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第193回 株式会社ローソンエンタテインメント エンタメコンテンツグループ record shop事業部 小松正人氏インタビュー【後半】

インタビュー リレーインタビュー

小松正人氏

今回の「Musicman’s RELAY」はソニー・ミュージックエンタテイメント 薮下晃正さんからのご紹介で、ローソンエンタテインメント エンタメコンテンツグループ record shop事業部 小松正人さんのご登場です。一度ゼネコンに就職されるも、地元に店舗ができることを知り、HMVへ転職。横浜、渋谷と勤務し、音楽業界に衝撃が走った2010年の渋谷店閉店時には店舗事業本部長と商品本部長を兼務していた小松さん。

ローソングループとして再出発後は、出店攻勢をかけ、2014年のHMV record shop 渋谷開店では陣頭指揮を執られます。現在はrecord shop 事業部の責任者として、中古アナログ市場の開拓や、HMV企画によるアナログ再発などに取り組まれている小松さんに、キャリアのお話からアナログレコードの現状まで、お話をうかがいました。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦 取材日:2022年5月26日)

 

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第193回 株式会社ローソンエンタテインメント エンタメコンテンツグループ record shop事業部 小松正人氏インタビュー【前半】

 

HMV record shop独自のアナログ再発企画は年間200タイトル

──中古となるといわゆる相場があるかと思いますが、オープン時はそういったデータベースみたいなものが社内にないわけですよね?

小松:はい、そこも1からでした。例えば、オークションサイトとかいろいろ海外のマーケットプレイスとか、そこでの履歴というのはもちろん拾えるのですが、その価格/価値をどう捉えるかはやはりお客さまそれぞれですので、オープンのタイミングではものによってはすごく高かったり、逆にすごく安くてお客さまに喜んでいただいた価格で出してしまったりとか(笑)、価格は試行錯誤でした。今ではその頃からのデータベースが積み上げられ、ある程度の精度でできていますけれど、立ち上げのときは0ベースでのスタートでしたので、本当に大変でした。

──そして、いざオープンしたら想定以上の売上だったわけですよね。でも売れたら売れたで在庫をまた戻さないといけないし、それはそれで大変ですよね。

小松:おっしゃる通りで、8月2日にオープンして、ありがたいことに予想以上の売れ行きだったので、8月末のほうになると在庫がなくなるわけです(笑)。さすがに、補充分までは手が回っていなかったんです。そこで慌てて8月の中旬ぐらいからスタッフに再度海外に買い付けに行ってもらうわけですが、先ほどの話のように、当時は商品化するのに時間がかかっていたので、なかなか店頭に並べられず・・・。そんなことを繰り返しながら、なんとか年末には安定して売上を立てられるようになりました。

──アーティストで言えば満を持して1stアルバムを出して、売れたはいいけどすぐに1年後に2ndアルバムを出せと言われて「いい曲は全部出しちゃったよ」みたいな(笑)。

小松:まさにそういう状態ですよね(笑)。

──実際に売ったものに対して次の仕入れをしてくるというのが安定するのにどのくらいかかったんですか?

小松:とりあえず応急処置という感じで、年末までに安定はしましたが、今後も事業としてずっと継続していくのにはまだ不安定でした。結局1年後ぐらいにようやく安定的に商品の調達ができるようになったという感じですかね。

──今は国内の買い取りなどでだいぶ賄えるようになってきているんですか?

小松:はい。おかげさまで国内での買い取り依頼を多くいただいています。海外への買い付けに関しては、残念ながら、今はコロナ禍もあり行けていないのですが、基本的には年に数回は行っていました。

──買い取りに関しては競合もあると思いますが、HMVの強みはどこにありますか?

小松:都内3店舗だけでなく、オンラインでも受付をおこなっていること、また、当社のもつ他のサービスを利用いただいているお客さまに対してもリーチできるのが我々の強みかと思います。当社が今欲しいレア盤などの情報や買い取り価格をこまめに打ち出していくことで、それをお持ちの方に売っていただけるチャンスが広がったりとか、そういった当社のもつ他のサービスとのシナジーという部分は強みかと思います。

──仕入れとセールスのバランスを常に考えないといけないでしょうから、なかなか大変な商売ですよね。

小松:そうですね。あと我々がオープンから力を入れていることとして、各レコードメーカー様や事務所/レーベル様に企画を持ち込んでOEM(受託生産)という形で商品を作っていただいて、我々が流通も含めてすべてやらせていただくという、そういった商品もかなり扱っています。

──年間どのくらいリリースしているんですか?

小松:2021年度で年間200タイトルぐらいはリリースしています。あとOEMじゃなくてレコードメーカー様や事務所/レーベル様に音源をお借りして、当社が制作して、流通・販売するということもやっています。当社は商売のプロとして、アンテナをはり、お客さまのニーズも常に把握していますので、そういった企画力・販売力はここ数年ですごくついてきたと思っています。

──HMVによる企画盤は年々増えている感じですか?

小松:そうですね。特に日本のシティポップや、日本のジャズの需要はどんどん高まっていますし、実は現在、当社企画盤を海外のレコード店にも卸しているんですね。そこの需要は年々高まっているので、取引額も増えています。

──マーケットになってきていると。

小松:そうですね。さらに、ちょうどこの2年コロナ禍で海外のお客さまが直接、日本にレコードを買いに来られないということもあるかと思います。そのため、海外のレコードショップから多く問い合わせがあり、当社企画盤に関しては、当社が海外に向けて卸しているという感じですね。

 

日本のシティポップやジャズ、アンビエントの再評価

──ちなみに日本におけるアナログの生産に関して、工場は足りているんですか?

小松:東洋化成様はどんどん生産ラインを増やしていらっしゃるようですが、それでも厳しいと伺っています。他にも現在、ソニー様、あとタフバイナル様がプレスを行っていらっしゃいますが、どこも一杯一杯だというお話を伺いますね。

──需要に供給が追いつかない?

小松:そうなんです。これは世界的な課題になっています。我々も国内だけでは追いつかないので、ヨーロッパのほうとかにもプレスをお願いしています。

──最近、アナログ新譜の価格が上がっていますよね。結構な値段で驚くんですよ。

小松:原材料の高騰もあり、価格は年々上がっていますね。さらに、中古に関しても以前では考えられないような値段になっています。これは、もちろん国内の需要の高まりもありますが、やはり海外での需要ですよね。特に先ほどお話したシティポップや日本のジャズは海外での需要がすごく高まっていて、それで値段が高騰しているような状況ですね。

──なぜ海外で日本のシティポップが売れているとお考えですか?

小松:シティポップもそうですが、日本の音楽で言うと今、アンビエントも人気なんですよね。海外で「Kankyo Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990」というコンピレーションが出て、それがグラミーにノミネートされたんですが、シティポップにしてもアンビエントにしても、日本独特のメロディだったり雰囲気があるので、そういったところに海外の方が惹かれるのかもしれません。

──そういった魅力を理解してくれる外国人が増えたということですね。

小松:ありがたいですよね。余談なんですが、テレビ東京の「YOUは何しに日本へ?」という番組で、「日本にレコードを探しに来ている」という海外の方が出演されて、その方が探していたのが、先ほど少しお話した大貫妙子「SUNSHOWER」だったんです。HMV record shop 渋谷オープン時の再発から、以後何回もプレスされていて、累計で言うと1万枚以上売れているんじゃないですかね。

また最近は亜蘭知子さんという80年代のアーティストが再注目されていて、HMVの企画で「浮遊空間」というアルバムを再発させていただいていたのですが、その作品の収録曲「Midnight Pretenders」をアメリカのザ・ウィークエンドがサンプリングしているんですよね。このように、日本のシティポップがアメリカにまで届いている状況には正直驚きます。

──別の取材で、アナログレコードの再発に関して、当初は40代、50代ぐらいの男性というのが顧客の中心になるという想定で商品を揃えたら、実際はメインが30代だったとおっしゃっていますね。

小松:そうですね。実際は30代~40代のお客さまがメインの客層ではあるんですが、現状では、10代~20代のお客さまが増えてきていると感じています。

──年齢層が下がってきた?

小松:というよりは、もちろん50代のお客さまもいらっしゃいますから、全体的に年齢層が拡大している、裾野が広がっているという印象ですね。例えば、宇多田ヒカルさんのアナログが全タイトルリリースされましたが、購入されたお客さまの客層って完全にフラットとは言わないですが、30代~40代を起点として緩やかな山ができているような状況です。やはり、そういう大型タイトルがリリースされると客層が広がっている感じがするんです。そういう意味では今後もまだまだ広がっていくと思います。

 

アナログレコードを聴く環境を整える啓蒙活動

──アナログを聴く若い人たちって実際にターンテーブルからアンプやスピーカーに繋いで聴いているんですか?

小松:全員に聞いたわけではないので何とも言えないのですが、1万円くらいで買えるスピーカー一体型のプレイヤーで聴いていらっしゃる方が多いようです。そのようなハード面での啓蒙は、東洋化成様やテクニクス様など、各社様と一緒になって何かやりたいですねという話は継続的にしています。

──もっと手軽なプレイヤーが増えてきたらいいですよね。

小松:聴くシーンやニーズによって、いくつか価格帯があると良いのかなと思います。今は1万円台の安価なプレイヤーと、いわゆる標準機のプレイヤー、例えばテクニクス様のSL-1200シリーズだと8万円ぐらいとちょっと開きがあるので、その中間がいくつかあったりするといいのかなと思いますね。ただテクニクス様を筆頭にハード部分での啓蒙活動に力を入れていらっしゃる姿を拝見しているので、非常にありがたいなと思っています。

──アナログは音の魅力もありますが、大きいジャケットが欲しいとか、そういう側面もあるわけですよね。

小松:手元に残しておくなら、大きいジャケットのアナログが欲しいというところからスタートして、「そもそもレコードってどうやって聴けばいいんだろう?」と店舗で1万円ぐらいのプレーヤーを買うと。プレーヤーに関してはアナログとセットで買って行かれる方も多いです。

──この先、さらなる店舗展開の計画はあるんでしょうか?

小松:首都圏を中心に、地方の大都市などへの店舗展開は継続的に考えています。あと当社は中古の買い取りシステムを持っていますから、ほかの商材も含めて、幅も拡げていきたいなと思っています。

──幅というのは商品のですか?

小松:はい。当初のプラン通り、事業領域を拡大するにあたって”中古”の商材は他にも色々ありますので、培ってきた知見を活かし、商材を拡げることも視野に入れています。

──正直、HMV record shop 渋谷オープンのニュースを聞いたとき「今さらそんな店舗を作って大丈夫なのかな?」と心のどこかで思っていたので、ここまで拡がりを見せるとは思っていませんでした。

小松:そうですよね。皆さん、おっしゃいます(笑)。HMV record shop 渋谷をオープンする際プレスリリースを出したのですが、その後、いろいろな方やお客さまの反応をSNSとかで拝見しましたけれど、否定的な意見も多かったですしね。

──例えば、アナログ人気を足がかりに、洋楽ファンがまた少しずつ増える気配とかはないんですか?

小松:少し増えてきそうな感じはしています。それは、今アナログを買っている若年層のお客さまが好きな邦楽アーティストの方々は、洋楽をよく聴いていらっしゃるんです。そういった、好きなアーティストのルーツを掘り下げるといいますか、そのようなところで徐々に啓蒙していければ、まだまだ広がる可能性はあるのかなと思いますし、当社も頑張っていきたいですね。

──アナログが売れているということはそういう面でもいいことがあると。

小松:そこはあると思いますね。

 

ユーザーの意見を吸い上げた高い精度のアナログ企画を提案していきたい

──小松さんが今後日本の音楽シーンに望むことはなんでしょうか?

小松:“日本の音楽シーンに”と言われるとかなり大きいお話ですが(笑)、現在の事業にかかるアナログ視点で言いますと、いろいろなタイトルがアナログで揃っているような状況になるのが理想ですね。

──それはお店に、という意味ですか?

小松:お店に、ですね。やはりできるだけ幅広いタイトルをお客さまに供給できるようにするのが我々としては目標です。

──それは一筋縄じゃいかないですよね。新たにプレスするとなると、やはりお金がかかるじゃないですか?そうするとかなり見込みがないと踏み切れないですよね。

小松:先ほどもお話しましたが、当社ではレコードメーカー様とこまめにコミュニケーションを取りながら「今回はこういう企画で」とOEMでアナログを作っていただいていることも多いので、今後もお客さまの意見などを吸い上げつつ、自分たちのアンテナも広げ、企画力を高めていきたいです。特にアナログに関しては、この企画の部分は本当に難しく、私たちもこの8年でずっと勉強している部分ではあるんですが・・・。

──ある一定のファンを持っているアーティストだったら、アナログ盤を作るべきだと個人的には思いますけどね。

小松:最近はMr.Childrenさんや福山雅治さん、星野源さん、宇多田ヒカルさんもそうですが、いわゆるトップアーティストの方々がアナログでもリリースされることが増えてきたので、裾野を広げるという意味で非常にありがたい傾向だなと思います。

──今後、音楽業界にもアナログに理解のある若い方々が増えてくれると良いですよね。

小松:そうですね。当社もアーティストの方々やレコードメーカー様に提案させていただくときにはそのアーティストのことを考えつつ、リスナー目線で、リスナーが欲しいと思われるものを企画するわけですが、やはり企画する自分たちが音楽が好きじゃないと厳しいんですよね。愛と情熱がないといい企画もできないと思いますし(笑)。そういう意味では、当社には店頭にいるスタッフも含めて、音楽やアナログが好きなスタッフがたくさんいますので、そこはすごくありがたいなと思っています。

──もちろん、アナログ人気はHMV record shopさんだけで起こしたわけではないですが、現場がリスナーを大事にフォローしつつ、地道にやってきたことの積み重ねによって起こったんだと、お話をうかがって感じました。

小松:ありがとうございます。おっしゃる通り、当社だけの力ではなく、色々な環境やタイミングなど本当に運が良かったと思います。みなさまのおかげで、少しずつ実を結んできているのかなとは思いますね。自分たちのアンテナを信じつつ、ユーザーの意見を反映した企画力や、今まで培ってきたアナログ制作のノウハウや販売力などが我々の強みだと思いますので、これからもレコードメーカー様やアーティストの方々、レーベル/事務所様とは協力・連携させていただきながら、色々と企画できればと思っておりますので、何かあれば、お気軽にお声がけやご相談をいただきたいと思っています。