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第190回 株式会社カクバリズム 代表取締役 角張渉氏【後半】

インタビュー リレーインタビュー

角張渉氏

今回の「Musicman’s RELAY」はスペースシャワーネットワーク 上席執行役員 石田美佐緒さんからのご紹介で、カクバリズム 代表取締役 角張渉さんのご登場です。

ご兄姉の影響で音楽好きになった角張さんは、大学在学中からライブハウスやレコード店でバイトを始め、同時にインディーレーベルの運営も開始。2002年には音楽レーベル「カクバリズム」を設立。YOUR SONG IS GOODを皮切りにSAKEROCK、星野源、キセル、二階堂和美、cero、VIDEOTAPEMUSIC、片想い、スカート、思い出野郎Aチームなど、コアな音楽ファンをうならせるアーティストを多数輩出してきました。

そんな「好きな音楽を仕事にする」ことを実践してきた角張さんに、20周年を迎えるカクバリズムのこれまでとこれから、コロナ禍におけるインディーレーベルの現状、そして今後の目標など話をうかがいました。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦 取材日:2022年2月24日)

 

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第190回 株式会社カクバリズム 代表取締役 角張渉氏【前半】

 

90年代の海外のレーベルに憧れたカクバリズム

──カクバリズムって、手法的にはものすごく伝統的なレーベルですよね。

角張:そうですね、意外に保守的というか。例えば、サブスクに関しても参加は遅いですしね。ただアナログに関しては、レーベルを始めた当初から出していこうと考えていたので、今も基本的に流通を使わずに自分たちで全部流通を作っていって、各店舗に全部連絡してやりとりしています。やはり、僕が憧れたのが90年代の海外のレーベルだったり、日本のインディーレーベルだったりするので、どうしても伝統的かもしれないですね。Pヴァインとか昔から好きですしね。

──例えば、TikTokを使って、みたいなことはやらない?

角張:そういうのはまだないですね。むしろ新しいガジェット、SNSは警戒するほうです(笑)。スペシャの人たちとかに「今こういうのがあるよ」みたいに言われたら、「マジですか?すごいなあ」って言って、そう言いつつ様子見するみたいな(笑)。だからそういった点では弱いっちゃ弱いと思いますし、そういうものの使い方は下手だなと自覚しています。

──ただ有料配信ライブは結構早くから始めていますよね。

角張:有料配信は、多分僕らが一番早かったかもしれないですね。社員の仲原くんというスタッフが色々調べてくれていたんですよね。仲原君がもともとコロナ前に「電子チケットにして、海外からのお客さんにもチケットを買いやすくしたい」と言っていたのが始まりですね。

そうしたらZAIKOが電子チケットをやり始めて、僕らも中国とか海外に力を入れていた時期だったので、海外から来た人たちが日本のライブを観たいときにZAIKOだったらチケットを買えるんじゃないか?と検討していたんです。そうしたらZAIKOの方から「ストリーミングでチケットを売れますよ」とコロナの直前ぐらいに、たまたま聞いていたんです。それで、コロナでライブが飛びそうになったときに、周りはYouTubeで無料配信ライブをやり始めたんですけど、僕らは「タダでやるのは嫌だなあ」と思って(笑)、ZAIKOでやったんですよね。

──なるほど。

角張:でも、まさか2年後までやっていると思っていませんでしたけどね。あのときは「コロナも1年ぐらいで終わるんだったら、多少の赤字はいいかな」って感じでしたから。今もお客さんはあんまり戻らないですしね。

──現在カクバリズムはアーティストを何組やっていらっしゃるんですか?

角張:今は12ですね。

──それはマネージメントをやられている?

角張:ほぼほぼマネージメントもやっています。ただマネージメントに関しては難しいですよね。正直、街のライブハウスに出ているアーティストは本来自分たちでやるべきだと思うんですよ。そこにオッサンが現れて、あれやれ、これやれと言うのも格好悪いなって思っちゃうんですよね(笑)。ただ、うちのアーティストはみんな30代だったり40代だったりするので、自分らでやれることはやってもらっているという感じですね。手が回ってないともいえますけど笑。

──ブッキングは全部事務所でやっているんですか?

角張:そうですね。でも最近はインスタへのDMとかで本人直も多くなってきましたね。カクバリズムのことを知っている人も多いんですが、例えば「キセルが所属している会社」と思っている人もいれば「星野君が昔いた会社」と思っている人もいたりと、そのアーティストが全部カクバリズムにいるとはお客さんもみんな思っていないんですよね。だから、これだけ長くやっていても「どこに連絡すればいいんですか?」って言われるんですよ(笑)。やはりレーベルと謳っているので、マネージメントは別だと思っている人もいますし、下手したらPヴァインとかと同じ規模の会社だと思っている人もいますしね。「社員50人ぐらいいるんですか?」って。「そんなわけないですよ!」って(笑)。

──(笑)。

角張:社員が3人くらいだったときに4人目の募集したんですよ。当時はNo.12 galleryというギャラリーの上に事務所があったんですが、面接する場所がないのでギャラリーの暗室の小さな待合所みたいな場所で面接をしていたら、スーツを着て面接に来てくれた方が「ここはセカンドオフィスか社長の趣味部屋ですか?」って言うんですよ。それで「いえ、ここが会社ですよ」って言ったら「え!?」って青ざめちゃったんですよね。自分が入ろうとしている会社の規模があまりにも小っちゃいことに気づいて。あれは悪いことしたなって。

──知らずに来た?

角張:知らずに来ちゃって。ああ、誤解しているなと思いましたね。そうしたら、もう「いいです、いいです」みたいになっちゃって。会社の規模が大きい方がやはり安心しますよね、そりゃ。もっとちゃんと会社の規模とかも伝達してないとダメだなとは思いましたね。

 

アナログレコードが一番売れなかった時代も出し続けていた

──カクバリズムの商品の主力はやはりアナログになるんですか?

角張:今はアナログでしょうね。この間のceroのアナログの再発はおかげさまで沢山売れましたね。

──アナログって今そういう感じになっちゃっているんですね。

角張:そうですね。この波に乗ったほうが儲かるんですけど、アナログが売れない時代も知っているので、適度に落ち着いてやっている方だなとは思ってますね。

── 一応CDも出すわけですよね?

角張:はい。でももうミュージシャンによっては「出さなくていいんじゃない?」って思っているかもですね。でも僕はCDがあったほうが全然いいですね。アナログの方が売れるんですけど、アナログってやっぱりレギュラー品になりにくいですね。お店自体にレギュラー棚も少ないし。しかし売り切れちゃうと、転売屋とか出てきて、メルカリとかにすぐ高くして出してしまいますからね。転売屋に対するお客さんのイメージも良くないので、最終的に「レーベルが作らないのが悪い」みたいになっちゃうんですよね。こちらとしては適正枚数じゃないと赤字になるし、お店にも在庫残りすぎて滞留しちゃうと迷惑かけるので、色々考えてのプレス数ではあるんですけどね。でも2000年代、2008年ぐらいのアナログが一番売れなかった時代もうちはずっと出していたという自負はありますね。

──アナログはディストリビューターを使ってないっておっしゃっていましたよね。

角張:はい。ULTRA-VYBEだけ入れていますね。タワレコとかだけですけど。

──でも、ディストリビューターを通さない良さっていうのも確かにありますよね。

角張:あります。やっぱり面白いですよ。各担当とかの数のやりとりも含めて。

──手数料を取られるのが結構キツいんですよね。

角張:そりゃそうですよね。単価をやっぱり上げたくないですし。90年代は円高だったこともあって、ソウルの名盤の再発とかも1,000円、1,100円とかで買えていたじゃないですか?7インチも600円とか700円、LPも高くて2,500円ぐらいだったのが、今は5,000円とか4,800円とかザラですからね。

──今そんなに価格が上がっているんですか?

角張:今、新品LPって5,000円ぐらいですよ。で、7インチも2,000円ぐらいで売っていますから、メーカーのやつとかは。海外とかはまあ20ドルぐらいなので、海外のほうがちょっと安いですかね。

──若い人たちはみんなプレイヤーを持っているわけですよね?

角張:ただ、あまりいいプレイヤーで聴いていないので、勝手ながらちょっと心配なんですよね。あと、3、40代でお金のある層がアナログ買っている印象がありますね。

──CDは縮小傾向でアナログはどんどん増えているみたいですしね。

角張:とはいえ、まだCDも全体で年間1,300億円売っていますからね。アナログはまだ23億円ぐらいだと思うんですけど、CDもまだ売れるんですよ。King Gnuとかもそうですけど、売れるアーティストが圧倒的に売れて、我々のようなインディーの、今までは買ってくれていた人たちがサブスクで聴くようになってしまったんですよね。サブスクで聞いてもらえるのは本当ありがたいのですが、利益率が断然違うってのがありましたからね。CDはイニシャルも全然出なくなっちゃっているので、結構きついですよね。やはり中堅のインディーは軒並みきついでしょうね。逆に今は昔よりメーカーが強くなっている気がしますね。

──メーカーが強くなっている?

角張:そう思いますよ。インディーがやっていたフットワークの軽い動きをメーカーもできている気がしますね。10年前だったらインディーのほうがそういったカテゴライズ関係なく店とかも直でバンバンやれていたのが、メジャーもマネジメントも制作できるし、なんでもできるようになっちゃっている気がします。

──過去の膨大なカタログもありますしね。

角張:そういったカタログがサブスクで回っていればいいわけですし、それってアナログの作品をCDに差し替えた段階の売上みたいなものとちょっと似ている気がしますね。フォーマットが変わった分儲かるというか。それで我々みたいなところがちょっときついという感じですね。

 

2022年は新しいアーティストを手がけたい

──20周年公演も控えていますが、今後の目標はなんですか?

角張:今年は新しいアーティストをやりたいなと思っています。今年もあと8か月しかないですけど(笑)。やはり、次につながる新しいアクションを1つ動かしたいですね。

──アーティストの発掘は角張さんの専任事項ですか?

角張:いやいや、そこはうちのスタッフ全員でと思っています。とはいえ多分、僕が最終的に判断というのはありますけど。ただ僕も趣味がちょっと古いというか、普通に70年代ロックばかり聴いていたりするので(笑)。

──(笑)。

角張:あと小さいお店をやりたいなと思っています。20周年でポップアップとかもやるんですが、そこをひとつのスタートラインにして、若い頃やりたかった古着屋じゃないですが、自分でもっと能動的にやっていきたいなと思っています。

──それは音楽のお店になるんですか?

角張:まあ、そうですね。古着とかも売りたいですし、普通にうちのレコードが買えてみたいな。あとアーティストの好きなレコードが置いてあったり、コーヒーが飲めるとか。本当に小さくていいんですよね。そこでとんとんになればいいぐらいの。

──カクバリズムのショールーム的な感じでしょうか。

角張:そうですね。そこで新たな出会いがあればいいなって思っています。若者がデモテープを持ってくるとか、そんなの今あるのかわからないですけど(笑)、地方から来た子たちがライブに来たついでに寄ってくれる場所ができたらいいですね。

──今集まっているアーティストたちも、割とアーティスト側からカクバリズムにコンタクトを取ってきたんですか?

角張:それもありますし、バンドが「角張さん、このアーティスト出しましょうよ」って言ってくれるときもあるんです。仲良くてとか。

──ミュージシャン同士の繋がりで。

角張:ミュージシャン同士が「カクバリズムでやったほうがいいでしょ」とか。例えば、ceroが「片想いというバンドとVIDEOTAPEMUSICはいいよ」って言っていて、観に行ったりとか、あとSAKEROCKもYOUR SONG IS GOODのメンバーが高田漣さんのライブに行って「超面白い子たちがいる」「ライブに出てもらおうよ」と言ったのがファーストコンタクトだったり。

──なるほど。

角張:だから意外に僕って感じでもないんですよね。二階堂和美も、ラッパーのイルリメ君が「二階堂和美、カクバリズム合うと思う」みたいな感じでしたし。

──すごいですね。アーティストがアーティストを呼んできていると。

角張:特に初期はそうですね。

──とはいえ20周年となると、新しい才能に対して、もっと目を光らせないといけないですよね。

角張:おっしゃる通りです。ただ募集とかするのもなあって思いますし、オーディションもうちのノリじゃないしと思うんですよね。あとHIPHOPの人たちでいいなと思う人が最近は多いんですが、僕はHIP HOPをガシガシ聞いてきたわけじゃないので。90年代はパンクばかり聴いていたので(笑)。そうすると無鉄砲に手を出せないですし、なかなか難しいんですよね。

──例えば、他のメーカーと手を組むとかもありえますか?

角張:それもいいなって最近は思いますね。今までもポニーキャニオンとかいろいろなメーカーさんとやってきましたが、メーカーのディレクターにも優秀な人はいっぱいいるので、それはそれで助かりますしね。宣伝とかマネージャーとかも含めてですけどね。

──最後になりますが、音楽の仕事をしたいと思っているかつての角張さんのような若者たちに、アドバイスをするとしたら何ですか?

角張:なんですかね?いろいろ音楽を聴いて、映画を観て、漫画も小説も読んでということが全部仕事に繋がる楽しい仕事だとは思うんですよ。ですから、そういうことが好きな人は是非チャレンジして欲しいですけどね。あと業界も雰囲気が変わってきていて、前ほど苦労自慢みたいなのもなくなってきている気もしますし、これから先明るくない斜陽産業かもしれませんけど(笑)、盛り上がる要素は多々ある仕事だと思います。

──「音楽業界に来たら?」って言えますか?

角張:僕は言えますね。音楽の仕事って本当にいいと思うんですけどね。レコーディングしたり、ライブで全国に行ったり、マネージメントにしても舞台スタッフにしても、常にいろいろなところに行けるので、そういった点では様々な景色が見られる楽しい仕事だと思っています。