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【特集】WEB3.0時代のエコシステムを実現する共創型コミュニティ「FRIENDSHIP. DAO」が目指す世界とは?──SSR2022トークセッションレポート

インタビュー 特集

SHIBUYA SOUND RIVERSE 2022

レコードやCDが売れた時代から一変、2014年にはデジタル売上が物理売上を超え、2015年には音楽ライブの売上が音楽ソフト売上を超えた。*そんな中で訪れた2020年のコロナ禍。アーティストの収入源の大部分を占めていたライブができず、音楽業界は大打撃を受けた。そして“不要不急”とまで言われたことで、これまで曖昧にも古い慣習が受け継がれ、大きくは変わらなかった音楽業界の収益化構造が、もはや機能していないことを業界内外が再認識したのだった。

*榎本幹朗『音楽が未来を連れてくる』(2021年)

音楽業界が縮小しないためには、当然ながら、アーティストが幸せでなくてはならない。だからこそ、権利の所在をはっきりとさせ、健全に利益が分配されるエコシステムの構築が急務なのは自明だ。そしてそれだけではなく、アーティストを支える音楽業界の関係者に於いても労働環境の改善が必至と言われる背景には、魅力的で人気な仕事であるがゆえ、これまで有耶無耶にされてきた低賃金、ないしは無償労働があったことは否めない。当事者は純粋な楽しさを求めて働いていることがほとんどで、一概に悪とも言えないのが現実。だからと言って、このまま労働者の善意に甘んじていてよいのだろうか?

アーティストが自分で権利を持ち、正当な利益を得る。そして熱量で動いた人の役割に、健全な報酬が割り当てられる。そのような透明で直接的なやりとりにより、経済活動を活性化させる構想が、「FRIENDSHIP. DAO(フレンドシップ・ダオ)」だ。

HIP LAND MUSICが運営する、キュレーション音楽のデジタル配信サービスFRIENDSHIP.が2022年3月、新時代の音楽中心エコシステムを備えたコミュニティ構築を目指して始動した「FRIENDSHIP. DAO」。MusicmanではFRIENDSHIP. DAOの思想を業界全体で共有すべき重大な改革の一歩と捉え、特集する。初回は、2022年6月5日に行われたFRIENDSHIP.主催のサーキットイベント「SHIBUYA SOUND RIVERSE 2022」内でのトークセッション『Web3時代に向けた新しい音楽体験と表現方法』をレポート。Web3.0とは?NFTとは?といった基本的なことから、FRIENDSHIP. DAOが目指すゴールを見せる。読者全員が当事者となり、新しい時代を一緒に考える緒としていただきたい。

※参考記事:FRIENDSHIP.、新時代のグローバル音楽視聴エコシステムになり得る音楽コミュニティを構築すべく「FRIENDSHIP. DAO」始動

編集・文:柴田真希

<登壇者>
・タイラダイスケ (FREE THROW / FRIENDSHIP.キュレーター)
・赤澤直樹 (Fracton Ventures)
・武田信幸 (行政書士/ミュージシャン)
・山崎和人 (HIP LAND MUSIC / FRIENDSHIP.)

FRIENDSHIP.とは
海外で主流なアーティスト主導の活動形式を日本に持ち込んだ、これまでのレーベルに代わる、デジタルのディストリビューター。所属するキュレーターが厳選した音源のみをリリースすることでクオリティを担保し、プロモーション価値を上げるため必須のブランディングに成功。アーティストが権利を手放さず、FRIENDSHIP.がプロモーションなどをサポートすることで、双方が主体性を持った対等な関係性を実現している。

 

WEB3.0の活用で、古い慣習に左右されない健全な経済活動へのパラダイムシフトが起こる

──まず、そもそも最近よく聞く「NFT」「WEB3.0」とはどういったものなのか?

赤澤直樹(以下:赤澤):「インターネットは1991年に生まれた当初、別名“情報の掃き溜め”と言われていました。それくらい無秩序に集まっていた情報を見やすくしてくれたのがYahoo!やGoogleなどの検索システムですね。WEB1.0の時代です。それがSNSなどでユーザー同士がネット上でやりとりできる、双方向のサービスに発展したのがWEB2.0の時代です。」

──その先にあるWEB3.0は“分散の時代”だという。

赤澤:「WEB2.0では、情報を処理して渡すまでの間に、特定の事業者が入る必要がありました。たとえばTwitterですね。ということは、万が一サービスが閉じてしまうと使えなくなります。WEB3.0はそこが違います。特定の事業者がそれぞれ箱庭を作っていた時代から、誰もが入れる一つの庭で、情報のやりとりができるようになるんです。」

タイラダイスケ(以下:タイラ):「サーバーごとではなく、ユーザーごとに情報を持っている世界ですね。」

赤澤:「そうです。ビットコインが代表する暗号資産は、その例ですね。ビットコインを受け入れている事業者内なら、どこでも共通で使うことができる。そういうことが、ブロックチェーンの技術を使って可能になりました。」

*ブロックチェーン:特定の管理者がいる中央集権型のシステムではなく、全てが双方向で繋がっている非中央集権型システム。

──ブロックチェーン上では誰もが双方向で情報を見ることができるため、どこか一部で誤った情報が流れると、他の人が持っている情報と齟齬が生まれ、不正が発覚する。そのため改ざんが難しく、セキュリティレベルが高いとされている。国境を超えたやりとりが可能で、仲介企業への手数料もかからず、メリットは多い。そして仲介企業の不在で、古い慣習に左右されない健全な経済活動へパラダイムシフトが起こる希望がある。

赤澤:「今まで特定の事業者がビジネスを成り立たせるためにあった慣習は、前提自体の変化によりなくなるかもしれません。逆に、新しいことが起こると思います。」

──具体的にWEB3.0上で可能になることの例として「暗号資産・仮想通貨」「選挙」「NFT」「音楽NFT*」「NFTゲーム」「ライブチケット」などが挙がった。そしてその中の一つとして挙げられたのが、「DAO(ダオ)=分散型自律組織」だ。FRIENDSHIP.がこれまでの事業であるデジタルディストリビューションサービスとWEB3.0を掛け合わせたものが「FRIENDSHIP. DAO」の取り組みということで、その内容について行政書士/ミュージシャンである武田信幸(以下:武田)と、HIP LAND MUSICの山崎和人(以下:山崎)がマイクを取る。

 

アーティストと音楽をサポートする全ての人が、お互いに直接アクセスすることができるエコシステム

武田信幸(以下:武田):「僕はアーティストとしての立場から、FRIENDSHIP. DAOのプロジェクトメンバーとして参加しています。アーティストはApple MusicやSpotifyなどストリーミング(デジタル音楽サブスクリプション)サービスが出てきてCDが売れなくなり、これから新しいマネタイズの方法を考えなくてはいけない状況です。」

──ストリーミングサービスは再生された時間や回数に応じてアーティストに還元されるが、その分配率はアーティストではなくサービス側が決めている。CDなどのフィジカル商品に比べて利益率は高くないため、アーティストはここ数年マーチャンダイズやライブを主な収入源としていた。だからコロナ禍でライブが出来なくなったとき、業界が受けたダメージが尋常ではなかった。

山崎:「CDだと物品を手に入れなくてはいけなかったのに対して、ストリーミングはサービスに加入するだけで、世界中で聴くことができる。そしてヒットしたら、アーティストに直接お金が入ってくる。それはWEB2.0の発明でした。でもその先で今度は再生されないとお金が入ってこないという問題が出てきました。そうすると、一部の有名なアーティストだけにロイヤリティが集中し、インディーズシーンではファンの分母が少ないので、入ってくる金額が少ない。」

──音楽を取り巻く収益構造がこの数年で変わってきた。そこで考案されたのがFRIENDSHIP. DAOだ。FRIENDSHIP. DAOが思い描く世界では、アーティストは、音源で収益を得ることができる。それだけではなく、リスナーやキュレーター、インフルエンサー、イベンターから能力や想いを“GIVE”してもらえる。そしてデザイナーや動画クリエイター、アーティスト同士では個々の能力や想いを“GIVE”してコラボレーションができる。この理想の世界を実現するために、ブロックチェーンの技術を使っているそうだ。

武田:「つまりはブロックチェーンを活用した、コラボレーションツールです。アーティストと音楽をサポートする全ての人が、お互いに直接アクセスすることができるエコシステムを作り上げていきます。」

──FRIENDSHIP.の「海外では当たり前のアーティスト主導の活動方式を、日本でローカライズする」という理念の延長線上で、それを更に活性化する動きだ。これまでアーティストはFRIENDSHIP.を通してプロモーションやブッキング、流通などのサポートを受けていたが、これがFRIENDSHIP. DAOでは、FRIENDSHIP.を通さずに可能となる。管理者がいない自律的なエコシステムを実現するためには、参加者が共有できる、共通の指針が不可欠だ。

武田:「5つの“C”を活動方針として決めています。その中でも、今日は【Commitment=報酬】に関する話をします。提案するのは、これまで報われることが少なかった人に、ブロックチェーンを活用して報酬を分配するしくみです。」

「FRIENDSHIP. DAO」が活動方針とする「5つの“C”」

Community:アーティスト・キュレーター・音楽産業に携わる全ての人・メディア・リスナーが国境や契約、税制を意識せずに個々に参加することができる新しいグローバル・コミュニティの実現

Connect:コミュニティへ参加することにより、それぞれの参加者同士がダイレクトに繋がることができ、リーチすることが困難だったリソースへのアクセスが可能となる

Collaboration:従来イメージされるようなアーティスト同士のコラボレーションはもちろん、コミュニティ内の人々がそれぞれのリソースを出し合い、「キュレーターやメディアによる作品の拡散」「ファンコミュニティの形成・サポート」など音楽にまつわる文化活動を活性化させることで、その一つ一つをコミュニティ成長への貢献に繋げることができる

Culture:アーティストが中心となり、コラボレーションを通じて楽曲、アートワーク、映像、ライブ、NFTなどクリエイティブで新たなカルチャーを生み出す

Commitment:アーティストを取り巻くコネクションやコミュニティの貢献活動などが全て可視化され、これまで報われることが少なかった人もトークンなどの報酬を得られる

 

リスナーも関係者も、個々が盛り上げたいものを盛り上げて、その活動によって利益が得られる。そういった“普通”のことが可能な仕組みを作る

──「報われることが少なかった人」と聞くと、アーティストの他にも、具体的に思い浮かぶ。たとえば仲の良いバンドの物販を手伝っているスタッフ。ライブ撮影を無償で引き受けているカメラマン。インディペンデントなメディア。友人主催のイベントのフライヤーを作っている駆け出しのデザイナー。“好き”がベースにある音楽業界では、こういったことが当然の慣習となっている。もちろんそれぞれの善意でやっていることと言えば聞こえはいいが、そのバランスが少し崩れたとき、残念ながら関係性が難しくなってしまったり、誰かが無理をしているのが現実だ。

武田:「FRIENDSHIP. DAO.は、技術や想いを“GIVE”し合うコミュニティです。とはいえ、無償では仕事を頼めません。このコミュニティでは、お金に代わる「ポイント」を与え合います。たとえば、キュレーターが音楽をプレイリストで広めてくれたら、そのお礼にアーティストがキュレーターにポイントを渡します。リスナーがSNSで広めてくれたら、リスナーにポイントを渡します。」

──FRIENDSHIP. DAOでは、裏の仕組みとしてブロックチェーンを随所に活用しているという。NFTやポイントを組み合わせて使うことで、コミュニティ参加者間のコラボレーションを促進する。そしてFRIENDSHIP. DAOが目指すのは、コミュニティ参加者みんなの力でポイントやNFTの価値を上げていくことだという。さて、価値を上げるためには何をすればいいのだろうか。

武田:「参加者がやることは、コミュニティで貢献して、ポイントを交換するだけです。コミュニティが活性化すると、結果的にポイントの価値が上がります。株式会社に所属し、自社株の価値を上げるために貢献するのと似た原理ですね。」

──今は夢物語に聞こえる部分もあるが、この青写真に賛同する人が増えれば、実現も可能だ。アーティスト、インフルエンサー、リスナー、キュレーターが参加して、一つの経済がFRIENDSHIP. DAOの中で回っていく。

赤澤:「今も細かい課題については議論の最中です。言ってしまえば、今回の話は最終形態です(笑)たとえば暗号資産の取り扱いは法律的にセンシティブですし、他にも考えることは山ほどあります。でも、今日お話した、目指す世界はブレません。面白さを感じてもらえると嬉しいです」

山崎:「FRIENDSHIP.は中央集権型ではないアーティストの集合体みたいなもので、既にDAOに近いんです。だから『どうせならみんなのFRIENDSHIP.にしよう』というのが、FRIENDSHIP. DAOの最初の考えでした。リスナーも関係者も、個々が盛り上げたいものを盛り上げて、その活動によって利益が得られる。そういった“普通”のことが可能な仕組みを作ることで、アーティストが活動しやすくなるかもしれない。アーティスト、プロモーター、インフルエンサー、リスナー。それらが一つも欠けずに集合したコミュニティが理想です。WEB2.0だけでは活動が継続できないアーティストが、そうでない分野で、マネタイズできる。周りにいる人たちがアーティストを盛り上げると、貢献した対価が得られる。そういったシステムを、精度を上げて作りたいと思います。」

タイラ:「今FRIENDSHIP.が提供できているものは、FRIENDSHIP.のリソースの中で提供できるものなんです。でもこのコミュニティに参画したい人が増えると、提供できる価値が大きくなります。これから色んなアイデアを、コミュニティに入っている皆さんと一緒に考えながら実現していきたいです。」

武田:「みんなで一緒に音楽業界を盛り上げていこう、新しい方向に進んでいこう、そういったきっかけにこのプロジェクトがなればいいなと思っています。」

──今回のトークセッションではWEB3.0やブロックチェーンの基本的な構造から、FRIENDSHIP. DAOが構築しようとしているエコシステムと5つのCのうち「Comittment=報酬」についての話が主となったが、他の4つのCには、より発展的な可能性も示されているように思える。働き方も多様化する中、一つの組織に所属せず働く人が増える社会で、仕事場ともなりうるDAOの世界は誰もが当事者。業界に参加する人が増えることで、当然ながら市場全体が活性化する。次回インタビューでは、実現に必要な乗り越えるべき課題や、他の要素についても訊いていこうと思う。