広告・取材掲載

音叉点──音楽と●●の交差点 第十一回ゲスト:negura campgroundオーナー・渡部竜矢

インタビュー 音叉点

河野太輔氏(写真左)渡部竜矢氏(写真右)

っっ「音叉点(おんさてん)」とは「1.音楽と●●が交差するところ 2.チューニングされるきっかけ」を意味する言葉である。ライブハウスでは日々沢山の音楽が鳴り、音と音が混ざり合い音色となるように、人と人が出会うことで新しい物語が始まっている。

この対談ではそんなライブハウスの一つ、渋谷La.mamaでブッキングを主として物語を紡ぐ河野太輔が、音楽に関わるゲストと毎回異なるテーマを切り口に相手との「音叉点=チューニングされるきっかけ」を見つけていく。河野とゲストの会話で、誌面がまるでライブハウスのように広がりを持っていく過程をお見せしよう。

今回のゲストは、東京での会社員生活を辞め、静岡県函南町にキャンプ場「negura campground」をオープンした渡部竜矢さん。ウサギも自由に走り回っていたり、自然を満喫できる絶景サイトでありつつも、トイレなどのインフラに妥協しない快適性も兼ね備える。そんな理想のキャンプ場にSNSを通して共感した1,300人以上から1,100万円以上の資金調達に成功し、なんと、貯金10万円からDIYでキャンプ場を作る夢を実現した。そして開拓作業には、クラウドファンディングの支援者だけでなく、地域の人や技術者、若者など、自ら手伝いたいと集まってくる人が後を絶たない

関連:CAMPFIRE (キャンプファイヤー)

渡部さん自身の“楽しい”を軸に、多くの人が引き寄せられ、形作られていくキャンプ場。この日も地元の方が水場の工事に携わっていたり、毎日少しずつ開拓されていく様は、まるでライブハウスがそこに集まる人の表現や交流で日々変化を遂げていることのようで、単なるキャンプ場には止まらない、文化が生まれる土壌を感じた。

昨年の「Festival de FRUE」にはキャンプ場として特異な出店をしていたほど、音楽好きの渡部さん。ゆくゆくは、「negura」内にも音楽を日常的にかけるバースペースを作りたいという。フェスでも証明されてきた音楽とアウトドアの親和性の高さを、より日常的に実現しようとしているのは興味深い。宿泊させていただいた翌朝、早朝から河野は自ら薪を準備。近年では貴重な直火での焚き火を囲みながら、渡部さんに淹れていただいたコーヒーを片手に対話した。テーマは「アウトドア」。

取材日:2022年4月11日 場所:negura campground 取材・文:柴田真希 撮影:加藤春日

プロフィール

河野 太輔(かわの・だいすけ)


1985年1月生まれ。宮崎県出身。自身のバンドでドラマーとして活動後、2005年にLa.mama に入社。入社後はイベントの企画制作、新人アーティストの発掘や育成、レーベル運営など活動は多岐にわたる。


渡部竜矢(わたなべ・たつや)


1981年8月生まれ。北海道出身。金融系システムのプロジェクトマネージャーとして13年間勤めた都内のIT企業を2021年に退社。半年後の2021年12月、静岡県函南町に自身の趣味と理想を詰め込んだキャンプ場「negura campground」を開設。2022年5月時点での開拓の進捗率は30%と、リアルタイムなキャンプ場開拓の経緯を、SNSを通じて発信している。

Twitter:@ken_negura


 

意図せず楽しさが連鎖して、新しい繋がりが生まれる

河野:僕、実は昨日がキャンプ初体験だったんです。自然の中でゆっくり過ごすのって、とてもいいですね。

渡部:天気がいいと、富士山もはっきりと見えて絶好のロケーションですよ。去年の12月にプレオープンして、既にたくさんの方に来ていただいています。

河野:最高ですね。渡部さん、去年までは会社員だったと伺っています。

渡部:2021年6月まで都内でITの仕事をしていました。でも会社員時代にこの近所に移住していたので、移住してからの5年間は新幹線で通っていました。

河野:どうしてこの辺りに移住されたのでしょうか?

渡部:元々アウトドアが好きで、伊豆には釣りやキャンプで週末によく来てたんです。だから引っ越したいなと思っていたら、この辺りはバブル期に建った別荘が比較的安く売られていて、今住んでいる家も580万だったんですよね。

河野:そんな格安で買えるんですね!僕も釣りが好きだし、宮崎出身なので田舎に住みたい気持ちがあって、現実的に考えてしまいます。

渡部:相談乗りますよ!それで家が近いこともあって、キャンプ場もこの周辺で探していました。見つけるまで1年以上かかりましたけど、ここに来た瞬間「ここしかない」と感じたんですよね。その時に四つ葉のクローバーを拾って縁も感じたので、それは押し花にしてお財布に入れています(笑)

河野:場所って重要ですよね。ここは都内からのアクセスもいいですし、観光地として整備されすぎていないのもいいなと思いました。

渡部:キャンプ場の場合は、ロケーションが魅力の8割です。どんなに面白いコンセプトで面白い設備があっても、場所が微妙だったら人は来ないんですよ。ここは富士山も見えて夕日も綺麗で海も見えて、夜景も、星も綺麗で文句なしですね。土地の話もまとまったので、運がよかったです。

河野:実際に函南町でキャンプ場を開いて、いかがでしたか?

渡部:東京の人が来て商売をすることに反発されるかもしれない、と不安もありましたが、実際はおおらかで優しい人ばかりでした。環境や自然のクオリティが高いのは住む前から分かっていましたけど、地域の人柄は後から見えてきたことなので、本当によかったです。皆さん、すごく応援してくださっています。

河野:今、開拓を手伝ってくださっているのも地元のボランティアの方なのでしょうか?

渡部:地元の方や、SNSで繋がった方々ですね。中には専門の業者の方もいて、本当に感謝しています。キャンプ場を作ると決めたとき、時間があれば一人でもできると思っていたんですよ。でも実際に始めてみると、草刈りだけでも大変で・・・一人では到底無理でした。

河野:一人でできることって、本当に限られていますよね。ライブハウスも、受付、照明、音響、お客さん・・・それぞれの役割があってイベントが初めて成り立っていて、その熱量が集まってより良い場所になっていくのだと日々感じています。クラウドファンディングで運営資金を集めるアイデアは、当初から計画されていたんですか?

渡部:いえ、ジャストアイデアでした。Twitterで土地探しの様子からリアルタイムで発信していたら反響があって、徐々にフォロワーが増えてきたんです。だから「今なら賛同してもらえるかもしれない」と思ってプロジェクトを立ち上げたら、予想以上に多くの方が支援してくれました。金銭面だけではなく、実際の開拓作業を手伝いに来てくれたり、お客さんにもなってくれたり、連鎖が起こって。自分がやりたいことをやっているだけなのに、どうしてこんなに大勢の人が応援してくれたのか今でも不思議です。

河野:何かやりたいと漠然と思っている人って、沢山いるんですよね。でも色んなことを考えると、行動するまで踏み切れる人は少ない気がします。音楽をやりたいという人も同じです。そういった人が、自分の気持ちを重ねて応援してくれているのかもしれないですね。

渡部:まさに「自分も同じ夢があった」「勇気をもらった」というコメントをくださる方は多かったです。

河野:渡部さんのツイート、心から楽しんでいるのが伝わって、自分も開拓作業をやってみたくなりますよ。宣伝を意図してない伝え方もよかったのかもしれないですね。

渡部:とにかく楽しくて、単に自慢している気持ちで投稿していました(笑)。「協力したい」と人が集まってきたときに、はじめは「無償で労力をもらうなんて申し訳ない」と思っていたんです。でもそういう人から、「neguraで出来た仲間とキャンプに行った」とか、「neguraでキャンプ場の一部を作って楽しかった」という話を聞くと、お金として対価がなくても、この場所を楽しいと思う人が集まって、何か違うと思ったら去る人もいて、そのような形で力を借りるのは自然で健全なことだと思うようになりました。

河野:楽しそうな場所には人が自然と集まってきて、楽しさが連鎖して、意図せず新しい繋がりが生まれるんですよね。ライブハウスも同じで、そうやって偶然できた繋がりから新しいことが生まれるのを沢山経験しています。場所って、すごく大きな可能性を持っているんですよね。

 

好きなことをして、且つそれが自分の糧になる満足感があるんです。「お金=幸せ」だと思ってないと自覚しました

河野:Twitterを拝見したのですが、宿泊された方から「場内に灯りがない」という意見がありましたよね。それに対して渡部さんが「今後も灯りを付けるつもりは有りません」と回答しているのを見て、自然の暗闇を楽しみたいという理想がはっきり伝わってきました。

渡部:明確なイメージがあるんですよね。これまでも色んなキャンプ場に行く中で、「自分だったらこうしたい」というアイデアを何年も前から書き留めていたんです。neguraを作るとき、そのメモを統合して、優先度をつけました。今も根底にあるのは、自分だったらどんな環境でキャンプしたいか、という判断基準だけです。

河野:軸がぶれないのも、クラウドファンディングで想いが伝わった理由だと思います。音楽業界もコロナ禍でクラウドファンディングが増えましたが、覚悟を決めて真剣にやっていると、不思議と周りの人たちが手伝ってくれるんですよね。

渡部:ただ好きなことをやっているだけなのに、本当にありがたいと思います。

河野:今はキャンプ場の仕事が全てですか?

渡部:はい、そうです。ここに来て草刈りをして、家に帰って資料を作ったりしていたら、すぐに1日が終わり、一週間が経ちます。会社員の時は自分の好きなことに全然時間を取れなかったので、今は好きなことをして、且つそれが自分の糧になる満足感があってすごく幸せです。

河野:とはいえ、安定した収入がもらえる会社を辞める決断は、勇気が要りますよね。

渡部:決断ができたのは、移住してからできた周りの友達のおかげですね。デザインの仕事をやっていたりとか、木工で作品を作って売ったりとか、「お金がない」と言いながらも好きなことで生きている友達がすごく楽しそうに見えたんです。それで自分も「お金=幸せ」だとは思ってないと、自覚しました。

河野:周りの環境の変化は大きいですよね。もちろん会社員は収入も安定するし、東京でしかできないこともありますけど、暮らしのことだけを考えると、僕もやっぱり地方で暮らしたい気持ちがあります。渡部さんはバンドもやられていたと聞きましたが、移住されてから、音楽活動はどうされたんですか?

渡部:移住のタイミングで、バンドもやめました。キャンプを始めたきっかけは、バンドだったんですけどね。

河野:そうだったんですね。フェスですか?

渡部:その通りです。当時のバンドで小さいフェスに呼んでもらって、親戚の家から持ってきたテントにメンバーとぎゅうぎゅう詰めで寝泊りしたところから始まり、テーブルがあったほうがいいよね、椅子がないとダメだよな・・・と欲が出てきて。徐々に「キャンプに行きたいからスタジオに入れない」ということが増えてきて、いつの間にかその比重が入れ替わっていたんですよね。

河野:色んなバランスを感じつつ、決断されたんですね。ちなみにどんなバンドをやられていたんですか?

渡部:インストバンドで、僕がパーカッション、あとギターとシンセとドラムでした。

河野:打楽器はまさにアウトドアと親和性がありますよね。僕は「音楽は響きだ」と思ってるんですけど、キャンプをしていても鳥の声とか風の音とか音楽的な響きをすごく感じていて、それは渋谷の街では感じられないものだと思いました。

渡部:仰る通りで、音楽とアウトドアって、すごく親和性があるものですよね。だからここにも管理棟兼バースペースを作って、日常的に外で音楽を楽しめる空間を作りたいと考えています。そんなキャンプ場は珍しいので、個性になると思うんですよ。

 

巣作りはキャンプの魅力を一番直接表している、だから「negura campground」なんです

河野:キャンプの世界では、大きい音を出すのはタブーとされているのでしょうか?

渡部:自然の中で静かに過ごしたい人が来る場所だから、音楽をかけていると目くじらを立てられるのが通例です。でも全国でたくさんの野外フェスが開催されていることが示しているとおり、外でお酒を飲んで音楽を聴いて焚き火をするのを楽しみたい人は一定層いるんですよね。それが気軽にできるコンパクトな場所は需要があると思います。

河野:今は自由にできる場所は少ないかもしれないですけど、火を見るのも音楽も、元々は人間が自然とやっていたことですよね。

渡部:そうなんですよね。本能に訴えかけてくる点で、アウトドアも音楽も好きです。アウトドアって、命の維持に直結した、当時の本能を呼び覚ます遊びだと思うんですよ。焚き火をすると凍えずに済むとか、動物が寄ってこないとか、釣りもそうじゃないですか?今はお魚が欲しかったらスーパーで買えるけど、それができなかった頃、釣れたら家族の食糧が確保できるという。

河野:そうですよね。僕は釣りの中でもアクティブなバスフィッシングが特に好きなんですけど、ほとんど狩りに近い感覚でやっています。結局動物として、本能的に求めていることなんですよね。

渡部:その意味だと、テントを建てるのも本能的なことで、大昔から、命を守るために巣作りをしていたことに通じると思うんですよね。ここを「negura campground」っていう名前にしたのは、屋根のある自分の拠点を作る楽しさが、アウトドアの本質だからという意味なんです。

河野:たしかに、設営はすごく楽しかったです!小さい頃、秘密基地を作っていた感覚に近いと思いました。ギアの構造も面白くて、「これがこうなって、こうなるのね」みたいに分かるのは楽しかったです。それも音楽のアレンジと一緒なんだろうな。このコードを変えたら、すごくよくなった、とか、そういう感覚と近いと思いました。キャンプ、はまりそうです。

渡部:釣りと音楽が好きだったら、逆にこれまでよく我慢してきましたね!開拓中の「komichi」サイトがおすすめですよ。林間サイトで、より自然の中に来た感じがします。自分がキャンプするなら「komichi」かな。

河野:最高ですね!ちなみに素人質問ですが、お風呂は作らないんでしょうか?

渡部:シャワーは作るかもしれないですけど、今年の夏を過ごしてみて考えます。本当は富士山を見ながら入れる露天風呂を作りたいですね。お金に余裕ができたら、趣味で作っちゃおうかな。自然の中で身体を温めるのはいいですよね。

河野:この近くに温泉もたくさんありますよね。昨日薦めていただいた「誠山」、とても気持ちよかったです。畑毛温泉はぬるま湯なんですね。また夏場にも来たいな。

渡部:夏場は気持ち良すぎて一度入ると出られなくなりますよ。その頃には、ここのmujinaサイトに蒔いた種も芽を出して草原になっていると思います。ここには芝生を敷くことも考えましたが、画一的で面白くないんですよね。だからハーブを何種類か植えようと思っています。ハーブなら香りもあるし、テントを建てたときに仄かにミントの香りがしたら素敵だと思って。

河野:そういえば、さっきローズマリー拾いました。ここに来る時、道で山菜を摘んでいるおじさんもいて、地元を思い出して懐かしくなりました。

渡部:ぜひ、また来てください。その時にはバースペースで音楽を流していただいて。きっと既に立派なキャンパーになっていると思うので(笑)河野さん、適性あると思いますよ。

河野:薄々感じていましたが、はまってしまいそうです・・・危険な回になりました(笑)!