第181回 TikTok Japan 音楽チーム シニアマネージャー 宮城太郎氏【後半】
今回の「Musicman’s RELAY」はユニバーサル ミュージック 岡田武士さんからのご紹介で、TikTok Japan音楽チーム シニアマネージャー 宮城太郎(みやしろ・たろう)さんのご登場です。
幼少期にお父様の転勤で数年間海外生活を送った宮城さんは、海外と日本のギャップに悩みつつバンド活動に邁進。大学時代、丸山茂雄氏の講義を受けたことをきっかけに音楽業界を志し、ソニー・ミュージックエンタテイメントへ入社。エピック洋楽やTKルームでの宣伝を経て、転職したエイベックスでは邦楽の制作や新規事業に取り組まれました。
その後、TikTokへ活躍の場を移し、音楽チームのシニアマネージャーとして音楽のプレイリストの管理やレーベル、事務所などと様々な企画を行っている宮城さんに今までキャリアからTikTokの今後までお話を伺いました。
(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦 取材日:2021年4月8日)
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第181回 TikTok Japan 音楽チーム シニアマネージャー 宮城太郎氏【前半】
ミュージックカードのピンチをGENERATIONSが救ってくれた
──ミュージックカードをやるきっかけは何だったんですか?
宮城:その部署は本来コンピを作る部署だったんですが、当時はもう「コンピを作っても売れない」みたいな状況で、それでもまだやっている人たちはいましたが「別の斬新なことを考えてくれ」と指示されまして、当時コンビニにぶら下がっているカードの中にアルバムみたいなものを入れたらどうなるのか? とチームで思いついたんです。
それで当時EXILEがベストアルバムを出すというタイミングだったので、U-NEXTさんにサーバを借りて、EXILEのベストアルバムをそこから落とせるコードだけついたカードをローソンの一万何千店舗に20万枚置いておいたんですが、お客さんがなんのことだか全然わかってなくて(笑)、5千枚ぐらいしか売れなかったんですよ。
──うわ…大失敗ですね。
宮城:もう大惨敗で「これでいよいよクビかな」みたいに思っていたんですが、GENERATIONSがピンチを救ってくれたんです。というのも彼らはよくハイタッチ会とか握手会をしていて、その握手をするためにはCDを1枚買わなくてはいけなかったんですね。そこでメンバー全員と握手をするためには、お客さんは同じCDを7、8枚買わなきゃいけない。その様子を見て「これをカードでやればいいのでは?」と思ったんです。
最初の1枚はCDが必要かもしれないけど、残りはカードで缶バッジなどをつけてあげて500円ぐらいで売ったらいけるんじゃないか? みたいな話をして、即売会用のカードを作って売ったら、徐々にそれが浸透して、即売会でみんな扱うようになり、なんとかEXILEの失敗を取り返しました。
──他のアーティストもやるようになったんですね。
宮城:最初は誰もやってくれなくて「なんだそれ」みたいな感じだったんですが、オリコンさんに行って「カードもCDと同じようにカウントをしてほしい」とお願いしたら、最初は「配信だからちょっと厳しい」みたいな話だったんですが、「一応カードだし物だからカウントしましょう」という話になり、シングルリリースのときにはみんな必ずやるみたいな流れができて、逆に依頼を断るぐらいの感じにまでなったんです。
──それってエイベックスだけがやっていたことなんですか?
宮城:最初はうちだけでしたね。そのうちレコチョクが目をつけて「そんなおいしい商売があるんだったらやろう」みたいな感じになっていましたが、僕たちのほうが先行した分メリットが若干あったので、他社の仕事も受けていました。そこはそこでまたうまく回っていったんですけどね。
──そのカードは原価がかからなくて儲かりそうですね。
宮城:はい。最初は自社のサーバーでやろうと思ったんですが、やっぱり開発費がかかるといって社内を説得できなかったので、そこはU-NEXTさんにお願いしました。U-NEXTさんにとってもいいビジネスだったんじゃないでしょうか。
──ちなみに宮城さんは人よりデジタル系が強かったんですか?
宮城:いや、全くそんなことはなかったですね。配信に強いとか、そういうわけではなかったです。
──でも、そのアイデアは生み出したんですよね。
宮城:もちろん僕だけが考えたわけじゃないんですが、協力してくれる人があのときに現れたのは非常に大きかったですね。最初のGENERATIONSについて「これでやりましょう」と事務所を説得してくれた後輩とか、周りの助けがあったから成功したと思います。
──ミュージックカードは何年ぐらい続いたんですか?
宮城:3、4年はやっていたような気がしますね。2013〜15年頃まででしょうか。ただ僕はやっぱり担当からはずれていくんです。一番大変な立ち上げをやって、仕組み作りもやり、その果実を採るところには参加できない運命にあるのかもしれません…(笑)。
──(笑)。結局エイベックスには何年いらっしゃったんですか?
宮城:ソニーよりエイベックスのほうが長くて、2005年12月から2019年2月までなので13年いましたかね。
──ということは、エイベックスのビルが新しくなってからもまだいらしたということですか?
宮城:新しいビルになって、半年ぐらいいました。こういう言い方をしていいのかわからないですけど、最後の2年くらいは個人的には干されているような感じでした。
──そうなんですか?
宮城:所属しているセクションはありましたけど、なんか身の入らない仕事をやっていましたね。自分自身も腐っていたような感じがします。
これからはTikTokのようなプラットフォームからヒットが出る時代になる
──そんな時にTikTokと出会われるわけですか?
宮城:そうですね。僕って大体上司とモメるんですよ(笑)。はっきり物事を言いますし、多分僕みたいな人間は生意気だと思われるので僕の評価はいつも低いです。
──上司にはいい顔されない?
宮城:いい顔されないし、気に入られてもいないので、評価も低いみたいな人っているじゃないですか。僕はおそらくその例に入ると思います。TikTokは「ミュージックチームを作りたい」ということで、海外の人材エージェントから話があって、最初の上司となるシンガポール人とリモートで面接をしたんですが、彼女とはすごく馬が合ったんです。僕はその人に「大体そういう感じで今に至るよ」みたいな話をしたときに「いや、面白いわね」って(笑)。「あなた向いているわよ、きっと」みたいな(笑)。
──ちなみに海外の企業を狙っていたんですか?
宮城:いや、そういうつもりもなかったんですが、僕はエイベックスで新人開発みたいなことが、もうできなくなっていたんですね。大手事務所に所属をしているアーティストしかデビューできないというか、そうじゃない人がなかなか出にくい状況になっていましたし、新人開発にお金を投資するというのも難しい時代の中で、「これからはTikTokのようなプラットフォームからヒットが出る時代になる」と2019年頃思っていたので、やってみたかったんですよね。
──そのときにサブスクも選択肢にはありましたか?
宮城:ありましたし、そういったサービスも好きだったんですが、サブスクよりTikTokに行きたかったですね。やっぱりサブスクは「プレイリストをどうやって作るか」とか「どこに置くか」みたいな聴きに来てもらわないといけないシステムじゃないですか。もちろんサブスクってそういうものだから仕方がないと思うんですが、「聴かせるまでのこと」はなかなかできないというか。TikTokはそれができると思っていました。
──ちなみにTikTokが日本でサービスを開始したのはいつ頃ですか?
宮城:2017年の夏からですね。
──宮城さんも早い段階からTikTokをチェックしていたんですか?
宮城:はい。干されて暇だからいろいろポチポチするじゃないですか(笑)。なので、そういう海外のニュースとかをよく見ていました。
──そして宮城さんは2019年2月にTikTokへ入社されますが、現在、どのようなお仕事をされているんですか?
宮城:僕が今やっているのは音楽のプレイリストの管理と、あとはレーベルさんとかと一緒になって、音楽関連のアーティストを起用した企画やライブ配信の企画、あとハッシュタグチャレンジの企画や歌唱動画の投稿を募集する「歌うま施策」なども音楽運営チームとしてやっています。
──先日、かなり年齢が上の人もTikTokを見ているというニュースを目にしたんですが、ユーザーの年齢層は広がっているんですか?
宮城:そうですね。結構、上の年齢の方々も増えてきていますね。また、ジャンルも非常に多様化しています。特に50代の会社役員の方とか、部長さんクラスが自社のPRや採用活動のために使ったりもしています。採用のために自らTikTokのトレンドにあわせた動画を投稿したり、会社を紹介をしたり。それを若い人たちが見て親近感が湧いて応募が増えたりもしているようです。
──資産運用の講座みたいなのをやっている人とか、色々な方がいますよね。
宮城:そういう面では、サービス開始当初はダンスやリップシンクの動画が多かったですが、そこからは大分コンテンツが多様化してきている印象はありますね。
──コンテンツは日々増えている感じですか?
宮城:はい。次から次へと多様な新しいコンテンツが生まれています。
多様なコンテンツがTikTokに集まりヒットの火種を作っていく
──先日、とあるレコードメーカーのベテランA&Rとお話をしたのですが、YouTubeでヒットさせるやり方はおおよそわかってきた。ただ、TikTokがまだわからないと。何がどうなっているのか、どうすればヒットするのか、その法則が見つけられないと言っていました。
宮城:その傾向と対策を練りたいという人は多いですね。僕ら自身もやっぱり新しい音楽をTikTokで発見することも非常に多いですし、ユーザーの方々に教えてもらっているんですよね。
──TikTok自体が目指していることは何なんですか?
宮城:音楽的に言うと、どこからでもどんなジャンルでも多様なコンテンツがTikTokに集まってきて、ヒットの火種を作っていく。そういったことを引き続きやっていきたいですし、多くのジャンルが入り切っているかと言われると、まだ一部のジャンルの方々は楽曲を入れることに対しても慎重ですし、アカウント開設となるともっと慎重だったりするので、もっとミュージシャンの方々が参加しやすいような環境を作っていきたいなと思っています。もちろんTikTokの全体像としては音楽だけじゃないので、さまざまなコンテンツが集まるプラットフォームを担っていくというのが大きなビジョンだと思います。
──その中でも、音楽の比重はやはり大きいですか?
宮城:はい。TikTokが音楽と相性のいいメディアであることは間違いないので、音楽は非常に重要な要素です。
──例えば、TikTokの動画を作るためのチームとか、それぞれのレコード会社の中に存在しているんですか?
宮城:それぞれのレーベルのみなさんがどういう感じでやっているかはちょっとわからないんですが、デジタルマーケティングの部署の方とかたくさんいるので、そういう人たちと日々連絡をとりあって打ち合わせはよくしていますね。
──TikTokの楽曲使用のベースにまずJASRACとの包括契約があるわけですよね。それと別にレーベルやレコード会社と原盤契約をする。この原盤部分が使えないと、カラオケにしても別音源にしないといけないみたいな縛りがあるわけですよね。
宮城:そうですね。そこはレーベルさんと直接の話し合いになります。
──つい最近、ソニーの邦楽5万曲が追加とニュースになっていましたね。
宮城:はい。やっぱり過去楽曲も掘り起こせる可能性がありますので。
──確かに、どの楽曲も掘り起こされる可能性があるわけですから渡したほうがいいですよね。ある日突然、埋もれていた過去のアーカイブから収益が生まれるかもしれないわけですよね。
宮城:もちろんそうなんですが、僕も契約部にいたときとかレーベル側にいたときとは、楽曲を渡す、ライセンスするみたいなことに結構抵抗があって、「これタダじゃないんだよ」とか思っていたりしたんですが、逆にプラットフォーム側になって、同じように今度は「タダじゃないんだよ」と言われる立場になって(笑)。
──(笑)。
宮城:「メリットしかないのになんでくれないんですか?」って今は思うんですけど、レーベルの気持ちも重々わかるんですよ。
──でも最近は「TikTok とはwinwinの関係になれる」ということをみなさん認識しだしたということですよね。
宮城:ありがたいことに。それまでは「音源を寝かせていてもしょうがないですし、僕たちはフル尺くれって言ってないじゃないですか」ってよく話をしていました(笑)。「60秒まででいいんですよ。試聴尺ってお金取っているんですか?」って、そんなやり取りをよくしていましたね。
──日本のレコード会社は大分参加しましたか?
宮城:もちろん、まだ参加されていないレーベルもありますが、割と参加していただけるようになってきたと思います。
──音楽業界としては、新しいアーティストを見つけるプラットフォームとして目を光らせているのと、自前のアーティストをプロモーションという2つの側面で色めき立っているわけですね。
宮城:色めき立っているかどうかはわからないですけど(笑)、プロモーション先のプラットフォームの一つとしてとらえていただいているという感じはありますね。
──ちなみにTikTok自体はどうやって収益を上げているのですか?
宮城:TikTokの主な収益源は広告収入です。広告主様からマーケティング費用をいただいて。見ているといくつか広告が入っていると思いますが、あの広告収入が主な収益源となっています。また、ハッシュタグチャレンジも広告メニューになっており、広告主様にご好評いただいています。もちろんユーザーの中で自発的に盛り上がる、いわゆるオーガニックなチャレンジもありますが、広告主様が商品をプロモーションするための有料のハッシュタグチャレンジもあります。
TikTokは常にアーティストになりたい人たちを応援するメディアでありたい
──日本におけるTikTokにとって過去最大の音楽的トピックスは何ですか?
宮城:やはり去年、瑛人さんとYOASOBIさんが紅白まで行ったというのは、一つの事象としてすばらしいことだと思いますね。
──あれはTikTokが無ければ世に出てない?
宮城:うーん、正直それはわからないですね(笑)。YOASOBIさんに関してはTikTokがなくてもいったかもしれないですが、瑛人さんはもしかして、なかったかもしれないですね。もちろん「確実にTikTokがやった!」みたいな感じではないですけど、なかったらどうだったのかな?という感触はあります。
──TikTokに類似するものっていろいろあると思うんですが、TikTok一番の特徴は何だとお考えですか?
宮城:アプリを開くと「おすすめ」というフィードに動画が流れてくると思うんですが、あれがTikTok最大の特徴の一つで、それぞれのユーザーが動画に対していいねとかコメントとか最後まで見たかとか、その人がどんな動画が好きかというのをTikTok独自のレコメンドシステムが判断して、好みに合わせた動画をおすすめするのでどんどん見続けちゃうという。
──やはりTikTokって撮影時間の上限60秒というのがポイントですよね。
宮城:最初は15秒からスタートしているんですけどね。その後、60秒になって。でも、瑛人さんの「香水」もフル尺じゃなくて30秒ぐらい使う動画が多かったですね。あと去年のTikTok流行語大賞に選ばれたひらめさんの「ポケットからきゅんです!」は、最初TikTokにサビだけ上げて、そこからフル尺をやったという。
──正直、今後どこまで盛り上がって、どういった影響力を持っていくのか、私なんかには想像ができない部分もあるんですが、ただ、すごいことになっていくんだろうなとは感じています。
宮城:ここ何年か年間チャートがあまり変わり映えしない年が続いていたと思うんですが、去年2020年に関してはそんなことはなかったんじゃないかなと思うんです。別にそれまでのヒット曲を否定するわけでもないですし、TikTokのお陰でとか言うつもりもないんですが、変化は起きたと思うんです。
──2020年は新しい才能が次々と出てきた印象がありますよね。
宮城:はい。そういう面ではいい時代になろうとしているんじゃないかなと思うんですよね。誰にでもチャンスがあって、実力がある人が発見されやすくなっているという。今も日の当たらない人って絶対いると思うんですが、場所さえあれば輝ける人が、発見される可能性がある時代になっているんじゃないかなと思いますね。
──あと過去の楽曲に再び光が当たる機会も増えましたよね。
宮城:そのケースも非常に多いですね。アメリカでも42年ぶりにフリートウッド・マックの音源がTikTok発信でビルボードチャートに入ったり。あれはおじさんがクランベリージュースを飲みながらスケボーしている動画にフリートウッド・マックの「ドリームス」が使われてバズったんですよね。
──びっくりですよね。「どうしてこれが今ヒットしているの?」って思いました(笑)。
宮城:あと、最近、日本のシティポップが海外で人気ですが、TikTok上でも非常に多く使われています。
──最後になりますが、宮城さんの今後の目標をお聞かせください。
宮城:やはりTikTokはアーティストになりたい人たちを応援するプラットフォームであるべきと思っていますし、自分も常に応援する立場になりたいと思っています。僕はレーベルにいたときに「自分はアーティストを育ててヒットを作れる人間ではない」と自覚していたんですが、でも応援をすることはできると思っていました。今後はTikTokで新しい才能を応援し、一人でも多くのアーティストが羽ばたいてくれたらと思っています。