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第212回 株式会社10969 代表取締役 後藤吉隆氏【後半】

インタビュー リレーインタビュー

後藤吉隆氏

今回の「Musicman’s RELAY」はカメラマン 橋本 塁さんのご紹介で、株式会社10969 代表取締役 後藤吉隆さんのご登場です。滋賀県出身の後藤さんは大学入学を機に大阪へ。卒業後、ソニーミュージック大阪営業所のプロモーターとして音楽業界入りします。

その後、アミューズへ入社し、マネージメント業務に従事。のちのONE OK ROCKのメンバーたちと出会い、バンド結成後は地方でのライブなど地道な活動を積み重ね、世界へ羽ばたくアーティストに成長させます。2021年にはONE OK ROCKのマネージメント会社10969を設立した後藤さんに、ご自身のキャリアからライブに対する想いまで伺いました。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也、山浦正彦 取材日:2024年1月24日)

 

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第212回 株式会社10969 代表取締役 後藤吉隆氏【前半】

 

形になっていなかったところからやり始めたONE OK ROCK

──ONE OK ROCKとはどのような出会いだったんですか?

後藤:アミューズに入って2、3年経ったぐらいに、若手の男の子たちのマネージメントを担当することになったんです。それは誰か個人を担当するというより、まだ芽が出ていないたくさんの男の子たちを全体的にマネージメントする仕事で、そこで初めて今のメンバーの数人と出会い、「バンドをやりたい」というので「じゃあ一緒にやろうぜ」みたいなスタートでした。それが2004年ですかね。

──では、まだ正式な形にはなっていなかったということですね。

後藤:そうですね。まだ形になっていなかったところから徐々に始まりました。

──ボーカルのTakaさんはそのときは入っていたんですか?

後藤:早い段階で加わることになり、バンド名も決まり、そこから一緒に歩んできたので、そういう意味では最初からですね。元々彼はアミューズに所属はしていなかったんですけど。

──最初に彼らの歌や演奏を聴いたときに印象に残っていることはありますか?

後藤:彼らはまだ10代でしたから、ヤンチャなキッズたちみたいな印象でした。

──そのときはONE OK ROCKの専任だったんですか?

後藤:一番最初は他のアーティストと掛け持ちしていたんですが、徐々にONE OK ROCKの作業量が増えていったので、専任になり、さらに僕1人では手に余る作業量になったため、アシスタントがつくみたいな流れでした。

──マネージャーは、担当アーティストをどうやって売っていこうか戦略を立てたりすると思うんですが、ONE OK ROCKに関してはどのようなことを考えたんですか?

後藤:どうしても色眼鏡で見られてしまう部分もあったので、だったら全国をライブで細かく回って地道に力を付けていこうと。いわゆるドサ回りの方が良いなと考えました。

──なるほど。

後藤:バンドの活動を色眼鏡で観られるよりは、フラットに観て欲しかったんです。やはり余計な情報が入ると、人って聴き方や見方が変わったりするじゃないですか? それがちょっと嫌だなと思っていました。

──1回1回のライブの積み重ねから徐々にファンが増えていったと。

後藤:もちろん、タイアップだったり、レコード会社のプロモーションだったり、様々なサポートはあったとは思うんですが、でもすべてはライブの積み重ねなのかなと思いますね。

──そのライブの積み重ねの中でも印象に残っているライブはありますか?

後藤: 2016年に静岡の渚園で55,000人×2日で11万人集めてライブをやったんですが、これは印象に残っていますね。その規模の単独ライブは初めてでしたし、僕らスタッフサイドからするとインフラから何から全部作らなくてはいけなかったので本当に大変でした。あのライブには多くの時間をかけましたし、初めてのことなのですごく心配で「台風がきたらどうしよう」とか笑。そんな手作りの中でよくやれたな、と今でも思いますね。

 

海外でライブをすること自体に特別な感覚はない

──ONE OK ROCKは海外でも積極的にライブをしていますが、これは彼らが元々そういう志向だったんでしょうか?

後藤:彼らは最初から海外でライブをやることを目指していました。古くはLOUDNESSやTHE MAD CAPSULE MARKETSとかも海外でのライブ活動をやってましたが、土俵を海外へ移して本格的にやっている人ってほとんどいなかったと思うんですよね。それで先輩たちの活動を参考にしつつ、いろいろメンバーと相談していた上で、2011年からアジアを皮切りに海外へ行き始めました。

── 一番最初はどこでライブをしたんですか?

後藤:韓国のフェスへの出演が一番最初でした。そしてアジアからヨーロッパ、アメリカへ行くようになり、もう世界を何周したかわからないぐらいです。この間のアジアではアリーナツアーだったんですが、その前はもうちょっとミニマムなアリーナツアーをやって、その前は日本で言うとZeppクラスのライブを何回も回ったりして、やっとここまで来られました。

──つまりアミューズが会社の方針として海外ツアーを組んだわけではなく、本人たちの意思でやったわけですね。

後藤:事務所がどうとかということではないですね。バンドと一緒に模索して、一歩ずつ実現させた感じです。やはり、洋楽アーティストがアメリカにいたり、ヨーロッパにいたりしましたから、自分たちも彼らと同じフィールドに立ちたいという気持ちが強かったですし、じゃあどう一歩ずつ進めていこうかと。それで日本でやったように海外でもドサ周りをしたんです。

──今も後藤さんは彼らと一緒に世界を回っていらっしゃるんですか?

後藤:最初は一緒に回っていたんですが、途中からはお任せしているような感じです(笑)。

──(笑)。地球を何周もしているうちに会場も少しずつ大きくなってきたと。

後藤:本当に徐々にですよね。やっぱりそんな大きな足し算にはならないので、本当に少しずつ大きくなってきて、規模がだいぶ大きくなってきたな・・・みたいに感じることはあります。アジアも5、6回ツアーをやっているので。

──橋本さんは「シンガポールなんてすごいよ!」とおっしゃっていました。「俺が撮っていいのかな?」とも(笑)。

後藤:(笑)。今、アジア各国では横浜アリーナみたいな会場を回っているので、1会場1万人、それがシンガポールに行ってもそうですし、中国の成都や上海もそうですし、マレーシアもフィリピン・インドネシアも同じような状況です。アジアだとどこの国へ行っても1万人以上の人が来場してくれるのは本当にありがたいですし、そういう状況になれたのもすごくうれしいです。

──プロデューサーの戦略とかなしに、自分たちのパフォーマンスだけでそこまで行ったわけですから、本当にすごいと思います。

後藤:勝手知ったる日本と違って、海外でライブをやるって想像以上に大変なんです。でも、どん欲にそこを目指したいという気持ちがあったからこそだと思います。

──彼らにはさらなる目標があるわけですよね?

後藤:どん欲に思っている部分はあると思いますが、「○○でも成功してやるぞ」みたいな感じはないと思います。

──力みがない?

後藤:そうですね。すごく自然な感じといいますか、もう海外でライブをすること自体に特別な感覚はないんですよね。日本でも海外でも同じと言いますか、「今年はどこからツアーをスタートしようか」みたいな感じなんですよね。

 

やることは昔から変わらず「曲を作るか、ツアーをやるか」

──ONE OK ROCKが2021年にアミューズから独立しますが、その理由は何だったんですか?

後藤:バンドが次のステップに行くために、もう一勝負したいと。それで話し合って、新たなフィールドへ向かいました。

──そして、後藤さんは2021年4月に株式会社10969を設立されますが、会社の代表となり後藤さん自身は何か変わりましたか?

後藤:やはり、すべてを自分でやるようになったのが一番の変化じゃないでしょうかね。今までいろいろ協力してもらった方々がたくさんいるので、そこは変わらずに協力してもらっているんですが、やはり大きな組織にいると、自分が気づかないうちにいろいろな人が手助けしてくれていたわけです。ですから、その作業を自分でやらないといけない大変さ、みたいなものは感じています。

──より忙しくなってしまった?

後藤:そうですね(笑)。意外と忙しいな、みたいな。こんなこともあるんだ、みたいなことも含めて日々勉強です。

──会社を設立したとき、スタッフは何人だったんですか?

後藤: 2021年のタイミングで僕と、他2人ですね。去年1人社員が入ったので、今は4人です。

──4人であれだけの規模のアーティストをマネージメントしているんですか!?すごいですね・・・。

後藤:効率良いですよね(笑)。だからやらなきゃいけないことが多いんです。

──よくそんな少人数で世界ツアーができますね。信じられない。

後藤:サポートしてくれる方々がたくさんいますからね。海外のツアーに関しては各国にエージェントがいますし、レコーディングスタッフもいますし、レコード会社でバックアップしてくれている方々もいますから、そういった仕事自体は本当に何も変わらないです。

──協力してくれる方々は何も変わってないから、核のメンバーは4人で十分であると。

後藤:それで一応回っていますね(笑)。海外のアーティストってそんな印象があるんです。マネージメントがいたとしても、多分マネージャーが数人いるだけで、それ以外は各エージェントがやっているところが多いんです。

──海外では1アーティスト1マネージメントというのが当たり前ですよね。

後藤:ですから僕たちはプロダクションと言うよりも、エージェントに近いかもしれないです。なので、かろうじて4人でもやれているのかもしれないですね(笑)。大変ですけど、ほかの3人も頑張ってくれているので本当に助かっています。

──そういう意味ではやることはシンプルで、ONE OK ROCKをどうプロモーションしてどう大きくするかということに集中できるということですよね。

後藤:そうですね。本当に昔から何も変わっていないんですよね。曲を作るか、ツアーをやるかしかやってないので(笑)。

──基本的にアーティストとしての仕事しかしていないと。

後藤:もちろんリリースする際は、プラスアルファでやらないといけないことが増えるので作業量は増えますが、基本のルーティンをずっとやり続けています。日本、海外とかいわゆる国に関係なく、それがルーティンとして存在しているので、今は「海外が」とかそういう考え方はもうしないんです。

 

一番大切な仕事はライブを作ること

──アーティストに関わってくる方々も増え、スケールも大きくなっていく中で、「これだけは自分がやらなくてはダメだ」と思う仕事はなんですか?

後藤:やはりライブですかね。ライブの内容ももちろんですが。ライブを作ること自体というか。ライブを求めている人がいるのであれば、そこへ行ってあげたいですし、僕らはできる限りスケジュールを作って、その場を用意しないといけないと思っています。

──ライブを求める人たちにライブを届ける使命感みたいなものでしょうか?

後藤:そうですね。僕にとってライブを作ることはとても大事なことですし、僕が一番やりたいことでもあります。ライブがあるから仕事を続けているのかなという気もしますし、もしそれがなかったら、心が折れることのほうが多いんじゃないですかね(笑)。

──(笑)。後藤さんにとっても一番大事なことはライブなんですね。

後藤:やはり、どんな環境でも同じパフォーマンスができるようになりたいんですよね。例えば、東京だとベストなパフォーマンスができるじゃなくて、東京でも地方でも、あるいはアジアでも欧米でも、どこでもベストなパフォーマンスができる。そのための環境を作りたい気持ちがあります。だからこそあまり「海外だから」という気持ちにならなくなってきているのかもしれません。

──どこでやっても自分たちの音楽は自分たちの音楽だと。

後藤:それを僕はもっと実現させたいんですよね。正直まだそうなっていない部分もあるので。

──同じようなレベルでパフォーマンスしても、やはり国によって反応が違ったりしますか?

後藤:国によって全然違いますし、日本語の歌詞なのに知っているんだ、歌えるんだみたいな驚きもあります。そういう意味で言うと、海外のほうがオーディエンスはパワフルかもしれないです。

──南米にも行かれていますが、ブラジル人とかすごくよく歌うんですよね。

後藤:そうですね。イコールかわからないですけど、サッカーの強い国は意外とそういうところが多いのかなみたいな(笑)。

──(笑)。

後藤:あくまでも僕の勝手な印象ですよ(笑) 。ですから、絶対ではないと思いますけど。なんか会場の感じがサッカーの応援みたいなんですよね。そういうのが感じられるのは面白いですよね。

──ビジネス的な面から見ると、サブスク時代になり、音源を売って稼ぐというビジネスモデルは厳しいわけですよね。そうなると、これからの時代のアーティストはライブが重要になりますね。

後藤:僕が音楽業界に入った当時はダブルミリオン、トリプルミリオンみたいなこともありましたが、そんなことは今ないですし、あの時代と同じにはもうならないので、ライブが中心になると思います。僕はライブが好きなので余計そう感じるのかもしれませんが、やはり演奏を生で感じられるのはいいなと思うんですよね。

──録音物はストリーミングで聴けますが、そこで手に入らないのがライブですものね。

後藤:そうですね。コロナで「これからはライブ配信に代わっていくんじゃないか?」みたいな意見もありましたが、コロナが明けたら、みんなこぞってライブに行くようになったじゃないですか? ブルーノ・マーズが来る、エド・シーランが来る、じゃあ東京ドームへ観に行こうかなと。テイラー・スウィフトも久々だから今年は観に行ってみようかなとか、やはり音を聴きたいというよりはライブを体感しに行きたいんですよね。それって素晴らしいなと思うんです。

これから、どんな時代になっていこうとも、ライブだけは変わらないものだと思いますし、変わらないであってほしいです。ライブはエンタメの本質だと思いますし、複数あるエンタメの1つとして常にお客さんのそばに存在していて欲しいですね。

──コロナ以降、ライブハウスも年齢層が入れ替わって、ライブハウス初体験の若い子がどんどん来ているという話を聞いたんですが、それはいい傾向なのかなと思うんです。

後藤:そうかもしれないですね。ライブシーンも時代とともに変わるのは仕方がないことだと思うんですが、ライブ自体は体感型エンタメとしてすごく重要だと思いますし、変わらずお客さんに届いてほしいですね。

──きっと大丈夫だと思います。

後藤:あと、お客さんも何歳になってもライブに行き続けてほしいですね。

 

人が楽しんでいる姿を見て楽しくなるような人に入って来てほしい

──ONE OK ROCKの今後のライブ予定はどのようになっているんですか?

後藤: 5月にイベントを予定しています。ただ「アルバムをリリースしてツアー」のサイクルは昨年末で一通り終わったので、今年はアルバムの制作期間が中心かなと考えています。

──今年は制作に集中すると。

後藤:制作に専念してもらって、合間にライブを企画するイメージですね。そして、アルバムを出して、またツアーを回ってみたいな(笑)。

──後藤さんご自身の今後の目標はなんですか?

後藤:もっとたくさんの人にONE OK ROCKのライブを観てもらいたいなというところで言うと、さらに大きなアーティストにしていきたい・・・これだと自分の目標とは違いますね(笑)。

──そんなことないですよ(笑)。

後藤:自分の目標としては、みんながハッピーになるように頑張る、ですかね(笑)。それはアーティストもそうですし、一緒に仕事をしているスタッフもそうですし。やっぱり楽しくやれれば、それが一番いいと思いますしね。

──例えば、ローリング・ストーンズは80代までバンドをやれるという見本を示してくれているので、ONE OK ROCKの旅路もずっと続いていくんじゃないでしょうか。

後藤:そうなったら理想ですよね。やっぱりあそこまでやれるのはすばらしいと思いますから。もちろん年齢を重ねるうちに変わっていく部分は出てくるとは思うんですが、そうなったとしてもスタンスは変えずにやっていきたいですよね。

──最後になりますが、音楽業界で働いてみたいと思っている方々にアドバイスはありますでしょうか?

後藤:僕は「音楽に詳しくないと音楽業界に入れない」ということではないと思っているんです。この仕事って「人を感動させること」に喜びを感じる人に向いている職業だと思いますし、昔みたいに「音楽とは」みたいな時代でもないので、人が楽しんでいる姿を見て楽しくなるような人には気軽に入って来てもらいたいです。

そして、実際に現場を体験してみて、それがハマるかハマらないかですよね。僕はとにかく現場が楽しいので、その楽しさ、喜びを一度味わってほしいなと思いますし、それって別にマネージャーだからということではないじゃないですか?コンサートを作っているスタッフも、レコーディングスタッフも、音楽に携わる人たちはみなさん感じていることだと思うんです。

──お客さんが喜んでいる姿を見るのが好きとおっしゃる方は多いですよね。

後藤:もちろん感動がすべてじゃないですが、アーティストが生み出したものに対して、感動したり楽しんだり笑っているお客さんを間近で見られるって、すごくステキな仕事だなと思いますし、だから大変なことがあってもやり続けられるんだと思います。音楽業界を目指す人たちにも、是非その楽しさ、喜びを体験して欲しいですね。

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