば犬だし、自分が戌年ということもあって「フライングドッグ」にしました。

──フライングドッグって、その昔ロックレーベルとしてありましたよね?

佐々木:はい。同じ名前になってしまうというデメリットがあるので、他の名前はどうかとなったんですけど、やっぱりフライングドッグっていい名前なんですよね。

──かっこいいですよね。

佐々木:ですから、昔のフライングドッグだった方々にリサーチをして「使ってもいいでしょうかね?」と話を伺って、それで「いいよ」という話になったんです。一応商標的にも大丈夫でした。よく「昔あったレーベルの名前を持ってきた」と言われるんですが、それでもフライングドッグがいいなと思ったんです。

なんというのかな…当時も何かの取材でお話したんですが、『ピーターパン』には子どもが空を飛べて大人は飛べないみたいな「ユー・キャン・フライ」という曲があって、要は子どもは飛べると思い込んでいるから飛べるんだけど、大人は「そんなの無理だ」と思っているから飛べないっていう曲なんですね。

制作って結局「ヒットする」という思い込みみたいなものが大事じゃないですか?「絶対に飛べない」と思っていたら、大ヒットなんか出せないわけで、そういう意味ではそういった思い込みというか、『ピーターパン』の子どもたちが「飛べる」と思ったのと同じように、「犬でも飛べると思ったら飛べるんだ」みたいな想いを込めたんですよね。他にいい名前もいっぱいあって、お世話になっているアーチストさんにもいくつか考えてもらったりしたんですが、二番煎じと言われるかもしれないけど、結局フライングドッグがいい名前だなと思いました。

──佐々木さん自身は犬好きなんですか?

佐々木:好きですね。犬を飼っていますし。あと、そのときのうちの部は20人中5人くらいが戌年で、“犬比率”が高かったんですよ(笑)。

──それはすごい確率ですね(笑)

佐々木:ビクターで音楽ディレクターをやっていて、先輩には強烈な個性の方がいっぱい居て、そういう“犬の遺伝子”みたいなものは継いでいきたいと思っていたんですよ。それがビクターからJVCという会社名になっちゃうと、もう“犬の遺伝子”って言えなくなっちゃうなと思ったんですよね。

──それでレーベル名として「ドッグ」を残した。

佐々木:そうですね、そこにちょっと。「本当はビクターから出たくなかったのに」という気持ちも含めて(笑)。

──(笑)。でも、その名前は結果として大成功ですよね。

佐々木:いい名前だと思います。結局、そのJVCエンターテイメントも2年後に解散になったんですが、そのときにこの「フライングドッグ」というレーベル名を会社名にしようと思って、2009年1月の分社の際に株式会社フライングドッグとしました。

──分社した理由はなんだったんですか?

佐々木:マネージメントセクションだったり、出版のセクションだったり違う業態の事業は別々の会社にした方がいいという考え方ですかね。自分としても、いまさらビクターに戻れと言われるよりもそのほうがよかったですし、意地もあったので(笑)、「だったらアニメ事業も1つの会社にしてください」と。

──せっかくそこまでやってきて、いつの間にかまた吸収されるよりは、その方が良いですよね。

佐々木:あと、フライングドッグの前ぐらいから、映像の投資とかが結構増えてきたんですが、ビクターエンターテイメントの考え方とか間尺に合わないことがいっぱい出てきている状況だったので、そういう意味でも独立した会社のほうがいいなと考えました。

TVアニメの制作費ってアニメって1クールものでも数億かかるんですよ。もちろん全額は出さないにしても、メインで制作するとなると当然億は軽く超えるんです。そこで本社に決済を出してもらいに行くと「お前、サザンのアルバムがいくらでできてるか知ってるか? それより全然多いんだぞ。これはサザンのアルバムくらい売れるのか?」って話になるんです。

確かにサザンほどのヒットにはならないにしても、ものによっては発売から20年経って海外との再契約で何千万もお金が入ってきたりとか、要するに普通の音楽制作とは回収のタームが違ったりするんですね。そして映像を作るとなると、1回の金のはり方が音楽に比べるとはるかにデカいんです。そういう意味でも独立した会社のほうが、ビクターグループと言いながらもやりやすいんですね。

──フライングドッグはアニメの制作費ごと出資をしているんですね。

佐々木:そうですね。もともとはアニメの音楽を作るところからスタートをしたんですが、やっているうちに監督や制作会社、テレビ局、出版社の人たちと知り合いになっていきますし、「やっぱり自分たちでテレビ番組とか映画を作りたい」という気持ちが出てきて、アニメ自体を作るようになったんです。

 

「1足す1が3になる」映像と音楽の相乗効果

──フライングドックとしての最大の大ヒットアニメは何になるんでしょうか?

佐々木:実は『新世紀エヴァンゲリオン』みたいな特大ヒットがあるわけではないんですが、それでもいくつかはあります。1つは僕が入社をしたときから続いていている『マクロス』シリーズです。毎回主人公もお話も全く別の『マクロス』を10年毎ぐらいに作っていて、それで『マクロス7』というのを作って、アルバムも30万枚近く売れました。

──『マクロス7』って『マクロス』の7本目ということなんですか?

佐々木史朗氏

佐々木:いや、そうではないんですよ。『マクロス』というのは、地球が滅びて移民船団が宇宙中に散らばっているという設定なのですが、その7番目の船団が『マクロス7』なんです。その『マクロス7』のときはまだビクターエンタテイメントだったんですが、フライングドッグのときに菅野さんで『マクロスF(フロンティア)』という作品を作って、この作品はやっぱりすごく売れました。

実は『マクロス7』がすごく売れたので、「CDの売上も下がってきている21世紀でこれ以上売れるマクロスはできないだろう」という声もあったんですが、当時、僕らもちょうどフライングドッグ、JVCエンターテイメントになったばかりだったので「『マクロスF』で『マクロス7』を越えよう」という目標を作って、結果、各アルバムが30万枚ぐらいずつ売れましたね。ちなみにその『マクロスF』が好きだった当時の人たちが今ビクターに入っていたりするんです。そうするとその人たちが「アニメをやりたい」と言ってくれたり、若い声優さんや監督の方が「『マクロスF』好きでした」という人が結構いたりしますね。そしてその「マクロスF」を好きだったスタッフ、役者さんが多数参加した「マクロスΔ(デルタ)」という次の新作が2016年に放送されこれまた人気を博し、その歌唱ユニット「ワルキューレ」の人気は今でも絶大です。そういう意味では、フライングドッグで『マクロスF』という形で『マクロス』を続けることができて良かったです。

──最近、弊社のレコーディングスタジオでも、半分はアニメ関係なんじゃないか?というぐらい仕事が多いんですよ。「アニメってそんなにたくさん作っているの?」と聞きたくなるぐらい、ものすごい分量で。

佐々木:今はちょっと減ったかもしれないですが、一時は1クールで80本ぐらいアニメのテレビ番組があったんですよ。

──すごい量ですね…。

佐々木:結局それって全て数億ずつかかるんですね。そのうち回収できる作品なんて10本ぐらいで、残りの70本は損をしているんです。だからこんなことは長く続かないと思っていたんですけど意外と…それこそ「アニメがおいしい」と思って、新たに入ってくる人たちもいっぱいいるみたいで、続いてはいますけどね。でもちょっと供給過多ですね。そういう意味では面白くなくなってきているところもあったりしますし、コロナの影響もあってパッケージも売れなくなってきているというのは大変なんですが、逆にこれでまた新しいことができる土壌ができてくるのかもしれないなと、思ったりはしますけどね。

──ちょっと一息というか。

佐々木:そうですね。誰かが突飛なことを考え付く土壌が出てきたというか、そうじゃないとやっていけなくなってきていますから。今までのことをトレースするだけだと、ジリ貧になってきている状況なんです。そういうときは「藁をもすがる」というのもあるし、突飛なアイデアみたいなものも出てくるし、その中から次のメインストリームになるものが出てくるかもしれないなという気はしますよね。

──アニメ音楽もそうですが、音楽と映像の関係性についてどのようなことをお考えですか?

佐々木:例えば30分のアニメ番組を1クールやると、いろいろなことが起こるんです。人が死んだりとか、友だちと泣き別れになったりとか、いろいろなことが起こって、そのときにバックに歌がかかっていたりすると、曲が曲以上に聴こえるというか、パブロフの犬じゃないですが、その曲を聴くだけで、あのシーンが思い浮かんで涙が出てくるみたいな、曲が曲以上に聴こえたり、あとは単純なシーンも歌が入ることによって、シーンがシーン以上に見えるというか。そういう「1足す1が3になる」みたいなすごい相乗効果が、アニメをやっていたり、映像に音楽をつけていて、一番快感が強い瞬間なんです。

──『スターウォーズ』にあの音楽がついてなかったら、あそこまで魅力的な作品になったかどうかってことですよね。

佐々木:ええ。『マクロス』という作品は、戦争を歌で終わらせるというか、歌があるおかげで戦いをやめるみたいな、そんなことが基本のストーリーとしてあるんです。だから歌がとても重要な作品で、そういう意味では僕らもすごくやりがいがある仕事だったんですね。「次はどんな歌を作ろうか」とか「どんな歌詞がいいのか」とか、そういうことを一緒に考えていくことが面白かったですね。

──ちなみに劇場版を作るのと、テレビシリーズ用に作るのとでは、予算の組み方も大分違うんですか?

佐々木:弊社が制作している作品で言うと、1クール13話の30分のアニメを作るのと、映画1本作るので大まかに言うと制作費は同じくらいなんです。もちろん大作映画とかはTVの何倍もかかりますし、特殊な大作TVアニメでも大作映画並みの予算のものもありますので時と場合によって基本は違うものです。ただ、弊社が今までやっているものだと、TVと映画でどっちのほうが大変ということはなくて、要はその企画がTVに向いているか劇場映画に向いているかで決めていっている感じです。

──それが数億円?

佐々木:そうですね。思い切りのいい方だったら何本も億のお金を張り過ぎて失敗をするかもしれないですが、僕は小心者なので、思い切りは必要ですが、おっかなびっくり数を絞って張っています(笑)。

 

若い人たちにアニメソングを好きで居続けてほしい

──フライングドッグは昨年の2月と10月にアニメソングのライブイベント「犬フェス!」を開催されましたね。

佐々木:ええ。ちょうど去年、フライングドッグが10周年でしたので「犬フェス!」というライブイベントを、東京・調布の武蔵野の森総合スポーツプラザという新しくできた会場でやらせていただきました。本当は菅野さんも出る予定だったんですが、インフルエンザで出られなくなったんです。でも、非常に盛り上がりましたね。

──それは全部アニメ音楽のイベントなんですか?

佐々木:そうですね。うちは基本アニメやゲームの音楽専門のレーベルですので、アーティストはアニメソングを歌う歌手と声優の人達で、フライングドッグに所属をしていたり、かつて所属をしていた方々が集まって、10組以上が出演しました。

──「犬フェス!」に来たお客さんの平均年齢はどのくらいなんですか?

佐々木:年齢は幅広いですね。上は50代ぐらいまでいると思います。今のアニメの年齢層は、上は60代ぐらい、下は10代なんですよ。

──60代までいるんですか?

佐々木:います。第一次アニメブームの『宇宙戦艦ヤマト』が好きだった人たちって今はもう60代になっていますから。

──アニメというのは、一時的に通り過ぎるものではなくて、ファンにとってはずっと好きなものなんですね。

佐々木:ええ。一番最初『ヤマト』が流行った頃というのは、当然60代のアニメファンはいなかったんです。でも今となっては、もしかしたら介護用のアニメができたりとか、そういう老人にまでファン層が及んでいる時代が来るかもしれないなという感じですね。

──アニメは新しい世代がどんどんと引き継いでいきますよね。

佐々木:やっぱり昔はアニメって「格好悪いもの」みたいな感覚が若干あったんですけど、今は全然恥ずかしくないものになったというか、それこそ高校生のなりたい職業のベスト5の中に声優さんが入っていたりとか、そういう意味ではすごくあっけらかんとしてきました。

──YouTubeから何から声優さんだらけですものね。

佐々木:声優さんも今大変なのは、入れ替わりが激しいんです。2、3年経ったら新しい人たちに入れ替わっちゃうみたいなところがあります。

──そんなに活動期間が短いんですか?

佐々木:短いですね。もちろん一握りのずっと残る方はいらっしゃいますが、他の方々は入れ替わり立ち代わりです。最近は、元アイドル志望の方が入ってきたり、それこそ動画投稿サイトから出てきているアーティストもたくさんいらっしゃいます。

動画投稿サイトの人たちって覆面の人が多いじゃないですか? そういった顔は伏せてイラストや文字を使って、曲を動画投稿サイトに上げているみたいな人たちはやっぱりアニメやゲーム、コミックとの親和性が高いですね。

──そういった動画投稿サイトも全部チェックしたりしているのですか?

佐々木:さすがに僕自身はできないですが、うちの社員はみんなそういうのを当然観たりしますね。僕らはレコード屋さんで音楽を死ぬほど漁っていたんですけども、今はもうネットで漁れるんでね。漁り方は楽かもしれないですね(笑)。ただ漁る量がハンパじゃなくなってきた。

──在宅でできる。

佐々木:だから、何で売れたかわからないようなものも出てきているじゃないですか?特に自粛生活になってからのチャートってやっぱり、ネットでかかってそこで好きになってという曲が増えてはいますよね。

──「よくそんなこと知っているな」っていうものを観ていますよね。

佐々木:そうですね。だからもうテレビじゃなくなっちゃってますからね。テレビの代わりにみんなYouTubeやTikTokを観ていますよね。

──アニメソングに特化した音楽定額配信サービス「ANiUTa」もやられていますよね。サービス開始が2017年3月とかなり早い段階から取り組まれていますね。

佐々木:はい。アイドルやアニメ、韓流って、どちらかというとパッケージが売れるじゃないですか? だからあんまり定額配信にいきたがらないという状況があったんです。でも、そうは言いながらもアニメファンでも10代、小学生から高校生ぐらいまではどんどんCDを買わなくなってきているんです。上のほうの方々にはCDを買ってもらえばいいですけど、若い人たちはやっぱりサブスクをやらないと聴いてくれなくなっちゃうと思ったんですよね。僕らはCDが売れなくなるよりもファンが減るというのが一番怖いので。新しい若いファンが入ってこなくなるというのは致命的ですから。

──新しいファンは大事にしておきたいですよね。

佐々木:若い人たちにアニメソングを好きで居続けてほしいという想いがあって、アニメの音源を出しているレーベル10社で集まって、アニソン専門のサブスクサービスを立ち上げました。

──アニソン専門って世界で唯一ですよね?

佐々木:そうですね。例えば、タワーレコードさんみたいに全ての商品が置いてあるレコード屋さんがある中で、ディスクユニオンさんのプログレ専門店のような、サブスクの世界でも専門店があってもいいかなと思ったんですよね。なぜ専門店に電車賃を払ってまで行くかというと、品ぞろえがいいというのもありますし、あとお客さんが望んでいるようなサービスとか、店員さんがお客さんが欲しがっている情報をくれたりとか、そういうところがあるから専門店に行くわけです。

──マニアックさが売りになりますよね。

佐々木:そういう意味で、サブスクの世界って基本的に「いかに広いジャンルで曲が多いか」が勝負みたいに見えているんですが、専門店というのはあり得るじゃないかと思ってやり始めてはいるんです。

──無料視聴サービスもあるんですか?

佐々木:もちろん視聴は全ての曲でできますので、アプリさえ落とせば30秒間ずつは全部の曲は聴けます。実は「ANiUTa」に関して言いますと、経営権を今年の4月からアニメイトさんに譲渡して、僕は社長ではなくなったんです。ただフライングドッグも株主としては残るんですけれども。

──「ANiUTa」は海外でサービスをしているんですか?

佐々木:中国とアメリカではまだ細々とやっている状況です。ただ、海外のアニメのコンベンションへ日本のアーティストが行くと、5千人とか1万人が平気で集まるんですよ。そうすると5千人1万人の人たちがみんな日本語で歌を歌うんです。それは本当に感動的というか。

──フランスなんか本当に熱狂的ですよね。

佐々木:ブラジルやアメリカ、カナダ、フランス、イギリス、イタリア、スペイン、インド、ロシア、中国と、どこでもみんなが日本語で大合唱してくれるんですよ。

──アニメに憧れて日本に来た外国人とか、今たくさんいらっしゃいますよね。

佐々木史朗氏

佐々木:アニメ好きな人ってインテリが多いんですよね。アニメ好きが高じて日本語を覚えたりとか、ゲームが好きで日本語を覚えたりとか、そういう人がすごく多いんです。10年ぐらい前に北京大学へ行ったことがあるんですね。それは当時日本人の女性の方が北京大学の准教授をやってらして、大学のアニメのサークルの顧問をやっているので、「一度来てください」と招待されたんです。十数年前ですから、日本のCDやDVDって全然中国に入っていなくて、本当はいけないんですけどゴッソリ持って行って、大学生の生徒さんにあげたらすごく喜んでくださってね。

よくよく考えると10数年前ですから、もしかたら今ごろ国の中枢とかね、そういうところにいる人たちになっているかもしれません(笑)。そういう人たちが日本のアニメに関して「自分たちが好きだったものだから」といろいろと擁護してくれるかもしれないなとか、そういうことはよく思いますね。

 

ゲームやアニメのキャラクターが世界中でコンサートをやる未来

──日本のアニメが世界中から受け入れられている要因というのはなんだとお考えですか?

佐々木:ひとつはまずアメリカだと、全てそうではないんですが、いわゆるカートゥーンというか、『ドラえもん』みたいな子どもが観るものがアニメであるとか、漫画も基本的には子どもが観るものみたいなところがあるんですね。

──『トムとジェリー』みたいな?

佐々木:そうですね。ところが日本は漫画の文化がすごく複雑怪奇に発達したというか、それこそスポーツ選手の漫画とかならまだ分かりますが、料理人の漫画とか、碁の棋士の漫画とか、いろいろなマニアックなことまで漫画になっていますし、海外の人が「サラリーマンが電車で漫画を読んでいる」と昔ビックリしたなんて話がありますが、そもそもそれは小学生が読むような漫画じゃないから見ているんだという話なんですよね。そういう意味では、大人の鑑賞に堪えるような漫画だったり、アニメ、ゲームがどんどんと発達したというのが海外からも受け入れられることに繋がっているんじゃないかなという気がします。

──いまだに海外は大人向けの漫画はないんですか?

佐々木:それは当然あります。ディズニーだってジブリと同じで大人が観にきたりもしますし、大人向けの漫画もアニメもあったりはします。ただ、日本はその部分が異常にに発達したという事なんです。なのでアメリカや中国のアニメーターで、日本のアニメに影響を受けた人はかなりいます。アニソンに関してもそういう意味では、できればジャンルになってほしいんですね。ブルースというアメリカで出てきた音楽が世界中でブルースという名前の音楽として認められているみたいに、「アニソン」というのがもしかして世界中で1つのジャンルみたいなものになるとうれしいですし、そういう意味で「ANiUTa」が世界中の人々に指示されるサービスになればと思っていたりするんです。まだ道半ばですが。

──ちなみに「ANiUTa」では、みなさんメインテーマ的なものだけを聴くんですか? それとも劇中に流れている細かい曲も全部聴くんですか?

佐々木:歌ものだけでも、いわゆるオープニング、エンディング以外にキャラクターソングというのがあるんです。主人公とかサブキャラが「この人だったらこういうことを歌うだろうな」という曲をテレビで流れなくても作ったりするんです。だから、1つのアニメの作品だったら、オープニングとエンディングの2曲しかないかというと、そんなことはないんです。挿入歌やキャラクターソングなど歌は山ほどあるし、もちろんBGMを聴きたい人はBGMもちゃんとサービスされていますので聴けます。

──ではテレビアニメや映画の中では流れていないものも「ANiUTa」の中には収録されている。

佐々木:ええ。アニメのファンというのは、その世界の中で遊ぶのが好きなので、テレビで流れていたものだけが欲しいわけではなくて、テレビに出てくるAという主人公がもし歌を歌うとしたら、こういう歌だよね。それはその声優さんが歌っているから「そうだよね」「面白いよね」となるし、そういうことですね。ある意味実在の人物として追いかけているというか、そういう感じなんです。

──アフターコロナにおけるライブについてはどのようにお考えですか?

佐々木:今ライブはなかなかできない状況になってきているんですが、初音ミクのライブというのは、ステージにアクリル板を立てて後ろから映像を投射をして、ミュージシャンはちゃんといるんですが、メインの歌手だけはいない。それこそ後ろでモーションキャプチャーをつけて踊ったら、その通りに踊ったりというのはあったりするんですが。そういうことができる時代になっていて、もしかしたらアクリル板がなくても、会場をミスト状にすればホログラムみたいに投影できるようになるかもしれない。そうなったら、また日本のゲームやアニメって世界中でコンサートができるようになるなと思うんです。生身の人間のコンサートじゃなくて、そのキャラクターのコンサートが。

──確かに。

佐々木:声優さんが初音ミクみたいにアニメの絵で踊って歌って、MCもしてというようなことは、できる可能性があるんです。

──まだできてはいない?

佐々木:まだできていないです。ただ、この先、可能性は充分にあるでしょうし、人間がいないライブというのであれば、世界中でやることも可能だなと。特にライブも生じゃなくて配信ライブじゃなきゃいけないような時代になってくると、アニソンは本当に向いていると思いますし、たとえばVRみたいな形でゴーグルを着けて、歌い手がステージから飛んできて目の前で歌って飛んで帰るみたいな、そんなこともできる可能性はあるなと思っているんです。

──近未来というかSF的ですね。

佐々木:あと、もしかするとアニメというのはテレビのシリーズとか映画という形ではない形で残るかもしれないなとも思うんです。シルク・ドゥ・ソレイユが経営破綻しちゃいましたけど、シルク・ドゥ・ソレイユみたいなやつと、日本のアニメの技術が合体すると、すごく面白いエンタテインメントができるかもしれない。実際の人間とそうじゃないものを合わせて1つのステージにするとかって、面白いものができるかもしれないですよね。

──それは観てみたいですね。

佐々木:もちろんテレビや映画のアニメもやりますが、そうじゃない方向に伸びていくかもしれないですしね。

──自分たちが観ていたアニメとはもう全然違うということですね。

佐々木:そうですね。94年に菅野さんとやった『マクロスプラス』というアニメがあって、初音ミクの全然前なんですが、バーチャルアイドルというのが出てくるんです。それはホログラムで映っているから何人にも分身したりできるし、ステージからいなくなって客席の上に浮遊してきて客に手を振ってまた帰っていくみたいな。でも確かに初音ミクはそうですし、94年に予言していたものが半分ぐらいできるようになっているという現実があったりするんでね。そういう意味ではまだまだ先はあるのかもしれないなという気はしますね。

 

アフターコロナは新しいものが出てくるチャンスである

──また今後パッケージはどのようになっていくとお考えですか?

佐々木:音楽も映像も、若い人たちは音質・画質にこだわっていないんです。たとえば音質にこだわったら、ハイレゾといった方法はありますが、聴いたり観たりするのが電車の中でスマホみたいな人たちがすごく多いので、画質とか音質にこだわるという必要性が、僕らとしては残念ながらなくなってきているところがあるんです。

そういう意味では映像もブルーレイである必要というのがあまりなくなってきているんですね。逆に今増えてきているのはネットフリックスとか、そういう観放題の映像サービスからのお話で、テレビじゃやらない配信専用のオリジナルのアニメを作りますと。その代わり高値で買ってくれますと。そういうケースが増えています。

──そういうビジネスになってきているんですね。

佐々木:ええ。さらに言うと、日本のアニメは他の国にもファンが多くいますので、映像配信サービス側からすると世界中の顧客に喜ばれる日本のアニメは大歓迎な訳です。ですから、今まで日本のテレビアニメで売れているジャンルとは違うものを作るように段々となってきています。

──ネットフリックスをはじめとする配信サービスで公開しているアニメは増えているんですか?

佐々木:すでにいっぱいあります。僕ら音楽屋としてつらいのは、配信アニメとかってオープニングやエンディングをスキップできちゃうんですよ。要するに一気に観ちゃうから、毎回オープニングの歌があるとうっとおしいので、自動的にスキップしちゃうようなシステムになっているんです。テレビだったら毎週必ず1回ずつかかりますから、刷り込み効果があってテーマソングのヒットになるみたいなところがあったんですけどね。

──例えば、うちの子どもたちも21時から始まるドラマを15分ぐらい遅れて観始めるわけですよ。それでCMを飛ばしたりとか。たまらんなっていう感じですよね。

佐々木:そうですね。だからそういう意味ではコンテンツの作り方が変わってくるんでしょうね。

──現在のコロナ禍で、アニメの制作が間に合っていないというのは事実なんでしょうか?

佐々木:生産性は半分ぐらいになっちゃってます。机を並べてギュウギュウ詰めで描いていたのができなくなって、1席ずつ空けてとかになりますし、もう1つは働き方改革の問題があります。1番大変なのはアフレコです。アフレコは20人ぐらいの声優が飛沫を飛ばしながらスタジオの中でずっとやっているわけです。これができなくなって、2、3人ずつ距離をおいて休憩をたくさん入れながらやらないといけなくなった。いままでは30分番組が半日で録れていたものが3日間かかるとかね。3人が終わったら次の3人入れて、それが終わったら次の3人を入れてとかやっているわけです。

──何年も続くことではないにしろ、やっぱり大変な思いをされていると。

佐々木史朗氏

佐々木:当然「作り方を変えなければ」という意見も出てくるでしょうし、人力を減らすというのも方法かもしれないですけど、人力の良さというのはどうしてもあって、音楽なんかでも打ち込みの単純なリズムよりも、やっぱり抑揚のあるリズムのほうがいいみたいなところはあります。

例えば、フェードアウトだって、音量が単純に一定の速度で減衰していくのではなく、エンジニアのやり方によって「最後はねばって」とかあるじゃないですか? カメラワークもそうで、基本的に同じ速度でいっているわけじゃなくて、動き出しは力がいるから早くて、最後はゆっくりするとか、そういう人間のファジーなところを機械に覚えさせないと、面白いものはできてこないと思います。

──それもいずれAIが覚えて。

佐々木:そうですね、それは出てきますね。去年、『キャロルアンドチューズデイ』というテレビのアニメを作ったんです。これは音楽アニメで、未来の火星の話なんです。その時代では全てAIが曲を作っているという設定で、そんな時代にギターを弾いている女の子とピアノを弾いている女の子が時代遅れの人力で曲を作ってアピールしていくみたいな話で、「AIで曲を作るんじゃない面白さがあるんだ」みたいなことを表現したアニメを作ったんですよ。

──今話題になっているYOASOBIは、ボーカルを初音ミクに歌わせる代わりに生身の人間に歌わせたら大ヒットしたという、逆転の世界になっていますよね。やっぱり人間のほうがいいんじゃないかと。その作り方が、初音ミクが歌っているデモテープを受け取って、自分の歌を乗せ換えるという。で、聴き比べができるんですが、明らかに人間の歌のほうが素晴らしいんですよね。

佐々木:ボカロ以降、メロディが上下にいったりきたりで、歌うのが非常に難しい曲が増えたんですが、そういった初音ミクの曲が好きで、自分でカラオケに歌いに行くという子が増えて、そういう曲でも歌いこなせる人がどんどん出てきたんでしょうね。

──佐々木さんはこの先、日本のアニメをどういう方向に持って行きたいのでしょうか?

佐々木:持って行きたいと言えるほどの人間ではないんですが、今はやっぱり変化の時期と言いますか、チャンスのような気がするんです。コロナ禍というのもありますし、パッケージが売れなくなったという状況もありますが、逆に色々なことを新しくするチャンスではあるかなと考えています。

もちろん、巨大な力とお金をかけて作るものにはなかなか勝てないんですが、フライングドッグは「弱者の兵法」みたいなことをしていかないと勝てないなと思っていて、今はその「弱者の兵法」が活かせる世の中かもしれないなと。もしかしたらアイデア次第で、みんなが食いつくようなものができる時代なのかなという気はしているんです。それがつかめるかどうかは分かりませんが、決して今の時代も悪いもんじゃないなと感じています。

─ピンチだからこそ、斬新なアイデアが生まれてきたら面白いですよね。

佐々木:アニメの世界でもオリジナルビデオ(OVA)というのがすごく流行った時期があるんです。テレビでやるわけでもなく、映画でやるわけでもなくて、オリジナルビデオを買わないと観られないような作品ですね。なぜそれができてきたかというと、「テレビのアニメって時間と予算が足りなくて作りこめない」というアニメーターやクリエーターの不満があって、ビデオの場合は締切がないから思い切り作りこめるのと、マニアックなネタをいくらでも突っ込めるというので、OVAというのがものすごく流行ったんです。

でも、今度はOVAが流行りすぎてOVAだらけになってきて、年間何百本も出るようになってきてみんな飽きてきた。そうすると今度は「テレビで何か新しいものが観たい」と『新世紀エヴァンゲリオン』みたいな革新的な作品が出てきて、テレビの深夜でそういった完全に大人向けのマニアックなものをやるという1つの流れが生まれました。だから飽きられてくるとまた新しいものが出てくるんですよね。今もそういう意味ではちょうど過渡期で、新しいものが出てくるチャンスなんじゃないかな?という気はすごくしています。

──それはどんなものだと予想していますか?

佐々木:それは…わからないですね(笑)。でも、できれば世界中で受ける作品を作れたら良いなと思っています。それは今でも夢としてありますね。