コロナ禍の3年間を経て未来へ向かうZAKURO SHOW〜和楽器ライブ「ZAKURO SHOW」インタビュー
日本の代表的な和楽器(箏、尺八、三味線、太鼓等)を邦楽界トップレベルの演奏家たちが演奏するライブを2018年から定期開催している「ZAKURO SHOW」。主に海外からの観光客を対象としていたが、他のエンターテイメント同様、あるいはそれ以上にコロナ禍で大きな影響を受けた。来日する観光客もストップし、イベント開催も制限されたこの約3年間をZAKURO SHOWはどのように乗り越えてきたのか? 定期公演を再開する2023年以降、どのような展望をもっているのか? ZAKURO SHOWを主催するジュリア・グビナさんと動画作成にも携わられた若生志乃さん、そしてリモートにて同主催でバイオリニストのカレン・イスラエリヤンさん、尺八奏者で和楽器オーケストラあいおいを率いる松崎晟山さんに話を伺った。
(インタビュアー:屋代卓也、榎本幹朗)
ZAKURO SHOWを何としても継続させようと思った
ーー前回のインタビューを2020年1月に公開した直後にコロナが始まり「これはZAKURO SHOWも大変だろうな」と思っていたんですが、実際はどうでしたか?
ジュリア:コロナが始まる1年半ぐらい前からZAKURO SHOWを始めて、取材していただいたときは満席とは言えないまでも、少しずつ集客が増え2020年春のチケットもかなり売れていましたし、その夏には東京オリンピックが予定されていましたから、ものすごく期待していたんです。まあ、日本中の人たちがそうだったと思いますが(笑)。夏もいくつか通常公演を入れて、このチケットも少しずつ売れていたんですが、コロナが始まってもちろん全部キャンセルですよね。もちろんそのときは「どうしようかな」と思いましたし、2020年の春も緊急事態宣言が出続けていて、ホールも使えない、イベントも開催できない状況で、松崎さんもものすごく大変だったと思います。
松崎:そうですね。それまで毎年やっていたイベントが中止になったりしましたので、これは代わりに何かしないとなと思いましたね。
ジュリア:2020年の春も夏も何もできなかったですし、代わりにオンライン上で何かをやるといっても一から作らなくてはいけなかったので思案していたときに、若生さんから「アートにエールを!」というオンライン限定の、東京都の助成金を紹介していただいたんです。それで、その助成金に申請してみたら助成金が下りました。
若生:かなり応募が多かったので、申し込んだ全員が助成金を受けられたわけではなかったみたいなんですが、運良く選んでいただいて。
ジュリア:その助成金を元に、2020年の秋に原宿のHall 60にみなさん集まっていただいて動画を撮影しました。若生さんは映画監督でもあるので、彼女に撮影していただきました。
ーーそれがZAKURO SHOWのYouTubeチャンネルに上がっている動画ですか?
ジュリア:はい。そのときに撮影した動画をZAKURO SHOWのYouTubeチャンネルで公開し、それを「アートにエールを!」の特別サイトでも公開&宣伝していただくという形でした。現在はZAKURO SHOWのホームページにも載せてあります。
若生:本当に定期演奏会の紹介と言いますか、楽器や演奏に関する説明をして演奏してもらうというそれまでのZAKURO SHOWスタイルの動画になっています。
ジュリア:ZAKURO SHOWの特徴であるバイリンガルを生かすために、日本人のスピーカーと、私の英語の両方で演奏前の紹介をして、その後、演奏を入れました。
ーーそのときが最初の助成金ですか?
ジュリア:そうですね。これはものすごく助かりました。あのときに助成金が下りたからこそホールのレンタルや、演奏者の皆さんへのギャラも払えましたから、とても大きなサポートでした。
ーー2021年もコロナ禍が続きましたね。
ジュリア:2021年、ZAKURO SHOWには2つの大きな気づきがありました。まず「アートにエールを!」をきっかけに動画を作ったことで、オンラインでまた何か作ろうという気持ちになりました。また我々が助成金を受けて、イベントをすることによって私たち主催者だけじゃなく、演奏者やホールなどコロナ禍で困っている音楽業界の方々をサポートできるんだと思ったんです。
ーー通常のライブができなくてもどうにか活動は継続しようとされたんですね。
ジュリア:そうですね。ZAKURO SHOWをコロナの間はお休みして、コロナが終わったら通常ライブを再開しようとしていたら、正直再開できなかったと思います。いつコロナが終わるか分からなかったですし、だったらコロナ禍でもできるだけ頑張って、ZAKURO SHOWを何としても継続させようと思いました。ですから、演奏できる場や機会があったら続けていこうと思って、2021年は色々な場所を探していましたね。
ちょうどその頃、文化庁の「ARTS for the future!」という助成金ができたんですが、この申請がものすごく複雑で(笑)、とても大変でした。特にZAKURO SHOW主催者の私とカレンは、ロシア人とアルメニア人じゃないですか?いくら日本語ができても文化庁の50ページの手引きを読み込まなくてはいけなかったので大変でした(笑)。
ーーあれをお2人でやったんですか? すごいですね。
ジュリア:まあ、若生さんがメインでやってくれて(笑)。あとカレンの奥さんであるピアニストの矢崎さくらさんのサポートがなければ、私とカレンだけでは絶対に申請できなかったと思います。
ーー我々も助成金とか色々申し込みましたけど、日本人の私がやっても途中で「もう助成金なんていらない!」と言いたくなるぐらい面倒でしたよ。では、2021年度はその文化庁の助成金を受けられたということなんですね。
ジュリア:ええ。実は「ARTS for the future!」を申し込む条件の1つに、いつもと違う新しいプログラムというか新企画をやらなくてはいけないというのがあったんです。
若生:つまり、これからのための助成金なので、ということですよね。
ジュリア:それで2021年の12月に新しい企画を作ろうと、松崎さんたちのアンサンブルをメインに考えたんですが、ZAKURO SHOWってそもそも外国人のための企画で、海外からの観光客や日本に住んでいる外国人のご家族とかが、京都とかに行かないで東京で伝統文化や伝統音楽に触れられるように2018年の秋に作り、オンラインで海外に宣伝した結果、前回取材していただいたときにはプログラムもしっかり固まったものになっていたんです。
ーープログラムとして完成されていたと。
ジュリア:そうです。ZAKURO SHOWとは海外の観光客や日本在住の外国人たちに和楽器の魅力を伝えるものなのに、外国人観光客が一切来なくなってしまった。そして、日本にいる外国人、もちろん外国人だけではないですが、あの時期は誰もイベントへ行かなくなってしまった。つまり外国人観光客だけではなくて、日本国内もビタッと人の流れは止まってしまったんです。
ーー日本のアーティストも全く活動できませんでしたし、もちろん海外からのアーティストは一切日本に入ってこられなかったですし、音楽業界は大変なことになっていましたよね。
若生:つまり、せっかく助成金をもらって大きなコンサートをやるんだったら、私たちの本来のターゲットとは別の、日本人の方に来てもらわないことには成り立たないということになったんですよね。ですから、そのためにはどうしたらいいかということですよね。
ジュリア:それまで私たちは外国人を集客するために一生懸命やっていたわけですが、そこでいきなり日本人を集客しなくてはならなくなり、どうやったらいいのかわからなくなってしまったんです。和楽器音楽って本当はすごく面白くて迫力のある音楽なんですが、日本人の中ではちょっとニッチな音楽ですし、クラシック音楽の方が人気あるんじゃないかなと思ったんですよ(笑)。
ーー確かに・・・(笑)。
ジュリア:で、カレンはプロバイオリニストですから、クラシックの室内音楽トリオを入れて、和楽器奏者とのコラボで新しく作ったプログラムをやろうと思いました。そして2021年12月にサントリーホールのブルーローズ(小ホール)でやった「ZAKURO SHOW グローバルフューチャー」というコンサートでは、バイオリンとチェロ、ピアノと和楽器がコラボしました。
松崎:普段のZAKURO SHOWではコラボレーションとかやっていなかったですし、カレンさんは主催者でありながらもヴァイオリン奏者でもあるので、ぜひ一緒に共演したいなと思ったんですよね。
ーーカレンさんとはそれまでは一度も一緒に演奏をしていなかったんですか?
松崎:そうなんですよ。それで邦楽の曲にカレンさんにソリストとして入っていただき、2022年開催したとき(「ZAKURO SHOW GLOBAL スピリチュアル・フュージョン」)はその逆にクラシックの楽曲に邦楽器が入ることになったんです。
和楽器によるカバー動画を10本制作
ーーZAKURO SHOWは継続的に助成金を得ることができて、そのことによって活動を絶やさずにいられたわけですね。
ジュリア:本当に助けていただきました。ただ助成金によってあらかじめいただける金額が決まっているものや、経費は一旦こちらで立て替えて、その領収書を提出することでお金が戻ってくる形の助成金だったり、いろいろありましたので、それに慣れるまでが大変でした。ただ、その助成金がなかったらZAKURO SHOWも新しい企画ができなかったと思いますし、本当にありがたかったです。
あと2021年、ZAKURO SHOWはもう1つ企画がありました。それはYouTubeの和楽器カバー動画です。ラッキーなことに、その10本の動画を作るためにスポンサーについてくれる方が現れました。あのときは松崎さんたちに色々苦労していただいて本当に申し訳なかったんですが(笑)。
ーー松崎さんがダンスまでしていたやつですね(笑)。
ジュリア:しかも松崎さんには全部レコーディングとかまでやっていただいたんですよ。ちょうど松崎さんが兵庫県姫路市にスタジオを建てたときで「いらっしゃい」と言ってくださって。
松崎:コロナが始まってから仕事がなくなったので「じゃあ、スタジオを作ろう」と作業していたときだったので「そこでやってしまいましょう」と。
ジュリア:最初は3本作ろうという話だったんですが、その後も色々な無茶ぶりをしてしまって・・・ただ、私たちの宣伝の仕方が上手くいっていなくて視聴者数が少ないので、もっと多くの人に観ていただきたいなと思っているんです。
ーーレディー・ガガやビリー・アイリッシュのカバーはぜひ本人たちにも観てもらいたいですよね。
ジュリア:そうですね。届いてくれたらいいんですけどね。
若生:私たちも宣伝に苦労していたので、せっかくなのでこの機会に認知度あげるためと言いますか、コロナが収束したときにもっとお客さんが来てくれるようになったらいいなと思い、今できることは動画作成かなと。
ジュリア:以前、松崎さんたちに邦楽の楽器についてお話していただく楽器紹介動画も若生さんに作っていただいて、その動画もYouTubeチャンネルに載せたんですが、これもなかなか観てもらえなくて「なぜなのかな?」と考えたんですが、私たちはもう邦楽の魅力に気づいているから色々な伝統文化を面白く感じるんですが、外国の人たちに興味を持ってもらうためにはもうちょっとメインストリームと言いますか、誰でも分かるような曲で動画を作っていかないと、興味を持ってもらえないのかなと思ったんですよね。
ーーとっかかりがないとダメだと。
ジュリア:そこから「和楽器ってこんな迫力があるんだ」「和楽器ってこんなかっこいいんだ」「こんな音色があるんだ」と気づいてもらえたらいいなと思うんですよね。ですから、世界中で知られている曲の和楽器カバー、しかも単純にカバーするのではなく、松崎さんのような和楽器のプロたちや編曲家に作っていただいて録音し、ヴィジュアルも、例えば姫路の伝統あるロケーションで撮影したり面白いものにしようと。それで東京半分、姫路半分くらいの撮影になったんです。
ーー日本の旅を紹介する海外のYouTuberって人気があるじゃないですか?そういう方々に取りあげてもらうとか、コラボしたりしたら合いそうですよね。
ジュリア:ええ。YouTuberとコラボというのも実は考えていて、やはりコロナでできなくなってしまったんですが、旅行関係のYouTuberは頭になかったです。それはすごくいいアイデアだと思います。
ーー「ジャパン・トリップ」で調べただけでも100万再生とかどんどん出てきますからね。そろそろ日本の旅もネタ切れになっていますし、日本文化に触れることができる、しかも外国人に伝わりやすいZAKURO SHOWは話題としてすごく良いのではないかと思います。
ジュリア:確かにZAKURO SHOWのターゲットは観光客ですからなおさらそうですよね。私たちはこの2021年から2022年にかけて YouTube動画があったからこそ、和楽器の紹介をどこから始めればいいのか、どんなやり方でどんな曲を選べばいいのか、このコロナ禍の中でも学べたと思います。そして、2022年になったら通常のZAKURO SHOWも春と秋にやろうかなと思って、色々な観光会社に連絡して「もしツアーが再開したらZAKURO SHOWをツアーに入れて欲しい」とお願いしました。もちろん観光客のグループが集められたらの話で、もし集められなかったら「なし」という感じだったんですが、春に「20人のグループで行きます」と連絡があったんです。それで通常のZAKURO SHOWを再開しようと、会場を仮予約して、ホームページもアップデートしたんですが、結局観光客が来日できなくて、会場もキャンセルしました。
また秋はアメリカのお客さんの仮予約が入っていたんですが、これも2ヶ月前ぐらいになったらキャンセルになり、2022年末の文化庁の助成金によるコンサート(「ZAKURO SHOW GLOBALスピリチュアルフュージョン」)の準備も色々ありましたので、秋も中止になり、結局、2022年も通常のZAKURO SHOWはできなかったです。
ーーその「ZAKURO SHOW GLOBAL スピリチュアルフュージョン」を拝見しましたが、色々なコラボがあってすごく面白かったです。
ジュリア:ありがとうございます。ZAKURO SHOWの歴史上初の大コラボで(笑)、居合道の方や書道の方とか、あとスペインから招待した優秀なバイオリニストや日本舞踊とのコラボなど、「せっかくだから全部やってしまいましょう!」とちょっとクレイジーな企画になってしまったんですが(笑)、すごく面白かったです。
若生:今回、周りも一気にコンサートをやり始めた時期だったので、集客も苦労したというか、もう有名な海外のアーティストとかもみんな来日し始めていて、それはそれで大変でした。
ジュリア:2022年の秋くらいから来日公演が活発になってきましたね。レディー・ガガが来て、ノラ・ジョーンズが来て、ブルーノ・マーズが来て。で、日本国内の大スターたちも動き始めて、集客は大変でしたね。
ーー会場の日経ホールのキャパが600人くらいだと思いますが、外国人の割合はどのくらいだったんですか?
若生:半分くらいですね。家族連れも多かったですし、2021年のサントリーホールは小ホールでしたが、今回は倍とまでは言いませんが、さらに大きい会場で開催できました。
ジュリア:2021年12月のサントリーホールのときはまだコロナが落ちついてなかったんですが、演奏会の開催自体は大丈夫そうな時期だったんです。ただ、一般的には観客はコンサートに行くか行かないかでまだ迷っている時期だったので、客席もソーシャルディスタンスしっかりとるようにした関係上、キャパ300のサントリーホール ブルーローズにそこまでお客さんを入れることができなかったんです。あと撮影もあったので、後ろの席を使わなかったりしたんですが、それでも150人は入りました。そのときでも半分以上は外国の方だったと思います。
定期公演の再開と日本人へのアプローチ
ーー2023年度はどのような予定になっているんですか?
ジュリア:ようやく今春にZAKURO SHOWの通常コンサートを行うことになりました。
ーーそれは観光客の方がいらっしゃる?
ジュリア:はい。まだコロナ前のレベルではないですが、観光会社からどんどん依頼が入り始めています。「今ツアーを組んでいるのですが、ZAKURO SHOWもプログラムに入れたい」とか。ただ2月とかですと、まだそんなに観光客が来る予想はできないので、桜の季節の3月28日と4月6日を予定しています。まずは通常の、海外からの観光客向けのZAKURO SHOWをやりながら、新しいことを考えていきたいと思っています。
ただコロナ禍でもZAKURO SHOWを続けてきてちょっと驚いたのは、私たちは日本人のお客さんはあまり期待していなかったんですが、結構日本人のお客さんも来て楽しんでくれたんですね。国際カップルとか、奥さんか旦那さんか誰かが外国人で、その日本人のご家族がZAKURO SHOWに来たら、その日本人の方たちも「こんなの初めて観ました」「すごく面白かったです」とおっしゃるんです。
私は日本に来る前、日本に関して色々調べたり、アニメやドラマも観て「日本ってこういうところなんだ」と学んでから来たんですが、和楽器は、日本人はみんな学校の授業で触れて、誰でも知っていると思っていたんですよ(笑)。ヨーロッパの人たちはみんなクラシック音楽になんとなく触れるんですよね。バイオリンやピアノなどみんな授業を受けたりしていたので、同じように日本人は誰でも和楽器のことを分かっていると思っていたんです。
ですから、外国人に和楽器の素晴らしさを伝えなきゃいけないけれど、日本人は和楽器のことを分かっているでしょう? そんな説明いらないでしょう?ってZAKURO SHOWを始めたときには思っていたんですけど、実はそうでもなかったという(笑)。
ーー(笑)。
ジュリア:で、日本人のお客さんもZAKURO SHOWを楽しんでくれるので、今まで通常のZAKURO SHOWはほぼ英語で宣伝していたんですが、今年から日本語でも宣伝して、日本人の方も来てくれれば嬉しいなと思っています。もちろん、ZAKURO SHOWの基本は外国人向けの、海外に和楽器を紹介するプログラムなので、もっとオンラインで和楽器についての情報を増やしたいですし、また機会があったら新しい動画を作ったりもしたいと考えています。
あと希望としては今年か来年かちょっと分からないですが、海外での公演もやりたいなと思っています。ただ、普通に「コンサートやります」ではなくて、日本に興味を持っている人に和楽器の素晴らしさを伝えたいと思っているので、日本に対してものすごく興味を持っている人たちが集まるアニメフェスとかでコンサートをやりたいです。
あとアメリカやヨーロッパにあるんですがアニメフェスから派生したジャパンフェスですね。私がまだ海外にいたときはそういったイベントはアニメメインだったんですが、今は日本の食事、ドラマ、アニメ、文学と、アニメフェスじゃなくて日本文化フェスになっています。そういうところで、和楽器演奏のコンサートをやるのなら、演奏だけじゃなくて、和楽器についての説明や、日本の歴史と和楽器また楽曲との関係や繋がりを説明すれば、和楽器のことがみんなもっと好きになるのではないかと思っています。
ーー同感です。
ジュリア:松崎さんたちもコロナ前は海外でコンサートをやっていますが、今後そういった予定はありますか?
松崎:実はドバイ万博に行く予定だったんですが、万博自体が延期になったことでなくなってしまって、今は大阪万博に向けての話をしています。
ーーカレンさんは今スペインにいらっしゃるそうですが、どういった目的でスペインに行かれたんですか?
カレン:私は今バルセロナの学校に行っているんですが、その学校ではアートマネージメントについて勉強していて、生徒が世界各国から来ているので、勉強だけでなく将来的に彼らと何かコラボレーションできないか探ったり、ネットワークの構築も同時にやっています。
ーーなぜスペインだったんですか?
カレン:ヨーロッパの人はもちろんのことラテンアメリカはスペイン語圏ですので、そういう国の人たちも多いですし、北米の方たちも来るということで、スペインには世界中から人が集まってくるんですよね。
ーーなるほど。ちなみにスペインでは日本の文化ってどう受け止められているんでしょうか?
カレン:日本への興味は大きいみたいで、やはりアニメやポップカルチャーが有名ですが、私が一緒に勉強している人たちは「ディープ・ジャパン」つまり日本の伝統文化に対してもすごく興味がありますし、そういった歴史や文化に対してのリスペクトをものすごく感じます。また、ZAKURO SHOWのことをクラスの教授たちに紹介したんですが、大変興味を持ってくれました。
ーーカレンさんは先ほど「ディープ・ジャパン」とおっしゃいましたが、すごくいい言葉だと思います。日本ブームが起こっていることは知っているのですが、もっと深く知ってみようという機運の中で「純邦楽」というジャンルはより価値を増しそうだなと感じました。
ジュリア:先日、知り合いのガイドさんたちと「コロナ後にツーリズム・スタイルはどう変わったか」という話をしたんですが、ガイドをしている人たちがよく言っているのは、例えば、5年くらい前は、海外の人たちはみんな日本について全く分からなかったし、情報が少なかったから日本でのガイドさんって日本の歴史を語ったり、観光ルートを決めるのが大きな仕事だったそうなんです。でも、コロナ後の現在は、もう何でもインターネットに情報が載っているし、ユーチューバーやポッドキャスト、トリップアドバイザー、Google Mapとか何でもあるから、現在の旅行は「情報」ではなく「体験」が重要なんだそうです。つまり「日本人がやっていることをやってみたい」というか「ディープ・ジャパンを体験したい」と。そういった流れの中でZAKURO SHOWはどうしていくのがいいのかと考えています。
ーーカレンさんはいつまでスペインにいる予定なんですか?
カレン:あと1週間ほどで帰国します。こちらで得た情報を色々持って帰りますよ。
ジュリア:もしかしたらいろんなコラボレーションが海外とできるかもしれないですね。
カレン:彼らの中ですごく話題になっていることとしては、日本に限らず「伝統文化をどういう風に守るか?」ということで、どの国でも大きな課題になっているみたいです。やはりグローバル化がありますし、移民や色々な文化が入ってきたりして、固有の文化を守ることがなかなか難しくなっていると。特にクラスの人たちは、私やジュリアのような外国人がなぜ日本の文化を海外に紹介しているのか、なぜその役目を担っているのかすごく興味深かったようですし、私自身も日本の伝統文化を守り伝えることの重要性を再確認しました。
2023年は色々なことにチャレンジしていきたい
ーー2023年度も助成金は続いているんですか?
ジュリア:それはもうないですね。
ーーということはもう1回原点に戻って活動していこうと。
ジュリア:そうです。ただ、コロナの間でものすごく色々なことを学んだので、通常のライブをやりつつ、学んだことを生かして、将来的には海外にも行けるように頑張りたいのですが、和楽器についての情報がものすごく足りないので、私たちもオンラインで、まあ英語がメインになると思いますが、情報をどんどん発信していきたいなと思っています。
昨年12月のコンサートで日本舞踊の曲には歌詞があったんですが、その英語版は存在してなかったので、私たちが翻訳しました。ただ、その作ったものをそのままにしておくのではなくて、例えば、ホームページに英訳した歌詞を掲載して、興味を持った外国の方が閲覧できるようにしようと思っています。コアなファンではなくて、一般人に対して、もう少しそういった情報を増やしていかないと興味を持ってもらえないと思いますしね。
松崎:あと先ほども少しお話ししましたが、大阪万博に向けて、これからいろんな取り組みをしていきたいですね。海外のお客さんもたくさんいらっしゃると思うので。
ーー動画に関して、音楽の路線としては、今YouTubeでやっているようなポピュラーな曲を中心にやっていくんでしょうか? 個人的にはハリーポッターとかかっこよかったです。
松崎:ありがとうございます(笑)。これから新作も作っていかないといけないですね。
ーーでも題材は無限にありますよね。例えば、フルートの入っているジャズなんて、フルートが尺八に置き変わっても何の違和感もないですよね。
松崎:音色的に被っていない楽器とやるのは全然問題ないですね。
ーーそういえば、先日のグラミー賞では、箏や三味線など日本の伝統楽器を取り入れた宅見将典(Masa Takumi)さんのアルバム「SAKURA」が「最優秀グローバル・ミュージック・アルバム賞」を受賞しましたよね。
ジュリア:そうですね。グラミー賞を受賞した「Sakura」は若い世代の和楽器奏者にとって大チャンスになると思います。和楽器の珍しい音色、分かりやすいメロディー、現代感を持って、Masa Takumiさんの音楽は和文化の心を持ちながら、世界中の人誰でも楽しめるような作り方になっています。「Sakura」をきっかけに世界中の人々は和楽器の音を発見するかもしれません。タイミング良く、この波に乗って、もっと和楽器の魅力を世界に見せないといけないですね。
ーーあと動画に関して、初心者向けならば、長い動画よりもYouTubeショートやTikTokみたいな短めの方が入りやすいと思うのですが、TikTokはまだやってないんですか?
ジュリア:TikTokはこれからやらなきゃいけないなと思って、試しに今まで作った動画を5秒とか10秒に切ってそのまま乗せたら反応あったんですよね。「すばらしい」とか「面白い」とか「着物を着た日本人だ!」みたいな反応はありましたね(笑)。
ーーTikTokやYouTubeショートの方が数字は簡単に出やすい傾向なので、そっちの方がいいかもしれないですね。
ジュリア:とにかくやりたいことが多くて(笑)。でも、SNSとかは本当に毎日ちゃんとやらないと駄目ですよね。
ーー毎日やっているとみんなついてきてくれるんだけど、時々だとなかなか付いてこなくなっちゃって、週に3回は最低でもやらないとみんながついてこなくなっちゃうんですよね。
ジュリア:ZAKURO SHOWのSNSは私が中途半端にやっていて、月に1回2回しか更新していないのでフォロワーは全く増えていないんですけど、今年からは頑張りたいです。
ーーあとショーをやるにもロケーションって大事だと思うんですよ。街中のビルの1Fとかではなくて、例えば、都心の隠れ家みたいな洋館とか、お寺でもいいので、そういう日本の文化を海外に広めるために力を貸そうって言ってくれるような方がいればいいんでしょうね。場所は多少不便でも。
ジュリア:今の観光客なら多少遠くても行くでしょうしね。国内旅行をしていても「こんなところまで外国人が来ているの?」って思うことも多いですしね。「どうやって知ったの?」って(笑)。
ーーやはりディープ・ジャパンを感じたいんでしょうね。
ジュリア:ZAKURO SHOWの音楽の質は高いと自負していますし、私たちが目標としていることも間違っていないと思うのですが、あとはどうやって多くの人に届けるかという部分なのかなと思っています。ですから、今ご提案いただいたロケーションや空間プロデュース、あるいは演出的な面も含めて、今年は色々なことにチャレンジしていきたいですね。