【特集】Web3.0時代のエコシステムを実現する共創型コミュニティ「FRIENDSHIP. DAO」が目指す世界とは?──中核メンバーの山崎氏・赤澤氏・武田氏にインタビュー

インタビュー 特集

FRIENDSHIP. DAO メンバー

レコードやCDが売れた時代から一変、2014年にはデジタル売上が物理売上を超え、2015年には音楽ライブの売上が音楽ソフト売上を超えた。*そんな中で訪れた2020年のコロナ禍。アーティストの収入源の大部分を占めていたライブができず、音楽業界は大打撃を受けた。そして“不要不急”とまで言われたことで、これまで曖昧にも古い慣習が受け継がれ、大きくは変わらなかった音楽業界の収益化構造が、もはや機能していないことを業界内外が再認識したのだった。

*榎本幹朗「音楽が未来を連れてくる」(2021年)

2022年3月、HIP LAND MUSICが運営するキュレーション音楽のデジタル配信サービスFRIENDSHIP.が発展した形として発案された「FRIENDSHIP. DAO(フレンドシップ・ダオ)」は、ブロックチェーンの技術を活用した、Web3.0時代の新しいコミュニティ。これからの時代は、アーティストが自分で権利を持ち、活動に応じて正当な利益を得る。そしてアーティストのサポートをしている、熱量で動いた人の役割にも健全な報酬が割り当てられる。そのような透明で直接的なやりとりにより、経済活動を活性化させる構想の実現が可能だという。

MusicmanではFRIENDSHIP. DAOを業界全体で共有すべき重大な改革の一歩と捉え、特集する。初回ではトークセッション「Web3時代に向けた新しい音楽体験と表現方法」のレポートを掲載したが、2回目となる今回は、中核メンバーの3名にインタビューを敢行。3年前にスタートしたFRIENDSHIP.は、そもそもどういった経緯で立ち上がったのか。発起人の山崎和人氏(HIP LAND MUSIC / FRIENDSHIP.)に振り返ってもらう。そしてその意思が発展した形としてのFRIENDSHIP. DAO始動にあたり、他業種から参加する赤澤直樹氏(Fracton Ventures)、バンド・LITEのメンバーでもある武田信幸氏(行政書士/ミュージシャン)に、それぞれの立場からFRIENDSHIP. DAO発案の経緯や未来への構想を語ってもらった。

FRIENDSHIP. DAOが大切にする活動指針には、前回のレポートで取り上げた「見えない善意の報酬化」だけではなく、海外へ向けたプロモーションとアーティスト同士・アーティストとクリエイターのコラボレーションの活性化など、カルチャー全般を盛り上げる側面も含まれている。大手プロダクションとIT最前線、現場のミュージシャンという座組みだからこそ実現できる一人ひとりのアーティスト、関係者、クリエイター、リスナーに寄り添った丁寧なプロジェクトの進め方は、決して派手なイノベーションに見えなくとも、着実に影響力を持って広がっていくことになるだろう。

取材日:2022年6月18日 取材・文:柴田真希 撮影:Yoshiaki Miura

プロフィール

山崎和人 ※今回はオンライン参加


2000年、株式会社ハーフトーンミュージック⼊社、2003年よりライブハウス”新宿MARZ”店⻑/ブッキングマネージャーを経て、2009年に株式会社ヒップランドミュージック・コーポレーション⼊社。The fin.、LITEのA&R/マネージャーとして、作品リリースやアメリカ、ヨーロッパ、アジアなど数々の海外ツアーの制作を担当。2019年5⽉より、デジタル・ディストリビューションと PR が⼀体となったレーベルサービス「FRIENDSHIP.」をスタートさせる。


武田信幸


2003年に結成したバンド”LITE”のギタリスト。アメリカ、ヨーロッパ、アジアで延べ 200公演を⾏い、国内では FUJI ROCK FESTIVAL へ、海外では ArcTanGent や SXSW 等の⾳楽フェスへの出演を果たす。2013年より⾏政書⼠としても活動。2018年株式会社 INQの執⾏役員就任。2022年始動の株式会社ヒップランドミュージックコーポレーションが主宰する”FRIENDSHIP. DAO”にボードメンバーとして参画。


赤澤直樹


2016年からフリーランスエンジニアとして活動を開始。機械学習やブロックチェーンを利⽤したアプリケーションの企画設計開発を⾏う。2018年から国外のコミュニティを中⼼に、トークンエンジニアリングの発展・普及にコミットしている。2021年1⽉末にはFracton Ventures株式会社を共同創業。同社でWeb3.0社会、DAOの普及・到来に向けて啓蒙を含めた活動を⾏う。


FRIENDSHIP.

海外で主流なアーティスト主導の活動形式を日本に持ち込んだ、これまでのレーベルに代わる、デジタルのディストリビューター。所属するキュレーターが厳選した音源のみをリリースすることでクオリティを担保し、プロモーション価値を上げるため必須のブランディングに成功。アーティストが権利を手放さず、FRIENDSHIP.がプロモーションなどをサポートすることで、双方が主体性を持った対等な関係性を実現している。

*前回記事→【特集】WEB3.0時代のエコシステムを実現する共創型コミュニティ「FRIENDSHIP. DAO」が目指す世界とは?ーーSSR2022トークセッションレポート

 

FRIENDSHIP.はアーティストの個人レーベルが集合した新しい形

──FRIENDSHIP.は2019年5月に立ち上がりました。山崎さんが発起人と伺いましたが、どういった経緯で発案されたのでしょうか。

山崎:僕がマネジメントを担当しているThe fin.というアーティストが、2015年にロンドンへ拠点を移したんです。それで最初は、現地のレーベルからリリースして、プロモーションしていこうと考えていました。ところが現地の関係者から話を聞いていると、ほぼ全員に「原盤の制作まで担うレーベルではなく、デジタルディストリビューションと組んで、アーティスト自身で原盤を作って活動する方が良い」と言われたんです。

──当時、欧米では既にデジタル音源が浸透していたのでしょうか。

山崎:既にフィジカルよりもデジタルが主流でした。欧米では以前から、アーティスト自身でマネージャーや弁護士を雇ったり、PR会社と契約したりする、アーティスト中心の仕組みが出来上がっていたんですよね。だからアーティスト中心の仕組みにデジタルディストリビューターも加わることによって、アーティストが自分で原盤を持って活動をコントロールできる。その話を聞いて、「日本でも同じ形になっていくだろう」と思っていました。

──当時、日本はどういった状況でしたか?

山崎:AppleMusicがスタートしたばかりで、Spotifyは日本に来ておらず、まだまだフィジカルの販売がメインでした。

──それで4年後に FRIENDSHIP.を開始されるわけですね。

山崎:2016年にSpotifyがスタートした頃から徐々に国内のリスナーもデジタルに移行して、CDが売れなくなっていきました。この状況が続くと、プロダクションとしてはインディーズのアーティストに充てられる費用がどんどん減ってしまい、最終的にリリースも難しくなってしまう。その状況に危機感を覚え、2019年、インディーズでもクオリティの高い作品を自分でリリースして、プロモーションもできる形を作りたい、という想いでFRIENDSHIP.を始めました。

──モデルにされた海外のサービスはありましたか。

山崎:イギリスのデジタルディストリビューションサービスAWALの話を聞きました。ここではまさに、アーティスト中心の音楽活動をサポートする形が実現されています。FRIENDSHIP.も同様で、デジタルディストリビューションが中心にありつつ、HIP LAND MUSICがこれまで培ってきたプロダクションとしての機能を、必要に応じて追加できるようにしました。プロモーションや、出版管理、海外へのPRやブッキング、フィジカルの流通代行、そういったノウハウは他の国内ディストリビューターにはないFRIENDSHIP.の特徴だと思います。

──HIP LAND MUSIC内の、これまでのプロダクション機能との棲み分けはどのようにされているのでしょうか。

山崎:HIP LAND MUSICとしては、引き続きサカナクションやKANA-BOONを中心にした音楽プロダクション、マネジメント会社という側面があります。それとは別に、新しいアーティストをどんどんリリースして、将来的にマネジメント契約する「レーベルセクション」がありました。その部分がFRIENDSHIP.に置き換わった形ですね。

──3年目に突入しましたが、手応えはいかがでしょうか。

山崎:想定していたよりも、速い速度で成長しています。コロナの影響で、デジタルの需要が突然増えたことで、アーティストから「FRIENDSHIP.で配信したい」という要望をもらうことが増えました。しかも、当初想定していた「デジタルディストリビューションとレーベルの間」という形とはまた違った関係性が出来上がっていて、「これは新しい!」と思ったんですよね。

──それはどういう形ですか?

山崎:アーティストの数だけ個人レーベルがある、個人レーベルの集合体みたいな形になっていたんです。FRIENDSHIP.では、アーティストが原盤を自分たちで作って、それを預かった僕らが一緒にプロモーションをしたり、リリースまでの段取りを組みます。その時、アーティストに対して担当者が必ず1人ついて、会話しながら進めていくんです。

──キュレーターとはまた別で担当者がいるんですね!これまでは、「レコード会社に所属するアーティスト」という関係が主流でしたが、FRIENDSHIP.では、それぞれのアーティストの名前が先にあって、各自が頑張ることによって「この人もFRIENDSHIP.」「このバンドもFRIENDSHIP.らしいよ」という形で認識される。個々のアーティストが成功した結果、FRIENDSHIPの価値が上がっていきますね。

山崎:アーティストとフラットな関係性を築けている理由の一つが、顔が見えるキュレーターがリリース作品を選ぶ方式を取り入れていることだと思います。これって画期的で、レコード会社のA&Rの人が、公の場に自分の名前を出しているみたいなことですよね。だから責任感が大きいのはもちろん、アーティストから見ても、海外で活動していたり、カルチャーの前線で活躍しているキュレーターの活動スタンスに引っかかるとサポートしてもらえる、という筋道が見えるんです。だからFRIENDSHIP.を選んでくれる。そういったお互いのメリットが見れた上で、透明性のある契約をしたいと思っています。

 

過去の行動や貢献度、繋がりを可視化すると、コラボレーションが生まれやすい

──アーティストとの斬新な関係性を実現することで、活動をサポートできているのがFRIENDSHIP.の一つの特徴だと分かりました。それが今後「FRIENDSHIP. DAO」としてWEB3.0の仕組みを取り入れた発展をしていくと、どういったことが可能になるのでしょうか。

赤澤直樹氏

赤澤:Web3.0で実現可能な一番大きいことは「可視化」です。DAOはブロックチェーンの技術を使うことで唯一性が担保でき、コミュニティに参加している人の、貢献度の可視化がされます。だから山崎さんが言う「透明性」は、FRIENDSHIP. DAOの中でより精度高く実現できると思います。これまでのWeb2.0、たとえばSNSでは何個でもアカウントを作れたので、その人がどれくらい一つのコミュニティに対して貢献したか、正確に知るのが大変だったんですよ。

──可視化できると、コミュニティ内の人にどういうメリットがあるのでしょうか。

赤澤:たとえば「新しくこういうことをやりたいけど、誰に頼もう?」と思ったときに、ただ単に目立つとか、知り合いだからという理由ではなくて、その人の行動や貢献度、実績を踏まえて判断ができるんです。その上、誰と繋がりがあるかも見えるので、頼みやすくなると思います。

──「5つの“C”」のうちの1つ、「Connect:コミュニティへ参加することにより、それぞれの参加者同士がダイレクトに繋がることができ、リーチすることが困難だったリソースへのアクセスが可能となる」というところですね。FRIENDSHIP. DAOのコミュニティ外との交流も、ありえるのでしょうか。

赤澤:たとえばヨーロッパで似たようなDAOがあったら、そことクロスオーバーしながら交流を活性化するようなことも、今後の展開としてあると思っています。

──同じブロックチェーン上にいるからこそできることですよね。その交流の延長線に「Collaboration*」があるかと思いますが、ミュージシャンでもある武田さんとしては、コラボレーションの文脈でアーティストが参加するメリットを、どのように感じていますか。

*Collaboration:従来イメージされるようなアーティスト同士のコラボレーションはもちろん、コミュニティ内の人々がそれぞれのリソースを出し合い、「キュレーターやメディアによる作品の拡散」「ファンコミュニティの形成・サポート」など音楽にまつわる文化活動を活性化させることで、その一つ一つをコミュニティ成長への貢献に繋げることができる

武田信幸氏

武田:「このアーティストがこのプロデューサーとやっている」という情報は、これまでは開示されないこともあったんです。開示されたとしても繋がり方が分からない。でもDAOならそれが分かるし、連絡もできるわけです。そうすると、プロデューサーの人に直接連絡してコラボレーションできるかもしれない。

──仕事をする上でもやりやすくなりそうですね!

武田:他の人が抱えているリソースを活用できるのは、DAOに入るメリットの1つです。参加者がお互いに自分のリソースを開示していくことで、アーティスト同士でも繋がっていく可能性を持った集合体だと思います。ただ、契約や言語、お金の壁など色々と乗り越えなくてはいけないことは沢山あります。

──この間のトークセッションでお話されていた「Commitment:アーティストを取り巻くコネクションやコミュニティの貢献活動などが全て可視化され、これまで報われることが少なかった人もトークンなどの報酬を得られる」については、どのように開始されるのでしょうか。

山崎:最初はいわゆる企業ポイントと同じような運用で、トークンの活用を目指しています。FRIENDSHIP.に協力してくれているキュレーターの方が「このアーティストいいよ!」ってSNSで言ってくれたりするんですよ。そういった善意のプロモーションや貢献に対して、ちゃんと対価が支払われる仕組みにすることがスタートラインだと思っています。他にも、たとえばアーティストが曲をリリースすることはFRIENDSHIP.に対しての貢献です。これまで曖昧だった報酬がちゃんと支払われるようになると、コミュニティがどんどん活性化していく。

武田:そしてみんなが「コミュニティに貢献したい」と集まってくれればくれるほど、DAOの中で経済を回していくことも可能になります。

──コミュニティとしての価値が上がると、トークンの価値も上がりますね。

山崎:だから尚更、参加する全員の「コミュニティを育てていこう」という意識に繋がるんです。そして曲が聴かれて、ファンがつくことにより、アーティストの活動がマネタイズされていく状態を目指しています。

 

カルチャーをDAOとしてコミュニティ化できたら、きっと本当の意味でFRIENDSHIP.が勝手に広がっていく

──今はどのくらい、具体的に進行されているのでしょうか。

赤澤:ステータスで言うと、絶賛開発中です。FRIENDSHIP.という母体になるコミュニティに対してFRIENDSHIP. DAOが入ってきますし、僕らもコミュニティの一部なので、対話をしながら、関係者全員で歩調を合わせながら丁寧に階段を上るように進めています。突然作り込まれた仕組みを出して、アーティストに「NFT出しましょう」と言ったところで、「これ使いこなせるのかな?」と不安を感じますよね。だから一連の技術やコンセプトに触れる機会はなるべく多く作って、勉強会も開いたり、発信と開発の両輪で進めている状況です。

──その丁寧さは、母体にHIP LAND MUSICがあるからこそですね。

赤澤:どこかのIT企業がぽっと出て同じことをやろうとしても、自己満足になりかねないですよね。だからこそ、このHIP LAND MUSIC、FRIENDSHIP.と我々Fracton Ventures、ParadeAll株式会社という座組みが肝心です。そこには当然アーティストが入ってきたり、キュレーターと話をしてみたりということも含まれます。

──今後はどういった業界のプレイヤーが参加されることを想定されていますか?

山崎:まずは、海外のキュレーター、インフルエンサー、PRとブッキングエージェンシーに入ってきてもらいたいと思っています。「デジタルは国境がない」とよく言いますが、じゃあ実際に海外に日本の音楽が伝わっているかというと、まだまだ伝えきれていない部分が大きい。DAOを使って海外のプレイヤーを引き込むことによって、本当の意味でグローバルなアーティスト活動が見えてくるのかなと思います。

──海外作家さんや音楽出版については予定されているのでしょうか。

山崎:それで言うと、実はライブとシンクロの2軸で考えています。現地のエージェントやプロモーターは、言語の壁があるので、日本のインディーズシーンの情報を得るのが難しいんですよね。これまでFRIENDSHIP.を介してアーティストにコラボレーションや仕事のオファーが来ていたところをDAO化して、ダイレクトにアーティストと海外のエージェントの人が繋がる形を作れると、需要があると思います。

──FRIENDSHIP.に既に来ている要望は、どういったものですか?

山崎:海外のシンクロの会社の人から「日本でこういう曲をリリースしているアーティストはいませんか」といった問い合わせが来たり、実例としてはフルアルバムをリリースしていなかった新人アーティストのVivaOlaやWez AtlasのSXSW出演や、僕がマネジメントをしているThe fin.と中国のバンド・ORANGE OCEANが共同作品を作ってリリースしたことで海外のリスナーも増えたりなど、デジタルならではの反響が少しずつ出てきています。

──海外に向けたプロモーションはどういった形でされているのでしょうか。

山崎:海外と親和性があるアーティストについては、英語のプレスリリースを現地のメディアに送ったり、契約している現地のPR会社にお願いしたりしています。海外のプレイリストに楽曲をピッチすることもあります。

──アーティスト個人でそれをやるのはハードルが高い気がしますが、FRIENDSHIP.を活用して海外に出るチャンスを作れるのは嬉しいですね。音楽業界については海外を志向しつつ、業界外ではどういった方の参加を想定されていますか?

山崎:音楽の周辺で必ず必要とされている、アートワーク系のデザイナー、映像のディレクターや監督に入ってきてもらいたいです。色々なクリエイターに参加してもらうことで、アーティストも幅広い選択肢から選んでお願いできるようになりますよね。今、FRIENDSHIP.でクラフトビールを作っているんです。活動指針である5つのCの1つに「Culture」というところがありますが、そういう音楽の周りにいる人たちにも入ってもらって、カルチャー全般として盛り上がっていくコミュニティを作りたい。

*Culture:アーティストが中心となり、コラボレーションを通じて楽曲、アートワーク、映像、ライブ、NFTなどクリエイティブで新たなカルチャーを生み出す

──そこにリスナーも参加していくことになるのでしょうか。

山崎:ゆくゆくは、リスナーの参加も考えております。第1フェーズとしてはFRIENDSHIP.が原資を持ってスタートして、そこにアーティストやキュレーターを巻き込んでいく。コミュニティのコアな部分が形成されたら、メンバーシップNFTの発行などを通して原資を膨らませて、外からの資本の流入も考えます。その後、リスナーの方にもDAOに参加してもらうために、どこかのタイミングで一般に開放したいと考えています。そうすることで自ずとFRIENDSHIP. DAOが動き出すことを目指して、やっていこうと思います。