推し活新時代!CDやレコード、配信に代わる新時代の音楽メディア【miim(ミーム)】を徹底解剖《後編》
推し活の形を変革させる、新たな音楽体験メディア「miim(ミーム)」を、ブートロックがリリースしたことはすでに伝えた《前編》。miimを採用したタワーレコードは、今年2月アップアップガールズ(2)を皮切りに、アップアップガールズ(仮)、クマリデパート、CROWN POPなど15アーティスト、33形態の商品をすでに販売している(8月8日現在)。今後リリースが決まっているものを含め、その勢いは衰えない。全国にはりめぐらされた圧倒的な店舗網でCD販売をしているタワーレコードが、miimのようなデジタルメディアを推し進めることに、同社の時代を見つめる鋭いまなざしを感じる。
miimの最大の特徴は、『商品』と『キャンペーン』を組み合わせたものを、ひとつの「商品形態」として販売できることにある。製造者は初めに、音源、ブックレット、画像というCDの要素をデジタルパッケージとして取りまとめ、CDと同等の『商品』を生成する。さらに、この商品部分に『キャンペーン』を組み合わせて、ひとつの(プログラムされた)商品形態にしてしまうのだ。このキャンペーンとは、たとえばイベントの入場券、握手会などの特典券、あるいはデジタルイベント参加券となるシリアル番号、あるいは抽選会など、商品販売を盛上げる(動的な)各種キャンペーンだ。もちろん、同一商品にイベントごと週ごとに画像、動画、音声、景品引換券などを次々に添付して、商品そのものに(静的な)付加価値をつけて演出する、もっとシンプルな使い方も容易だ。同じCDを毎回販売するのではなく、miimはファンの楽しみを大きく拡張させる。
マーケティングの世界では、『商品』が持つ力だけではなく『売り方』がより重要だ、と言われて久しい。miimは音楽業界でこのことを明確に意識したシステムと言える。ファンにとってもECで購入できる利便性、さまざまなキャンペーンに誘導される快適性、なによりスマホですべて管理できる安全性はうれしい。miimはさらに、商品を複数購入したファンが他の人に未開封音源をギフトできるというセカンダリーマーケティング機能も備えている(再生可能回数にリミッターあり)。推し活を、アーティストの直接応援にとどめず、ファンがまだファンになっていない人たちに対面であるいはSNSでどんどん推すという世界を描いているのだ。この新しい推し活の活性化機能も今後期待したい。
今回は前編に続き、この新しい音楽体験メディアmiim誕生に関った、コンテンツサイドの皆さんにもお話を伺った。
(取材・編集:柴田真希 写真:HAL)
▼前半はこちらから!
推し活新時代!CDやレコード、配信に代わる新時代の音楽メディア【miim(ミーム)】を徹底解剖《前編》
Chapter3:レコード会社から見た、miimの可能性
コロムビア・マーケティング株式会社 デジタルマーケティング部 部長 酒井海斗氏インタビュー
業界を取りまく関係者の課題を、正確にとらえた提案
──miimを知った時の率直な感想を教えてください。
酒井:小売店、レコード会社、ファンの方など、業界を取りまく関係者の課題を、正確にとらえた提案だ、という納得感がありました。また、課題解決に対する手法が、とにかく必要なものだけに削ぎ落とされていた点も、非常に魅力に感じたところです。レコード会社として、特にデジタルマーケティング部門を担当する身として、miimに最短かつシンプルなルートで解を出す方法を描いていただいた、という感覚がありました。
──具体的にはどう言った課題でしょうか。
酒井:CD製造費の高騰が利益率を圧迫している点や、既存デジタル音源の単価が低い状況には、課題を感じていました。miimではCDと同様の価格帯で販売ができますし、製造コストも大幅に下げられるということは魅力的でした。
フィジカルを扱うチームとデジタルチームの商習慣は全く異なる
──miimを導入する際に、社内調整でどんなことが障壁となりましたか。
酒井:miim導入は、複数部署にまたがるプロジェクトにならざるを得なかったので、各部署を横断して連携を取っていく調整にはなかなか苦心しました。特にフィジカルを扱うチームとデジタルを扱うチームの商習慣は全く異なるので、全員の目線を合わせながら足並みを揃えていくにはお互いの一定の歩み寄りが必要な状況でした。
──どのように乗り越えましたか。
酒井:実は今年4月から大きな組織改編があり、これまでそれぞれ別会社に所属していたデジタルマーケティングチーム(デジタル販促チーム)とフィジカル販促チームがコロムビア・マーケティング(株)にまとまることになりました。異なる価値観をお互いに乗り越えて、全社目線で利益最大化を旗印とする体制が作られたことは大きかったですね。まさにこのタイミングでフィジカルとデジタルを融合させるmiimが登場したことは、マーケットの潮目が変わってきたように感じました。
アーティストが夢を抱ける国でいられるために、『新しい当たり前』を作り出していく
──今後どのような活用方法を考えていますか。
酒井:miimを活用したさまざまな販売戦略のカタチをひとつひとつ見極めて、実績作りを重ねることで、活用しやすいロールモデルに落とし込むことをめざしたいです。miimの柔軟な機能を活かした新しいタイプの商品企画が、従来の販売プランニングの幅を大きく拡げることになると思います。
──対象となるジャンルはどう考えますか。
酒井:ファンエンゲージメントが高いアーティストで、ジャンルを問わず事例を作っていきたいです。既存のビジネスモデルとの相性にこだわり過ぎずに、“良い”アーティストや“良い”作品の基準をアップデートしていくきっかけが作れるところまでいけたら良いですね。
──今後miimに期待することはありますか。
酒井:業界の本質的な課題に向き合いながら、一緒に新しい販売戦略のスタンダードを作っていけると嬉しいです。アーティストが夢を抱ける国でいられるためには、業界全体が時代の流れを柔軟に受け入れ、新しい当たり前を作り出していく姿勢を持つことが大切だと思います。miim音源のオリコンなどへのチャート反映はもちろんですが、今後他のレコード会社の皆さんにも多く参入いただくことで、音楽の楽しみ方に一層の拡がりが出るような世界を一緒につくっていけることを期待しています。
Chapter4:現場の声・miimの導入のハードルは高い?低い?
タワーレコード株式会社 ディストリビューション&レーベル事業本部 大谷遥香氏インタビュー大谷氏は、miimを初めて導入したグループ、アップアップガールズ(2)やアップアップガールズ(仮)のA&Rを務める。実際に導入してみての、現場の生声を伺った。
早く来て並ばなくてもいい、快適性がすごくメリット
──miim音源のリリースイベントを実施されましたが、いかがでしたか。
大谷:本当にスムーズに行えていて、お客様も1回やり方を把握してくだされば、問題ないみたいです。
──お客様側の、一番のメリットはなんでしょうか。
大谷:やはり待ち時間がないことですね。通常だとリリースイベントが始まる2時間ほど前からCDを販売することが多いんですよ。ファンはこうしてようやく入場券と特典券が入手できます。グループやイベントによってはすぐに売り切れてしまうこともあるので、確実にゲットするために早く来て並ばれている方も多いんですね。miimだとその2時間がなくなる。ですから、お仕事に差し支えなかったり、遠方の方も参加しやすくなります。その快適性がすごくメリットだと、実際に現場では言われました。あとは、持ち帰る荷物が少ないことは非常にメリットのようです。──購入したCDを大量に持ち帰らなくても良いと。
大谷:はい。リリースイベント会場ごとにアーティストの衣装を変えて演出しますので、これを見るために遠征して来てくださるお客様も多いんです。そういう方は、荷物が少ないと喜ばれます。今後は地方のイベントでも活用したいなと思っています。待ち時間も減って荷物も減れば、ファンの方の遠征のハードルも下げることができそうです。
──他にもお客様のメリットに感じていることはありますか?
大谷:入場券はスマートフォンのmiimアプリに配布されるので、確実にお一人様1枚にすることができるんですよ。そうすると転売されづらいので、公平性、安全性も保たれると思います。
miimは悩んでしまうくらいさまざまな設定ができる
──miimを発売するまでの、手続きはどのようなものなのでしょうか。
大谷:miim製造者は、商品とキャンペーンを専用の管理画面から登録します。色々なことができるので最初は戸惑いますが、一度覚えれば、問題なくスムーズに登録ができると思います。登録の前に「何をどのように売るのか」ということを決めて登録を進めると、安心です。miimは、悩んでしまうくらいさまざまな内容で設定することができるので(笑)。
──スケジュール感としては、登録してからどのくらいで発売できるんでしょうか?
大谷:早く済ませておくに越したことはないですが、2週間前後あれば発売可能です。イベントでCDを売る場合は、イベントの日時に合わせて商品現物の手配が必要ですが、miimはその手配も不要な分、管理画面からの登録さえできれば、速やかに手配が可能です。
新曲が1曲出る度にリリースイベントを実施することが可能
──情報は、何が必要なのでしょうか。
大谷:miimでは、ジャケット画像1枚と音源さえあれば、十分に登録が可能です。だから今は配信リリースに伴ってmiimを活用させていただいています。これまではCDを発売するタイミングでリリースイベントをやっていましたが、今は新曲が1曲できる度にリリースイベントを実施することが可能です。
──そうすると、従来の形ではない、新しいプロモーションができそうですね。
大谷:miimで選択肢が大きく拡張されました。売り上げをこまめに作ることができれば、それを原資にしてさらに斬新なプロモーション設計もしやすくなり、アーティストもファンも夢が持てます。今後もいろいろ試していきたいです。
Chapter5:miimは布教活動の最先端!
YU-M エンターテインメント 代表取締役 山田昌治氏 インタビュー
ギフトできる、まさにそこが素晴らしいです
──miimを初めに導入されたアップアップガールズ(2)の事務所社長である山田さんですが、採用に至った経緯を教えてください。
山田:紹介された時、とても画期的なシステムだと思いました。これまでは、イベントでCDを複数枚購入いただいた熱心なファンの方は、余ったCDを布教するために他のアイドルファンに配ってくださったりしてたんですよ。それでもどうしてもCDが余ってしまう残念な光景もあったようです。そのCDがその後どうなっているのかは分からないのですが、気になっていました。こうした少し切ない状況の中、miimは「CDが余ってしまう」という心配がまったく生まれません。これは、良いなと思いました。
──しかも、miimの音源を布教のために人に送ることもできるんですよね。
山田:ギフトできる、まさにそこが素晴らしいです。miimのギフト機能は、未開封の状態であれば、リアルの友達にはQRコードを通して、あるいはSNSでもプレゼントができます。ブロックチェーンの技術を使用しているんですよね。これにより、たくさん応援をしたいと思ってくださっているファンの気持ちもフォローアップできる仕組みなのが嬉しいです。
サステナブルな取り組みや、ファンの方の利便性に惹かれた
──これまでたくさんのアーティストがオリコンのチャートインする経験をされてきた山田さんですが、miimがオリコンのCDチャートに反映されないことへの懸念はありませんでしたか?
山田:それ以上に、不要な在庫を増やさないサステナブルな取り組みや、利用されるファンの方の利便性に惹かれました。とはいえ、今後miimが普及していくと、それぞれのチャート媒体さんには指標の一部にしていただきたいと思っています。
──今後miimで新たな機能が出来るとしたら、どんな機能が欲しいですか?
山田:より不特定多数への、布教活動ができるような仕組みができたらいいなと思っています。有料で音源を配るよりももっとカジュアルにファンの熱量をシェアできるような仕組みですね。サブスクでシェアするよりも踏み込んで、複数枚購入したCDを配るよりも、もっとライトに、多くの人たちに、ファンの気持ちをシェアできると面白いと思います。
TIF2023で、miim登場
音楽ファンの実状に迫る調査も実施
8月4・5・6日に、お台場・青海地区でアイドルの祭典「TOKYO IDOL FESTIVAL 2023」(TIF2023)が開催された。連日用意された『TIF2023×miimステージ』では、アップアップガールズ(仮)、lyrical school、ラフ×ラフなど全6組がライブパフォーマンスを行った。
参加アーティストのmiim商品は、TOWER RECORDS miim STOREで販売され、ファンは音源の視聴、特典会参加などmiimアプリを使用しながら楽しんでいた。
一方、来場者約1400人に対して、CDとサブスクへの関わり方などの音楽ファンの実状に迫る調査、miimアプリの使用感のインタビューもあわせて行われた。
これらの報告は9月上旬に公開予定となっている。