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音叉点──音楽と●●の交差点 第十三回ゲスト:リンキィディンクライブハウス統括/天狗興業・小牟田玲央奈

インタビュー 音叉点

小牟田玲央奈氏(写真左)河野太輔氏(写真右)

「音叉点(おんさてん)」とは「1.音楽と●●が交差するところ 2.チューニングされるきっかけ」を意味する言葉である。ライブハウスでは日々沢山の音楽が鳴り、音と音が混ざり合い音色となるように、人と人が出会うことで新しい物語が始まっている。

この対談ではそんなライブハウスの一つ、渋谷La.mamaでブッキングを主として物語を紡ぐ河野太輔が、音楽に関わるゲストと毎回異なるテーマを切り口に相手との「音叉点=チューニングされるきっかけ」を見つけていく。河野とゲストの会話で、誌面がまるでライブハウスのように広がりを持っていく過程をお見せしよう。

第十三回のゲストは、下北沢、吉祥寺、八王子エリアを中心にスタジオやライブハウスを展開するリンキィディンクでライブハウス統括を務める小牟田玲央奈さん。ハネダアカリ、裸体などが所属するREVOLUTION TEMPLE RECORDSのほか、5月27日、28日に東京・立川ステージガーデンで開催される『CRAFTROCK FESTIVAL’23』の制作や、LOSTAGEの47都道府県ツアーも手がけるなど、音楽業界の裏方全てを司ると言っても過言ではない。その活動内容は河野さんと共通することも多く、今回の対談が実現した。

テーマはイベント制作の要「ブッキング」。インディーズで活動を継続するために重要なことや、これからのライブハウスのあり方について、音楽業界で働く人、ブッキングの仕事に興味のある人は全員必見の内容となった。

取材日:2023年5月10日 場所:ALTBAU with MARY BURGER  取材・文:柴田真希 撮影:加藤春日

プロフィール

河野 太輔(かわの・だいすけ)


1985年1月生まれ。宮崎県出身。自身のバンドでドラマーとして活動後、2005年にLa.mama に入社。入社後はイベントの企画制作、新人アーティストの発掘や育成、レーベル運営など活動は多岐にわたる。


小牟田玲央奈(こむた・れおな)


都内でライブハウス、スタジオ等を展開するリンキィディンク初代統括部長。音楽レーベルREVOLUTION TEMPLE RECORDS代表。泡盛とカバを愛する1979年生まれ。


 

昔はライブハウスごとにジャンルが分かれてましたが、今はどこも他ジャンルになってきています

──お二人はこれまでどんな接点がありましたか?

小牟田玲央奈(以下:小牟田):リンキィディンク系列の新宿JAM(※現在、西永福JAM)にいたスタッフが、今はLa.mamaでお世話になってます。

河野太輔(以下:河野):玲央奈さんのレーベルのskillkillsに、イベントに出てもらったこともありますね。LOSTAGEの47都道府県ツアーの制作は、どういうきっかけで始めることになったんですか?

小牟田:LOSTAGEは昔から仲が良かったこともあって、ずっと手伝ってました。それで今回アルバムのリリースとツアーが動き出すタイミングで相談をもらった経緯です。現在は、リンキィディンクでレーベルとライブハウス事業、CRAFTROCK FESTIVALの制作などの仕事、天狗興業をやっています。リンキィディンク歴は21年目になりました。河野さんもLa.mama長いですよね?

河野:18年目です。玲央奈さんは、始めは吉祥寺WARPですか?

小牟田:そうです。WARPでスタートしてからずっとWARPでしたが、2018年に今の店長の小泉と2人店長スタイルになって、その後、現場は離れました。リンキィディンク系列は関東に8店舗あって、それぞれで店長の趣味とブッカーの趣味が混ざった色がついています。

河野:新宿、下北沢、西永福、大塚など都市部と、吉祥寺、西荻窪、八王子など西東京にお店がありますよね。特に吉祥寺や八王子などの西東京エリアは大学のサークルが元気なイメージがありました。

小牟田:そうですね。全店舗で若手バンドをやっていきたいという考えは共通しているんですけど、でもここ数年は少なかったです。大学のサークルでコピーバンドをやっていた子たちがオリジナルバンドを始めて、ブッキングライブに出るという流れが、コロナ禍で途切れた気がします。吉祥寺は最近持ち込みのイベントが減って、箱の手打ち企画が増えた印象があります。

河野:下北沢は、もはやサブカルチャーの街という印象も薄れて、渋谷との境目が無くなってきている感じですよね。

小牟田:分かります。ブッキングの色も昔は箱(ライブハウス)ごとにジャンルに特徴がありましたが、今はどこも多ジャンルで似通ってますね。La.mamaやFEVERは、組んだ人の顔が見えるなと思います。

 

10代無料は、ライブハウス全体でやったほうが良い

河野:昨年からLa.mama企画のイベントでは、ほとんど10代を無料にしているんです。それで若いお客さんも増えてきました。

小牟田:U-19の取り組み、注目していました。実は僕らもずっとやりたいと思ってたんです。物価が上がって、チケット代が高くなっているじゃないですか。そうすると若い子たちはどんどんライブハウスに来づらくなってしまう。だから10代無料や中高生を無料にするのは、すごくいいですね。それで遊びに来た子がバンドをやっていて、ブッキングにも出てくれる、みたいなことが起こったら幸せだな、と思います。

河野:最初はそれを想像していたんですけど、予想外にも、求人応募がすごく増えました(笑)。

小牟田:それもめちゃくちゃいいですね。

河野:リンキィでもやってください。

小牟田:やりたいです。むしろLa.mamaや僕らに限らず、ライブハウス全体でやったほうが良いですね。そういうところから、生まれるカルチャーがあるので。

河野:La.mamaの受付におすすめイベントのチラシを貼っているんですけど、10代無料チケットで来たクラスメイト同士とかで「あの日のチケット買った?」みたいな会話をしているんですよね。クラスのちょっとしたコミュニティのきっかけにもなっているみたいで、すごく嬉しいです。

小牟田:生の反応を見るのって、超重要ですよね。「今の若い子達は、TikTokでバズってる曲が好き」とか「バンドは聴かない」とか噂で聞いたことばかりを鵜呑みにしていると、勝手にバンドが落ち目になっていく。バンドが今も盛り上がっているということは、僕らが提示していかなきゃいけないと思います。コロナ禍、楽器の売り上げが、めちゃくちゃ増えたんですよ。ということは、そろそろライブハウスの出番じゃないですか?このチャンスを、生かすも殺すも僕ら次第です。

河野:リンキィは以前、若者向けに週末のお昼に楽器のワークショップをやってましたよね。

小牟田:やってました。あれはすごく好評だったので、またやりたいです。近所の小中学生が50人くらい来ていて、そこからドラム教室に通い始めた子もいます。バンド好きが育つようなタネ植えは常にしなきゃいけないし、僕らの宿命だと思ってる。僕なんとなくですけど、バンドブームがもう1回来ると思ってるんですよ。

河野:そうですね!来ると思います。

小牟田:それまでに、ちゃんとバンドがメイクマネーしながら、活動できるような環境にしてあげたい。今の日本は、インディーズがあまり収益を上げられない構造になっているので、よくないと思います。

 

アーティストにできる限り還元できる環境を作る

河野:バンドマン、商売下手ですよね。

小牟田:日本では「バンドマンは貧乏が当たり前」みたいな雰囲気がありますけど、そのイメージ、不必要ですよね。金持ちである必要はないけど、別に貧乏である必要もない。「バンドじゃ飯は食えん」という考えの人には、「別にそんなことないから、どうするか考えようぜ!」と言いたいです。だから天狗興業では、アーティストにできる限り還元できるような制作をしていきたいと思っています。

河野:それこそLOSTAGEはDIYで活動してますよね。今回のツアー、ライブハウスでの手売りチケットがあったり、メッセージ性を感じました。

小牟田:プレイガイドで買うよりも、800円安くしています。昔はアーティストが手売りチケットを箱に取りに来て、自分たちで売る文化があったじゃないですか。その文化を思い出しておきたい、という意図です。実は吉祥寺WARPでは普段から、店頭売りチケット分のアーティストへのバックを高くしているんですよ。

河野:それいいですね!

小牟田:やる気ボーナス(笑)。便利なことも大事だけど、アナログなこともやってみたほうがいい。

河野:LOSTAGEの新しいアルバムの売り方も、注目していました。ライブ会場と限られた店頭でしか売らない方法、僕ら世代としては昔は普通でしたが、今やっていると、逆に新しさを感じるんですよね。

小牟田:普通なんですけどね(笑)。最近は、若手バンドが物販でCDを置いてるのをあまり見なくなったし、置いていたとしても、MCで宣伝しない。物販がないこともある。その真逆が、LOSTAGEです。CDを売るし、物販もたくさん作る。

河野:DIYでここまでできるんだ、とインパクトがありました。

小牟田:もちろん流通会社を通してCDを販売することは悪いことじゃないし、チケットも、プレイガイドで売ってもいいと思うんです。でも手間をかけて届ける経験をしておけば、人気が出る中で自然と適切なタイミングで「サブスクをやったほうがいい」とか「プレイガイドを使ったほうが便利だ」と判断できるようになると思います。

──何が必要で何が不必要か、判断する物差しを持つためにも、経験しておくことが必要ですよね。

小牟田:僕らもDIYが全部正しいとは思ってないですからね。それに上手くやれば、CDとサブスク両方で収益になるかもしれないじゃないですか。DIYかそうでないかの二極化ではなく、両方を活用する方法を考えた方がポジティブだと思います。

 

今後の目標はインバウンド対応

河野:ライブハウスの人も、商売下手ですよね。

小牟田:僕も含めて、みんな商売下手だな、と思います(笑)。出演者にノルマをかけることについても批判が集まって結局強く言いづらくなったから、いつの間にか風化してきましたよね。だから今の僕の目標は、インバウンド対応です。海外のお客さんが毎日飲みにきてくれたら、集客のベースになる。そしたら過度にノルマのことを考えなくてよくなるな、と。

河野:海外のお客さん、来ますか?

小牟田:少しずつですね。下北沢SHELTERはアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の聖地巡礼で、海外のお客さんが当日券で結構来ているらしいです。出演者関係なく、夜の遊びのツールの1つになっている。それって、僕らも出来るんじゃないかと思うんです。La.mamaはどうですか?

河野:出演者によります。渋谷に海外の人はたくさんいるので、お店として発信すれば、もっと来てもらえると思うのですが。インバウンドの対応、何をする予定ですか?

小牟田:Instagramで英語のアプローチをすることから始めてみようと思っています。今でも海外のミュージシャンが出演する時は、たくさん来るんですよ。ということは、海外からも情報を仕入れようとはしてくれている。それなのに、僕らが日本人対象にしかやってないだけなんです。勿体無いですね。

河野:僕たちは、英語の勉強から始めようとしています。海外といえば、『CRAFTROCK FESTIVAL ’23』に出演するTiny Moving Parts(米)はどういう経緯で来日が決まったんですか?

小牟田:フェス主催のCRAFTROCK Brewingの田中徹さんがTHE LOCAL PINTSというバンドをやっていて、今年3月にTinyと対バンしたんです。その時にクラフトビールを一緒に作って親交を深めた経緯があって、今回オファーしました。

河野:そうでしたか!5月末は、他のフェスも多い日程ですよね。

小牟田:そうなんですよ。でも僕らは戦うというよりも、みんな上手くいけばいいと思うタイプの人間なので、他のフェスと被らない路線という意味で「海外バンドしかない!」と考えました。僕もTinyは大好きで、ホールで演奏するイメージもないので、シンプルにすごく楽しみです。

河野:初日と2日目のラインナップのジャンルが全然違うのが気になってました。

小牟田:「2日間でジャンルを変えよう」というのがコンセプトですね。だから通し券があまり売れないフェス(笑)。全然違うジャンルでやっても、ビールは美味しいし、楽しい空間だから、2日間来てもらえたら嬉しいです。これからも2日間のコンセプトは分けますし、さらに振り幅を大きくしたいです。

河野:1日目は特にビチッと固まってますね。このジャンルが好きな層は、絶対行きたいと思います。6月9日にbachoとtricoのイベントを組んでいるLa.mamaのスタッフも、行くと言ってました。

小牟田:初日はインディーロックの最高形が集まってます。Climb The Mindが決まってから「マジかよ!決まったよ!!」みたいな感じで一気にエンジンがかかりました。ライブがそもそも少ないので、すごく貴重です。オファーした人間のくせに、自分が一番驚いた(笑)。

 

ブッキングは「自分のやりたい」が「誰かの見たい」になる仕事なんです

河野:そういうことありますよね(笑)。もちろん出てもらいたいと思ってブッキングするんですけど、あまり期待しすぎないようにしています。もちろんすごく出てもらいたいけど、なるようになる気持ちも隣り合わせにある。そうじゃないとやっていけないから。

小牟田:フェスの時とかは毎回全然決まらないので、最近は簡単には心が折れないようになりました。今回も途中で方向性の転換があったりしながら、これまでやりとりしたことがなかったアーティストへもオファーしたり、自分のキャパシティが増えた感覚があったので、よかったです。

河野:突き詰めて挑戦して、経験を重ねる中で得られる感覚は増えていきますよね。いかに断られる機会や思い通りにいかないことを乗り越えられるかどうかが、ブッキングの仕事が続くかどうかだと思います。今WARPは店長の他に、ブッカーは何人いるんですか?

小牟田:3人います。

河野:La.mamaも若手が3人いるので、一緒ですね。

小牟田:イベント制作の楽しみを伝えるのってすごく難しくないですか?

河野:そう思います。僕のやり方を伝えても、キャリアが離れすぎていて参考にしづらいみたいだし、経営者は数字を気にするので、売り上げとの折り合いも難しいと思います。正直ブッキングを始めて数年で、好きな組み合わせや、お客さんがたくさん入るイベントが組めるわけではないじゃないですか。

小牟田:僕らの中で、「ブッキング鬱」と言っている現象ですね。これは絶対に、誰もが通る道。当たり前だから、若いブッカーの子がそうなってても驚かないです。

河野:(笑)。うちも3人の若手が始めて1年前後ですが、みんなブッキング鬱になってます。「ブッキングってどうやるんですか?」と聞かれたら、なんて答えてますか。

小牟田:基本的には「好きなことをやればいい」と言うんですけど、そうは言っても、いきなりぶっ飛んだことをやる人はあまりいない印象です。「好きなこと」って自由で、人によってやり方が違っていいんですけどね。だからこればっかりは自分で挑戦し続けて、経験するしかない。

僕、ブッキングのスタートが特殊なんですよ。「向いてるからお願い」と頼まれて入ったら、当初ブッカーが僕しかいなくて、持ち込みイベントがない日はほぼ毎日、自分で何か埋めなくてはいけなかった。当時はハードコアとパンクしか知らないし、有名なアーティストにも出てもらえないので、電話リストを参考に毎日ひたすら200件電話してました。

河野:めちゃくちゃ懐かしい!

小牟田:それを2年間くらいやったんですよ。今みたいにネットで調べられないので「知らないので、見せてください」って電話をするんです。出演してくれて初めて、誘った自分もどんなバンドか分かる(笑)。

河野:(笑)。僕も先輩から引き継いだブッキングリストのア行から順に電話して、何日か置いて、また電話する、みたいなことを繰り返してました。

小牟田:強靭なテレアポですよ。でも続ける中で、一つのやり方でやろうとしてうまく行かなければ、こちらが柔軟になればいいと思うようになりました。例えば「平日は仕事から出れないです」と言われたら、遅い時間のスタートでリハなしでやればいい。売り上げを増やしたいなら、アマチュアバンドでもブルーノートみたいに、チケット代、飯付きで5,000円の日があっても面白いかもしれない。別に無理にこれまでのやり方を続けなくてもいいと思う。だから自分の好きなことをやればいいんですよ。

河野:結局はその日にどれだけ時間と想いをかけられたかどうかが、数字にも繋がってくるんですよね。

──その中で続けるモチベーションはどこにありますか?

河野:ブッキングは「自分のやりたい」が「誰かの見たい」になる仕事なんです。それだけを唱えてます。

小牟田:それはマジで重要だと思います。自分が好きなことをやるとそこに熱量を集中できて、みんなの士気が上がって、アーティストもお客さんを呼びたくなる。イベント内容も結果的に他との差別化になりますね。箱も増えてるので、今はなおさらそれが重要だと思います。下北沢ERAなんて、平日なのに10バンドが出るイベントとかやってますからね(笑)。これまでの常識で考えてたら、平日にそんなに出演者は集まらないです。

河野:平日に10組はすごいですね!

小牟田:執念だな、と思います。実際バンドは楽しそうだし、それもありですよね。それぞれの箱で、それぞれのブッカーのやり方があると思います。だからブッキングの仕事をやりたい人は、自分なりの好きを突き詰めたやり方を、現場で実際に経験しながら見つけられたらいいと思います。