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あらゆるミュージシャンが「みなし分配」による不利益を被ることがないよう、透明性の高い分配の実現を目指す〜日本音楽制作者連盟 理事長 野村達矢氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

日本音楽制作者連盟 理事長 野村達矢氏

日本音楽制作者連盟(以下 音制連)が、現行の商業用レコード二次使用料の分配方法に対して、改めて強い疑義を呈している。音制連は、データ収集の仕組み等が確立されていなかった20年以上前に設定された一部の分配方法(自己申告等による“みなし分配”)を、デジタル化が進み、正確なデータを収集できる時代になった今も踏襲し、その結果、分配受領額上位を特定ジャンルのサポートミュージシャンが独占し、ヒット曲に関わっているサポートミュージシャンに二次使用料が正当に分配されていないと主張する。

音制連は、文化庁長官による指定団体として、商業用レコード二次使用料等を徴収し、その楽曲に実演参加したメインアーティストやサポートミュージシャンに対して使用料分配を行っている芸団協・CPRAの関連委員会にて、分配制度の向上、透明性の確保を目指し、この分配制度改革に向けて何度も改善要求を行ってきたというが、遅々として進まないという。各団体間の話し合いの中で一体何が起こっているのか、改革が進まない要因は何なのか。長年、この問題に積極的に取り組んでいる音制連 理事長 野村達矢氏に話を聞いた。

(インタビュアー:Musicman 屋代卓也 取材日:2023年6月29日)

※このインタビューの中では「メインアーティスト」と「サポートミュージシャン」と表現しているが、曲タイトルと並列して表記されるアーティストをメインアーティスト、録音に参加しているが曲タイトルに併記されない録音参加者をサポートミュージシャンとしている。CPRAではメインアーティストをフィーチャードアーティスト(Featured Artist=FA)、サポートミュージシャンをノンフィーチャードアーティスト(Non-Featured Artist=NFA)と定義している。

 P-LOG(日報)データを使った“みなし分配”とは

ーー日本音楽制作者連盟(以下 音制連)が長年、改善を要求している「商業用レコード二次使用料」の分配について、現状を教えてください。

野村:本題に入る前に、言っておきたいことがあります。この問題を語るときに、よく「メインアーティストがサポートミュージシャンのパイを奪おうとしている」といった物言いをする人がいますが、それは音制連の主張を捻じ曲げるものです。この問題は「メインアーティストとサポートミュージシャンの対立」の話では決してないことを伝えたいと思います。それを理解してもらわないと、この話を正しく理解してもらえないんです。

本題に入りますが、放送や貸レコードの二次使用料は、日本では芸団協(日本芸能実演家団体協議会)の一部分であるCPRA(実演家著作隣接権センター)が分配してきました。その中で、楽曲に中心的に氏名が表示されるメインアーティストだけでなく、それを支えているサポートミュージシャンにも隣接権使用料が支払われています。メインアーティストもサポートミュージシャンも、立場は違うものの実演を提供するという意味においては同じですから、当然に分配を受ける権利があるわけです。しかし、原盤の販売や宣伝においてはメインアーティストの貢献割合が大きいことや、メインアーティストとサポートミュージシャンの収益モデルの違いから、長年メインアーティストとサポートミュージシャンは「7対3」というざっくりした数字で分配されてきました。

ただ、こういったざっくりとしたデータを基にした分配の取り決めがなされることで、不都合が発生してきました。CPRAがメインアーティストの分配に使用するデータについては、JASRACとNexToneに対して放送局から使用楽曲の全曲報告が進んだことにより、実際に放送された楽曲(約50万曲)のデータがどんどん集まり、それに参加したメインアーティストの人数もそれに連れて多くなっていきました。これ自体は、正確な分配を行うという意味ではよいことなのですが、分配を受けるメインアーティストの数がどんどん多くなった結果、メインアーティスト一人一人の取り分はどんどん少なくなってしまいました。

一方、サポートミュージシャンに目を向けると、今回問題にしているデータ収集方法であるP-LOG(日報)データについては、メインアーティストのデータ量の増加に比べるとほとんど人数の増減がありませんでした。

P-LOG(日報)データというのは、レコーディングに参加したサポートミュージシャンが、その旨を自己申告することや、コーディネータ(インペグ屋)から提供されるレコーディング参加者の情報により作られるデータです。

そのようなデータのアンバランスが生じた結果、現在の方法で分配を行うと、メインアーティストに比べてサポートミュージシャンの一人当たりの分配額が高くなってしまう事態が生じていました。

例えば、100億円を70億円と30億円で分配するとして、ぱっと見てメインアーティストの70億という分配原資はサポートミュージシャンの30億に比べて遥かに多いように見えるのですが、個人の分配額に目を向けると極めて少額になっているケースもあり、アンバランスが生じていたことは明らかです。

これ自体、別にいいじゃないかという考えがあることも理解できますし、メインアーティストとサポートミュージシャンの実演に優劣などあるはずがありません。ただ、メインアーティストはサポートミュージシャンと違ってレコーディングに参加したからといって報酬をもらうことはありませんし、リスクマネーを負担して原盤を制作しても、音源が売れなければ1円にもなりません。このような収益構造の違いは、二次使用料の分配にあたっては当然考慮されるべきであると考えています。

このように、分配においてアンバランスが発生しているという点が、今回の問題提起の発端となりました。

ーー長年の運用で人数比率等のバランスが崩れてきたんですね。

野村:そこで「何が適切な分配率なのか」を紐解く中で、「実際にサポートミュージシャンの分配の中身はどうなっているんだろう?」と調べたときに、MPN(演奏家権利処理合同機構MPN)のP-LOG(日報)データを使用して“みなし分配”されている領域があったんですが、10年間ほぼ同じ人たちが毎年同じような金額の分配を受け取っているというデータが出てきたんです。とくに上位10人はほぼ同じ人なんですよ。

なおかつ放送上位曲は主にヒットチャートを賑わすJPOP系や番組テーマ曲などの劇伴系で構成されているんですが、みなし分配で10年以上、上位にいる同じ人たちというのはジャンルとしては多くが演歌系なんですね。多少順位の入れ替えはありますけど、放送上位曲では全然演奏していない、こういった人たちが10年間かなりのお金を受け取り続けていたんですよ。これは異常事態だと思います。

P-LOG(日報)データを使用した“みなし分配”についても説明しておく必要がありますね。P-LOG(日報)データについては先程説明したとおりですが、それを使った「みなし分配」というのは、簡単に言ってしまえばP-LOG(日報)データを元にレコーディング参加回数に応じて分配するというものです。ここで、実際に自分の実演が収録された原盤が放送で使われたかどうかは関係ありません。

先ほどお話ししたとおり、当初はメインアーティストとサポートミュージシャンの分配割合の問題だと思っていましたが、特定の人が長期にわたり分配上位を独占しているというみなし分配のデータを見たときに、メインアーティストだけでなく、実際に放送で使われている楽曲に参加したサポートミュージシャンも適正に分配を受け取っていないのではないかという疑問が生じました。

冒頭に申し上げたように、これは単にメインアーティストとサポートミュージシャンのパイの食い合いの問題ではなく、メインアーティストもサポートミュージシャンも関係なく、サポートミュージシャン同士でも公平な分配がなされていないということが問題じゃないかと考えるようになったわけです。

ーーそのみなし分配されているのは全体でいくらくらいなんですか?

野村:P-LOG(日報)データでみなし分配されている部分というのは、その年の徴収額にもよりますが、当時で全体の6億から9億くらいですね。そこで、僕はなぜこのようなことが行われているのか指摘したわけです。

そもそも放送や貸レコードの二次使用料というのは、その楽曲が使われたことに対する対価なわけです。なのに、このみなし分配では「レコーディングに何曲参加したか」という参加回数に対する対価として支払われている。ですから、この上位の方々が参加した楽曲が実際の放送で使われていようが使われていまいが、1回スタジオに通えばお金が行くと。もっといえば、売れていなくてもたくさんの曲に参加すれば、ヒット曲のサポートミュージシャンよりもたくさんお金がもらえるということです。

我々が問題視しているのは、放送で使われていないものに対して分配がされているというのはどういうことなのだということと、10年間変わることなく同じサポートミュージシャンが、みなし分配の上位を占めていることがまかり通っているのはおかしいんじゃないか?と思ったんです。

そんな事実がわかってきたことから、音制連にはサポートミュージシャンとして分配を受け取る人も数多くいますので、これは彼らも不適切な分配の被害者となっている可能性が高いのではないかとも思い、実態を解明しなければならないとの考えに至りました。

ーーフェアじゃないですよね。

野村:全くフェアじゃないです。例えば、今まで音楽業界に貢献してきた方々に対しての補償みたいな制度が、音楽業界としてあることには僕は賛成ですし、だったら、そういう制度は作ればいいじゃないですか。分配金の一部は補償金として積み立てておいて、特定のサポートミュージシャンだけでなく、全ての実演家に役立てられる基金を作りましょうとか、そういうことにお金を回していくのに、僕は反対する気もないですし、社会的意義としてそういう制度があっていいと思います。でも本来は実演が使われたのに応じて分配されるべきお金の中で、データが揃わないという理由で制度がそれを許していたことに乗じてコッソリやっていたことが大問題だと思うんです。本当にこの事実を、多くのサポートミュージシャンにも是非知っていただきたいです。

 

分配方式は日々アップデートすべき

ーーMPNに対して、先ほどのみなし分配の資料に対する開示要求は野村さんが理事長になるまでは行ってこなかったんですか?

野村:元々はMPN椎名和夫理事長がCPRAの音楽関連分配委員会の委員長を長らく務められてこられました。音制連からも委員で参加していたので、その委員会でサポートミュージシャンの分配方法を見直すことを提案し、MPN以外の参加委員からも賛同いただいてきたのですが、なかなか話が進まない。このような状況が続いた中、先ほどありましたとおり、10年以上にわたって演歌系の同じ人たちがみなし分配の上位を独占していたという事実が発覚したわけです。

そのみなし分配は、MPNがP-LOG(日報)データとしてCPRAに提供し、使用されているものなのですが、MPN椎名理事長に質問した際にP-LOG(日報)データは適正なデータであるといった説明があったこともあり、我々も信用するにしても、一切中身を開示してもらったこともなかったので、このみなし分配の意味と中身を開示して欲しいとずっとお願いしてきたんです。ところが、MPN椎名理事長は「出せない」と言ってきたんです。なぜかというとコーディネータ(インペグ屋)とMPNの契約の中で守秘義務条項があるからと。

しかし、CPRAにおいて、MPN一団体だけが分配を担っているわけではなくて、音制連、音事協(日本音楽事業者協会)PRE(映像実演権利者合同機構)とMPNの4団体でやっているわけです。僕は音制連の代表ですから、CPRAの二次使用料の分配については責任を持っている立場です。CPRAには権利者団体会議という4団体の代表者が集まる会合があるんですが、その中でMPN椎名理事長に対して「僕もCPRAを運営する団体の代表者として、CPRAが分配しているお金に対して責任を持っています。なので分配しているお金の中身を僕は知っている必要があると思います。ですから、MPNでやっているP-LOG(日報)データを元にした分配の構造を教えてください」というお願いを2年間にわたってしてきました。

もっと言うならば、実はMPNのP-LOG(日報)データはCPRAからMPNが業務委託を受けて、毎年1000万円以上の業務委託費を受け取ってデータを作成してきたわけです。そのお金は、音制連会員を含むすべてのメインアーティストやサポートミュージシャンに対する分配手数料から捻出されているのです。CPRAが疑問を持ったとしても、その内容を確認できないような契約を締結すること自体がおかしいでしょう。守秘義務があるのであれば、CPRAの分配のために必要であれば守秘義務を解除してもらうように相手方に要請すればよいでしょう。そもそも、そんな詳細を開示できないようなデータで分配すること自体がまちがっているのです。

この、分配の前提となる情報を開示して欲しいというやり取りだけで相当な時間を要し、MPNに対して開示するよう要求した18件のうち、半分以上の11件が最後まで開示されませんでした。みなし分配がどのようなデータを基に行われたのか、どのようなコーディネータ(インペグ屋)から提出があったデータなのか、どのように計算がされたのかにつながる情報は全然開示されませんでした。

何度お願いしてもMPN椎名理事長の回答は「コーディネータ(インペグ屋)との守秘義務があるので出せない」の一点張りです。「いやいや、僕はそれを知る義務と権利があるし、それを知った上で正当な分配をしないと僕はメインアーティストに対してもサポートミュージシャンに対しても正々堂々と『ちゃんと皆さんに正しい分配をやっています』と言えなくなってしまう。僕は責任者の一人ですよ。この状況では説明責任が果たせない」と何回もお願いをしたんですが、断固として拒否されました。どこまで行っても分配のためのデータに過ぎないにもかかわらず、そこまで頑なに開示をしないのはいったいどういう理由なのか勘ぐりたくなりますよ。

ーーCPRA内部でそんなやりとりがあったんですね。

野村:僕は今年1月、2022年度分配直前の権利者団体会議で、あまりにもその部分を開示しないのでMPN椎名理事長を泥棒呼ばわりしたんです。「あなたが右手に握っているものをポケットに隠したまま出さないのは万引き犯と一緒ですよ。あなたがやっていることは万引きですからね」と言ったら、MPN椎名理事長が「失礼なことを言うな!」と激高しました。それで会議は平行線を保ったままで多数決を取ることになり、結果、音制連、音事協、PREがP-LOG(日報)データの活用を縮小する分配方法に賛成し、MPN椎名理事長だけが反対しました。普通に考えれば、これで今までの古い分配方法を見直して適正な分配方法に変えていきましょうとなるわけですが、残念なことに権利者団体会議の規定で4団体が全員一致しない限りは、その決議に関しては通らないという決まりになっており、ここまで来ても残念ながら事態は改善することはありませんでした。

ーー国連安保理みたいですね。

野村:そう、常任理事国の拒否権ですよね。それで決まらなかったんです。その会合は1月でしたから決まらないと3月の分配が間に合わなくなり、遅配になってしまう。もちろんMPN椎名理事長はそのことをわかっていて反対したのだと思います。音制連としても、そこで遅配になってでもP-LOG(日報)データの活用を縮小する分配方式を主張するのか、今回は譲歩するのか選択を迫られたんですが、やはり遅配だけは受け取る方に迷惑をかけてしまうので、何としても避けないといけないと思いましたので、最終的にやむを得ず、本当に苦渋の決断でMPN側のP-LOG(日報)データを使った従来の旧方式を採用するということになりました。

ただ、私は音制連の理事会で「P-LOG(日報)データの活用を縮小する分配方式を採用する」という任命を受けてCPRAの権利者団体会議に出席したのに、その理事会の意向に反した結論を僕は導き出してしまったことになります。だから、僕は音制連の理事長を辞任すべきだと思い、その足で音制連事務局へ辞表を出しに行き、音制連理事会に自分の進退を一任しました。その後、理事会で今後の僕の立場であったり、音制連が行く道について話し合って頂く中で、この問題は理事会だけでなく、会員社みなさんにも知って頂く必要があるという結論になり、後日、説明会を開きました。

ーー説明会はいつ行われたんですか?

野村:4月10日に行いました。そのときは会員社230社のうち約150社にご参加頂いたとおり、この件に関してみなさんの関心は非常に高かったんです。何が起きているのか、みなさん知らなかったですし、その説明会の中で、これまでのいきさつと「なぜ野村は辞表を出すまでに至ったのか」を会員社の方々にご理解頂きました。その上で、会員社のみなさんは今まで話してきた事実に本当に驚いていましたし、「CPRAは何をやっているんだ?」とおっしゃっていました。

CPRAの分配に関しては20年前、30年前だったらデータも整備されてなかったですから、これが正しかったのかもしれませんが、だんだんデータが整備されていき、いろいろなものが分かるようになってきたら、その時代時代に即した形で、分配方法をバージョンアップさせていくべきだと思いますし、みなさんが納得いく分配方式に変えていくべきだとずっと思っています。

ーーMPNの分配方法に問題があるとして、この件に関して、音制連側には問題点あるいは課題はないのですか?

野村:MPNがみなし分配を主張する理由として、数十万もの放送使用楽曲に演奏参加した全てのサポートミュージシャンを特定することは困難であるため、それを補完するためにもみなし分配は必要であるとしています。確かに放送使用約50万曲の全てを一つも取りこぼすことなく情報を集めることは困難を極めることだと思いますが、それを理由に放送実態にそぐわない特定ジャンルのサポートミュージシャンたちだけがその恩恵を受けられるのは明らかにおかしなことです。

音制連は長年、貸レコード使用料分配のために会員各社からレコード制作管理表というものを集めてきました。このレコード制作管理表は、会員社所属のメインアーティストがリリースした楽曲に参加したサポートミュージシャン全てを記録して、音制連に提出していただくものです。

我々が知る限り、放送使用曲全体で上位5万曲が分配すべきお金の80%を占めることが分かっています。今後の取り組みとしては、関係団体と連携して、貸レコード使用料だけでなく放送二次使用料の分配に積極的に使用するために、まずは放送上位曲の調査を進めながら、業界内でリリースしたら必ずレコード制作管理表を記録するという習慣を浸透させていきたいと思います。これが浸透すればおのずと情報の網羅性は上がると思います。

ーー技術も進化していますし、日々アップデートすべきですよね。

野村:もちろん日々アップデートする手間もありますし、そういった部分では前のやり方を踏襲していった方が楽なのは当たり前なんですが、ここまで時代が変わっていてデータベースやコンピュータ処理の技術が進んでいる中で、それをやらないで、だんだん既得権の方に向かっていったと。最初に決めた人たちがそれに対して既得権を持ち、密室の中でいろいろなことを決めて、その場にいる人たちの都合のいいように変わってしまっていたのが、私が理事長になった2019年前後の状況だったわけです。そこで音制連の若いスタッフたちも「時代に即した新しいやり方でやっていきたい」ということで、音制連として「PPL方式」の採用を提案しました。

音制連が目指す「PPL方式」

ーー「PPL方式」とはどういったものなのでしょうか?

野村:PPL方式はイギリスの隣接権団体であるPPL(Phonographic Performance Limited)が行っている放送二次使用料の分配計算方法で、楽曲に参加するメインアーティストやサポートミュージシャンが登録された個別の楽曲データを使って、そのデータに基づいた分配をする方式です。実際に放送で使用された楽曲に実演が収録されている実演家を対象とする分配方法で、レコーディング参加回数などは考慮されません。我々はこれが一つの指標と言いますか、着地すべきところなのではないかと考えていまして、CPRAにはすでに2019年に提案しています。

ーーもう4年前からそういった提案をしていたんですね。

野村:そうなんですが「システムが間に合わない」「データの整備ができていない」とかいろいろな理由を付けられては先延ばし先延ばしになってきたんです。MPN椎名理事長はCPRAでは、口では「こちらへ行きましょう」と言うんですが、話を進めようとすると、結局「まだ早い」、僕らは「早くない」とずっと平行線で、未だ着手できないわけです。で、先ほど申し上げたように2022年度の分配も古いやり方でやっているのが現実です。

なぜこんなにも僕らが大騒ぎしているのに変わらないかというと、CPRAも古い体質なんですね。CPRAには4団体ありますが、ずっと関わっているのはMPN椎名理事長だけなんです。我々音制連や音事協、PREの代表者の任期は6年だったり8年だったりするので、何回も代替わりしています。やはり長年やっていると中身もよく分かっていらっしゃいますから、新しく参加した人がそれまでやってきたことを刷新するのはなかなか難しいですし、CPRAの事務局もMPN椎名理事長の意見を尊重せざるを得ない、もっと言うと、MPN椎名理事長の言いなりになっているとしか思えないんですよね。

驚いたことがあったんですが、先ほどの3対1になりMPN椎名理事長の反対により膠着状態になってしまったタイミングで、CPRA事務局長から妥協案のようなものが出てきたんですよ。多数決が3対1になったら、その妥協案って、普通は多数派の案をベースに少数派を説得するものになるじゃないですか?でもCPRA事務局から出てきた妥協案は、少数派の意見をベースとして多数派であるこちらに大きく譲歩せよというものだったんですよ。

ーーそもそも野村さんが開示を求めた資料はMPNの会員には開示されているんですか?

野村:いえ、詳しくは知らないと思いますし、きっとこのインタビューで初めて知る方も多いと思います。僕らもメインアーティストやサポートミュージシャンの方々に知って頂きたいですし、10年間ほとんど変わらない人たちにお金がいっているということは、一生懸命働いているサポートミュージシャンの人たちに正当なお金がいかなくなっている可能性もあるということなんですよね。音制連にもメインアーティストだけでなく小林武史さんや亀田誠治さん、蔦谷好位置くん、中田ヤスタカくんなどサポートミュージシャンの方々がいるんですが、実際に使われた割合で計算した金額より下がっていると思います。

大事なことなので繰り返しますが、音制連にはメインアーティストもサポートミュージシャンも権利を委任していますし、それはMPNも同じであって、どちらの団体がメインアーティストまたはサポートミュージシャンを代表しているなんてことはありません。

ーー今お名前が上がった音制連のサポートミュージシャンの方々は、先ほどのリストの上位にはいない?

野村:少なくともみなし分配のトップテンにはいないです。これは当然音制連のサポートミュージシャンだけでなく、MPNに加盟しているサポートミュージシャンの方々も知らない話だと思います。繰り返しますが、音制連の中では今回の話はかなりしましたので、話が行き渡ったんですが、改めて日本の音楽業界の中で、サポートミュージシャン活動、もちろんメインアーティストとして活動している方もそうですが、こういったことを知っておいて頂かないといけないと思います。

例えば、著作権料って登録すれば黙っていても当たり前のように入ってくるものだと誤解されがちなんですよね。著作隣接権もそうで、黙っていても入ってくるものだと。それがどういう方式で、どういう風にデータが処理されて、計算がされて、お金が入ってくるのか、説明されていないわけではないと思いますが、自分から知ろうとしないと解らないんですよね。で、僕はその中身を見たときに「これは説明する必要がある」と思ったんです。どういう経緯で、どのくらいの件数が関わっていて、誰にどれくらい行くのか、あるいは「あなたはこれだけ仕事をしてその関わった楽曲がこれだけ使われているんだから、これだけもらう権利がありますよ」ということをみんな知っていかないといけないと思うんですよね。でも、それを言っている人って今少ないんです。もっと誠実に処理していくべきだと思います。

 

「メインアーティストとサポートミュージシャンの対立」ではなくサポートミュージシャン同士の分配是正へ

ーー1つ不思議なのは、野村さんが理事長になるまで、今回の件も含めて、二次使用料の分配に関して誰も疑問を持たなかったのはなぜですか?

野村:放送二次使用料に関して、権利者分配を始めたのは、MPN椎名理事長を含めたCPRAの初期参加メンバーのすごく大きな功績だったと思います。その方々が大変な努力をされ、放送局と大きな交渉をした成果なわけです。そもそも音制連も貸レコードの著作隣接権使用料が取れていないというところから始まった団体ですから、音制連の創設メンバーが貸レコード業界と大変なやりとりをして著作隣接権を獲得した。そうしないと未来の音楽文化が死んでしまう、未来のメインアーティストが出てこなくなってしまうと先輩たちは大変な努力をされたんです。僕らはその功績自体を否定するわけではないですし、なかったものを作って頂いたことに関する感謝という意味では、分配されたお金を黙ってもらっていた時期があったんだと思うんです。

でも、それは黎明期の話で、その後CDが100万枚、200万枚売れるようになり、放送も商業用レコードがないと成り立たなくなり、データベースも進化した状況の中で、黎明期のままでいいのかと疑問を呈したのが、2020年直前だったと思います。で、中身を見てみたら、ここまでご説明させて頂いたようなこととが起きていたと。放送局の方々からしても、あれだけデータを出せ出せと言われて出したのに「こんな分配をしていたの?」って話だと思いますし、放送局に対してもこんなことをやっていたら顔向けできないと僕は思います。放送局に正々堂々と「お金をください」と言った以上、分配はしっかりしないといけないと思いますし、結果を出したサポートミュージシャンに対して、正当な対価を払っていくことをしないと、夢も未来もなくなりますから、しっかりやっていかないといけないと強く思います。

ーー二次使用料は公金なわけですから、額の大小に関わらず、公正かつ透明性を持った分配をするのは、お金を預かる側の義務ですよね。

野村:そうです。そもそもこれはみんなのお金なんです。そこにブラックボックスがあったり、密室性があったらダメなんです。僕は会議自体もオープンにして、YouTubeで生中継してもいいとすら思っています(笑)。そういうことも含めて、資料を出せない、開示できないって全く理解に苦しむ話だと思います。

ーーただでさえ狭い日本の音楽業界なのに、今回のようなことで疑心暗鬼となり一つになれなかったら、業界全体としてもよくないことですし楽しくないですよね。

野村:先日ライブ・エンターテイメント EXPOの壇上で都倉俊一文化庁長官がお話ししていましたが、日本のエンタメや音楽業界が韓国に対して、たった10年ほどで背中が見えないくらい突き放されてしまったと。長年、日本のガラパゴス時代がありましたが、コロナでストリーミングの普及が加速し、一気にグローバルに直面しなくてはいけない状況で、日本の音楽業界自体もそっちに向かって突き進まなくてはいけないわけで、そんなときに内戦をやっている場合じゃないんですよね。

もっと外に向かって攻めていかなくてはならないときに、今日お話したようなことにエネルギーを割くのは、音制連にとっても音楽業界や日本のエンターテイメントにとって本当にマイナスです。もう4年近くこんなことをやっているなんて不毛ですから、早く解決させて、もっと日本のエンターテイメントを世界に広めていく、もしくは日本の音楽自体やそこで活動するメインアーティストやサポートミュージシャンが未来へ希望を持てるようなシチュエーションをどう作るかをみんなで考えないといけないですし、小さいパイの取り合いをしているように見られてしまうことも本当に不本意ですしね。

ーーとにかく多くの人に現状を理解してもらうのが第一歩になりますね。

野村:改めて申し上げたいのは、MPN椎名理事長はこの問題を「メインアーティストとサポートミュージシャンの対立」であったり、「事業者とメインアーティスト・サポートミュージシャン個人の対立」にしてしまうんですが、そういう話ではないんです。音制連の代表である僕がお話するとそう聞こえるのかもしれませんが、実際はサポートミュージシャンのなかでもたくさん分配されている人と、全然分配されていない人の格差がものすごくあるわけです。ですから、これは決してメインアーティストとサポートミュージシャンの対立の問題ではなくて、サポートミュージシャン同士でもパイの食い合いというか、食い負けている人がすごく出ているということなんです。それを多分MPNのサポートミュージシャンの人たちは伝えられていないと思うんですよ。

MPN椎名理事長は「音制連が自分たちの食い扶持を増やそうとして、俺らの食い扶持をどんどん攻めてきているんだ。みんな一緒になって守ろう」というスタンスだと思うんですが、そうじゃないんです。みなし分配により一部のサポートミュージシャンだけがもらっていて、放送使用楽曲に参加した本来分配を受け取れるサポートミュージシャンの人たちは割を食っているんですよ、損している人たくさんいるんですよということなんです。敵は内部にいるのだということが。そこできちんと使われた分に比例して分配するのが筋じゃないですか? と言っているだけであって、結果的に僕らのパイが増えることもあるかもしれないですが、それを求めているのではなくて、サポートミュージシャン間の不公平を是正しましょうと言っているだけなんです。そこは誤解して頂きたくないです。

勘違いされがちですが、メインアーティストは音制連、サポートミュージシャンはMPNと決まっているわけではなく、多額の分配を受け取るメインアーティストはMPNにも数多く権利を委任しているんです。PPL方式に変えましょうという話は決して団体の損得の話ではないんです。

ーーメインアーティストもサポートミュージシャンも関係なくクリアなルールに基づいてやろう、もっと公明正大で合理的にしようと言っているだけだと。

野村:分配率を知っている人や、昔から活動している人だけが得するみたいな構造は、我々は容認できないということです。今の時代、事務所とサポートミュージシャン、メインアーティストの関係も変わってきて、アーティスト印税がどうのとか、専属料がどうのとか、そういう情報は結構出てきているので、みなさん理解するようになったと思うんですが、そんな中で、唯一残っていると思われるのが、この放送二次使用料の、実演家の分配部分だと思うんです。

我々は、そのブラックボックスをすべて明らかにし、公平なルールで分配したいと言っているだけで、そこにメインアーティストとサポートミュージシャンの対立なんてありません。また、我々だけでなくMPNのメンバーの方たちも自分がもらっているお金が適正なのか、どういった方程式によって分配をしているのか興味を持っていただきたいですし、やはり多くのメインアーティストやサポートミュージシャン、そして業界の方々が関心を寄せて頂くことが、この問題解決への一番の力になると信じています。