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商業用レコードの二次使用料分配問題、MPNのFAQに再反論する〜日本音楽制作者連盟 理事長 野村達矢氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

日本音楽制作者連盟 理事長 野村達矢氏

8月4日、Musicmanにて公開された日本音楽制作者連盟(以下 音制連) 理事長 野村達矢氏インタビュー「あらゆるミュージシャンが『みなし分配』による不利益を被ることがないよう、透明性の高い分配の実現を目指す」は、現行の商業用レコード二次使用料分配について、長らくブラックボックス化しているという「みなし分配」の問題や、CPRA(日本芸能実演家団体協議会 実演家著作隣接権センター)の各会議におけるMPNとのやりとりなどを明らかにし、大きな反響を呼んだ。

このインタビュー公開直後、MPN椎名和夫理事長から編集部に対し、野村理事長のインタビューに反論するインタビューをして欲しいとの依頼があり、これに併せてMPNは公式サイトにて「『Musicman』掲載の日本音楽制作者連盟理事長インタビュー記事に関するFAQを公開します」と題する記事を掲載し、MPNとしての反論を展開した。Musicmanでもこれを記事として紹介し、同時に椎名理事長へのインタビュー日程も決定していたが、椎名理事長から直前にインタビュー中止の申し入れがあった。

弊社は公平で中立なメディアであるとともに、音制連・MPN双方の主張において、事実関係が相反する点が多々あることは読者の混乱を生みかねないと危惧し、音制連と意見が対立するMPN椎名理事長のインタビューを行うことには重要な意義があると考えていたが、残念ながら現在に至るまでインタビューは実現していない。

椎名理事長へのインタビューがかなわない中で消化不良の感を拭えないMusicmanと、事態の速やかな解決を願う野村理事長の見解が一致、第2回目のインタビューを実施することとなった。

(インタビュアー:Musicman 屋代卓也 取材日:2023年10月5日)

※このインタビューの中では「メインアーティスト」と「サポートミュージシャン」と表現しているが、曲タイトルと並列して表記されるアーティストをメインアーティスト、録音に参加しているが曲タイトルに併記されない録音参加者をサポートミュージシャンとしている。CPRAではメインアーティストをフィーチャードアーティスト(Featured Artist=FA)、サポートミュージシャンをノンフィーチャードアーティスト(Non-Featured Artist=NFA)と定義している。

「音制連が二重取りをする」という表現はイメージ操作

ーー先日、MPNが公開した野村さんのインタビューに関するFAQ(「『Musicman』掲載の日本音楽制作者連盟理事長インタビュー記事に関するFAQを公開します」)に対し、なぜ音制連として改めて説明をしたいと考えたのでしょうか。

野村:8月4日に僕のインタビューがMusicmanに出まして、そのあとMPNがそのインタビューを受けて、公式サイトにFAQという形でMPNとしての反論を掲載したわけですが、これはあくまでもMPNの会員に向けて発せられたものだったんですね。でも、この二次使用料分配に関しての問題は、音楽業界全体の問題だと思いますし、メインアーティスト、サポートミュージシャンの方々にも関わる問題ですので、みなさんに音楽業界の問題・課題としてきちんと理解してもらう必要があると思うんです。ですから、僕は前回同様に、Musicmanという場をお借りして、MPNのFAQに対して、我々の意見や反論を改めて述べていくべきだと考えました。

また、MPNは自分たちのウェブサイトでは答えてはいますが、Musicmanの野村インタビューに対して、というタイトルをつけているのであれば、Musicmanの場できちっと答えるべきなのではないかと僕は思います。

ーー私も同じ意見です。今回の件は非常に微妙な問題であり、弊社への誤解も招きかねないので繰り返しになりますが私の立場を説明させていただきます。

野村:それはそうですね。一歩間違えば、音制連の盲目的な協力者と思われかねない。

ーーそもそもMPN椎名さんとは40年近く前、弊社のスタジオ設立当初からのお付き合いです。当時はサポートミュージシャン、お客様として。その椎名さんがスタジオペニンシュラを作られてからは同業者として。さらに、つい数年前までは椎名さんが個人的に所有しているビンテージ機材を弊社のスタジオに有料でお借りしていたというような関係でもありました。その後もMPNがパブリックコメントを募る件でインタビューをしたりと、全く対立関係はありません。

野村:かなり親しい関係なんですね。

ーーそうなんですよ。また、弊社は音制連、日本音楽事業者協会(音事協)、映像実演権利者合同機構(PRE)を含む音楽関連団体とも一切の利害関係はなく、あらゆる音楽関連企業との資本関係もありません。もちろんMPNとも同様の関係です。もう一つ付け加えるなら、メインアーティストもサポートミュージシャンも所属しておりません。全くの一匹狼、カッコよく言えば自主独立のポジションを保っており、ニュートラルでフェアな視点から音楽ビジネスの発展を願っております。正直に言えば、どちらの言い分が通っても1円の影響もないという立場です。今回の件は純粋に問題解決に少しはお役に立てるのではと考え、関わることにしたのですが。実際ここ(音制連 事務局)に来るのにも自前で電車賃を払って来ております(笑)。

野村:それは申し訳ありません(笑)。

ーー今回の件は長期間にわたり関係団体間の会議室内での討論では遅々として解決への道筋が見えないため、Musicmanという場において取り上げ、音楽業界全体の問題として広く認識してもらい問題解決へ繋げたいという音制連の意向に賛同しただけです。

ですので、野村さんのインタビュー掲載直後に椎名さんからすぐに反論インタビューの申し出が来たときには、一歩前進したと思いました。その後、インタビュー日程も決まりましたが、直前になり直接ご来社いただいた上で椎名さんからインタビューのキャンセルが告げられました。

私としては一方の当事者、野村さんが全責任を負って登場し、音制連の考え方を述べているわけですから、椎名さんもご自分の主張を堂々とMusicmanですべきだ。自分の団体のウェブサイト上でFAQを掲載するだけでは説得力に欠けるし、内向き過ぎる。そもそもMPNの会員が理解、納得すればそれでよいというものではないはず。さらには問題解決をするつもりがないと見えてしまいかねないのではないか?などなど再三に渡ってインタビューを受けてもらえるよう、依頼をしたのですが…。

野村:なるほど。そういういきさつがあったんですね。MPNのウェブサイトでFAQの前に公開された「2023年8月4日付『Musicman』音制連理事長 野村達矢氏インタビュー記事について」というお知らせの冒頭には、「分配方法改善のためのさまざまな取り組みなどの客観的事実には基づかず、ただご自身の不満を一方的な視点から述べられており」などと書かれており、野村達矢個人が感情論で文句を言っているかのような印象を与えます。しかし、こういう話に関して、僕個人の感情論でMusicmanのインタビューに答えるわけもなく、僕は音制連の理事長という立場から、客観的かつ公平・公正に音楽業界を見た中で、自分の意見を語るべきだと思ったからからこそ、前回のインタビューを受けたんです。ですから、当然、個人の感情的なレベルの話ではないということは、ここでお伝えしたいと思います。

ーーわかりました。

野村: MPNのFAQに関して、順を追って見ていきたいと思うのですが、まず1番目の「①音制連が分配方法の見直しを提案し続けたことに応じないのはなぜか。」という質問に対して「事実はまったく逆です」とMPNは回答していますが、これこそ我々が「見直しをしましょう」とずっと提案し続けていることであって、何が「まったく逆」なのかわかりません。

また「メインアーティストであるバンドメンバーは演奏しているのだから、メインアーティスト分の分配を受けた上で、サポートミュージシャン分として確保された分配資金からも二重に分配を受けるべきである」と音制連が主張し、そこで見直しの議論がストップしたとも書かれていますが、これは全くの誤解、曲解というほかありません。あえてメインアーティストとサポートミュージシャンを対立させようとしているのではないかとさえ思えてしまいます。

音制連は一貫して、現在のCPRAの分配ルールで採用されている「資金分け(原資分け 以下資金分けで統一)」、つまり、使用料全体をあらかじめメインアーティスト分配資金とサポートミュージシャン分配資金に分けて別々のデータで別々に分配することをやめて、使用された楽曲毎に分配金額を計算して、楽曲の参加者が適正な分配を受けられるようにすることを提案してきました。最初にメインアーティストとサポートミュージシャンの取り分を決めてしまうのが「資金分け」の問題点ですから、例えばサポートミュージシャンを一切起用せずに制作した楽曲であっても、その楽曲の使用料の100%をメインアーティストが受け取ることはできなくなってしまいます。すなわち、サポートミュージシャン(NFA)分の一部は「みなし分配」として、そもそも放送使用されてもいない曲や楽曲に参加していないサポートミュージシャンが分配を受けることもできてしまいます。「二重取り」といった、あたかも音制連が本来は取り分ではないものすら不当に要求しているかのように説明することで、音制連がサポートミュージシャンを蔑ろにしようとしているという印象操作をしているとしか思えません。

ーー誤解される表現だと。

野村:そうですね、あえて誤解して欲しいのかもしれません。我々が導入を主張している英国PPL方式ならば、その「資金分け」の問題自体が解消されるので、それを採用したほうがいいのではないかというのが音制連の主張です。あと、一番最後のところに「現在もさらにより精緻な分配を実現するための検討が継続されています」と書かれていますが、いま申し上げたように、音制連を含む3団体が英国PPL方式の導入を提案しているのにもかかわらず、これに反対しているのはMPNだけであり、検討を継続しているというよりは検討することを止めているのがMPNであると、付け加えておきたいと思います。

 

「参加した実績」ではなく「使用された実績」への是正

野村:次の「②みなし分配で10年間も演歌系の10名が上位を独占しているのはなぜか。」という部分の回答の中に、「まだ演奏家の実演情報が充分に集まっていない中、放送使用楽曲もサンプリング方式で特定されていた時代に、音制連を含む芸団協CPRAが定めた分配規定によるもので、団体分配から個人分配を実現するための権利者特定に、参加曲数を重要視した価値観を強く反映したものです」との記述があります。

この「参加曲数を重要視した価値観」自体が古いもので、是正されるべきものなのです。参加曲数というのは、つまり録音参加回数のことです。著作権法には、「放送事業者は、・・・商業用レコードを用いた放送・・・を行った場合には、当該実演に係る実演家に二次使用料を支払わなければならない。」と規定されており、あくまで放送された原盤に収録された実演の使用料として支払われるべきであることは明らかだと思います。それを無視して、いまだに使用実績ではなく録音参加回数に重きを置いた分配方法を維持していることを、我々は是正すべきだとずっと言い続けています。MPN自身も、「現在から考えると乱暴なやり方」と言っているとおり、彼らもそれは是正すべきものであるとわかっているのです。

にもかかわらず、なぜかMPNはこの録音参加回数に基づいた分配にいつまでもこだわっているのです。そもそもこの違和感に対して異議を申し立てたのが、今回のこの問題の根本的なスタート地点である、ということはご理解いただきたいです。

ーーつまり、録音参加回数ではなく、実際に放送使用された実演に対してどう分配していくのか、ということを重要視すべきというのが音制連の主張なわけですね。

野村:そのとおりです。この点に関連して、もう一つMPNがしっかり説明していないことがあるのですが、それは、みなし分配に使われるP-LOG(日報)データ(以下P-LOGデータ)があくまで「みなしデータ」であるということです。このデータの欠陥は、トラックダウンなど編集以前の一次データであるため、ディレクターなどの最終チェックを経ていません。これでは、実際に音源に実演が入っていないサポートミュージシャンであっても分配が受けられてしまうことになります。さらには、実際に音源に実演が入っているサポートミュージシャンが登録されていないということにもなりかねません。

ーー録音参加回数ではなく、放送使用された実演に対してどう分配していくのか、ということだけでなく、そもそもみなし分配に使われるP-LOGデータも「みなしデータ」だということ。その2つの問題をいい加減見直すべきというのが音制連の主張なわけですね。

野村:そうです。この話をすると「そもそも、みなし分配なんて、分配の中でもたいした割合を占めていない」みたいなことをおっしゃる方もいます。具体的な数字で示したいのですが、みなし分配で演歌系の10名ほどの方が上位独占されている時代において、そこで使われている資金は毎年9億円前後あり、その上位10名ほどまで、そのときはほぼ同額でしたが、1人の方に分配される金額は約600万円でした。これは1人が1年間十分に暮らせる収入だと思いますし、大きいか小さいかと言えば相当大きな数字じゃないでしょうか。もちろん、この金額が真っ当なデータで真っ当な分配方法によって計算されたものであれば問題ないと思います。ですが、単に録音参加回数が多いという理由だけでこれほど高額の分配がなされているであろうことが問題なのです。

2019年度まで、9億円程度を分配資金とする「みなしデータ」による「みなし分配」は続いていました。2021年度にはそれが少し是正され、約4.5億まで下がりました。これは我々が是正に向けていろいろ努力した結果だと思います。ただ、そのあと2022年、2023年にまた分配資金が増額され、みなしデータによる分配は現在トータルで6億円にもなっています。MPNの説明においては、みなし分配は縮小していると書かれており、それ自体は確かに嘘ではないと思います。ですが、MPNが主張する分配方法を導入した2022年からは、せっかく減少傾向にあった「みなしデータ」による「みなし分配」の分配資金は再び増えてきています。このことは、いまだにMPNは「みなしデータ」による「みなし分配」を重要視していることの表れだろうと考えています。

次の「③P-LOGデータはほとんど人数の増減がないとのことだが、自分もP-LOGデータを出しているのになぜそうなるのか。」という疑問についてですが、これは音制連に対しての質問というよりは、おそらくMPNの会員であるサポートミュージシャンの方がMPNへ問い合わせてきた内容をここに載せているのではないかと思います。

MPNが主張するP-LOGデータのみなし分配による人数の増加は、使用するデータの対象年度を拡張した結果として増えたものであって、対象年度が同じ範囲にもかかわらずP-LOGデータの人数が毎年1,000~2,000人単位で増加しているかのような表現は、ミスリーディングだと思います。
また、仮に、P-LOGデータのみなし分配による人数が増えていたとしても、それはあくまで「みなしデータ」が増えただけで、どこまで行っても分配精緻化には繋がらないと思います。

 

データの一部開示ではブラックボックスの解消にならない

ーー「④P-LOGデータを一切開示しないのはなぜか。7対3の分配資金の『3』がP-LOGデータのブラックボックスということか。」に関してはいかがですか?

野村:もちろん7対3のうちの3の全部がP-LOGデータで配られているわけではありませんし、我々がそのようなミスリーディングをしているわけでもありません。ただ、「現時点でP-LOGデータによるみなし分配は、商業用レコード二次使用料の総額の4%にあたります。」と、みなし分配の影響がごく僅かであるかのような印象を与える説明は、誤解を招くと思います。

そもそも、全体の4%だから、それは正確な分配でなくてもよいという主張が正しくないことは今さら言うまでもないですよね。我々が問題視しているのはP-LOGデータ、つまり、みなし分配として分配されているものの中味、みなしデータの実態を我々が知らないということなんです。前回もお伝えしたとおりCPRAは、音制連だけではなくて、音事協、MPN、PREと4団体が関わって運営している組織です。でも、組織を執行している4団体のうち、1団体しかその中身を知り得ていないという状況の中で、多くの分配資金をその1団体のさじ加減で、我々の知り得ない状況のなかで自由に配っているということ自体が大きな問題です。これは前回のインタビューでも言わせていただきました。

回答には「ブラックボックスなど存在しません」と堂々と書いてありますが、全てを知っているMPNにとってはブラックボックスはないでしょう。でも、音制連はいまだにP-LOGデータで配られているみなし分配の計算作業についてもチェックできていません。これはMPN内部で行われているので、詳細については明らかになっていないんです。また、そもそも分配計算のもとになっているデータがどのように加工されているかも見たことがありません。これは、我々にとってもCPRAにとってもブラックボックス以外の何物でもありません。確かに一部分を開示したりするんですが、全体が開示されない限り、その一部分が全体でどういう意味を持つのかは検証できないので、全く意味がないんですよ。

ーー全て開示されない限り、ブラックボックス状態に変わりはないと。

野村:そうです。我々はCPRAの委員会で、「全て開示して欲しい」と毎回主張しているんですが、毎回決裂に終わり、開示されたとしても一部しか開示されない。ですから我々はこの分配の仕組みに対して「こういった仕組みで分配されているんだ」ということをいまだ把握したことがない。そして、大変申し訳ないことに、権利者の皆さまにも説明できないというのが現実です。ですからこの④に書いてある「ブラックボックスなど存在しません」というのは、あくまでその中身を知っているMPNの理屈に過ぎないと考えています。

ーーでも、④の回答には「今回音制連の求めに応じて、さらに詳細なデータを2022年9月21日付で開示しており」と書かれていましたが、これは不完全なものだったんですか?

野村:そうです。2022年10月19日のCPRAの音楽関連分配委員会で「開示されたデータが不足しているから、これ以上分配の検証をすることができない。したがって、分配について評価のしようがないということを上部会議に答申する。」という決議をして、議事録にもしっかり残っているんです。つまり「検証するには足りないデータが出てきたところで当然検証はできない」という話なんですが、そのことは椎名さんも含め、みなさんわかっているわけです。それなのにFAQに「詳細なデータは提出している」と掲載されたままで、そのことをMPNの誰も指摘しない、ということがそもそもおかしい状況だと思うんです。もし、音制連で僕が「『データは全て出した』と言い切ればいいんだよ!」と言ったとしても、役員や事務局から「いや、理事長。さすがにウソは駄目ですよ」とストップがかかると思います。でもMPNはそうならない。いったい内部でどのような説明がされ、どのような議論がされているのか、不思議でなりません。まっとうなガバナンスは機能していないのでしょう。

ーーなるほど。

野村:何度も言いますが、データの開示って10あったら10開示してもらわないと開示したことにならないです。MPNは「いや、8開示しているから、十分出していますよ」という考えなのかもしれませんが、2がブラックボックスだったら、みんなにとっては全体がブラックボックスでしかないんです。でも、そこまで言ってもすべて開示してくれないとなると、普通「都合が悪いのかな」と思ってしまいますし、逆に言えば、この中に既得権や利権が存在しているんだとしか思えないですよね。残念ながら。

僕は、こういったことを開示しないまま堂々と権利者の巨額のお金を配るということに対して、なんら悪気を持ってないこと自体に恐怖を感じます。商業用レコード二次使用料というのは、たくさんのメインアーティスト、サポートミュージシャンが努力し、世の中の人に楽しまれた結果として出てきているもので、たとえ一部であっても、それが誰にも開示されないデータや方法によって分配されていること自体、とても怖いことだと思います。

ーーそれはMPN内部でも開示されていないんでしょうか?

野村:そもそも情報がまったく伝えられていないのか、正確な情報が伝えられていないのかはわかりませんが、多くのサポートミュージシャンは知らないんじゃないでしょうか。そして「⑤実際に放送使用された楽曲の参加者ではなく参加回数による分配にこだわるのはなぜか。」という設問には、MPNは「繰り返しになりますが、こだわっている事実はありません。」と書かれ、その下に「分配を率先して強く提案してきており、参加回数によるみなし分配に執着しているというのは事実に反しています。」「年々増加しているものの照合率は未だ50%に届かず、この状態でヒットチャート楽曲だけで分配を行うことは、それもまた放送使用実態と乖離した不公平な分配を生む結果となります。MPNは様々なジャンルの楽曲を補完することで、不公平さをより軽減したいと考えています。」と書いてあります。MPNも軽減したいと主張している不公平さ、これは英国PPL方式に移行したら解消するはずなんです。ですから、英国PPL方式を推進しないで古いやり方、いわゆる「資金分けに由来するみなし分配」を温存することは、放送で使われた回数をもとに原盤の参加者に対してきちんと分配すること自体を否定していることにほかならないと僕は思います。そもそも②で「参加曲数を重要視した価値観を強く反映したものです」と言っていますからね。ですから、はなからMPNは、レコーディングへの録音参加回数にこだわっていて、放送使用回数にはこだわっていない、と繰り返し同じことを言っていると思うんですよ。

ーーMPNは、どの曲が売れるかなんていうのは結果論であって、どれだけスタジオで貢献したかどうか(労働の対価)が評価されて分配を得るべきであるみたいな考え方なんでしょうか。

野村:恐らくそうなんでしょうが、著作隣接権の発生のさせ方というのは、やはり「放送事業者は、・・・商業用レコードを用いた放送・・・を行った場合には、当該実演に係る実演家に二次使用料を支払わなければならない。」と著作権法に規定されているとおり、使われた実演に対してその実演家に支払われるべきだと思いますし、それが付加価値だと思うんです。これについて誰も異論ないんじゃないですか。

ーーお互いに解釈の違いがある?

野村:録音参加回数や費やした時間というのはそもそものギャランティ(出演料)で評価し尽くされているはずなんですよね。実演を行った結果、その曲がどういう風に評価されて、どれだけ使われるかということとは関係ないはずなんです。確かに昔は放送使用のデータがなく、録音参加回数をベースとして分配せざるを得ない時代があったかもしれません。ですが、今なおMPNすらも「乱暴なやり方」と考える録音参加回数をベースとした分配に固執すること自体、我々は違和感を覚えますし、論理が破綻しているんじゃないかなと思います。

次の「⑥MPNは分配以外にP-LOGデータ作成費だけで毎年1,000万円以上ももらっているのか。」ですが、これに関しては具体的に言うと1,650万なんですが、残念ながらこの費用は長年固定化していて、この費用の妥当性に関する見積もりや実際の作業の内訳みたいなものもCPRAでその詳細は報告されていません。繰り返しになりますが、この納品物(P-LOGデータ)についても、中身を開示できないとしているのですから、ブラックボックスですよね。

「⑦CPRAが国連常任理事国の拒否権のように多数決できないのはなぜか。」の回答に「プロダクション系の団体3つに対して、サポートミュージシャンが多く所属している団体はMPNのみである」という風に書いてありますが、サポートミュージシャンは音制連にも音事協にもPREにもいらっしゃいます。あと「サポートミュージシャンの団体が弱い立場だから議決権も拒否権も持っているんだ」というようなことも書いてありますが、別にサポートミュージシャンのためにMPNに拒否権が与えられているわけではありません。MPNは、とかくこの問題を、メインアーティストとサポートミュージシャンの対立みたいな話にしたがるんですが、我々はメインアーティストとサポートミュージシャンの対立じゃなくて、サポートミュージシャンの分配も正当になされていないのではないかと問題を投げかけているのであって、メインアーティストの取り分を増やしたいから言っているわけではないというのは改めて申し上げたいです。音制連はメインアーティストだけで構成される団体ではなく、サポートミュージシャンもたくさん所属しています。同じように、MPNにはサポートミュージシャンだけでなくメインアーティストも数多く所属しています。音制連は、メインアーティスト側の立場からだけものを言っているわけでなく、サポートミュージシャンの分配の精緻化について真剣に考え、取り組んでいるのです。

ーーメインアーティスト、サポートミュージシャン関係なく計算式を決めて透明性を持ってやりましょうと言っているだけですものね。

野村:本当にそこだけなんですけど、なぜかすぐに対立構造にするんですよ。そうではないんだと言うことは何度でも言いたいです。そして「⑧データ整備が進んでいなかった20~30年前の方法を取り続けるのはなぜか。」の回答において、まず「サポートミュージシャンへの分配方法の見直しが進みませんでした。」というようなことが書いてあるんですが、その見直しをずっとしていなかったのはMPN椎名さん自身なんです。現に音楽関連分配委員会の委員長を椎名さんは20年近く務めてきたわけで、我々は委員会の中でずっと「見直しましょう」と言い続けてきたのに、その要望を真摯に取り上げることもなくこれにブレーキをかけてきたのが椎名さんなわけですから、この言い草に我々は唖然としました。はっきり言って「どの口が言っているんだ」という感じです。

 

サポートミュージシャンにもしっかり分配できるための方法論がPPL方式

野村:「⑨音制連の提唱するPPL方式にしないのはなぜか。」では、「PPL方式は、サポートミュージシャンが判明しなかった楽曲の分配資金をメインアーティストに分配する仕組みになっています。」というようなことが書かれ、ここでも「二重に分配を受ける方式」という言葉が使われています。繰り返しになりますがメインアーティストに二重分配をしたいわけではなくて、メインアーティストしか関わっていない楽曲は、メインアーティストだけで分配すればいい。一方でサポートミュージシャンが関わっている楽曲は、参加したサポートミュージシャンを含めた分配率で分配すればいいと。関わっているものと関わっていないものをきちんと分けて、平等に漏れがないようにサポートミュージシャンにも分配できるための方法論としてPPL方式を採用すべきだと言っているのが音制連の立場です。PPL方式を採用すると、「サポートミュージシャンの資金が縮減し、メインアーティストへと還流してしまいます」とMPNは主張していますが、この言葉を借りれば、メインアーティストしか関わっていない楽曲についてもサポートミュージシャンに分配している今の分配方法は、「メインアーティストの資金が縮減し、サポートミュージシャンへと還流している」ということになります。それが本来あるべき姿、法律が予定している姿に戻すことについて反対するのであれば、それはまさに既得権としか言いようがないのではないでしょうか。

PPL方式では、サポートミュージシャンの方々が参加した楽曲がどれだけ使われ、どれだけ成果を上げたかということがはっきり分かりますから、正確な分配につながります。ですからPPL方式に切り替えることで、サポートミュージシャンの方々のためにもなると我々は考えています。

ーー例えば、バンドが5人のメンバーだけでレコーディングを行った場合、当然そこで分配するのが当たり前だと、ただそれだけのことですよね?

野村:そうです、ただそれだけのことです。今は逆に言うと、5人組でやっているバンドの楽曲でも、サポートミュージシャン用の分配の枠があって、それが頭分けでとられているという形になっています。そのような部分では、メインアーティストからすれば逆に不公平に見えるので、その不公平も解消できるというのがPPL方式です。

ーー逆に言えばというか、普通の考え方ですよね。

野村:普通ですよね。ややこしいことをしないで、本来あるべき姿にしようとしているだけなんです。そして最後の「⑩著名なサポートミュージシャンがみなしTOP10にいないのはなぜか。」ですが、先ほどから再三申し上げている通り、使われたというデータがない楽曲に「みなし分配」の名のもとに分配金がいっているだけです(笑)。はっきり言ってこれも唖然とするんですが、堂々と「使われたというデータがない楽曲に参加した人にお金を配っています」ということを言っているんです。そうではなくて、あくまでも商業用レコード二次使用料というのは使用されたものに対しての対価なので、それに対してちゃんと使われた人に分配しましょうよというのが我々の主張なんです。放送で使われた実績がない楽曲に参加したサポートミュージシャンに対して二次使用料を分配することは、誰が聞いても間違っていると認識するはずですよね。

何回も言っていますが、音制連にとって、そしてメインアーティストにとって、サポートミュージシャンは楽曲制作における大切なパートナーなんです。実際に音制連にもサポートミュージシャンの方々がたくさんいます。サポートミュージシャンのなかで公平な分配がおこなわれていないということに我々はずっと異議を申しているだけで、メインアーティスト側に対しての分配を増やそうと言っているわけじゃないということは本当に理解してほしいんですよね。

サポートミュージシャンの方々って、個人でやられている方もたくさんいらっしゃるので、こういったことをそれぞれの人たちが理解して、それに対して「問題あるんじゃないか」「これはおかしいんじゃないか」ということをなかなか言いにくいですし、理解しにくいと思うんです。ですから団体の一部の人間が好き勝手に、自分の裁量でやっているような状態が多くなっちゃっているんじゃないかなという気がするんです。

椎名さんは、MPN理事長だけではなく、CPRAでも長年にわたって色んな委員会の委員に就いています。椎名さんが、これまでサポートミュージシャンの権利について大きな功績をあげてきたことは否定できませんし、替えがきかない人であったという事実もあるでしょう。しかし、ここにきて、長年同じ人がポストを独占することで生じる弊害のようなものが出てきていることもまた確かだと思います。どんどん若い世代に引き継いでいくのも僕たちの重要な役割じゃないでしょうか。世代交代ができないということは未来の形がないということになります。

椎名さんから、CPRAの最高意思決定機関である権利者団体会議の中で、「権利者団体会議以外の委員会からは今年中に退く」という確約を得ていますので、この後本当に退くことになるのかについても注目しているところです。

ーーちなみに音制連は加盟者から運営に関してクレームを言われることなどあるんですか?

野村:音制連はプロダクションの団体で事業者が関わっているので、運営に対してちょっとした不透明な部分だったり、疑問があるとかなり言われます。まあ当然ですよね。でも、MPNみたいな、いわゆる個人事業主だったりインディペンデントな方々が参加している団体だと「全体の予算や資産はどうなっているんだ」みたいなことが追及されにくいと思うんです。みなさん、普段の業務で手一杯な部分があると思います。そういう意味では運営側というか執行側もそれに甘んじて、好き勝手やっているんじゃないかなという気はすごくします。ここはMPNと音制連の大きな違いだと思いますし、前回も言いましたが、そもそも同じ人間が理事長を何十年もやれるというのは、今の時代コンプライアンス的にも通用しないと思います。オーナー企業でもあるまいし。きちんと未来の姿も準備するべきです。

ーー音制連は、前回の野村さんのインタビューや、MPNのFAQを踏まえた上で、公式サイトに「CPRA二次使用料分配の実態」という特設ページを開設されましたが、Q&Aでは大変詳細に今回の件を説明されていますね。

野村:読んでいただきありがとうございます。今回のインタビューとともに、この特設ページのQ&Aは是非読んでいただきたいです。前回、そして今回のインタビューでお話ししたことをQ&Aではさらに詳細かつ丁寧に説明していますので、できるだけ多くの方々に読んでいただき、この問題について理解を深めていただければと思います。必ずしも音制連の意見に賛同していただく必要はありません。是非、商業用レコード二次使用料の分配について、一人でも多くの権利者の方を始め、業界関係者の皆さんには問題意識を持っていただきたいと思っています。よろしくお願いします。