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第187回 株式会社J-WAVE コンテンツプロデュース部長 渡邉岳史氏【後半】

インタビュー リレーインタビュー

J-WAVE コンテンツプロデュース部長 渡邉岳史氏

今回の「Musicman’s RELAY」はビクターエンタテインメント 鵜殿高志さんからのご紹介で、J-WAVE コンテンツプロデュース部長 渡邉岳史さんのご登場です。

学生時代、「人力車を引く」という一風変わった活動に熱中していた渡邉さんは、マーケティングへの興味などから1996年にJ-WAVEへ入社。以後、営業・制作・編成・イベント企画などに幅広く従事。2018年からはコンテンツプロデュース部 部長として番組制作を統括されています。

また、コロナ禍では音楽業界を支援する「#音楽を止めるな」や、J-WAVEを聴いている会社やお店を応援する「TEAM J-WAVE ACTION FOR TOMORROW」、また高輪ゲートウェイ駅前の「J-WAVE NIHONMONO LOUNGE」立ち上げなど、多くのプロジェクトを率いてきました。そんな渡邉さんにご自身のキャリアから、J-WAVEやラジオが直面する課題と未来について話を伺いました。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦 取材日:2021年10月12日)

 

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第187回 株式会社J-WAVE コンテンツプロデュース部長 渡邉岳史氏【前半】

 

「ラジオって一体なんなのか?」を分かってもらう努力

──ここにきてApple MusicやSpotifyといった音楽が無限に手に入るようなツールが一般的になった一方「今後、ラジオってどうなるんだろう?」と思うんですが、渡邉さんはどうお考えですか?

渡邉:議論として当然出てきますよね。「じゃあラジオって一体なんなの?」という価値をわかりやすく提示できていないと思うんです。だからその議論をもっとしないといけないと思いますし、きちんと分かってもらう努力もしないといけないとも思っています。

コロナ以降、ラジオ的にはすごくチャンスのはずで、悪い言葉のようにも言われていて本当はよい言葉だとずっと思っているのが「ながら聴き」なんです。若い制作者にも今は年齢性別関係なくみんなスマホを持っているんだからそれを前提に番組を作るべきだし、別になにかやりながらでも聴いてもらえばいいじゃないかと言うんですよ。

──「ながら聴き」でいいじゃないかと。

渡邉:ええ。セブンイレブン元会長の鈴木敏文さんが現役時代のインタビューで、日課はラジオを聴くことだとおっしゃっていたんです。自分にまったく関係ない話を延々としているんだけど、その中に自分の知らないこと、いわゆる自分の側近からは出てこないことを話してくれるのがラジオだから、移動中は絶対にラジオを聴くんですみたいに答えていて、すごくいいインタビューだったので「これ全員読め」って言っているんですよ(笑)。

でも「ラジオってながら聴きがいいんだよ」という風にしたほうがいいと思うんです。私が営業を担当しているときに「ラジオって誰が聴くの?」という話をクライアントにされたときに、いろいろな答え方はあるんですが、ラジオの体験でみなさん確実にあることって、たまたま聴いていて「これいい曲だな」と思った経験で、我々はその体験を多くの方にして貰いたいと思っていますし、情報に関してもそうしたいと思っています。ただ、ずっと耳がそばだち続けるわけではない。別にそれはしょうがないし、なんとなく耳なじみや感じがいいなだけでもいいんですが、3割ぐらいは意図的に伝わるようにしたいんです。

だから私が営業しているときに「適当な広告を入れるのはやめてください」とずっと言っていました。適当な広告を入れるとそれこそ引っ掛からなくなってしまう。やるんだったら音や演出をしっかり考えて、絶対耳に残るものを目指しましょうと提案していました。

──それは安っぽい広告じゃなくて、少年のとき渡邉さんが衝撃を受けた日清カップヌードルみたいな格好いい広告を作ってくれということですよね。

渡邉:まあ格好よくなくてもいいのかもしれないんですが、なにか引っ掛かるような広告にしましょうと。ぶっちゃけラジオCMなんて安く作ろうと思ったら、いくらでも安く作れます。BGMもなくて素人を使っておしゃべりだけでも成立はしますから。でも、それってやはり聴く人の心に響かないと思うんですよね。そこはきちんとやったほうが、我々もいいですし、スポンサーさんにとってもいいんですよ。

あとラジオCMってスキップしないんですよね。「コマーシャルだからトイレに行こう」という感覚は多分ラジオには存在しないんです。動画もそうですが「飛ばそう」「スキップしよう」みたいなのはないので、当たったら100パーセント当たるんですよ。

──なるほど。

渡邉:この媒体特性はすごく大きいです。ですから番組を作っているときもそうですが、100パーセント当たるがゆえに曲の選び方とかちゃんと考えないと逃げられちゃうんです。「なにか違う」と思われた瞬間に違うものに行かれちゃうという傾向があります。

──個人的にはサブスクって2時間くらい聴くと飽きてくるんですよね。それでradikoに戻して会話を聞いて、またサブスクを聴いてみたいな。

渡邉:なるほど。ミュージシャンの方が最近よくおっしゃるのが、サブスクだとアルゴリズムに基づいた特定のカテゴリーからしか音楽が流れなくなってしまうんだけど、ラジオだと「なんだこれ?全く知らない」みたいな曲が聴けるのはすごくメリットなんだと。その経験を「ながら聴き」を通していかにしていただくかというのが我々のミッションだと思うんです。

──渡邉さんは現在、制作の最終的な責任者なわけで、とても責任の重いポジションですよね。渡邉さんがなにを考えているかによって番組が全部変わっちゃうという。

渡邉:細かいところまではなかなか全部指示できないんですが、やはり方向性は今みたいな話ですよね。そこを意識して番組が作れるか作れないかというのはすごく大きいかなと感じています。

──事前に頂いた資料の中にradikoの年齢別聴取率がありますが、若者は圧倒的に低いですよね。

渡邉:一番のボリュームゾーンが40代50代で、一番ブランクになっているのが実は30代なんです。なぜかというとradikoができる前、いわゆるラジカセも消えかけていた時代が多分その世代なんです。だからその時代の新入社員が今30歳オーバーくらいで、広告代理店に行っても「ラジオの聴き方がわからない」みたいな人がいらっしゃいます。

──ラジオをなんで聴くのかがわからない時代がありましたよね。

渡邉:そうなんです。ですから30代が特に落ちて、逆に10代20代は少し戻っているんです。

──つまり今の30代というのは若いときにラジオ体験をあまり積んでない?

渡邉:してないですし、デバイスもなかったのが大きかったんじゃないですかね。あとテレビが大きな存在となっていた時代で、環境的に一番聴いていない。とにかく理由は明快にわかっているので、そういう人たちをどうしていくかという課題もありますね。

──親が興味ないと子供も興味を持たないじゃないですか? そうなると今30代の人たちの子供の世代も興味を持たない可能性がありますよね。この30代の問題をどう解決していこうとお考えですか?

渡邉:今おっしゃっていた、お子さんが生まれた直後って実はラジオというメディアは向いていると言われるんです。手が離せない状態になるので。あと精神的な面で「人の声」を求める傾向もあるので、そういった方々にきちんと刺さるようなコンテンツを出していくというのが30代をはじめラジオ経験の無い人たちへのプロモーションという意味では大事なんだろうなと思っていますし、番組作りの中で意識しています。あと番組を作るだけじゃなくて、聴くための分かりやすいきっかけを出してあげたほうがいいと思うんです。そういうタッチポイントっていくつかあるので、それが来たときにきちんと提供できることが大事かなと思いますね。

 

J-WAVEのリスナーを購買やイベントと結びつける

──傍から見ていますと、ラジオ局ってよくそんな巨大な組織を維持できているなと思ったりもするんです。

渡邉:本当ですよね(笑)。先ほど「スマホは当たり前」と申し上げましたが、最近は放送して終わりではなくて、番組で紹介したものが簡単に手に入るようになっています。イベントのチケットや曲だって買えますし、商品も売ろうと思えば売れます。ただショップチャンネルみたいなものじゃなくて、もっと感覚的に「これいいな」と思った情報が簡単に手に入るようなビジネススキームがこれまで以上にできるんじゃないかと思っているんです。

リスナーのデータを取るとJ-WAVEが好きな人ってみなさんのご想像の通り、少し感度が高い人が多く、今までこのデータは広告を獲得するために使っていたんですが、もっと違うことと連携させてもいいんじゃないかなと考えています。例えば、音楽やものを売ることに使っても良いでしょうし、あとイベント、ライブまわりと連携させることでできることもあるのではないかと思っています。

──その点、渡邉さんはイベント、営業、そして制作・編成も経験しているわけで、色々なことを多角的に考えられますよね。

渡邉:私はこのリレーインタビューのお話をいただいたときに「私でいいのかな?」と思っていたんです。なぜなら、私は音楽業界というより、どちらかというと企画屋の側面が強いからです。私的に期待されているのは、その企画屋みたいなところかなと思っていて、例えば、手前味噌になりますが、去年高輪ゲートウェイ駅の駅前にJ-WAVEがエンターテイメントレストラン「J-WAVE NIHONMONO LOUNGE」を作ったんですね。そのレストラン内にステージを作り最高の料理と最高のショーみたいなことをオリンピックまでの期間限定でやろうという企画でした。

──あれは渡邉さんの発案だったんですね。

渡邉:ええ。オリンピック前までの期間限定だったので今はもうないですけどね。なぜ、高輪ゲートウェイ駅ができたかというと、あそこはオリンピック会場への色々なバスの発着場だったんです。そこに東京で一番大きいパブリックビューイング場を作ることになり、オリンピックの2〜3年前ぐらいにコンペがおこなわれ、J-WAVEが興業権を獲ったわけです。そこでやったのが「J-WAVE NIHONMONO LOUNGE」で、高輪ゲートウェイ駅に来る世界中の人たちに向けて、色々な新人アーティストを紹介したかったんです。日本の音楽はベテランもいいけど、こんなに活きのいいアーティストたちがいっぱいいるんだと感じてもらいたかったんですよね。

──なるほど。

渡邉:本当は22:00からライブをやるつもりでいたんです。いわゆる食後だったり、オリンピックを観てきた後にライブを観てもらおうと。会場は高輪ゲートウェイ駅の前ですし、22:30、23時に終わったとしても電車はまだ動いていますし、そのくらいの時間ってみんなお酒を飲みつつ、いい音楽を聴きたいんですよね。併せて世界に向けて配信もしようと色々な仕掛けをずっと考えていたんですが、コロナが全て奪ってしまいました(笑)。

──コロナ以前は「東京のナイトタイムをどう盛り上げるのか?」みたいな議論が盛んにされていましたものね。

渡邉:そうなんです。まさにそこにハマる構図ですし、駅前ですから「これはいいや」と思っていたんですが、その計画はできなくなっちゃったんですよね。

──J-WAVEのイベントで言えば、この前「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2021 supported by CHINTAI」(イノフェス)をやりましたね。

渡邉:10月9日と10日ですね。テクノロジーと音楽をテーマにしたイベントで見逃し配信をやっていました。

──それは動画配信ですか?

渡邉:動画配信なんですが、すごくラフに言いますとテレビみたいな感じなんです。いわゆるARとかを入れているので演出がいろいろ成されています。宙に浮いている演出とか、そういった加工した映像が観られます。リアルで観るのとは違う演出が成されているものが観られるのは画期的かなと思います。

──それは面白そうですね。

渡邉:JーWAVEナビゲーターの川田十夢さんのユニットでAR加工ができるAR三兄弟が中心になってやっていました。アジカンのライブとかが分かりやすいのですが、曲に合わせてARで雨を降らしたり、スクリーンに映したものが飛び出してくるとか、これは未来があるなと思いましたね。

──「通りすがりの天才」のあの方がやったんですね。

渡邉:川田十夢さんは本当に天才だと思います。この手のやつをあっという間に作っちゃうので。ちょっと普通の配信じゃなくて、ひと手間かけているので観たくなるというか、実際に会場へ行った人ですら「配信でどうなるんだろう?」という楽しみがあるんですよね。そういったところは面白いんじゃないかなと思うんですよね。

──今後、ラジオ局も映像との関わりは多くなるんでしょうか?

渡邉:そうですね。すでに映像と連動しているコンテンツも多いですからね。「YouTubeでのちほど配信します」みたいな番組もありますし、それが割と評判が良かったりします。ですから映像に関しては否定しないです。よく「ラジオなのに映像ってどうなんですか?」みたいなことは言われるんですが、ラジオって身軽なので、別になにとでもくっつけられるんですよね。

営業に行ってお客さんになにをしたいのか聞くと、大抵ソリューションはあるんです。ただ全部の課題を解決しようとするとすごく大変ですしお金もかかりますから、「本当に足りないところはどこですか?」と追い込んでいくんですね。そうすると大抵のものはラジオってできるので、ラジオ局の営業はそんなに難しくないと思います(笑)。

 

J-WAVEの全番組を聴くことで正しく評価できる

──これはずっと思っていたのですが、J-WAVEって音がいいですよね。やはり音質へのこだわりがあるのですか?

渡邉:そうですね。長く聴けるように設定をしているはずです。時代とともにちょっとずつ専門の人間がやっていて変えているみたいですが。

──色々FM局はありますが、個人的にはJ-WAVEが一番馴染むんですよね。

渡邉:多分コンプレッサーのかけ方で変えているみたいなんです。だけど詳細は秘伝のタレと同じみたいな状態で、我々にすら分かりません。まあ聞いてもわからないから言わないのかもしれないですけど(笑)。

J-WAVEってコンセプトは変わっていなくて、先ほどの「ながら聴き」じゃないですが、とにかく長く聴いていただきたいという想いがあるので、長く聴いていてもなるべく疲れないようにしています。

──J-WAVEは最初からナビゲーターが格好良かったですし、今も格好いいですよね。

渡邉:ありがとうございます。そう言われ続けるように…誰かいい人がいたら教えてください(笑)。オーディションじゃんじゃんやりますので。よくJ-WAVEのナビゲーターの話になると「バイリンガル」というキーワードが出てくるのですが、我々は「日本語と英語どちらもネイティブに喋れる人」という条件にしたんです。英語だけできて日本語がちょっと変わった人はよくいらっしゃいますが、J-WAVEでは採用しないというのが開局のときからのやり方です。

──毎年ナビゲーターのオーディションはなさっていますよね。

渡邉:そうですね。今はその形を少し変えてきてはいるんですが、オーディションは常にやります。番組を考えるときってアイデアが先なのか人が先なのかというのはどっちもあるんですよね。ですから、そのどちらも探すようにしていかないといけないんです。「絶対にオーディションしろ」って若い社員の査定に私が入れているので、しなかったら如実に給料に反映されるんですよ(笑)。

──そうなんですか(笑)。サッシャさんとか最近はテレビにもたくさん出ていらっしゃいますし、J-WAVEから有名になる方がたくさんいますよね。

渡邉:そうですね。J-WAVEっていい意味でファミリー感があるんですよ。他局さんに比べると番組数もそこまで多くないこともあるからだと思いますが、J-WAVEって全部のことがわかっちゃうんです。誰がどんなコンディションなのかも出演者だったら大体全部わかるという。

あとナビゲーター同士、出演者同士が仲良くて、今はもちろんコロナですからないんですが、ナビゲーターの飲み会があるんですよ。我々はまったく入れてくれない(笑)。ですから、なにを話しているのかも知らないんですが、ナビゲーターのライングループも存在したりしていて、結束みたいなものはあるんですよね。

──ナビゲーター同士、仲良しなんですね。

渡邉:そうなんです。まあ、仲がいいかどうか見てないのでわからないですけど(笑)。

──(笑)。ちなみに渡邉さんは音楽を聴いている時間って長いんですか?

渡邉:今、私は番組の責任者になっているので個人的な音楽を聴く時間はなくて、ほぼ全番組を聴いています。番組の感想が社内外問わず入ってきますし、そこで「聴いてない」とも言えませんから。あと、番組の良くなかったところをSlackやLINEとかいろいろな手段で即指摘したり(笑)。厳しいかもしれないですが、それぐらいのほうが緊張感を持ってやれますし、今はコロナのこともあり多くの人数がスタジオにも入れなかったりするので、リモートで指示していますね。

──製品の工場長みたいですね。できあがってきた製品の出来を1個1個、リアルタイムで確認するというか。

渡邉:それもあって今は自分の好きな音楽とかはまったく聴く時間ないですね。

──では、放送している限り全部聴いているみたいな感じですか?

渡邉:家にいるときもよっぽど聴くテンションじゃないとき以外は大体聴いていますね。

──それは大変ですね。8時間以上は聴いているということでしょう?

渡邉:8時間どころじゃないです。起きているときはほぼ全部聴いていますから。あと、放送で何か事故が起きたり、地震が起きたら24時間電話が来ます(笑)。土日に電話が鳴ると大体不幸の電話で(笑)。

──心が休まらないですね…。

渡邉:休まらないです。ただ、あまり動じる方ではないので適任なのかもしれません。

──例えば、本だったら一気に飛ばし読みとかできますが、番組である以上は同じ時間ずっと聴いてなくてはいけないわけじゃないですか。

渡邉:それこそ「ながら聴き」みたいなこともしますが、なかなか難しいところはあります。私がちゃんと聴いていないと評価できないところもあるんです。いざ改編のときに「実際どうなの?」と。そういうのはやはり日々聴いていないと分からないんですよ。

──会社に行っても番組は聴いていなくてはならないし、自宅に戻っても聴いているということですね。

渡邉:そうですね。家で子どもがテレビを観ていても、一緒にテレビを観つつ、私はradikoを立ち上げて聴いていたり。邪魔にならないように(笑)。

──よく聞き分けられますね。

渡邉:おかげさまで2つ3つの音だったら自分の放送が耳に入る体にはなっていて、そこで違和感があるものや良かったものとか、本当に引っ掛かるものだけ引っ掛かりますね。打ち合わせをしていても「ん?今のなんかおかしくない?」っていうのは自然と分かるんですよ。

──ラジオを聴く体に進化しているんですね。

渡邉:ちょっと音楽をビジネスで聴きすぎているところがあるので、普通の気持ちでなかなか聴けないんですよね(笑)。特にポップソングに関しては聴きにくいというか、家でもう1回聴きたいけど仕事を思い出してしまうので(笑)。

 

新しい音楽やアーティストとの出会いをたくさん作りたい

──これからの音楽ビジネスやラジオに求められている人材はどういう人だと思いますか?

渡邉:「今の」という言い方をするとおじさんみたいで嫌なんですが、若い人たちは自由にやったり考えたりできない世代なのかなって思うんですよね。真面目と言えば真面目、いい子といえばいい子なんですけどね。なんかもう少し破天荒でもいいのにと思いますし、そういう人材がもっとJ-WAVEや番組の制作など関連するところに集まってくれればいいんですが、それこそ新興のネット企業だったり、あとPR会社とかに破天荒な人が行っちゃっているような気がします。ここ数年は新入社員の面接官なんかもやっていたんですが「他にどこ受けるの?」と聞くと、PR会社を筆頭に挙げる子が多いんですよ。

──PR会社って具体的にはどんな会社ですか?

渡邉:多分プラチナムや、私自身お付き合いの長いサニーサイドアップとか、「面白いことができる」と学生たちが思っているのがそういう企業なのかなと思うんです。そういう人材が我々のところに来てくれると本当はいいのにと思いますね。

あとレコード会社に関して言えば、それこそ鵜殿さんのように仲良くなれる人って、「会社の推しものはこれです!でもJーWAVEからヒットさせたいのはこっちのアーティストなんですよ!」と個人の意思がある人たちだったんですよね。そういった自分の本当に好きなものを売ろうとする人たちがもっと増えたらいいなと思いますし、そういった人たちの想いをどう受け止められるかというのが放送局としての課題かなと思います。

J-WAVEはそういう場であってほしいですし、レコード会社の人も自分の好きなものを推して「なぜかJ-WAVEはこれをよくかけるんですよ」って会社に言い訳すればいいじゃないですか(笑)。その方が上手くいったときにすごく楽しいと思うんですよね。そういうことができる場づくりを私たちしなきゃいけないと思うんですよ。

──またJ-WAVEでも平井堅さんみたいな人を発掘できたら素晴らしいですよね。

渡邉:これを偉そうに言ったことは1回もないですが、J-WAVEで平井堅を一番最初に推したディレクターって私だったと思うんです。当時、私はディレクターとして「TOKIO LIFE」という12:00から16:00までの生放送番組を持っていたんですが、「平井堅の『楽園』は長い曲だけど、1回かけてみようか」とかけたときに、しゃべっていた金子奈緒さんというナビゲーターが「楽園」にすごく反応したんです。それで「なんでそんな反応したの?」と聞いたら「これ、すごく好きだったんです」って言うんですよ。

──おお!

渡邉:すごく反応がよくて。彼女は木曜日だったんですが、たまたま金曜日担当の大槻りこさんというナビゲーターがスタジオの外にいて「私も好きなの!」って盛り上がりだして「なんだ、もっと早く言えよ!」と思ったんです(笑)。

──そういうのは早く教えてほしいですよね(笑)。

渡邉:本当ですよ(笑)。そうしたら、曲をかけはじめたのを境にオリコンチャートも少しずつ上がりだしたので、我々も面白がってずっとかけていたんです。そこから平井堅さんの楽曲が色々な番組でオンエアされるようになったんですよね。当時の平井堅さんって意外と隠れファンが多くて、曲をかけ続けたことによりそれを発掘できたんですよね。

──そうだったんですね。

渡邉:平井さんに言ったら怒られるかもしれないですが、J-WAVEが「楽園」をかけ続けたのが平井さんがブレイクするきっかけだったと自分の中では思っていますし、昔のディレクターはそういうことができたんですよね。ディレクター同士で結束して、意図的に、なんなら曲紹介すらしないで同じ曲をずっとかけたり(笑)。そうすると当時は問い合わせ電話というのがあって「鳴るかな?」と待ち構えていると、電話が鳴って何人か曲について聞きに来ると「やっぱりきた!」って盛り上がっていたんですよ(笑)。

──昔のほうが今より遊べていた?

渡邉:そういう意味では遊んでいましたね。

──J-WAVEで流れて知ることができた曲やアーティストってたくさんありますよね。

渡邉:やはりそういう出会いをたくさん作りたいと思っていて、現在、私発案で「SONAR TRAX」という新人アーティストを推す施策をしています。この「SONAR TRAX」では新譜から洋邦問わずに1か月20曲を全時間帯でオンエアしているんですが、まだ企画の打ち出しが弱いので、この半年ぐらいかけて強化していこうと思っています。

音楽ビジネスの形も変わってきていますし、J-WAVEは東京ローカルなのですが、「東京ローカルの特徴ってなんだろう?」と考えたとき、情報が集まりやすいし、新しいものを見つけやすいという面があると思います。J-WAVEはそういう放送局であり、自分の成功体験も含めて、メジャーなもの以外のアーティストを推していけたらと考えています。

もちろん、メジャーなものはメジャーなもののお付き合いの仕方をすればいいと思います。全国に行きたがっている人を後ろから抱きしめていたってうっとうしいだけですしね(笑)。ただ、関係が切れるわけじゃなくて「年に1回ぐらい面白いことをやりましょう」というお付き合いがきちんとできる関係値を作るには、やはりゼロのところからしっかり応援することは非常に大切だと思います。そして応援したものが巣立っていったら、今度はそういう関係に切り替えるというのでいいんじゃないかなと思っています。

──局をあげて新しいアーティストを発掘しようとしているわけですね。

渡邉:メーカーさんもそこを一番望んでいたりもしますし、リスナーにも「J-WAVEだったらなにか面白いものがかかる」と思って選局していただきたいですよね。もちろん面白い音楽はSpotifyからも流れているのかもしれませんが、J-WAVEはきちんと解説していますし、そのアーティストへの理解がより深まると思います。

──結局自分で選べるということは、似たようなものしか聴かないという側面もありますしね。

渡邉:そうなんですよね。ですから、J-WAVEはその1個上を行きたいですし、それはラジオ局の使命だと思います。

──「これ知らないよね」というものを教えてくれるという。私もJ-WAVEで聴いて「格好いいな」と思って、アルバムを買った記憶があります。そういうアーティストは多分ラジオを聴いていなかったら一生知らなかっただろうなと思います。

渡邉:自分がディレクターをやっているときにこだわりを持っていたのは、どんなに1曲がよくてもアルバムがダメだったら私はかけませんでした。アルバムを買ったあとに同じ体験をしていただきたいので「買ってよかった」と思えるものじゃないとダメだなと思ったんですよね。

また、いい曲をリスナーに聴いてもらうだけではなくて、J-WAVE自体からも発信しないといけないと思います。例えば、今、私が着ているTシャツは、J-WAVEがやっている「#音楽を止めるな」というキャンペーンで、チャリティーで作ったものです。私は音楽業界やアーティスト、もちろんリスナーの人たちが今どういうものを望んでいるのか、どういうアクションをするといいのかということは常に意識しています。ちなみにこのチャリティーの収益はコロナ禍で苦しんでいる各ライブハウスにお渡ししました。

──「#音楽を止めるな」は、かなり早い段階から動いていましたよね。

渡邉:そうですね。去年3月の中頃にはやろうと決めて始めました。J-WAVEも3月頭に毎年恒例の「TOKYO GUITAR JAMBOREE」というイベントで両国国技館を2日間押さえていたんです。奥田民生さんや斉藤和義さんとかが出演予定で、チケットはほとんど売り切れていたのに、しかも年度末にイベントが飛ぶという…(笑)。そういった経験を自分たちもして「これはヤバイ」と思ったんですが、ヤバいヤバいと言っていても仕方がないので、3月の連休前ぐらいには「#音楽を止めるな」を考えていました。

──早かったですね。

渡邉:早かったと思います。やはり、なにもしないで放送をしているのにちょっと耐えられなかったんですよね。ストリーミングと違って放送局は人がしゃべっていますし、そのしゃべる人も「みなさん大丈夫ですか?」としかしゃべれないときに、前向きな話をするためのネタを作るのが我々の仕事だと思っています。

──多分、コロナ禍以降、圧倒的にラジオや音楽を聴く、あるいはYouTubeを観るという時間はみんな増えていると思うんです。

渡邉:ただ「増えている」ということに慢心しないできちんと価値を提供できるかが我々の今後の課題だと思います。まだまだできていないと思いますし、もっと全体的に意識を高めてやっていかないといけないなと強く思っています。

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