メタバース内の文化都市開発を行うMetaTokyoの次世代ストーリーテリング〜ParadeAll 鈴木貴歩氏&アソビシステム 中川悠介氏インタビュー
アソビシステム、ParadeAll、Fracton Venturesの3社は、NFTを活用したオープンメタバース上に“グローバル文化都市トーキョー”を創り出し、国内外の様々なクリエイター、パートナー企業と事業展開を行う世界初のプロジェクト「メタトーキョー」(MetaTokyo)を推進する合弁会社MetaTokyoを2月1日に設立した。
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世界的なメタバース、NFTの盛り上がりと日本文化、エンタテイメントを掛け合わせ、日本のIP、カルチャー、エンタテイメントなどの芸術文化活動、資産をグローバルに発信し事業化する可能性に着目し、同社は今後、国内外のIP、ブランド企業、地方自治体などとの取り組みを推進していくという。
今回はMetaTokyo 代表取締役CEO 鈴木貴歩氏(ParadeAll 代表取締役)と同社CCO 中川悠介氏(アソビシステム 代表取締役社長)にMetaTokyoの目指す未来と、メタバースやNFTに代表されるWEB3.0の可能性について話を伺った。
MetaTokyoを通じてクリエイターと世界が繋がる
──最初にMetaTokyoとはどういった会社なのかご説明いただきたいのですが。
鈴木:MetaTokyoはアソビシステムとParadeAll、Fracton Venturesの3社で2月1日に設立した会社です。今年になってからNFT、メタバース、あとWEB3.0というブロックチェーンを基軸にした新たなインターネットのあり方がエンタテインメント業界でもキーワードになっていまして、自民党や政府のワーキンググループなどでも、キーワードとしてそれに関わる起業家育成や環境の構築について議論されています。そういった、今のトレンドと、TOKYOやジャパンカルチャーが元々持っている強みを組み合わせてグローバル文化都市を作ろうというのがMetaTokyoのコンセプトです。
MetaTokyo設立のバックグラウンドとしては、プラットフォームに縛られずにクリエイターや表現者が自分たちの意図のもと自由に表現を行いそれがエンタメビジネスとして開花している流れと、もともと中川さんたちがずっとやってきたクリエイターの自由な世界観から生まれるクリエイティビティが非常に合うという話から始まりました。
例えば、藤原ヒロシさんやNIGOさん、当然きゃりーぱみゅぱみゅさんなど、世界で活躍している方たちは、何かのきっかけで世界と繋がる前は、クリエイティビティを内に秘めた普通の若者だったと思うんです。もちろん今でもそういった若者は日本中にいると思いますし、彼ら、彼女たちをMetaTokyoやWEB3.0を通じて世界と繋げることができれば、次世代の東京カルチャーを担う方たちが出てくると思うんです。
──しかも、今は昔以上に世界と繋がる可能性が高いですよね。
鈴木:非常に高いと思います。MetaTokyoは、仮想空間に作られたのは文化都市で、東京カルチャーとその未来を担うクリエイターや企業がグローバルに活動する拠点という位置付けです。
MetaTokyoでは3つのヴィジョンを掲げていまして、1つ目が「デジタル上の文化都市の創出とエリア開発」です。今から渋谷区や港区の土地を買うのは難しいですが、メタバースの土地だったらまだ買えるので、そういったところへ投資し、カルチャーを中心とした都市を作ります。
2つ目が「NFTを活用した日本からグローバルへのデジタル文化輸出」です。NFTの広がりは世界規模になっていまして、すでに大きな経済が動いていますが、コロナ禍のインバウンドがない、アウトバウンドもなかなか難しい中で、NFTを通じた文化輸出というのは非常に可能性がありますし、今後、人口が減っていく日本にとっても、さらに可能性があるものだと思っています。
3つ目が「TOKYO発のグローバル・クリエイター・エコノミーをWeb3.0で実現」です。ここで言うクリエイターというのは、アーティストやイラストレーターだけでなく、例えばマインクラフト(Minecraft)で建物を作るのが得意な子どもたちや、今まで自分たちが表現しているものはお金にならないと思っていた人たちも、メタバースやNFTを活用することで、評価されるようになってきているんですね。去年も8歳の子どもが描いた絵がNFTで売れていて、今年はもうすでに日本橋三越店で個展を開くまでに至った事例があります。
──いきなり経済圏に繋がる感じがすごいですよね。
鈴木:これからもどんどん起こると思いますし、そういったことをより起こしやすい環境になるんじゃないかと考えています。
──現状、MetaTokyoはどのプラットフォーム空間で活動しているんですか?
鈴木:いわゆるメタバースというのはいくつかあるんですが、その中のディセントラランド(Decentraland)というところに、まず土地を買うところから始めました。このディセントラランドは、ブロックチェーンを活用したオープンメタバースです。例えば、フォートナイトでライブをやろうとしたとき、フォートナイト側がOKと言わないとできないんですね。
──フォートナイト上で自分たちの好きなようにはできなかった?
鈴木:でも、このオープンメタバースの場合はブロックチェーン、いわゆるNFTで土地を買いさえすれば、その土地のなかで何を建てて、そこでどんなアクティビティをやるかというのは、基本的に自由なんです。ですから僕らはこのオープンさに可能性を感じて、ここに土地を買い、いろいろなアクティビティをやらせていただいています。今、体験できることは、クラスターやバーチャル渋谷、バーチャル原宿がやっているプラットフォームと大きくは変わらないんですが、なによりもそこで経済が動くということが大事で、土地の売買もさることながら、例えば、衣服や靴も売買できるので、こういったところで収入を得ることも可能です。ちなみにRTFKTというNFT/メタバース専門のファッションブランドが3年前ぐらいにできたんですが、彼らの新世代のクリエイティビティからすごく人気が出て、去年の年末にナイキに買収されたんです。
──それはすごいですね。
鈴木:また、メタバースの中にNFTのミュージアムがあるのが常識になってきました。デジタルアートって観るところを準備するのがなかなか難しいんですが、メタバースの中に作りさえすれば、世界中から観に来られますから、そういったミュージアムが増えています。もう1つは、空間デザインに注目しています。増田セバスチャンがプロデュースしたKAWAII MONSTER CAFEのような日本人クリエイターならではの、ぶっ飛んだ世界観と言いますか、僕は「想像力の開放」と言っているんですが、そういった「想像力の開放」がメタバースの中だともっとできます。なぜなら消防法もないですし、建築基準法もないので(笑)、そういった日本人クリエイターの特性をもっと生かせるのがこのメタバースだと思っているので、そういった空間をどんどん作っていき、それ自体を販売したりスポンサーをつけるようなビジネスを加速させたいと思っています。
──ちなみにディセントラランド内の構築って特別な技術が必要だったりするんですか?
鈴木:いえ、各プラットフォームにビルダーというツールがあって、これ使うと比較的簡単に作れるんです。それこそゲームのマインクラフトなんかと一緒で、子供でもできると思います。
MetaTokyoは2月1日に法人化したタイミングで、日本におけるメタバースクリエイターの第一人者であるMISOSHITAさんをChief Metaverse Officerとして迎え、チームの中心になっているところが強みになります。
メタバースのカルチャーから街を作るという発想
──先ほどメタバースの土地を買ったとおっしゃっていましたが、もともとの土地の所有者はディセントラランドになるんですか?
鈴木:そうですね。ディセントラランドは2年前にできた会社で、仮想不動産プラットフォームみたいなものを作り、2021年初めには9万区画あったんですが、その9万区画を第1次分譲で全部売り切っちゃったんですね。今はそのときに買った値段より高い値段で、持ち主たちがどんどん売り買いをしているような状況です。ですから基本的に今売られているのは二次売買で、僕らも二次売買から買いました。
──ディセントラランドの土地というのは、何が優れているんですか?
鈴木:アバターや土地などをNFTとして売買できるプラットフォームには、もう1つサンドボックス(The Sandbox)というのがありまして、それはどちらかというとマインクラフト的と言いますか、8ビットとかレゴブロックみたいなクリエイティブなんです。僕らもディセントラランドとサンドボックスの両方を知っていたんですが、やはりカルチャーや音楽ということを考えると、ディセントラランドぐらいの表現が欲しいということで、ディセントラランドを選びました。ただ、例えばゲーム会社として有名なアタリはサンドボックスのほうが世界観が合っているので、サンドボックスに結構な土地を持っています。
──フェイスブックがメタと社名を改めてメタバース参入を宣言しましたが、まだそのメタバースはないんですか?
鈴木:Horizon Worldsというメタバースを提供していますが、社名を変更したときにプロモーションビデオを公開しているような機能を持ったものはまだできていません。その中ではNFTとしてものを買ったり売ったりみたいな世界観は踏襲しているので、恐らくサンドボックスやディセントラランドに近い世界観になってくるんじゃないかなと思っています。
──今後、メタバースが世界的な投資先になる可能性が高い?
鈴木:おっしゃる通りです。あと僕たちは「グローバルネイティブ」を意識していて、日本にはNFTを活用したメタバースがまだないというのもあるんですが、世界中からアクセスできるメタバースの特性やNFTの可能性を考えると、グローバルなプラットフォームでグローバル向けにやりたいと思っています。その方がこれから5年10年と考えたときに、一番レバレッジが利くと考えています。
──最初から世界に向けて発信していこうと。
鈴木:また、デジタルツインの発想で、実在の都市を作るやり方もいいんですが、メタバースの中の新しい独特なカルチャーをリスペクトして、むしろカルチャーから街を作ったほうが面白いんじゃないかなと思っています。
──カルチャーから街を作るという発想は非常に面白いですね。
鈴木:例えば、ディセントラランドの中の建物ってみんな壁がないんですよ。まあ壁がなくても強度的に・・・そもそも強度という概念自体がないんですけどね(笑)。
──(笑)。
鈴木:壁がないから「何をやっているか」というのが歩いているとちょっと見えるんです。そういったカルチャーとかナラティブって、現実と全然違うものなので、この新しいカルチャーから街を作っていったほうが、すごく楽しいんじゃないかなと思っています。ちなみにディセントラランドの中にも、海外の会社が作った「metajuku」という謎東京エリアみたいなのがあって(笑)、なぜか見た目は原宿や秋葉原が合体したような感じなんです。
──ハリウッド映画に出てくるような、ちょっと間違った日本みたいな感じですね(笑)。
鈴木:そうです(笑)。そういうものがすでにできているので、これはちょっと放っておけないなって思うんですよね。なぜならそっちのほうが流行っちゃったりする可能性があるので。
──それはちょっと怖いですね(笑)。
鈴木:そういうのは嫌だなと思っています。とはいえ、それを僕らだけでできるとも思っていないので、やはり国内外のクリエイターや企業とコラボレーションしたいですね。
──すでに行われているコラボレーションにはどんなものがありますか?
鈴木:ひとつはジェネラティブアートというNFTのアートがありまして、これはコンピュータプログラムでその人それぞれのユニークな模様を生成するというアートで、2時間で1万体が完売したそうです。
──1万体はすごいですね…。
鈴木:多分、日本で一番成功しているNFTのプロジェクトなんですが、彼らとのコラボで「SPACE by MetaTokyo」というギャラリーを作り、MetaTokyo PassというNFTを売らせていただきました。このパスは1枚1万円ぐらいで売り始めたんですが、すでに限定100枚が全部売り切れました。
──MetaTokyo Passとはどういったものなのですか?
鈴木:MetaTokyo Passは動画のNFTなんですが、MetaTokyo Passを持っていると自動的に「持っている」ということがブロックチェーンで認識され、これを持っている人だけが入れる場所やイベントをメタバースの中に作れるんです。そこでコミュニティを作り、活性化させることで、MetaTokyoという都市を盛り上げていこうと思っています。
そして、セカンドプロジェクトはアソビシステムとも繋がりの深い原宿ストリートカルチャーということで、90年代、00年代に世界に影響を与えた雑誌『FRUiTS』とコラボして、創刊号から7枚の写真をピックアップしNFT化して、日本のマーケットプレイスでは売らずに、世界のアート系に特化している「Foundation」というマーケットプレイスで売りまして、3日で7点すべてがソールドアウトしました。
──全部でおいくらだったんですか?国内だけでなく海外からも購入されたのでしょうか。
鈴木:世界中から買い手がついたということです。全部で150万円ぐらいです。昔創刊号に掲載された写真、それらをNFT化することによって新たな価値が付きました。これは単にデジタル化しただけではなく、当時のフィルムをスキャンしたデータをそのまま使い、当時の空気感をそのまま表現するという手法を採用したので、掲載された写真とは違うものです。
小規模でも経済圏として回るのがWEB3.0の面白さ
──ディセントラランドに参加している日本人というのはどのくらいいるんですか?
鈴木:日本人という区分けでは何人かわからないんですが、ディセントラランド自体のMAU(Monthly Active Users)が大体30万人と言われています。ですから、すごく大きくはないんですが、人が多くなくてもそこに経済価値を感じてくれて、お金を払ってくれる人がいれば、経済圏として回るのがWEB3.0やNFTの面白さだと思います。WEB2.0と呼ばれているフェイスブックやグーグルみたいなプラットフォームのように、とにかく無料で見せて広告でマネタイズするというやり方だと、とにかく人を何億も集めないといけないんですが、それとは全く違う世界観なんですよね。
──ちなみにMetaTokyoでは音楽に特化したものを作ろうとか、そういうことではないのですね。
中川:エンターテイメント全般ですね。もちろん音楽もやろうと思っていますが。コロナ以降NFTがブームになる中で、結局NFTってファンビジネスの延長線上でしかないなと思っていて、このままだとファンからお金をいくら貰うとか、そういう話になってしまうと感じていました。
──ファンが買って終わりになってしまうと経済圏が広がらないですよね。
中川:今、日本でNFTを販売しても多分ファンしか買わないと思いますし、二次流通にならないでしょうから、それではあまり意味がないと思っていたんですが、それがWEB3.0やメタバースの概念になると、さきほど鈴木さんが「国籍がわからない」とおっしゃっていた通り、メタバースにはどこの国の人かわからない人たちが30万人いるわけで、アーティストを知ってもらうきっかけになったり、新しいファンを作るきっかけ作りもできるんじゃないかなと感じています。
──単に今までの既存のファンにNFTを販売することで高単価を追求するだけでは、広がりがないですよね。
中川:それだけになっちゃうと良くないなと思いましたし、やはりファンを増やすこともやっておかないといけないと思うので、その方向性ですね。
──30万人の属性まではわからなくとも、そういう空間にいることが好きということは分かりますよね。現時点ですでにこの空間に来ているということはオピニオンリーダーとなるような方や比較的自由に使えるお金を持っている方もかなりいらっしゃるということかと。
鈴木:そうです。世界中のこういったものが好きで、しかも仮想通貨とかにも慣れている人というところがあるので。ですから、先ほどのNFTのプロジェクトチームとコラボすることで、そういう人たちが集まってもらえると、僕らも新しいファンにリーチできます。
──例えば、きゃりーぱみゅぱみゅさんがメタバースの中で音楽を発表したり、NFTでものを売り買いしながら、様々な交流ができると。
中川:はい。あとライブだったりとか、そういう場所としても使えると思っています。
鈴木:ライブに関しては、ディセントラランドの運営が自分たちでプロデュースした「メタバースフェスティバル」というフェスが昨年あって、ヘッドライナーにdeadmau5などが出ていました。
──メタバース上って音楽著作権はどうなっているんですか?
中川:音楽著作権は全然整備されていないと思います。
鈴木:JASRACやNexToneからの許諾が必要です。
中川:そもそもメタバースにはJASRACの概念自体がないと思いますけどね。
──そうですよね。というか、それこそアーティストやクリエイター本人と直接やればいいですもんね。
中川:そうですね。いわゆる元栓処理的にしたほうがいいかなとは思っています。
──なるほど。つまり、作品の発表や売り買い、ライブなど現実空間でやることは、なんでもメタバースで置きかえることができるということですか?
鈴木:もっと言えば、現実以上に違うことができるということですかね。
──確かに現実をそのまま置き換えても、あまり面白くないですよね。
鈴木:面白くないです。例えば、このディセントラランドの中で大きなイベントがあると、「人間大砲」という定番の出し物があるんですよ。大砲にアバターが乗ると、ドバーンと打ち上がるんです。
──(笑)。
鈴木:それで打ち上げられているときに下とかを見ると景色が見えるという(笑)。これはなかなかリアルではできないですよね。でも、打ち上げられて見ると「ちゃんと空間ができているんだ」と分かるんですよね。
──これって凝り始めたら止まらなくならないですか?
鈴木:止まらなくなると思いますね。例えば、物販エリアで帽子やTシャツが50MANA、MANAはディセントランドの仮想通貨ですが、日本円ですと約17,500円で売っていて、買うとすぐに被れるんです。
──それはまた誰かに転売できるわけですよね。ここで利益を得るには値段が上がりそうなものを安く買うとか。
鈴木:できます。そういうパターンもありますし、単純にアイテムを身につけて楽しむとか。あと仮想通貨の取引で勝手に値段が上がった分をNFTに回すような人も多いですね。
NFTとメタバースの組み合わせから生まれる様々なマネタイズの可能性
──すでにプロダクションやレーベルなどからの相談はあったりしますか?
中川:もちろんプロダクションからの相談はありますし、総合的にNFT、メタ、WEB3.0とかをコントロールできる人がすごく少なくて、コンサル的に動けるチームもいないので、その需要はすごく感じています。あとは「メタバースで何かやりたいんだけど」という話は多いですね。
──最初は何をしていいのか分からないですよね。
中川:そう、何をしていいのかわからないんです。僕は、メタバースってリアルにやっているアーティストを売るというストーリー作りと同じことだなとすごく感じたんですが、それって日々常にやっていることなんですよね。ですから、それをメタバース上に移すというだけかなと思っています。
──例えば、全く実在しないアーティストもできちゃうわけですよね。
鈴木:実際にNFTから生まれたバーチャルアーティストみたいな流れも起こり始めています。
──あとDJカルチャーとも相性が良さそうですよね。
鈴木:ええ。自分たちの遊び場を作るDJというのが、今後メタバースで出てくると思いますし、あと仮想通貨を賭けられるカジノがあって、そこで結構DJパーティとかが行われています。あとイビサ島で有名なクラブ「アムネシア」もすでにあります。
──クラブを仮想空間でやりたい人もいるでしょうけど、リアルではありえないぐらいの照明・レーザーや、建築空間が可能なわけですよね。
鈴木:そこが面白いところだと思いますね。僕は中川さんみたいに、リアルの体験の場を作って来た人が、メタバースに可能性を見出してくれたというのが、すごく面白いんです。やはり今インバウンドやライブエンタメの出口がなかなか見えませんし、継続的に海外でツアーをするとか活動自体が難しいと思うんです。でも、メタバースはそういったところの対応策にもなると思いますし、新たなコミュニティも作ることができると思います。
中川:先ほど話に出た雑誌『FRUiTS』って今休刊していますが、それをNFTで売ることによって、再びリアルな雑誌を出せる可能性も出てくるわけじゃないですか?ですからリアルかメタかじゃなくて共存することは絶対に必要ですし、そもそもリアルがなければメタもないし、メタがなければリアルもないという。僕はメタだけ、リアルだけじゃないかけ算だと思っていて、その先にマネタイズだったり、新しいチャレンジができるポイントがあるんじゃないかと考えています。
鈴木:現在、音楽流通がストリーミングを通じて世界的になったとはいえ、そこから出てくるお金は短期的にはまだ限られていますし、原盤や出版でしかマネタイズできないと考えると、メタバースだったら例えば「FRUiTS」の写真集みたいな形で、音楽アーティストの写真をNFTとして売りながら展示するみたいなことができます。そういった様々なマネタイズの可能性が出てくるのが、NFTとメタバースの組み合わせで実現できると思います。
──過去のコンテンツの有効活用もできますよね。
鈴木:過去のツアーパンフをメタバースで売ったりとか、ツアー写真を展示しながら販売することもできます。販売だけだと買った人しか楽しめませんが、展示をすればファンのみなさんが来て楽しめる、それってアーティストにとっても大事なことだと思うんですよね。
──まずはみんなに観てもらえることが大事ですし、それ自体が「体験」になるというのが一番のポイントですね。
鈴木:そうなんです。ですからMetaTokyoとしても、このディセントラランドではそういったことをやっているんですが、次の段階としては、先ほどお話ししたサンドボックスや、他のメタバースでもどんどん活動を行っていこうと思っています。
──MetaTokyoはプラットフォームフリーであると。
鈴木:そうです。例えば、あるアーティストさんと組むとして、そのアーティストさんの表現と、あとファンに対して一番いいアプローチはなにかプラットフォーム選定も含めて全てプランニングする形ですね。
──やはり色々な選択肢があった方が良いですよね。
鈴木:最終的にファンに喜んでもらえるのがベストです。
中川:そう考えると、我々MetaTokyoの立場はストーリーテリング、プロデュースなんですよね。
鈴木:何よりストーリーテリングですね。アメリカのウォルト・ディズニー社がメタバース戦略の責任者を任命したというニュースが流れていて、そこの部署名が「Next Generation Storytelling and Consumer Experiences」という名称なんです。やはりストーリーテリングをしながら新しい消費体験を提供するのがメタバースと彼らは定義していて、まさにその通りだなと思います。
──鈴木さんと中川さんがおっしゃっていることと一致しますね。
鈴木:ディズニーが具体的にどういうことをやろうとしているのか、僕らはまだわからないんですが、その意味合いとしては、我々と同じですね。
中川:NFTとメタって、話がすごく広がっていて、最初は「なにをするんだろう」「どうしたらいいんだろう」と思うんですよね。でも、ストーリーを作って場所を作ったときに、「これってリアルと同じことなんだな」ってすごく分かるんです。今まではストーリーがなかったので、NFTとかメタバースという言葉だけが一人歩きして、みんな混乱しているだけなんですよね。自分もやってみて思ったんですが、ストーリーメイクをすることで一気通貫できるんだなということがわかるんですよ。
──ストーリーを基に様々な概念が繋がっていくと。
中川:よくセカンドライフなんかと比較されるんですが、メタバースはその先を行っているなと思うのが、メタバースってひとつのサービスに依存していないんですよね。ひとつのログインで同じサービスしか使えなかった時代から、ひとつのサービスに依存しないのがWEB3.0の面白さなのかなと感じています。
アーティストを作っている立場として、やっていることはずっと一緒です。アーティストがどういう音楽を作ってどうやって売っているかということを考えることと、今回メタやWEB3.0という考え方は同じなんだと、すごくしっくりきているんです。音楽業界の人ってどうしても新しいものに対してちょっと構えるというか、その塀の中に入ることへの抵抗感みたいなのがすごくあるじゃないですか?もちろんそれは僕にもあったんですが、今回のMetaTokyoでそれはなくなりましたね。
──まだ拒否反応があるところも多いでしょうね。
鈴木:実際にやっていただければその面白さというか、可能性はすごく感じていていただけると思います。よくVRゴーグルが必要なの?と聞かれるんですが、そもそもメタバースというキーワード自体の流行は、フォートナイトのトラヴィス・スコットのライブから始まっているんですよね。あれはスマートフォンやタブレット、PCから体験できるもので、すごく分かりやすかったですし、どちらかというとそれがテック業界に広がったみたいな流れだと考えいて、今回は逆のコースだと思うんですよね。
──なるほど。テックから音楽ではなく、今回は音楽からテックの流れだったと。
鈴木:ジャスティン・ビーバー他の欧米のアーティストはメタバースを積極的に取り入れてきていますから、日本でもこれからだと思いますね。メタバースやNFTに関して、業界内も2022年から「うちもそろそろやらなきゃいけないな」というテンションにすごく変わってきていて、もうやることが前提みたいになっています。
中川:僕らも先手必勝だと思ったので、もうスピード感のみです。他の業種に比べて音楽業界は新しいことに対するスピードが鈍いと思っているので。あと業界的にも権利を守る時代から使って稼ぐ時代に変わってきているじゃないですか?そういった機運も大きいと思います。
──CDを売る権利を主張していればきちんとお金が儲かった時代ではなくなってきているわけですしね。
鈴木:それも引き続きやりつつでいいと思うんですよね。当然いろいろなストリーミングもやりつつ、NFTやメタバースという新たな活動をすれば、プラスアルファになると。もしかしたら後者が主流になる可能性もなくはないと思いますし、僕らはそれも1つ夢見ながらやっています。何かが何かをディストラクトする、というわけではないと考えています。
WEB3.0のようなフラットな感覚でアーティストや企業と関わりたい
──MetaTokyoは、デジタル側の人だけのビジョンじゃなくて、アーティストを現実に作っている、売っている中川さんみたいな方が直接参加しているのがすごく大きいと思うんですよね。
中川:僕はその可能性を強く感じているんですよ。
──ただ、デジタル業界の人からいくらそう言われても「俺たちはどうせ関係ない」と思う方も音楽業界にはいると思うので。もちろん年齢にもよるのかもしれませんが。
鈴木:僕はテック企業のエンタメ新規事業のアドバイザーもするんですが、音楽系へのアプローチのアドバイスとして最初に言うのは「音楽業界やアーティストに携わっている人が喜ぶポイントは2つだけ。「いままでにない売り上げが立つ」か「ファンが喜ぶ」か。この2つさえ抑えることが何より大事」で、この「ファンが喜ぶか」というのが、テック企業がなかなか実感を持てないところ。1つ目の「いままでにない売り上げが立つ」を追求すると、既存のファンとのビジネスを拡げる話にしかならないことが多いんです。やはりこの2点を同時にクリアするというのがすごく大事だと思っています。
中川:今、すごく空気が変わってきていると感じるんですよね。コロナで自動的にシャットダウンされたからこそ、新しいチャレンジをすることが当たり前になってきているじゃないですか?「よりグローバルに」という言葉はいろいろな場所で聞きますし、すごくチャンスが来ている感じがしています。
──例えば、宝塚やジャニーズ、歌舞伎、あと野球チームとか、そういう人たちがメタバースを使うとしたらまず何から始めれば良いのでしょうか?
中川:野球チームだったらこういうことできるよね、ああいうことできるよねというストーリーのブレストが重要になります。
鈴木:まさに野球チームの次世代ストーリーテリングと消費者体験をどう作るのか?という話からするということですね。
中川:で、それぞれのチームは同じストーリーじゃないと思うんです。チームごとに特徴やファンの特性もあると思いますので、やり方はいっぱいあるんじゃないかなと思いますね。
──そのストーリーテリングできる人が組織の中にいないけれど、NFTやメタバースに関してチャレンジしてみたいと思ったときに、MetaTokyoにコンタクトすれば相談にのっていただけるんでしょうか?
鈴木:はい。我々はスタートアップなので、いつでも私に直接ご連絡をいただければと思います。
中川:「このアーティストをこうしたい」という人もいれば「こういうこと考えているんだけど、どう?」という話もあるでしょうし、それはそれぞれの事務所さんの考えているバランスによると思うんですが、それに対していろいろと考えていけるのがMetaTokyoの強みだと思います。
──そういってもらえると気軽に相談しやすいですね。
中川:MetaTokyoは、アソビシステムやParadeAllの事業ではなくて、本当にスタートアップを作ったというイメージなんです。今まではアソビシステムがやったとなったら、アソビシステムのことしかやらないというのが、音楽業界と芸能界の常じゃないですか?でもMetaTokyoにその概念はないということです。MetaTokyo自体もWEB3.0のようなフラットな感じで、様々な企業やアーティストと関わっていきたいですね。