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第210回 株式会社ジャパンミュージックシステム / WIRED ReCORDS 猪股洋之氏【後半】

インタビュー リレーインタビュー

猪股洋之氏

今回の「Musicman’s RELAY」はRAD CREATION株式会社 代表取締役社長 綿谷剛さんのご紹介で、株式会社ジャパンミュージックシステム / WIRED ReCORDS 猪股洋之さんのご登場です。

工業高校を1年で中退し、飲食業で働く中で音楽業界への道を模索した猪股さんは、バイトとして新宿LOFTに入社し、その後CATCH ALL RECORDSへ。長年の希望だったNorthern19のマネージャーに就任します。

以後、バンドの独立に伴う自主レーベルの設立を経て、ジャパンミュージックシステムに入社。現在はNorthern19とFOMAREのマネージャーを担当し、日々バンドのために尽力されています。ご自身の力で音楽業界への道を切り開いてきた猪股さんに、キャリアの話から、ライブハウスシーンの現状と未来、そして音楽業界を目指す人たちへのメッセージまで、じっくり語っていただきました。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也、長縄健志 取材日:2023年11月17日)

 

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第210回 株式会社ジャパンミュージックシステム / WIRED ReCORDS 猪股洋之氏【前半】

 

マネージャーとしては一番必要なのは「どれだけ人のためにやれるか」

──新たにマネージャー業を始めてみて、いかがでしたか?

猪股:ライブハウスで働いていたので、ライブ現場のことはわかりますし、ライブに至るまでになにが必要かとか実務的なことはわかる状況だったんですが、そもそも「マネージャーってなに?」というところを考える必要があったんですよね。僕が見ていたマネージャーさんたちって、バンドのストロングポイントをみんなで共有して上がっていこう、みたいな感じだったんですが、いざ現場に出てみたら、僕はなにもわかっていないんだなと。

CATCH ALL RECORDSには社長と副社長がいたんですが、マネージャーという現場型の人が当時いなくて、だから教わる直属の先輩もいなかったんです。社長からは「物販はこうやるんだぞ」みたいな基礎的なことは教えていただいたんですけど、じゃあどうやって売り上げを作るかとか、そういうことは自分は全然わからなかったんです。そこで「マネージャーとして何が必要なのか」を考えたときに、僕はNorthern19のチームにいたPAさんやローディさんとかいろいろな人たちに、「どういうマネージャーが仕事しやすいですか?」を聞いて回ったんです。つまり、専門職の方から「いいマネージャーとは」みたいなことを教えていただく感じでした。

──先輩マネージャーがいなかったから、その周りの人たちに教わったんですね。

猪股:はい。やはりチームの旗を振るのはマネージャーの役目なんだという意識はあったので、みなさんがまずいい仕事をするためにどうすればいいのか聞いていったんですよね。それでみなさんがいい仕事をすれば、それがバンドの格好良さにつながると思っていました。ですから、「どうしたらいいでしょうか?」「なにもわからないので教えてください」みたいな話をしに行きましたね。当時Northern19を担当されていたみなさんって「インディーズのバンドのスタッフをやるレベルじゃないでしょ」みたいな第一線の方たちばかりだったんです。ですから、そこの教わったことはすごく大きかったですし、今に生きていますね。

──そのとき得た「マネージャーとは?」への回答はなんだったんですか?

猪股:合っているかわからないですけど、僕は犠牲心ですね(笑)。どれだけ人のためにやれるかみたいなところがマネージャーとしては一番必要かなと思っています。対人なので嫌なこともありますし、ストレスも感じますし、いろいろあるんですが、根底では自分が格好いいと思うことをやってくれている人たちの力になるために僕がいると思っています。実はそう考えない人のほうが、新しいシーンを作るとか、新しい1歩目を踏み出すのに長けた人だと思うんですよね。僕は1歩目を誰かが踏み出してくれたものに対して、それを10に持って行く方が得意なのかなと思っています(笑)。ですから、僕の今後の課題は、1歩目を踏み出すような仕事ができるようになるかだと考えています。

──なるほど。音楽業界で働きたい人の中でも「マネージャーは嫌です」と言う人ってたくさんいるじゃないですか。

猪股:正直に言うといますね。

──私はマネージャーこそ音楽ビジネスの中心だと思っていますし、音楽ビジネスを理解するにはマネージャーという仕事は最適なんじゃないかなと思うんです。

猪股:実際そうですね。僕は現場に全部詰まっていると思うので、例え、現場を引退して立場が上がったとしても、その現場を経験しているか、していないかは大きな違いだと思いますし、マネージャーができないと業界で次のステップへ行くのは難しいんじゃないかなとは思っています。

──ジャパンミュージックシステム(JMS)に移られるきっかけは何だったんですか?

猪股: 2012年にNorthern19がCATCH ALL RECORDSをやめることになり、僕もその後退社するのが決まっていて。自分でレーベルやることも視野に入れてましたが当時はまだ29、30ぐらいでお金もないですし、無理なんじゃないかと思いつつ、いろいろな人に相談したり、お話聞かせていただいたりしました。それこそTHE NINTH APOLLOの渡辺(旭)さんは当時からお世話になっていた人で、「どう思います?」と聞いたら「お前やったほうがいいよ」みたいなことを言ってくれました。ありがたいことにそう言ってくれる方が多かったんですよね。

それで、出資をしてくれる方もいたので自分のレーベルを始めたんです。もちろんワンアーティストですし、お金もしんどかったんですが、みなさんのご協力のおかげでなんとかやっていけました。昔「Musicman’s RELAY」に出演したジャパンミュージックシステムの鈴木健太郎さんともその時には出会っていました。その後、出資者の方とも1回離れて、完全に1人やる期間が2年ぐらいあり、そのときにも鈴木さんから「うち来ない?」というお話はもらっていました。

──鈴木さんにずっと誘われていた?

猪股:はい。それでNorthern19はファースト、セカンド、サードがすごく売れたあとに停滞した時期があって、そのときに僕のエゴとしては「やり始めた以上は自分でやりたい」だったんですが、アーティストのことを考えたときに、勝負したいときに僕の力が足りなくて勝負ができないとか、それってバンドのためにならないなと思ったんです。もう1回バンドが上がっていくためにはそれなりのカロリーが必要ですが、アーティスト自身は常に120点でやってくれている。その姿を見ていたので、自分がこのままではダメだなと感じていました。

もちろん、鈴木さんと一緒に仕事をしたいという気持ちもありました。鈴木さんのアイデアマンみたいなところとか、アクティブなところとか、さっき言ったゼロをイチにする、僕にないストロングな部分を持っている人なので、そういう人と仕事をしたら面白いかなという気持ちがありました。

──バンドへの想いと、鈴木さんの存在からジャパンミュージックシステムへ入ったと

猪股: JMSに入ってNorthern19をもう1回リバイバルするために戦いたいというのと、僕が音楽人として生きていく上で、鈴木さんと仕事をしたらまた新しいフィールドが見えるのかなとか、新しいエッセンスじゃないですけど、受けられるのかなと思ったので2016年に入社しました。

 

いかにアーティストにストレスなく音楽をやらせてあげられるか

──ジャパンミュージックシステムへ入ってみてどうでしたか?

猪股:僕が入ったときに、ちょうどJMSがマネージメント部をしっかりやっていこうみたいなタイミングだったんです。JMSはもともと流通の会社だったので、そこから関わるアーティストが増えていき「マネージメントをやろう」という取り組みがありました。当時SWANKY DANKというアーティストがいて、SWANKY DANKのマネージャーが、僕が入社してすぐ辞めるのが決まっていたので、SWANKY DANKとNorthern19のマネージャーをやることになりました。JMSは鈴木さんが作ってきた会社なので、「こういう風にアーティストを売りたい」という方針や会社のカラーみたいなものを自分の中に入れ込むのに最初は時間がかかりましたね。

──JMSへ移ってNorthern19の活動は順調になったんですか?

猪股:自分だけでやっているより力を貸してくれる方が多い環境なので、順調だと思います。なんて言ったらいいんですかね・・・僕はNorthern19の音楽が本当に好きなんです。ジャンルで言えばメロディックパンクと括られたりするんですが、本当にいろいろな要素が入っていて、こんなに格好いいことを3ピースでやれるバンドって僕はいないと思っていますし、それは出会ったころから未だに変わらないので、いかにこの人たちに音楽に集中してもらえるか、というところが重要かなと思ってます。もちろんもう一回一緒に上に行きたいは前提ですよ。

音楽って好きだから始めているものじゃないですか? だからそれが嫌になって辛くならないようにするにはどうするか、というのを一番に考えているというか。もちろんそれはJMSがいてくれるからできますし、JMSではNorthern19と僕は自由にやらせてもらえてるのですごく恩義を感じていますし、Northern19を自由にやらせてもらう分、ほかのアーティストの担当としていかにJMSに還元できるのか、というところが今の僕のモチベーションにもなっています。

──もちろんNorthern19が活躍すれば、それもJMSへの還元になるわけですよね。

猪股:ええ。実際に楽曲で言えばどんどんクオリティは上がっていますし、周囲からの評価も高いんです。ですから、もう1回リバイバルするためには今は耐え忍ぶ時期としてスキルを磨いて、もう1回メロディックパンクシーンが注目されたときに、いかに上にいることができるかが勝負かなと思っていて、そこを目標に頑張っているところです。

──いま時代の流れとして、あまり追い風ではない?

猪股: 今の時代っていろいろなところにブレイクポイントがあって、SNSが発達して、音楽との距離が近くなったじゃないですか? これは僕の個人的な考えなんですけど、近くなった分、音楽の中身まで問われなくなってきている気がしちゃうというか。

──聴かれ方も変わったし、ファンの人たちが音楽に求めているものも少しずつ変わってきている。

猪股:それが悪いとは思っていないんです。例えばInstagramを開いていて、切り抜き動画があって、バンドのMCがメチャクチャバズっているとか、そういうのって時代だと思ういますし、逆にそれきっかけで音楽を聴くとかあると思うんです。僕がライブハウスにメチャクチャ通っているときって、そういうツールはあまりなかったので、バンドを感じるにはライブに行くしかなかったみたいな感じだったんです。でも、今って別に携帯を開けば見られちゃいますしね。

──手軽になりすぎた分、ありがたみがなくなったことは事実ですよね。難しいですね。

猪股:正直難しいですよ。両方いいとは思うんですけどね。

──当然アーティストも歳をとればファンも歳をとるわけですが、そこが上手く回っていくといいんですけどね。

猪股:そうですね。20年やっていると、お客さんも結婚して子どもが生まれて生活が変わって、ライブハウスを卒業していくというのは普通のことです。ですから、若い子たちにどうアプローチしていくかというところをもうちょっと僕が考えていかないといけないなと思いますね。メンバーがやりたいことを今の時代にアジャストしてやっていかなきゃいけないのかな、と思うこともあるんですけど、それをやることによって彼らの音楽が安っぽくなったりしたら本末転倒なので、その攻め方を考えながら「どうしていこう?」ってずっと日々悩んでいます(笑)。

 

FOMAREは新しいライブシーンのヒーローになれるバンド

──もうひとつの担当アーティストFOMAREとはどのように出会ったんですか?

猪股:FOMAREと出会ったのはJMSに入ってからなんですけど、そのときにJMSの中でTHE NINTH APOLLOの渡辺さんとJMSの鈴木さんがレーベルをやるというのが決まっていて、そこでマネジメントアーティストとして決まっていたのがFOMAREなんです。彼らはメロディックパンクキッズだったので、当然Northern19のことを知っていて「Northern19のマネージャー猪股」というのは認識していてくれていたみたいで、いろいろ話をして、2019年の47都道府県ツアーから関わりが始まりました。

──メンバーは若いんですか?

猪股:フロント2人が27で、ドラムが29ですね。フロントと僕とは一回り違うんですが、僕世代の音楽にすごく影響を受けているので歳の差も感じず話が出来ます。

──コロナ直前という大変な時期にマネージャーになったということですよね。

猪股:そうですね。そのツアー自体は新木場スタジオコーストがファイナルで、ソールドアウトして「ここから行くぞ!」というタイミングでコロナになって・・・。JMS的にはコロナ禍で、会社として「ライブはしばらく止めよう」という方針だったので、約1年ライブができず、徐々にソーシャル・ディスタンスとか新しいルールのもとで仲間内がライブをやり始めたのを観に行ったりしながら、どういう形ならライブをやれるのか考えてました。

当時みんなアコースティック・ライブをやったり、飛沫がどうこうとかやれることを色々模索していた時期でしたけど、やりながらも「これロックバンドとしてどうなんだろう?」とずっと違和感を感じていたんです。でも、メンバーたちは「やれるならやりたい」とのことだったので、少しずつライブをやり始めました。

──やはり動員的に厳しい時期もありましたか?

猪股:厳しい時期はありましたけど、そこを超えてバンドがメチャクチャ強くなりましたね。そこは「コロナありがとう」とまではいかないですけど、鍛えられたかなと思いました。当時いたバンドの中でも頑張れるバンドと頑張れないバンドがいましたからね。

──コロナを乗り越えてバンドとして成長できたと。

猪股:ボーカルのアマダシンスケが「コロナ禍が終わってから、みんなで歌えたらいいな」という想いを乗せた曲を当時から書いていて、コロナが落ち着いた今多くの人に届いている気がします。
コロナが落ち着いてきて、僕らが行っていたライブハウスじゃなくて、若いお客さんたちが新たなライブハウスシーンを作っていると思うんですが、FOMAREはそのヒーローになれるバンドだと思っているんです。ですから、彼らをどこまで格好よくできるかとか、どれだけ多くの人たちに伝えていけるかが、コロナ以降の僕のやらなきゃいけない事かなと思っています。

──ライブハウスの雰囲気も変わってきているんですか?

猪股:変わってきていますね。僕らの世代がライブハウスへ行っていたときって、例えばモッシュ、ダイブとか表向きはやってはいけないということになっていますが、黙認というか(笑)、「自然発生は仕方ないじゃん」みたいな感じだったじゃないですか?雰囲気を皆で作っていくというか。でもコロナが明けてからは「モッシュ、ダイブってできるんですか?」という問い合わせがきたりするんですよ。それって僕からしたら衝撃的な話で、そもそもライブハウスは「危険行為は禁止です」とうたっていて、そこで黙認じゃないけど「みんなわかっているよね?」ということじゃないですか? でも、そこで「アリかナシか」の答えを求める人がすごく多くなった印象です。

──そう聞かれても答えようがないですよね。

猪股:こっちはなんとも言えないです(笑)。「ナシ」って言ったら面白くなくなっちゃうし、「アリ」とは言えないし。でも、そういう子たちが徐々にライブハウスでの自由な楽しみ方を作っているような感じなので、新しいヒーローも生まれる予感がしていますし、そういう時代にいられるというのは逆にポジティブだな思います。

──それだけ、ライブハウスに初めて遊びに来る子が増えたということですよね。

猪股:すごく増えましたね。

──ライブ関係者の方々が口を揃えて言うのは「ライブハウスは絶好調」だと。あと新しいお客さんが増えたとみなさんおっしゃります。

猪股:例えば、「初めて原宿に行きます」みたいな(笑)、そういう興味本位な感覚でライブハウスに来てくれる子も増えたと思いますね。オシャレをして来る子もいますし、もちろんTシャツにディッキーズみたいな子もいますし、いろいろな人たちが入ってきてすごく面白いんですよね。正直きっかけはなんでもいいかなと思うんです。デートで好きなアーティストを観に行くでも全然いいと思いますし。

──デートでライブハウスに行くんですか?(笑)

猪股:そういう子もいると思いますよ(笑)。カップルで来たりとか。ですから、昔はライブを楽しみに来るという純度が高かったと思いますが、今はいろいろなきっかけでライブハウスに来られるようになっているので、自由で面白いなと思いますし、そういう子たちによりライブハウスを好きになってもらうには今後どうすればいいか考えますね。

──ライブハウスファンをいかに増やすかですよね。

猪股:ファンにできたらいいなと思いますし、最前線でやっている人たちがみんな口を揃えて「バンドって最高」と言うんですよね。僕はそれってすごくいい言葉だなと思っていて。この前04 Limited Sazabysの日本武道館へ行ったときもメンバーがMCで言っていましたし、FOMAREもインタビューとかで「バンドって最高です」と言ったりしているんですよ。

──バンドブームが今来ている?

猪股:今後くるんじゃないかなと思います。

──綿谷さんは、名古屋には若いバンドがいっぱいいるっておっしゃっていました。コロナ禍でやることがなかったからギターを弾き始めた人が多かったんじゃないか?ともおっしゃっていて(笑)。

猪股:そうですね(笑)。多分なにもすることがないので、音楽を聴いていた人もメチャクチャ多いと思うんです。とりあえず家で音楽聴こうとか。ですから、コロナ以前より音楽はより身近になっていて、それでライブハウスに行って格好いいと思って「自分たちもやってみよう」みたいな子たちがすごく増えてきています。ジャンルは様々ですけど。僕は来年、再来年ぐらいはバンドブームが来るんじゃないかと思います。バンドブームという言い方はあれですけど(笑)。

──そういう兆候のさきがけになっているバンドってあるんですか?

猪股:個人的にはハルカミライですかね。彼らはライブハウスでやっても武道館でやってもザ・ライブを体現していて格好いいなと毎回思わされます。もちろんFOMAREもそうですし、あとHEY-SMITHも自分たちの活動を通して夢を見せてくれている感じがあるので、そこへの憧れという感情は絶対に出ると思うんです。「ああなりたい」「あそこのステージに立ちたい」というよりは、「これだけ格好いいんだったら、僕らもやってみよう」みたいな人たちが絶対いると思います。

 

ライブハウスで格好いいことをやっていれば手が届くフェスをやりたい

──日本の音楽ビジネスの課題は何だと思いますか?

猪股:僕のやりたいことと通ずる部分になってくるんですが、コロナ禍以降、主要フェスと言われるフェスってすごくお客さんが集まる一方で、ライブハウスを主戦場にしているアーティストがフェスに出ても、ライブハウスとフェスの間にちょっとした溝と言うか距離がある気がするんです。それは双方の魅力がしっかりしているからこそというか。肌感として。フェスが好きという人が増えて、それは娯楽として最高なことだと思うんです。好きな音楽を聴いて、おいしいご飯を食べて、友だちと思い出を作れて。でも、音楽を常に奏でているリアルなライブハウスと、ここのギャップと言っていいのかわからないですが、僕が感じてるところをどうにか埋められる策やキッカケを作りたいなとずっと思っています。

ありがたいことに今年もいろいろなフェスに行かせていただいて、それをやっている人の熱い思いとかメチャクチャ感じてフェスのすばらしさをより感じてきた中で、やはり僕はライブハウス出身なので、これをどう繋げていけたらおもしろいのか常に考えています。

──昔ほどフェスからライブハウスへのフィードバックがないんですか?

猪股:以前はフェスに出て、そのあと動員につながるのをリアルに見えたんですが、今は名前を知っていただくキッカケになっても、ライブハウスまでの直接的な動員までは昔よりは繋がっていないのかな?思います。その動線をいかに作れるかみたいなところを僕は考えていて、それが自分の将来の夢とも繋がっています。

──猪股さんは将来的にどのようなことを考えているんですか?

猪股:僕が若い頃に「BAYSIDE CRASH」という東京・晴海ふ頭でやっていた野外パンクイベントがあったんです。30バンドくらい出演して、そこに何千人と集まるんですが、会場が“ザ・ライブハウス”みたいな雰囲気なんですよ。僕はそのイベントにすごく衝撃を受けたんですが、都市開発の影響でその会場でできなくなくなり、イベント自体もなくなっちゃったんですが、そのBAYSIDE CRASHのような、ライブハウスで格好いいことをやっていれば手が届くフェスみたいなのをやりたいんです。ライブハウスでライブをすることを通じて何千人の前でやれる!みたいな、ライブハウスヒーローがもう1個ステージを上げられるようなイベントを作ることで、ライブハウスシーンをもっと盛り上げることができるんじゃないかと考えています。

──フェスとライブハウスの中間的なイベント?

猪股:そうですね。僕は15年ぐらいこの仕事を続けて、いろいろな世界を見させてもらっているので、そういうのを1個形にしていくのが40歳からの仕事なのかなと思っています。そのイベントは再来年ぐらいまでを目標にやりたいなと思っていて、ビジネス先行で考えるよりは、とりあえず大事だと思ったことを先にやって、それがのちにビジネスになったらいいなという考え方なので、まずはイベントを実現させて、そこから帳尻を合わせていけたらいいなと(笑)。

──というか、ビジネス先行で考えてうまくいった試しは滅多にないですよ。音楽の仕事って楽しいからやっているとか、やりたいからやっているとか、そういうものが結果としてビジネスになったということばかりじゃないですか。

猪股:本当にそうだと思います。実際に今ある世界って、先輩たちがみんなで作ってきてくれた文化なので、そこに乗っからせてもらうのも一つなんですが、せっかくこの業界にいる以上、新しい一手を作れたほうがこの業界にいた意味を残せるのかなと感じていますし、それをやれなかったらただのマネージャーで終わっちゃうので、ちょっと新しいことをやりますという感じです(笑)。

──最後になりますが、音楽業界を目指す若者たちにメッセージをお願いします。

猪股:マネージャー業の話になってしまいますが、頭も体も使いますし正直しんどい仕事です。でも、マネージャー業って、そのしんどさを感動とか非日常的な部分で全部忘れさせてくれる仕事だと思うんです。誠心誠意いろいろな方たちと向き合って仕事をすれば、全国47都道府県に信頼できる仲間ができますし、それって人生としてメチャクチャ大きな財産だと思うんです。それでお金がもらえる仕事って正直マネージャーしかないと僕は思っているんです。僕はこの仕事が一番格好いいと思ってますし、誇りに思っているので、少しでも興味があったらまず来なよ、って言ってあげたいですね。最初はみんな分からないことだらけなんですから。

──飛び込んでこいと。

猪股:はい。音楽業界って門が広いと思うので、まずはそこからじゃない? という感じですね。「やりたいな」で終わっていたらこの世界は引っかからないと思うので。興味がある、とりあえず履歴書送る、会いに行く。そこからスタートだと思います。

──そういう積極性のない人に、誰も向こうから来てくれないですよね。

猪股:マネージャーってなんだかんだ自分で道を切り拓いていかないといけないじゃないですか。人と接しながら。その第一歩だと思うので、それができないとマネージャーはやれないです。ですから、少しでも興味を持ったらまず動こう、と伝えたいですね。
ここを通じてまだ見ぬ仲間に会えるのを楽しみにしています!