【特別取材】「ストリーミングで日本の音楽市場はまだ伸びる」日本上陸したBelieveシルヴァン・ドランジェ氏が語る
世界の音楽市場でDXを進めてきたBelieveが日本に上陸した。TuneCoreの親会社でもあるBelieveはフランスに本社を置き、パリのユーロネクストに上場している世界有数のデジタル音楽企業だ。年間1400億円 (8億8000万ユーロ) 以上の売上を持ち、国によっては世界的なメジャー企業に比肩、あるいはそれ以上の売上シェアを達成している。
アジア太平洋地域を統括するシルヴァン・ドランジェ氏にインタビューしたが、今や同社はアーティスト育成とデジタル・マーケティングの専門家へと変貌を遂げ、音楽産業の成長に欠かせない存在になりつつあるのが見えてきた。
(インタビュアー:Musicman編集長 榎本幹朗 取材日:2024年3月13日)
シルヴァン・ドランジェ(Sylvain Delange)
Believeアジア太平洋地区社長。フランス生まれ。2013年初めにBelieveに入社して以来、アジア太平洋地域における同社のプレゼンスを確立し、アジア太平洋地域のさまざまな国で指導的地位を獲得。現在、同地域で450人を超える音楽とデジタルのプロフェッショナルを率いる。ビリーブ入社以前は、フランスの音楽輸出事務所の日本支社長を務めた。帰国後は、ヨーロッパとアジアを結ぶアーティスト育成のパイプ役として活躍を続けている。
高円寺ではっぴいえんどにハマッた日本時代
榎本:まずシルヴァンさんの自己紹介からお願いします。
シルヴァン:自己紹介なら日本語でも大丈夫です(笑)。
榎本:日本語お上手ですが、どちらで学んだのですか?
シルヴァン:2003年にフランスから神戸大学国際文化学部に留学しました。帰国して卒業した後、日本で働きたかったのでフランス国の音楽輸出振興協会で働き始めました。日本にフランスの音楽を輸出する仕事です。
榎本:その頃だとダフト・パンクとか?
シルヴァン:ダフト・パンクのプチ・フェスを幕張メッセで開催したとき、クリエイティブマンさんといっしょに働いていました。他にジャスティスなど当時はエレクトロ系が多く、日本で働いているときはクラブによく行っていました。楽しかったです。
榎本:その頃は僕も行ってました。他にどんなアーティストと?
シルヴァン:エレクトロ系以外だとYelleやZAZなどです。ZAZの日本のリリースとツアーは私が担当しました。
榎本:フランスは日本でも有名なミュージシャンが多いですよね。デヴィッド・ゲッタはいかがですか?
シルヴァン:彼が盛り上がったのは私が日本を離れた後でした。
榎本:ちなみに好きな日本人ミュージシャンは?
シルヴァン:いい質問ですね(笑)。はっぴいえんどです。
榎本:うわっ渋いですね。
シルヴァン:当時、高円寺に住んでいて、アナログのレコード屋さんがたくさんあったので、そこで細野晴臣さんの『トロピカルダンディー』を見つけたのがきっかけです。エイプリル・フールってご存知ですか?
榎本:知ってます(笑)。
シルヴァン:日本の70年代ロックが大好きで、他にYMOや坂本龍一さんが好きです。
榎本:高円寺に住むところ含め、筋金入りですね…。
たいへんな苦労だったアジアの音楽市場開発
榎本:それでBelieveに入社した経緯は?
シルヴァン:フランスのビューローでは2年で日本の代表になり、2011年まで東京で働きました。その後、帰国してフランス人アーティストのアジア・マーケットを開発するチームをマネジメントしていましたが、2013年にBelieveの創業者であるデニスCEOから連絡をもらったのが入社のきっかけです。
榎本:それはアジアの音楽マーケットを開発した経験を買われて?
シルヴァン:はい。iTunes Music Storeがアジアで展開するにあたり、Appleは現地のレーベルと契約がなかったので、私たちが楽曲を集めていました。
榎本:アジアというと、どの国?
シルヴァン:インド、インドネシア、タイ、フィリピンなどです。当時、現地には小さなインディーズのレーベルしかなくて、CDも無くなりつつありました。
榎本:CDはほとんどなかった?
シルヴァン:はい。そうした国はストリーミング以前、着メロや着うたがデジタル売上のほとんどを占めていて、物流は海賊版がほとんどでした。
榎本:レーベルもないし、CDもない。海賊版ばかりでどうやって楽曲を集めたんですか?
シルヴァン:ここから英語でいいですか?
榎本:どうぞ(以下、和訳)。
シルヴァン:海賊版の横行で、ただでさえ小さい現地のレーベルもスケールダウンしていました。着メロやライブにビジネスをスイッチしていましたが、原盤権ビジネスはほとんど機能しておらず、しかもデジタル化のノウハウもなかったのです。
それで私たちは彼らのオフィスというオフィスに足を運び、段ボール箱でCDを集めてパリへ配送していました。それからメタ・データを手入力です。CDから楽曲を取り込み、ジャケットをスキャナーにかけてiTunesにアップロードしました。
榎本:たいへんな労力ですね…。
シルヴァン:ですから私たちが配信するまでアジアの音楽カタログは音楽配信には存在しなかったのです。
榎本:現地のレーベルは自分たちではできなかったんですね?
シルヴァン:当時、デジタル市場は小さいのにコストがかかるので、投資に見合わなかったのです。デジタルが収益化するまで何年も待つ必要がありましたし、実際にはiTunesのようなダウンロード販売は南アジアでうまくいきませんでした。
榎本:海賊版が強すぎましたね。
シルヴァン:今でも値段が高すぎるという課題を抱えています。
榎本:1曲1ドルは先進国ではリーズナブルでしたが…。
シルヴァン:Appleはドルベースだったのでアジアの途上国では高すぎたのです。ですから、私たちの最初の仕事は楽曲集めと、現地の音楽ファンにとってリーズナブルな値付けでの配信でした。すぐにその時代は終わり、次の時代に入りました。YouTubeの登場です。
YouTubeは当時、現地で権利処理できていなかったので、レーベルはプロモーションに使えてもマネタイズに直結していませんでした。タイでは、私たちが仕事を始めた後から、YouTubeは現地で権利処理に取り掛かりました。
インドでは今でもYouTubeがたいへん人気で、広告売上が音楽の大事な収益となっています。
榎本:IFPIのレポートにもありました。
シルヴァン:そうです。「バリューギャップ」(※YouTubeの楽曲利用料支払いがサブスクと比べて著しく低い問題。現在はYouTube Musicの登場である程度解決している)が話題になりましたが、欧米で話題になる前は、アジアでは話題になっていませんでした。
アジア諸国はYouTubeでデジタル・マーケティングに目覚めた
シルヴァン:面白いのがアジアではバリューギャップの不満がほとんどなかったことです。YouTube以前、デジタル売上はほとんどなかったからです。
榎本:アジアではYouTubeの広告売上が初めてのデジタル売上だった国が多かったんですね。
シルヴァン:はい。特に南アジアと東南アジア諸国はすぐにYouTubeに適応しました。レーベルがマネタイズできたこと、コントロール可能だったことが理由です。
榎本:コントロール可能というのは?
シルヴァン:YouTubeには公式チャンネルがあり、コンテンツを配信するタイミングを選べます。ユーザーの消費データを分析できるので、何が効果的で何がそうでないかがわかります。
それは当時、現地のレーベルにとってパラダイム・シフトでした。デジタル・マーケティング時代の到来です。
榎本:マネタイズだけの問題じゃなかったんですね。それはメジャー・レーベルの各国の支社にとって?それとも現地のローカルレーベルにとって?
シルヴァン:両方ですね。率直に言って、メジャーはいわゆる発展途上国の市場にはあまり熱心ではなかったです。とても小さい市場でしたからね。彼らが現地支社を持っていたのは、世界的なスーパースターを輸出するためです。
いくつかの国では三大メジャーの支社もがんばっていましたが、市場が小さすぎて生産コストと見合いませんでした。私たちがアジア諸国に来たとき、グローバルメジャーはほとんど不在状態でした。
榎本:今もそうなのですか?
シルヴァン:イエスでありノーです。10年間言い続けてきたのですが、アジアの潜在市場は巨大です。それでも私たち以外のプレイヤーは参入してこなかったのですが、最近は認識が変わりつつあります。
グローバルな音楽企業がインド、タイなどアジアの途上国に投資を始めています。彼らは軌道修正を始めているのです。
各国のローカル音楽の育成に集中
榎本:シルヴァンさんたちは南アジア、東南アジアの音楽マーケットのパイオニアだったんですね。
シルヴァン:必ずしも最初の存在ではなかったですが、そうですね。グローバルメジャーはグローバルなスーパースターの輸出が主要目的だった一方で、私たちは100%、現地の音楽に集中していました。
榎本:音楽産業の歴史(『音楽が未来を連れてくる』)を書いていて気づいたのですが、たいていの国では初期、アメリカ・イギリスの音楽が強いです。次第にローカルの音楽が主流になっていく法則があります。
シルヴァン:世界中で起きていることです。3カ国ほどアジアでは例外があって、例えばフィリピンは歴史的な経緯からアメリカの音楽が今も非常に強いですが、それでもローカル音楽の成長率は非常に速いです。
榎本:現地の音楽はどれくらいのシェア?
シルヴァン:私たちの領域であるデジタル市場に絞ると25〜35%がドメスティックな音楽ですね。しかしこれはあくまで数字上での話です。
例えばインドネシアに音楽配信が上陸します。そこには既にインターナショナルな音楽コンテンツが初めから揃っています。そしてSpotifyなどを初めに使い出す層はだいたい西欧文化にフレンドリーです。
しかしユーザー層が拡大するに連れてバランスは変化し、現地の音楽が優勢になるものです。アジア諸国に旅行すればわかります。タクシーで、美容院で、ラジオでかかっているのは現地の音楽です。
ですからストリーミングのエコシステムは、まだ実際の音楽消費を反映していないと言えるでしょう。
シンガポールも例外です。多文化国家なので中国、インド、日本、韓国、アメリカ、イギリスと音楽の坩堝になっています。マレーシアもこれに近いですね。
榎本:大学生の息子がマレーシアに行ってJ-POPが街のあちこちで流れていて驚いたと言っていました。
シルヴァン:そうでしょうね。そのマレーシアでも現地のアーティストが育ちつつあります。一方で、インドネシア、タイ、インド、中国はたいへんドメスティックです。フランスやイタリア、南米などもローカル音楽が非常に強い。こちらの方が普通です。
日本の音楽のポテンシャルは非常に高い
榎本:シルヴァンさんはBelieveでアジアの音楽市場を開拓してきた。それは日本の音楽業界の課題と一致しているキャリアですね。
シルヴァン:そう願っています。私は音楽業界の重鎮ではありませんが、たくさんの業界人と話し合ってきました。特にここ数年、日本の音楽業界が海外市場に強く興味を持ち出したのを感じています。
榎本:邦楽アーティストがアジアや北米・南米で演奏するケースが増えてきました。
シルヴァン:そうです。そして海外進出するのに必ずしもアメリカに行かなくてもいいのです。日本の音楽に敏感なオーディエンスは、日本の近くにもいます。榎本さんの家族が体験したようにね。
榎本:そうですね。J-POPは台湾で8.5%、香港で6.9%のシェアがあるそうです。
シルヴァン:日本のゲーム、アニメ、ファッションは影響力があり、音楽もそれに助けられています。しかし、日本の音楽はもっと成長の余地があると私は見ています。
日本の音楽が海外で成功する鍵は?
榎本:日本の音楽が海外で成功するには何が鍵でしょうか?それが日本の音楽業界の次の課題になると思うのですが。
シルヴァン:まず、運任せではいけません。海外進出はハードワークです。海外市場のどこをターゲットにするのか選択し、現地でプロフェッショナルな環境を作っていきます。ターゲットの国でプロモーションをかけるには現地アーティストとライブで協業して架け橋をつくることも大切です。
それとアーティストが海外に時間を費やす覚悟です。海外に時間を使えば国内に使える時間が減るトレードオフの関係にありますから、決して簡単なことではありません。
さらに音楽制作やマーケティング・キャンペーンを考える段階で、初めから海外を意識する必要があります。何を起こしたいのか、ちゃんと意識して努力することです。初めからコラボを考える、などですね。
いずれにせよ秘密のレシピはありません。ハードワークが答えです。初めの段階、ヴァイラルの段階からです。
TikTokやSNSでヴァイラルは一定の確率で起きますが、それはすぐに消えていきます。ヴァイラルをもっと大きな次の段階に繋げるスマートな人間が背後に必要となります。これが運任せではいけない理由なのです。
そのために正しいパートナーを選び、その国のマーケットとオーディエンスを正しく理解し、正しいマーケティング戦略を立て、どこに予算を使うべきか、どのプラットフォームを重視すべきか、どのオーディエンスをターゲットにしてどのようにリーチするか、どれだけ時間を割くべきか、決めていかなければなりません。
日本が海外進出の前にマスターすべきこと
榎本:Believeが手伝えるのは海外進出?
シルヴァン:もちろん、その成功事例を作るお手伝いができればうれしいです。しかし、日本の音楽産業が海外に進出する前に、いくつか段階を踏む必要があると思います。
例えば日本はデジタル・トランスフォーメーションがまだ完了していません。デジタルをマスターせずに海外進出するというのは、滑走路無しに飛行機で飛ぼうとしているのに近いです。
榎本:日本はCDが強いですが、既にDSP(音楽サブスク)でも音楽を売っています。それでも足りないものとは何ですか?
シルヴァン:何点かあります。いち外国人として驚くのは、日本の音楽業界がデジタル化に非常に抵抗感をもって対応していることです。確かにデジタル化は進みましたが、レーベルにとっては仕方のない選択だったように見受けられます。特にストリーミングですね。
私はiTunesのようなダウンロード販売はほんとうの意味でデジタル化ではなかったと思います。CDを買うのと本質的に変わりませんでしたからね。
榎本:そう思います。10年前にそう書いたときはなかなか伝わりませんでした。
シルヴァン:なぜiTunesとCDが一緒か。ラジオ、テレビ、記事、友だちとの会話でアーティストを見つけ、ショップに行く。ショップがタワーレコードなのか、iTunes Music Storeなのかという違いしかありません。買った後に音楽を聴くわけです。
デジタル・トランスフォーメーションはダウンロード購入では起きていません。それはストリーミングで起きたのです。この技術革新で音楽を所有するエコシステムから、音楽を消費するエコシステムへ変わりました。
CDと全く違う、アルゴリズム・マーケティングの時代
シルヴァン:CDやiTunesでアーティストを育てるのと、ストリーミングで育てるのは全く違います。例えばストリーミングではアルゴリズム・マーケティングが大切になります。
榎本:アルゴリズム・マーケティングについてもっと教えてもらえますか?
シルヴァン:DSP(音楽サブスク)で起きている音楽聴取の大半は、アルゴリズムに基づいています。DSPのアルゴリズムがどのようにデータを処理し、再生履歴を解釈しているかを理解することが、アーティストのマーケティング戦略を立てる上で非常に大切になりました。これはCDやiTunes時代には無かった話です。
榎本:レコメンデーション・エンジンですね。僕もSpotifyのアルゴリズムを作った会社と仕事をしていたことがあります。
シルヴァン:ストリーミングでは、マーケティングも音楽消費もすべてがデジタルの中で起きている。すべてがスマホのスクリーン上で起き、すべてがテクノロジードリブン(技術主導型)になっている。経営モデルもそれに合わせて変えていかなければなりません。
そして日本の音楽業界はCDとストリーミングを両立しているがゆえに、矛盾するふたつの頭脳で動いているような状態だと思います。
榎本:人気プレイリストに掲載してもらえるチャンスを増やすため、DSPでプレイリストを作っているエディトリアル・チームと関係を深める方法もあります。しかし、もっと大事なのはSpotifyのアルゴリズムを理解すること?
シルヴァン:SpotifyのようなDSPが音楽をプロモーションする際、主にふたつの方法があります。ひとつめがアルゴリズムによるレコメンデーション。もうひとつが(プレイリストを編集する)エディトリアルで、どちらも大事です。
そしてDSPのエディトリアル・チームが最も大切にしているのは業界人との親密な関係ではなく、オーディエンスに合わせることです。
ひとは「好きだ」と思える新しい音楽を発見できたら、明日もその音楽アプリを使ってくれます。もっと音楽を聴いてくれます。そしてアルゴリズムはエディトリアルの仕事もサポートしています。
BelieveはSpotifyとアルゴリズムを開発してきた
榎本:小川さん(Believe Japan代表)から伺ったのですが「BelieveがSpotifyのアルゴリズムに強いのは、同社と長期的なパートナシップを結び、アーティストを発掘するのにアルゴリズムを活用する方法を常に話し合ってきたからです」と。
シルヴァン:Spotifyのアルゴリズムは新譜、カタログ両方のレコメンデーションに関わっていて、ジャンル毎にすべてのバック・カタログをアルゴリズムにかけます。このディスカヴァリー・フィーチャーの威力を最大化するツールを、私たちはSpotifyと開発してきました。
そこには私たちのAIによる機械学習が活用されていますが、より良い選曲を実現するこの技術はマーケティング・ツールそのものでもあるわけです。
Spotifyの戦略とはなにか?私はSpotifyの人間ではないので代弁できませんが、この技術開発に私たちは多大なる資金と人的リソースを投下してきました。その結果、Spotifyのユーザー体験が改善できれば、ユーザーはいっそうSpotifyを使ってくれます。
これがSpotifyの音楽プラットフォームとしての最優先事項だと思います。他のDSPも同じはずです。最高の楽曲をプロモートしてユーザーを保持しようとしています。
私たちはSpotify RadarやNew Bloodのようなエディトリアル型の番組でもSpotifyと緊密に仕事をしています。
Believeの仕事はデジタル・マーケティングの提供
榎本:これからはアルゴリズム・マーケティングに専念すべき?
シルヴァン:100%アルゴリズムに頼ることは不可能です。なぜなら新人アーティストはデータがありません。データがなければアルゴリズムは働かないのです。
データは無いけれど、あなたはその新人の素晴らしさを理解している。そしてリリースの際、クリエィティヴなマーケティング・プランを建てることができます。私たちはアーティストやレーベルといっしょにマーケティング・プランを作っています。
榎本:Believeのマーケティング・プランは自動で提供されるものではなく、アーティストやレーベルといっしょに作っていかなければいけない?
シルヴァン:その通りです。
小川(Believe Japan代表):全体のビジョンや戦略をお聞かせいただき、目標再生回数など具体的なKPIを共有していただければ、効果的なプランをご提案できます。
榎本:なるほど。ディストリビューターはかつてのように楽曲配信の手配と楽曲使用料の分配だけをやる存在ではなくなっているのですね。
シルヴァン:ここ10年で変わりました。
Believeはレーベルの敵ではない
榎本:では今後、Believeのようなサービスが普及した場合、レーベルの仕事は残るのでしょうか?
シルヴァン:とてもよい質問です。その質問に答えるためには、根本に立ち返らなければなりません。榎本さん、レーベルの定義とは?
榎本:素晴らしいアーティストを発見し、育成し、彼らのマーケットを開発する存在?
シルヴァン:そうです。才能を発見し、育成し、プロファイルを明瞭にして楽曲の制作に入り、映像を作り、プロモーションに投資する。レーベルの仕事というのはいつの時代にあってもクリエィティヴなものでした。これからもそうだと思います。こうした仕事でレーベルに敵うものはいません。
今ではA&Rのみなさんはライブに行くだけでなく、TikTokやYouTube、Instagramでも才能を発見するようになりました。そこは変わってきています。
しかし配信プラットフォーム上でのマーケティングやマネタイズの作業、こうした仕事はレーベルのコア・ミッションからすれば付随的なものではないでしょうか。
榎本:日本ではマネジメント事務所も大きな存在です。
シルヴァン:レーベルだけでなくマネジメント事務所も創造的プロセスに関わっているのは他国と異なる点かもしれません。マネジメント事務所が原盤権を一部所有していますし、場合によってはディストリビューションにも関わっています。欧米から見ると、日本のマネジメント事務所はレーベルに等しい存在です。
(音楽配信などでの)リテールの管理や(デジタル・)プロモーション・チャンネルの管理、こうした仕事はレーベルの使命であるタレント・ディベロップメントではなく、ディストリビューターの仕事だと思うのです。
Believe Japanと日本のデジタル市場
榎本:Believe Japanは、まず日本のデジタル市場でのディストリビューションを考えている?
シルヴァン:そうです。デジタル市場が対象です。CDなど物理マーケットはトップ・タレント、トップ・アーティストが非常に強い領域です。私たちは新しい才能の開発をサポートするのに注力しているので、デジタル市場に専念します。
榎本:日本のレーベルにも既にデジタルを扱う部署はあります。Believeは彼らの代わりになろうとしているのですか?それとも彼らをサポートし、業務を効率化しようとしている?
シルヴァン:繰り返しになりますが、私たちの目標はレーベルに取って代わろうというものではありません。レーベルと提携して共にアーティストへ投資するケースもありますが、レーベルになることは全く考えていません。
レーベルがやっている才能の発掘・開発という仕事は非常に高いスキルを要するものです。私たちはレーベルがそうした仕事に集中できるようサポートし、システム・インフラを提供していきます。
よほど大きなレーベルでない限り、デジタル・セットアップを自前で持つというのは大変な困難を伴います。大きなレーベルであっても外部の業者のシステムを利用しています。デジタル・セットアップの内製化は非効率だと思います。
メディア・リレーションと営業が変わる
シルヴァン:これまでレーベルは売上を最大化するために、CDショップとマスメディア、このふたつとのリレーションを最重視してきました。全国津々浦々のCDショップと放送局で、じぶんたちの商品がいちばん目立つように交渉するために、各地で営業所を持っていました。こうしたリレーションは非常にローカルです。
榎本:なるほど。しかしメディア・タイアップは今でも有効だと思います。SMEは自前でアニメーション会社を持ち、NetflixやAmazon Primeで配信されるアニメの主題歌で海外にもリーチしていますがいかがでしょう?
シルヴァン:もちろん有効だと思います。私の言いたいことは、これからのリレーションはローカルからインターナショナルになるということです。
デジタルの世界ではSpotifyやApple Music、YouTubeがリテールの役割を果たしているからです。そしてTikTok、Instagramなどがメディアになっています。
榎本:NetflixやAmazon Primeからの配信であっても、TikTokやInstagramからの影響を把握する必要がありますね。
シルヴァン:おっしゃる通りです。CD時代、営業所の設立などリレーション関連の内製化は難解なものではありませんでした。しかしデジタル時代のリレーション構築は違ってきます。Spotify、Apple、TikTokとのリレーション構築にはシステムの構築が要ります。それが売上の最大化を決めます。
一方、日本の国内レーベルがグローバル・メジャーと同レベルのシステムを構築するのは極めて難しいのが現実だと思います。私たちはグローバル企業であり、グローバルなDSPだけでなく各国のローカルなDSPとも常時、密な関係を持っています。
ライセンス戦略もデジタル時代はかつてと全く手法が違います。私たちはグローバルで楽曲利用を最大化しています。
海外進出ではバズった後が本当の勝負
榎本:例えばTikTokで邦楽アーティストの曲が突然、アジアのある国でバズったとします。そのアーティストのディレクターもマネージャーも、その国の音楽マーケットは何も知りません。放っておけばスパイクは消滅し、チャンスは消えていきます。次のアクションは、どうすればいいですか?
シルヴァン:まさにそこがポイントです。その際、必要なものとは各国の市場でグローバルかつローカルなリレーションを構築していることです。それこそBelieveがパートナーのみなさんに提供できるものなのです。
CD時代でしたら、各国の音楽市場とリレーションを築くためには、国ごとに何百人もの営業担当が何百ものお店へ話にいかなければなりませんでした。
今の時代は違います。各国のDSPでリレーションを担当しているのは5人から10人程度であり、彼らは効率優先で動いています。DSPの行動原理はテクノロジードリブン(技術主導型)であり、かつグローバル主導型なので、DSPにいるローカル担当へ人的に働きかけるのは容易なことではありません。
ですから、DSPとのリレーションを高い水準で築いているパートナーを持つことがみなさんの日々の業務を助けることになるのです。それが大きな差を生んでいくことになります。
榎本:パートナーの選択次第で、日本国内でもそうした差が生まれてくる?
シルヴァン:はい。
BelieveとTuneCoreの違い
シルヴァン:日本の音楽会社は今でもデジタルをテクニカルな問題として扱うきらいがあります。日本のみなさんと打ち合わせをするとテクニカルな議論になることが多いです。配信の手配、機能、業務プロセス、ファイル・フォーマット、メタデータなどですね。
私たちからすると、テクニカルな問題の解決というのは二次的なことであって、議論の中核にすべきことではありません。CDのプレス工場に行って「運搬に使っているトラックの車種は何ですか?」と訊くようなものです。
CDのディストリビューションであっても「ショップでうちのアーティストをもっと目立たせたいのですが?」「売上枚数を上げるには?」「チェーン店と交渉してセールスの条件を見直したいのですが?」という議論の方がずっと大事だったはずです。
日本ではディストリビューターとの議論がテクニカルなものばかりになっています。(子会社の)TuneCoreでもそうなっています。しかし、ディストリビューターの最大の使命はテクニカルなことではなく、あなたの売上の最大化なのです。
榎本:BelieveはTuneCoreの親会社ですが、BelieveとTuneCoreの違いは何でしょう?
シルヴァン:まずTuneCoreはインディー・アーティストやDIYアーティストのためのテクノロジー・プラットフォームです。本質的にTuneCoreはツールであり、じぶんの曲を様々なプラットフォームで配信するためのテクニカルな道具であり、それがTuneCoreの主要ミッションです。
榎本:10年前のディストリビューターも、それが主要業務だったと思いますが?
シルヴァン:かつてはそうでした。
榎本:今では違っている?
シルヴァン:変わりました。確かに音楽業界は長年、ディストリビューターを業務効率化のための存在と考えてきました。しかし今は配信プラットフォームの多様化により、ディストリビューターの業務はもっと複雑になっています。
ショート動画と長尺の動画ではマネタイズの仕方は異なります。SNSでの楽曲利用も違ってきます。ダウンロード配信もまだ小規模ながら存在しますし、ストリーミング配信ではアルゴリズムに最適化して売上を最大化するために、AIを活用した特殊なツールを使いこなす必要があります。
iTunesがデジタル売上とイコールだった時代はずっとシンプルでした。ディストリビューターは当時、技術的なソリューションに過ぎませんでした。楽曲を効率よく配信して、楽曲利用料をなるべく速く集金するのがメイン・トピックでした。
その時代は終わっています。
榎本:時代は変わったのですね。現在の中核的業務は?
シルヴァン:現在、私たちの最も重要な使命は、配信プラットフォームで楽曲を最適化してアーティスとレーベルの成長を助けることです。例えば、ヒップホップのアーティストとロックスターでは同じSpotify上でもリリース戦略が変わってきます。Spotifyではジャンルによって戦略を変える必要があります。
私たちがDSPから収集しているデータも以前とは比べ物にならないほど巨大になっています。ビッグ・データの活用法も進化しています。
フォーマットも多様化しています。ロスレスオーディオもあります。空間オーディオもあります。すべてに対応しなければなりません。テクニカルな業務ですら複雑化しているのです。
そうした環境下でレーベルが配信業務に何億円も投資するのは賢い選択ではありません。コストが膨大な上、毎年、仕様が変わるので終わりがありません。時間の無駄遣いです。
レーベルが集中すべきは音楽売上の最大化であり、オーディエンスを増やすことであり、アーティストを育て、活躍の段階を上げることではないでしょうか?
ディストリビューター業界の最前線で起きているのは、こうしたことなのです。
しかし日本のみなさんは今もデジタルをテクニカルな問題として扱っている。本当に集中すべきは売上を増やすこと。もちろん国内だけでなく海外でも、です。
技術集団から音楽のスペシャリスト集団に変わった
榎本:かつてディストリビューターは技術集団だったと思うのですが、今は違う?
シルヴァン:そうですね。他社について語ることはできませんが、例えば(子会社の)TuneCoreは今でも技術スタッフがメインです。それはTuneCoreが技術的なプロダクトだからです。その使命は何百万人ものアーティストの役に立つことにあり、その数をこなすためには技術をフル活用しなければなりません。
しかしBelieveが音楽会社のビジネス・パートナーとして業務に当たる場合、テクノロジーよりも人が重要になります。もちろんテクノロジーが土台にありますが、例えばBelieveはアジア太平洋地域で雇用する450人の中にエンジニアはいません。
榎本:エンジニアは本国にいるのですか?
シルヴァン:アジアのチームにはいません。いるのは音楽のデジタル・エキスパートです。
オーディエンスを増やすスペシャリスト、マーケティングのスペシャリスト、カスタマー・サポートのスペシャリスト、アカウント・マネジメントのスペシャリストたちであり、こうしたチームでパートナーの音楽会社と日々仕事をしています。
それがパートナーのみなさんが求めていることだからです。
榎本:日本にもスペシャリストのチームがある?
シルヴァン:もちろんです。
榎本:Believeにいる音楽のスペシャリストと、例えばレーベルのA&Rの人材は何が違うのでしょう?
シルヴァン:A&Rの定義がレーベルと弊社では若干異なるのですが、私たちのチームは売上を生み出し最大化するトレーニングを受けています。
繰り返しになりますが、このミッションが私たちの中核です。SpotifyなどDSP、そしてSNS、YouTubeでいかに売上を最大化するか、それらすべてを複合した戦略でいかに売上を最大化するか。そのトレーニングを受けたチームです。
さらに説明のスキルですね。パートナーのみなさんにデータをレビューし、いっしょに正しい目標を設定し、共に目標の達成へ向かいます。
Believeのツールの強み
榎本:日本のレーベルも既にSpotifyやTikTokとリレーションを結び、彼らからツールの提供を受けています。Believeのツールはそれらと何が違うのでしょう?
シルヴァン:まず、Spotify For ArtistsはSpotifyのためのものであり、TikTokのツールはTikTokのために存在します。すべてのプラットフォームに渡って何が起きているのか、把握するのが目的になっていません。
BelieveのBackstage(ダッシュボード)が提供するツールは、Spotify、Apple Music、TikTok、YouTube、Instagramほか全プラットフォームで起きていることを分析するためにあります。それはSpotify For Artistsを使うことを妨げるものではありません。他にも、例えばTikTokの各国でのヴァイラルを比較分析できます。
しかし最大の差異点は、私たちのチームそのものにあります。パートナーと共に分析して共に戦略を立案し実行するチームこそ私たちの最大の強みです。
榎本:コンサルタントのように、一緒に働くわけですね?
シルヴァン:その通りです。パートナーとなったレーベルと一緒に働く場合、私たちはそのレーベルのデジタル・チームになったように働きます。
他にも、Spotifyから次々と出る最新機能をいちはやくお伝えして対策を練り、利益を得ることもできます。我々は全世界でSpotifyと密に働いているので、チームは最新機能のトレーニングをすぐさま受けています。
逆に、SpotifyやTikTokの複雑なツールを使いこなすトレーニングを提供することもできます。プラットフォームは人的リソースが限られているので、トレーニングを提供することはできませんが、私たちはできます。
榎本:次のステップです。お値段は?
シルヴァン:テクニカルに専念しているサービスに頼んだ場合、楽曲をプラットフォームへ流すパイプだけが手に入ります。その場合、パイプへ楽曲を流した後、どう売上を立てるかはご自身の責任です。
一方、私たちはレベニューシェアで働きます。パートナーの利益の最大化が私たちの利益にもなります。ですから値段は、パートナーにもたらすバリューと釣り合いのとれたものになります。
榎本:「レーベルには決してならない」というのは、Believeの基本はレベニューシェアであって楽曲の権利のシェアはしないからですね?
シルヴァン:コンテンツの創造はアーティストやレーベルの仕事です。ですからコンテンツの権利は私たちのものではありません。
日本の音楽売上は縮小しない
榎本:既に日本のレーベルの経営陣とお話されているのですか?
シルヴァン:もちろんです。
榎本:ご感想はいかがですか?
シルヴァン:非常に興味を持って下さっています。概してポジティヴな興味です。スタッフのみなさんもそうです。ただ、ご自身の業界の将来に悲観的な方もいらっしゃいます。特に、日本のストリーミング売上についてです。
「このままでは日本の音楽売上は縮小していくので、海外に目を向けなければならない」とおっしゃるのですが、前半は同意しかねます。私たちが日本へ来たのは、日本の音楽市場がこれからの数年間で大きく伸びると見たからです。
榎本:日本の国内マーケットが伸びると考える理由は?
シルヴァン:日本でのストリーミングの浸透率は、人口の差を考慮してもアメリカと比べて半分ほどであり、北欧諸国と比べればさらに低いです。オーストラリアと比べてすら極めて低いです。高齢化が進んだ他の国でも、ストリーミングの浸透率はもっと高いです。
日本でサブスクが伸びない理由は無く、日本のデジタル売上には大きなポテンシャルがあると私たちは考えています。
日本の音楽業界のみなさんには、国内売上に関しても希望を持っていただきたいです。そうすればデジタル・トランスフォーメーションをもっと歓迎できるはずです。希望を持って当たれば成長速度はもっと上がります。
榎本:日本の音楽業界よりも日本市場に肯定的なのですね?
シルヴァン:100%、肯定的です。邦楽の海外進出に対しても、です。しかし日本の全てのアーティストを輸出できるわけではありません。韓国であっても、BTSやBLACKPINK以外に何百ものアーティストがいて、彼らはローカルで活動しています。
私は日本の全てのアーティストが、国内であっても今でも大きなチャンスを持っていると確信しています。
榎本:シルヴァンさんは日本の音楽にとてもポジティヴですね。勇気づけられます。
シルヴァン:日本のみなさんとお話した印象は「たくさんの方が、次のステップを十分理解している。私たちがやろうとしていることも理解している」ということです。しかし一部に躊躇があります。他の会社がどう動くか、待っています。
榎本:(笑)。誰かがBelieveといっしょに仕事を始めるのを見てから決めたいのでしょうね。
シルヴァン:おそらく。
榎本:控えめな国民性ですからね。
音楽業界の未来?「インプリント」という新概念
榎本:PLAYCODE(プレイコード)について聴かせていただけますか?(※PLAYCODEはBelieveが立ち上げた日本のヒップホップ専門の音楽ブランド。レーベルや事務所とは異なる)
シルヴァン:はい。TuneCoreはインディー・アーティスト向けのB2Cサービスです。BelieveはB2Bサービスで、売上を最大化したいレーベル向けのものです。そして、あるジャンルは極めてインディー志向でレーベル志向ではありません。ヒップホップがそのひとつです。
ヒップホップは日本で成長率の高いジャンルであり、デジタル志向が強く、エンゲージの高いオーディエンスがいますが、プロフェッショナル化が遅れています。
フランス、ドイツ、インド、タイ等々、Believeは様々な国でヒップホップを盛り上げてきました。ヒップホップのエコシステムがプロフェッショナル化するのを助けてきました。
その国々で経験したことは、ヒップホップ・アーティストは極めて独立志向が強いということです。彼らはじぶんたちのアイデンティティを維持するためメジャー・レーベルを避け、インディーズに留まって楽曲の権利や活動方針を完全制御したがっています。
これがPLAYCODEを日本で立ち上げた理由です。PLAYCODEはレーベルではなく「インプリント」です。日本では新しい概念だと思います。
榎本:PLAYCODEというのはどんなサービス?アーティストはどう活動するのですか?
シルヴァン:基本的にはPLAYCODEはアーティストにインフラを提供し、プロフェッショナルな環境を提供します。PLAYCODEのアーティストは、まるでじぶんの独立レーベルを持ちつつ、グローバル企業のプロフェッショナルなバックアップを受けている感じで活動できます。
アーティストは楽曲の権利を100%保有しつつ、PLAYCODEから専門的なデジタル・マーケティング、マネタイズのサポートを受け、さらには資金的なサポートも得られます。
榎本:これは新サービス?
シルヴァン:3月21日に立ち上げます(※インタビューは3月13日)。PLAYCODEのスタッフはヒップホップのエコシステムを知るプロフェッショナルであり、アーティストが次の段階に進むサポートをします。
私たちは日本でヒップホップがメインストリームに乗ると信じています。なぜなら様々な国のマーケットでそれを成し遂げてきたからです。ヒップホップをメインストリームに乗せるにはプロフェッショナルな環境の提供が必要です。
すでに¥ellow Bucks、Issei Uno Fifth、Red Eyeという三人のアーティストと契約しました。3月末、Red Eyeのファースト・リリースがあり、ローンチ・パーティを開きます。パーティにはインドのヒップホップ・アーティストを招聘します。日本とアジアのヒップホップ・コミュニティに架け橋をつくることを楽しみにしています。
榎本:インドのヒップホップの映画をこの前、見ました。アーティストがデジタルを活用して、ヒップホップがインドでメインストリームに乗っていくのが体感できました。
シルヴァン:『ガリーボーイ』ですか?
榎本:そうです。
シルヴァン:パンジャビ語と英語のヒップホップですね。タイからもSaranというヒップホップ・アーティストを呼びますよ。狙いはコラボです。コラボで日本、インド、タイのヒップホップシーンのコミュニティを結びつけるのです。
榎本:面白そうですね。
シルヴァン:はい。アーティストはみんなこのコラボに興奮しています。全員、私たちのサービスを受けたアーティストたちです。デビュー当時からデジタル・マーケティング、マネタイズ、プロモーションのサポートを私たちから受けています。
榎本:Believeはレーベルを持たないと伺いましたが、そのサービスはまるでレーベルのようです。アーティストがじぶんのレーベルを持つ形ですか?
シルヴァン:アーティストが全ての権利を100%所有しますので、じぶんのレーベルを持つことも可能です。そのレーベルはPLAYCODEからデジタル・マーケティングや資金のサポートを受けられます。PLAYCODEがマーケティングに投資します。繰り返しになりますが、私たちは楽曲の権利を一切持ちません。
榎本:それがインプリントの概念なんですね。やはりレベニューシェア・モデル?
シルヴァン:そうです。
榎本:なるほど。それが未来かもしれませんね。
シルヴァン:私たちがアジアや世界でやってきたことは、音楽産業全体の成長に貢献することです。より公平で、透明性が高く、多様性に貢献し、少しでも多くの専門知識をシェアすることです。
透明性はレーベルにもメリットがある
榎本:質問です。透明性というのはアーティストだけでなくレーベルにもメリットがありますか?
シルヴァン:どちらのメリットにも違いはないと思いますが、なぜそう尋ねるのですか?
榎本:「レーベルはブラックボックスを作ってアーティストを搾取しているので、透明性が必要だ」と一部の人が言うからです。
シルヴァン:透明性はレーベルを含め全ての人にメリットがあると思います。全てが透明ならパートナー選びにベストの選択ができます。不透明な理由ではなく、詳細な再生数と売上パフォーマンスを見て、じぶんに一番合っているパートナーを選択できるようになります。透明性は長期的には音楽産業に必ず利益をもたらします。
榎本:そう思います。最後に日本の音楽業界へメッセージをお願いします。
シルヴァン:みなさんの持つポテンシャルを決して過小評価しないで下さい。デジタル領域は日本の音楽業界に必ず成長をもたらします。デジタル・トランスフォーメーションを恐れる必要はありません。
どうすればアーティストをもっと伸ばせるか?どうすれば価値あるものを創造できるか? どのようにしてフェアで多様性あふれる音楽のエコシステムを構築していくか?
みなさんにとって大切なことにぜひ集中してください。
榎本:ストリーミングが普及して世界が次の段階に入ったことを強く感じるインタビューでした。ありがとうございました。
著者プロフィール
榎本幹朗(えのもと・みきろう)
1974年東京生。Musicman編集長・作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。著書に「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)。現在『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載中。
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