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音楽ビジネスのグローバル化を支援するIMCJ新体制が始動〜理事長・山下雄史氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー PR

Independent Music Coalition Japan(IMCJ)理事長 山下雄史氏

Independent Music Coalition Japan(IMCJ)が昨年8月、代表理事 上出卓氏(現創設者名誉顧問)の任期満了に伴い、山下雄史氏(KSR 代表取締役社長)、大石征裕氏(デンジャー・クルー・エンタテインメント 取締役)の両名を新理事長として選任。新体制を始動させた。

IMCJは、インディペンデントレコード事業者の国際機関WIN(Worldwide Independent Network)の日本における会員団体であり、そのネットワークを活用した他国団体との連携、知見の共有、公平な競争環境の整備を通して、会員者の音楽ビジネスのグローバル化を支援、促進する業界団体。今回、目的のさらなる推進のため体制を一新し、各種委員会を設立。他団体との連携強化や、グローバルネットワーキング、情報発信、セミナーの開講等を拡充するという。

今回は新理事長に就任した山下雄史氏にIMCJ設立から現在までの活動を振り返っていただきつつ、新体制における今後のミッションや、現在募集している事務局長に求める人物像まで話をうかがった。

グローバル市場を見据え、海外の最新情報を共有・啓蒙

ーー最初に山下さんご自身のプロフィールからお伺いしたいのですが。

山下:私は2000年からKSRというダンスミュージックに特化した洋楽ライセンスビジネスや国内ヒップホップR&B等扱うインディーズレーベルの経営をやってきまして、2019年にKSRはフェイス・グループに入りました。そして昨年の4月からライツスケールというディストリビューション会社の代表になり、同年8月にIMCJ(Independent Music Coalition Japan)の理事長に就任しました。

ーーIMCJは何年に設立されたんでしょうか?

山下:設立は2017年です。設立からずっと上出卓が理事長をやっていたのですが、去年の夏にメンバーを刷新し、現在は新しい理事たちのもとで私が理事長をやっています。

ーーIMCJ設立の趣旨はなんでしょうか?

山下:海外の情報を取りまとめて日本の音楽事業者に啓蒙したり、共有していくことがIMCJの本分かと思います。WIN(Worldwide Independent Network)という団体があるんですが、その支部と連携して、それぞれの国で今なにが起こっているのか、なにを行っているのか論議するのがIMCJの主軸になっています。

ーー情報交換という意味合いが一番大きい?

山下:そうですね。あとWINというのは「メジャーだけが情報を持つのはおかしい」と世界で一枚岩になってやっている団体ですので、そのメンバーとしてウェビナーやセミナーなどを通じて教育や支援を行っています。特にストリーミングの時代になってからは、海外のトレンドなど重要になっていますので。

ーー日本には他にもインディペンデントレーベルの団体がありますが、横の繋がりはあるんですか?

山下:はい。インディペンデント・レコード協会(IRMA)インディペンデント・レーベル協議会(ILCJ)日本ネットクリエイター協会(JNCA)の3団体にはIMCJに参画していただいています。やはり各々でやっていてもなかなか声が小さいというか、レコ協や音事協、音制連みたいなところになかなか声が届かなかったりするので、インディーズ全体で一枚岩になるためにアライアンスを組んで、問題点を話し合える場を作ろうとIMCJが音頭をとってやっているという状態です。

ーーなるほど。

山下:インディーズの3団体をまとめつつ、IMCJ的には海外にどうやって日本国内の音源を持っていくか、ということが大きなミッションになっています。

ーーIMCJは議長的な立場なんですね。

山下:そうですね。ですからIMCJの中の委員会として内包しているわけじゃないんですけれども、連絡会議というのを作ってやっています。

ーー現在、会員社は何社あるんでしょうか?

山下:現在、団体正会員が先ほど申し上げましたIRMA、ILCJ、JNCAの3団体で、事業者正会員が24社、賛助会員が4団体です。ただ、インディーズレーベルって、IRMAやILCJの会員も含めると、おそらく400社ぐらいあるんですよ。

ーーでは、これから着々と会員を増やしていこうと。

山下: IMCJは社団法人なので利益を上げる必要はないと思うんですが、やはり会員は増やしていかないといけないと思っています。実はWINからファンドもいただいているんですが、これは「1人立ちしなさい」というファンドなので、IMCJの正会員になるメリットをきちんと抽出して、各インディーズレーベルにアピールしていきたいと考えています。

いい情報はどんどんシェアし検証していく姿勢

ーー現在、日本のインディーズレーベルは、CDが売れないのでストリーミングで稼がないといけないけれども、アーティストをたくさん抱えているわけではないし、アーカイブもたくさんあるわけでもない中で、どうやって生き残っていくのか?みたいな話は何人かから伺ったんですが、やはり日本のインディーズレーベルの状況は厳しいんでしょうか?

山下:厳しいですね。デジタル化して簡素化できるということではなくて、やはりスキル的なことが必要なのと、もともとCDで商売をやっていたので、データ化いわゆるメタデータの生成においての知見が足りていないんですよね。

ーーサブスクに出すにあたって、どうデータを作り、どういう形で提供したらいいのか、というところから指導しないといけない?

山下:そうですね。あとDSPからの収益が上がってきたときのポートフォリオというかインサイトの見方だったり、そういう指導も必要です。今度の団体説明会でChartmetricという、いわゆる解析ツールの啓蒙をしつつ、IMCJ正会員には30%オフで提供するセミナーを開催するのですが、そういったサポートやツールの提供も行っています。

このChartmetricを使うことで、例えば「インスタグラムから入ってきました」とか「TikTokでこうやってバズってます」とか可視化できますので、レーベルの方々にそれを使っていただいて、実際にトラッキングを追うということを覚えていただこうと考えています。

ーーそれはIMCJのメンバー同士で教えあったりするんですか? それとも外部から専門家を呼ばれるんですか?

山下:レコード会社の方の見方だったりとか、アーティストサイドというか事務所さんの見方だったりとか色々な角度がありますので、そういう方たちをシャッフルで呼んで、様々なケースに合うような「ミュージック&データサミット」というセミナーを去年もやりまして、すごく好評でした。我々もどういう方々が受講したのかデータを取るんですが、フタを開けてみると結構ドメスティックメジャーの方たちが多かったんです。現場の声として「IMCJのセミナーはすごく勉強になるし便利だ」とうかがっています。最近はセミナーを認めて頂いてか、法人としてIMCJに興味を持って頂ける声も最近は出てきておりますし、今後に非常に期待しております。

ーーメジャーレーベルはそういうセミナーを自分たちでやったりしていないんですか?

山下:していないようですね。例えば、ソニーのオーチャードというサービスに対してスポンサードを受けていて、それで受講したりというケースはあるんですが、団体としてレコード協会が「こういうことをやりましょう」ということはないですね。ですから、いわゆるコンシューマー向けというか、個人の方でも気軽に受講ができるということは、他の団体ではあまりやってないことなので評価頂いています。

ーーIMCJもそこはオープンなんですね。

山下:ええ。時代が変わったというか、いい情報はどんどんシェアしていく世界になっていますしね。逆に個人でやられている方とかアーティストが増えてきている中で、この業界全体というか団体が色々な権利の啓蒙とかも含めて、教育していかなければいけないとは思っています。情報を隠すというよりかはどんどん開示し、そこでいろいろなものがケースバイケースで出たときに検証していく方が合理的ですし、より立体的になっていくんじゃないかなと思っています。

ーーやはりメジャーに関してはまだ閉じられている印象がありますか?

山下:我々が危惧しているのは、例えばレコ協さんが出しているイヤーブックって、加盟している会社のみのデータを抽出して、日本の音楽業界の売上がいくらだと出しているんですよ。

ーーインディーズは入っていない?

山下:入っていないんです。そこから前に進めるためには、インディーズのデータをしっかりまとめていかなければいけないと思っています。逆に言えば、データがきちんと整備されて、レコ協のデータとインディーズのデータを合わせたときに初めて日本の音楽業界の現状が分かると思うんです。

別にレコ協さんと喧嘩したいとかそういうことではなくて、レコ協さんだけだと片側だけなので、「日本全体の音楽シェアってこうですよ」と世界に発信していく為には、やはり両側揃える必要が日本としてはあるんじゃないですか?という話をしたいなと思っています。

第一目標はストリーミングで原盤の収益を最大化すること

ーーやはり欧米は、インディーズもデータ管理が進んでいるんですか?

山下:ヨーロッパとかはすごく進んでいまして、逆にインディーズのほうが先端を行っています。なかでもIMPALAというヨーロッパの団体は、すごくしっかりやっていますね。

ーーそういう事例も参考にしながら日本も歩んでいけたらいいですよね。そもそもストリーミングというかデジタル化も日本は一番遅かった印象があるじゃないですか?

山下:最初、レコチョクがレコ協さんの会員のレーベルデータを作るところからデジタルが始まったと思うんですが、やはりCDも売れていましたから内需で充分回っていたしその中でボーナス的なイメージでデジタルをやっていたと思いますし、色々制約を付けていましたよね。

そこにAppleのiTunesが入ってきて、以後SpotifyとかAmazon、サブスクが解禁になる流れですが、結果的に外資に食われちゃったと。あとiPhoneの出現も大きかったと思います。とにかく今の若い子たちはCDを知らない、あるいはダウンロードも知らない状況から音楽が好きになる子たちもいっぱいいますし、そういった状況の中でどう広げていくかが課題だと思います。そもそも自分たちの世代はCDに3,000円という値段がついているのが当たり前だったわけですが、それって例えば1,000人のファンがいれば、ある程度アーティストが音楽活動を継続できるみたいな図式だったと思うんです。

ーーCDを手売りで売ったり。

山下:そう、手売りでやったりできたわけですが、ストリーミングになると1再生0.0何円の世界なので国内だけでは厳しいです。ただ、インターネットによってボーダレスになっていますから、日本で評価されなくても、もしかしたら海外で評価されるものとかもあるんじゃないか?みたいなことを、10年ぐらい前からみんな考え始めたわけですよね。そういった意味で自分ももっと勉強したいですし、IMCJを通じてどんどん情報交換ができればと思います。

ーー以前に比べて、ストリーミングに対してケアしてくれるサービスはだいぶ増えましたよね。

山下:TuneCoreJapanさんやROUTER.FMやEggs、いわゆるドメスティックメジャー各社、エイベックスさんもビクターさんもポニーキャニオンさんもやっていますね。TuneCoreJapanさんはローンチされてから8年ぐらいで、100万曲扱って、100億円をアーティストに還元したと、この前レポートを出されていましたね。

ーー100億円って大きいですよね。

山下:インパクト的には大きいです。ですから、そういったデータを1回まとめて、「レコ協さんの数字だけではないですよ」という話をしていかなくてはならないと思います。「CDはまだ売れています」というレコ協さんの発表と、実際のシェアのグラフは100%正確かというと違うと思うので。

ーーつまりIMCJは日本の独立系のレーベルやミュージシャンに対して、デジタル、いわゆるストリーミングで成功するためのノウハウを伝えることに一番力を入れていると。

山下:そうですね。第一目標はストリーミングで原盤の収益を最大化することですね。もうCDを聴けるハードがないのにCDを刷っているという状態から抜け出さないといけません。すでにCDはファングッズ的な感じになっていて、聴くメディアじゃなくなってきていることは確かです。ただファンエンゲージが強い日本のマーケットにはフィットしているビジネスだとは思いますので、否定的ではありません。

IMCJを若い人たちの声を拾える団体にしたい

ーー先ほど少し海外進出に関してお話が出ましたが、理屈は分かるんですが、いざやるとなると容易ではないですよね。

山下:ハードルは高いと思います。ただ、今は楽曲をリリースしたら全世界で聴いてもらえるチャンスがあります。例えば、ワーナー、ユニバーサル、ソニーのようなグローバルメジャーは、世界に支社を持っていて、そこでPRや拡充ができるのでやっぱり強いなと思うんですが、そんな中でもスタッフ3人でやっているようなインディーズ会社のアーティストが、グラミー賞を獲るような時代になったじゃないですか? ですから、確実に可能性は広がっていますし、私たちもレコード事業者としての立ち位置をもう少しはっきりしなくてはいけないんじゃないかなと思いますね。

ーー時代が変わったんだから、新しい時代に対応したスタイルでやろうと。

山下:そうですね。ライフスタイルというか、みなさんの音楽の聴き方も変わってきていますし、電気、水道、ガスと同じように音楽に関してもサブスクリプションがインフラとして機能しているのが現代だと思うんです。これは別に音楽だけじゃなくて、映像もネットフリックスが出てきたりして、月額いくらで全部観られるということが当たり前の世の中になったのに、そこに対しての知見が遅れすぎていると感じます。

ーーそういった知見が日本も海外に追いついていったらいいですよね。

山下:そうですね。ちなみに私はグローバルミュージックライツエージェンシーMerlinのASEANで唯一の理事に今年の1月になったんです。ですから今Merlin JapanのGMであり、Southeast Asia包括のGMでもある野本さんと一緒に会議やディスカッションを通じて海外の情勢を聞いたり、アジア各国の意見を伝えるようなこともやっているんです。

ーーそうだったんですね。

山下:これもIMCJとすごく紐づくところなんですが、Merlinも世界の2万レーベルが使っていて、ストリーミングの世界のシェアの15パーセントぐらいをMerlinが持っているんです。

ーーそんなにシェアがあるんですか?

山下:一応ワーナー、ユニバーサル、ソニーに次ぐ第4のメジャーって、あまりその言い方はよくないのかもしれないですが、そのぐらいのシェアを持っているユニオンで、それこそIMCJがやりたいこともそうなんですが、声を上げてもなかなか届かないインディーズを一枚岩にして、メジャーと遜色ない条件でトレードしていきましょうということを常にMerlinはやっているんですね。

ーーメジャーとインディーズはそんなに扱いが違うんですか?

山下:扱いが違った時期もありましたし、DSPの目線から言うと、やはりメジャーのカタログをデパートに置いてないと成り立たないところがあったんでしょうね。ですからメジャーに対して還元をよくしたり、お金を積んで「これで契約させてほしい」という話をするんですが、なかなかインディーズにはそういう話は回ってこないんですよね。でも単一アーティストで考えたら一緒じゃないか?という気持ちがあって、そこはきちんと平等にしていこうと活動している感じですね。

ーーちなみに山下さんはサブスク時代の先についてはどう考えていますか?

山下:今は自分で発信できるので、自分自身で動けば今日からファンを作れるみたいな時代になっているじゃないですか? しかもコロナによってさらにスピードアップしてバーチャル化したと思うんですよね。もう10年ぐらい巻いちゃったと思っていまして、そうなると、今はNFTやWEB3.0とか言われていますが、新しいプラットフォームにファンが集まって、どんどんコミュニティ化していきそれに伴いマネタイズ方法にも変化があると思います。あとは、生まれたときからiPhoneを持っていたデジタルネイティブたちが次どう動いていくかですよね。私もそういった次世代にバトンを渡さなくてはいけないとすごく感じているので、IMCJにもどんどん若い人を入れていきたいんですよね。

ーー団体ってどうしてもキャリアのある方々が多くなってしまいますよね。

山下:先輩だらけで、いつも恐縮しながら話してはいるんですが、例えば、アソビミュージックの中川悠介さんや、インクストゥエンターの田村優さんとは比較的年齢も近いので、「やっぱりこの世代で何か変えていきたいよね」みたいなことを話していますし、IMCJだけでももう少し若い人たちの声を拾える団体になっていけばいいんじゃないかなと思っています。

ーー現在、IMCJは事務局長を募集されていますが、具体的にどういう方を求めているのでしょうか?

山下:是非、若い方に来ていただきたいなと思います。そして、日本の音楽業界の新たな扉を開けてくれるような方であれば、すごくウェルカムですし、また海外、特にアジアに向けて日本の楽曲やアーティスト進出の手助けをしたい方だったら、すごくいいなと思います。

ーーデベロップ・アンド・サポートですね。

山下:そうですね。あと、先ほど解析ツールの話もしましたが、今後IMCJとしてもテクノロジーに関して情報やサービスを提供していきたいので、そういったデジタルに強い方だったりするとなおいいですね。

ーーデジタルに強く、ひとつの団体にまとめるプロデュースする能力があるみたいな感じでしょうか。IMCJは柔軟な組織だと感じますし、最高にやりがいがある職場になる可能性は高いですよね。実力を思う存分発揮できる環境かと思います。

山下:ありがとうございます。私もIMCJは思いっきりにやってもらえる環境だと思いますし、日本の音楽業界の政治的な部分というよりも、外に向いている方のほうが適任かと思います。そういった方が1、2名来て頂ければありがたいですね。