広告・取材掲載

88rising CEO ショーン・ミヤシロ氏インタビュー、LA開催「HEAD IN THE CLOUDS 2022」で今後の展望を語る

インタビュー フォーカス

ショーン・ミヤシロ氏

アジア系HIPHOP/R&B/POPのレーベル、そして、クロスメディア企業/ブランドの88risingが毎年開催しているフェスティバル「HEAD IN THE CLOUDS 2022」が、8月20日、21日の2日間にわたってロサンゼルス、パサデナのローズボウル・ブロックサイドの特設会場で行なわれた。

4月に世界で最も影響力のある音楽フェスであるコーチェラのメインステージで行なった、ショーケース・ライブ「HEAD IN THE CLOUDS FOREVER」は世界の音楽シーンに大きなインパクトを与えた。日本では宇多田ヒカルの出演が大きな話題となったことも記憶に新しい。今回の取材期間にもまさに、88risingの中心アーティストの一人である日本とオーストラリアのハーフのシンガーソングライター、Jojiが新曲「Glimpse of Us」を全米および全世界のポップチャートにトップ・ランクインさせ、トップ・レベルのブレイクに手をかけている。

近年アメリカにおいて、ダイバーシティが語られる中、アフリカ系、ラテン系だけでなく、アジア系も音楽分野で目覚ましい活躍を見せている。かつて、黒人のモータウンやラテン系のファニアといった、レーベルとして社会にインパクトを与え、社会を変えたように、今、この瞬間もアジア系アメリカ人、そしてアジア人、またその周りにいる人々の意識を変えていっているように感じる。

2018年頃、JojiやRich Brianをアジア人アーティストとして初めてビルボードのHIPHOPチャート、R&Bチャート1位に送り込み、衝撃を与えた88rising。そこから数年経ったが、その勢いはさらに増している。

CEOのショーン・ミヤシロ氏に、世界の音楽シーンに大きなインパクトを与えたコーチェラ以降、88risingの今後の展望や、宇多田ヒカルやTERIYAKI BOYZ®、新しい学校のリーダーズ!など日本のアーティストとのプロジェクトについて、また日系アメリカ人である自身のルーツなどについて、フェスが開場する直前、快晴に恵まれたLAパサデナの会場にて語ってもらった。

執筆:脇田敬 インタビュー・翻訳:物袋正雄

──インタビューに応えて下さりありがとうございます。お会いできて光栄です。YouTubeでコーチェラを見ました。とても驚き、アジアンポップスという新しいジャンルの誕生にとても感銘を受けました。

ショーン・ミヤシロ氏(以下S):光栄です。よろしくお願いします。

──ショーンさんは、日系アメリカ人ですが、日本語は話せますか?

S:全く、話せません。(笑)

──(笑)まずは、まもなくスタートする「HEAD IN THE CLOUDS 2022」に向けて、気分はどうですか?

S:最高です。このフェスティバルは、毎回、スペシャルです。私が1年で1番好きな日と言っても、過言ではないです。正直、私にとっては、コーチェラよりも刺激的だと思います。

photo by Ivan Menezes

──コーチェラ、それがまさにお聞きしたかったことです。今年のコーチェラのメインステージで「HEAD IN THE CLOUDS FOREVER」というスペシャル・ショーケースを行い、YouTube中継で全世界に発信しました。アメリカ、そして世界での88risingの知名度と存在感は格段に増したと思います。今年のコーチェラ出演が88risingに与えた影響について、どう考えていますか?

S:あのような形でコーチェラでショウを行なえたのは本当に凄いこと(DOPE)だったと思います。やらなくちゃいけないことは非常に多かったですが、次につながる機会だと思っています。よりビッグな存在になるため、より素晴らしい存在になるために、一段一段、階段を登るように私たちの価値を証明していく機会だと考えています。いつも大事にしていることは、自分たちがやりたいことに忠実であり続けることです。そうすれば「良心」はクリアで心は満たされますし、前に進むモチベーションを保ち続けていくことができると思います。

──コーチェラと言えば、サプライズがありました。日本のシンガーソングライター・宇多田ヒカルがパフォーマンスを披露しました。さらに、コラボ曲の発表もありました。その背景は何ですか?

S:彼女は伝説ですが、過小評価されている人です。

──それは、西側諸国で、と言うことですか?

S:そうですね。日本ではもちろんビッグですし、どこでもビッグですが、彼女が最初のアルバムをリリースした時、私や私の友達も含めて、多くの人にとって非常にインパクトのあることでした。私の友達には色んな人種の人がいます。そこには、中国人もいて、韓国人もいて、白人もいて。彼らもみんな彼女の曲が好きでした。日本の若いアーティストである彼女が英語を話し、曲を書き、ああいったタイプのサウンドで歌っていることは私達にとって非常に感動的でした。彼女がしていたことは本当に重要なことで、私達を奮い立たせました。その後、韓国の音楽が沢山出てきましたが、それ以前にアジア人であんなに英語を話すアーティストはいなかったし、彼女は僕にとっても本当に重要な存在だったんです。

──素晴らしい話ですね。

S:凄くおもしろいのが、私よりずっと年下の社員が沢山いるんですが、みんな彼女が好きなんです。彼らが彼女を知ったきっかけはそれぞれ違うかもしれません。それでも、みんな彼女の存在を知っているし、愛している。今回のコーチェラでのステージの目的はアジア音楽界のレジェンド達を祝福することでした。だから、私たちは、コーチェラで彼女のステージを用意したんです。彼女は今までにフェスに出たことがなかったんですが、そのコンセプトを説明した時、すぐにそのアイデアに共鳴してくれて、出演を決めてくれました。とても美しいプロセスでした。

──ありがとうございます。ではTERIYAKI BOYZ®についてお話ししましょう。今回は、そのレジェンド枠として、TERIYAKI BOYZ®が出演します。その背景をお聞かせ願えますか?

S:VERBALは、僕の兄弟みたいな存在です。そして、「TOKYO DRIFT」はもちろん、彼らが生み出したファッションと音楽が一体となって生み出したカルチャーは間違いなく伝説でしょう。ヒップホップの世界において特に影響力を持っていて、その文化的な影響力は凄まじいです。NIGOがクリエイターとして世界に与えた影響も言うまでもありません。なので、彼らがステージでどんなパフォーマンスをしてくれるのか非常に楽しみなんです。そして、今回、実はサプライズもあるんです。

photo by AI.VISUALS

──その噂は聴きました。Rich Brianとのコラボですよね。具体的に、どんなサプライズなんですか?

S:明日の夜、出演アーティスト皆がステージにいるフェスのファイナルステージでTERIYAKI BOYZ®とRich Brianが「TOKYO DRIFT」を一緒にパフォーマンスします。Rich Brianがオリジナルのヴァースを披露するんです。沢山の人が見る瞬間になると思うので、とてもDOPEな時間になると思います。

──Rich Brianは、YouTubeで「TOKYO DRIFT」のフリースタイルでバズを起こしてましたよね。楽しみです!次の質問は、新しい学校のリーダーズについてです。彼女達は、88risingが初めて契約した日本を拠点にするアーティストです。彼女達のどういった面に惹かれましたか?

S:初めて見た時、彼女たちはぶっ飛んでると思いました。なので、私が個人的に取り組んでいきます。パフォーマンスには、とても目を引く物がありますが、どうやってパフォーマンスするのかなど、誰かが教えているようには見えないのです。全てが彼女達の心の底から出てくる自然なパフォーマンスです。なので、彼女達を本気でサポートしたいと思っています。彼女達は世界で最も大きなグループの1つになる力があると思います。でも、そのためには、みんなが本気で取り組む必要があります。BABYMETALのように楽曲もショーも本当に最高でなければいけないし、ファンもマネジメントチームもアーティスト自身も皆が一丸となってその夢を叶えないといけないのです。新しい学校のリーダーズはもっと注目されるべきです。私たちは、彼女たちが夢を叶えるためにその機会を提供したいのです。

photo by AI VISUALS

──今年の後半、88risingは東南アジアで「Head in the Clouds Festival」を開催します。フィリピンのマニラ、インドネシアのジャカルタなどでの公演となりますが、他の国々、例えば、日本や韓国、中国などでの公演のプランはありますか?

S:私たちは数年前に日本に行ったことがあります。

──2019年ですね。どう感じましたか?

S:素晴らしかった(DOPE)です。私たちはみんな東京という場所を愛しています。なので東京でフェスを開催することは私たちの夢なんです。でも、私たちは日本では十分にビッグではないです(笑)

──88risingは欧米圏、そして特に東南アジア圏ですごい存在感を示しているのに、日本での知名度はそこまで高くありません。なんだか悔しいですね。

S:88rising所属の日本人アーティストが増えて、フルタイムで私たちの音楽のプロモーションを担当する日本のチームができるといいんですが、まだいないんですね。

──私たちがやってもいいですか(笑)

S:もちろん!(笑)本当に重要なことなんです。確かなのは、私たちは今後日本でもっとたくさんのことをやっていくつもりだってことです。

──Jojiは日本出身のスターですよね。

S:まさに、そういうことなんです!

── ショーンさん、日系アメリカ人として、ビジネス面以外で日本に対して特別な感情はありますか?

S:もちろんです。私の父は日本で育ちました。それに、私のおばあちゃんは日本人で、おじいちゃんはハワイで育った日本人です。でもその後、彼は日本に戻りました。私にとって父はとても大切な存在なのです。父は日本の米軍基地の近くで育ちました。恐らく東京から近い場所だったと思いますが、彼は日本とアメリカの文化を同時に経験しながら、成長することができました。さらに、彼は東京のジャズ・クラブが好きで、素晴らしいアーティストを沢山見に行ったみたいです。彼は当時知りませんでしたが、それらのアーティストは、将来日本の伝説になるようなアーティストたちでした。日本のジャズのシーンは本当に素晴らしいです。私には日本にファミリーがたくさんいますが、彼らから受ける印象は、日本人はとても情熱に溢れていて、ディテールにこだわるということです。彼らは皆、なにかの専門家で、人生全体をそれに捧げているのです。私が本当に大好きな日本の一面です。何かで一番になったり、一番のものを作ったり。そういった仕事に対する情熱や姿勢こそが、私の父と祖父が私に教えてくれたことです。

──日本の音楽が国際市場に進出する可能性についてどう思いますか?

S:「グローバルに行きたい」と考えることは、良くないアプローチだと思いますね。それは良くない。自分の哲学に忠実に活動して成長すれば、海外のファンも自然に付いてくるのです。ラテン音楽などは良い例ですよね。どの国でもそうですが、日本にも素晴らしいアーティストが沢山います。ベトナムにも沢山います。どの国のアーティストも正しくプロモートすれば、海外での成功事例も増えてくるでしょう。

大事なのは「1人では出来ない」ということです。アーティストが才能を持っているだけではだめで、あなたを成功させる残りの50%の要素は「チーム」です。これは、本当に大切なことです。一人ではできません。例えば、新しい学校のリーダーズはビッグな存在になる可能性を秘めていますが、それを実現させるのは私たちと彼女たちのパートナーシップなのです。彼女たちだけで実現できるのか?それは、わかりません。私たちの手助けだけで成功するでしょうか?しません。私たちがしっかり組んで、一緒に多くのことを積み重ねれば、このプロジェクトは必ず成功します。しかし、そこで大事なのは、アーティストとマネジメントの組み合わせにおける、ある種の“フォーミュラ=方程式”なんです。

──最後の質問です。あなたは、アメリカで初めて、この巨大な「Asian Pop」というジャンルのブランドを作り、とてもクールな文化として定着させました。そんなあなたが見据える次の一手は何でしょうか?88risingの未来をどう考えていますか?

S:世界的なスターやアジア系スターがいないような国の才能あるアーティストに、そのためのプラットフォームを提供し、手助けしたいと考えています。タイやベトナム、日本のアーティストとも仕事をしています。特に、日本については、いくつか進めているプロジェクトがあります。まだ始まったばかりですが、この過程には凄く自信を持っていますし、日本で面白いこと(DOPE)になると思っていますよ。

──日本で注目しているアーティストはいますか?

S:日本のポップミュージックは素晴らしいと思います。たとえばXGとかもすごいですよね。彼女たちは、日本から出てきた新しいガールズグループなのですが、恐らくビッグになると思います。私は詳しくは知りませんが、私の会社の多くスタッフたちが彼女たちについてよく話していますし、大好きなようです。日本人アーティストで、このような盛り上がりになっているのは初めての経験ですね。まだ2,3曲しかリリースしていないのに。必ず有名になると思いますよ。

──ありがとうございました。

 

短い時間だったが、リハーサルの音が聞こえてくるフェス現場での高揚を感じながら話すことが出来た。HIPHOPカルチャーをベースにしている彼らしく「DOPE」を連発しながらも、アジア的な気配りや優しさが伝わる話だった。

そして、そんな彼の姿勢はフェス全体からも伝わった。

インドネシアやタイなど東南アジアや日本や韓国アジア各国から集められたアーティスト、またはアジア系アメリカ人のアーティストたちと観客が、リラックスして思う存分騒いで、楽しめる場所。コーチェラが厳しい音楽ビジネスの戦場だとしたら、この「HEAD IN THE CLOUDS」は、ホームかもしれない。

photo by Alive Coverage

今回コロナで出演キャンセルとなったインドネシア人シンガーソングライターのNIKIに代わって1日目のトリを務めた日本出身のJojiのパフォーマンスは、YEBI LABS という名義でのトリッキーなDJセットであった。全米および全世界で大ヒット中の美しいバラード「Glimpse of Us」をズタズタにリミックスした変態性に会場は温かい苦笑いで包まれた。

2日目のトリを飾った香港出身中国人アーティストJackson WangはK-POPグループGOT7のメンバーでもある。ソロ・アーティストとして中国でも1位を獲得するアジアン・スーパースターとしてアメリカでのブレイクが射程距離に入っている彼は、国と国、文化、経済の衝突を越える「ポップ・スター」を目指し、ストイックな挑戦を続ける。

完璧主義の彼らしいセットを終えた後、フェス最後のフィナーレをまとめている姿も印象深かった。私たち日本人的に言えば「座長」のような責任感溢れる立ち回りは、親近感を感じさせた。しかし、同時にハリウッドで活躍する大女優ミッシェル・ヨーを登場させ、スケールの大きさも発揮している。

photo by Alive Coverage

このアジア的大家族のような居心地の良さと、グローバルな音楽ビジネスでのスケールが同居している未体験で前人未踏の状況こそが88risingの凄さだと思う。JojiやJacksonのような桁外れな才能を持つアーティストとタッグを組み、テクノロジーとマーケティングを駆使し強力にサポートしビジネスを拡大する88risingのアプローチは、まさにインタビュー中でショーンが語っている内容そのものだ。同時に、自然であり、自分たちらしさを失わず、やりたい事を楽しむ姿勢はヒップホップ・カルチャーからの影響も大きい。宇多田ヒカルやTERIYAKI BOYZ®、K-POP出身のソロ・アーティストたちをレジェンドとしてリスペクトし、新しい学校のリーダーズ!のような次世代アーティストをフックアップしプレゼンテーションする。インタビュー及び、ネット・メディア、そしてフェスと立体的に展開するレーベル&メディアの現在の姿を体感する貴重な機会となった。

日本の音楽シーンのデジタル化と国際化のこれからを考える上でも非常に示唆に富んでおり、今後更に協業が増えることを期待したい。

脇田敬氏(写真左)物袋正雄氏(写真右)

88risingとは。 アジア系HIPHOP/R&B/POPのレーベル、そして次世代メディア企業である88risingは、デジタルマーケティングと鋭い嗅覚とクリエイティブ力を武器に、Rich BrianやJojiといったアジア系アーティストを全米チャートにランクインさせ脚光を浴びた。2021年にはマーベル初のアジア系スーパーヒーロー映画『シャン・チー』の音楽を手掛ける。2021年4月に世界最大級のフェス「コーチェラ」メインステージでの「HEAD IN THE CLOUDS FOREVER」は日本でも宇多田ヒカルの出演で大きな話題を呼んだ。

脇田敬 Wakita Takashi

音楽プロデューサー、マネージャー。大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻教授。

経済産業省監修デジタルコンテンツ白書編集委員。ニューミドルマン・コミュニティ、音楽デジタルマーケティング講座運営。

著書「ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務」(リットーミュージック)

https://lit.link/wakita

物袋正雄 Motte Masao

現役大学生ミュージシャン。東京大学建築学科に在籍しながら、マルチリンガル(日本語、英語、中国語)を活かして、音楽業界の表・裏を問わず、活動中。

https://lit.link/lieus